69 英雄(チャンピオン) 01
「きますぞ、もっと強いのが」
トニーが緊張した様子で、俺に伝えてくる。わかる……異常なまでの圧力、嫌悪感、そして不快感。
戦いの後に再び俺たちは村の方向へと歩いていた……が、不気味すぎる何かを感じて立ち止まる。間を置かずに森の中からゆっくりとその巨体が姿を見せる。
「……ようこそ、使徒とその仲間よ」
筋肉質な肉体、そして山羊頭と四本の角、四本の腕……不気味なまでに堂々とした
……そうか、
しかし……その『クリフ君と愉快な仲間たち』みたいなカテゴライズ……ちょいとその分け方には不満がある。
目の前の
目の前の
ただ、彼は
「我の名はガエタン。
ガエタンは徒手空拳がスタイルなのか、その場で軽く数回ジャンプすると4本の腕を構えて立ち塞がる。上の二本は大きく広げ、下の二本は格闘技などで見られる構えをとっている。
「……武器もなしに舐めてるんじゃないわよ!」
アイヴィーが
「良い突きである。だが感情に支配されすぎだな」
「うぐっ……!」
軽く吹き飛ぶアイヴィーの体、慌てて俺がアイヴィーを受け止めるが、衝撃をまともに食らったアイヴィーは軽く口から血を吐き出す。アイヴィーの腰に回した手に吐き出した血が少しかかる。
「アイヴィー、大丈夫か? あれは
「げほげほっ……だ、大丈夫」
アイヴィーはかなり咳き込みつつも、戦う意思を失わずにガエタンを睨みつける。むしろかなりお怒りの模様だ。俺の手を払い、
「アドリア、治癒魔法を。トニー支援してくれ」
慌てたように二人が魔法の準備を始め、俺はアイヴィーと距離をとる。
これは格闘戦になりそうだ。下手に魔法の準備なんか始めたら、一〇〇パーセント死ぬ。
俺は杖を置き、
「ほう? 使徒殿は魔道士ではないのか?」
「父親が戦士でね、色々習ったよ」
ガエタンが獰猛な笑顔を見せると、一気に距離を詰めて俺に襲いかかる。必殺の拳が四回打ち込まれるが、ギリギリでその拳を避けて
冷たい汗が背中を伝う。ガエタンの一撃を喰らったら……簡単に死ぬだろうな。それくらいの迫力がある。バルトよりも遥かに強い。セプティムほどではないかもしれないが、十分に実力のある戦士だ。
空いた手を使って、
「魔法を受け流すってズルくない?!」
思わず声に出るが、それを聞いてアイヴィーやアドリアが「お前もやっただろ」という表情をする。あ、そういう扱いなんですね僕。
「クハァッ!」
ガエタンが獰猛な笑顔を見せて笑う。山羊頭の目が不規則に動く。隙をつくかのようにアイヴィーが
「楽しいな使徒よ! 我は強者と戦うことに喜びを感じておるぞ!」
「そーかい、俺は緊張で死んでしまいそうだよ」
「クハハッ! 使徒殿はなかなか面白い御仁だな!」
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