04 冒険者パーティにめちゃ可愛ハーフエルフがいた

 さて……暗黒族トロウルとの交渉ごとが冒険者担当となったのを見届けた後、冒険者のリーダーは家を退出した。おそらく村の外れにあるこぢんまりとした宿屋「禿鷲亭」にいるのだろうと予想し、俺も自宅を出て宿屋へと向かう。単純に冒険者を見るのが初めてだったこともあり、興味本位の行動だった。


 宿屋「禿鷲亭」。

 村に古くからある宿屋で、この村が正式に王国へと編入された当時から建っている老舗の宿屋だ。宿屋とは言っても普段は冒険者が立ち寄るわけではない辺鄙な村では食堂も兼ねて営業を行なっている。

 正直……客の入りはそれほど良くない。店主が客の少ない日は釣りに出かけているのを村の子供たちはよく見ていて、お裾分けをもらうことも多い。


 ドアを開けて宿に入ると、店主が愛想のいい顔でこちらに声をかけてきた。

「いらっしゃ……あれ? クリフか、どうしたんだ?」


 その声に反応して冒険者の一団が入り口に顔を向ける。

「おや? 君は代官の家にいた……」


 冒険者のリーダーが驚いたように声をあげる。

「おお、この子はクリフと言ってな。代官の息子なんだよ」


 店主が視線で固まったように見える俺の代わりに紹介をしてくれた。

「クリフ・ネヴィルです、こんにちは」

 とりあえず挨拶は重要だよな、うん。


「クリフ君か、私はセプティム・フィネルだ。この冒険者チームのリーダーをしている。よろしくな」


 冒険者のリーダーはにこにこ笑いながら手を差し出してきたので、こちらも手を伸ばして握手する。

「私は北にある帝国出身なんだ。この王国ではこう言った武器を使う戦士は少ないから珍しいだろうね」

 セプティムはポンポンと三日月刀シミターを叩いた。


 北の帝国……王国とは緊張関係にあって、五〇年ほど前に隣国を滅ぼして王国と国境が接した軍事国家だった。

 建国の元となった国はかなりの現実主義者集団で、魔法使いを組織的に運用し戦争に勝ち続けた、という話だったかな。

 それまで魔法使いは個人個人での参戦が多く、組織的に運用するという発想はなかったため、どうやっても対抗できなかったのだとか。先生がそんな話を教えてくれた気がする、あんまり重要じゃないかな、と思って中途半端にしか覚えていないが、そんな感じだったはずだ。


「僕はその武器を初めて見ました。父上は直剣ブロードソードを使っていたはずなので、珍しくて……」

 セプティムはそうかそうか、と満足そうに頷くと仲間を呼び寄せ始めた。

「私の仲間を紹介しておこう、まずは野伏レンジャーのカルティス。こいつは弓の使い手なんだ」


「よろしくな、坊ちゃん」

 カルティスと呼ばれた若者は少しキザっぽく挨拶をしてきた。ちょっと軽そうなタイプかなあ、苦手だ。

 カルティスは金色の髪に緑の目をしていて、長身だが細身の男性だ。腰には小剣ショートソードを下げており、偵察兵スカウトが装備するような革製の鎧を身につけている。


「次に僧侶プリーストのジャクー。僕らは帝国出身なので、帝国で信仰されている月の女神の信徒なんだ」


「よろしく、クリフ君。王国では私の神は信仰されていることが少ないので珍しいかもしれないね」


 ジャクーと呼ばれた僧侶はニコニコと笑いながら握手を求めてきた。

 彼は少しゴツい印象を与える風貌をしており、鍛え上げられた筋肉質な体を服の下に持っている……僧侶というには少し戦士風の印象を与える男性だ。


 月の女神……は帝国で信仰されている神で、荒々しい風の神の信徒と違って知識と安定を美徳する宗派だったはず。王国ではほぼ信仰されていない宗派だが、帝国では主流派で国教として指定されている。

 なお、この辺りの宗教論争で王国の僧侶と帝国の僧侶は非常に仲が悪い……というのも滅ぼされた隣国というのが風の神を国教としていて、帝国との戦いで最後まで信徒が戦ってしまった。

 そして滅ぼされた。

 また積極的に帝国への抵抗運動を主導していて、王国の僧侶の一部も帝国に対しての悪感情が強い。この辺りの経緯もあり、迫害とまではいかないものの月の女神の信徒は王国では白眼視されることが多いのだ。

 まあ、セルウィン村は国境が近い辺境の村ということもあって帝国の商人が逗留することもあるため、表立ってそういった揉め事を起こす人間はいない。


「そして我がチームの紅一点、魔道士のベアトリスだ」


 無言でペコリ、と頭を下げたのはまだ若い……人間であれば一六歳くらいの少女だった。

 そして驚くべきことに、彼女の耳は尖っていた。

「気がついたかい、彼女は半森人族ハーフエルフなんだ」

 セプティムはニコニコと笑いながら俺の頭をポンポンと叩く、どうもこの戦士は子供好きらしい。


「こんにちは、クリフさん」

 ニコリと微笑むベアトリス、正直言って今まで見たどんな女性よりも美しい……前世も含めた年甲斐もなくドキッとしてしまった。ベアトリスは藍色の髪に深い海のような色をした目をしており、彫刻のように整えられた印象を与える美女だった。


「お、ベアトリスを見て顔真っ赤にしているぞ、まあ初対面の男はみんなそうなるよなあ」


 カルティスがニヤニヤと笑ってこっちを見ている。


「まあ、森人族エルフは顔が整っているからなあ、ベアトリスはハーフとはいえ血が強いのかもな」

 セプティムがフォローを入れてくる。

 エルフは森の女神によって創造された、古くからこの世界にいる種族の一つだ。とても美しい容貌と魔法の能力、弓の扱いに長けていると言われており滅多に森の外に出ることはない、と聞いていた。

 ただ、例外として異端と呼ばれる傭兵を生業とする集団が存在し、伝承では王国にも異端集団が森を支配している場所が存在しているという。もしかしたらベアトリスはその出身なのかもしれない。


「……? クリフさんあなたは……」


 ベアトリスがハッとした感じで目を見開く。

 何だろう?何かあるのだろうか。どうでもいいが驚いた顔も可愛いなこの人。


「どうした? 何かあるのか?」

 セプティムがベアトリスに尋ねる。

「私は感知能力が師匠ほど強くないのですが……クリフさんには素質があるかもしれません」

「ほう……」


 冒険者達の目が一気に俺に向かって集中する。

「こんな辺鄙な村に珍しい……普通は戦士の息子が魔道士の素質を持つのは珍しいことなのだが」


 セプティムが笑顔を絶やさないまま、再び俺の頭をポンポン、と叩いた。


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