44 帝国官僚と貴族は仲がよろしくないらしい
「クリフ君絶対忘れてたよね」
「い、いえそんなことは」
アイヴィーとの
なぜこんなことになっているかというと、先日イベント中にお茶でもと話しておきながら、すっかり誘うのを忘れていたのだ。そんなことをしていたらマクシミリアンがわざわざ誘いにきたのだ。
「まあいいよ、僕は君と友達になりたいだけなんで」
マクシミリアンがニコニコ笑う。怒ってはないな。
「ありがとうございます、マクシミリアンさん」
「ああ、僕のことはマックスと呼んでくれ、皆もそう呼んでるんだ」
マックスは手をひらひらと振る。気さくな人物らしく、お茶を飲みながら色々な話をしてくれる。
帝国官僚の息子で、魔法の能力を幼少期に見出されて大学への推薦をもらったこと。貴族の子弟とは少し折り合いが悪いこと。
イベントではメンバーに別の国出身の冒険者経験がある学生がいて助かったこと。などなど。
帝国の留学生も一枚岩ではない。それはなんとなく感じる。数グループが連携していたらおそらくうまくいかなかっただろう。
「帝国の皆さんはあまり仲が良くないのですか?」
少し思った疑問を口にしてみる。
「帝国貴族と帝国官僚はそれほど仲良くないよ、当たり前の話だけどお金を使う側、お金を配分する側で対立するのは良くあるからね」
マックスがなんでそんなことを聞くのか? と言う表情で答える。
王国でもそういうことがあったのだろうか。実際にそういった現場を見たことがないので想像がつかない。
「イベントでも貴族チームに「帝国の顔に泥を塗るのか!」って言われたけど、彼らだけが帝国ではないからね。僕らも帝国臣民だってことをわかってない連中が多すぎるよ」
屈託のない笑顔で笑うマックス。
「今回君と話をしたかったのは、警告……というか忠告にきたんだ」
マックスが急に真面目な顔になって話し始めた。
「な、なんでしょうか?」
マックスは指を二本伸ばした。
「まず1点、クリフ君はアイヴィー嬢とずいぶん仲が良いようだね。先日一緒に行動……と言うかデートだよね?あれは。それを目撃した学生の間で話題になっている」
ああ、先日の買い物のことか。もしかして最後のアレも見られちゃったりしてるのだろうか。
人目も気にせずに一緒に楽しく遊んでいれば、確かに見られてるだろうな、とは思ったが。
「彼女がロレンツォの婚約者と言うのは知っているね。それは帝国留学生の間では周知の事実だ……まあロレンツォが吹聴してたからなんだが」
そうなんですね、と答えてお茶を飲むが、もしかしてああいう行動はまずかったのだろうか。
でも確かに婚約者がいるのにずいぶんアイヴィーは俺に構ってくれているので、ロレンツォからすると確かにいい気はしないだろう。というか自分の婚約者だ!って人に言って回るのはどうかと思うぞロレンツォくん。
「帝国貴族の一部は面子を重んじる。君と彼女の行動はカンピオーニ家を怒らせるかもしれない。だから、危ない橋を渡りたくないならこれ以上首を突っ込まない方が良い。それがまず一点」
マックスは真面目な感じで話すが、ずーっと笑顔だ。感情や思考を読まれたくないのか、それとも別の意図があるのか。
「もう一点。これはロレンツォのことだ」
マックスは急に笑顔を止め、かなり真面目な顔でこっちへ顔を近づけろ、と手で合図をする。
なんだろう?と思って顔を近づけると、周りを気にしながらマックスはトーンを落とした声で話し始める。
「あいつ……最近大学に来ていないらしいんだ、何をしているのか……取り巻きすらもわからないらしい」
「え? 何があったんですか?」
「わからない、イベント後に学食にいたことまではわかってるんだが……部屋の荷物はそのままらしいんだ」
ロレンツォに何があったのだろうか。
でも確かに授業などではロレンツォの姿は見ない、そこまで気にしているわけではなかったが、ロレンツォは取り巻きもいることから結構目立つのだ。
「正直いうなら僕も彼のことは嫌いなので、別にどうだっていい、とは思ってるんだが。裏社会などと繋がってしまったりすると、かなり厄介だからな」
マックスが元の位置に戻ると、何かを考えるような仕草をする。
裏社会か……ただロレンツォのような権威を振りかざすような人間がそう言った社会に受け入れられるだろうか。
前世の経験も含めて、俺が持っている知識を総動員してもロレンツォがそういう裏社会と組めるとは思えない。
「それに、だ。僕はロレンツォが姿を消したのがクリフ君を狙うためなのではないか? と思ってる」
「え? 俺ですか?」
うん、と頷くとマックスは少し意地の悪い笑顔で話し始めた。
「愛しい婚約者を奪うかもしれない悪い虫を追い払うため、ということだよ」
ああ、そういう嫉妬もありえるといえばありえるのか……。
少し恥ずかしくなってほおを掻いていると、マックスがさらに続ける。
「ま、ロレンツォの婚約者へのあたり方は僕らも見ていて気分が良くない。まるで物か何かとしか認識してないような状態だったからね。だから君が出てきてちょっと面白……あ、いや心の中で応援しているんだよ」
マックスがさてと、とテーブルから立ち上がる。お茶を飲み終わったのでそろそろ帰ろう、とも続けた。
「どちらにせよ。気をつけた方がいい。ロレンツォの魔法能力は結構高い。油断できる相手ではないはずだ」
「ありがとうございます、忠告していただいて」
マックスに頭を下げて少し思案を巡らせる。
ロレンツォが恨みを抱いて俺を狙ってくるのは仕方ない。一騎打ちで負けて、婚約者は取られるかもしれない。
いやアイヴィーをとる、という言い方はおかしいな。それはロレンツォと同じだ。彼女のことは確かに気になっているが、ロレンツォのやり口が気に食わない、という方が強く感じる。
「しかし……いなくなったロレンツォをどう探せば良いんだろうか」
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