06 魔法使いになりませんか?とても楽しい職場です。

「さて、村からは二日程度の距離のようだな」


 セプティムが背負い袋バックパック円形盾ラウンドシールドを背負うと、父……バルトに向かって一礼する。


「ご安心を、御子息は私が責任を持ってお守りいたします」

「……申し訳ない、よろしくお願いする」

「我々だけであれば三日程度ですが、道中の安全も考えて五日程度余裕をみて行動します」


 バルトの顔は真っ青だ、ついでに言うと右目には青タンが出来ている。実は昨晩暗黒族トロウル見物と合わせて代官の代理として友好関係を結ぶために手紙を書いて欲しい、という依頼を俺とセプティムからバルトへと出した。

 ……出したのだが、検討して欲しいと伝えてセプティムが帰った後、リリアが本気で激怒した。

 その後「子供は早く寝ましょうね」というリリアの本気の怒りと明らかに底冷えするような恐怖を感じる笑顔を見て、俺はバルトの無事を願いながら就寝した。


 まあ、正直言えば地獄絵図だったようだ……あまり想像はしたくないのだが、子供は夜早く寝てしまうものだ。朝起きたらバルトが大事にしていた鎧がリビングに転がっていて、涙目で凹みを撫でていた。

 ……あーあ……バルトは毎晩磨いてたのにな、あの鎧。

 前世の父が大事に磨いていたゴルフクラブを夫婦喧嘩で母親に折られたあと、震えながら曲がったシャフトを元に戻そうとしていた父親の姿を思い出した。とは言え他に変わる策がなかったようで、最終的にはリリアも賛同してくれたようだ。


 今俺の手には代官バルトによる暗黒族トロウルと交渉し村のために双方で友好関係になろうという親書と、ネヴィル家の紋章が入った短剣を持たされている。まあ、暗黒族トロウルが短剣の紋章を見て、何を意味するのかわかるのか?という疑問は多少残るが、人間の作法に詳しい者がいれば理解はするだろう、という話だった。


 村を出てすぐにベアトリクスが近くに寄って話しかけてきた。


「クリフさん、道中は私のそばを離れないでくださいね。いざというときは私が守りますから」

「はい、よろしくお願いします」


 ベアトリクスがニコリと笑うと同時にとても良い香りが漂う。おお、これが美少女ハーフエルフの香りか……。

「それと魔法に興味がありそうだったので私が基本的な魔法学について道中教えますね」


「え?! いいんですか?」

「はい、基本的な学問については師弟関係を結ばなくても学ぶことは協会も黙認しています。

 特に魔道士という職業自体が色眼鏡で見られるので……地道なイメージアップのための学習機会は協会も推奨しているのです」


「まあ、みんな♪ 魔法は怖くないよ♪ 、って話だよな」


 カルティスが笑いながら話しかけてきた。


 どうやら過去存在した魔道士はかなり変人……というか論理破綻した者が多かったようだ。

 ベアトリクスやカルティスが話すには、伝説級の魔道士は疑われてもおかしくないような行動を取るものが多かったらしい。


 ……邸宅に引きこもって生命の研究を行なった挙句、自ら命なき王ノーライフキングと化して周辺を不死者アンデッドの沼地に変えた魔道士の話。

 ……合成獣キメラを作ることに熱中して恋人を改造してしまい国外追放となった魔道士。

 ……召喚魔術を駆使して悪魔と契約を交わし魔剣を得て諸国を放浪した先々で悲劇を起こし、最後にはその魔剣で自殺をした亡国の王子


 おとぎ話でも伝わる邪悪な魔道士の話はバルトやリリア、先生たちがよく話してくれた。一般人からすると、魔道士=よくわからないやつ、という扱いだ。便利な技や知識を持つが、深く付き合いたくない、なんかよくわからないから怖い。そんな存在。

 とても優しいベアトリクスを見ているとそういう印象が偏見だな、とは思うのだがもしかしてこの子もちょっと変人なんだろうか、それはそれで良いかもしれないが。

 今のところとっても笑顔が可愛いのと、いい匂いがするのと、スカートから覗くすらっと伸びた生足がとても良き!そんな美少女にしか見えない。


「ベアトリクスが気になるか?」

「え? ……ちょ……ゲフゥ」


 いきなりの言葉で顔を真っ赤にしてしまった俺を、カルティスがニヤニヤ笑いながら背中を叩く。

「いやいや、年上のお姉さんに憧れるのは男として悪いことじゃないんだ、そういう俺も子供の頃は隣に住んでたお姉さんが憧れだったからな」


 カルティスが笑いながら続ける。


「でもまあ、ベアトリクスの過去はセプティムしか知らねえんだよな、俺やジャクーはこのチームに入ったのは後からでさ」

「そうだな二人は最初からチームだったからな、なんでも古い友人なんだそうだ」


 ジャクーはうなずいて同意する。


「え? お二人はこのチームに入って長いのではないですか?」

「いや、俺たちがあいつらと知り合ったのは一年ちょい前さ。チームに入らないか? ってセプティムに誘われてな」


 意外だった。結成して一年弱しか経過していないのか。

「まあ、一年間で俺たちはいいチームだって言えるくらいにはなったよ。クリフも見とくといいぜ、セプティムの戦いを。あいつ本当にすげえんだよ」


 カルティスがセプティムを見ながらそんなことを話した。

 俺は父バルトの戦士としての力量は高いのだろう、と思っているがそれと同じくらいの実力がこのチームのリーダーであるセプティムには備わっているということだろうか。バルトが駐在の兵士に稽古をつけている姿も見ているが、大人と子供くらいの実力差があった。

「ま、何も起きなきゃ見る機会もないけどな」


 カルティスが立てた見事なまでのフラグはきっちり回収されてしまう、そんなことをこの世界でも思い知ることになるのは旅の二日目だった。

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