願いごと

朱塗りの鳥居を潜り、石畳の先に私のお気に入りの場所がある。

そこは、人間がお願い事をする場所らしい。

その建物の下で、人間の願い事を聞くのが好きだった。

暗闇の中で私の黒い体は紛れて見えない。


私は、この子供を知っている。

目を閉じてぬいぐるみを抱えたまま手を合わせ、同じ願い事をする。


建物の下から、音もなく鱗を土の上を滑らせ池へと向かう。

池の水の中に潜る音がちゃぷんと鳴る。

来た道を戻る子供の足音が池の傍で消える。

もう一度、ちゃぷんと鳴った。


私は願い事を「聞く」ことはできても「叶える」ことはできない、ただの黒い蛇だ。だから、願い事をいう人間をみて、私も人間のように願えば叶うのではないかと思ってしまった。


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