雨の日のできごと

ゆずりは

花の報せ

ちゃぷんと音が鳴る。

家に着いたらしい。

女性は写真に視線を一瞬やり、逸らした。

写真の隣の花は萎れて、下を向いていた。


花瓶の水に混じり「家の人を笑顔に」と声を掛けた。

庭の水溜りに混じって、「あなたの好きな色に」と草に隠れた花に声を掛けた。

灰色の雲から、雨粒が土を濡らし始めた。

「ほら咲いてみて」と言って、私は雨と帰った。


雨音は家の中まで届く。

女性が窓外の雲から視線を戻すと、花瓶の花が一輪咲いていた。

女性が雨を辿り、庭を見ると、同じ花が咲いていた。

雨も構わず庭に飛び出すと、花の傍にしゃがみ込む。

水溜りの中から救い出した、ぬいぐるみを抱きしめた。

「おかえり」と涙が雨と混じった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る