23 忘れがたい思い出と冒険者、そして

「おお、きたか。もう動いて平気なのか?」


「身体中痛いですが、なんとか」

 ジャジャースルンドとバーバランドラが待つ元駐屯地に赴くことができたのは目覚めてから二日後。傷の痛みはあったものの、いてもたってもいられなくなった俺は両親に頼み込んでセプティム達と一緒にここにきた。

 まあリリアは発狂しそうな勢いで怒ってたが、セプティムとベアトリスがリリアにもお願いをしてくれたのが大きい。

 バルトも「礼を言いたいというのであれば危険なことにはならないだろう」と取りなしてくれたのもポイント高かったな。

 まあ、リリアの顔は本当にブチギレ寸前の状態で、見送りに来た際も何やらギクシャクしていたので、バルトには悪いことをしてしまったような気もする。




 ……駐屯地は一週間前に訪れた時よりも綺麗に片付けられていた。汚泥はまだ浄化されているわけではないが、徐々にその範囲を狭めており、今後数週間で完全に浄化されるだろう、というのが暗黒族トロウル達の見立てだった。

 使役される小鬼族ゴブリンや、暗黒族トロウルが手伝いに来ており、活気が出ているように見える。

「今回のことを影の高原シャドウプラトーに報告してな、円卓サークルも人の身でありながら我らの助力をしてくれたクリフにお礼がしたい、ともうしてな。無理を承知でセプティムにお願いをしたのだ」

 ジャジャースルンドはニカッと笑うと、お前はこれがお気に入りだったな、と薬草茶を出してきた。一口飲んで思うけどこれ体に染み渡るなあ、帰る前に作り方を聞かなきゃいけないな。


「クリフよ、お前に渡したいものがある」

 再会を喜んで一通り話を楽しんだ後、ジャジャースルンドが急に真面目な顔(と言っても区別がつかないけど)になってゴソゴソと何かを取り出してきた。

影の高原シャドウプラトーの指導者たる円卓サークルより人族の盟友へ贈り物を贈る」


 それは一本の小剣ショートソードだった。

 鞘に複雑に金の装飾が施され、柄頭に黒い宝石が埋め込まれたものだった。剣を抜いてみてびっくりした、刀身が真っ黒だった。こんな刀身は見たことがない。

「これは影の高原シャドウプラトーで生産された剣だ。暗黒族トロウルは剣をあまり使わんのだが、お前に渡せるものがあってよかった」

「私は鉱石や武器には詳しくないですが、強力な魔法の武器のようですね」

 ベアトリスが小剣ショートソードを驚いたようにまじまじと見つめる。

「おお、わかるのか。やはり魔道士だな」

 ジャジャースルンドが楽しそうに笑う、この暗黒族トロウル最初のイメージと全然違う印象に見えてきたぞ。どちらかというと近所にいる世話好きなおっさんにしか見えないのは俺だけか。

「それとだ」


 ジャジャースルンドが俺に向かって片膝をついた。

影の高原シャドウプラトーは人族の友であるクリフ・ネヴィルの恩を忘れん。いつかお前が暗黒族トロウルの助けを必要としたとき、必ずやお前の力となろう」

 ジャジャースルンドだけでなく、いつの間にかこの場に参加していたバーバランドラも同じ姿勢で俺を見ていた。

「我ら暗黒族トロウルの友、クリフ・ネヴィルよ。お主の友情と勇気は影の高原シャドウプラトーに語り継がれる。お主はその小さな体で混沌を打ち破り、勇気を示した」

 そういうと牙を剥き出しにして豪快に笑った。

「よろしくな、クリフ」


「いやいや、トドメ刺したのセプティムさんですよね」

「何を言っているんだ、君がいなかったら僕らは死んでた。ベアトリスも僕と同じ意見だよ」

 セプティムが優しい顔で俺の手を取る。

 ベアトリスもそっとその手に自らの手を重ねて頷く。

「君は僕らにとっても素晴らしい友人だよ、ありがとう」

「クリフさん、私もあなたを最高の友人と思っていますよ」


 この二人にもそんなこと言われてしまうと照れてしまうな……なんだか気恥ずかしくなって苦笑いを浮かべている俺に、ベアトリスはにっこりと笑いかける。

「ま、僕らは冒険者さ。困った人を助けるのが仕事、なのでね」

 照れ隠しなのかセプティムが頬を掻きながら笑う。

「僕もお二人……いえ皆さんを尊敬しています。友人と言ってくれるなんて本当に嬉しいです」

 これは心からの言葉だ、共に苦楽を共にしたものが友人となる。

 格言は間違ってないな。少し嬉しくなって俺の涙腺は緩んだのか、目が潤んでしまった。

「お、年相応に可愛くなったな。次に会うときはもう少し大人になるんだぞ」

 セプティムが茶化すように笑う。この人たちとの別れも近い、なんとなくそう感じた。


 その後小一時間ほど談笑したのち、俺とセプティム、ベアトリスは駐屯地を離れた。

 暗黒族トロウルたちはこの駐屯地を再建した後、暗黒族トロウルの地でしか生産できない物資を売りにきたいという話をしていた。

 バルトにはすでに書簡を送っているそうだが、双方で貿易の拠点としてこの拠点を活かそうという提案をしているらしい。

 この後は王国にこの件を打診し、裁可を得ることになるとは思うが双方にメリットのある貿易を行えればなとは思う。村の発展が順調であれば俺の生活も保障されるわけだし。




 ……その後、村に戻ってから一週間ほどで冒険者達は村を離れた。

 ギルドへの報告があるから、とセプティムは話していた。予定よりもかなり遅れてしまったので、ギルドからも催促が来ているのだそうだ。

 ちなみに旅立ちの日、バルトもセプティムの手を握って離そうとしなかったのがご愛嬌か。

 どうやらリリアに叱られた者同士何か感じあうものがあったようだ。ちょっと悪そうな顔をお互いしているが、まあ気のせいだろう。


「村にきたときはぜひ我が家へ」

「はい、ぜひそのようにさせていただきます。代官様もお元気で」

 そんな男同士のやりとりの後、セプティムは俺に手を差し出した。

「君が魔道士となり、冒険を続ける僕らに君の名が伝わることを願う」

 その手を握り返し、俺も返す。

「僕が魔道士となるとき、皆さんの名前が僕に伝わるようにご活躍を」

 セプティムが無邪気に笑い、俺も笑い返す。

 バルトもリリアも少し涙を浮かべてお辞儀をしている。


 そうして冒険者達は去っていった。

 俺の心に忘れがたい思い出を残して。


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自転車和尚と申します。

第一章終了です、今後も読んでいただけますと幸いです。


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