05 冒険者にトロウル見学をしたい、とお願いした。

 魔法の素質。

 そういえばあの声が魔法の素質とか複数の素質をプレゼント、と話していたもののそれを調べる手段がないためどうすればいいのかわからなかった。先生は魔法使いが調べることができる、と話をしていたが……どうやって感知しているのだろうか。


「はっきりと素質を感知するには専門の修行が必要ですが、ある程度は他の魔道士の存在を感じ取れます。距離が近くないと無理だと思いますが……」


 ベアトリスが説明を始めた。

 魔道士は目の前にいる他の魔道士の存在を魔法の素質によってある程度感じ取れる。専門の感知能力を鍛え上げた魔道士は感知者センシティブと呼ばれていて、リクルートを担当している専門職となっている。

 感知者は各地を回って素質のある若者を集めて回る……リクルートされた若者は魔道士協会ソーサラーギルドへ登録され、協会に属する魔道士の弟子となり、師弟関係を結んで魔法の勉強をすることができる。

 協会を通さない師弟関係は禁忌とされているが、理由等を説明し承認を得た上で協会の許可が出るケースはある。

 感知者は基本的には活動している国の協会と契約をしているが、たまに冒険者として世界を旅する者も存在しているため、国を跨いだリクルート活動が行われるケースもある。

 ちなみに金のために幼児誘拐も辞さない感知者がたまにいるらしく、協会の悩みの種になっているそうだ。


「僕の場合は今後どのようにすればいいでしょうか?」

「そうですね……村に残っていてもそのうち感知者がくるとは思えないので、王都に出ることをお勧めしますね。確か王都には感知者がいたはずなので、素質があるとわかれば喜んで王国の協会が登録してくれると思います」

 ベアトリスがニコリと笑いながらそう答える。

「私も下町で生まれてまして……感知者がたまたま私を見つけてくれたのでこうして魔道士として活動できています。感知者が来ないまま素質があるのに亡くなってしまうケースなどもあるので……」


 戦争や魔物が存在している世界ではそういうこともあるのだろう。

 この村は国境に近い場所に存在していることもあり、今後戦争でこの村が襲われないという保証はないわけだ。

 そう考えるとやはり王都に移動するのが良いかもしれない。それと、この冒険者にお願いをしなければいけないことが一つあった。




「あの……僕も暗黒族トロウルの交渉について行ってはいけないでしょうか?」

「は?」

 セプティムが素っ頓狂な声をあげる。それはそうだろう、たかだか七〜八歳の子供が危険な交渉の場についていきたいという。

「命の危険がある場所だからついてきていいとは言えないな」

「先程の話だと暗黒族トロウルは話ができる、と聞きました。であれば父が動けない状態なので、代わりに村の代表となる人間が必要だと思います。僕も父の手紙を渡すくらいはできると思いますし、いざとなれば全力で走って逃げられます」

 まあ、正直なところ暗黒族トロウルが知的種族、というのであればこの目で見てみたかった、というのが本音だ。RPGの暗黒族トロウルは大体話が通じないモンスターとして設定されているが、話ができる暗黒族トロウルとかロマンしかないぞ。


 うーん……と冒険者達が一斉に悩み始めた。

 確かに冒険者風の身なりの者達が村の代表として来た、と言われても暗黒族トロウルを信用するか?と言われれば普通は信用しないだろう。代表となる人間は必要だが、村人は怯えてしまって使い物にならない。とはいえ代表であるバルトは雑務で動けず対応ができそうにない。

 信用してもらうためには確かに、代官の息子がいればある程度は信用してもらえるだろう。

 問題は交渉が決裂した場合、戦闘になりかねないため数で劣るであろう冒険者側は子供であるクリフを守りながら戦わなければいけない。

 まあ、暗黒族トロウルの話が出たあたりから絶対について行こう、と思ってロジックを考えていたのでそう簡単に断れると思わないな。


「代官からの使者という証明を得るには……確かにそのくらいの人物は必要だろうな」

 セプティムが渋々納得したように頷く。

「セプティム! この子はまだ子供です! 危険な場所に連れて行くのは……」

 僧侶のジャクーが慌てて抗議している。他の二人はどうしたものか迷っているようだ。

「ジャクー、僕も正直いうと気が乗らない、ただ僕らは明らかに冒険者だ。暗黒族トロウルが警戒してしまうこともあるだろう。本来は代官が一緒に来るものなのだが、彼はそれができないから僕らに依頼をしてきている」

「ですが……」

 さすが僧侶だけあって感情的にはならないものの、子供を危険な場所に連れて行くことへの抵抗感が強い。

 それだけ見てもジャクーが僧侶としてきちんとした論理感を持っていることが窺える。


「どちらにしろ、代官が許可しなければ僕らで行くしかない。判断は彼に任せよう」

 セプティムは再び俺に向き直る。

「クリフ君、正直に言えば君を連れて行くのは本音としては反対だ。だが、どうやら代官の代わりは必要になりそうだ。そこでお願いだ、君の父親に依頼をしてついてきてほしい。」

 ポリポリと頭をかきながらさらに続けた。

「子供にこんなお願いをしている大人、は流石に情けないが……代官がダメだと言ったら連れてはいけない、それでもいいかな?」

「はい、父には許可をとってきます」


 やった、これで暗黒族トロウル見学ができる!

 あるかもしれない危険よりも実際に暗黒族トロウルが見れるという想いの方が強く、俺はかなり興奮気味になっていた。多分前世でもこんなに興奮したのはなかなか無いかもしれない。

 しかし暗黒族トロウルはどういう外見なんだろうか、あとで父上の本棚で暗黒族トロウルに関する文献を探してみよう。


 セプティムはやれやれと言った感じで手を振り、仲間との相談があるからとテーブルに戻っていった。

 あとは親の許可を取るだけだ。

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