43 久々に戻ってきた日常、イベント後のチーム
「……今日もいい朝だ」
今朝も大学の講堂へと歩いていく。
アイヴィーとのデートの後普段通りの生活が戻ってきた。イベントで表彰された俺たちは他の学生から少し違う扱いになった気がする。
顔見知りではない学生からも声をかけられることも多い、俺も全然知らない学生に長々と話をされて困ったりもしたわけだが。話すならまずは名乗って欲しいところだ。
チームの中では特にアイヴィーは人気があるようで、他の女子学生に捕まっていることも多くなった。今も道すがら多くの女子学生に捕まっているのが見える。
「アイヴィー様は剣も使われるのですよね! 素敵!」
「その赤い瞳、素敵です! 魅力的ですわ!」
「アイヴィー様の好きなタイプはどんな方なのですか? もしかしてチームのあの殿方かしら?!」
「え、ええ……そうですわね……」
困ったように女子学生の質問に対応するアイヴィー。案外こういうの苦手なんだな。
アドリアも似た様な感じで女子学生に囲まれている。
が、アドリアは対応が上手いらしく、適当に交わしながら俺のところにやってくる。その様子を見て周りの女子学生が悔しそうな目で俺を睨みつけてくる。いや、そういう関係じゃないんで!僕ら!
「ふう、質問攻めばかりじゃ疲れちゃいますね」
「やあ、お疲れ」
アドリアがふふっ、と笑って俺の隣で歩き出す。
「いやいや、大変ですよ。イベントで表彰された人たちはだいたい似たような感じになってるみたいですけどね」
そうなんだ、まあ俺もそうだしなあ……。あしらい方も覚えないとだめかもしれないな。
講堂に到着し、授業の準備をまつ。机で準備をしていると、アイヴィーが隣に座ってきた。
「隣、失礼するわ」
「あ……ああ」
なんとなく、気恥ずかしくなってしまって顔を合わせられない。アイヴィーの顔を見るとあの時の記憶が蘇ってくるような気がしてしまう。
「全く……もう授業だからって話してるのに全然離してくれないんだもの」
アイヴィーがため息をついた後に、自分の方を見ようとしない俺に気がつき……急に悪戯っぽい笑顔になる。
「あれ? クリフ……もしかして恥ずかしがってる?」
ちょんちょんと脇腹を指で小突いてくる。なんか嬉しそうだ。
「い、いやそんなことは」
「照れてるじゃない、そっかー……クリフは照れ屋さんなのね」
小悪魔っぽい笑みを浮かべながら、うりうりと脇腹に当てた指を動かす、あ、そこはやめて。
「何、朝から乳繰り合ってんですか」
アドリアがジト目で俺たちの方を見る。その声でパッと離れバツが悪そうな顔をしているアイヴィー。
「な、な、なんのことかしら」
「はー、そんなこと言っちゃって……見てるこっちが恥ずかしいですわ」
アドリアがケッ、と拗ねた様な顔を見せる。
そこへトニーがやってきた。
「おはようございます……」
なぜかしょぼんとした表情で机に座る。普段の覇気が全くない。何があったのだろうか?
「ど、どうしたのトニー……随分と弱っている様だけど……」
トニーはクマの出来た目でこちらを見ると、ふっ……と寂しそうに笑う。
「怖いのですよ……特に……」
そう呟くトニーがふとアドリアの方をみる……すると突然ビクッ、とすると下を向いてしまう。
視線の先を見ると、アドリアがトニーに笑いかけていた。
「トニーさんのせいですからね」
アドリアが無表情でニコリと笑う。ドス黒い謎のオーラを発しつつ、アドリアはギギギと講壇の方を向き直る。なんかめちゃ怖い動きなんですけど……アドリアさん何があったんですか……。
「女性は怖いのですぞ……」
その日の授業は魔法の歴史についてだった。
何度か同じ様な授業を受けているが聖王国の学習内容は、王国のものよりも詳しく詳細に説明が入る。
魔法が使われる様になった起源はわかっていない、古くは神の時代にもたらされたと言われているが、長い間魔道士の存在は一般的ではなかった、という。この辺りは王国でも学んだ。
魔道士の市民権を獲得するのには多少時間がかかっている……というのも魔道士たちが建国した国が魔法を暴走させ、大事件となったこともあるからだ。
過去には魔道士排斥運動というのも起きたりはしているが、それももうかなり前のことだ。
そのほかでは混沌に加担する魔道士、混沌に汚染される魔道士なども多く、人ではない何か、となって災厄と化したり、凄惨な事件が起きた、なども多く発生しており、そういった堕落した魔道士が評判を貶めているのだ、と。
「15年ほど前に帝国では
セプティムが話していた友人の
ただ、現在では魔法を使う魔道士もそれなりの立場として生活できる。魔法大学も学問を学ぶ場所として、大陸の民からは尊敬される場所になっていると聞いたことがある。
ただそれと同じくらい、魔道士を胡散臭い集団として見ている人も多く、つっけんどんな対応をされるケースも多い。
聖王国ではそこまでの悪感情にあったことがないが、王国では多少そういう経験がある。
「とはいえ、魔法を使った事件、というのはかなり多いので危険視する思想もあることはある様ですね」
アドリアが補足を入れてくれた。
「王国は戦士が尊重されてたからなあ……魔道士になりたいって言ったら親からは止められたけどね」
苦笑するアドリア。
「まあサーティナ王国は武勇の国ですからねえ……聖王国と宗派は似ていますが、その実全然違う国ですから」
冒険者の中では魔道士は重宝された。
特に俺のように攻撃魔法など複数の魔法を習得し、戦士としての訓練を同時に行なっているものは少数派でそう言った意味でも信頼はされていた気がするな。
「あれだけ
「そうですな、私も冒険者、と呼ばれるものを見ていますがクリフ殿の
アドリアに続いて、復活したトニーが俺に話しかける。
「そうなのかな? 俺には普通のことだったんで、よく分かってなかったけど……」
「謙遜しちゃって、素直に嬉しいって言いなさいよ」
アイヴィーが俺ににっこりと笑いかけながら話す、うおっまぶしっ。
謙遜ではなく、冒険者仲間からは「油断せずにもっと精進するんだぞ」としか言われたことがなかったからな……なんとなく嬉しいやら何やら。
そんな話をしつつ、その日の授業は終了した。
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