11 イレギュラーだけど美少女から魔法を学んでみた

 戦いの前に装備の整備を行う、とかで冒険者たちは一斉に手入れを始めた。決行は移動も含めて明後日、ということで皆準備に余念がない。

 ゴブリンは武器の手入れなどをしないようで、粗末な食事をとりつつ、何事か喚いている。……仲良くはなれそうにないない。

 俺はというと、ベアトリスさんに話がある、と言われ魔法美少女ハーフエルフの前に座っている。


「私は正直戦いに反対です……ですがセプティムは戦うことを決意しました。ですので私はクリフさんに魔法を教えておこうと思います」

 え? マジっすか? 魔法教えてもらえるんですか?

「本来は良くないことですが、クリフさんは小剣ショートソードしか自衛手段がありません。いざというときに魔法で身を守ってもらうことが最善と判断しました」

 ここまで魔法の知識はあっても実際に教えてもらうことはなかった。急場凌ぎではあるものの、魔法を覚えられるというのは良いことだ。

「お願いします、僕も戦力になりたいです」

 これは本音だ。子供だからといって安全な場所で守ってもらっていられる世界ではない。先日の盗賊たちの一件もあって俺は戦うための力が欲しいと思っている。


「無理はしないでくださいね……まず覚えてもらうのは炎の矢ファイアアローです」

 炎の矢ファイアアローはベアトリス曰く、低レベルの攻撃魔法だ。火の矢を作り出し相手を貫く……低レベルというだけあって殺傷能力はそこまで高くないが使い所によるのと、物理的な攻撃手段として遠距離の攻撃ができる、というのは非常にありがたい。


 ベアトリスによる魔法講座はすでに先生に教えてもらった部分などを掻い摘んで話し、そのあと実際に実践しよう、という流れだった。

「魔法は詠唱によって行使する魔法を構築します。詠唱はあくまでその構築をなぞる為の文脈でしかありません。高位魔道士は詠唱が無くとも構築を行うことが可能です」

 ベアトリスによると、魔法はその魔力の構成でしかないという話だった。前世の記憶も総動員して考えると案外簡単に理解できた。


 詠唱=仕様の再確認

 構成=仕様の構成

 発現=効果を出す

 改良=効果の改善


 以上だ。

 つまり魔法とは効果を仕様として再構築するでしかない。

 ゲームプランナーだった俺にはそれが案外すんなり理解できた……企画と仕様、効果測定、改善この流れに沿っていけば魔法を使うことができる。

 例えば炎の矢を再現するにあたって、まず何をしたいのかを考え、その仕様を構成し、効果を出す。何年もゲームプランナーとして企画を立て、仕様を考え、実際に実行する。全く同じことだった。


「体を楽にして自分の中、そして周りの魔力を感じ取ります」

 言われた通り体を楽にして、集中すると体の中から、周りの空間からも暖かな何かが駆け巡るのを感じた。やがてその何か、は身体中を駆け巡り大きなうねりとなってはっきりと認識できるようになった。

「……筋がいいですね、教えがいがありますよ。その力を手の前に置くようにイメージし……そしてあなたの前に炎の矢があるようにイメージを作ってください」

 言われた通りに手を突き出したが、ここでハタとイメージという言葉で躓いた。


 魔法のイメージ……か、そうだな。

 前世で散々作っていた仕様書のイメージを頭の中で組み立ててみよう。力を手の前に置く、これは座標指定に近い気がする。座標を指定したら、デザインとして炎の矢に変わっていくようなイメージを組み立てていく。

 感じる……力強い何かが突き出た手のひらに生まれてくる感触。

「そして唱えるのです、炎よ、我が敵を打ち倒す力となれ! 炎の矢ファイアアローと」


 ……できる! この時俺の中で確信のようなものが生まれた。声も言っていた「魔法の素質と複数の素質」を与えると。そのまま俺は教えられた呪文を叫んだ。

「炎よ、我が敵を打ち倒す力となれ! 炎の矢ファイアアロー!」

 目の前に魔力による炎の矢が具現化し凄まじい勢いで木に突き刺ささり……炎の矢ファイアアローは軽い爆発を起こし消えた。

 ってかこれ普通に当たったら死ぬんじゃね? かなりの威力があるように見えるけど……これで初級の攻撃魔法か。


「で、できた! できました!ベアトリスさん!!」

「い……いきなり成功できるとは……普通は具現化で躓くものなのですが……」

 ベアトリスがいきなり魔法を成功させた俺を見て驚く。

 普通は1回目でいきなり魔法を成功させることは難しいのだという。大体何度も繰り返してやり方を理解していくことが多いのだとか。

「何度も魔法を使っていくことで、構成を最適化もしくは効果の強化を行うことができます。魔道士は常日頃己が技術を研鑽し、常に新しい知識と探求を行うのが本質です」

炎の矢ファイアアローも使い続けていくことで、より強力な効果を出せる、ということでしょうか?」

「はい、それに加えてその次の段階も魔法のきっかけにもなります。炎の矢ファイアアローはその次のレベルに当たる炎の槍ファイアランスに必要な構成と似ています。低レベルの魔法を研鑽していかなければレベルの高い魔法を使いこなすことができません」

 ほー、なんかRPGっぽくなってきたな。バルトが「剣術は努力と研鑽の積み重ねだ」と話していたが、魔法も似たような部分があるんだな。


「クリフさんは魔法の素質がある、と前に話しましたが確信に変わりました。あなたは魔道士として他にない才能を持っています」

 ベアトリスが俺の手を握って話し始めた。急にそんな行動に出るから俺はドキッとしてしまい、顔が紅潮しているのがわかった。

「もし……戦いで無事に生きて帰れた場合は私が魔道大学への推薦状を書きましょう。この国の魔道士ではありませんが、冒険者として活動しているのである程度考慮していただけるでしょう」

 あ、そうか。王都にある魔道大学に行けば思う存分魔法を学ぶことができる。さらに魔道大学卒業という経歴は王国で活動していく上では大きな保証となるらしい。

 推薦状があればその入学生は魔道士が素質ありと認めた、と保証することになる。


「……生きて帰りましょうね」

 ベアトリスが心配そうな目で俺を見つめる。

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