試合後. ヒーローインタビュー
以下、雑誌「甲子園レポート」より抜粋。
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<<かつて甲子園を湧かせたOBへのインタビュー!恐怖の天京打線、主将宗忠晴編>>
---本日は、天京高校甲子園優勝当時、チームの主将であった、宗忠晴選手に来ていただきました。宗さん。本日は甲子園レポートのインタビューに応じていただき、誠にありがとうございます。
(宗) よろしくお願いします。
---ここでは宗選手の高校時代の中でも、特に夏の大会の思い出について、振り返っていただきたいと思います。まず高校一年生の夏の大会では天京高校は一回戦で敗退。しかし一試合だけとはいえ、三打数三安打一ホームランという鮮烈な甲子園デビューを果たしましたね。
(宗)その年は……まあビギナーズラックみたいなものでしたね。たまたまうまくいった年だったかなと思います。
---なるほど。確かにその後の秋の大会では、一年生ながら四番に抜擢されるも、打率は二割代と低迷しましたね。
(宗)はい。それが本来の実力だったのかなと思います。色々と思い知らされた大会でしたね。
---ふむ。しかしその後は少しずつ成績も復調していきましたね。何が要因だったのでしょうか?
(宗)その時期あたりで、自分のバッティングを根本から見直しました。当時チームメイトだったヒデ(中島秀人)にも色々相談しながら試行錯誤して、少しずつ自分の型を探しましたね。その中で、これまでは気後していた部分もあったのですが、自分の方からもヒデに色々思うことを言うようにしていきました。その成果が少しずつ現れていった感じでした。
---共に切磋琢磨していったと。確かに中島選手の打率もその頃から飛躍的に上がってきています。
(宗)一緒に練習するようになって改めて思いましたけど、やっぱりあいつは恐ろしいやつです。化け物ですよ。あの頃はチームメイトで本当に良かったと思います(笑)
---確かに、中島選手は高校卒業後、今年プロ入り一年目ですが、すでにチーム内ではその頭角を見せていますね。早くも新人王を期待する声もあります。
(宗)プロでも活躍しているあいつを見て、やっぱりすごいやつなんだなといつも感心してます。励みにもなりますね。
---さて、話を戻しますが、二年生のセンバツでは準決勝までコマを進めたものの、二年生の夏の大会ではまたもや一回戦敗退に終わりました。
(宗)あの時は本当に悔しかったですね。夏の甲子園はやっぱり特別なので。
---その大会の後にはチームのキャプテンを任命されましたが。
(宗)そうですね。自分なんかがいいのかな、とは思いましたが。
---どういった心境でやられていたのでしょうか?
(宗)自分にできることは、誰よりもたくさん練習して、誰よりも努力することだけだったので。それを自分で突き詰めていくしか無かったですね。率先して必死でやる姿でみんなを勇気づけられればと思いながら過ごしていました。
---それにチームがついて来たと。
(宗)自分だけではどうにもならなかったと思います。ここでもやっぱりヒデ(中島秀人)の存在は大きかったですね。チームを巻き込むという部分で本当に助けられました。感謝してもしきれないです。
---チームを引っ張っていく中でも左右二枚看板で支え合っていたと。度々お話に出てくる中島選手ですが、お二人の仲は良かったのですか?
(宗)寮の部屋も同じでしたから、ある程度は仲良くやってたと思いますよ。裏表もなくて人懐っこくていいやつなので、野球以外でもどうでもいいこととかも一緒に色々楽しくやってました。あいつは嫌いな教科はひたすらできないやつので、テスト前はヒデが赤点取らないように、同室の自分がいつも必死で教えていました。赤点だと監督に野球をさせてもらえませんでしたから。
ーーーなるほど。他にも何か印象に残っているエピソードなどあったりするのでしょうか?
(宗)一番記憶に残っているのは一年生の時の卒業式の日ですね。当時二つ上だった女子マネージャーにヒデが告白したいと言い出しまして。どうやって突撃したら彼女にOKをもらえるか? と言う内容で、自分とヒデと自分の彼女の三人で夜通し考えたことがあったなあ(笑)その作戦が成功して、その後四人、寮の食堂で小宴会を開いたことも含めて楽しかったです。その時にOKをもらった彼女と最近電撃結婚したって聞いてすごくビックリしたので、エピソードとしてすぐに思い出しました(笑)
ーーーああ、そういえばつい先日に中島選手の結婚報道がありましたね。影の立役者が宗選手だったとは驚きです(笑)
(宗)そんなこんなでいつも話題の中心にいるやつだったんで、今も変わらないなーと。結婚前後から惚気報告がしょっちゅう来ていたのは勘弁してほしかったですけどね(笑)
---中島選手の意外な一面がここで聴けるとは思いませんでした(笑)もっと聞きたいですが、これ以上掘り下げるのは中島選手の名誉のためにもやめにして、野球の方に話を戻しますと、その年の秋の大会、三年生でのセンバツでは、ともにベストエイトまで進出。そして両大会ともに宗選手と中島選手は大活躍を果たしました。巷では過去の名選手になぞらえて「SN砲」などと呼ばれて話題となっていましたね。
(宗)でもやっぱり優勝までは及ばない、みたいな状況が続いていて、本当に望んでいた結果は出せていなくて、そこはしんどかったですね。でも自分たちにできるのは、いつも通りにやることだけだったので。
---いつも通り、ですか。
(宗)はい。いつも通り、自分を信じて、仲間を信じて、目の前の一球に集中して、最初から最後まで勝利を目指す。当時の監督から何度も何度も言われた言葉です。
---良い言葉ですね。その言葉を胸に夏の大会も臨み、ついに優勝を果たしたと。
(宗)そうですね。
---あの大会では宗選手は歴史的な打点の記録を、中島選手はホームランの記録を更新しましたが。
(宗)そうですね。一試合一試合積み重ねた結果そうなっただけなので、そこまで意識しないように心がけていました。周りは、特にヒデは色々言ってきたので、どうしても気にはなりましたけどね(笑)
---あれだけの記録ですから、そうでしょうね(笑)そしてその大会の後、プロ入りを期待されるも志望届は出さず、大学への進学を選択しました。
(宗)誰もがチャンスをもらえるわけじゃないのに、自分にお声をかけていただいたことはすごくありがたかったのですが、自分の中でまだ準備ができていないと思ったので。大学でも自分が納得できるくらいに実力を積み上げることができたら、その時は挑戦することになるのかなと思っています。ヒデにも早くこっちに来いと急かされてるので(笑)
---元同僚対決が実現するのか、はたまたまたしても同じチームでの共演が実現するのか。その時を楽しみにしております。では最後に、これから甲子園を目指す現役高校球児たちに、何かメッセージをお願いします。
(宗)はい。自分も含めですが、失敗すること、できないことはみんなあると思います。そして、一生懸命頑張ったのに結果が出ないことほどしんどいことはないです。そのせいで努力が嫌になったり逃げたくなる気持ちもとてもよく分かります。でも、どんなに頑張ったところで、神様の気まぐれみたいな妙なことが起こらない限り、僕らはみんな出来損ないです。結果を思い通りに操作することなんてできません。でもそれでいいと思います。失敗も成功も、自分一人で抱え込もうと思わず、仲間を信じて、最後まで一緒に、全力で戦ってください。たとえそれで負けても、野球を続けている限り、何度でも挽回のチャンスは来るはずなので。
---力強いメッセージありがとうございました。
(文責:藍色)
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いつかの時代のどこかの書店。そいつは店頭で読んでいたその本を一人パタンと閉じた。
「神様の気まぐれ、ね。うまいこと言ってくれるじゃあないか」
そう言ってクスクスと笑いながら、そいつは書店を出る。ポケットからゆで卵を出して、むしゃむしゃと美味しそうに頬張りながらしばらく歩いていたそいつは、やがて静かに雑踏の中に消えていった。
高校球児とマレビト 群青 @Indigo0927
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