16

 私と涼太先輩は、それから一時間程ペルセウス座流星群を観ていた。他に、ペルセウス座流星群を観測している人達がいたけれど、二人きりでいる時間がとても大切で、愛おしいものだった。


「夏稀、そろそろ帰るか」


「――はい」


 そろそろ帰らなきゃね。名残惜しいけれど、夜も遅いので仕方ないか。


 二人でロープウェイに乗って、日高山から帰り始める。もう遅い時間で、街の暗がりを帰るという事で、涼太先輩が自宅まで送ってくれた。道中も、夜空に星々と共に時々、明るい流れ星が見えて、私と涼太先輩はその度一喜一憂した。


「じゃあ、またな、夏稀。今日は本当にありがとう」


「はい、先輩!こちらこそ、今日は本当にありがとうございます!」


「またな」


 涼太先輩と私の自宅の前で別れて、家の中に入った。「今日はありがとう、キュリル――」キュリルに話し掛けてみたが、トートバッグの中で大人しくしているのか返事がない。時間を確認すると、夜の十一時だった。


 父と母は心配していただろう。両親に、帰りを報告する。


「ただ今、父さん、母さん」


両親には、涼太先輩と出掛ける事は話していた。


「おかえり、夏稀」


「大丈夫か?」


 私は、答えた。


「大丈夫。涼太先輩、凄く優しくて……。流れ星、凄く綺麗だった」


「そうか、ならいいんだ」


「夏稀が幸せなら、それでいいのよ」


父と母は、そう言ってくれた。


「うん、ありがとう」


 私の両親は、高校一年生の私のする事に、理解があるんだな……。優しい両親に、私は深く感謝した。




 お風呂に入って、寝間着で部屋に戻る。美緒と一美から、LINEが届いていた。




一美 涼太先輩と、流れ星観るの、どうだった?




美緒 私達にも、教えてよね




 二人の問いに、私は答えた。




夏稀 上手くいったわ。涼太先輩、凄く優しかった




一美 上手くいったのね




美緒 夏稀が涼太先輩って呼んでる!進展したのね!




夏稀 うん――




 美緒と一美は私を祝福してくれた。二人とのLINEを終えて、再びLINEを見ると、涼太先輩から連絡が着ていた。


(先輩!)




涼太 夏稀、今日はありがとう。ペルセウス座流星群、明日十三日の未明まで見えるから、良かったら観てくれな




夏稀 分かりました!はい、私からも言わせてください。今日はありがとうございます!




涼太 また明日な




夏稀 はい、また明日!




涼太先輩とのLINEを終えて、寝る準備をする。今日は、本当に素敵だったな。流れ星を一緒に観て、ロマンチックな時間を過ごして……。


(今日は、涼太先輩とキスしたのよね――)


 振り返って恥ずかしくなって、「キャー!」と声を上げ、ベッドの上で足をバタバタさせて喜ぶ私。


「キュリル、貴方にも、ありがとうって言わなきゃね」


 キュリルのぬいぐるみを見たけれど、返答はなかった。いつもなら「キュルー!」と鳴いて部屋中を飛び回るのに……。


 その日は、そのまま眠りに就いた。キュリルの返事がないので気になるけれど、涼太先輩とのペルセウス座流星群観測を振り返ると、幸せな夢を見られそうだ。




 夜、涼太先輩と夜空の星の中に流れ星を見つけて、綺麗だな。と二人で手と手を繋いでいる。幸せだ。


 すると場面が変わって、キュリルが現れた。キュリルは「夏稀ちゃん、良かったね。おめでとうなの!」と言って空中に浮いている。


「キュリル、ありがとう」


 お礼を言う私に、キュリルは寂しそうにしていた。


「これは、夏稀ちゃんの夢の中なの。キュリルは、魔法をいっぱい使ったから凄く疲れたのなの。だから、妖精の国で長い間休むの。夏稀ちゃんの想い、凄く受け取ったの。夏稀ちゃん、またねなの。サヨナラなの。ありがとうなの」


「キュリル?」


 キュリルは、何処か向こう側に向かって、消えていった。キュリルが、いなくなる?


「キュリル、キュリル!」


「キュリルー!」


 はっ、と私はベッドから飛び起きた。夢から覚めたのだ。時計を見ると、夜の三時だった。


「キュリル?」


 キュリルのぬいぐるみは、そこにあった。でも、返事がない。


「キュリル、居なくなっちゃたのかな……」


 キュリルが居ないと思うと、寂しさが感じられた。キュリルは私の中で、大切な存在になっている。


 涼太先輩に言われた事を思い出して、窓を開けて夜空を眺める。ペルセウス座流星群、明日十三日の未明まで見えるから、良かったら観てくれな……。


 空から、一条の光が降り注いだ。


 私はその夜、再び眠りに就いた。


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