42 乙女の気持ち〜アイヴィーさんは考える〜
「うきゃー! やってしまった……どうしよう……」
クリフとのデートの後、私は部屋に戻った後に枕を抱えてジタバタと悶絶していた。
その時のことを思い出すだけで少し頬が緩む……が恥ずかしさが勝ってまた枕に顔を埋めてゴロゴロと回る。
帝国のグループでは私は厄介者、邪魔者という扱いだ。
その状況が本当に辛かった、ロレンツォも
状況を変えたくて留学をしてきたのに、留学先にロレンツォが食事会にいるのを見つけ正直恐怖すら覚えていた。どうして自由にしてくれないのか、と泣き叫びたかった。
娼婦を同衾させて見せびらかしに来たこともある……怒りすら覚えていた。
ロレンツォは婚約者だけど、もう顔を見ることも声を聞くことすら辛い、そんな気持ちでいっぱいだった。
……クリフの第一印象は、ずっと一人でいるのに周りを気にせずにいる不思議な男性という印象だった。
独特の空気、雰囲気が気になったので話しかけてみようと思って勇気を出して聞いてみた。
彼は口に食べ物が入っててもしゃべってしまうような、ちょっと無作法な部分があるものの、すぐに謝ってきたりと不思議と悪いやつではないと思う男性だった。
今まで貴族社会で暮らしてきて、人を家柄で判断したり、値踏みするような目で見る男性が多かった中で、真っ直ぐ私のことを見つめてきた初めての男性だった。
ただ、私の体のラインをチラッと横目で見ていたのに気がついた。こいつ失礼だな、と思った。まあその程度ならと許したけど。
勇気を出して派閥を組もう、と話した時クリフはちょっと間抜けな顔をしてポカンとしていたが、説明をしてあげるとすぐに納得してくれた。
しかし……今チームを組める人がいないことまでツッコミを入れてきたのには図星すぎて腹がたった。
でもクリフは一緒に派閥を組んでくれると返事をしてくれた。少々言い方に問題はあったものの、自分を一人の人間として認めてくれた様な気がして内心とても嬉しかった。
アドリアとトニーという仲間……いや、友人の二人を加えた四人で冒険者登録をして、初めて冒険に出発した。
私は冒険者に強い憧れを感じていた……師匠とその奥様が語る冒険譚は魅力的で、御伽噺の中にあるような不思議なものが多く子供心に興奮したものだ。
ただ、冒険者になるための一歩を踏み出す勇気はとてもじゃ無いけど出なかったので、今まで行動しなかった。
クリフは
そして私も幼い頃から習っていた剣術が、冒険者としてやっていけるレベルであることを認識できたことがとても嬉しかった。
初めて得た報酬はたった銀貨30枚だったが、初めて自分の労働で得た対価。その重みと喜びは強かった、でもその後ロレンツォがやってきて気分は最悪になってしまった。
クリフが「俺はアイヴィーのこと信じてるし、俺のことも信じて欲しい」と言ってきた時、ドキッとした。私を真正面から見て信じてくれる初めての男性。
その時からクリフのことを段々と意識する様になってしまった。
クレールさんという美しい
ただアドリアもなぜか怒ってたので、普通は怒るものなのだろう、うん。
夜イベントの見張りで話してる時に、クリフにいろいろなことを話してみた。
彼もいろいろ聞き返してくれて、私が辛いと思ってるロレンツォのことなどを話すと、彼は真剣にロレンツォに対して怒ってるような表情だった。
それを見た私は……心の奥にしまっていた本音を話した、この人ならもしかして私をこの呪縛から連れ出してくれるかもしれない、と。
「私冒険者になって誰かに連れ出してもらいたいな」
その後ずっとくっついて話をしていて……心は暖かくなった。ただクリフはずーっとモゾモゾしていたので、多分いろいろ我慢してくれていたのだろう、とは思う。
その後、ロレンツォのチームと対峙した時に私はこの争いは止めなければいけない、と思っていた。でも全く勇気が出なかった、ロレンツォが怖かった、ロレンツォの周りにいる他の帝国貴族が怖かった。
だから私が我慢して魔導石を渡せば、争いはなくなるかもしれない、と思っていた矢先、クリフがそれを拒否してくれた。
私の両手を握って、私を見つめて「俺を信じてくれ、アイヴィー」と話すクリフ。
力強く握られた手は暖かく優しかった、そして目の前のクリフに強く惹かれている自分に驚いた。
ロレンツォの魔法でクリフが死んだかもしれない、と思った瞬間に心がキュッと締め付けられるような思いがした。死んでしまったらどうしよう、そんな思いで頭の中が真っ白になった。
クリフは無事だったが感情が爆発してしまい、我慢できずにクリフに抱きついて号泣してしまった。
とても恥ずかしい思い出だが、この時私は強く意識した「クリフのことを好きになっている」と。
買い物ということでデートに誘ってみると、クリフもすぐにオーケーしてくれて満更ではなさそうだった。
私は男性とデートをしたことがないので、恥を忍んでアドリアに相談すると笑顔でいろいろなことを話してくれた。正直どこからそんな知識を入れてるのか不思議なくらい細かく話してくれたのが印象的だった。
一緒に買い物をしてカフェでお茶を飲んで、別れる間際に自分がクリフをどう思っているのか正直に伝えたくなった。
私の言葉に、クリフが恥ずかしそうにそっぽを向いて頬を掻いていたのをみて、ああ、この人も私のこと気にしてくれてるんだな、と嬉しくなってつい衝動的にキスをしてしまった。
「今の私の素直な気持ちだから、じゃねええ! 何考えてんだ私はああああああ!」
枕を抱き抱えたままゴロゴロと回転して悶絶する。顔が熱く、火が出そうだ。
「ど、どうしよう。明日顔合わせた時に普通にしてられるかしら……」
さらにゴロゴロ転がる。転がるもいいアイデアは出ない。
「うーん、よし。切り替えよう。私はクリフが好き。でも普段は顔に出さない、うん。普通に、普通にするの」
無理矢理に戦士スイッチを入れて、切り替えをしてみる。
この先どうなっていくのだろう……アドリアから聞いている話を想像してクリフと自分に置き換えてみる。顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。
「うきゃー! ダメダメもう寝ないと……切り替え切り替え……うふ」
ゴロゴロ転がる私、寝るまでにはもう少しかかるのであった。
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