68 決してやましい気持ちはございませんが……
「終わったな」
動かなくなった
「まだ動いてるわ……」
唖然した表情でアイヴィーが
「燃やさないとダメだな」
散らばった部位を集め、一纏めにすると俺が炎魔法で着火する。普通にやっても火は消えてしまうものなのだが、魔法で作った炎は魔力を流し続ければ消えない。ということで
「いやー、手強かったですねえ」
アドリアが返り血を拭いながら俺の方にやってくる。アイヴィーと軽くハイタッチをするとお互い笑顔を見せる。仲良いなあ。アイヴィーが周囲の警戒をしてくる、とその場を離れる。トニーも別の方向に確認をしにいく。
「そうだ……アドリア。足怪我してたよな、見せて」
アドリアは接近戦になった時に
「え、ええ? 大丈夫ですよ、このくらい」
アドリアが手を振って苦笑いを浮かべる、とはいえ痛みは感じているだろう。
「いやいや、女の子がこういうの放置するのは良くないだろう?応急処置して消毒しておかないと」
アドリアの肩を掴んで、石の上に無理やり座らせる。驚きつつも素直に石の上に座って待っているアドリア。冒険者基本セットから応急処置用の道具を持ってきて、処理を始める。太ももにある傷の様子を見て、手で脚にふれて血を拭う。
「え、えっ、自分で出来ますよぅ……」
恥ずかしさから顔を赤くして焦りだすアドリア。傷の状態を見ると結構大きく傷が入っていた。水筒を使って傷口を洗う。汚れは落としておかないと……。
「うっ……痛っ……」
無理してたな。アドリアが苦痛に顔を歪める。ごめんな、でもこれやらないと化膿するからな。ある程度洗い終えると、軟膏を手につけ、少し揉み込み……傷口に這わせる。
「痛むぞ、少し我慢してくれ」
「あっ……優しく……してください……」
赤い顔で痛みに耐えるアドリア……恥ずかしさと痛みで少し小刻みに震えている。止血鎮痛効果もある軟膏をアドリアの太ももに手を這わせて優しく塗っていく。この軟膏は塗っている最中も痛みを麻痺させるのだ。
「あ、暖かく……なって……くっ!」
少し大きく震えるアドリア。なんか手で軟膏塗ってるだけでも、アドリアの肌のきめ細かさ、太ももの滑らかさがわかる気がする。アドリアが小刻みに震えている姿を見て、なんだかいけないことをしている気分になってくる。少し目が潤んでいて息が荒いアドリアだが、痛みだよね、そうだよね。
「はぁ……んっ……」
なんでそんなに艶かしい吐息を吐くんですか! 平常心を保つんだ俺。前世なら少女に悪戯をしている犯罪者にしか見えないぞこれ。
「これで包帯を巻いて……留めて……これでいいかな」
包帯を太ももに巻いて応急処置を終わらせる。アドリアの様子を見ると、下を向いて少し荒い息をしているが、いつもの明るい感じではない。目が潤んでおり、少し口を開けて……なんだろう? 唇が艶っぽく濡れていて、いつもの明るい印象ではなく……じっと見ていると俺がおかしくなりそうな、そんな印象だった。少し……唾を飲み込んでしまう。
「あ、ありがとう……クリフ……さん」
震えているのは痛みに耐えているからだろうか。そっと頬に手を伸ばし、笑顔を向ける。指が触れるとびくり、と再びアドリアが震え……体を固くする。
「……大丈夫、すぐに痛みは消えるよ。数日して化膿してなかったら魔法で傷を消すといいよ」
「そう……ですね……少し休んでいいで……すか?」
顔を上げずに答えるアドリア。痛みがあるのかもな。頷いて俺は周囲の警戒に移ることにした。
「ゆっくり休んでね。無理はしないようにね」
クリフが去ってもアドリアは動かないでじっとしていた。まだ息が荒い。
今アドリアが感じている感情は、痛みや恥ずかしさだけでなく、もっとずっと彼に触れてほしいと思う気持ち。アイヴィーに譲った時から封印していた本当は自分も見てほしいと思っていた密かなる願い。
彼が塗ってくれた軟膏のおかげで痛みはほとんどなく、逆に彼の手の熱さだけが残っている。胸の高鳴りが治るまで、震えが全く止まらない。触れられた手の感触をまた思い出して、ドキッとする。クリフの言葉や、一生懸命さを思い出して再び胸が高鳴り……少し体の奥が熱くなるのを感じる。
どうしてこんな気持ちを……と思いながら、それでもずっとクリフの事ばかり考えてしまう。
「はは……まいったな……私……どうしたらいいんだろう……」
下を向いて、複雑な気持ちに自分が混乱していることを認識して、普段は冷静なアドリアの思考が全く纏まらない。あまりに冷静になれない自分に戸惑う。こんなに冷静じゃなかったんだ、私。
「私……彼に本気になっちゃう……アイヴィーに知られるのが怖いよ……」
誰もいない場所でアドリアは静かに嗚咽を漏らし始めた。
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