03 トロウルって話できるの!?マジかよ

 ……冒険者とは?

 この世界にもいる冒険者は基本的に冒険者組合ギルドの管理下にある。組合は依頼者から仕事を集めて斡旋、冒険者は依頼を受けることができるようになる。冒険者はその実力に応じてクラス分けをされており、功績を立てるとクラスをあげていくことができるようになる。


(超絶英雄級)オリハルコン>ミスリル>ダイアモンド>金>銀>銅>青銅(駆け出し)


 初心者冒険者は青銅からスタートすることが義務付けされているが、このクラス分けは冒険者個人に付与されているものなので、金クラスの冒険者のパーティに青銅クラスの冒険者がいれば金クラスの依頼を受けることができるようだ。が、まあ大体そういう依頼にホイホイついていった青銅冒険者は帰ってこないものらしいが。


 今回村にやってきたのは銀クラス冒険者のパーティ。銀クラスの冒険者が受ける仕事はそれなりに難易度が高いらしく、村人は何事かと驚いていたのだ。


シルバー級冒険者が来るなんてどんな事件が起きたんだ」

「でも最近はそこまで魔物も出ていないんだがなあ」


 この村には一応代官兼王国戦士のバルトがいて、多少の揉め事や魔物退治はバルトが政務をほっぽり投げて対処する、という形が多かった。(そして帰宅後にリリアがめちゃくちゃキレるというお約束すら起きていた)

 どうやらその形では対処が難しい魔物が出たか、何かしらのトラブルが起きたか、とにかく普段のバルトでは対処しきれない事態が起きてしまったのだろう。そんなことを考えつつ自宅に戻るとリビングで冒険者とバルトが話をしているところに出会ったのだった。




「……では、暗黒族トロウルの一団が近くにある洞窟に住み着いてしまった、ということでしょうか?」

「ああ、私一人では対処が難しいのと、村の運営もあって動けないため王国に支援を要請しました。申し訳ないのですが、対処をお願いしたいです」


 バルトが敬語を使っているのを見るのは正直珍しい。普段の彼は完全に戦士という感じで俺様口調のためこういう喋り方をしていると非常に違和感を感じるのである。


暗黒族トロウルはどの程度の数がいるかわかりますか?」

「村人の話によると一〇匹はいない、ということでした」

……ですか……うーん……」


 話をしている冒険者を観察してみる。

 リーダーと思われる男性は、優男と言っても過言ではない風貌で仕立ての良い薄片鎧ラメラーアーマーを身につけ、この付近では珍しい三日月刀シミターを腰に下げている。王国では三日月刀シミターを使う戦士はいない、風の神柱では直剣ブロードソードがシンボルとなっており、王国出身の戦士ではないことがわかる。

 男性は栗色の髪に、藍色の目で冒険者にありがちな粗野な風貌ではなく、きちんと整えられた……品の良い外見をしている。


暗黒族トロウルはそれなりに戦闘能力が高いのと会話は通じるものが多いので……私たちのパーティは四人しかいないこともあるので、交戦状態になるとかなり不利かと思います。交渉などで住処からの退去もしくは村との共存ができるかどうかの約束を取り付ける形でも問題ないでしょうか?」


 一般的なRPGではモンスター扱いの暗黒族トロウルではあるが、この世界では知的種族らしい。そういえば神話でもトロウルは人間と共に重要な戦争で戦ったことがある、と教えられていた。暗黒族トロウルが冒険者になって旅をすることもあるとか。


「私は暗黒族トロウルとも旅をしたことがありますが、見た目はちょっとアレですけど彼らは案外気のいい連中が多いです。共存が可能となれば村にとっても損はないかと思います」

 そうなのか、暗黒族トロウル話できるのか、すごいぞこの世界。先生も話していたが、暗黒族トロウルは肉体的に強靭で、魔法を使うことができる個体も存在しているという話で、いざ戦闘となれば案外頼りになる存在らしい。

 ただ、彼らなりの倫理感でしか話をしてくれないらしく、報酬で動かないものも多いとか。


「それは構いません。私も暗黒族トロウルが交渉可能であればそれに越したことはないかと思っています。ただ、村人はそう思っていないので、説明が必要になると思います」


 バルトは少し苦い顔をしていた。

 村人からすれば人間以外の種族が交渉可能です、と言われても見た目で恐ろしければ不安に思うものしかいないだろう。不安を訴える村人に「暗黒族トロウルは話が通じるので問題ないですー、仲良くしましょう^^」とか話したところで普通は信じないだろうな、うん。どうやって納得をさせるのか?それを考えると頭が痛いのだろう。

 バルトは話をしながら頭を抱えていた……頑張れ父ちゃん。


「交渉を進めるとして、どういった条件が必要になるでしょうか?」

「そうですね……相手の状況がどうなのか分からないのですが、双方で商売をするとか、何かあった場合に援助を行うなど利益を感じさせる内容であれば問題ないと思いますよ。まあ一旦は状況の確認が優先でしょうが」


 冒険者のリーダーはそういうと、バルトへ頭を下げて自宅を退去した。すれ違いざまにチラッと俺の方を見たが、あまり興味がなさそうにすぐに視線を外しそのまま歩き去っていった。


「ふう……会話で何とかなるのであればそれに越したことはないが……」


 バルトは頭を抱えつつ、ワインのボトルを持ち上げた。父ちゃん飲み過ぎは良くないぞ。

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