07 戦いは唐突に始まり、あっという間に終わる

「クリフ君はベアトリスから離れるな、いいな」

 セプティムが三日月刀シミターを抜き放ち、円形盾ラウンドシールドを身構える。視線の先には数名の男たちがいた、RPGでいうところの盗賊の一団が道を塞ぐように立っていた。


「お前らここを通るには通行料が必要なんだ、わかるかなあ、ヒャハハ」

 盗賊たちの中で最も背が高い男が下卑た笑いを浮かべながらお決まりのセリフを放つ。……本当に世紀末世界のモヒカンみたいなセリフ言っちゃうんだ。

「それよりも、だ。お前らみたいな盗賊連中を相手するのも面倒だ、今なら見逃してやるぞ?」

 セプティムが三日月刀シミターを構えて言い放つ。その立ち姿を見るだけでも彼が熟練した戦士なのがわかるくらい、見事な構えだった。


「はぁ? ……お前らぶっ殺した後はそこのガキは奴隷商人に売り飛ばして、隣にいる女は俺たち全員で大事に可愛がってやるよ、馬鹿どもをぶっ殺してやれ!」

 その声に応じた盗賊数人が剣を腰だめに構えて突撃をしてくる。……本当にザコ敵のセリフそのままじゃねえか、うわー、RPGでもなかなか聞けないセリフだぞこれ。

「ベアトリス、支援を頼む。カルティス、弓で援護を。ジャクー、ベアトリスを守ってくれ」

 セプティムが矢継ぎ早に指示を出すと、突進してくる盗賊たちの前に立ち塞がる。

「我が風よ、の刃となり敵を切り裂け……<鋭刃ヴォーパルブレード>」

 ベアトリスの声と共にセプティムの三日月刀シミターがユラッと揺らめいた……魔法の名前からすると支援系の魔法なんだろうか。


 全力で突撃してきた盗賊の突き、鋭いとは言えないが当ったら致命傷になることは間違いない。

 セプティムはラウンドシールドで突きを受け止めずに流して盗賊の体勢を崩すと、三日月刀シミターを盗賊の首を撫でるように一閃する。次の瞬間、盗賊の首から血が吹き出し、ゆっくりと前のめりに倒れていく。

「てめえ!」

 セプティムは飛び込んできた次の盗賊をひらりと交わし、再び三日月刀シミターを一閃させ、鎧に覆われていない手首を切り落とすと背中を蹴り飛ばし、次の盗賊が飛び込んでくるのを迎え撃つ。

 が、その瞬間飛び込んできた盗賊の眉間にカルティスの放った矢が突き刺さり、そのまま盗賊は倒れて動かなくなった。


「ぎゃああああ、手がああ!」

「こ、こいつらやるぞ!」

「お頭!」


 盗賊たちに明らかな動揺が広がる。セプティムが格上の戦士であることをようやく認識したらしく、さらにカルティスも弓の腕は相当なもので、寸分違わず相手の眉間に矢を撃ち込む神業を見せた。

 手を失ってもがいている盗賊の首を、ゆっくりと近寄って行ったセプティムがシミターで叩き落とす。それを見た盗賊たちが軽く悲鳴をあげる。

 これもこれで凄まじい……人間の首を一撃で叩き落とすって……案外容赦ねえな、この人。


「さて、残りはどうする?」

 セプティムがお頭と呼ばれた背の高い盗賊に向き直る。

「ぐぬぬ……俺が出るしかねえようだな……ぶっ殺してやるよぉ!!」

 お頭が巨大な戦斧バトルアックスを構え突進を開始する。

 ふっ……と笑うとセプティムが円形盾ラウンドシールドを構え、前進する。

「そんなちゃちな盾で俺の斧は受け止められねえよお! 死ねやああ!」

 お頭が斧を振りかぶり、全力でセプティムに打ち込む。

「盾ごとかち割ってやるぜ!」


 だが斧が盾に当たる瞬間、セプティムの腕が軽く動くと斧が縦の表面を滑るように流れ……勢い余ったお頭の体勢が大きく崩れた。体勢を崩したお頭に向かってセプティムの三日月刀シミターが綺麗な弧を描くと、彼の首と胴体が切り離され、そのままの勢いで前のめりに首を失った胴体が血を噴き出しながら地面へ倒れる。

 お頭はその顔に下卑た笑いを張り付かせたまま絶命した。


「なんだ腕力だけじゃないか」

 セプティムが三日月刀シミターを構え直し、残りの盗賊相手に向き直る。見ると盗賊たちは慌てて走って逃げていくところだった、リーダーを失って戦線崩壊、遁走と言うところだろうか。

「あら、もう終わりか……カルティス追撃を!」

 カルティスの容赦のない射撃が逃げ出した盗賊の背中に襲いかかった。


 俺はというとセプティムの無駄のない動きに正直魅了されていた。

 バルトの剣技はここまで洗練されたものではない、どちらかというと力を生かして相手を押し込む剣技で、恵まれた体格を生かしたものだった。それ故に対局に位置しているかのようなセプティムの剣技は初めて見た。

「すごい……」

 思わず出た言葉を聞いてベアトリスが微笑む。

「セプティムは私も冒険者としてなかなか見ないレベルの実力ですよ、今は銀級ですが……それ以上だと思っています」

 なぜか少し顔を赤らめて話すベアトリス。……えー? もしかしてベアトリスさんセプティムLOVEなの? まじで? ちょっとセプティムさんどうなってるの、こんな美少女から惚れられるとかどうしてなの、歳の差はどうなるの。


「無事かー? クリフはそのまま座ってな」

 カルティスが声をかけてくる。

「ベアトリス、周囲の感知を頼む。ジャクー、死体は焼かなきゃいけないだろうから準備を頼む」

 冒険者たちがその言葉を待たずに動き始める。


「魔法は見れたかい?」

 セプティムが隣に座る。

「は、はい。あれはどういった魔法なんですか?」

「んー、僕もそこまで詳しくないんだけどね。剣に魔力を付与して切れ味を鋭くする魔法らしいよ」

 セプティムは先程までの達人ぶりを忘れさせるような気の抜けた喋り方で話し始めた。


「今回は僕だけで対処できたので見れなかったけど……ベアトリスの魔法はすごいよ。僕と一緒に帝国領で冒険してた時に見たけど炎の矢で相手を焼いたり、風の刃で相手を両断したりね」

 ふつーに怖いんですけど、それ。

「僕がこうやって冒険を続けていられるのはベアトリスのおかげなんだ。子供の頃から一緒でね……帝国の内戦でも僕らは一緒に戦った仲間なんだよ」

 セプティムの笑顔が一瞬曇る……帝国の内戦は先生から聞いたことがある。

 隣国征服後に起きた大規模な内戦で、悲惨な市街地戦で民間人にも多大な犠牲が起きた戦いだったと伝えられている。というかちょっと待って、


「子供の頃から一緒……? セプティムさん今何歳なんですか?」

「ん? 僕は二八歳だよ、ベアトリスも同い年さ」

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