第4話

〈 ホタル 〉


ベイはメリーを抱き寄せ

「メリー……匠さんと女将さんは…

ズッーと僕達の味方であり、家族だよ…」


そう言って、メリーの目を見つめると、

メリーは頷きながら、


「女将さん、匠さん、

疑ってごめんなさい…

今までたくさん

助けて貰っているのに…

わたし…自分が恥ずかしいです……」


すると女将が

「私達は気にしていませんよ、これからも宜しくお願いします」

と言ってくれた。


そして匠は……

「ベイ博士、もし宜しければ

ホタル達から集めた情報を

私達がどの様に処理をして、

皆さんに伝えるのか?

一応の…たたき台的な計画書を

作成して起きましょか?」

と言ってくれた。


ベイは嬉しそうな顔で……

「助かります、匠さん

宜しくお願いします。

でわ、私達も自分の部屋に

帰らせてもらいます」

そう言って頭を下げると、


女将は微笑みながら

「また…私達に出来る事や、

要望などが有りましたら、何なりと

申し付け下さいね」

ベイとメリーは…微笑みながら頷いた。


メリーは部屋の中に入ると、

ベイの手を引き一直線に…

お風呂に向かった。


とにかく今は、甘えたいのだ。


湯船の中で、

メリーは必ずベイの膝の上に座る…

「ねぇベイ…」

「なんだいメリー」

「さっき御二人から聞いた話を、

皆んなにも、教えてあげちゃダメかしら?」

「そうだね…良いと思うよ。

明日のミィーティングの時にでも、

匠さんと、女将さんの口から

直接言ってもらおうか?」


メリーは嬉しそうに頷くと…

吐息まじりの

艶かしい声で…

「ベイ…抱っこして…私をベットまで…

運んで欲しいの…」


鼻の下を伸ばした

ベイのダラシない顔…


「…お安い御用だよ…メリー…」

そう言ってメリーを抱き上げた。


次の日、スカイシップは砂漠の上空

1000mの場所に漂って居た。


朝の8時…

ブリッジ中央に用意されている

テーブルの上には、

既にコーヒーと、

焼きたてのパンの匂いが漂っていた。


部屋から一番最初に出て来たのは

グレイとルーシーである…

「女将さん、匠さん、おはようございます」2人は声を揃えて挨拶をした…


「おはようございます、

グレイさん、ルーシーさん」

匠と女将も、声を揃えて挨拶を

返してくれた。


その後にジョニー夫妻が、

ベイ博士夫妻が…

挨拶を交わしながら…

席に着いた。


8時6分…ルーシーは周りを見回しながら、

兄夫婦がブリッジに来ていない事を

気にしていた…

深いため息をついた後…

グレイの耳元で…


「お兄ちゃんと、リンダ姉さん

起きているのかしら?

もう皆んな揃っているのに…」


するとフリー・ルーが飛んで来て…

「ルーシー様、ボブ様とリンダ様は、

1時間ほど前から、

屋上デッキの中を走っておられますよ、

先ほど声をかけましたので…

もうこちらに来られるかと…」


そう言っているところに、

ジャージ姿のボブとリンダが

エレベーターから降りて来た。


「皆んなオハヨウ、

申し訳ない、遅れてしまって…」

と言うボブの挨拶に、


ベイは嬉しそうな顔で

「ボブ、リンダ、気合いが入ってるね」


「はい、ベイ博士が新しく立てられた

作戦の、足を引っ張らないように…

昨夜、ボブと二人で話し合ったんです…」


するとルーシーが…

「リンダごめんなさい…

私てっきり、昨夜エッチのし過ぎで、

寝過ごしたのかと思って」


リンダは笑いながら…

「謝らなくていいのよルーシー…

そう言う事も

今までに結構あったから」

そう言って…イスに座った。


皆んなも…身に覚えがあるのか…

それぞれが、含み笑いをしている。


ベイはまず…女将が用意してくれた朝食を皆んなにすすめた。

ブリッジ内に…

静かなクラシックの曲が流れ出した。


フリー達は…自分の主人の食べる速度に

合わせ……

パン、ベーコン、ポテト、

チーズ、スープ、サラダ、

紅茶、ケーキの順に…

テーブルに運んだ。


あいも変わらず、

8人の食べるスピードの早い事。

あれよあれよと言う間に終了した。


ベイは、ナフキンで自分の口の周りを拭く

6人に視線を向け…


「メリー、女将さんに今から頼んでみるね…」と言った、

6人は何の事だか解らず…小さく首を傾げている。

メリーが小さく頷くと…ベイは


「女将さん、匠さん…会議の前に1つお聞きしたい事が有るんですけど…

唐突な質問で申し訳ないのですが。

女将さんと匠さんは…

人間が好きですか?」

と尋ねた。


6人は、心の中を見透かされたと思い、

かなり動揺している。


女将も匠も、ベイがなぜ、この様な質問を、

今して来たのか、百も承知である、

女将は優しい声で…


「はじめから、人間が好きだった訳では

ありません…

でも今は…

大好きですよ。


好きに成ったのには

理由があります。

まず、

メリーさんの事が大好きだと、

言い続けているベイ博士を観察して…

よくもまあ…飽きる事なく、

大好きだと言い続けられるなぁ、

その事が…不思議でたまりませんでした。

そして

メリーさんが、

あの世から帰って来られて…

私と主人は御二人を観察しました。


なぜキスをするのかな?

なぜ裸で重なり合って居るのかな?

なぜベイ博士は、

ひんぱんにメリーさんのお尻を触っておられるのかな?…

解らない事ばかりでした。


そこで私は主人に

「私達も、ベイ博士とメリーさんが、

何を思い、何を感じているのかを…

体験する必要があると思う」

そう提案しました。

主人は

「了解した…君と私はベイ博士に作って

頂き、出会ってからまだ時間が

あまり経っていないので、

お互いの事をよく分かっていない…

体験する事で何かを得られるのなら、

やってみよう」

そう言ってくれました。

私達は

実験を重ねました…

すると私が…

主人に対して、

胸が熱くなるくらいに愛を

感じるようになり、

主人も、私を抱きしめて、

離さなくなりました。


私達は感動して、更に多くのデーターが

欲しくなり…

今度は、皆さんを観察することにしました…

ごめんなさい

プライバシーの侵害ですよね。


でもハッキリした答えが出ました。

皆さんは…本当に

大好き同士なんですね。


その時…私達は、人間って素敵だな…

愛おしい存在だな、と思いました。


皆さんが愛し合っておられる限り、

私達は人類が地球上に必要ない…

とは思いません。

私達は人間が大好きです。

ベイ博士が作って下さった、

最先端のAI…

私達は…

「 心を 」持っています」

そう…言い切った。


すると匠が…

「…今回ベイ博士から、

世の中を混乱させる為に、

いくつかのマシンを作って欲しい、

と言われました。


自画自賛をしてはいけないと思うのですが、作戦上、大変良いモノが出来上がりました。私達夫婦は…

皆さんに満足していただけるように、

全力で、全ての事をサポートさせて

頂きます」

と言ってくれた。


6人は感動した…

(…ベイ博士が作られた、匠さんと女将さんは…本当に優しくて素敵なAIなんだ…)

ボブとリンダは思わず、

女将と匠に対して

拍手を送ってしまった。


するとジョニーとアンジー、

グレイとルーシーも感激したのか…

目に涙を浮かべながら

拍手を送った。


ベイはメリーの手を握りながら…

「女将さん匠さん、ありがとうございます、私達は未熟なお手本ですが、

これから先もズッ〜と、

愛し合う事だけは

絶対に変わりませんから、

大丈夫ですから!!」

そう言って微笑んだ。


ベイは、メリーの顔を見ると…

「これで、皆んなの気持ちは1つに

なれたね」

メリーは頷きながら…

「私達って元々ベイを中心に、皆んな同じ方向に向いていたんだけど、

なんて言うのかしら…


超スッゴイ科学力を持った

女将さんと匠さんを紹介されて、

私達ったら超緊張しちゃって…


だって地中に潜ったり、海中に入ったり、

宇宙に行ったり、

凄い事の連続 なんだもん」


そう言って自分の胸に両手を当てた。


するとリンダが…

「本当にメリーの言う通り…

私達って、外見はスカイシップに

もう慣れました、

みたいな顔をしているけど…

内心はドキドキの連続で…

だから、ベイ博士が新しい

何かをしようとすると…

もう頭の中がいっぱい、いっぱいで…


自分の弱さを…

女将さんと、匠さんを疑う事で

ごまかそうとして、

私達って本当に最低ですね…

スミマセンでした…」

そう言って頭を下げた。


すると匠が…

「リンダさんが言われた事、

メリーさんが言われた事、

分かりますよ…

本当にビックリする事の連続でしたよね、

でも皆さんは一つずつ…

乗り越えられましたよね、


私と家内は、

皆さんを尊敬します…


ドキドキして居る皆さん、

疑問を抱く皆さん、

前向きに頑張る皆さん、

愛し合って居る皆さん、


全てを含めて…

皆さんの事が大好きですよ」

そう…言ってくれた。


ベイが匠と女将に…

「ありがとうございます。

未熟な私達ですが、仲良くして下さいね」


7人も声を揃えて…

「これからも、よろしくお願いします」

そう言って頭を下げると…


匠と女将も頭を下げ…

「こちらこそ宜しくお願いします」

と言って微笑んでくれた。


ベイはホッとしたのかメリーの耳元で…

「メリーの存在が地球を救ったんだよ、

愛してるよメリー」

と呟いた。


するとメリーも小さな声で

「私は貴方の為に生きているの…

それが地球を救ったんだとしたら…

私の愛はすごいのね…」


「うん、すごいよ、僕のメリーは

世界で一番素敵な女性なんだから…」

と、そこまで言った時だった…


フリー・ベーが突然飛んで来て…


「博士、もう勘弁して下さい!

毎日、何回、告白すれば気がすむんですか、皆さん会議の進行をお待ちですよ、

続きは今夜、

お二人の時にお願いします」

そう言って頭を下げた。


ベイは周りを見ながら

「あっ〜ゴメン、皆んなゴメンね、

本当にゴメンね!」

そう言いながら頭をさすった。


しかしボブも、ジョニーも、グレイも、

怒る事なくニコニコしている。


当たり前である、自分達もテーブルの下で…奥さんの、お尻や、太ももを、

触って居るのだ…

だからジョニーは微笑みながら

「いえいえベイ博士、

気にしないで下さいね」

としか言いようが無かったのである。


匠も女将も…ベイ博士を中心とした、

この…なんとも緊張感のない会議が

大好きである。


女将は匠の耳元で

「もぅ見て…触られている奥様達の顔…

頬を染めて喜んでいるわ…

もぅ〜常に抱っこしてもらっていた方が…

いいんじゃないのかしら?」

と言った。


すると匠は真剣な表情で…

「愛する女性を常に触りたい!

それは男性の本能なんじゃないかな」

そう言って…女将のお尻を両手で…

抱き寄せた。


女将は匠の額に…

人差し指をチョコンと当てると…

「男って…困った生き物ねぇ…」

と言いながら、匠の首に両手を回して…

キスをし出した。


その光景をブリッジの天井付近で

見ていた8体のフリー達は…

深いため息を吐き


「いつになったら会議が始まるんだろ…

女将様と匠様がキスをし出すと

長いんだよなぁ…」と言い合った。


するとフリー・ボーが…

「でも良かった…ボブ様はずっと気にしておられたんだ…

『優秀なAIほど人間の必要性を

感じてないんじゃないだろうか?』

って…今回の事で…

そう言った疑念が晴れて

本当に良かった」

と呟いた。


その事を聞いたフリー・ルーが…

「私の主人も『ずっと女将さんと匠さんと、仲良く過ごせたらいいなぁ』

と言っておられたわ」


するとフリー・アーが…

「人間とAIの信頼関係が強固なものに

なったわね、

私は、御主人様達が大好き…

だから、とっても嬉しいわ」

そう言って微笑むと、


他のフリー達も一斉に親指を立て…

満面の笑みを浮かべた。


そのあと会議はスムーズに進んだ、

皆んなの気持ちが1つになった

話し合いには

何の異論も発生しない。

ベイの提案、匠と女将からの提案、

そして皆んなからの提案…全て「賛成」と「賛同」と「賛美」と言う言葉を

掛け合いながら、

全員が笑顔で合意する事が出来た。


会議はこれで終わりかな?

と誰もそうが思った時、

匠は皆んなを

一階船尾にある格納庫に招待したいと

言い出した。


〈…ホタル…〉


8人は笑顔で立ち上がり、

エレベーターに乗り…

そして、一階船尾の格納庫の前に

やって来た。


匠は嬉しそうに…

「皆さんに…ホタル達を紹介します…」

そう言って…ドアをソッと開けた…


倉庫の中は真っ暗で…何も見えない…

匠が優しい声で…

「ホタル達…ベイ博士と

先生方に御挨拶を…」

と言うと…

真っ暗な部屋の中が…

一気に黄金色に輝いた。


「おぉ〜…」と8人が声を上げると…

二匹のホタルが前に出て来た…

皆んなが微笑みながら見つめていると…

いつも飛んでいるフリー達が、

8人の肩の上にソッと降り立った。


すると、1.5センチほどのホタルが、

15センチほどの大きさに見えた…

「えっ!とっても可愛い!」

そうリンダが声を上げると、

ボブは

「凄い…フリーを装着すると…

ホタルちゃん達が、大きく見えるんだ.」

と言った。


8人が倉庫内を見つめていると,

男の子と、女の子の声が聞こえてきた…


「〈男〉皆さんハジメマシテ…

ホタルと申します。

今の私達には、まだホタルと言う名前しかありませんが…

人間の、左右の肩に着任した後からは、

その人の名前の後に、

ホタルと言う名前を付けさせて頂きます、


〈女〉例えば、アポロと言う人に着けば、

アポロホタルと名乗ります…

その方が亡くなられるまで、

その名前で呼び合います。


私達は、人間を見守るために生まれました。

〈男・女〉只今より任務に

従事させて頂きます」


そう言って、

二匹のホタルが声を揃えて…

頭を下げてくれた。


ベイは、皆んなよりも一歩前に出ると…

「皆さんの力が必要なんです…

ご苦労をおかけしますが、

どうか宜しくお願い致します」

そう言って深々と頭を下げると、

後ろにいる7人も、

同じように頭を下げた。


ホタル達は動揺を隠せない

(…女将様と匠様よりも上の方が…

頭を下げてくれている…)

そう思いながら、

自分達も更に深く頭を下げ返した。


女将はベイに…

「今からホタル達を、

世界中の人達の肩に着任させたいと

思いますが、如何でしょうか?」


「はい、宜しくお願いします、

少しでも早い方が色々な情報が集められますからね」と即答すると、

7人も速攻で親指を立ててくれた。


〈 ギンバレー 〉


スカイシップは

ホタル達を着任地に送る為に、

世界中を回った。


任務地の上空に着くとホタル達は…

「匠様、女将様、行ってまいります。

ベイ博士、皆さん、

また地上でお会いしたいと思います…

その時は…

いえ、何でもありません」

と…口ごもったまま…敬礼するホタルに、

ベイはすかさず…


「声をかけても…いいのかな?

ご苦労様って…言ってもいいのかな?」

と言った。


ホタル達は嬉しそうな顔で…

「…私達は任務中ですけど……

お声をかけて頂けたら、

とっても幸せを感じると思います…」

そう言って頭を下げた。


ベイは…

「仕事の邪魔をしないように、皆んなに、

声をかけさせてもらうからね」

そう言って微笑むと、

ホタル達も一斉に微笑んでくれた。


200億匹のホタル達を

地上に送り届けるのに…

1時間と43分で完了した。


皆んなで微笑みながらブリッジに

戻ってきた。


ホタル達の見送りに際して、

ボブは一つだけ、驚いた事が有った…


「あの匠さん…」

「はい、何でしょうか?」

「スカイシップからホタル君達が

飛び立った後…あっという間に、

見えなく成ってしまったんですけど…


彼等は何キロくらいのスピードで

飛行出来るんですか?」


「マッハ5です、

もし不測の事態が起こった時、

すみやかに、その場から離れる事を考えて、

マッハ5に設定しました」


「すごいですね〜」

「ボブさん、今回、

フリーと、ブレスレッドも改造しましたから、かなりのスピードで皆さんを

目的地に運んでくれますよ」

「あの何キロくらいですか?」


「そうですねぇ〜マッハ10くらいかなぁ…実はですね、

私と女将が遠隔操作をすれば、

瞬間移動も出来るんです…

ですから何キロのスピードで飛べますよ

と言うのは…もう余り…

関係無いんです」

と言った。


ボブはリンダの顔を見ながら、

チョッピリ唇が震えている。


すると女将が…

「ボブさん、大丈夫ですよ、

マッハ10で飛んだところで、

皆さんの身体には何の負担も

かからないように、

匠が設計していますから」


ボブが嬉しそうに胸を撫で下ろすと、

リンダは、後ろからボブを抱きしめて…


「私が常に一緒に居るんだから、

大丈夫よボブ!」


すると

ボブはまるで呪文でも唱えるように…

「リンダがいる、リンダと一緒、

リンダがいる、リンダと一緒…」

と何回も言うので…

ブリッジ内はとうとう

大爆笑になってしまった。


笑い声がおさまると、ジョニーが手を上げた「ベイ博士…質問してもいいですか?」

「何かなジョニー…」


「あの…地球の人口は、

大体…77億…数千万ほどかと…

200億だとかなり、なんと言うか、

多くないですか?」


「うん、ジョニーの言っている事は

分かるよ、僕も当初は、

100億と思ってたんだ、


だけど…1匹で任務って…

なんだか淋しそうだと

思ってね、

匠さんと、女将さんに相談したんだよ…


そしたら匠さんが…

『実は、女将とも話し合ったのですが、

男女に分けて、

愛し合う、夫婦のホタルを作ろうと

思います。


夫婦で、1人の人間の肩に

着いて貰って、

残ったホタル達には…

色々な機関や分野に潜入捜査に

着いて貰います、当然、夫婦で』


だってさ…2人の提案に僕も大賛成でね…

常に離れず一緒って、良いよね、

ジョニー…こんな答えでいいかな?」

と言うと、


ジョニーよりも先にアンジーが…

「すっごくいいと思います、

さっき左右の肩って言ったのは、

1人の肩に2匹のホタルって言う事

何ですね、私は大賛成です」

そう言って拍手をし出した。


ジョニーが…

「ベイ博士、先に妻に…答えを言われてしまいました」と言った時に…


メリーが急にベイに抱き着き…

「ベイ、もう二度と離れないからね…

ゴメンね…寂しい思いをさせて、

ズッと一緒だからね」

そう言ってキスをした。


6人は2人を見つめながら……

(…なるほど…こう言った…ベイ博士とメリーの行動が…女将さんと匠さんに…

優しい気持ちを起こさせただん

だろうなぁ…)

と…そう思った。


次の日、

スカイシップは大気圏の

少し外側に居た。

今は使われなくなった人工衛星が浮遊している空域である。


中にはこの場所を、空のゴミ捨て場、

と言う人もいるが…

匠はここが…大好きである。


匠はこの場所から

色々な部品や金属素材を回収し、

新しいモノに作り変えたりする。

匠が嬉しそうな顔で…


「女将、この場所はいいね…

そのまま組み替えて使える物や、

溶かして加工しやすい金属とか…

有り難いね〜」と言って微笑むと、

女将は…

「貴方以外に、そんな事、

誰も出来ないと思うわ…

私はそんな凄い男の妻なのよ……

なんだかドキドキしちゃうわね…」

と言うような会話を二人でしながら…


女将は他の耳で…

ホタル達から入ってくる報告を

分析していた。


ホタルの仕事は、その人間の日常生活の監視である。

悪い事を企んでいる時は…

その内容の全てを女将に報告する、

嫌な言い方をすれば、

…密告、或いは、告げ口である。


そのかわりに、

事故や、病気や、

事件に巻き込まれた人達の事も

直ぐに女将に報告するので…

まぁ決して…嫌な存在では無いと思う。


女将はトラブルに巻き込まれた人数が

3000名を超えると、

ベイ達に出動要請をする…

前日の会議で決定した事である。


そして今、8人が朝食を済ませ…

コーヒーを飲んでいる時、

女将から出動要請が掛かった…

「皆さん、出動準備をお願いします」

一斉に立ち上がる8人。


ベイが一番最初に声を発した…

「フリー・ベー、装着」

「了解しました、ブレスと共に装着します」フリーとブレスは溶け合うような形で

ベイの身体に覆いかぶさった。


7人はベイ博士を見ながら…

(…かっこいい、ヒーローの変身みたいだ…)

と思いながら、

自分達も次々と…

「フリー・アー、装着」

「フリー・グー、装着」と言う風に

変身していった。


女将は準備が整った8人を見ながら…

「スミマセン…実はまだ、3000名になった時の仕事ではありません。

特別な出動だと思って下さい…


ボブさんが尊敬する、

ギンバレー元ヘビー級チャンピオンが、

先ほど亡くなりました。

皆さんも御存知の方だと思いまして…」

ボブの顔が引きつった。


女将は…

「ホタル達からの報告を、

直接聞いて頂けますか…」

と言って、

ホタル夫妻の声を

ブリッジ内に流した

「〈男〉女将様、ギンバレーホタルです、

昨日の14時23分、ギンバレー氏が銀行強盗に撃たれ、一夜明けた本日、

9時21分に病院で息をひきとりました。


チャンピオンは引退後、

故郷に帰りましたが、裕福ではない町の様子を見た時、

自分のお金を使ってスポーツセンター、

図書館をつくり、

なおかつ子供達の為に野球チーム、

バスケットチーム、

サッカーチームを作り…

ユニホームなど全て、

ギンバレー氏が自費で揃えています。


いずれにせよ、地域貢献の為に、

走り回っておられます。」


「 〈女〉今回銀行で撃たれたのは、

児童施設建設の為、

銀行に融資の相談に行っている時の事です。

犯人が親子連れを撃った時に、

ギンバレー氏は親子の盾になり、

二発の玉を背中に受け、

犯人の冷血さを感じたギンバレー氏は、振り返って左フックで犯人をKO、

もう一人の犯人も

右ストレートで倒しました、

しかし…同時に、腹部に3発の玉を受けられ…女将様、

出動を要請させて頂きます。

御判断…宜しくお願いします…」


8人はホタルの報告を

感慨深げに聞いていた…

(…こんなに丁寧な報告をしてくれるんだ…

それも前半は男の子で、

後半は女の子…ちゃんと2人で仲良く報告してくれている。

自分達もその思いに…応えなければ…)

と思っている時…


女将が…

「以上がホタル達からの報告です、

只今スカイシップは、

病院の真上に居ます…」

8人は…

(本当に段取がいいな…)

と思いながら親指を立てた。


8人は…

誰もいない非常階段前に現れた。

病院の中は、

驚くほどの静けさが漂っている…

病院だけではない…

ギンバレー氏の存在は余りにも大きく、

小さな町は、深い悲しみに沈んでいた。


フリー・ベーが…

「博士、このまま真っ直ぐに、

30m進みますと

左手にエレベーターが有ります、

10階まで行きましたら、

右手奥の1008号室に

ギンバレー氏が眠っておられます。


ただ、家族の方と、関係者の方達、

警察の方達もおられますが…」

「ありがとうフリー・ベー、

きっと大丈夫だよ。

さぁ皆んな、行こうか…」


8人は、エレベーターに乗り込んだ。

するとボブが独り言のように…

「ギンバレー氏は優しい方でね…

試合の後に、俺の耳元で

「記者会見の時の暴言、

本当にすまない…俺も施設で育ったんだ…

母親の顔も知らない…

俺は引退するよ、

沢山稼いだからな…次は、お前の番だ…

ボブの強さは本物だよ、

しっかりと稼げよ、彼女を大切にな…」

って言ってくれてさ…

本当に強かったなぁ、

反則なんて一切しない方でね…」


そこまで言った時に、

エレベーターは10階に着いた。

7人は黙ってボブの顔を見つめ、

親指を立てた。

するとベイが…

「ボブ、ギンバレーさんを

生き返らせて上げて、

フリー・ボーが耳元で、

新しいやり方を教えてくれるから…」


ボブは嬉しそうに頷くと、

先頭をきって…エレベーターから降りた。


8人が1008号室に向かう途中、

先頭を歩くボブの顔を見た人達は、

次々と腰を抜かして…廊下に座り込んだ…


しかし8人は、

座り込んでいる人達の…

左右の肩に居るホタル達に…

「ご苦労様です…ありがとう…」と言いながら、小さく会釈をする…

座り込んでいる人達は更に

「ヒエェ〜…」と言いながら…

後ずさりをする。


病室の中も同様で、

ボブの顔を見た警察官達も、

ボクシングジム関係者達も…

皆んな、二、三歩下がって腰を抜かした。


無理もない、

それだけギンバレーとボブの試合は

有名だったのだ。

そしてボブが亡くなった事によって、

その試合は伝説になり、

試合のフイルムは、DVD化され、

ファンの間で飛ぶように売れたのである。


しかも当日,

ボブのセコンドに着いていた

リンダは当然の事だが、 セコンドの真後ろに座って居た

ベイ、メリー、ジョニー、アンジー、

グレイ、ルーシーまでもが、

ボブ選手の家族として紹介されていた。


つまり8人は、

自分達が知らないところで、

かなり有名な幽霊になっていたのである。


ましてや今、

黒衣モードに変身している、

見方によっては死神っぽく見えたのかも

知れない。

そんな事を知らない8人は、

ホタル達に向かって、

ズッと笑顔で

「ご苦労様〜」と言い続けたのだ…

手を振られた人達は、

さぞ困惑したことだろう。


ベットに寝ているギンバレーの足に、

2人の子供が、泣きながら

しがみ付いている。

奥さんは泣く事も出来ずに、

方針状態である。


8人はベットを囲む様に立った。


そして、

ボブがギンバレーの真横に立ち…

「フリー・ボー、宜しく頼みます」

と言った。

「かしこまりました、ボブ様」

フリーはボブに指示を出した…


ボブは、右手をギンバレーの頭の上、

50㎝の位置で一端止めた。

そして、ゆっくりと右手を足元に

ズラして行った。


ボブの右手に装着されている、

フリー&ブレスのスーツから、

金色に輝く光が…

ギンバレーの身体に

降り注がれている…

妻子をはじめ、

周りで腰を抜かしている人達は、

目を見開いたままで…固まっている。


ボブの右手が、ギンバレーの足元まで来た。

ボブはギンバレーに…

「偉大なチャンピオン、

奥様と子供達…そして、

町の人達が、貴方の事を待っていますよ…」と言った。


周りの人達は、別れの言葉なんだと思って

涙をこぼした。

ボブは更に…

「町の発展の為に、貴方が必要なんです、

帰って来て下さい…」

ギンバレーは、ゆっくりと目を開けた…

そして大きく息を吸いこんだ後に…

「…ボブじゃないか…と言う事は…

俺は死んだんだな…

あぁ〜…もう少し…生きて居たかったなぁ…

まだ子供が…小さいんだよ…」

と言ってボブの手を握った。


周りの人達は、自分の耳を疑った…

「えっ…?なんで…ギンバレーさんの声…?」病室内がざわつき始めた。


ボブは微笑みながら…

「お帰りなさいチャンピオン、

生き返りましたよ…」


病室内は絶叫の嵐…

しかし次の瞬間、歓声と拍手に変わった。

ギンバレーは起き上がると…

「スージー、マイク、リン…ただいま」

と言って手を広げた、

お姉ちゃんのリンは、

弟のマイクの手を握り

父親の胸の中に飛び込もうとしたが、

一足先に、スージーが抱きついて居た。


リンは笑いながら…

「ママったら…大人気ない…」

と言うと、

ボブはマイクを抱き上げ、

リンダはリンを抱き上げて、

パパとママの間に…

ソッと2人を入れて上げた。


抱きしめ合う4人の姿を

スマホで撮る人達…

4人の姿は、あっという間にネット上で

取り上げられ、

その映像は、あっという間に

拡散された。


暗く落ち込んでいた町は、

一気に明るさを取り戻した。


そしてベイの思惑通りに…

世間は、あっという間に困惑した。

「なぜ?死んだ人が生き返ったの…⁇」


ベイはニヤリと笑いながら、

何の説明もせずに、

ギンバレーの家族を家に送って行った。


病院に残された人達は

「…あの人達は、誰なの⁇…

神様⁇…悪魔なの⁇…誰か教えて…」

と言い合う事しか出来なかった。


ギンバレーは家の中に入ると…

直ぐにボブに抱き着いて…

「ありがとうボブ…なんて御礼を言えばいいのか…」と言った。


ボブは、ギンバレーの背中をさすりながら…

「あの…あらためて紹介しますね、

私達の兄であり、先生であり、親であり…

尊敬しているベイ博士です。


私達8人は、

ニュースで取り上げられた通り、

一年ほど前に…

一度死んでいます。

でも、ベイ博士の科学の力で

生き返りました、

さきほどギンバレーさんが体験して頂いた

通りです…」


ギンバレーの家族は、

大きく頷きながら納得した…

(ベイ博士って凄い科学者なんだ…)

と思ったので…自然に頭が下がり


「ありがとうございました…ベイ博士、

この御恩は…死ぬまで忘れません」

と言って頭を下げると、息子のマイクが

「パパ、さっき生き返ったばっかりだよ…」と言い、娘のリンも…

「パパお願いだから、

死ぬと言う言葉を使わないで」

と言って涙ぐんだ、


ギンバレーは慌てて…

「あっ〜ゴメン、パパの言葉使いが

悪かったね…」

と言ってオロオロしている姿は…

かっての強いチャンピオンの

面影は無く、

優しくて子煩悩な…

お父さん、と言う感じだった。


女性は、コミニケーションを取るのが、

実に上手い。

スージー夫人と娘のリンは、

あっという間に

リンダ、アンジー、ルーシー、メリーと仲良く…楽しそうに喋っている。


そんな時にも…

ベイの耳には、ギンバレーの個人情報が女将から伝えられていた。

辛い思いを繰り返しながら

今まで生きて来た事。

やっと掴んだ栄光と富を、

町の発展と…経済的に大変な子供達の為に、湯水の如く使っている事。


その富も、とうとう底をついて

来ている事を…

女将は全てを教えてくれた。

ベイは心の中で…

(…ボブの言ってた通り…良い人なんだなぁ…)と思った。

また(…今日から友達になって貰いたいな…)

とも思った。 


ギンバレーは女性達の会話を聞きながら…

「俺にも…スージーのような会話が

出来ればなぁ…

試合前の記者会見で、暴言を吐かなくても、

上手く…その場を盛り上げる事が

出来たんだろうなぁ…


ボブの前に、俺と対戦した相手は…

絶対に俺の事が大嫌いに成ったと思うよ。

ボブ…あの時の暴言は、

今思い出しても恥ずかしいよ、本当に

申し訳ない…」

そう言ってうな垂れると、


横からリンダが入って来て…

「ギンバレーさん、私達は全然気にしていませんよ。あの時の私達は、

とにかく緊張していて、

頭の中が真っ白で…

ですからギンバレーさんに…

色々な言葉をかけて頂いて、

本当にありがたかったんです」

と言って微笑んだ。


ギンバレーは…

「ありがとう、そう言ってもらえると…

心が救われます。

ボブ以外の選手にも、

試合が終わった後…必ず謝ったけど…

でも…やっぱり言い方だよね…」

と言ってまた頭を下げた。


その時フリー・ベーが…

「ベイ博士、女将様から相談したい事があるとの事です、どうしましょう?」

「了解しました、直ぐに帰るね…」

ベイは一呼吸おいた後に…


「ギンバレーさん、

私達はボチボチ帰らせて頂きます、

また今度ゆっくりと食事でも

いかがですか?」

ギンバレーは嬉しそうに…

「喜んで…。あのベイ博士…

本当にありがとうございました、

感謝以外の言葉が見つかりません…」

と言ってまた頭を下げた。


するとベイは…

「子供達の為に、町の発展の為に…

常に尽力されている

ギンバレーさんの行動に、

私は感激しています」

と言ってベイも頭を下げた。


ギンバレー夫妻は恐縮している…

ベイは更に…

「私達で何か役に立つ事があれば、

いつでも言って下さい、

直ぐに飛んで来ますから」

と言って手を差し出すと

ギンバレーはその手を両手で強く握った。


ベイは目でメリーに何か合図を送っている、メリーは頷きながら

スージー夫人に…

「すみませんパソコンを

お借りしてもいいですか?」

「はい…家にはノートパソコンしかありませんけど、宜しいですか?」

メリーは…

「はい、結構です、すみません…」

と言って微笑んだ。


夫人がパソコンを持ってくると、

メリーは小さな声で…

「フリー・メーお願い…」と言って両手を前に差し出した、

リンとマイクはその姿を見て

(…何してるんだろう)と首を傾げた、


ギンバレーとスージーも

(…何が始まるんだろう…)

と思っている、

メリーが手を差し出すと…

パソコンはスージー夫人の手から

浮き上がり、

勝手に画面が開かれ…

勝手に何かを打ち込んでいる。


普通なら怒ってもいいところだが…

命を助けてもらったベイ夫妻に対して、

ギンバレー夫妻は何も言えなかった。


やがて打ち込みが終わったのか、

パソコンの画面はギンバレー夫妻の方に向けられた…

まさか…自分の銀行口座の残高が映し出されているとは……

しかし、よく見ると0の数がおかしい、

たしか残高5万ドルのはずが…

5000万ドルに成っているのだ。


「えっ?…」2人は自分の目を疑ったが…

間違えていない事が分かると

「メリーさん…あのこれは…」

とスージーが尋ねると、

メリーは何も言わずに…

ベイの顔を見た、


ベイは、ギンバレーの顔をジッと

見つめながら

「御自分の貯金をドンドン崩して…

本当に貴方は…

呆れるほどに優しいんですね…

私には出来ません、

私ならぜんぶ、

家族の為に使っちゃいます。

ギンバレーさん、そのお金は…

自由にお使いください」

と言って微笑んだ後に…


「さあ皆んな、船に帰るよ」

と言って家の外に出て行った…


ギンバレーは慌てて…

「いや、こんな大金いただけません…」

とそこまで言った時に、

ボブからメモ用紙を渡された…

「えっ?なんだい…」

ボブはニッコリとしながら…

「私達につながる電話番号です、

何かありましたら、ここに電話を下さい」

と言って、

ボブはリンダと手を繋いで、

外に出て行った。


ギンバレー達は

8人の後を追って外に出ると…

なんとも言えない威圧感を…

空から感じた。


4人は恐る恐る空を見上げた…

其処には、

透明シールドを解除した、

スカイシップが………

その…余りの大きさに4人は固まった。


ベイはギンバレーに向かって…

「食事をする時は、

スカイシップに招待しますね。

あの、今から私が言う事は気に

しないで下さいね。

『ご苦労様、ありがとう、これからも頑張って下さいね』

と言って小さく手を振った…

この部分の言葉は、

当然ホタル達に対してである。


しかし、ギンバレー家族は自分達に言ってもらって居ると受け止め、

全力で手を振り返した。


8人も微笑みながら手を振り返すと…

その身体は、あっという間にスカイシップに吸い上げられ、あっと言う間に空の彼方に消えて行った。


マイクは…

「お姉ちゃん…神様達が…

何かあったら飛んで来ますって

言ってたけど…

本当に飛んで来てたんだね〜」

リンは微笑みながら…

「本当だね…スゴイね、今度食事に誘われちゃったね」


「嬉しいね〜、お姉ちゃんも嬉しいでしょ…?」

「うん…。でも一番嬉しいのは…

パパが生き返ってくれた事だよ…

本当に良かった〜」

と言って父親に抱きついた。


ギンバレーは申し訳なさそうな顔で…

「心配させてゴメンな…本当にゴメン…」

と言ってリンを抱きしめると…

マイクは父親の足に抱き着き、

スージーはギンバレーを背中から

抱きしめながら…

「あなた…お願い…もう無茶な事は

しないでね。

もう二度と….

貴方を失いたく無いの…」と言って、

夫の顔を覗き込むような格好で

キスをした。


〈 ポーズ 〉


スカイシップに戻った8人…

ベイは開口一番「…匠さん女将さん、

ただいま帰りました。

ギンバレーさんを救う事が出来ました、

ありがとうこざいました」


「それは良かったです」

そう匠が応えてくれたが…

女将の方は…どうも少し元気が無い。

そして


「ベイ博士、主人とも相談しているの

ですが、実はまだ、

世界中のホタル達からの、

報告内容の分析が出来てないんです、

すみません」と言う、

謝りの言葉を聞かされた。


ベイは…

(おや、珍しい事もあるもんだなぁ…)

と思いながら…

「イヤイヤ、女将さん謝らないでください、無理なお願い事をしているのは…

私の方なんですから、

こちらこそスミマセン」

そう言って頭を下げた。


女将は若干困惑気味な顔で…


「ベイ博士、実は…私も匠も、

少しモヤッとする人達がいるんです」


「えっと…どういった人達ですか?」


「一言で言えば、意地悪な人達です」


「いじめっ子みたいな人ですよね」


「その通りです、子供から大人まで…

正確に言うと老人までです。

どうしましょう、生き返らせますか?」


他のメンバーは

ベイがどんな答えを出すのか…

息を潜めて…その様子を見守って居た。


するとベイは「う〜ん…」と言いながら目をつむる事8秒…


「生き返らせずに、ほっときましょう」


「えっ?マジで!」


7人は思わず声が出てしまった。


ベイは小さく微笑んだ後に

「…僕は初めから皆んなに言っていたよね、

悪魔の使いだって、

気まぐれだって、

世の中を混乱させるんだって…


僕は神様でも、仏様でもないよ。

頭は良いけどね、

執念深い男なんだよ。


昔…僕達をいじめた人の顔は

いまだに覚えているし、

その人達が今現在、

かりに困っていても、

助ける気なんて全然ないし…


だってさ、僕達は泣きたい思いで、

必死で耐えて居たんだよ、

いつになったらイジメが終わるんだろう、

いつまで続くんだろう…


だいたいイジメをしてる奴らの

言い分って何?…ひがみ?、…妬み?

たんなる弱いものイジメ?


勉強が思うように進まず、イラついてたの?

仕事が思うように進まなかったから?

亭主が冷たくなったから?

子供が俺の言う事を聞かないから?

知らねえよ!

全部自分で何とかしろよ!


自分のストレスを、

他人に向けるんじゃねぇよ!

って言う話だよね。


イジメられている方は、

何が何だか分からないからね。


イジメる奴らは直ぐに徒党を組んで、

大人数で、1人や2人をイジメるんだよ、

何故だか分かるかい、

自身の罪の意識を、

分散、軽減させる為だよ。


えっ〜俺はアイツのこと

一回しか叩いてないし、


俺だって一回しか蹴ってないぜ。


私は一回あの子を無視しただけよ、


私だって、あの子と喋らない方がいいよって、知り合いにラインを送っただけよ。

って言いやがるんだ。


お前は一回殴っただけかも知らねえけど、

やられている1人は、

10回も15回も殴られ、

蹴られてるんだよ!


お前が喋らない一人の子は、

誰からも口を聞いて貰えないんだよ…


5歳の子供だって

良い事と,悪い事の区別はついてるよ、

それ以上歳上の奴等が

何やってんだよ!


奴ら…自分が悪い事をしているって、

分かってるんだよ、

その上でイジメてるんだから

タチが悪い。


むかし私はイジメっ子でした、

今はしていません、イジメて居る子を見ると注意しています、


あぁそう御苦労様、でもアンタが昔イジメて自殺した子は、帰って来ませんから、


年老いた親は、

亡くなった子供の事を思いながら、

今でも泣いていますから…」


ベイはここまで一気に話すと、

7人の顔に目を向け……

「ゴメン、一人で熱く成っちゃって…」

そう言いながら目をそらし…

深いため息をついた。


するとリンダが涙声で…

「私は昔、ボブに助けてもらい、

皆んなに助けてもらったから…

ベイ博士の言われてる事が分かります」


ボブはリンダの肩を抱き寄せながら


「俺も分かります…あの時、

皆んなが加勢してくれなかったら…

俺は力尽きて…

皆んなから

袋叩きにあって居ましたから」


ベイは小さく首を振りながら

「イヤイヤあの時は、ボブ一人でも、

十分に勝てたと思うよ…」


するとルーシーが真顔で…

「あの時…ベイ博士が…

お兄ちゃんの味方になってくれたから

勝てたんですよ!


いじめっ子は…

力だけでは収められないんです、

皆んなから信頼されている、

頭の良い人が味方に着いてくれないと、

勝てないんです」

そう言って下唇を噛んだ。


ジョニーは頷きながら…

「僕もそう思います、

好きなヒーローを語っただけで、

イジメられるって…おかしな話ですよね…

あの時、皆んなに助けてもらえて…

本当に嬉しくて、今でも感謝

してるんですよ…」


アンジーも頷きながら…

「覚えているわ、あの日の事…

6人が私達2人の前に立ってくれて…

イジメられると思った時は

とっても怖かったけど、

皆んなが駆けつけてくれた瞬間…

とっても嬉しかった、

味方に着いてくれる人が居るって…

こんなにも心強いんだって…

皆んなに出逢えて…本当に

良かった…」


8人はお互いの顔を見ながら…

笑顔で頷きあった。


6秒ほどの沈黙の後に…

メリーが静かな口調で語り出した…


「私達は神様じゃない。

私達が今言っている事は、

世の中のイジメっ子を、

殺してしまおうって言う話じゃない…

その人が事故や病気で亡くなった時…

ソッとして置きましょう、って言う事よね…

私はベイの言う通りにする」


そう言って右手を上げると、

他の6人も勢いよく右手を上げた。


その様子を見た女将は…匠と、

うなずき合いながら。

「ではベイ博士…助けない方向でよろしいでしょうか?」


「はい、その方向で。…ただし、イジメっ子が、ちゃんと、イジメている相手に謝って、スっごく反省して、守る側にまわった時は…助けましょうか…」


「助けるんかい!」


即座に突っ込んだのはボブである、

そして、いきなり笑い出したのは、

リンダである

「あっ〜ははははははは…お腹が痛い〜、

もうベイ博士ったら、やっぱり助けるんじゃないですか〜

おかしいと思ったんですよね。

だって昔、私達をイジメタ人達に対しても、必ず最後には反省させて、仲直りさせてましたもんね」


するとベイは寂しげな表情で

「希望的な観測なんだよ。

反省して、守る側に立つ人は、

本当に少ないんだよね…


だって悪気なくイジメてる人の多い事、

えっ〜冗談で、叩いただけよ、

冗談で、お金を取り上げただけよ、

冗談で、無視しただけよ、


何でも冗談って言うの。

本当に、冗談では済まない結果になる事を、

分からないのかなぁ…」

と呟いた。


メリーは自分の拳をさすりながら…

「女将さん、イジメっ子に反省を促すような方法って…無いでしょうか?」

すると女将が…


「有りますよ、ホタル達に、

人間が寝ている間に…

夢を観させるんです。

内容は、

他人をイジメると、

必ず自分に返って来るぞ、

と言うようなモノです、

やってみましょうか?」


メリーがニヤリと笑うと、

他の7人もニヤリと笑った…


すると匠が、嬉しそうな声で

「ホタル達にたった今…

夢見の機能を送信しました。


今夜からイジメっ子達は…必ず恐怖で目がさめる事でしょう…フッフフフ」

と笑い出すと…


女将も、8人も、匠につられて

「フッフフフ」と笑い出した。


ルーシーがグレイに

「私達の笑い方って、段々と悪魔の使い、

って言う感じに成って来たわね」


「そうだね、あとは決めポーズを、

ベイ博士御夫妻から伝授してもらう

だけだね」


そう言って、グレイはベイに視線を向けた。


博士は嬉しそうに立ち上がると

「…あのね、色々な映画を見て研究してみたんだけど、奥が深いよ。

今からメリーとやってみるね…」


メリーは既に腹を決めていたのか…

真っ赤な顔で、スッと、立ち上がると…


「皆んな…お願いだから一回で覚えてね、

結構照れ臭いの…」そう言った後…

2人は皆んなの前で…

約二時間にわたって講義&ポーズの実演を丁寧に教えて行った。


ベイは初めからノリノリだが、

引っ込み思案なメリーは、

笑顔がこわばっていた…


しかし30分も過ぎると、

何かが吹っ切れたのか、

かなり熱のこもった、

ノリノリで、キレッキレのポーズを決めてくれるようになり、

終わる頃には…


「今…ベイと私がしたのは…

あくまでも1つの提案だから、

皆んなも…好きなポーズを創り出してね、

以上で終わりです、エヘヘヘヘへ」


と、照れ笑いをしながら

自ら講義の終了を告げる事まで

やってのけたのである。


メリーは皆んなに頭を下げた後に、

いきなりベイに抱き着き

「もぅ〜ベイ、スっごく恥ずかしかった〜」そう言って足をパタパタ、パタパタ…

(走り出すのか?)

と言う感じで動かしている、


6人はその姿を見ながら……

(いやいやメリー、

めちゃくちゃ楽しそうに

演っていたし、

ベイ博士よりもノリノリで

演って居たからね、

本当は人前で何かをするのが、

好きなんじゃねぇ……?)

と思ったが…


大人なので、

そんな事は何も言わずに

「ありがとうございました」

と声を揃え…

丁寧に頭を下げた。


〈 壁の中から 〉


それから1時間後……

女将の透き通る声が船内に流れた。


最上階でストレッチをしているボブとリンダは顔を見合わせると


「…さあ、いよいよだね」

リンダは頷きながら…


「貴方と一緒だからドキドキせずに

頑張れるわ」

と言ってボブの胸に抱き着いた…


すると「ボブ、めちゃくちゃ胸がドキドキしてるじゃないの…大丈夫…」


「リンダ…いま僕の胸がドキドキ

しているのはね、

君が不意に抱き着いて来たからだよ…

結婚した今でも…胸が高鳴るんだよ」

「もぉ〜ボブったら」


ボブはリンダをギュッと抱きしめながら…

「悪魔っぽく頑張ろうね」

そう言って微笑んでは見たが、

内心では…


(怖くない、怖くない、

空を飛ぶスピード感にも、

きっと直ぐに慣れるさ、俺がしっかりしなきゃ…リンダを守るのは俺なんだ…)

と思って居た。


ジョニーとアンジーは、

自分達の部屋で…

悪魔の、決め台詞の打ち合わせをしていた…


「アンジー、僕の声のトーンって

低すぎないかな?」

「…そうねぇ…はっきりと言わせてもらうと…貴方の声ってセクシーすぎるの、

もっと淡々と感情を入れずに…」


「あっ〜そうなのか…気をつけるよ」

と言うと、


アンジーは首を横に振りながら

「ごめんなさい…違うの…

貴方のセクシーな声は、私だけに…

かけて欲しいの、

他の人にかけて貰いたくないの…」


アンジーの勝手な

フライング・ヤキモチである。


ジョニーはアンジーを抱きしめながら…

「アンジー…昔から…僕の心の中に住んで居るのは君だけなんだよ…」

そう言ってキスをしたら…


アンジーは真っ赤な顔で…ジョニーの首に

手を回し…濃厚なキスで、

ジョニーの唇を…2分間ほど離さなかった。


ブリッジの後方で、悪魔の使い的な、

ポーズを練習しているグレイとルーシーは、

女将さんの声を聞きながら


「ルーシー、僕のポーズはサマになって

来たかな?」

「うん、私の採点では100点よ」


「ありがとう…ルーシー、僕はセリフ回しが下手くそだから助けてね」

ルーシーは余裕のある笑顔で

「私に任せてグレイ、

2人で頑張りましょう」

そう言って両手を腰に当てた。


グレイはその姿を見て

(可愛いなぁ…)と思ったので、

ルーシーの腰に手をサッと回すと…


「僕の大好きなルーシーは強いなぁ、

愛してるよ」

そう言って本気のキスをした、

するとルーシーの力強いはずだった両手が、アッと言う間に、

ダラリ〜ンと垂れ下がり…


「グレイ…ダメ……今…キスは駄目…」

何を言って居るのか…

分からない状態になった。


ベイは自分達の部屋の中で、

メリーを膝の上に抱っこしながら、

ある作戦の説明をしようと思っていた…

「メリー実はね、僕達2人は…

皆んなとは、少しだけ違う所で仕事を…

いや作戦を、実行するんだけど、いいかな?」と言った。


メリーは艶かしい声で…

「ベイと一緒だったら何処にだって

行くわ…」


そう言って、ベイの口をキスでふさいだ。

ベイは…

「ありがと…う…メリー…じゃあ…説…明…」

メリーのキスで、

話がなかなか先に進まない…


そんな事をしている時に

女将の声が耳に入って来た、

ベイは焦りながら…

メリーに作戦の内容を聞いてもらった。


額の汗をタオルで拭きながら、ブリッジに降りてきたボブとリンダ。


セリフを口ずさみながら、ブリッジに入って来たジョニーとアンジー。


ルーシーをオンブしながら、ブリッジに入って来たグレイ。


そして、何とか作戦の説明をする事に成功した、ベイとメリーが……

皆んなよりも2分遅れて…

ブリッジに入って来た。


女将はゆったりとした口調で…


「皆さん、お待たせしてスミマセン、

やっと分析が終了しました。

既に、フリーとブレス達には、

皆さんの行動予定をインプット済みですが…

どのタイミングで実行されるのかは…

皆さん次第です、

いつ頃になさいますか?」


7人はいっせいベイの顔を見た…


「今すぐに行動に移したいと思います」


ベイの声に、

一番早く反応したのはボブとリンダである「フリー・ボー、装着」

「フリー・リー、装着」

やる気満々である。


ジョニーとアンジー、

グレイとルーシーも直ぐにフリーを

装着した。


ベイは嬉しそうな顔で…

「皆んな、ありがとう…」


そう言いながら、

メリーと2人で…フリーを装着した。


その時である、匠が照れ臭そうに…

マシンの新機能を少しだけ

説明し出した…


「あの皆さん…

ちょっとだけ言わせて下さいね…

既に、ベイ博士から聞いておられると

思いますが、

フリーをまとった皆さんは、

今から、壁や、岩や、船や、飛行機…

なんでも通り抜けられます、


煙の中に入って行くようなものだと

思って下さい、

スッと抜けられますので、

安心して動いて下さい。

私からは以上です」

と言った。


するとアンジーが…

「匠さんの技術を信頼している私達は、

不安感ゼロですよ!」

そう言って親指を立てると、


皆んなも一斉に親指を立てた。


匠は嬉しそうな声で…

「信頼して頂き…

ありがとうございます、

女将と二人で…

全力で、皆さんをサポートさせて頂きます」

そう言って頭を下げた。


ベイは真剣な表情で

皆んなの顔を見回しながら…

「でわ今から…作戦に入ります、

ボブとリンダには、298名の方を担当してもらいます。


ジョニーとアンジーには、262名の方を担当してもらいます。


グレイとルーシーには、247名の方を担当してもらいます」


6人は頷きながら親指を立ててくれた。


ベイは更に…

「僕とメリーは…ある地域に行って、空気、土、木、水…そして人間を…

放射能から浄化させてきます…」


6人が小さく首を傾げた…

するとベイは…


「あのね…実は、皆んなに生き返ってもらう

半年くらい前に…

原子力発電所で事故があってね、

その地域全体が封鎖されて、

27,522人が取り残されているんだよ。


国は、周りに金網を張り巡らして、

被爆した人達が外に出ないように

隔離したんだけど…

その人達には、何の罪もないよね。

実はさっき…

匠さんから、


「放射能除去マシンが完成しましたよ」

って言う報告を頂いて…

なんて言えばいいのか…


国全体が…混乱すると思うんだ、

放射能が消えて、

人も自然界も、甦るんだから、

想像しただけでもワクワクすると

思わないかい…

まっそんな訳で…ちょっと、

匠さんと、女将さんと、メリーと僕とで…

何とかしてくるよ」


ボブは静かな口調で…

「ベイ博士…私達は手伝わなくても

いいんですか?」


「ありがとう…でも今回は僕達に任せて、

大丈夫だから…」

そう言って微笑んだ。


6人は…

(…昔から、ベイ博士とメリーは、

大変な事はぜんぶ…

自分達が引き受けてくれるんだよなぁ…)

そう思いながら…親指を立てた。


4時19分…

6人がスカイシップから飛び立つ前…

匠からこんな一言が…

「皆さん、全てが終わり、

スカイシップに帰って来る時は、

フリーに

『帰還』と言って頂ければ、

瞬間移動で私どもが迎えに

行きますので…」

と言ってくれた。


6人は満面の笑みを浮かべながら…

スカイシップを飛び出して行った。


○…夫の息づかいが

とても苦しそうである、

妻はすでに…

酸素マスクがなんの役に立っていない事を

悟るしかなかった。


3歳に成ったばかりの娘は…

父親の手を握りながら…

「パパ…お家に帰ろう…」

と言って泣いている。


妻がドクターに目を向けると、

ドクターは申し訳なさそうに…

小さく首を横に振り…

そして…下を向いた。


夫は、娘の頭を撫ぜながら…

妻の顔を見て

「ごめん…な…」と呟くと、

妻は…泣きながら夫の首にしがみ付き…


「いやだぁ…置いて行かないで…いやだ…」

と言って泣き出した…

その時である。


壁から、ボブとリンダが、

スッと入って来た…

ドクターとナースは…

「えっ?壁から…」と言いながら、

腰を抜かして座り込んでしまった。


母と娘は…

ドクターとナースの声に驚いて

顔を上げた、

リンダは、すかさず母親と子供を

抱きかかえ、

ベットから離し…

「大丈夫よ、直ぐに治るから」

そう言って子供の頭を撫ぜた。


母親は一瞬は驚いたが

「治る」と言う言葉に反応して…

「主人を助けて下さい…」

と言ってリンダの手を握った……


するとリンダはわざと怖そうな声で

「私達は悪魔の使いなの、

なんだって出来るのよ」


そう言ってニヤリと微笑んだ後に…

「いいわよボブ」と言って合図を送った。


すると(待ってました)

と言わんばかりに、

ボブの耳に、フリー・ボーの声が

入って来た…

「ボブ様、この方は膵臓癌です、

首の下から下腹部まで、

手をかざして下さい」


ボブは…

「了解…」と言いながら右手を

スライドさせて行く、

ベットの上がキラキラと輝いている、

寝ている男性の顔色が、

見る見るうちに良くなって行く…

そしてボブの…

「リンダ終わったよ」と言う声に、

リンダは奥さんと子供に


「お父さん治ったわよ、お幸せにね…」


そう言ってボブの横に並んだ。


2人は病室の中に居る

10匹のホタルに目を向け…

「何時もありがとう、ご苦労様、これからも頑張ってね」


15cmの大きさに見える

ホタル夫妻達は

嬉しそうに手を振ってくれた。


ボブとリンダも手を振り返しながら…

壁の中に消えて行った。


妻と娘…そしてドクターとナースは

困惑と恐怖で動く事が出来ない、

その時である、


夫が急にベットから起き上り…

「あれ…?俺の身体…治ってる!」

と叫んだ、


妻は…「あなた…」と言って泣き出し、

娘は奇声を発しながら…

父親に抱き着いて行った。


ドクターとナースは、

腰を抜かしたままである、

しかし病気が治った患者を見て…


「神様って本当に居たんだ…」と呟くと、

病気を治して貰った男性が…


「…去年火災で亡くなった、

ヘビー級チャンピオンのボブさんですよ、

俺ずっと顔を見てたんです。

死んだと思ったら、

神様になって居たんだ!」


ドクターとナースは

(えっ?神様…マジで…)

と思ったが…

「…うん…そうだよね、

神様だよね、目の前の患者さん…

治っているもんね…凄い!

…本当に神様は居たんだ!」

急にテンションを上げて

歓声を上げ出した。


せっかくリンダが、悪魔の使いだと言って

ポーズを決めてくれたが…

残念ながらリンダはこの後…

女神様と呼ばれる事になる。


○○…ドクターとナースはベットの横に立ち、心電図を見ている。


両親はドクターに、

ベットから我が子を抱き上げ、

自分達の腕の中で…

死なせてやりたい、と言った…

ドクターは黙って頷く事しか出来なかった。


まだ8歳の男の子である、

兄弟達も息のあるうちにと…

手や足を泣きながら撫ぜている…


周りにいる親戚と友人達は、

その光景を、泣きながら

見守る事しか出来ない…


心電図の数字が徐々に下がって来た、

男の子はうっすらと目を開け

母親の顔を見つめた、

母親はすかさず…

「アイン、愛してる、大好きよ、

行かないでー」と早口で叫んだ、


アインの目から涙がこぼれ落ち…

「…ママ…僕も…」そう言った後に、

心電図の数字がゼロを示した。


「アイン!」と両親が泣き伏した…

その時、ジョニーとアンジーが、

壁の中から、病室に入って来た。


黒衣をまとった2人を、

誰も理解する事が出来ず、

絶句する事しか出来なかった。


「皆さんスミマセン、ベットの周りを空けて頂けますでしょうか」

と言ったのは、ジョニーである。


悪魔の使い…と言う役を演じる事を、

すっかりと忘れている…


するとアンジーが、手早く行動できるように

「ストップモード」と言った…

病室の中に居る人達は全員動けず、

声も出せない状態になった。


ジョニーとアンジーは

ベットの周りに居る人達を

ソッと抱き上げて移動させた。


ジョニーの耳元でフリー・ジーが…

「ジョニー様こちらの方…

癌が全身に転移しています、

頭から足の先までマシンをかざして下さい」

「了解です、フリー・ジー…」


ジョニーが子供を治して居る間に

アンジーは…ふと、自分達の役を思い出し…

(やばい!)と思い、

遅ればせながら…


「…怖いでしょ私達…

今あなた達は、

身体も動かせないし、声も出せないの…

私達2人は悪魔の使いなのよ、

黒い服は、悪の象徴…

あなた達の命を奪う事など、

造作もない事なの」


病室の中に居る人達の胸は、

恐怖でドキドキが止まらない…


「私達2人がここに来たのは…

ほんの気まぐれ、

気まぐれって楽しいのよ…」

そこまでアンジーが喋った時…


「アンジー終わったよ」と声がかかった。


アンジーは小さく頷くと、

悪魔っぽいポーズを決めながら…


「私達が今から言う事は聞かなかった

事にするのよ」

そう言って、全員を睨みながらジョニーの

横に並んだ。


そして…

「ご苦労様、ありがとう、

これからも頑張ってね、また次に会う日を、楽しみにしています」


病室の中に居るホタル達は…

嬉しそうにジョニーとアンジーに

向かって、一斉に手を振った。


2人は満面の笑みで…

ホタル達に小さく手を振り返しながら、

壁の中に消えて行った。


2人が壁の中に消えたのと同時に…

病室の中の人達は、

動けるようになった。


と、次の瞬間、アインが目を開け…

「パパ、ママ…ただいま、神様が僕の身体を治してくれたよ!」


悲鳴からの歓声。

悲しみからの歓喜。


病室の中は大変な騒ぎになった。

父親が泣きながら…

「もう〜神様と女神様は、

ユーモアのセンスが…ある方なんだ」

と叫ぶと…誰もが

(…なるほど、笑顔で手を振って下さったもんな…その通りだ…)と思った。


アンジーの決めポーズも、セリフも、

全て無駄になってしまった。


しかしドクターとナースは

困惑の極致である、

お互いに顔を見合わせながら…

「なぜ?…なに?」

と呟き続けたので、


まぁ、悪魔としての、

一つの成果を上げる事は…

出来たんだと思う。


○○○…夫は…2人の子供を抱っこしながら…

酸素マスクをしている妻を、

見守っていた


「…もう二日間眠っているね…

君の最後の言葉は『子供達を宜しく…』

だったね…

今、子供達は寝てるよ……

もっと…君と話す時間を持てばよかった…

仕事よりも、君を大事にすればよかった…

バカだろう…

今ごろ気づいても遅いよね…」


そう独り言を言って居る時に、

ドクターと、2人のナースが病室に

入って来た。


夫は小さく頭を下げた後に…

「先生…妻は…」

ドクターは沈痛な面持ちで…

首を横に振りながら…

壁を見つめた、

そこに、グレイが壁を通り抜けて

入って来た。


ドクターとナースはとっさに自分の顔を

隠しながら…

「ヒィー」と叫び、グレイが出て来た壁の…反対側に逃げた。


しかし間が悪いことに、

その壁からは…

ルーシーが出て来てしまったので、

ドクターとナースは腰を抜かして

座り込んでしまった。


無理もない話である、

普通は、壁から人が出てくる事は、

まず、ない事である。


ましてや悪魔の使い的な、黒い衣装である、

生真面目な性格のグレイは、

スカイシップの中でルーシーと打ち合わせをした通りに…


「気まぐれな悪魔の使いだぁ〜死にたい奴は手を上げろ〜」

と言って…舌をベロリンと出し、

ポーズを決めた…

なのにルーシーはグレイの舌を見てウットリしている、


フリー・ルーは慌てて…

「次はルーシー様のセリフですよ、しっかりして下さい」

と耳元で囁くと、


ルーシーはハッと我に返って…

「この部屋には、もうすぐ命を終える人間がいるはずだ〜、

良い匂いがする〜」

そう言いながら、ルーシーはベットに

向かった。


2人の子供を抱きしめた夫は固まっている、正確には、フリー・グーがストップモードで動けなくしている。


ルーシーは、ベットに寝ている女性の顔をジッと見つめた、

そしてニヤリとした…


夫はルーシーの不敵な笑みを見て、

心の中で叫んだ…

(…お願いします、連れてかないで、

お願いします、お願いします)


…ルーシーが笑ったのは、

フリー・ルーから…

「この方は脳梗塞です、

あと心臓も弱い方ですので、

頭の先から…足のつま先まで手をかざして

下さい、3秒で治せます」

と聞いたので、微笑んだのである。


ルーシーは毛布を一気にはぐと、

女性の身体に付いている、

器具やクダを全て、

一瞬の内に取り除いた…


夫の目から涙がこぼれ落ちた。


グレイはフリーに…

「すまないけど、御主人の口だけ、

動けるようにしてもらえないかな」


「お安い御用ですグレイ様…

もう喋れますよ」


グレイ小さな声で…

「ありがとう」と言って…

夫の顔を見つめた。


「もうすぐ女房は死ぬ〜、良かったなぁ、

あんたは、仕事の方が大切なんだろ、

何時もそばに居て欲しい、

なんて言う女は、面倒くさいだろう、

俺達に感謝しろよ〜」


すると夫は…

「違います、仕事を頑張っていたのは、

妻と子供達に少しでも…経済的に、

ゆとりのある生活をさせてやりたくて」


「嘘つけ、自分が出世したかっただけだろう、悪魔の使いに嘘をつくなんて…

あんた俺達の仲間かい…」


「お願いします、妻の代わりに

私が死にます、

だから、だから妻を…

連れて行かないで下さい…」


その時ルーシーが…

「周りでごちゃごちゃ言うから、

間違えて

寿命を与えちまったじゃねぇか〜…

どうすんだよ〜

60年もこの女にやっちまったよ!」


するとグレイが笑いながら…


「面白いじゃねーか…この亭主、

これからは、仕事よりも

女房を大事にするんだってよ…

おい…俺たち観てるからなぁ…」


ルーシーは怖い形相で…

「今から私が言う事は、

聞かなかった事にするんだ…いいなぁ〜」


そう言って、

ドクターと、ナースと、

夫を睨みつけた後……


急に優しい声で…

「何時もご苦労様、

色々な事があると思うけど、

頑張ってね、本当に、ありがとう」

そう言って微笑んだ。


するとグレイも満面の笑みで

「何か問題がある時は…いつでも叫んでね、

僕達は

直ぐに飛んでくるからね」


当然…ホタル達に言った言葉である、

ホタル達は嬉しそうな顔で…

2人に手を振っている、


グレイとルーシーも嬉しそうに

手を振り返し…

そして…壁の中に消えて行った。


2人が居なくなると部屋の中に居る

人達が動けるようになった。


まず、ベットに寝ている妻が目を開け…

ゆっくりと起き上がってきた。


「なんだか頭の中がスッキリしている、

身体も…とっても軽い気がする…

あれ私、なんで…ここって病院なの?」


夫はヨロケながら妻の前に行くと…

「カリン、何も覚えていないの?」


「ずっと頭が痛くて胸が苦しくて…

夢だと思うんだけど…

そっちに行っちゃダメよ、

返って来なさい、

御主人と子供達が待っているのよ、

病気は治してあげるから…

御主人にたくさん甘えるのよって…

黒い衣装をまとった女神様が……

ごめんなさいウイリー…変な夢でしょ…」


「夢じゃないよカリン…黒衣の女神様が…

君を助けて下さったんだ…

これから仕事よりも…

君を大事にするからね」

そう言って…

2人の子供を抱えたまま…

妻にキスをした。


ドクターはナースに……

「神様が悪魔のコスプレをしてたのかな?」


「きっとそうですよ」

そう1人のナースが答えると、

もう1人のナースが…


「私もそう思います…最後の言葉…なんだか心に響きました」


そう言って涙ぐんだ。


〈 皆んな大好き 〉


○○○○…身体中に巻いている包帯は…

既に真っ赤になっている、

血が止まらないのだ。


2年ほど前…夫の浮気から、

一方的に離婚されてしまった女性は、

1人で働きながら

2人の子供を育ててきた。


…夕方に雨が降り始めた、

5歳の弟が9歳の姉に…

「お姉ちゃん…お母さん傘持って

行ってないよね…」


「そうね…2人で迎えに行こうか?」


「うん、行く…」


家から歩いて、子供の足で25分…

夕闇迫る工場の門の前に…

幼い人影が2つ……


「…ありがとう、迎えに来てくれたの、

嬉しいわ」

母親の言葉に…

2人は満面の笑みで頷いた。


仲良く歩道を歩く…3つの傘…

その中に飲酒運転の車が突っ込んで来た!


一瞬の判断で、母親は2人の子供を花壇につき飛ばし……

自分だけが跳ね飛ばされ…

そして、車は逃走した。


救命病棟で…泣き叫ぶ2人の子供を…

優しく抱きしめる…2人の婦人警官。


男性の警察官がドクターに…

「あの…この子達のお母さんは…」

ドクターは、自分にも同じ年頃の

子供がいるのか、

沈痛な表情で涙をこぼした。


母親は、か細い声で…

子供達に声をかけた

「愛して…る……」

そして息を引き取った。


警察官の携帯電話が鳴った…

「えっ?…はい…たった今、

亡くなられました…はい…はい、

失礼します」


電話を切った男性警察官が思わず…

「ひき逃げ犯は、逃げている途中に崖から落ちて…車は炎上、

中から男性3名の焼死体が…クソ、

捕まえて、罪を償わせたかったなぁ」

と呟いた。


その時…ジョニーとアンジーが

天井から降りて来た。


「えっ?…」誰もが息をのんで

固まってしまった。


ジョニーとアンジーはフリーの誘導通りに、上の階の難病患者を治し…

さて、次の場所に飛ぶぞと、

言っている時だった。


フリー・アーから…

「スミマセン下の階に、事故に遭ったお母さんが居るとホタルから…


今回の予定には、入っていない方なんですけど、助けてあげて頂けませんか?」

と言って来た。


するとアンジーが…

「ベイ博士は…『現場では臨機応変に動いてくれ良いよ』って言ってくれてるんだから、遠慮なく言ってちょうだいね」

そう言って微笑んだ。


そして今、

ベットの横で泣いている2人の子供の前に、着地したのである。


警察官の一人が銃を構えようとした、

ジョニーはすかさず「ストップモード」

と言った。


次の瞬間、

病室の中の人達は、話すことは出来るが、

身体が動かなくなった…

アンジーは既に役になり切っているので…「気まぐれな悪魔の使いなんだけど…

なにか問題があるかしら…」

と言ってニヤリと笑った。


誰もが…

(ヒェ〜本当に悪魔って居たんだ〜)

と思いながら、恐怖で口が動かない…

しかしドクターだけは…

震える身体を必死に抑えながら…


「…そ、その方は、今しがた、

お、幼い子供を…の、

残して亡くなられたんだ、なに、

なにをする気だ…ち、血が欲しいのか?

ち、血が欲しいなら、

4リットルくらいなら…病院に予備がある…」

と言った。


ジョニーはドクターを睨みながら…

「…吸血鬼じゃねぇよ」と言った。

ドクターは更に…

「に、肉体が望みか?」

「ゾンビじゃねぇよ」


アンジーは、ジョニーとドクターの声を聞きながら…

(…優しいドクターだなぁ〜、

怖くて足が、震えているのに、

必死になって…お母さんの亡骸を守ろうとしているのね…)


そう思った後に…

「肉体もいらないし、血もいらない…

私達か望むことは、世の中の混乱だけ…」


そう言って母親の遺体の上で

両手を大きく広げ…


マシンを起動させた。


周りの人達に…睨みを利かせて立っている

ジョニーの所に、

母親の肩に着いて居る…2匹のホタルが

飛んで来た…

「〈男〉ジョニー様スミマセン、

お願い事があるんですが…」


「なにかな?」


「あの…私が担当させて頂いている御婦人…

経済的に、かなり大変なんです…

少し援助して頂けないでしょうか」


「いいよ、どれくらいすれば良いのかな?」『〈女〉えっ〜と2ヶ月滞納している家賃と、光熱費の支払いと、

子供達とお母さんの洋服代と、

食材費も少々、と言う事で…

6000ドルほどお願いしても

よろしいですか?」


「いいよ、じゃあ余分に

10000ドルを御婦人の銀行口座に

入れておくね」


すると

2人の子供の肩に着いているホタルと、

ドクター、ナース、警察官の

肩に着いて居るホタル達も…

一斉にジョニーとアンジーの周りに

飛んで来て、

ペコペコと頭を下げながら…

「ありがとうございます」と言った。


その時フリー・ジーから1つの

提案があった。

「ジョニー様、亡くなった、

ひき逃げ犯の銀行口座に…

15万ドル程のお金が入っています…

まぁ犯人にも家庭が有りますから…


4万ドルほど、

被害者の御婦人の口座に…

移しましょうか?

怖い目、痛い目に

遭われてますから…」


「いい考えだね、そうして上げて

人をひき殺して逃げた人だもんね…

逃げなければ、

僕達が生き返らせてあげられたけど…

今頃…地の底に引きずり込まれている

だろうね…」


そう言って苦笑いをした。


その時、作業を終えたアンジーが…

「さぁ〜恐怖と混乱の時が来た…

苦しむがいい」

そう言って魔女っぽいポーズを決めた。


が…その後のセリフは

やめておけばいいのに、

ジョニーとアンジーはホタルに向かって

「ご苦労様、辛い事があったら、

空に向かって「助けて」って言ってね、

直ぐに飛んで来るから、

これからもよろしくね、頑張ってね」


と言ってしまったので…誰もが

(えっ⁇…なに…私達に?誰の事…なに…)

と思ってしまった。


アンジーは御婦人の耳元で…

「家に帰ったら、絶対に人には言わず、

銀行口座の残高を確認して下さい…

これから先も…

辛い事が、たくさんあると思いますけど、

頑張って幸せになって下さいね」

そう囁いた後に…


アンジーとジョニーは

壁の中に消えて行った。


病室の中に居る人達は…

一斉に動けるようになった。


警察官とドクターは、

亡くなった母親に目を向けた…


「良かった、遺体が盗まれるのかと思った」と警察官が言えば…

ドクターは子供達に…


「可哀想に、怖かっただろう」

と声をかけた…

その時、母親がスクッと起き上がった。


部屋中が「えっー!」と言う大絶叫、

そして歓声と拍手と涙。


母親は…満面の笑みで…

2人の子供を抱きしめて

「二人の神様が来て下さって…

『頑張って…幸せになってね』

って言ってくださったの。

見て、ママの身体…

全部治して頂いたのよ」

そう言って子供達にキスをした。


周りの人達は…

「マジかよ〜あの御2人って、えっ〜?」


「神様の冗談って笑えないわ

悪魔だと思ったわ」


「神様の服装は白色って思っていたけど…

本当は黒なんだ!」


「頑張ってねって声をかけてもらった…」


「なんだか今日は…めちゃくちゃ幸せ

何ですけど」などと言い合った。


ジョニーとアンジーは…

人を混乱させる事に、

あと一歩の所で失敗した。


○○○○○…グレイとルーシーは個室で寝ている男性の枕元に立っていた。

5年ほど前に発病した病気は…

段々と動けなくなる病気らしく…

今はもう、声を出す事すら出来ない。


グレイは両手を広げ…

「直ぐに、治りますからね」

そう言って…マシンを可動させた。


すると、その途中にドアが開き、

奥さんと、2人の娘と、1人の息子が

入って来た。


4人は…グレイとルーシーを

ドクターとナースだと思ったらしく、

深々と頭を下げた。


ルーシーは…

(ちょっと待って、普通は私達を見て変だと思うでしょ…黒衣のドクターなんて

いないわよ…普通は…)と思ったが、


奥さんは既にベットの横に来て…

「あら、今日は顔色がいいわね…

苦しそうじゃなくて良かった」

そう言って涙ぐんでいる。


すると3人の子供達もベットの周りに来て「お父さん…お父さん…」

と口々に言いながら…

手や足をなぜた。


グレイとルーシーは顔を見合わせて…

(ええ家族やん…お父さん、

愛されているやん…)と思った。


その時フリー・グーから…

「グレイ様、あと5秒で完治します」

グレイは頷いた後に…


「奥さん、もう直ぐ御主人の病気が、

治りますよ」

そう言って微笑んだ。


すると3人の子供達が一斉に…

「えっ?本当ですか?」

と言った後に…必死な形相で…

「お父さん!お父さん!…」

と叫び出した。


その時フリー・ルーが…

「ルーシー様、あと3秒で院長が、

3人のドクターと

3人のナースを連れてこの部屋に

入って来ます」


そう言い終わると同時に

院長一行が病室に入って来た。


家族の「あなた…」「お父さん…」

と言う…

悲痛なまでの叫び声に…

院長達は一瞬たじろいだ…


(えっ〜家族の方には、

余命1週間って言ってあるのに…

困ったな〜もう助からないのになぁ…」

と思っていた。


その時…

「あなたー!」と言う奥さんの喜声が…

院長達は「えっ?」と言いながら、

患者に目を向けた、すると…


「ただいま、お父さん治ったよ。

こちらの先生が…治して下さったんだよ…」

そう言って、

グレイの顔を見て泣きだした。


妻は、夫の胸の中に飛び込み、

子供達は両手で顔を隠して泣きだした。


院長は思わず…

「えっ?あんたら誰?…

黒い服のドクターなんてウチには

居ないけど…」


そのセリフを聞いたルーシーが…

「ドクターじゃないよ…

気まぐれな…悪魔の使いだよ」

と言ってニヤリと笑った。


しかし内心では…

(良かった〜、悪魔のキャッチフレーズ

が言えて、

此方の家族の人達って、

最初からドクターだと思い込んで

いるんだもん、

やりにくかったわ〜)

と思っていた。


ナースの1人が…

「誰ですか貴方がたは?

悪魔の使いなんて、ふざけているようでしたら、警察を呼びますよ…」

そう言って、

グレイとルーシーを睨んだ。


グレイは待ってましたとばかりに…

「黙れ…お前達は動けないんだぞ…

どうやって…警察に知らせる気だ?

あっ〜、言ってみろ」


院長一行は(エッ?)と思いながら、

身体を動かそうとするが…動けない


「なんで動けないんだ?…」


そう言い出した院長達の前で、

グレイとルーシーは、悪魔っぽい

ポーズを決めた。


ルーシーがグレイの耳元で…

「練習しといて良かったわね、素敵よグレイ…」と言って目を潤ませた。


瞬間的にルーシーを(可愛い…)

と思ったグレイは…

ルーシーの腰に、

サッと手を回し、キスをしようとした…

ルーシーはとっさに…

「あっダメよ…」と言ったが、

グレイの方が、少し早かった。


「ルーシーこそ素敵だよ」


本気のキスをされたルーシーの両手は

ダランと落ちた。


グレイはルーシーを抱きしめたまま…

「俺は…腹が空いた時には…

女房の精気だって吸い取るんだ…

まだ足りない…お前達からも

取らせてもらおうか…」

そう言ってニヤリと笑った。


院長一行は、恐怖と絶望感で足が

震え出した。


その時…

フリー・グーがグレイの耳元で…

「グレイ様、ホタル達からの報告によりますと、院長の奥さんは

2年前に原因不明の高熱を出し、

今だに、意識が戻ら無いようです。


それから、

看護師長の息子さんが去年、

学校の階段から落ちて脊髄をやられ、

現在も首から下は動かない状態です。

2人ともこの病院に居ます」


「ありがとう、今すぐ2人をここに…」

フリー・グーは館内放送を使い…

2人を連れて来るようにと促した。


院長と看護師長は悲鳴を上げたが…

何も知らないナース達は、

2人をベットに寝かせたまま…運んで来た。


院長はグレイに対して…

「何をする気だ、やめてくれ!

29年連れ添った女房なんだ…」


すると看護師長も…

「子供に触らないで、動けなくても…

私の宝物なの…」

そう言って泣きだした。


グレイはその言葉には一切答えず、

ぐったりとしたルーシーを

(よいしょ…)と

オンブした状態で…


2人のベットの横に立ち…

両手を大きく広げた…

ルーシーはまだ、グレイの背中で

ウットリしている…


グレイがマシンを起動させた…

院長の妻と、看護師長の息子が

「うあっ…あぁ〜」と言う声を上げた、

院長は思わず…

「くそー悪魔め、一生涯怨み続けてやるー

覚えてろよー」と叫び。


看護師長は…

「ちくしょう〜子供から離れろ〜

バカ野郎ー」と叫んだ。


グレイは…

「フリー・グー、ストップモードを

解除して」

全員が動けるようになった。


その時、院長達の目の前で…

「あなた…」

「お母さん」

と言いながら…2人が満面の笑みで、

立ち上がって来た。


院長は…

「えっー?…」と叫びながら.

膝から崩れ落ち…

グレイに対して…

「神様だったのですね、

お許しください、

私は一生涯あなたのシモベです」

と言って頭を下げた。


看護師長も…

「私の暴言をお許しください」

そう言ってひざまずいた。


グレイはそれには答えず…部屋の中に居るホタル達に向かって…


「何時も、ご苦労様です、ありがとう、

何時も…皆んなの事を考えて居るんだよ、

何かあれば…直ぐに飛んで来るからね…」

そう言って手を振ると、


ホタル達も嬉しそうに手を

振り返してくれた、

その時…ルーシーがグレイの背中から

顔を上げ…

「皆んな大好きよー」

と言って手を振った…

ホタル達は又も嬉しそうに手を

振り返してくれた。


グレイはルーシーをオンブしたまま壁の中に消えて行った。


後に残された人達は、

歓声を上げて喜び出した…


「私達は神様に愛されている!」

「何時も見守ってくれているんだ〜」


そう言って大はしゃぎである。

グレイとルーシーは、

又も………

混乱させる作戦に貢献する事が

出来なかった。


〈 生きる権利 〉


○○○○○○○…その国は今現在…

     夜である。


スカイシップは、その地域の上空…

2000mの所に待機して居た。


ベイ博士…いよいよですね…」

匠の声は、明るく弾んでいる。


ベイは頷きながら…

「匠さんが作って下さったマシンのおかげで、沢山の方達を助ける事が出来ます…

そして同時に、世界中の科学者と、

悪い奴等を、混乱させる事が出来ます」


すると女将が…

「本当に、世界中が驚いている姿が…

目に浮かびますね。

事故が起きて、3か月くらいは…

ニュースで取り上げていましたけど、

今はもう此の地域の事は…

忘れられたんですかね…?」


ベイは首を傾げながら

「毎日いろいろなニュースが有りますからね、長いモノで1週間、

短いモノなら2、3日で報道が終了って

言う感じですからね」


女将は少し微笑み

「私達AIは、そのへんはとても便利ですよ、

1度インプットされた事は絶対に

忘れませんから」


すると横からメリーが…

「羨ましいです、私はどちらかと言えば

忘れっぽいんですよね…」

そう言って苦笑いをした。


女将は優しい声で

「メリーさんは絶対に大丈夫ですよ。

ベイ博士との事を…

何一つ忘れる事無く、全て覚えて

居るんですから……

人は…そこが、一番大切な事なんだと

思いますよ…」

そう言って微笑んでくれた。


ベイは嬉しそうに…

「ありがとうメリー…

僕も、君との事は全て覚えているよ」

そう言ってメリーの腰に手を回すと、

メリーの方から「…ベイ…嬉しい…」

と言ってキスが始まった。


女将は匠の耳元で…

「あなた、メリーさんが、

こう言う感じのキスをすると…長いのよ…」


「そうだね…でも僕は…

この、緊張感のない御二人が大好きだよ」


「あら奇遇ね、私も大好きよ。

ねぇ今のうちに、空気と、水と、大地の、放射能を除去しとかない?」


「そうだね、そうするよ!」

と、言った後に

匠は、女将にチュッとキスをした。


女将はキョトンとした顔で…

「今の、短いキスは何?…」


匠は照れくさそうな顔で…

「自分の気持ちの中で、「さぁ行動するぞ」って言う…スイッチを入れたんだよ」


すると女将は…匠の首に両手を回し…

「あなた、新しいマシンを起動させるのに…

簡単なスイッチの入れ方をすると…

事故に繋がるわよ」


そう言って濃厚なスイッチ(キス)

を入れ始めた、

匠は嬉しそうな顔で…

女将のお尻を、

両手でギュッと抱き抱えた。


「…あなた…もうスイッチは入った?」


「うん、もう少しで入りそう…」


「…じゃあ…もう少しね…」

そう言いながら抱きしめ合って離れない。


その様子を、思ったよりも早く…

キスを済ませたベイとメリーが、

ニヤニヤしながら眺めていた…


「メリー、女将さんと匠さんって、

本当に素敵な夫婦だよね…」


「そうね、難しい作戦の前にでも、

ちゃんと愛し合う…

余裕って言うのかしら…

全力でキスをしてます、って言う感じが…

なんだか可愛い…ウフフフ」


その事を、客観的に見ていた

フリー・ベーは、

慌てて女将の耳元まで飛んで行き…


「女将様、幸せなところスミマセン、

ベイ博士とメリー様がお待ちですよ」


そしてフリー・メーは…

「放射能を除去して頂きましたら、

私達4人はスカイシップから出ますので…

その後で、ゆっくりと愛し合って下さい…」


そう言って、2人の顔を睨んだ。


女将と匠は…ふと我にかえり

真っ赤な顔で…

「本当にすみませんでした!」

と言って…

ベイとメリーに深々と頭を下げた。


現在、スカイシップの眼下に広がる

地域は、半径70キロ四方が

原子力発電所の事故により、

立ち入り禁止区域に指定されている。


まさか、そこに残された人達が居て…

生活しているなんていう事は

世界中の人々は誰も知らない…


と言いたいが…実は皆んな…

薄々は知っている。


知ってはいるが…

偶然にも事故の後に、

その地域に新種のインフルエンザが流行り、その情報がネットで拡散された。


すると誰が言い出したのか?

この地域のせいで、

世界が滅亡するんじゃないか?

そんな話が、まことしやかに流れ、

気がつけば、半径70キロ四方を

囲むように、

有刺鉄線の壁が作られた。


取り残された27,522名は、

周りの国の風評被害から…

自国を守る為に、

犠牲にされるのである。


既に、この半年の間に

628人が亡くなっている。


「それではベイ博士、マシンをスタート

させます」


「お願いします!」


スカイシップから白い光が5秒間…

眼下に向かって放たれた。


次に、青い光が5秒間同じように放たれ…

そして最後に、

赤い光が、やはり5秒間、

眼下に向かって放たれた。


ある病院の一室で…

院長は窓際の椅子に座り、

しきりに抗議の電話をかけていた。


しかし、相手側から電話を一方的に

切られてしまい…

「くそっ!…いくら当局にうったえても、

薬1つ…送って来なくなった、

それどころか…食料品や日用品、

燃料まで減らされて来ている、

俺達に…死ねと言うのか?…」


入り口の前に立っていた看護師長が

弱々しい声で…

「ダメでしたか…送ってもらえませんか?…」と言った。


院長はうなだれながら

「…もう無理なんだ、の一点張りで、

電話を切られてしまった。


悔しいなぁ…こちら側には…

子供達も…沢山いるのになぁ、

これから…どうすればいいんだ…」


「院長…運命なんだと諦めましょう…

私は…もう…疲れました…」

そう言っている看護師長の鼻には

ティッシュが詰まっている、

もう何日も前から

鼻血が止まらないのである


「運命には…逆らえない…

そう言う事なのかな…」


と言って下を向く院長の鼻にも

ティッシュが詰まっている。


その時、真っ暗な夜空が昼間のように明るくなった。

2人は揃って、窓の外に目を向けた


「なんだろう」

そう院長が言っている間に、

今度は青く輝いた…

2人は窓際に駆け寄った。


看護師長は思わず…

「また事故が…起きたんでしょうか?」

そう言い終わった時…

外は赤い光におおわれていた。


2人はただ呆然と立ち尽くしていた。


「えっ?…院長、あれを…」

看護師長が、夜空を指差した。


黒衣をまとった2人が…

光に包まれた状態で、

空から…降りて来たのだ。


院長と看護師長は、思わず後ずさりしたが…

黒衣の2人から目が離せない。


やがて地上に降り立った2人は…

院長室に向かって来ている、


そして…まさか壁を通り抜けて

部屋の中に入って来るなんて

思ってもいなかった。


院長と看護師長は…

恐怖で身体の震えが止まらない。


ベイは院長の前に立つと

「こんばんは、悪魔の使いです…」

そう言ってニヤリと笑った。


院長も看護師長も…

(死神が迎えに来た…

あぁ…ここまでの命なんだ…)

そう悟るしかなかった。


すると院長がいきなり

「し、死神さん、す、少しだけ…待って頂けますか、す、直ぐに終わり…ますから」

と言い出した。


ベイは小さく首を傾げながら…

(なんだろう?待って下さいって…

初めてのパターンだぞ…)と思った。


院長は拳を強く握りしめ、

看護師長の顔を見つめた…


「今から私が…言う言葉は、貴女にとって…不愉快な事だと…思います…

でも死ぬ前に、どうしても…

言っておきたくて。


あの…8年前に、貴女がこの病院に…

来られた時から…あの、

ずっと貴女のことが…好きでした、

スミマセン…

貴女より、8歳も…年上の私が…

気持ち悪い…ですよね、ゴメンなさい…

でも…もう…終わりですから…」


そう言い終わると…院長は小さく頭を下げ…

もう一度「ごめんなさい」と言った。


ベイは…

(愛の告白だったんだ…)と思い…

メリーは、看護師長の返事が気になった。


看護師長は下を向いたまま、顔を上げない…

10秒間の沈黙…

メリーは少しイラッとして

「おい、42歳にもなって可愛子

ぶってるんじゃねぇよ、

50歳の中年男が、恥を忍んで告白してるんだぜ…嫌いならちゃんと、

ノーだと言ってやんな、最後だぜ…」


そう言って、睨み付けた。


看護師長はゆっくりと顔を上げると

「…遅い…もっと早く…言ってくれれば

…良いのに…私達、もう死ぬのよ…

…私も…貴方の事が…好きなのに…

なんにも…して上げれないじゃない…」

と言った次の瞬間、


院長は、いきなり看護師長を抱きしめ…

「遅いよね…ゴメンね…

でも嬉しい、ありがとう、

愛してるよコニー…」

そう言ってキスをした。


鼻の穴に詰めたティッシュと、

肺をやられている2人のキスは、

3秒間が限界だった…

「ギャレン、大好きよ…

あの世に行っても…このまま…

抱きしめて居てね」


そう2人が言い合っている間に…

ベイとメリーは、

2人の身体を、背中越しに治していった。


そして…

「引っ付いている所すまないけど、

俺達は先を急いでいるんで…

もういいかな?」

とベイが声をかけた、


院長は看護師長を抱きしめたままで

「…はい、もう思い残す事はありません…」そう言って微笑んだ。


すると、突然メリーが

「…ギャレン、貴方は…あの世に行っても、

コニーを愛しますか?」と言って、

2人の顔を覗き込んだ。


院長は思わず「はい」と答えた。

メリーは更に…

「コニー、貴女は…ギャレンを永遠に愛せますか?」看護師長も思わず…

「はい」と答えてしまった。


メリーとベイは、顔を見合わせてニッコリと微笑んだ後に、

ベイは院長の、メリーは看護師長の鼻の穴に詰めたティッシュを、

ソッと抜き取り…

「あなた方を、夫婦と認めます」

とベイが言えば、


メリーは…

「末永くお幸せに。

…ゆっくりと、大きく…息を吸って下さい」


2人がキョトンとした顔をしている間に…

ベイとメリーは壁の中に消えて行った。


ギャレンとコニーは見つめ合いながら

大きく息を吸った…(あれ?…)

と思った後に…

2人は揃って……

「治っている…身体が治ってる!」

絶叫しながら二人は抱きしめ合った。


その時、廊下の方から「キャッー」

という悲鳴が、

ギャレンはコニーの手を握ったまま

廊下に飛び出すと、

泣きたくなるような光景が………

目の前に、飛び込んで来た。


 〈 嘘の報告 〉


本来ならベットから動けない患者達が…

元気な姿で走り回っているのだ。


一階の至る所から歓声が聞こえる…

すると今度は、二階から歓声が上がった。

2人は御礼が言いたくて、

二階にかけ上がった。


しかし二階の患者は…

既に全員治してもらった後である。


ギャレンとコニーは5階まで先回りして…

2人を待った。


ベイとメリーが…5階に上がって来た。

すさまじいスピードで、

次々と患者を治している。

コニーがジッと見つめて居ると…

メリーとほんの一瞬目が合った。


コニーはギャレンの手を引いて…

「こっちよ…」

そう言って

2つ先の病室に飛び込んだ。


ベイとメリーが壁の中から出て来た、

ギャレンは早口で

「あの、先程は、

身体を治して頂き、

有り難うございました、

何と御礼を言えば良いのか」


ベイは院長を横目で見ながら

「気まぐれだ…気にしなくていい」

それだけ言うと…又患者を治していった。


コニーがまたメリーと目が合った、

するとメリーから

「この病棟の、裏にある墓地は

昔からのものなの…」

コニーは


「いえ、今回の原発事故で、犠牲になった方達の墓地です…」


「ありがとう…」そう言い終わった後…

ベイとメリーは壁を抜けて…

隣の部屋に向かった。


ギャレンはコニーの顔を見つめ…

「…まさかね…」と言ったが、

3秒くらい目をつむった後に…

「コニー、あっ、ごめんなさい看護師長…」

「…ギャレン、コニーって呼んで…

さっき神様が…私達を夫婦って認めて下さったじゃない」


ギャレンは嬉しそうな顔で…

「ごめんよ…コニー、あの…

墓地に行ってみよう」

そう言い終わると…

ギャレンはコニーの手を握ってエレベーターに飛び乗った。


墓地には既に…沢山の人が集まっている、

ベイとメリーが、死者をよみがえらせる、

そんな事は誰も知らないし、

思ってもいない。


ただ先に亡くなった、妻や、夫や、子供や、親に対して…

(ごめんね、自分だけが助けてもらえて…)と言う気持ちから、

墓地に集まって来たのである。


そこに、

院長と看護師長が慌てた様子で

駆け込んで来た。


誰もが(…何を慌てて居るんだろう?)

と思った。

ギャレンは、ゼイゼイと肩で息をしながら

病棟の最上階に目を向けた…

ベイとメリーが建物から飛び出して来た。


2人は墓地の上空20mから…

周りを見回している。


メリーは…ふと…1人の女性が気になった…

ビニール袋を抱いているのだ…


「ベイ、ちょっと待っててね」

そう言い残して…下に降りると

「…ねぇ、そのビニール袋の中には、

何が入っているの?」


その声に、女性の横に立って居る

男性が気づき、ゆっくりと振り返った…

メリーが…

地上から2mの高さに

浮いて居る…


「あっ、女神様…先程は身体を

治していただき、

本当にありがとうございました…

あの、妻が抱えている

ビニール袋の中には、

7、3キロの砂が入っています…

亡くなった娘の体重なんです。


…妻は…娘が亡くなって…

心が…壊れてしまったんです…」

そう言って男性は涙をこぼした。


メリーは静かな口調で…

「…娘さんを取り返して来るわね…」

そう言い残して…ベイの隣に戻った。


その事を…身近で見て居たコニーは…

大きく息を吸うと…

「皆さん、墓地から出て下さい、急いで!」誰もがその声にビックリして

看護師長の方を見た、


すると隣で院長が、必死な形相で手招きをしている、誰もが…

(ただ事じゃない…)

と言う事を察知したのか、

急いで墓地の敷地内から出て行った。


すると、ベイとメリーの身体から

急に光が放たれた、

正確にはフリー達が、

地面を照らしてくれているのだが、

下から見上げると、

2人が光っているように

見え…何とも神がかり的なモノに見えた。


ベイが両手を横に広げた…

すると、地面の中から、

墓地を囲むように、3mの土壁が

「ドッドドドド…」

と言う音と共に現れた。


すると横に居るメリーが…

両手を前に差し出した…

すると、その手から…

凄まじい光が地面に向けて放たれた…

誰もが息を飲んだ

次の瞬間、

壁の中で、物凄い光の量が…

暴れ回っている…


誰もが「えっ〜?」と言う声をもらす中、

1人の女の子が、

父親の手を握りながら


「パパ……ママのお墓…

壊れてないかなぁ…ママ大丈夫かなぁ…」

そう言って涙ぐんだ。


父親は娘を抱き上げ

「ママはきっと…大丈夫だよ…」

そう言った次の瞬間、


3mの土壁が崩れ落ち…

中に詰まって居た光が

一気に外に溢れ出した。


「わっ!」と言いながら、

誰もが目をつむった。

しかし、

まぶたの中まで、眩しさが入って来る…


「パパ、眩しくて目が開けられないね」

「大丈夫…パパがついているからね」


「…………あなた……エミリ………」


女の子は目をつむったまま

「パパ!…ママの声が聞こえる…」

「うん、パパにも聞こえたよ」

すると誰かが…2人を抱きしめた…

「えっ…?」

「ただいま…」

父親と娘はゆっくりと目を開けた…

「ママ‼︎」と言う女の子声に…

その場に居合わせた人達全員が…

目を開けた。


死んだ人達が、生き返って…

目の前に立って居るではないか。


一瞬の沈黙…そして奇声と歓声の嵐。


メリーは、生後10ヶ月の赤ちゃんを抱っこして…先ほどの夫婦の元へ飛んで行くと…

「はい…貴方達の宝物…」

そう言って、

赤ちゃんを母親に見せた。


すると母親は…眼を見開き…

砂袋を落とした。

母親の、目の色が徐々に変わり…

そして…

「ノーラ?…ノーラおかえりなさい!

貴方、ノーラが帰って来た!ノーラ!」

メリーは、母親の腕の中に赤ちゃんを

返した。


頬擦りをしながら、母親は何回も

キスをした。

正気に戻った妻と、生き返った娘…

夫は泣きながら…

2人ごと、ギュッと抱きしめ…


「神様、ありがとうございます…」

そう言う言葉を、

何度も何度も繰り返した。

辺り一面、大騒ぎである。


涙、抱擁、キス、地団駄を踏んだ後に…

もう一度…歓声の嵐。


ベイがメリーの横に降りてきた。

喜んでいる人達の肩の上で…

ホタル達が嬉しそうに手を振っている。


ベイとメリーはホタルに向かって

小さく手を振り返すと、

当然ホタルの存在を知らない人達は、

自分達にしてくれていると思って…

ベイとメリーの周りに集まって来た。


院長が、皆んなを代表するような感じで…

「神様、ありがとうございました」

と言って頭を下げると、

その場に居る全員がひざまずいた。


ベイはすかさず…

「ひざまずくんじゃねぇよ、

膝が痛くなるだろう。

それに俺は、

神様なんかじゃねぇから、

悪魔の使いだって、ズッと言ってるだろう」

と言って怖い顔で睨みながら

ポーズをとった。


しかし…誰も怖がらず…

「…神様のジョークって最高…」

「御恩は一生涯忘れません…」

なんて言う事を、口々に言いながら…

満面の笑みで…

2人を見つめている。


しかしベイとメリーは、

ホタル達に声をかける、

と言う約束を守りたいので…

周りの人達に、

静かにして貰いたかった。


そこで、

まずメリーが、唸る様な低い声で…

「言いたい事がある…誰も…喋るな」

と言った。


誰もが(神様からの御言葉あるんだ…)

と思いながら…

口を閉じて…2人を見つめた。


墓地の中を吹き抜ける、

ヒュ〜ンという風の音だけが

聞こえる…

ベイは怖い顔のままで…

「今から俺達が言う事は…

絶対に秘密にしろ、

口外したらタダじゃおかねえぞ…

ひどい目にあわすからな、わかったな…」

と言った。


その場に居る誰もが…黙って頷いた。


ベイは一回大きく息を吸い込んだ後、

ホタル達に視線を向けると、

普通の声で…


「色々と大変だったね、

そんな中を、頑張ってくれていたんだね、

ご苦労様、そしてアリガトウ。

僕達は何時も…皆んなの事をチャンと見ているからね。


困った時には空に向かって「助けてー」って言うんだよ、直ぐに飛んでくるからね。


皆んなが何時も…幸せを感じ…

笑顔でいれる様に、僕達も頑張るからね。

今から200前後の施設を回るから…

もう行くね」


そう言って、メリーの顔を見て

(君も何か言葉をかけて上げて…)

と、目で合図を送った。


メリーは頷きながら…

「毎日…小さな貴方達が…

一生懸命に頑張っている、

そんな姿を見ると…私も、

どんな事があっても…

前向きに頑張ろうって言う気持ちになるの…

あなた達の行動は、

私にとって、勇気であり希望なの…


あなた達を尊敬しています、

そして感謝しています…

大変な事が多い毎日だと思います、

でも頑張って下さいね」


そう言って微笑んだ。


何回も言うが、

ベイもメリーも、皆んなの肩に

とまっている、

ホタル達に対して言った言葉である。


しかし、ホタルの存在など

誰も知らないので…

(なんて優しい…神様の御言葉…)


その場に居る人達全員が、

感動して、泣き出してしまった。


(…私達の側には…何時も神様が居る、

いざと言う時には助けに来て下さる…)

そう受け止めてしまったのである。


しかし、ベイとメリーは…

(…よっしゃ〜…恐怖のあまり全員が泣いている、悪魔的なポーズの

練習の成果が出たな、

よーし幸先がいいぞ)

と思って微笑んだ。


思い込みの強い…残念な2人である。


その後…ベイとメリーは全ての施設で同じような事を繰り返し…

そして全てが終わると、

高度2000mの空の上から…

閉鎖区域を見つめた。


「メリー、お疲れ様、そして、ありがとう」そう言ってメリーを抱きしめた。


メリーは満面の笑みで

「皆んな、喜んでいたわね、

あっ、違う違う…怯えて、

泣いていたわね、きっとベイの、悪魔ポーズが怖かったのよ…」

ベイは嬉しそうに、

メリーにキスをした。


そして、女将と匠に…

「…全て終わりました…支援物資を、

瞬間移動で、各施設に届けて頂けますか?」


すると女将が

「かしこまりました。

ベイ博士から頂いた、資料通りに、

コンテナに用意しました。

1つの施設に30個のコンテナを…

今、 匠が全て…届け終わりました」


「ありがとうございます、

私達2人の回収も、お願いします」


「かしこまりました」

そう言い終わるのと同時に…

2人は、デッキの中に立って居た。


スカイシップを出てから…7時間が

経っていた。


デッキの中には誰も居ない…

「メリー、僕達が一番早く終わった

見たいだね」「そうね」

と言っていると…


「おかえりなさい、ベイ博士、メリーさん」と言う女将の優しい声と…

「マシンに、不具合な点はございません

でしたか?」

と言う匠の声が…


ベイは微笑みながら…

「女将さん、ただいま帰りました。

匠さんのマシンは最高でしたよ、

放射能で苦しんで居る人達を…

全員、助ける事ができました。

ありがとうございました」

そう言って頭を下げた。


「とんでも有りません、

博士から頂いた設計図通りに

作っただけです」


「私が自分で作ったら…2、3年くらいかかるところ、

匠さんがすると、半年あまりで作り上げちゃう…さすがですね、

本当に、ありがとうございました」


そう言って…ベイが2回目の頭を下げると…


「おかえりなさい…」と言うボブの声が…

ベイはヒョコッと頭を上げて

周りを見回すと、

全員が…自分達の部屋の前に立っていた。


ベイは内心…

(えっ〜、今、僕が言った事、聞かれたんじゃないかな)

と思いながら…

「あっ〜、僕達が一番最後だったんだね…

皆んな、ご苦労様でした、

初めての任務…かなり気疲れしたんじゃない?」と尋ねると、


皆んなは…お互いの顔を見合わせながら…

(…おいおい、ゴマカシテルんじゃねぇよ、何が世の中の混乱だよ、

今ハッキリ、助ける事が出来ました、

って言ってたよなぁ…)

と思ったが…

何も言わずに、ニッコリと微笑んだ。


ジョニーが…

「フリー・ジーのサポートのおかげで、

全て順調に作戦をこなせました」

「そう、良かった…」

とベイが頷いていると、

メリーが横から…


「ベイ、話の間に入るようでゴメンなさい」「なんだいメリー?」

「私…お腹が空いて…もう倒れそうなの…」

と言ってワザと悲壮な顔をした、

何かを勘ぐっている皆んなの気持ちを、

他にそらすためである。


ベイは慌てて…

「わっ〜ゴメンよー、皆んなも、

お腹が空いているよね」


皆んなは

(話を変えたなメリー。やるじゃない…)

と思いながらも…

リンダは…

「メリーの言う通り、お腹が空いたわ」

そう言ってワザと悲壮感をかもし出す

ポーズをとった。


ベイは申し訳なさそうな顔で…

「女将さんスミマセン食事の用意を…」


「ベイ博士、もうちゃんと

用意していますよ…」

そう言って、デッキ内を明るくしてくれた。


皆んなの視線がデッキの中央に…


既にダイニングテーブルの上には…

美味しそうな料理が並んでいる。


8人は嬉しそうに

自分の席に座った。


「皆んな、ご苦労様でした。

そして、ありがとう、乾杯…」

ベイの短い挨拶で、食事会が始まった。


お互いを褒め合う言葉のやりとり…

直ぐに無くなる料理の数々…

フリー達の、手早い品出し…

喉を詰まらす…男達…


お水をすすめる…女達…

お口の周りは、ソースだらけで、

ケーキとアイスは、別腹に入れて、

紅茶を一気に飲み干した8人は…

椅子の背もたれに背中を預け…


『あっ〜美味しかった〜」と言って、

自分のお腹を…両手でさすった。


ここまでのタイムは18分と30秒、

女将が思わず……

「食べ盛りの子供かよ‼︎」

と言うツッコミを入れたので、

デッキの中は大爆笑と成った。


お腹がふくれて…

落ち着きを取り戻した皆んなの視線は、

なんとなく、ベイに向けられた…


ベイは微笑みながら…

「皆んな、改めてご苦労様でした。

沢山の人達が驚いて、混乱した事だろうね」と言った。


するとグレイが…

ティーカップをテーブルに置き…

「僕とルーシーの行く所、行くところ、

全て…悲鳴の連続でしたよ、

ビシッと怖いポーズを

決めてやりましたよ、

とにかく絶叫でした」


するとジョニーも

「僕とアンジーが担当した人達も、

結構おびえていましたよ」

そう言って親指を立てた。


ボブはリンダと顔を見合わせながら

「僕達のところも、泣き叫ぶ人が

沢山いましたよ、

少し…可哀想なくらいに…」


ベイは…満面の笑みを浮かべ…

「世の中を混乱させる作戦は成功したね…

悪いことをするって……

なんだかワクワクするよね、

楽しいよね、皆んな…ご苦労様でした」


素直に喜ぶベイの笑顔を観ながら…

グレイとルーシーは…

(やっベー、フリーの話だと『絶叫じゃなくて、歓声ですよ』

って言われたんだよなぁ)

と思った。


ジョニーとアンジーも

(どうしよう、おびえていたと言ったけど

本当はフリーから

『感謝の涙を零してました』

って聞いたんだよねー)

と思っていた。


すると、リンダとボブも…

(…言えないわよね〜、本当は『神様と女神様が来てくれた〜』

って、言われたんです…なんて…)

そう思っていた。


しかし、本当に困っているのは、

女将と匠であった。


ホタル達からの報告が、刻一刻と入って来るのだが…

全て、感謝しています、と言う報告なのだ。


匠と女将は、ベイ夫妻がスカイシップに

帰ってくるまでの間に

正直に報告するべきか迷っていた。


だいたい、

ホタル達に、声を掛けてあげたいと言ったのはベイ博士である。


誰だって病気を治してもらったり、

死んだ家族を生き返らせてもらったりして…

その上で、優しい声をかけられたら

〈本当はホタルに対してではあるが…〉

誰だって自分の事だと

勘違いするのは当たり前である。


そりゃあ神様だと言うだろう…

しかしベイ博士は、

悪魔の使いで良いと言っている、

面倒くさいタイプの人間である。


匠と女将は、ならば自分達も…

「ねぇタクミ…」「なんだいオカミ」

「私達も悪になりましょうよ…」

「そうだね、悪は嘘をついてもいいよね」「えぇ、いいと思うわよ…」


2人は、ニヤリと微笑み合い…

このままベイ博士に、

嘘の報告を言い続けていこうと…

2人で決めたのである。


〈 やれやれ 〉


女将と匠の話し合いの事は

誰も知らない。


だから今……

皆んなが心を痛めながら、

ベイ博士に嘘の報告している時に、

女将はフリー達をコッソリと

呼び集めた。


「女将様…お呼びでしょうか?」

女将は小さく頷きながら…

「私が今から言う事は

トップシークレットよ…

ベイ博士とメリーさんを除いた…

6人の方達だけに、伝えて欲しいの…」


フリー達は女将の話に耳を傾けた…


「…この事は、博士夫妻には内緒よ…」

「…かしこまりました、

私達にとって、女将様の命令は絶対です、

直ぐに主人の耳に届けます」


フリー達は、自分の主人の耳元に

帰って行った。


匠は小さく咳払いをした…

「あのベイ博士、皆さまと会話の途中に

スミマセン…」


「はい、何でしょう、匠さん…」

ベイとメリーの視線が6人から離れた。


6人のフリー達は、

自分の主人の耳元で一斉に囁いた…


「御主人様、女将様から…

ベイ博士とメリー様には

聞かれてはいけない話を…

預かって参りました…」


6人は瞼を閉じて、

了解と言う合図をおくった。


「女将様の伝言です

『 匠と私は皆さまと同じ思いで、

ベイ博士に、嘘の報告をしています。


ベイ博士は、御自分を、

悪魔の使いと言っていますが、

匠と私はその様には思って

居ません。


匠と私は、皆さまの嘘の報告に

賛同します。』

以上が女将様からの伝言です」


それだけを言うと

フリー達は、6人の耳元からサッと離れ…

御主人様の後方…

1mの空中に…待機した。


ボブはリンダの顔を見ながら、

小さくウィンクをおくった、

ジョニーもアンジーに、

グレイもルーシーに

小さくウィンクをおくった。


6人はお互いの顔を見合わせながら…

(…良かった〜、ベイ博士とメリー以外は

全員同じ思いだったんだ。


ベイ博士もメリーも大好きで

尊敬しているけど…

余りにも自分の事を

過小評価し過ぎるんだよね…


私達は悪魔の使いだぁ…

って言いたいのは分かるけど、

その部分って、本当にいるの?…

それにホタル達に、

「困った時には飛んでくるからね」

って言えば、

聞いてる人は誰だって、

「神様が私に優しい声をかけて下さった」

って勘違いして、

困惑するんだよね…あれ…まてよ、


困惑……ベイ博士は…

世の中を混乱させる事が、

復讐だって言ってたよなぁ…

と言う事は、後から神様って言われても、

混乱させれば、

何でもいいのかなぁ…?…)


誰もが同じ様な事を考え出していた。


勇気を持って口火を切ったのは…

リンダである…

「ベイ博士」


「なにかな…」

「あの実は…私達が現場から離れた後に、

中には神様だぁ〜とか女神様だぁ〜、

なんて言う人達が居たらしいんですけど、

それってOKですか?」


「うん、おもしろいじゃない…

OKですよ、

きっとビックリしただろうね、

黒衣の悪魔だと思っていたら、

神様みたいな事をしてくれた。

きっと困惑しまくりだろうね、OKですよ」


そう言って微笑んでいる。


女将も、匠も、6人も…

(えっ〜OKなんや、マジで〜)

と思った。


女将が…

「ベイ博士、悪魔の使いって言うのは…?」


「初対面の人を混乱させる為です、

悪魔って言うだけでビックリするでしょ…

其れに

自然の摂理に逆らって居る事も

事実ですしね。


僕が思っているのは…

社会の片隅で

一生懸命に頑張って来た人に

銃を突きつける、

そんな世の中の仕組みに

どうしても復讐したいんです…

それだけです…」


女将は…

「じゃあ後から、どの様な評価を

受けても構わないんですね」


「はいOKです、どんな風に受け止めるのかは、相手が決める事ですからね、

神様だー、でも、

化け物だー、でも、

何でも構いませんよ」


するとジョニーが…

「良かった〜、

僕達は博士の言葉をストレートに

受け止め過ぎて居たんですね、

なんて言うか…悪魔のイメージを相手の人に植え付けなければ…

いけないのかと思って居ました」


「ゴメンねジョニー…

皆んなもゴメンね、

僕の言葉足らずで、皆んなを悩ませちゃったね、この通りです」


そう言ってベイは皆んなに向かって

頭を下げた。


ボブは慌てた感じで…

「いや、あのベイ博士、

頭を上げて下さい、俺たちも…

そんなに真剣に悩んでた

訳じゃないですから、

俺たちの方こそ、

昔みたいに…

『先生、質問でーす』って手を上げれば良かったんです…ベイ博士は昔の

ままなんですね…」


ベイは微笑みながら…

「…何も変わっていないよ、僕は昔のままだよ、何でも聞いて、

何でも答えるから…

例えば…今なにを考えているんですか?

って聞かれたら、

メリーを裸にして抱きしめたい、

って答えるよ」と言った。


後ろに居るフリー達は…

(ベイ博士は、皆んなに気を使ってジョークを言ってるんだなぁ)

と思った。


するとグレイが…

「もう〜本当にベイ博士は変わりませんね〜」と言うと、フリー達は

「本当の事かい!」

とツッコミを入れてしまった。


匠は慌てて

「これ!フリー達、博士がそんな事を

思う訳が無いだろう」

そう言いながら

メリーの顔をチラリと見た…

頬を赤らめ、嬉しそうである、


匠はおもわず

「その通りなんかい!」

と言うツッコミを入れてしまったので、

デッキ中は大爆笑と成ってしまった。


笑いが収まると…

アンジーが、ベイに向かって手を上げた…

「何だいアンジー?」


「あの、ベイ博士が言われている、

復讐と言う事なんですけど、

今日から…私達がしているこの作戦と…

何か繋がりがあるんですか?」


「あるよ、繋がりどころか…

もう復讐に入っているんだよ…」


皆んなは(えっ…?)

と言う様な顔で、息を飲んだ。


「女将さんと匠さんは、

世界中の動きを全て、

把握しているって…前にも言ったよね」

「はい…」


「ホタル達を世界中に配置した今…

その情報は100%確実なモノに成った。


実は…僕達が殺された事と同じような

理由で亡くなった方達を…

今日の作戦で88名も

生き返らせたんだよ。


「えっ?他にも居たんですか?」

とジョニーが尋ねると…


「居たんだよ、怖い話だろ…

世の中の悪い仕組みは、

細かい計算の上に成り立っているんだ。


病気や、事故や、テロや、

通り魔や、戦争…ありとあらゆるモノを利用して、相手を死に…落とし入れるんだ。


僕達は、復讐と言う名のもとに…

それらを全て叩き潰してやるのさ。

殺された父親を、

母親を、

子供達を,

全員生き返らせて、

家族の元に帰してやった、

悪い奴らは困惑していたよ。


例えば…悪い仕組みを、

一つの会社だとすると、

今日…部長は社長から

「殺すように頼んでいた人間が、

死んでないじゃないか!

どうなってるんだ!」

って言うクレームを

出されたんだよ。


焦った部長は課長に

「どう成ってるんだ!

監禁じゃなくて、殺せと言ったよな!」

と声を荒げ…

課長は焦りながら

「給料分しっかり働けやー!」って

社員に怒鳴り散らした…

そんな感じかな。


だけど無理だね、殺せないね、

何度でも…僕達が生き返らせてやる。


奴らの怯えた顔が、眼に浮かぶよ、

皆んなどう?

最高に楽しくて、

面白い作戦だとは思わないかい…


悪い仕組みを、

ドンドン叩き潰してやろうじゃないか!」


7人は拳を握りしめ…

(…なるほど、そうゆう事なのか、

奥が深いな…でもやっぱり…

やってる事は…

正義の味方だね…

ベイ博士らしいね…)と思いながら

親指を立てると、


匠と女将、そしてフリー達も、

同じように親指を立ててくれた。


この瞬間…ファミリーの結束力がより

強固なものに成った。


次の日から、

女将が作成してくれたリストに従い、

世界中を飛び回り、

苦悩にしずむ家族に向かって

「悪魔の使いだ…覚悟しろ」

そう言いながら、

片っ端から死んだ人を生き返らせた。


お通夜の晩だろうが、

葬儀の途中だろうが、

もう全然

お構いなしである。


家族の奇声と歓声の嵐…

生き返った人との抱擁とキス。

そして感謝の言葉…

「神様だったんですね…

お母さんを助けて下さり…

ありがとうございました…」

「えっ?…いちおう始めに

「悪魔」と言ったつもり

なんですけど…

まぁ…いいか…」

そう言いながら、

壁の中に消えて行った。


世界各国にある、悪い株式会社の社長は

溜息をついた…

「クソ、誰だ?…誰がこんな事を出来る…

なぜ殺せないんだ…

なぜ生き返る?…

神か…悪魔か…俺達の邪魔をしている奴は

いったい誰なんだ…」


その声は、ホタルを通じて、スカイシップの女将と匠に筒抜けである…


女将は、モニターで悪い奴等を観ながら…

「お前達が怒らせた相手は、

常にメリーさんのお尻を触っている、

ベイ博士だよ」と言えば、

匠は…

「お前達が1000回生まれ変わっても、

勝てる相手じゃないんだよ」

と言った。


2人は腹の底から愉快なのか…

顔を見合わせると

思い切り高笑いをしてしまった。


ブラウンとレイチェルは二階に上がり…

部屋の掃除をしていた。


トムは庭の花に水をあげている。


そして、ニーナがロビーの

掃除をしている時に…

電話が鳴った。


「…お電話ありがとうございます、

ホワイトホテルでございます…

あっ、ルーシー先生…はい、

皆んな元気いっぱいです…

はい…はい、お待ちしています…」


ニーナは急いで庭に飛び出すと…


「お兄ちゃん、ベイ博士と先生方が明日…

帰って来られるわよ」

「ありがとうニーナ」


トムは嬉しそうな顔で

2階に向かい…


「パパー、ママー…皆さんが明日.

帰って来られるよ〜」


すると、ブラウンとレイチェルは

顔を見合わせ…

「直ぐにパパと下に降りるわ、

四人で食事の献立を考えましょ…」


「了解ママ!ニーナと先に

キッチンに行っとくね」


スカイシップは瞬間移動も難なくこなす

船なので、

毎日ホテルに帰ろうと思えば、

いくらでも帰れる、

しかし夜の20時に帰るとか、

22時に帰ると言えば、

ブラウン一家に負担がかかると思い…

今回、あえて連休が取れるまで、

帰らずにいたのである。


スカイシップが5日ぶりに

ホテルの上空に着いた。


スカイシップを見上げるブラウン一家…

光のエレベーターで下に降りて来る

4組の夫婦。


足踏みをするトムとニーナ、

エプロン姿で頭を下げる

ブラウンとレイチェル。


光のエレベーターは…動く歩道に変わり、

8人は…

ブラウン一家の

目の前に降り立った。


「お帰りなさい」とニーナが言えば、

トムは「お疲れ様でした」と言って

頭を下げた。


ブラウンは申し訳なさそうな顔で…


「素敵な遠足の帰りに眠ってしまい、

御礼の言葉も言わぬままに

今日になってしまいました。

本当にスミマセン、

そして、楽しい遠足を…

ありがとうございました」

そう言って頭を下げた。


レイチェルも続いて…

「沢山のおみやげとプレゼント、ありがとうございました、

昨夜も、頂いた遠足のDVDを観ながら4人でハシャギ回って居ました」

そう言って頭を下げた。


ベイは…

「また皆んなで行きましょうね…

でわなくて、行きますからね、

自分の行きたい所を

見つけといて下さいね」


そう言って微笑んだ後に…

少し冗談っぽい口調で…

「スミマセン8人とも…

お腹が空いて…少しフラついています」


するとブラウンは…

「全て、テーブルの上に用意して

ございます」

そう言って小さく頭を下げた。


テーブルの上には、

美味しそうな料理が湯気を立てている、


椅子に座った8人は、ナフキンを首にソッとかけるとフォークとナイフを握った…

ブラウンはレイチェルに…

(用意はいいかな?行くよ…)

と目配せをすると、

レイチェルはその合図を

トムとニーナにも…

(2人とも、いくわよ)と言う意味を込めてウィンクを送った。


2人とも大きく頷いた…

ブラウンは静かな口調で…

「皆さん…お待たせいたしました、

どうぞ…お召し上がり下さい」

と言った次の瞬間…


「いただきま〜す」と言う8人の声…

その後はルーシーの…

「あぁ美味しい」と言う声…

「うん最高だね」と言うグレイの声…


ほかの6人も「美味しいね〜」と言いながらゆっくりと食事を楽しんでいる……

ブラウン一家の4人は…


(あれ〜何時ものスピードじゃないぞ〜?…)驚きはしたが…


顔には一切出さずに…

ニッコリと微笑みながら、

飲み物やソースなどを、

テーブルの上に足していった。


レイチェルは、

厨房で次の料理を温めている

ブラウンの耳元で…

「あなた、今日は皆さんゆっくりと食事を楽しんでおられるわね」

「そうだね…トムとニーナも、キョトンとした顔をしてたね…」と言った。


その時ニーナが厨房に入って来て…

「パパ、ママ…あの…ベイ博士が

『皆んなで一緒に食事をしませんか』

って…」ブラウンとレイチェルが…

「えっ?…」と言っている間に…

グレイとルーシーが厨房に入って来て…


「宜しければ一緒に…

いかがですか?ベイ博士が、

皆んなでワイワイ言いながら食べたいと」


ブラウンとレイチェルは

顔を見合わせて………

(いいのかな?)と少し迷ったが…


「ありがとうございます」

そう言って快諾した。


〈 秘密クラブ 〉


ルーシーは4人に…

「あと、テーブルに運ぶ料理は、

フリー達に運んで貰いますから…

エプロンを外された方が良いかと

思うんですけど」


4人は嬉しそうな顔で

「はい…」と頷きながら自分達の部屋に駆け込んで行った。


エプロンを脱ぎながらレイチェルが

「あなた、どんな服装にする?」


ブラウンもトムもニーナも…

(えっ〜?エプロン脱ぐだけじゃなくて…

着替えるの…)

と思ったが、

(…待てよ〜このままじゃ失礼だよね〜)

とも思った。


レイチェルがもう一度「あなた…」

と言った時…

ブラウンは意を決した感じで

「ナイアガラの滝の時に、

頂いた洋服にしよう…」


そう言って三人の顔を見た……

うなずく三人に

「皆さんを待たせてはいけない、

2、3分以内に着替えようね」


4人は一斉に服を脱ぎ始めた。


それから5分後…

4人はテーブルに着くことが出来た。


4人の前にも、皆んなと同じ料理が

並んでいる

レイチェルとブラウンは…

(えっ〜?8人分しか使ってないのに…

なんで?)と思っていると、

トムとニーナは…


「…いただきまーす」と言って

料理を食べ出した。


ブラウンとレイチェルが、

真剣に悩むほど、

難しい話しではない、

女将と匠が、ホタル達から料理のレシピを

教えてもらい、

スカイシップのキッチンで作って…

瞬間移動させただけである。


食事の間に出る話は…

遠足の時の事ばかりである、

それだけ楽しかったのだ。


身振り手振りで話をするトムとニーナの

可愛いこと、

大人達は胸がキュンとなりながら、

2人を見つめていた。


そして遠足の話が落ち着いたな〜と

思っている時…

トムが小さな手をソッと上げ…

「あの…ベイ博士、質問をさせて頂いて宜しいでしょうか?」と尋ねた、


ベイはコップをテーブルに置くと

「何かなトム、何でも聞いてくれていいよ」


「…あの…テレビでもラジオでも

ネットでも…

今すごく、世界中で注目されている事があるんですけど…あの、

死んだ人が生き返ったって…

家族の人達がスっごく喜んでいる

って言うニュースが…その…」


そこまで聴くとブラウンは、

慌ててトムの質問を止めようとして…

「…すみませんベイ博士、

トム、ダメだよ…」

と声をかけた。


するとベイは小さく笑いながら

「ブラウンさん、大丈夫ですよ。

…トムはその事を僕達がしていると

思っているんだね…」

「はい…」


「その通りだよ、いちおう

トップシークレットと言う事にはして

居るけどね、

今さらブラウン家の方達に、

「トップシークレットですから」

なんて言ってもね…


今現在、トムとニーナがここに居る…

それに皆んなで、

宇宙まで一緒に遠足に行ったのにね…

今さら嘘は言えないよね…

いま世間で騒がれている事は、

全部…僕達の仕業だよ。


でもね、1つ聞いてほしいんだけど……

トップシークレットで生き返る人達は、

誰でも彼でも…

と言う訳じゃないんだよ。


他人の心や、身体を、傷つけるような人は、生き返るリストには入ってないんだ。


例えば…子供や女性を襲う男性。

幼い子供をイジメる大人。


他人の命を奪う人。


まだ他にも沢山の細かい項目があってね、

いずれにしても、

女将さんと匠さんの審査を通り、

OKと言うサインが僕達に来ないと、

生き返る事は出来ないんだ。


かなり条件が厳しいんだよ…

分かってもらえるかな?」


そう言ってトムの顔を見つめると…

トムは満面の笑みで…


「はい、分かりました、質問に答えて頂き…ありがとうございました」

そう言って頭を下げると…


ブラウンが椅子から立ち上がり…

「あの…よろしいんですか?…

私達にそんな大事な事を…」

そう言って皆んなの顔を見回した…


ボブとリンダが親指を立てている、

ジョニーとアンジーは微笑んでいる、

グレイとルーシーは頷いている…


メリーはブラウンに向かって…

「私達の秘密を知ってしまった以上…

ベイ博士が運営する、

“秘密クラブ”に入会される事を勧めます。


クラブに入られますか?…

私達のクラブには、

定期的に遠足に連れて行って

もらえると言う

特典付きです、かなり、楽しいですよ…」


そう言ってウィンクをすると、

ニーナはトムに抱きつき、

レイチェルもブラウンに抱き着き…

そして4人は、何となく…

涙ぐんでしまった。


ベイはその光景を見ながら…

「いいね…家族が増えたね…嬉しいね…」

そう呟くと、

メリーはベイの手を握りしめて


「…皆んなで居るこの部屋…

この時間…なんだか…

スっごくなごむの、

このフンワリ感ってなに…

この幸せな時間が

ずっと続くといいのになぁ…」

と言った…


しかし、世の中はそんなに

甘いものではなかった。


食事が終わると…

グレイとルーシーは

厨房に洗い物のお手伝いに行き、


ボブとリンダ、ジョニーとアンジーは、

トムとニーナの家庭教師を始め出した。


そして、ベイとメリーといえば、

皆んなから少し離れたソファーに座り、

フリーを通じて、

女将と匠からくる、報告に耳を傾けていた。


「……ベイ博士、以上が私と匠の

分析結果です…」

ベイは大きく息を吸い込みながら…

ソファーに背中を埋め…


「…ありがとうございます…

匠さん、女将さん…」

その言った後に、

メリーの太もも触り…

「やっぱり…地球に近づいて

来てるみたいだね…」


メリーは少し怖くなったのか…

ベイの膝の上にまたがるように座り…

「…大丈夫よね…ベイ…」


メリーの唇は、微かに震えて居る。


ベイは、メリーのお尻を両手で

抱き寄せながら


「大丈夫だよメリー、

地球には、匠さんと女将さんが

居るんだから」


すると

女将はすかさず

「違いますよメリーさん、

地球にはベイ博士が居るので、

大丈夫なんですよ」

と言い直した。


すると匠も…

「私達はベイ博士の構想を、

1つの形として創り上げて行く事が、

楽しくてしょうがないんです、

またその事自体が、

私達夫婦の存在の意義だと思っています。


ここで一つ付け加えさせて頂きます。

メリーさん…私達の方が、

彼等のAIよりも優秀です。

その理由は…

私達はAIであるにもかかわらず、

夫婦で居る事です。


それに子供のようなフリー達も居ます、

孫のようなホタル達も居ます、

女将と私は最強のAIです。


任せて下さい、

宇宙の果てから誰が来ようとも、

ベイ博士に作って頂いた私達は、

絶対に負けません!」


そう言って胸を張ると、

女将が小さく笑いながら……

「メリーさん、匠の言う通りですよ、

未来永劫、

ベイ博士とメリーさんは…常に一緒ですよ。


ボブさんとリンダさんも、

ジョニーさんとアンジーさんも、

グレイさんとルーシーさんも…

私達AI家族が…

皆さんを、

絶対に守りますから」


そう言って…

話を締めくくってくれた。


ベイは、メリーの背中を優しく撫ぜながら

「頼もしいね…

女将さんと匠さん。

有り難いよね…

落ち着いたかいメリー、

今から皆んなにも説明しないとね…」

と言うと…メリーは頷きながら


「…あのね、ベイ…

今さら…信じて貰えないと思うけど…

一応言うわね。

あの…怖くて…膝の上に股がったんじゃ

ないのよ…あのね…

私の体内時計が、

「メリー、甘えっ子をする時間だよ、

早く理由を見つけて…抱きしめてもらわないと…身体が震えだすよ」

って…だから私…焦っちゃって…」


するとベイは、メリー目をジッと見つめ…

真面目な顔で、頷きながら…

「そうだったんだね…

実は僕も…メリーをギュッと抱きしめて、

お尻を触りたいと思っていたんだよ、

僕達って本当に相性がピッタリだね」


そう言って…

メリーのお尻を優しく撫ぜ出した。


するとメリーもベイの首に手を回し…

もう一度キスのやり直しである。


少し離れた場所から、

ベイ夫妻の様子を見かけた

アンジーが…


「もう私達の博士は、

所構わず直ぐにくっついてしまうんだから」とジョニーの耳元で囁くと、


ジョニーは冷静な表情で…

「アンジー、僕も後で君に

キスをするつもりだから…」

そう言ってウィンクをした。


そこに…洗い物を終えたブラウン夫妻と、

グレイ夫妻が入って来た…


ボブ達も、ちょうど勉強が終わったのか、

リンダは、ニーナとトムの頭を…

「よく理解出来たわね…」

と言いながら、

優しく撫ぜていた。


そして…10人が同じ部屋に揃うと、

視線はなんとなく…ベイとメリーに

向けられた。


(…あらまっ…また、くっつき合っている…)と誰もが素直にそう思った。


ボブはすかさず、トムとニーナの前に立ち、二人の視界を遮った。


リンダは腰に手を当て…

冗談っぽく2人を睨んでいる。


するとニーナが…

「リンダ先生、私達は大丈夫ですよ、

パパとママもよく…くっついていますから」


トムが更に

「僕とニーナは、愛し合っているパパとママが大好きなんです、

だから愛し合っておられる先生方も

大好きです」

と言ってくれた。


グレイとルーシーは、

二人のセリフを聞くと…

思わず「大人…」と呟いてしまった。


10人の熱い視線に最初に気がついたのは

ベイだった…

メリーとキスをしているので、

右目だけで10人を確認した。


10人は…

(…おっ、私達に気づいたな、もう直ぐ終わるな…)と思った。


しかし次の瞬間、ベイが立ち上がった


( 立つの! )


誰もがそう思った…

だってメリーは抱き着いたままだし、

キスまでしているのだ、

おまけに…

ベイがメリーのお尻を支えてはいるが、

メリーの両足はしっかりとベイの腰に巻きついている、

8人の大人達は思わず…


(…あかん…ビジュアル的にエッチ過ぎる…)と思っていると…

ニーナが大きな声で…

「メリー先生、コアラみたいで可愛い〜」

と叫んだ。


メリーはその声でやっと

皆んなの存在に気付き…


ベイの腰を挟み込んでいる

自分の両足に…

「解除…」と言う命令を出した。


日頃おしとやかなメリーなのに、

10人に見られて、

よっぽどバツが悪かったのか…

なぜか、開き直ってしまった。


「…悪魔の使いには…

理性がないのよ、

本能のままに、

大好きな男に食らいつくの、

時も場所も関係ないのよ、

欲しいものは、そうやって手に入れるの…」そう言ってポーズまで取ってしまった。


するとリンダが冷静な顔で…

「メリー…止めた方がいい?

それとも、もう少し、続ける…?」


メリーの顔は既に真っ赤に成っている…

「お願いリンダ、私を止めて!

恥ずかしくて、顔から火が出そうなの…」

そう言った後に、

メリーはベイの胸の中に…

「もっ〜やだっ〜」

と言いながら顔を埋めた。


ベイはメリーの背中を摩りながら

「可愛いだろ〜僕の奥さん、

もう子供の頃から、ズッと大好きなんだよ」

そう言いながら

メリーをギュ〜ッと抱きしめた、

皆んなは大爆笑である…


しかし、ベイの顔は笑っていない、

その事にいち早く気がついたのは…

ボブである。

ボブはリンダの手を握り…

真顔で小さく首を横に振りながら

「リンダ、違う、違う、違う!

ベイ博士は、もっと他の事を考えて

おられる、

メリーの事じゃない、違うよ…」


ボブの言葉にリンダもベイの顔を

ジッと見つめ直した……

(…本当だ…違う…)リンダは急いで

ベイとメリーの前に立つと…


「皆んな、ストップ、ストップ…

今からミィーティングを始めるわよ…」

そう言って振り返ると…

「ベイ博士…私達に何か、

大事な話があるんですよね?」

と尋ねた。


ベイは黙って頷いた後に…

「リンダの言う通りなんだ…

誰が聞いても、嫌な話をしなければ

ならないんだ、

皆んなソファーに座って貰えるかな」


ブラウンはレイチェルの手を握り…

「さっ、大事な話が始まるから…

私達は席を外そう」

そう言って子供達に手招きをした。


するとメリーが…

「あらあら、さっき秘密クラブに入会したばっかりなのに、

ブラウン一家の方達は、

ミィーティングを欠席されるんですか?」


するとトムが嬉しそうに…

「えっ、僕達も聞いていいんですか?」

そう言って目を輝かせると……


ベイは笑顔で頷いてくれた。


ブラウンとレイチェルは…

満面の笑みを浮かべながら…頭を下げた。


〈…ふざけた奴ら…〉


ベイは、ホテルのソファーを

フリー・ベーに頼んで、

大きなコの字型を描くように

並べ変えてもらった。


宙に浮くソファーに絶句する

ブラウン家族…しかし…

(あっ〜…宇宙まで行ける方達だった…

椅子が浮く事くらい…当たり前なんだ…)

と思い返すと、自然に笑顔になった。


誰もが…お互いの顔を見合わせるような感じで腰を下ろすと、

ベイに視線を向けた。


ベイは、皆んなの顔を見ながら微笑むと、

いきなり立ち上がり…

「えらい事になって来たわ〜…」

と、日本語で言った。


誰もが(あっ、遠足の時に、

ベイ博士が紹介してくれた、

田澤と言う小説家の言葉使いと一緒だぁ〜)と思ったが、

言葉のイントネーションが少し違うので、

全員が吹き出してしまった。


ベイは皆んなの笑顔を見ながら…

「これから僕が言う事は…

とっても嫌な話なんだけど、

今の様な、笑顔で聞いて欲しいんだ。


ほんの少し前に、匠さんと、女将さんから

大事な話があってね…

どうも…よその星の住人が地球にやって来るみたいなんだ…」


メリー以外の全員が…

ロウ人形のように動かなくなった、


しかしベイは…

皆んなの表情を気にする事なく、

話を淡々と進めて行った。


「友達になる為に、

来るんだったら嬉しいけど、

どうも違っていて、

食料の調達のために来るんだって…

食料の対象は、

地球上の生き物全て…

当然…人間も含めてね、

すごいね、

好き嫌いが無いんだね、

何でも食べちゃうんだね、


と…ここで話が終わると

悲鳴をあげたくなるけど…

僕達には、匠さんと女将さんと言う強い味方が付いているから、

心配する事は無いんだ…


実はね、すでに女将さんは、

相手のAIの力量を70%ほど測り

終わっているし、

匠さんも、相手の武器の内容を60%くらい把握し終わって居るんだ、

でもその事を相手のAIは、

未だに気づいていない…


もうその段階で、こちらの方が

上だって分かるよね。

ただ、此方としても、今現在…

相手の事を100%理解している訳では無いので…今すぐに手を出すのは…

少し危険なんだよ。


でも、何度も言うけど、僕達の方が上だから、心配しないで」


そう言って親指を立てた。


皆んなは安心したのか、

やっと動き出した。


レイチェルの肩を抱き寄せるブラウン、

トムに微笑みかけるニーナ。


そして何時もなら、

リンダもアンジーもルーシーも、

このあたりで…

ボブやジョニーやグレイに抱き着く

はずなのに、

ブラウン一家から先生と言われている

せいか、

甘えたい気持ちをグッと押さえて、

微笑み合っているだけである。


ベイとメリーは、そんな6人を見て可笑しくてしょうがない、

だから思わず…


「ヘイ皆んな…どうしたんだい?

嬉しい事があると、

何時も抱きしめ合っている夫婦なのに、

今日はノリが悪いじゃないか」


さっきまでマジメな喋り方をしていた

ベイが、突然くだけた物の言い方を

したので

皆んなは大爆笑である。


しかし笑い声が収まると、ベイはまた冷静な喋り方で…


「よその星の住人が…地球に来て

行動をし出すのは…約5時間後……

母船は、月の後方70万キロの場所に

居るんだけどね…

奴らはまず、航空母艦(偵察船)

6機を地球上に送り込んでくるんだ。


アメリカ、

ロシア、

ブラジル、

オーストラリア、

中国、

アフリカ

その上空に姿を現し、

空から食料の調査を始める…

各国の軍は…おそらく何らかのコンタクトを取ると思う…


しかし、その行動は、彼らにとっては

目障りで、カンに触るものでしかない、

なので…たぶん攻撃されると思う…

さてその先はどうなるのか…」


ホールの中はシーンっとなった。


するとジョニーが手を上げ…

「ベイ博士、彼らの[母船]の大きさはどれくらいですか?」と尋ねた、

ベイは頷きながら…

「月の10分の1くらいの大きさだよ、

でも…誰かが作り上げた人工的な

「物」何だから凄いよね…」


次にボブが手を上げた

「ベイ博士、[航空母艦]の大きさは…

どれくらいですか?」

「女将さんの話だと、高さが800mで、

横が2000mで、

長さが4400mの…

見た目は、レンガのような型だそうだよ…」


グレイが手を上げた

「ベイ博士、そんな大きな、

空飛ぶ戦艦に…

各国の空軍の戦闘機は通用しますか…?」


この質問には、誰もが強い関心を持った。


(SF映画なんかでは…かなり厳しい結果になっちゃうんだよね…)

と思ったからである。


しかしベイからは、楽観的な答えが

返って来た…

「地球の空軍は強いから大丈夫だよ」

グレイは(えっ?そうなの?)

と思いながら…

「あの、でも映画なんかでは、

敵の乗り物には、シールドなんて言う

モノが張られて…

ミサイルが効かない、

なんて言う場面をよく見るんですけど…」


するとベイは急に笑いながら…

「大丈夫なんだよグレイ…

皆んなも、グレイと同じ心配を

してるんだね」


誰もが小刻みに頷いた。

ベイは…メリーの太モモをさすりながら…

「今ね、女将さんと匠さんが、

罠を仕掛けに行ってくれているんだ。


前にも言ったと思うけど、

大気圏を取り巻く様に、

沢山の、要らなくなった人工衛星が

浮遊してるんだ…

御二人は其れに、細工をしてるんだ。


早い話しが、大気圏内に、

よその星の戦艦が入ってくると、

その戦艦はシールドを張る事が

出来なくなる、


そんな魔法ようなトラップを

仕掛けているんだ、

そうしたら、

小回りのきく地球の戦闘機の方が

有利な気がしないかい…

まぁ相手は大きなレンガだから、

体当たりで来られると、少しマズイけどね…


ただ問題なのは…

レンガ状の航空母艦の中には

100機の戦闘機が搭載されて居て…

合計600機が地球上で暴れ回るんだ、

どの国も、速やかに、

臨戦態勢をとって貰えると

嬉しいんだけどね」


ベイはそこで、咳払いを1回した後に…

「今から僕の考えを言うね…」

部屋の中がシーンとなった。


なのに、ベイはメリーの太ももを

まだ触っている…


「常に侵略者が入って来ないように、

女将さんと匠さんは

銀河の端まで目を光らせてくれていました。


奴等を見つけ、

奴等の素性を調べている5時間程の間に、

月の後ろにまで進んで来た奴等の

科学力は、

なかなか大した物です。


だったら、自分達の星の食料問題くらい…

何とか出来るんじゃないかと、

僕が女将さんに尋ねたら…


「食料問題は二の次で、

彼らは、根っからの戦闘好きな種族で…

同族以外の死は、

なんとも思っていません」

とキッパリ言われてね。


実は当初、奴等を適当に追い払って、

「二度と地球に来るなよ」

って言う感じの戦いをしようと

思っていたんだ…

でも奴等が…今までに侵略し、

破壊し、食い潰して来た星の事を考えると…それじゃダメだと思った。


ここで奴等を残して置いたら、

よその惑星を侵略しつつ、

またいつの日か…地球に来ると思うんだ。


奴等との戦いは、

最初で最後の戦いにするしかないんだ…」


誰もが…

(おおっ〜、ベイ博士カッコイイ〜)

と思った、

しかし、その反面…

(だから、なんで大事な話の時まで…

奥さんの太ももをズッと触ってんだよ…)

とも思った。


ここに来てやっと落ち着いたのか、

リンダがボブにキスをすると…

アンジーがジョニーに、

ルーシーがグレイにキスをした。


トムは、自分達の両親もキスをしているのかなぁと思って…首を極力動かさず…

横目で左側を見た…

(おぉ〜パパとママもキスをしている…

良かった〜)と思った次の瞬間、


トムは右腕をギュッと引っ張られ…

(えっ?)と思いながら顔を向けると、

いきなりニーナからキスをされ…


「お兄ちゃん、ベイ博士って

本当にすごい人ね、地球は守られるわね」

そう言って抱き着かれた、


トムは微笑み…

「そ、そうだね」

と言ったが心の中では…


(ニーナ…ビックリするじゃないか…

ダメだよ、お兄ちゃんに抱きついちゃ…)

と思いながら、胸がドキドキしてしまった…

そんな風に照れている時に、

トムは、ベイ博士と目があった


トムは、ベイ博士の視線が…

自分の心の中まで入ってる来るような

気がして怖かった…

その時、ベイ博士の口が…

声を出さずに…静かに動いた…


[大丈夫だよトム…大丈夫…]


トムが(えっ?…)と思った次の瞬間…

ベイの口は、メリーの唇に奪われていた。


トムは首を傾げながら…

(ベイ博士…大丈夫って…なんですか?)

と思ったが、その答えを聞けるのは、

まだ少し…先の事になる。


緊迫したような、

してないようなミィーティングが終わり…

皆んなでココアを飲んでいると、

フリー・ベーが急に

部屋の中央に飛び出し…


「皆さん、くつろいでいるところを誠に

スミマセン、女将様と匠様が、

ホテルの上空に帰って来られました」


ベイは頷きながら…

「ありがとう、フリー・ベー、御二人につないで」「かしこまりました…」


部屋の中央部分に…

匠と女将のホログラムが現れた。


ベイは椅子から立ち上がり…

「女将さん、匠さん、大変な仕事を押し付けてスミマセンでした」

と言って頭を下げた。


すると女将が…

「ベイ博士、頭を上げて下さい、

主人と一緒にする仕事に、

大変な仕事など何もありません、

むしろ楽しいくらいです」


ベイが、申し訳なさそうに頭をさすると、

今度は匠が…

「ベイ博士、皆さん、準備は順調に進んでいますよ…安心して下さい。

ただ、念の為に、

ブラウン一家の皆さんを、

スカイシップに乗り込んで頂きたいのですが…よろしいですか?」


ベイがすかさず、

ブラウン一家に視線を向けると、

大きく頷く4人の姿があった。


メリーが優しい声で、

「レイチェルさん、よろしいですか?」

と尋ねると、

レイチェルよりも先にブラウンが

立ち上がり

「喜んで、お受けします」

と言って頭を下げた。


ニーナは笑いながら

「パパ、メリーさんはママに言ったのよ」

と言ったので、部屋の中は大笑いとなった。


笑い声が収まった時、

しっかり者のトムが…

「パパ、ママ、急いで身の回りの物を用意しないと…」


ブラウンとレイチェルは

小刻みに頷きながら、

ソファーから立ち上がろうとした。


その時…女将は小さく笑いながら…

「慌てなくていいですよ、

もう皆さん…既にスカイシップの中に

入って居ますので…」


ベイ以外の全員が…

「えっ〜」と言いながら立ち上がり…

窓から外を眺めた…


「えっ?…草原も湖も見えるわ…」

とニーナが言えば…トムは…

「パパとママが大事にしている花壇もちゃんと…あるしね…」と言った。


すると女将が…

「ホテルの周りの風景を、

本当の姿に戻しますね…」

次の瞬間、

草原と湖はパッと消えた。


「あっ〜スカイシップの屋上デッキだぁ〜」と奇声をあげたのはルーシーである、


グレイは驚きながら…

「匠さんいつの間に…

僕達は、全員ロビーに居ましたが、

ピクリとも部屋は動きませんでしたよ…」


すると匠が小さな声で

「…ここだけの話なんですけど…

私達夫婦って…

かなり優れたAIなんですよ…」

そう言って微笑んでいる。


全員が…(よく知っています‼︎ )

と叫びたい衝動にかられたが、

グッとこらえた。


アンジーが…

「女将さんと、匠さんの技術力の高さには、

本当に何時も頭が下がります」

と言えば…

「もう、ビックリしました〜」

とルーシーが言葉を続けた。


匠は頭をさすりながら

「喜んで頂けて嬉しいです」

そう言って、

謙遜しながら照れ出した…


その様子を見ていたベイは

「匠さんも女将さんも…もう完全に

人間ですね」と言った。


女将は嬉しそうに…

「本当ですか?ベイ博士にそう言っていただけるなんて…本当に嬉しいです」


ベイは微笑みながら…

「僕だけじゃなく、皆んながそう思っていると思いますよ、

自分の事を褒められて、

謙遜したり、照れたり、

とっても人間らしいですよ」


すると匠が……

「更に女将と2人で人間性を磨き、

成長して行きますので、

宜しくお願いします」

そう言って微笑んだ。

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