22 ゲームプランナーは知ってる天井で目覚める

 次に気がついた時、俺はなぜかベッドに寝かされていた。


「あ、あれ。ここは知ってる天井? ……って痛あああ!」

 上半身を起こそうとした時に身体中に鈍い痛みが走る。身体中の傷は治療を受けて包帯が巻かれた状態になっており、どうやら気を失う前までの出来事は夢ではなかったのだと思った。しかしいつの間にこんな場所に戻ってきたんだ?


 バタバタと何者かが走ってくる音が響き、ドアが乱暴に開けられ……母リリアが疾風のような勢いで飛び込んできた。

「クリフ! 目が覚めたのね!」

 いきなり抱きしめられ困惑とともに抱きしめられた衝撃で全身に痛みが走る。

「いだいっ!」

「あ、ごめんね! 痛いわね」

 リリアが慌てて俺を離す。しかしリリアがいるってことはここは自宅……でいいんだよね?

 周りを見渡すと自分の部屋にいることに気がつく。

「あ、あれ? 母様……僕はなぜここに?」

「それは僕が説明するよ」

 部屋に普段着のセプティムが入ってきた。




「……というわけなんだ」

 セプティムは俺が気絶した後の話をしてくれた。

 魔力を使い果たした俺はそのまま気絶、焦った冒険者と暗黒族トロウルは現場検証もほどほどにトロウルが使う通信手段を回復させ、ジャジャースルンドが運搬用昆虫を別の駐屯地から呼び寄せ、それにパーティを乗せて大慌てで村に戻ってきたこと。

 村にきた暗黒族トロウルと巨大昆虫に一時村はパニックに陥るもバルトとリリア、そしてセプティムたちの説得でまずは俺の治療が先、となったこと。

 冒険者達も村の治療院で治療したが、ジャクーはやはり病気に感染しており現在は治療院に入院していること。ついでにセプティムは冒険者代表として、バルトは息子を危険な目に合わせたということでリリアにこっぴどく叱られたらしい。


「なぜセプティムさんまで叱られてるんですか?」

「いや、まあ君に怪我をさせてしまったので……お母さんからしたらそりゃあ怒るだろうね」

 セプティムが苦笑いと共に頭を掻く。こういうところ見るとなかなかあれだけの腕前がある戦士に見えないな。そしてこの凄腕を叱りつける俺の母は怖いもの知らずすぎるぞ……。


「しかし……よかった。駐屯地で気絶した後に君はもう五日も目覚めなかったんだ。村に戻る途中でも顔が真っ青でね……ベアトリスなんかパニックで泣いてるし、本当にダメかと思ったんだよ」

 あ、そんなに重傷だったんですか俺は。五日も経っているって……

「ベアトリスも魔力を使い果たして気絶する魔道士はよく見てるらしいが、今回のようなケースは見たことがないって言っててね」

 あのチート能力は体に負担がかかるんだろうか?でもその前の時はここまでの状態にはならなかったから、何か条件のようなものがある気がする。今回気を失った後にあの声の場所には行かなかった。この辺りを聞いておかないと次もまた同じようなことになるかもしれないな。


「そうだ、ジャジャースルンドさんは?お礼を言わなければ」

「ジャジャーはカルティスと駐屯地で後片付けをしているよ、流石に村に暗黒族トロウルを入れるのはってなってね」

 そうか……ジャジャースルンドのことを知らない村人からすれば、暗黒族トロウルは化け物にしか見えないからな……。

 多分今回の件がなければ俺も暗黒族トロウルのことを誤解したままになっていた可能性もあるから、仕方ないのだろう。

「体が動くようになったらお礼にいかないといけないですね」

「あ、そうだ。ジャジャーからも君が回復したら会いたいって言ってたな。でもまあ、まずはゆっくり休もう」

 セプティムが俺の頭をグリグリと撫でると笑って立ち上がる。

 よく見るとセプティムも体のあちこちに包帯を巻いている状態だ……彼も戦いで相当傷ついていたのだから、当たり前だが、それでも痛そうな素振りを見せないところなどやはりこの人は戦士なのだな、と思った。


「ではお母さん、私はこれで失礼します」

 リリアにセプティムが頭を下げて部屋を出ていく。

 そっか、なんとか無事に終わったんだな、という気持ちと初めての冒険、戦いで自分がとても貴重な体験をしたのだという満足感が満ち溢れてきた。


「お、目が覚めたのか」

 バルトがセプティムと入れ違いで部屋に入ってきた。

「お父様、ご心配をおかけしました」

「心配も何も……俺の息子だからな。無事に帰ってくると思ってたさ」

 バルトが見せたなんとも言えない……泣き笑いのような顔は初めて見た。

 口ではああ言ってるものの本当に心配をしていたのだろう、よく見ると目が腫れぼったくなっている。本当に心配してくれたんだな、と思うと俺も少し涙が潤んでしまう。


 ぐうううううううううううう


 その時俺のお腹が猛烈に鳴り出した、そういや五日間も目が覚めてないなら腹も減るだろうな……。

「お腹が減っているだろう? 母さんが料理を作ってくれているから、食べながらいろいろ聞かせておくれ」

 俺の腹の音を聞いてバルトが笑って手を差し出す。俺はその手を握って立ち上がり、五日ぶりの食事を楽しむために食卓へと向かうことにした。


 その日の食事は今まで食べたことのある食事の中で一番美味しいと感じた。

 空腹が最高の調味料と言ったのは誰だったか、でもそんな言葉を思い出すくらい心にも染み渡る味だった。

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