第3話

〈… 先生…〉


海から空に上がったスカイシップは、いったん成層圏を抜け宇宙空間に出た。


地球を見ながらのミィーティングである。

ジョニーが開口一番…

「ベイ博士…地球は何事も無かったように

青いですね」

「うん…」


するとボブが…

「本当なら今頃、

地球の広範囲が

灰色になってたんですね…」

「そうだね…」


するとグレイも…

「沢山の人達が

マスクをしないといけない

状態に成って居ましたよね」


ベイが微笑みながら頷いていると、

女将が世界各国のテレビニュースを、

スクリーンに投影してくれた。


良い意味で、世界中がパニックである。

メリーは笑いながら…

「良かったわねベイ…

誰も傷付かず、世の中が混乱しているわ」

「うん、とっても嬉しいよ」


そう言ってメリーを見つめた後に…


「皆んな…これから先も、僕は悪い事を沢山するつもりなんで、

よろしく頼むね!」


するとボブが怖い表情で

「何でも言って下さい、俺が世界中をメチャクチャにしてやりますよ!」

そう言って親指を立てた。


しかし内心では

(…ベイ博士の悪い事って言うのは…

全て、人助け何だよね〜、

俺、チョー楽しいんですけど〜)

と思っていたので、

口元が思わずニヤケてしまった…


ベイは…(…んっ?)

と言う様な感じで…ボブの顔を見た、

ボブは…

(…ヤバイ…)と思いながら、

慌てて…右の手のひらで

口元を隠したが、


ベイから…

「ボブ…僕達は悪魔の使いなのに、

笑ってるじゃん!」

と言ったので、

皆んなは吹き出してしまった。


リンダが笑いながら…

「ゴメンなさいベイ博士、

私の方からちゃんと、

怖い顔の練習をさせて置きますから」


すると横からルーシーが…

「ダメだと思うわ!

お兄ちゃん結婚してから、

今まで以上に、

ズッ〜と鼻の下を伸ばして、

笑顔のままだもん」


ブリッジ内はとうとう

大爆笑になってしまった。


女将も笑いながら…

「ベイ博士、ミィーティングは明日にされた方が…良いかと思われますけど…」


「はい、女将さんの言う通りだと思います、ホテルに帰って頂けますか」

「かしこまりました」

スカイシップはゆっくりと時間をかけて…

30分後にホテルの上空に着いた。


夕暮れ時…

トムが洗濯物を取り込んでいた…

「…お天気が良かったから、

よく乾いている…

ふわふわしてる…

あぁ〜気持ちいい肌触り…

お日様の…お陰だね…」

そんな独り言を言いながら…

何気なく空を見上げた…


「あっ!皆さん帰って来られた!」

スカイシップに気が付いたトムは、

空を指差しながら…

「ニーナ、ほら…

皆さんが帰って来られたよ、

パパとママに伝えて来て」


ニーナは嬉しそうに頷くと…

「パパ、ママ〜先生達が帰って来たよー」

そう叫びながら…

キッチンの中に走り込んで行った。


8人が光のエレベーターで

下に降りてきた…


嬉しそうに走り寄る、トムとニーナ…

ボブは「可愛いね〜」と言いながら、

2人を小脇に抱えて…


「それ〜飛行機だぞ〜」

そう言ってグルグルと

2回程まわって見せた、

2人は大喜びである。


するとニーナは、

朝がた両親と、お兄ちゃんに言われた事を

すっかり忘れて…


「ボブ先生、宿題で分からない所があるの…教えて下さい、お願いします」

と言ってしまった、


トムは慌てて…

「ニーナ駄目だよ、

皆さんお疲れなんだから」

そう言って止めたが…


ボブは2人をソッと下に降ろすと…


「大丈夫だよトム、疲れてないから…

食事の前にする?それとも後がいいかな?」ニーナは少し考えてから…

「前がいいです」

と言って微笑んだ、

するとグレイは、ニーナの頭を撫ぜ…

「ニーナはしっかりしているね、賢いね〜」

と言った。


ジョニーが

(…えっ?)と思いながら…

首を少しかしげると、

グレイは微笑みながら…

「ジョニー、ニーナはパパとママが料理を仕上げる時間を、ちゃんと理解しているんだよ、そうだよね、トム…」


トムは…

(…一流のシェフは何でも御見通し

なんだなぁ)と思いながら…


「はい…すみません、その通りです、

まだ夕食の支度が終わってないんです。

でも…ニーナが宿題が分からないのも、

嘘では無いんです…」


その言葉を聞いたグレイは、

少し慌てた口調で…

「あっトム、僕はそんなつもりで言ったんじゃないんだ、

2人が料理の内容を理解している事を、

褒めたつもりだったんだ…

ゴメンね、

僕の言葉足らずだったね」

そう謝った後に


「トムは勉強で、分からない所は

ないのかな?」と尋ねた。


するとトムは

「実は…沢山ありすぎて…

パパとママに心配させたくないので…

解っているような、フリ、をしているん

ですけど…もう、

泣きたい気持ちでいっぱいなんです…」

そう言ってうな垂れた。


グレイはトムの頭を撫ぜながら…

「今日から、ニーナの勉強は…

ボブ先生と、リンダ先生に、

見てもらおうね。


そしてトムの勉強は、

ジョニー先生と、アンジー先生に、

お願いしようね」

そう言って…

グレイは4人の顔を見た、

4人は微笑みながら、親指を立てている。


するとニーナが…

「グレイ先生とルーシー先生は?」

ルーシーは、ニーナのオデコに自分のオデコをくっ付けて……


「私達はキッチンに入って、

パパとママのお手伝いをするわね」

そう言って微笑むと、

トムは

8人の真似をして親指を立て…

「パパとママが、

大喜びすると思います!」


グレイはルーシーと手を繋ぎ…

「君達のパパとママの、足手まといにならないように…頑張るね」

そう言って、キッチンの中に入って行った。


ボブはもう一度、2人を小脇に抱え、

ロビーのテーブルを目掛けて

走り込んで行った。


奥のキッチンから4人の笑い声が微かに

聴こえる…

あと聞こえるのは

柱時計の秒針の音である。


静かなロビーは

勉強をするのにはとても良い

環境である。


イスに座った2人に対して…

「さあ、学問の世界に、探検に行こうか!

きっと素敵な宝物が見つかると思うよ」


ボブの掛け声にトムとニーナは

満面の笑みを浮かべた。


ボブとリンダは、

優しい例え話を交えながら、

ニーナの勉強を進めて行った。


ジョニーとアンジーも身近にある物や、

人の名前を織り込みながら、

トムが少しでも勉強が…

( 面白い…)と思ってくれるように

心をくだいた。


4人の家庭教師がすこぶる優秀なのか、

トムとニーナは、

30分ほど過ぎた頃から…

「あっ〜、解った〜」とか…

「あっ、この問題の答えが見えた〜」

とか、嬉しそうな声を何度も

上げ出した。


窓際に置かれたソファーに

ベイとメリーは座っていた。


ベイは勉強会の様子を見ながら

「…いいね…」と呟いた。


メリーは小さく首を傾げ…

「ベイ、何がいいのかしら?」


「皆んなが楽しそうに勉強をしてさ…

ブラウン夫妻と、

グレイ夫妻が楽しそうにキッチンに

立って居てさ…


そして、世界一可愛くて、

大好きなメリーが、

僕の膝の上に座っているんだ。

僕は今…スっごく…幸せだよ…」

そう言って

ベイは目を潤ませている…


母性本能が強いメリーは、

胸のキュンキュンが止まらない…

ベイの首に両手を回し

何度もキスをしながら

「ベイ、二度と貴方から離れないから…

ずっと一緒よ…

ずっと包み込んであげる…

いつでも甘えていいのよ…」


ベイは嬉しそうに目を細め、

メリーのお尻をしっかりと…

抱きかかえた。


勉強会開始から一時間が過ぎた。

「さあ…今日はこれくらいにしましょう…」と言うリンダの声で、

勉強会は終了した。


トムは満足げな顔で「はぁ〜」

と溜息をついた。


ジョニーはトムの頭を撫ぜながら…

「真剣に取り組んでいたから…

疲れただろう…?」

「はい…いえ…あの、すみません、

疲れたんじゃなくて…

僕って、もしかしたら…

勉強が出来る子、

なんじゃないのかなって…」


自分でそう言いながら

顔を赤らめた。


するとジョニーは、

更に強く、トムの頭を撫ぜながら…

「その通りだよ、

トムは出来る子だよ!

ただし…

勉強は毎日の積み重ねが大切なんだ、

だから油断することなく、

少しずつでもいいから、本を読んでね」

トムは元気な声で返事をした



ジョニーは微笑みながら…

「いま僕が言った言葉は…昔、

先生から頂いた言葉なんだ。

今も大切に胸の中にあってね、

本は毎日…欠かさず読んでいるんだよ」


トムとニーナは…

(…すごい、大人になっても勉強してるんだ)と思った。

ニーナはリンダの手を握り…

「リンダ先生も…

毎日勉強してるんですか?」


「してるわよ。私も先生から…

「知らない事の答えが解ったら、

とっても嬉しくて、楽しくなるよ」

そう言って貰って、

本当にそうだなぁって思ったから、

ズッと勉強をしているわよ」


トムは感心しながら

「素敵な先生ですね〜、

僕も、お会いしたいと思いました…」


すると…

ボブとリンダが、右手のひらを上に向けて、腕を横に伸ばした。


トムとニーナは首を傾げた?…

ジョニーとアンジーも同じように腕を伸ばしているからである。


トムとニーナは、

4人の先生が、手を指し示す方向に

視線を向けた…


(ベイ博士が…メリー先生の…

お尻を触っているんだけど…?)


するとジョニーが嬉しそうに…

「トム、ニーナ、僕達の先生は…

ベイ博士だよ!」


2人は首を傾げ…

(…皆さん…同じくらいの年齢だと

思っていたけれど…

ベイ博士って…

見た目より、年齢が上なのかな?)

と思った。


すると、その事を察したアンジーが…

「ベイ博士は、私達と

年齢は2、3歳しか変わらないんだけどね、

とにかく子供の頃から天才だったの…


色々な事情があって、

学校に行けなくなってしまった私達に、

小学校から、大学までの勉強を

全て一人で教えて下さったのよ。


ホテルの上空に待機している

スカイシップは、

ベイ博士が作られた…

そう言えば、どれだけ天才なのか

分かってもらえると思うんだけど…」


トムとニーナは…

(…よく分かる…)と思いながら、

何度も頷いているところに、

ブラウンとレイチェルが入って来た。


ブラウンは、

ボブと、リンダ、

ジョニーと、アンジーに向かい…

「お疲れのところ、本当にスミマセン…

子供の勉強は、

親の私達がしなければいけないのに…

私達夫婦は、

勉強が得意ではないもので…

本当に申し訳ありません」

そう言って…深ぶかと頭を下げた。


ボブはそんな夫妻に対して…

「御礼なんて言わないでください、

私達も、楽しい時間を過ごさせてもらい

ましたから…」


するとボブの横からリンダが…

「ベイ博士、メリー、お待たせしました!

勉強会が終わりましたよ、

食事にしましょう」


2人は微笑みながら小さく手を上げ…

ベイはメリーの手を握り、

ソファーから立ち上がった。


全員で隣の部屋に移動すると、

テーブルの上にはすでに

美味しそうな料理が

所狭しと並んでいた。


8人が席に着くと、

レイチェルが満面の笑みを浮かべ…

「今日は、グレイ先生と、ルーシー先生から、色々な料理の仕方を教えて頂きました、

ありがとうございました」

そう言って頭を下げた。


グレイとルーシーは顔を見合わせてながら、(…えっ?先生ってなに?…

なんで先生なの…)

と言うような顔をしていると、

カンのいいニーナが…


「あのねルーシー先生…お兄ちゃんが、

博士って呼ばれている人の、

周りにいる人達は、

皆んな、先生って呼ばれているんだよって…

ネットで調べてくれたの。

それに、

グレイ先生は一流のシェフで、

ルーシー先生も、

色々な免許を持っておられる方なのよ、

って…ママがパソコンで調べてくれたの」


グレイは頭をさすりながら…

「そうか〜ネットで調べてくれたんだ〜、

でも先生って呼ばれるのは…

何だか照れくさいな〜」と言うと、

ベイはすかさず…


「グレイ…ブラウンさん御夫妻と、

トムとニーナは、

皆んなの事を、先生って呼びたいんだ、

照れくさくても、受け入れないとね、


僕だって「博士」って言う呼ばれ方を…

受け入れているんだから、

皆んなにも出来るよ…

ねっ出来るよね」

そう言った後に、

ワザと冗談まじりの怖い顔で、

皆んなを睨みつけ…


そして…

「トム、ニーナ、ここに居る7人を、

先生って呼んでいいからね、

解らない事があったら何でも、

先生に質問していいんだよ…

しっかりと勉強してね!」


そう言って2人にウィンクをおくった。


お楽しみの夕食が始まった。


8人の食べ方は…

やっぱり早かった。

アッと言う間に食べ進み、

気がつけば8人の前には、

デザートのケーキとコーヒーが…

並べられていた。


トムはニーナの耳元で…

「それでも少しだけ、ゆっくりに

成って来たよね…」

「うん…そんな気がする…」

そう言って微笑むニーナ…


しかしニーナが本当に

気になってしょうがないのは、

昼間のニュース番組の内容である。


ニーナはルーシーの後ろに行き、

小さな声で…

「あのルーシー先生…」

「何かしら…」

「あの〜…今日、ズッとテレビの

ニュースが言ってる事が

気になっているんですけど…」


「どんなニュース」

「あのね、大きなカミナリ雲が、

パッと消えたとか、

カミナリで死んだ人が生き返ったとか、

海底火山の噴火が消えたとか、

えっ〜と…お兄ちゃん、なんだっけ?」


トムはニーナ肩を抱きしめながら…

「海沿いの町を守るように、

水の壁が出来たり。

大きな船が、シャボン玉に包まれたり。


島全体が、大きな水の帽子をかぶったり…

あのグレイ先生…

今日のニュースの事は全部…

あの、ベイ博士と先生方が…

されたんですか?」


グレイは2人の顔をジッと見た後に…

ベイの顔を見た、ベイは笑顔で頷いている、グレイは2人に向かって…


「そうだよ、全部…博士と僕達がしたんだよ…びっくりした」

「はい、でも…スっごく嬉しいです」


トムはそう言うと…

(…やっぱり、博士と先生方は

スゴイ方達だったんだ〜)

そう心の中で叫びながら、

両親と妹の顔を見つめた。


しかし父親のブラウンは、

2人のお喋りに対して

申し訳なさそうな顔で……

「スミマセン皆さん…

お疲れのところ…

トム、ニーナ、こっちに来なさい…」

と言って、手をこまねいた…


するとメリーが…

「ブラウンさん、2人を叱らないで下さいね、主人が何でも聞いていいよ、

と言ったんですから。

それに私達…ぜんぜ疲れて居ませんから」

そう言って微笑むと、


レイチェルが……

「スミマセン、子供達は

トップシークレットの意味が

分かっていないようで、

後でちゃんと教えて置きますので…」

そう言って頭を下げた。


ブラウン夫妻の気の使い方に、

ベイは思わず…

「ブラウンさん、レイチェルさん…

あの、なんて…言えば良いのか……

トップシークレットと言えば

国を守るような、

大きな事を連想されると思うんですけど、

私達がしているトップシークレットは…


転んだ人に対して「大丈夫ですか!」

と言って、手を差し伸べるとか、

重たい荷物を持っている人に、

「半分持ちましょうか?」

と言っているくらいの、

秘密事項なんですよ、

ですから…

気を使わないでください」


ブラウンもレイチェルも声を揃えて

「ありがとうございます」

と言ってはみたが、内心では

(…いやいやいや…

大きな御謙遜をしないで下さい。

積乱雲を消したり、


海底火山の噴火が途中から

消えてしまったり、


沈没した船の乗客だけが港に着いたり、


津波から、町や、島や、船を守ったり

…普通に考えても、スッごい……

トップシークレットですから、

映画でもそんなの観たこと無いですから…)と思ったが…


しかし、そこは、あえて何も言わずに、

ニッコリと微笑みながら、

もう一度ていねいに…

頭を下げた。


     〈…遠足…〉


食事を終えたベイは、

おもむろに柱時計に目を向け….

「19時35分か…」と呟いた。


メリーが「どうしたの?」と尋ねると、

ベイは…

「明日の朝…7時くらいがいいかな……

皆んなでさ…遠足に行こうか?」


メリーはキョトンとした顔で…

「遠足…」と聞き返した、

「うん、遠足…ずっ〜と色々な事で

頑張っているんだもん、

たまには、自分達に、

ご褒美をあげないとね」

そう言って皆んなの顔を見回した。


ブラウンはレイチェルの耳元で…

「明日は5時から朝食の準備を始めよう」

「はい、貴方…」

そう言ってレイチェルが微笑むと…


トムとニーナは心の中で…

(…いいなぁ〜遠足か〜、

町の市場までしか…

行ったことがないよ…)

と思った。


するとベイが…

「皆んなで行くんだよ!

ブラウン夫妻と、トムとニーナも、

一緒に行くんだよ!

朝も昼も夜も、全部外で食べるんだよ!


さぁ、どこに行きたい?

好きな所を言ってみて、

どこにだって、行けるんだから!」


トムとニーナは歓声を上げ…

ブラウンとレイチェルは夫妻は、

なぜか、涙ぐんでしまった。


自分達もそうだが、子供達を、

動物園や遊園地に…

連れて行った事が無いのだ。


時間的にも経済的にも、

一切余裕が無かったのである。


だから今…ベイの優しい心づかいが…

本当に嬉しかったのだ。


「でわ、皆さん…行きたい場所を教えて

下さい」

ベイの問いかけに、

7人の手が一斉に上がった…


「私はどうしてもヨーロッパの、お城を見てみたい!」

そう言ったのはルーシーである。


「日本の古墳を見てみたい!」

と言ったのはグレイである。


「ピラミッドの中に入って見たい!」

そう言ったのはアンジーである。


「スイスの街や、山の、景色を観たい!」

と言ったのはリンダである。


そしてボブは…

「ギリシャ神殿を観てみたい!」

と言い、


ジョニーは…

「ハリウッドに行きたい!」と言った。


ベイは笑いながら…

「はいはい、大丈夫、ちゃんと行きますよ…トムはどこがいい?」

「あの僕は海を見て観たいです…」


「了解しました、ニーナはどこが

いいのかな?」

「私は雲の上を見て観たいです」


「はい、了解しました…レイチェルさんはどこがいいですか?」

「あの…私はニューヨークの夜景が

見て観たいです」


「はい、分かりました、ブラウンさんはどこがいいですか?」

「あの私は…あの昔から月が大好きで…」「月ですか?」

「はい、あの…大昔から、

世界中の…偉人達が見上げて

居たんだろうなぁ、と思うと

何だか胸がワクワクして…」

そう言ってニコニコしている…


するとレイチェルが横から…

「あなた…私達はロケットに乗せてもらうんじゃないのよ…」


「あっ…そうだね、ベイ博士すみません

バカなことを言ってしまって」

そう言って頭を下げると、

ベイは笑いながら…


「レイチェルさん、

御主人を睨まないで下さい、

ブラウンさん行けますよ、月ぐらい」

と言ったので、

レイチェルと2人の子供達は、

目をむいて、

自分の口を押さえ、

ブラウンは…

子供の様に歓声を上げた。


ベイはメリーに向かい…

「僕の大事なメリーは、

どこに行きたいのかな…?」


「私は…ハワイのホテルが、

いっぱい建ち並んで居る…

その前の…

白い砂浜を歩いてみたい」

「お安い御用だよ。


じゃあ最後に僕から…

ナイアガラの滝と、

マチュピチュの空中都市と、

日本の枚方市に行きたい」

そう言って微笑んだ。


するとボブが笑いながら…

「一人1つ、じゃないのかよ〜」

と言って腰に手をあてた。


するとベイも笑いながら…

「俺、1つなんて言ってねぇし」

と言い返した。


ジョニーは笑いながら2人の間に入り…

「まあまあ、第一回目の遠足なんだし、

ねっ二人ともムキにならないの。

それよりもベイ博士、


日本の枚方市(ヒラカタシ)って…

なんですか?」と尋ねた…


ベイは少し間をおいてから

「僕が…今現在しているところの、

トップシークレットの

ベースを考えてくれた、

作家の方が住んでいる所が……

大阪府枚方市なんだよ…」


「えっ?ベースが、有ったんですか?」


「うん、メチャクチャな事ばかり書いてある小説でさ、100冊を自費出版してね、

全然売れなくて、

無料で配ったような本なんだけどね、

何故だか、僕の心の中には残ってね…」


「どんな内容なんですか?」


「う〜っとね、ざっくり言うとね、

優秀な科学者の方はいませんか?

出来れば優しい人が良いです。


魔法使いの様に空を飛び、

壁を通り抜け、物を浮かばせ…

どんなに壊れた物も治せる人…

欲を言えば、

現在の医学では、助けられない病気を治し…

さらに欲を言えば、


死んだ人を生き返らせる事が出来る人。

そんな優秀な科学者がいたら、

世界中の大半の人から、

自然の摂理に逆らった悪魔だ、

と呼ばれるかもしれないけれど…


でも悪魔だと言う人と、

同じくらいの人達が、

感謝してくれると思います…

みたいな感じの小説なんだ。


ともすれば…

子供向けの本かな〜とも思ったんだけど…

違うんだ、

変な言い方かもしれないけど、

この田澤と言う作家は…

僕の為だけに、

トップシークレットと言う本を書いてくれたんだと思う…


だって僕にしか…当てはまらないんだもん、

地球上で…僕だけなんだ!


実は…この本を読むまでは…

僕の頭は、物事を正確に記憶する

と言う事しか出来なかったんだ。


でも、この本を読んだ後の僕は…

周りの事から、色々な物を想像して…

なおかつ、創り上げる事が

出来る様に成ったんだ!」


ベイの言葉には、不思議な説得力があった。

ジョニーは何度も頷きながら…

「なんだか僕もその人に会ってみたく

なりました」

と言うと、部屋の中に居る誰もが、

微笑みながら頷いた。


ベイは満面の笑みを浮かべながら…

「明日が楽しみに成って来た…

出発時刻は…朝の7時、

起きれない人は、

パジャマのままスカイシップに

乗せるからね…以上、解散!」


男性陣は笑いながら、

自分の奥様を抱き上げて、

自分達の部屋に入って行った。


そして次の日、朝7時。


小鳥のさえずりが

心地よく聞こえるロビーの中で…

10名の人影が…

1つの扉のドアノブを…

声も出さずに…

ただ…

ジッと見つめていた。


7時…18秒…「カチャッ」と言うカギの開けられる音が聞こえ…

ドアがスッと開き…

中から手を繋いで出て来たのは…

ベイとメリーである。


「…あら、ゴメンなさい、

私達が最後だったのね」

そう言って、

横にいる、ベイの顔を見つめるメリーの

首筋には…

キスマークが3つ…


「モッ〜しょうがねぇな〜」

とは誰も言わない…

自分達の奥さんの首筋にもキスマークがついているのだ。


むしろ…

(…良かった、皆んな愛し合っている

夫婦で…)

と思ったぐらいである。


「待たせてゴメンね」

と言うベイに…


ボブ微笑みながら

「いえいえ…私達も…ほんの

2.3分ほど前に出て来たところなんです!」

とボブが言うと…


ニーナが嬉しそうな顔で

「私とお兄ちゃんは、

6時からロビーに居ました!」

そう言って肩をすくませた。


メリーが優しい声で…

「ニーナ、2番目は誰かしら?」

「6時10分に、パパとママです!」


メリーは笑顔で頷きながら…

「ニーナ、私と博士の前に出て来た人は?

覚えている?」


「はい、えっ〜と、

ジョニー先生とアンジー先生…

えっ〜と、6時25分くらいです!」

「ありがとうニーナ…

そして皆んな、ごめんなさい、

30分以上待たせちゃって」

そう言って…

ベイとメリーは頭を下げた。


ブラウン夫妻は…

(メリーさんは本当にすごいな…

子供が正直に喋ってしまう事を…

よく知っておられる)

と思った。


ベイは皆んなの顔を見回しながら…

「さぁ、スカイシップに乗って、

遠足の始まりだよ、フリー・ベー頼むね」


「かしこまりましたベイ博士、

エレベーターを下ろします」


ホテルの上空に居る

スカイシップから、

直径5mの

光の筒が降りて来た。


ブラウン家族は、

まばたきを忘れるくらいに、

目を見開いていた。


光の筒は地面に着く直前に止まり、

今度は光の絨毯に変わると、

ロビーに居る…自分達の足元まで、

アッと言う間に入って来た。


「さあ行こう…」

と言うベイの声に、

8人は絨毯の上に乗った。


しかし、

初めてのブラウン家族は、

緊張のあまり足が前に出ない…


ルーシーが…

「怖がらなくて大丈夫ですよ」

と言って微笑むと、


ブラウンは…

「スミマセン…」と言いながら、

慌てて妻と、

子供達の手を引いて…

絨毯の上に乗った。


絨毯は12名を乗せたまま、

ゆっくりと前に進み出した、

トムが…

「あっ扉が…」と言うのと同時に…

ホテルの玄関のドアが、

スッと開いた、トムは思わず…


「パパ…いつの間に自動ドアにしたの?」「トム、パパも同じ事を考えていたよ、

すごいね…」


そう言い終わった時、


今度は…自分達の身体が垂直に、

上に登っている…

ブラウン家族は感動していた、

何時も見上げているスカイシップに、

まさか自分達が乗せて貰えるなんて…


四人は自分のホテルを見下ろし…

そして、遠くの街並みに目を向けた…

(…こんなに綺麗な景色だったんだ…)


この段階で四人は既に満足気味である。


レイチェルは夫の耳元で…

「なんだか夢を見ているみたい…」

ブラウンはソッと妻を抱きしめ

「本当に…素敵な夢だね…」


そう言い終わった時…

12名は船内に入っていた。


ブラウン家族の四人は周りを見回しながら

(…壁も天井も床も、真っ白…

うちのホテルと同じだ…」

素直にそう思った。


すると…

「皆さん、おはようございます。

そして初めましてブラウンさん、

レイチェルさん、トム君、ニーナちゃん、

私は女将と申します、

主人と一緒に、この船を守っています。

主人を紹介します」


「はじめまして、ブラウン家の皆さん、

匠と申します、

この船、そのものが、私と妻です。

皆さんが快適に過ごせるように、

私達2人とフリー達がサポートさせて

頂きます、

何なりと申し付けてくださいね」

と言う声が、

部屋全体から聞こえるのだ。


ブラウン家族は周りを見回しながら…

(えっ〜?床から?壁なの、

天井からなのかな…?)

と思っていると…

ベイが…


「びっくりしましたか?」

四人は素直に頷いた。


「匠さんと女将さんは、

この船の主人であり、私達の家族です。

優しいお二人です、

また後でフリー達も紹介します。

きっと大好きになりますよ…」


そうベイが言い終わった時…

スカイシップは既に雲の上に居た。

皆んなはデッキの方に移動した。

すると女将が…


「この船の説明を少しだけさせて下さいね…この部屋はデッキと言います、

同じ部屋ですが、

前方部をブリッジと呼んでいます。


ブリッジの窓の大きさは、

とりあえず…

高さ5mで、横幅が18m有ります。

少しでも、外の景色がよく見えるようにと、

このように作りましたが…今現在は、

少し改良しまして、

窓の大きさは、自由に変えられます。


今からソファーとテーブルを

お出しします、

ゆっくりとおくつろぎ下さい」


そう言い終わるのと同時に、

ソファーとテーブルが…

下から現れた。


ソファーとソファーの間は

2mほど空いている、

皆んながゆったりと出来る様に、

女将と匠の心遣いである。


ブラウン一家はこの段階で、

既にテンションはマックスである。


女将は更に…

「ニーナちゃん御希望の、

雲の上に着きましたよ」


雲の上に行きたいと言っていたニーナは、

目の前に広がる雲海を見て

「…綺麗…」と呟きながら…涙ぐんだ。


匠はニーナの声を聞きながら…

ゆっくりと船を進め…

女将はニーナの表情を見ながら、

船内に…

優しいピアノの曲を流してくれた。


感動のあまり、身動き1つしないニーナ…


その時

「…ニーナ、座ったら…」

兄の優しい声がニーナを振り向かせた。


既に両親も先生方も、

2人がけの…ゆったりとしたソファーに

座っている。


トムが…

「ニーナはここだよ…」

そう言いながら自分の横を、

ポンポンと軽く叩いた。


ニーナは椅子に座った後も、

嬉しそうに雲を眺めている、

トムがボソッと呟いた…


「ニーナ…毎日、雲を見上げてさ…

雲に乗って…遠くの方に行く、

想像ごっこを…

2人でいっぱいしたよね…」


「うん、いっぱいしたね……

お兄ちゃんが、行って見たいって言っていた…海にも行けるんだよ」


そう言って、ニーナはトムの腕にソッと

抱き着いた。


船内に流れているピアノの曲が終わった。


女将が優しい声で…

「ニーナちゃん、

今から海に行きますけど、

今日は、色々な所に行きますから、

これから先、

何回も雲の上に来ますからね」


ニーナは嬉しそうに…

「女将さん、ありがとうございます」

そう言って頭を下げた時、

目の前のテーブルに、

メロン・クリームソーダが…

現れた。


「えっ?私の好きなクリームソーダ…」

とニーナが驚いていると…

隣のソファーに座っている両親も、

目の前にある…

カクテルグラスを観て驚いていた。


その時…

「あっ!海だぁ〜」

と言うトムの声が船内に響いた。

ブラウン夫妻は、グラスを持ちながら…

視線を窓に移した…


(…えっ?…たった今まで雲の上に

居たのに?なんで?

急に下がったような感じなんて、

全然しなかったけど?)

と思ったが…

夫婦で顔を見合わせ、

黙ってカクテルを一口…

喉に運んだ。


スカイシップは海面から20mほどの

高さを…滑る様に飛んでいる……


匠は、トムの嬉しそうな顔を見ながら

「…トム君は、海の中にも興味が

ありますか?」

と尋ねた。

トムは嬉しそうな顔で…

「はい、テレビでしか、知りませんけど…」


「そう、じゃぁ入ってみましょうか?」


「えっ?海底探険ですか…?」

そう言ってトムが目を見開いていると…

スカイシップはゆっくりと海面に降り…

そして、

ゆっくりと海中に入って行った。


海を見たいと言ったトムは当然

喜んでいるが、

ブラウンと、レイチェルと、ニーナ…

嬉しいのか、

ソファーに座った状態で、

グラスを両手で握り締め…

足を…

「パタパタ、パタパタ…」

と動かして居る。


匠と女将は顔を見合わせて、

思わず…微笑んでしまった。


トムが言うところの、

海底探検の間にも、

船内には音楽が流れている。

トムの気持ちを表したような

軽快な曲である…

15分ほどの曲が終わると

女将が優しい声で…


「トム君、海底の景色はどうでしたか?」


「はい、もう最高に綺麗でした、

ありがとうございました」


「喜んでもらえて、

私も主人も嬉しいです。


さて皆さん、もう直ぐハワイに着きます。

既にブレスレットを車に変えています。

朝食の予約を入れているホテルに、

フリー達がご案内します。


食事の時間とは別に、

砂浜の散歩の時間に

約2時間ほどとっています、

楽しんで来て下さいね」


スカイシップは、

透明シールドを張った状態で…

いったん海中から空に上がり…

街から少し離れた場所に静止した。


12名が一斉にソファーから立ち上がると、女将が…

「ハワイ風の衣類を用意しました、

宜しければお着替えくださいね」


誰もが(…着替え…?)と思った次の瞬間、

小さな…ポンっ、

と言う音がソファーから聞こえた、


12名が振り返ると、

ソファーの上に素敵な衣類が…

無邪気なニーナは、

直ぐに洋服を手に取ると…

「わぁっ〜、素敵なアロハシャツと

白いパンツだぁ〜可愛い〜」

そう言って大はしゃぎである、


レイチェルもブラウンも嬉しそうに、

洋服に頬ずりをしている。


トムなどは着替え出している。

女将は皆んなの喜ぶ顔を確認すると…

「では皆さん、着替えて下さいね…」

そう言って、

ソファーと2人を囲むように、

鏡の壁を、四方に立ち上げてくれた。

それぞれの夫婦が、

恥ずかしくないようにと…

ちょっとした、女将の配慮である。


5分後女将から…

「皆さん着替え終わりましたか?

鏡を下ろしますよ、よろしいですか?」


各ブースから…

「はーい、着替え終わりました〜」

と言う声が返ってきた。


鏡の衝立が降りると、

12名はチョッピリ照れ臭そうに

立っている、


女将は嬉しそうな声で

「皆さん…とてもお似合いですよ…

でわ…楽しい時間を過ごして来て下さいね、下ろしますよー」


そう言って、全員を地上に降ろしてくれた。


 〈 大人ですね 〉


地上に降りた12名は、

匠が用意してくれたリムジンに乗り込んだ。


車が動き出すと、

ホワイトホテルの中では…

姿を隠して居るフリー達が

皆んなの前に浮かび

挨拶をはじめた。


「皆さん、おはようございます。

ハワイ担当のフリー・メーです!」


初めてフリーを見た

ブラウン家族の4人は、

驚きで声が出ない…

(…妖精って本当に居たんだなぁ〜)

と言うような事しか

頭に浮かばなかった。


直ぐにでも手を上げて,

質問があります、

と言いたかったが…

聞いてはいけないような気がして、

何も言わずに、見つめる事だけに専念した。


しかしフリー達は…

1人1人…順番に皆んなの前に浮かび、

行く場所によって担当は変わるが,

常に皆さんの周りに居て、

皆さんを守ります、

と言ってくれているのだ。


ニーナは、

とうとう我慢出来ずに…

近くに座っているルーシーの耳元で…

「あのルーシー先生…」


「なぁに,どうしたのニーナちゃん?」


「あの…8人の妖精の方達は、

先生達の…お友達ですか?」

と尋ねた。


ルーシーは…

「そうよ、大好きで、大事なお友達であり、家族よ!

ニーナちゃんも仲良くしてね」

そう言って微笑むので、


ニーナは素直な心で…

(…すごい、妖精のお友達が出来た…)

と思いながら…

「はい、仲良くさせて頂きます」

と言って親指を立てた。


そんな会話をしている間に

リムジンは海岸沿いに建つ、

レストランの前に着いた。


入口が…色とりどりの花で埋もれている…


(何だこれは…素敵過ぎるじゃないか…)


誰もがそう思いながら、

車から降りると…

海から吹いてくる潮の香りと、

花の匂いが…12名を包んでくれた。


外に出て…いきなり歓声を上げたのは

メリーである。


小さい時に、街角のポスターで見た光景が、今メリーの目の前に広がっているのだ…


「ベイ、私が子供の頃に見た写真って…

カメラマンの方はきっと、

この場所から写真を撮ったんだわ…

うん、絶対にそうよ…」

そう言って喜んでいる。


ベイはメリーを後ろから

ソッと抱きしめると…

「素敵な所だねハワイって……

高いビルと、白い砂浜…

見るからに強そうな岩山と…

後ろに広がる青い空…いいね…」


「ベイ,連れて来てくれて、

ありがとう…

私とっても嬉しい…」

と言う言葉に、

ベイは更にメリーを、

ギュッーと強く抱き締め…


「メリー…あの日は…

朝から本当に寒かったね…」

「えっ?…」

「ボブとグレイとジョニーが

風邪を引いてさ…

薬なんて買うお金も無くて、

それでも薬を手に入れたくて、

2人で街をさまよったよね」


「ベイ覚えていてくれたの…」

そう言いながら、メリーの目には涙が

溜まって居る…

「メリーとの事は…

何だって覚えているよ。

メリーは…

壁に貼ってあるハワイのポスターを

指差して、


「暖かい所に行けば、

風邪なんて…ひかないのかなぁ…

行って見たいなぁ…」

って言ったんだよ…

ゴメンね、ずいぶんと遅くちゃったね…」

メリーは泣きながら振り返ると、

ベイの首に手を回し…

「愛してるベイ…大好きよ…ありがとう!」

と言いながら、何度も…キスをした。


リムジンから降りた10人は…

ベイ夫妻を観て…

(おぉ…朝から愛し合っているなぁ…

いいじゃないか、

夫婦なんだし、新婚なんだし…)

そう思いながら、

10名は先に…店内に入って行った。


レストランで朝食を済ませた12名は、

いったん砂浜に出ると…

フリー・メーからの案内を待っている…


フリー・メーは、

皆んなの前に浮かぶと…

「皆さん、今から

自由時間とさせて頂きます!

集合場所を決める事はしません、

時間になりましたら、

私達が迎えにまいりますので、

でわ皆さん…

ごゆっくりと!」

そう言って、フリー達は頭を下げた。


トムとニーナは手を繋いで走り出した。

ブラウンとレイチェルが

声をかけようとした時、

フリー・ルーが2人の前に来て…


「私が2人を守ります…

ですから御夫婦で…楽しんで下さい」

と言ってウィンクをしてくれた。


ブラウン夫妻は顔を見合わせた後に…

「よろしくお願いします」

と言って頭を下げた。


海から吹いてくる風は…

やや熱風だが気持ちいい。


心地よい太陽の日差しは、

サングラスをかけないと…

少し眩しい。


レイチェルは夫の耳元で…

「私達は今…

本当にハワイに居るのよね?…」

ブラウンは微笑みながら…

「そうだよ、夢のようだね…

ベイ博士が、

ホテルに来て下さって居なければ…

今頃ホテルを手放し,

子供を失い…僕達は、どうやって…

生きて居たんだろうね…」


「えぇ本当にその通りよね……ねぇ見て、

トムとニーナの嬉しそうな顔…あっ〜…」「どうしたのレイチェル?」

「私ったら…カメラを持ってくるの

忘れちゃった…

あの2人の嬉しそうな顔…

撮ってあげたかったなぁ〜」

と言った時である、


2人の間にもう一度フリー・ルーが

飛んできて…

「ブラウンさん、レイチェルさん、

今日の…遠足の全過程は、

私達フリーが,

全て…記録していきますので

御心配なさらないでください」


ブラウンは頭を下げながら…

「何から何まで、本当にありがとう

ございます」

「御用が御座いましたら、

何なりとおっしゃって下さいね、

とりあえず、サングラスはいかがですか」


2人がサングラスを受け取ると

フリー・ルーはニッコリと微笑み

飛び去って行った。


ボブはリンダの手を引き…

ブティックに入ると、水着を購入して…

一気に海に飛び込んだ。

泳ぐと言うよりも…

水の中で、

リンダとイチャつきたかったようである。


ジョニーとアンジーは…

オシャレなカフェに入り、

ラジオから流れてくるDJの喋り方に

耳を傾けた。

「アンジー、ハワイっていいねー」

「うん、素敵ね〜」

「アンジー…」

「なぁに?」

「いつも思っている事なんだけどさ…

やっぱり君は、世界で一番、

可愛い女性だよ」

「ありがとうジョニー…

でも、お願いだから…小さい声で言って…

周りの人達が…

私の顔を見ているから…」

と言って、真っ赤な顔で…下を向いた。


グレイとルーシーは、事前に調べておいた

レストランに行っていた。

グレイが小声で…


「ルーシー、この店のソースの味…

最高、勉強になるよ」

と言えば…

「私が食べているスィーツも最高よ」

そう言ってお互いが微笑み合い、

食材をフォークに乗せ


「あっ〜ん…」と言って…

食べさせ合っていた。


トムとニーナはとにかく嬉しくて、

走り回っていた。

「お兄ちゃん、私…喉が渇いた…」


「そうだね…パパとママの所に行こうか?」

そんな事を言いながら…

何となく2人は…

洋服や靴を売っている店を

眺めていた…

(…パパとママってあんまり洋服を持って

無いんだよね…)

そう思っている時に後ろから…


「飲み物は、何がいいですか?」

そう言って…2人の肩を、軽く叩く人がいた。

振り返ると…

ルーシーが立っていた。


「あっ…ルーシー先生」

とニーナが言うと…

「私はフリー・ルーです、

何を飲みたいですか?」

トムは首を傾げながら…

「あの…本当にルーシー先生じゃ…

ないんですか?」


フリー・ルーは頷きながら、

2人の飲み物を注文した…

そして、店員さんにお金を払い終わると、

フリー・ルーは、

急に元の15センチ程の大きさに戻り…

「ちゃんと2人のことを、

守って居ますからね、

必要な時は呼んで下さいね」

と言って飛び去って行った。


ニーナは思わず…

「お兄ちゃん…ベイ博士って本当に…

すごい人なのね…」

「うん…」

二人はしばらくの間…

呆然と…立ち尽くしてしまった。


フリー・ルーは2人に声を掛ける前に…

2人の視線の先を記録し…

女将にその映像を送って居た。


自分達の物もあるが、

両親に似合う服や靴を見ていたのだ。

「パパとママってあんまり洋服持って無いのよね…」と言うニーナの呟きに、

女将はフリー・ルーに…


「全て購入しといて貰えるかしら、

きっと喜んでくださると思うわ…」


「かしこまりました女将様!」

フリー達のこう言った報告で、

この先も色々な品物を

ブラウン家に対して…

サプライズ購入していく事に成る。


12名は、2時間を全力で楽しんだ。

フリー達は…

各カップルの前に行き…


「皆さん、お楽しみのところすみません、

スカイシップに戻る時間です、

次は、ピラミッドの中を見学に行くと、

女将様がおっしゃっていました…」

そう言いながら、

ブレスレットを…

球体の乗り物に変身させると、


12名を順番に、

スカイシップに連れて帰った。


「お帰りなさい、ハワイを楽しんで

頂けましたか?」

匠の言葉に、

12名は声を揃えて「は〜い」と答えた。


すると女将が…

「とても良い御返事です、

フリー達から聞きていると思いますが、

次は、アンジーさん推薦の

エジプト……ピラミッドです…


着くまでの間に皆さん…

光のシャワーを浴びて頂きます


汗をかいた方、海に入られた方…

ジッとして居て下さい…

全身2秒で終わります!」


2秒後…

「えっ!海水で濡れた髪の毛が、

乾いて居て…サラサラに成っている…」

とリンダが言えば、

ボブは…

「お湯のシャワーも良いけど…

光のシャワーも凄いですね!」

そう言って親指を立てている。


匠が「喜んで頂けて嬉しいです」

と言うと、

女将は微笑みながら

「ピラミッドの話を少しさせて下さい」

と言って、講義を開いてくれた。


トムとニーナが少しでも

理解できるようにある。


説明が全て終わると次は匠から…

「お待たせしました、

ピラミッドの斜め上に着きました」


窓の外には巨大なピラミッドが…

全員が歓声を上げ…そして、

息を呑んだ。

すると女将から…


「皆さん、ソファーの上に、

着替えを用意しておきました、

もし宜しければ…」


12名が振り返ると

いつの間にか洋服が…

アンジーが嬉しそうな声で…

「ありがとう、匠さん女将さん、

今度はサファリジャケットなのね、

ところで今着ているアロハシャツは…?」

女将は優しい声で…


「いま着ておられる服も、

これから先に着替えて頂く服も、

全て皆さんに、プレゼントいたしますので」

と言うと、ジョニーが…

「良かった〜このシャツ、

とっても気に入ってたんですよ」

と言って服をさすった。


7人はベイが用意してくれた洋服を、

沢山持って居る…

ジョニーがあえて女将に…

「気にいった」と言ったのは、

ブラウン家の人達が、欲しいんじゃないかな〜と思ったからである。


ジョニーは横目で…

ブラウンの顔をチラッと見た、

奥さんと嬉しそうに見つめ合っている…

(良かった、喜んでいる…)

そう思いながら

アンジーと微笑み合った。


着替えを済ませた12名は、

スカイシップの外に出た。


ハワイとは12時間の時間差があるので

外は真っ暗である。


間近で観るピラミッドの大きな事…

全員でピラミッドを見上げ…

全員で身震いをした。


「本当に立派な建造物ね…

鳥肌が立っちゃう」

そう言って、アンジーはジョニーに

抱き着いた。


皆んなでピラミッドの中に入ると、

中は真っ暗で…ひんやりとしている…

8人のフリー達が一斉に光を放つと、

一瞬にして…目の前が明るく成った。


どこまでも続いているように感じられる…

石の壁と天井…

12名は思わず

「おぉ〜…」と言う声を漏らしてしまった。


ピラミッドと言う建造物に、

人は「永遠」と言う言葉の何かを

感じているのか…

12名は口々に


「皆んなで力を合わせると…

こんなにも荘厳なモノが出来るんだ…」

「そりゃあ…世界遺産に成るはずだよね」


と言うような言葉を繰り返しながら…

壁面の石に手を添えたり、

斜め上に続く…

長い通路の先に…目を向けた。


「すごいわねぇ…」

そう言う言葉しか頭に浮かばなかった。


12名は広い空間にたどり着いた、

王妃の間である、

ニーナはトムに…


「お兄ちゃん王妃様って王様の奥さんなんでしょう」

「そうだよ」

「王様の部屋は別にあるの?」

「そうだよ、今来た通路を戻って…

大回廊をズッと斜め上に行った所だよ」


「別々の部屋で淋しくなかったのかしら」「う〜ん…女将さんの3分間ピラミッド講義の中では…

その事は入ってなかったね…

きっとその時代、その国の決め事があったんじゃないのかな…

グレイ先生に聞いてみようか?」


ニーナは、グレイとルーシーの方に

目を向けた、

とても楽しそうに何かを喋っている、

ニーナは兄の手を握り…


「お兄ちゃん、先生方も…

ベイ博士も…パパとママも…見て…

皆んな幸せそうな顔。

私達子供が邪魔しちゃダメよ、

分からない事は、家に帰ってから

調べましょ…」と言った。


トムも周りを見回し…

「そうだね…帰ってからパソコンで

調べてみようね」

と言って微笑んだ。


ピラミッド見学を終えた12名は、

いったんスカイシップに戻ると…

次の洋服に着替えた。


ブラウンは着替えながら

「レイチェル…なんだかモデルさんにでも成ったような気持ちだよ、

アロハシャツ、サファリジャケット、

そして今度は…紺色のスーツ…」


「とても似合ってるわよ、素敵よブラウン」と言う妻のセリフに、ブラウンは思わず

「生きてて良かった…」と呟いた。


愛する妻と、子供さえ居れば、

後は何もいらないと思っている…

しかし、夫として、父親としては、

それだけでは済まされない…


妻に綺麗な洋服や、靴を買ってあげたいし、

子供達を、

遊園地や動物園に連れて行って

あげたいのだ…


でも現実は厳しくて、

食べて行くだけで精一杯の毎日で…

時には…それすらも厳しくなって、

銀行から、

お金を借りなければならない事もあった。


それがある日…

空から8人の神様が降りて来て……

ブラウンは、そんな事を、

朝からずっと考えていたので…

妻から「素敵よ」と言われて…

思わず、

生きてて良かった、

と呟いてしまったのである。


妻は夫の顔をジッと見つめて…

「私も…生きてて良かった、

って思った時があるの…

今もその思いが続いているのよ」


「どんな時だったんだい?」

「貴方と出会った時、

貴方がキスをしてくれた時、

貴方に抱かれている時…」

ブラウンは泣きそうになり、

上を向いてしまった…


その時、女将から…

「皆さん、着替え終わりましたか?

鏡の衝立を下ろしても宜しいですか」

と言う声が…


レイチェルはとっさに…

「スミマセン、あとワンピースのファスナーを上げるだけです」

と言いながら…

夫の涙をソッとハンカチで

ぬぐった。


そして鏡のついたてが下ろされると…

12名の目の前には…

ナイアガラの滝が…

それも莫大な量の水が…

目の前で

『わたし、落ちてます‼︎』

と言うような、滝の取っ掛かり…


目線を上げると、

広い川の全貌が、湖のように見え…

目線を下げれば、

吸い込まれてしまうんじゃないだろうかと思えるような滝壺が…


まるで滝と、にらめっこをしているような

格好である。


滝とスカイシップとの間は、

5mほどしか離れていない。

なんなら水が、

「バシャバシャ」

と、スカイシップにかかっているのだ。


「う〜んスゴイね〜」

と言うベイの感想に対して、

11名は(…近すぎて怖いよ〜)

と思った…


その時、激流の中に人影が…

「えっ?」と皆んなが思った次の瞬間

「キャッチしたよ」と言う匠の声が…

「了解しました、離脱します」

と言う女将の声が…


スカイシップは、

アッと言う間に、500m上空の位置に

移動した。


女将が…

「皆さんスミマセン、

一人の女性が川に落ちて、

助けに飛び込んだ男性も、

一緒に流されているところを発見した

ものですから」


すると今度は匠が…

「ベイ博士、2人とも心肺停止の状況です、下に降りて来て頂けますか?」

「はい、直ぐに降ります…」


緊迫した状況に、

ブラウン夫妻はドキドキしたが、

トムとニーナはニコニコしている。


下の部屋には男女の遺体が、

ブラウン夫妻は更にドキドキし出して…

トムとニーナは更にワクワクし出した。


ベイがマシンを操り、

遺体が煙に包まれ…

そして中から

元気なカップルが手を繋いで出て来た。


絶句するブラウンとレイチェルに…

トムが…

「パパ、ママ…僕とニーナも…

あのマシンで生き返らせて貰ったんだよ」


ニーナも頷きながら…

「それまでの私とお兄ちゃんは、

フワフワ浮いてたのよ」

ブラウン夫妻の心のドキドキが…

感謝と感動に変わった。


カップルが…

「神様ありがとうございます」と言うと、

ベイは、あいも変わらず

「私達は悪魔の使いで…」

と言う様な事を言い出した。


するとカップルから…

「天才科学者のジョークって、ウケますね、最高ですね」と言って…笑われた。


ジョニーはすかさず…

「本当の天才は…ユーモアが有るんだよ」

そう言ってウィンクをした。


カップルを元の場所に送り届けた後…

12名は昼食(現地では夕食時)

をとる為に

ナイアガラの滝が

一望できるレストランに入った。


夕暮れ時がまた何とも言えない

美しさである。

ウットリしながら滝を見つめている

ボブとリンダに、

アンジーが、ボソッとつぶやいた


「ねぇ…女将さんと、匠さんは、

本当に優しいわよね…」

ボブは首を傾げながら…

「急にどうしたんだい…」


「いや…何て言えばいいのか、

前にね…

人工知能は人間が地球上から

いなくなった方が…

自然環境が整って良い、

何て言う事を書いている記事を…

読んだ事があって…

でも女将さんも、匠さんも、

スっごく優しいでしょ…

なんか、不思議だなぁって思って…」


アンジーの何気ない呟きに対して、

誰も答える事が出来ない…

(…うん、確かに、本当に優しいよね)

その場に居る誰もが…

そう思っていたからである。


さて、そうなると…製作者と言うか?

生みの親と言うか?

ベイ博士に尋ねるしかないと思った、

11名はさりげなく…

視線をベイに向けた…

ベイは、その疑問に答える為にか、

ニッコリと微笑んでいる。


メリーが皆んなを代表するような形で…

「ねぇベイ、教えて…

なぜ、女将さんと匠さんは優しいの…?」


「良いよ、皆んなに隠す必要なんて

何も無いもんね。


…結論から先に言うと、

僕にも分からないんだ。


僕が御2人を創ったのわね、

僕が皆んなを迎えに行った時…

もしも皆んなに会えなかった時…

僕自身も、現世に帰って来れなかった時…

そう考えた時に、

僕の分身的な存在を残して

起きたかったんだ、

其れが…女将さんと匠さん。


はじめは2人とも、

声を出せなかったんだよ、

身体に文字が浮かぶだけ、

だけど、僕の全てをインプットした御二人は、スカイシップを創り上げてくれ…

僕の前に帰って来てくれた…


そして…

「ベイ博士、何なりとお申し付けください」って言ってくれて、

でっ、その後…

皆んなが知っている様に…

御二人は、

煙の身体を持つように成り…

とにかく凄い勢いで進化しているんだよ。


実は僕も…心の何処かで、

2人が暴走するんじゃないかな?

って思っていた時も

あったんだ…

でも2人は優しいままだった。


僕は、ここに居る11人が、

心の中で何を感じ、何を思っているのか

ゼンゼン分からない…

メリーが僕の心の中を分からず、

僕もメリーの心の中を知らない

って言うのと同じでね…


今現在、女将さんと、匠さんが…

優しい理由も…僕には分からないんだ」

と答えた。


(…なるほどねぇ〜)

と誰もがそう思った。


しかしメリーだけは…

皆んなと少し違う所が気になったらしく…


「…私は、ベイの思いを何だって

知っているし…

ベイも、私の心の中を、何でも知ってくれていると思ってた…」


そう言って唇をとがらせている、

「分からない」と言う言葉が気に入らなかったようである。

明らかに、誰の目から見ても、スネている。


すると、日頃なら優しい声で…

「ゴメンよ」と謝るベイが、今回は謝らない、それどころか…


「…じゃあ…メリーに聞くけど、

僕が今…何を考えているのか、

分かるかい…」

と言った。


メリーは少し考えてから…

「わ、分かるわよ…きっと新しいマシンの事で…悩んでいるんだと思うわ…」

「ぜんぜん違う!」

「えっ…?」

一瞬にしてメリーの目には…

涙がたまった、


周りに居る10名は…

(あっ〜…ベイ博士…大人気ない…)

と思ったが…

ベイは、そんな事ゼンゼンお構い

無しである。


「僕が今、考えているのは…

今朝、メリーと愛し合った事を、

繰り返し思い出しながら、


『あっ〜、もっとメリーを沢山抱きしめていたい、メリーの胸に顔を埋めたい、

メリーを膝の上に乗せていたい』

常にメリーの事しか考えていない。


メリー…日頃、僕がそう言ってるのって…

冗談だと思ってるの、

本気で言っているのに…

少し残念だなぁ…

ねっ、人の心の中なんて…

分からないものだろ」

そう言ってメリーの目をジッと見つめた。


メリーの顔は一瞬で真っ赤になり、

そして、涙をこぼしてはいるが、

満面の笑みで

「ゴメンなさい、私…

ベイの気持ち…ぜんぜん分かってなかった、

本当に私の事ばっかり考えてるの?」


「そうだよ、メリーを抱く事ばっかり

考えてる」


「もうベイったら…ゴメンなさい、

わたし何にも…分かって無かった」


そう言って、ベイの胸の中に顔を埋めると、

「いいよ…メリー…」

と言って、

優しく抱きしめた。


皆んなは、そんなベイに対して…

(…そう来たか…ベイ博士…ずるいぞ…)

と思った。


するとルーシーが…

「見ている私達が恥ずかしいんですけど」

と言い、リンダは

「2人が朝から愛し合った事なんて、

メリーの首筋のキスマークを見て、

皆んな知ってるし」と言い、


アンジーは対抗心を持ったのか

「私だって朝からジョニーにいっぱい

愛されたし」

と言って胸を張っている。


グレイは笑いながら…

「皆んなヤメテ、トムとニーナが居るんだよ、教育上よくないよね」

そう言って

ブラウン夫妻にゴメンなさい、

と言うような顔で頭を下げた。


ブラウン夫妻は(構いませんよ)

と言うような顔で、

首を横に振って微笑んでいる。


その時ボブが、

手を…「パンパン」と鳴らし…

「ハイハイ、大人のエッチな話は

おしまいだよ、

今は楽しい遠足の最中なんだからね、

ゴメンよトム、ニーナ…

話が変な方に脱線しちゃったね」

そう言って2人の頭をなぜた。


するとニーナが…

「ボブ先生…大丈夫ですよ、私もお兄ちゃんも知ってるから、ねっ、お兄ちゃん…」

と言った。


するとジョニーが少し慌てた口調で…

「待って待って2人とも、

まだ少し早いと言うか、

知らなくていいんだよ…」

そう言って2人の口をふさごうとした、


しかし、

トムの口の方が一足早く…

「見たんです!

僕とニーナの身体がフワフワしてる時に、

パパとママが泣きながら、

僕とニーナの名前を呼んで…

「もう一度ママのお腹から、生まれて来て」

そう言ってセックスしてました。


やらしい事だなんて思って居ません。

スっごく嬉しかったです、

パパとママに…

僕達2人は愛されて居たんだって…

生きている時に、2人でふざけて仕事の邪魔をして、

パパとママに叱られて…


嫌われちゃったかなって思っていたから…

本当に嬉しくて。

だからセックスの話しを、

僕もニーナも…

やらしい事、なんて思っていませんから」

そうキッパリと

言い切られてしまった。


 〈 良かった事 〉


大人達は2人を見つめて…

(…なんて大人っぽい事を言うんだろう…

しっかりしているなぁ……

女将さんと匠さんが

優しいと言う話しから

セックスの話しになってしまったけど…

なんだか2人のお陰で、

素敵な話に、まとまったような気がする)

と思った。


しかしブラウン夫妻だけは、

真っ赤な顔で……

うつむいてしまっている。

かわいそうに、

とんだトバッチリである。


いずれにせよ、話しを上手くまとめてくれたのはトムとニーナであり、

話しを脱線させたのはベイ夫妻である。


ブラウン夫妻を除いた6人の大人達は、

ベイとメリーに対して…

(…人前でノロケ話をするんじゃないの…)と思った。


メリーはまだベイの胸の中で甘えている。

ベイは…

メリーの背中とお尻をさすりながら、

皆んなの顔色をうかがっていた、

そして…


(…良かった…皆んな僕の話しを

信じてくれた…

フリー達の前で話す事は…

全て女将さんに筒抜けなんだよ…

僕の本音を聞いても、

女将さんは、怒らないとは思うけど…


メリー嘘をついてゴメンよ、

80%はメリーの事を考えているんだけど、

20%は他の事を考えているんだ…

でも愛しているのはメリー、

君だけなんだよ…)

そう思いながら…

もう一度強く抱きしめた。


食事の後……

大人達は、テラスでコーヒーを…

そしてトムとニーナは、

チョコレートパフェを食べながら…

ナイアガラの滝をゆっくりと…

目に焼き付けていた。


フリー達が皆んなの前に浮いた…


「申し訳ありません、

次の目的地に向かう時間がまいりました」


12名はスカイシップに戻り…

次の場所に向かった。


スカイシップは今…

マチュピチュの空中都市の上空……

500mの位置に静止している。


着替えが終わり

鏡の衝立が降りた…

ブリッジの大きな窓の外には

月明かりに照らされた

雲海が広がっている…


前に進み窓の斜め下を見ると、

雲の隙間から

古代の建造物が見える…


「すごい、本当に雲の中に有ったんだ!」

そう言って、驚いているのはグレイである。


ベイは、日頃みんなの食事の世話をしてくれるグレイとルーシーに、

他のメンバーよりも少し多めに、

希望を叶えて上げようと

思っていたのだ。


だから、グレイが子供の頃に

見てみたいと言ったマチュピチュと、

ルーシーがテレビを指差し…


「いつか…行ってみたいなぁ〜」

と言っていたナイアガラの滝を、

自分の行きたい場所として皆んなに発表したのである。


ルーシーに抱き着き、

子供の様に喜ぶグレイを見て…


「良かった、喜んでいる…

いつも皆んなの食事…

本当にアリガトウね…」

ベイは小さな声でそう呟いた。


ニーナは興奮しているのか、

少し高い声で…

「お兄ちゃん見て…

雲が滑り台のようになって、

あの古い、石のお家まで繋がっているのよ…

あぁ〜素敵…夢みたい」

そう言って喜んでいる。


すると匠が…

「ニーナちゃん、雲の上を…

すべりたいですか?」

と尋ねてきた。


ニーナはとっさにベイに視線を向けた…

(…あっ〜博士が笑っている、

と言うことは、滑れるんだ〜)

一瞬にして察知したのか…

「はい、滑りたいです!」

と答えた。


すると匠は優しい声で…

「そう言われると思って、

ちゃんと用意して起きましたよ…

大人の方達も童心に戻られて、

一緒に滑り降りて下さい」


トムとニーナは当然喜んだが、

大人達もかなり嬉しそうに

目を輝かせている。


ブリッジの大きな窓ガラスが…

ゆっくりと下に下がっていく、

リンダがボブの耳元で…

「今回の服装が、なんでジーンズなのか?

滑り台があるからなのね」

そう言って小さく笑うと、


ボブは軽々とリンダを抱き上げ…


「何で、君はどんな服装も似合うんだよ…

ジーンズがリンダに着られて…

喜んでいるよ!」

するとリンダはボブの首に手を回し…

小さな声で

「…バカ…」と言いながら、

キスをした。


アンジーは窓から手を伸ばし、

雲に触ってみた…

「きゃっ〜フワフワしている〜

気持ちいい〜」

するとジョニーはアンジーの耳元で

「君の胸が世界で一番…

フワフワして気持ちが良いよ…」

アンジーは

「もぅバカね…」と言いながら

ジョニーの顔を

自分の胸の中に押し込んだ。


誰もが自分のパートナーと手を繋ぎ、

窓から身を乗り出し、

滑り出す準備をしていた。


ボブの膝の上に横座りしているリンダ。


「ねぇ…スポンジケーキの上ってこんな感じなのかしら」と言って

グレイの膝の上に乗っているルーシー。


「あなた、絶対に手を離さないでね」

そう言って両手でブラウンの手を握る

レイチェル。


「お兄ちゃん早く手を繋いでよ」

せかすニーナに…

「はいはい、お待たせしました…」

と言って、手を握るトム。


そしてベイは…

「おいでメリー…」

と言って自分の膝の上ポンポンと叩いた、

(…リンダのように横座りか前向きに

座るといいよ、)

と言う意思表示である、


しかしメリーは、

座っているベイに、抱き着くような格好で

股がった…

「あの…メリー…ちょっとエッチな感じに見えるんだけど…」


「大丈夫よ、私達…夫婦なんだし、

トムもニーナも理解してくれているし。

皆んな、行くわよ!」

メリーが声をあげると、

全員が一斉に滑り出した。


雲の滑り台は柔らかいが起伏が激しい…

バウンドするたびに…

パートナーに強く抱き着かないと、

どこに飛んで行くか分からない…

「きゃっ〜」と言う悲鳴を上げながら、


どいつも、こいつも、

めちゃくちゃ嬉しそうである。


500m程の滑り台を

1分ほどで滑り終えたが…

12名とも、

かなり見た目がヤヤコシイ感じで

抱きしめ合って居た。


そして誰もがチョッピリ赤い顔で

「アッ〜楽しかった!」

と言いながら立ち上がると…


ベイが、いきなり先生の様な口調で

語り始めた。


「さて皆さん…今から1時間の

自由時間ですが、僕から一つ

提案がていああります。

今から

自分の足で歩くもよし、

或いは、フリーとブレスレットに頼んで…


例えば、2人掛けの空飛ぶソファーに成ってもらって

「遺跡を隅々まで見たい」と言えば時間内にすべて回ってくれます。


よくパートナーの方と相談して

決めて下さい」

と言った。


すると、皆んな合理的に見て回りたいと思ったのだろうか?

全員が…空飛ぶソファーを選んだ。


大きな絨毯の上に、2人掛けのソファーが…

2人が座ると透明な球体が全体を

包んでくれた。


「フリー・アー、よろしくお願いね」

と言えば…

「かしこまりましたアンジー様」

そう言って

地上から1mほどの高さに上がり、

時速15キロほどのスピードで

進んで行った。


ちなみに、ブラウン夫妻には、

フリー・リーが、


トムとニーナには、フリー・ルーがついた。


6機の球体は、なぜマチュピチュの遺跡はこの様な形で残っているのか?

そんな疑問を、

子供にも分かりやすい解説をまじえて、

遺跡の中を…

自由自在に飛び回ってくれた。

誰もが…

(へ〜、そうだったんだ、フリーの説明は分かりやすいなぁ)と大喜びである。


1時間はアッと言う間に過ぎ去り…

6機の球体はスカイシップに帰って行った。


デッキに降り立ったグレイは、

少し興奮気味に…

「女将さん、匠さん、

有難うございました。

とっても勉強になりました。

古代文明の息吹を感じる事ができ

本当に素晴らしかったです!」


女将は…

「喜んでいただけて良かったです、

皆さん…歴史がお好きなんですね、

私と匠は、地球上の事は何でも

解っていますので、

何なりと質問をして下さいね」

と言ってくれた。


匠はその間に、ソッと…

次の目的地に進路を変えた。


次はスイスである。


皆んなの着替えが終わり、

鏡の衝立が降りると、目の前には…

満点の星空の下に輝くスイスの山々…


リンダは思わず…

「あぁ〜素敵、テレビで見ていた景色よ…

見てボブ…綺麗〜」

「そうだね、綺麗だね…リンダの次にね…」

「えっ、?もぅヤダ〜ボブったら…」

そう言って…キスをして、甘えている。


ルーシーはグレイの耳元で…

「もうお兄ちゃんは、

リンダ姉さんの事で頭がいっぱい

なんだから…」

するとグレイが…

「そうだね、ボブはリンダの事が

大好きだからね…」


グレイは、ボブとルーシーの兄妹が施設入って来た日の事を、今でもしっかりと

覚えている…


その日は朝から小雨が降り…

何となく気が重くなるような…

そんな日に、ボブとルーシーが

施設にやって来た。


ボブの後ろで小さく震えながら、

下唇を噛んでいるルーシーに、

グレイは一目惚れをした。


園長先生が2人を紹介している最中に、

部屋の隅っこから女の子の泣き声が…

当時7歳で、

身長が156cmあったリンダは、

男の子達から、

マッターホルンと言うアダ名を付けられて

イジメられていた…

園長先生が注意をする前にボブが…


ルーシーに見惚れているグレイに…

「ちょっと妹を頼むな…」

そう言って、ルーシーの手をグレイに

握らせると…


ボブは泣きながら両手で顔を隠している

リンダの前に立ちはだかった…


「人の嫌がる事を言ってんじゃねえよ」

当時9歳のボブは、

身長が150センチ、

ボブが睨みを効かせた相手は、

15歳の3人組で、

身長は170センチ前後の

イジメっ子達だった。


3人は…ボブの頭を叩きながら…

「新入りが出しゃばるな」

と言った次の瞬間である…

ボブのパンチが炸裂した…

3人はお腹を抑えて床に倒れこんだ…


しかし彼等には仲間がいる、

あっという間に6人の上級生に囲まれた。

その時である、

ベイがボブの味方に着いた。


それまでも、誰かがイジメられると、

必ず間に入って止めていたのが

ベイ少年である。


頭の良い彼が入るとイジメっ子達は…

苦々しい顔で、その場を離れる、

それはなぜか…

頭の良い彼の後ろには、

大人が着いて居るからである。


部屋の中はざわついた、

大人達よりも頭の良いベイが、

今日入って来たばかりの…

ボブの味方に着いたからである。


6人の上級生は戦線を離脱し…

床に倒れて居る三人は皆んなから孤立した。


ボブは3人には目もくれず、

自分よりも6センチ背の高いリンダに

「もう泣かなくていいから、

今日から、君の事をイジメる奴らは

俺が全員ブン殴ってやるから、

なっ、だからもう泣くなよ、

あの、俺はボブって言うんだ9歳。


それから向こうに居るのは、

妹のルーシー6歳。

今日から此処で暮らすんだ…

よろしくなっ、

えっと君は…

俺よりも、お姉さんだよね、

名前を聞かせてもらえないかな」


「私はリンダ…7歳なの…」

そう言って涙を拭きながら…顔を出した。


(なんて…綺麗なんだろう…)

ボブはリンダに…一目惚れをした。


「ゴメンよ…俺より…

年下だったんだね。

あの…リンダって綺麗だね…

俺なんかに言われても…

嬉しくないだろうけど…

きっと大人になったら、モデルさんとかに…

なれるよ、きっと…

うん…本当に、美人だね…」


今まで人から褒められた事のない

リンダは…思わず…

「…じゃあ私…大人になったら

ボブの…お嫁さんになってあげる…」

そう言って真っ赤な顔で微笑んだ。


するとボブも真っ赤な顔で

「やったぁ〜約束だよ、

大人になる楽しみが出来たぁ〜」

そう言って微笑んだ。


周りの子供や大人達は…

「出来る訳ないじゃん…」

と言いながらクスクスと笑っていた…


しかし、今現在….

2人は結婚して…

抱きしめ合い、愛し合っているのだ。


人生、先の事など、誰にも分からない…

だからこそ、楽しいのである。


グレイは、そんな事を思い出しながら…

横に立っているルーシーを抱きしめ

「僕はルーシーと結婚する事が出来て…

本当に良かった」

そう言って…本気のキスをした。


すると、ルーシーの両腕はダランっと

下がり…

「…グレイ、急にキスしたら…私…

力が抜けちゃう…」

グレイは微笑みながら

更に強くルーシーを抱きしめた。


〈 夫婦だから 〉


皆んながイチャイチャし出してしまった。

女将は笑いながら…

「ハイハイ皆さん!

時間が有りませんので、

甘えっ子は…

遠足が終わってからにして下さいね、

優しいトム君とニーナちゃんも、

だんだんイライラして来ましたよ!」


トムとニーナは笑いながら…

「していませ〜ん!」

と言って首を横に振った。


今回、12名の服装は…

スキーウェアである。

女将と匠は、皆んなが、

スキーや、スノボーや、スノーモービル…

なんて言う物に乗りたいのかな?

と思ったので、

今回の服装にしたのである。


ブラウンは、スキーウェア姿の妻を見て

「レイチェル…

スキーウェアなんだけど…

なんでだろう…

お姫様のように見えるよ、

可愛いね…」と言った。


ニーナは父親のセリフに…

「パパ、SF映画の見過ぎ!

宇宙人のお姫様じゃないんだからね!」

と言うツッコミを入れられた。


ブラウンは分かりやすく落ち込んだ。


すると横から…

「あっ、でも、うん、分かるよ、

前に見た映画の中にそう言った感じの…

お姫様って居たよねパパ…」

と言うトムの優しいセリフで、

ブラウンは立ち直った。


そんなブラウン一家の行動に、

思わず皆んなは

吹き出してしまった。


女将は微笑みながら…

「はい、でわ皆さん下に降りますよ〜」

そう言って…

12名を下に下ろしてくれた。

あたり一面の銀世界である。


リンダは…ゆっくりと白い息を吐いて…

「ボブ…私達スイスに来ているのよ…

見て…月明かりの

マッターホルン…美しい山ね…」

「そうだね…素晴らしい景色だね…」


そう言って…遠くを見つめるボブの首に、

リンダはいきなり抱きついて…

「大好きよボブ…ギュ〜っと抱きしめて!」

ボブは力一杯に抱きしめた。


「あぁ〜幸せ〜」

リンダはそう言いながら…

ボブにキスをした。


ベイは皆んなに向かって…

「さあ皆んな、どうしようかな?…

例えば、自分達でスキーや、スノボーや、

ソリ遊びをしたいのか?

皆んなの希望通りにするよ…」

と言って

皆んなの顔を見回した。


するとリンダが…

モジモジしながら手を上げ…

「あの…スイスの街並みとか、

山や森や…色々な景色を

見て観たいんですけど…」


メリーはすかさず皆んなの顔を見回し…

ベイの耳元で

「皆んな嬉しそうな顔をしているわよ」

と告げた、

ベイは小さく頷きながら


「はい! リンダの提案に決定!

フリー・ベー手配を頼むよ」

「かしこまりました博士…」


フリー・ベーは7体のフリーを集合させ、

ブレスレットにバスに成って貰い…

「皆さんお待たせ致しました、

どうぞ御乗車下さい…」

と言った。


全員が中に入り…席に着くと

「皆様、このバスは

空飛ぶバスでございます。

現在は夜ですが、

車窓の外の景色は、

昼間の景色に見えます…

このバスはその様に成っております。

ゆっくりとお楽しみ下さい」


そう言ってバスは地上から10m程

上に上がった。


すると、いきなりボブが立ち上がり…

「皆んなゴメン…いいのかなバスで…」

そう言って皆んな顔を見回した。


ボブはリンダの

提案が即決されるとは思って

いなかったのである。

皆んなの希望を聞いた上で、

多数決で決めると思っていたのだ。


するとベイは笑いながら…

「気を使わなくていいよボブ、

スイスを希望したのはリンダなんだから、

リンダの提案が最優先だよ」


するとジョニーも…

「博士の言う通りだよ、

僕達にスイスのどこに行きたい…

と聞かれても何も

浮かばないから…

だから今

なんだか楽しそうでワクワク

しているんだよ!」

そう言って微笑んでくれた。


バスは色々な所を飛び回ってくれた。

ルーシーはグレイの耳元で

「…人って…美しい景色で泣けるのね…」

「…うん…僕もそう思ってた…」

グレイは返事をしながらルーシーを

抱き寄せた。


…そして…見学を終えたバスは

スカイシップに帰って来た。


「あっ〜素敵な景色だったわね〜」

と言って、ルーシーはグレイに

抱きついている。


アンジーも…

「テレビで見て、知ってはいたけど、

実際に観ると…感動して鳥肌が

立っちゃったわ」

と言ってジョニーに抱きついている。


リンダは、

皆んなの喜んでいる声を聞きながら

「ねぇ、ボブはどうだった…?」

と尋ねた…

「あっ、うん…とても美しかったよ…」

少しタドタドしい答えである。


リンダは心の中で…

(あぁ…まずかったかなぁ、

自分の好きな景色を…

ボブに押し付けてしまったのかなぁ…)

と思って反省していると、

フリー・ボーがとても言いにくそうに…


「リンダ様、スミマセン。

御主人様は景色を…

ほとんど見ていませんでした」


「えっ?そうなの」

「はい、ずっとリンダ様の横顔を見て、

ウットリしていました。


リンダ様、推薦の景色ですのにね、

リンダ様、怒ってもいいと思いますよ」


そう言って、腰に手を当てて

ボブを睨んでいる。


するとフリー・リーが…

申し訳なさそうな顔で…

「スミマセン、私もボブ様の耳元で

「景色を見てください、

後で話が出た時に困りますよ」

と何度もお伝えしたのですが、

リンダ様の顔から…目を離さないんです、


フリー・ボーの言う通り、

ボブ様を叱った方が良いかと思います」

と言った。


リンダの顔は真っ赤になっている。


フリー・ボーは…

「ボブ様、奥様はカンカンに怒っておられますよ、きっと叩かれますね、

目を閉じてください」


ボブは黙って目を閉じた…


ボブの後頭部にリンダの両手が…

「もう…何で私の顔ばかりを見て

いるのよ…」


「可愛いから…つい見とれちゃって」

と言った次の瞬間、

ボブの顔は…

リンダの胸の中に抱きしめられていた

「嬉しい…愛してるわボブ…」


その光景を見ながらフリー・リーと

フリー・ボーは…

親指を立てて…ニヤリと笑った。


女将と匠は…

その光景をさらに上から見ていて…

「オカミ…」

「なぁにタクミ」

「人間って素晴らしい生き物だよねぇ」

「えぇ、私もそう思うわ」

「ベイ博士には感謝

と言う言葉しかないね」

「私も同じ意見よ…

私に、愛するタクミを与えてくださった、

私は、貴方に抱かれるたびに、

貴方への愛が深まって行く事を感じる」


「僕も同じことを感じているよ、

君を抱くたびに、

君の存在の大きさを知り…

自分の中の優しさに気付く。

君の愛が…僕を変えてくれたんだ。


僕は、人間と言う生き物に対して、

慈悲の心を持って接する事が

出来るようになった。

今…人間の為に何か…

助けになる事をしようと思っている」


「あらあら…私達って、

本当に気の合う夫婦なのねぇ、

私も同じ事を考えていたわ」


「僕達は一心同体だね」

「えぇ、その通りよ…だって私って…

何時も貴方にまたがっているのよ」

「そうだね、スカイシップの構造上…

僕は嬉しいけどオカミは嫌かい」

「嫌じゃない…むしろ嬉しい」


「良かった…あっ!

皆さんをギリシャ神殿に

お連れしなくてわ」

「私も皆さんに次の衣装を出さなくちゃ…」女将と匠は顔を見合わせ……

クスッと笑うと、

慌てて次の行動に移った。


青空から黄金色の空に

徐々に変わっていく…

そんな時間帯に、

12名はギリシャ神殿の前に

降り立った。


白いジャケットの下には青いシャツ。

パンツは麻の

ゆったりとした物…

6名の男性の服装である。


女性の服装は白のワンピース…

ただしデザインは…全て違うモノである。


女将が、

一人一人の顔と体型を分析し…

一番似合うモノをホログラムで表す…

すると、匠はそれを観るや否や、

一着のワンピースを…

5秒以内に仕立て上げる…


ハワイの衣装から全て…

女将と匠が作り上げたモノである。


なので、各メーカーが、

必ず付けているタグと言うモノは、

一切付いてない。


ただ2人にも自己主張が有り、

極力目立たない場所に…

(…女将&匠…)と言う

2センチ四方の枠の中に、

コッソリと名前を印刷していた。


12名は…

大きな石造りの柱を見上げていた。

古の賢人達は…

この神殿の中でどんな話し合いをして

いたのか…

ボブはリンダの手をギュッと握り…

「子供の頃から…

この場所に来て見たかったんだ…

でも困ったなぁ〜」


「どうしたのボブ…」

「君は白のワンピースも、

とても似合うんだね、セクシーで…

目が離せないよ〜」

リンダは…

嬉しさのあまり

顔がにやけてしまうことを

必死でこらえながら…


「ごめんなさい、私…どうすれば

いいのかしら…

貴方の言う通りにするわよ」

ボブは微笑みながら…

「こうすればいい!」

そう言ってリンダを抱き上げた、

お姫様抱っこである。


「ゴメンよリンダ…君を抱きしめて居ると、

安心するんだ、

君を抱いたまま…遺跡を観てても

良いかな?」


リンダはボブの首に手を回し…

「もう〜ボブったら…しょうがないなぁ〜」と言いながら、

だらしない顔で微笑んだ。


すると、3mほど離れた所に立っている

ルーシーが静かにしゃがみこみ、

拳ほどの石を拾った。


グレイは首を傾げ…

「どうしたの、遺跡の石は持って

帰れないんだよ…」

「大丈夫よ、お兄ちゃんにぶつける

だけだから!」

グレイは慌てて…

「何言ってるのルーシー、ダメだよ!」

「もう、所構わずベタベタして…

バカじゃないの!」


「そんな事言わないの…

周りを見てご覧…

ベイ博士も、

ジョニーも,ブラウンさんも皆んな、

奥さんを見ながら鼻の下を伸ばしてさ…

遺跡なんか見て無いんだから!

ボブだけだよ、チャンと観ているのは。

僕だって…

さっきからルーシーの事しか

見てないもん…」


「えっ?そうなの…

この白いワンピース似合ってるかしら、

少し胸元が開きすぎって言う感じで…

照れちゃうんだけど…

どう可愛いかしら?」


「素敵すぎて…まぶしいよ」

「えへへ、えっ、待って…グレ…イ…」

そこから先の

ルーシーのセリフは、

グレイのキスによって

かき消されですしまった。


天才料理人のグレイ…

世間では神の舌を持つ男と言われている…

その事と、関係があるのかどうかは

分からないが、

昔から…グレイに本気でキスをされた

ルーシーは、

身体の力が抜けてしまうのか?

両手がダラリと下がってしまう…


今日…何度目のキスだろうか?

グレイは右手をルーシーの腰に回し、

左手でルーシーの首を支え…


「ルーシー…ボブに対してのイライラはおさまったかい…」と聞いた…


ルーシーはトロンとした目で…

「ありがとう…グレイ…おさまった…」

力が抜けたルーシーの手から…

石が落ちた。

グレイのキスで、

ボブは怪我をせずに済んだ。


この神殿の前でも、皆んなのイチャイチャが止まらない。

真面目に遺跡を見学しているのは、

ボブとニーナとトムだけである。


ボブは石段に腰を下ろし、

住宅街に目を向けた…

(この地域一帯…神殿に関わる末裔の

方達が住んで居られるんだろうか?…

世界遺産に囲まれて

生活して居るなんて…すごいなぁ…)

と思っているボブの膝の上には、

いまだにリンダが座って居る。


チラチラと…

2人を見ている観光客もいるが、

ボブは少しも気にしない、

見たけりゃ見ろ…と言う感じを漂わせ、

堂々とリンダを抱っこしている。


高台に居るせいか…

頬を撫ぜる風が心地よい…

ボブが…

「本当に素敵な所だなぁ…」

と呟いた時に、

フリー達は申し訳なさそうな顔で…


「お時間でございます。

次は…ハリウッドに向かうと

女将様から聞いております

いったんスカイシップに

戻りたいと思います」


12名は満面の笑みを浮かべ…

親指を立てた。


〈 いつも一緒 〉


「お帰りなさい、ギリシャ神殿はいかがでしたか?」と言う匠の問いかけに、

ボブは…

「最高でした!…刻一刻と過ぎる

時間の大切さと、

その時間の使い方を

考えさせてもらいました…」


匠は頷きながら…

「例えば、どんな使い方ですか?…」

と尋ねると,ボブは満面の笑みで…


「私が持っている全ての時間を、

リンダの為に使う!」

そう言って、真っ赤な顔のリンダを

ボブは力強く抱きしめた。


すると匠は…

「お見事!…一点の迷いもなく、

言い切りましたね…

ボブさん、私個人の意見としては

大賛成です。

素晴らしい答えです」

そう言って微笑んだ。


( 僕達も同意見だよ )

と思っている男性達。


( 私だって、同じ様な事を言われたわ…)

と思っている女性達。


女将は…

(皆んな…良い人ばかりね…)

と思いながら…


「皆さんお疲れではないですか?」

と尋ねてくれた。


すると、トムとニーナが元気な声で

「はい、大丈夫です」と即答してくれた。


女将はニッコリと微笑み

「はい…分かりました。

でわ、ハリウッドに着く前に、

次の洋服を用意しますね…

あなた…お願いします」


そう言って匠を見つめると、

匠は服を作り出し…

スカイシップをハリウッドに向けた。


鏡の衝立が上がった。

ソファーの上には

次の洋服が用意されている。


「あっ、私の好きな色だ…」

と言ったのは6名の女性陣。


「あぁ、僕が好きなジャケットだ…」

と言ったのは6名の男性陣である。


実はここでも…

女将と匠は、皆んなの衣装をどうしようかと話し合っていた。


「ねぇハリウッドなんだから…

有名な映画のコスプレ…

なんてどうかしら?」

と女将。


「いいね〜、あっ、でもボブさんが居るからねぇ…」と匠。


1年以上前に亡くなっている事に

なっている8人、

普通なら、世間の人達の記憶から

徐々に消えて行くのだが…

ボブは亡くなる前に、余りにも有名になってしまったのだ。


「コスプレで目立って、

人が集まって…ボブさんだって

バレてしまったら…

観光どころじゃなくなるからね」


「そうよねぇ〜…じゃあ女性の方達には、

その方の好きな色の服を…

男性の方達には、その方の好きなジャケットで合わせましょう…」

と言うような、やりとりがあっての、

今回の服装である。


女将がベイに

「博士、ハリウッドの観光には

リムジンを用意すればよろしいですか?」

ベイは麻のジャケットを着ながら


「…たしかジョニーは…

ダブルデッカー車に乗ってみたいと、

アンジーと話していましたよ」


「はい、かしこまりました、

ブレスに変身させて置きます」


「よろしくお願いします、ジョニーが喜ぶと思います」


匠はスカイシップに透明シールドを張り、

ダウンタウンのなるべく

人の少ない場所に…

ダブルデッカー車を降ろしてくれた。


とても良い天気である、

眩しいくらいである。

女将が「疲れて居ませんか?」

と聞いてくれたのは(時差)の事である。


さっきまで居たギリシャは夕方で…

今このハリウッドは、

午前10時を少し過ぎたところである。


女将は「皆さん…お元気ね…」

そう言いながら、

匠と二人で微笑み合った。



バスが走り出す…

2階部分には

御満悦のジョニーを筆頭に、

オシャレな感じの12名が、嬉しそうに

周りの景色を眺めている。


眩しい事もあるが、

お揃いのサングラスを

かけている所がチョッピリ可愛らしい。


ニーナは両親に…

「パパ、ママ、ここって…

映画とかテレビとかで見た事が

あるわよね…」


「あるわよ、素敵な所ね〜」

とレイチェルがこたえると…

「お父さんが子供の頃から憧れていた

場所だよ、夢の都だよ…」と言って

ブラウンが微笑んだ。


トムがなにげなく…

「パパとママって映画大好きだもんね」

と言うと…

「大好きよ…映画を見ている時間は…

現実を忘れる事が出来るんだもん…

ねぇパパ…」


「そうだね、自分達が

ヒーローやヒロインに成りきって

困っている人を助けたり…

でも現実の自分は、

何時も周りの人にスミマセンって

頭を下げていて…


今月の光熱費の支払いどうしよう、

バイトをもう一つ増やそうかなぁって、

ズッと頭を抱えて来たからね…


でもパパには…

大切なママが居てくれたから…

宝物のトムとニーナが居てくれたから…

今まで頑張れたんだよ…」


そう言って三人を見つめ…

「レイチェル…これからもよろしくね」

と言って…キスをした。


トムとニーナは、

両親がどれだけ苦労して来たのか、

子供なりに理解している。

貧しい中で、自分達がどれだけ

愛して貰ったか…


その事もちゃんと理解している、

だから思わず、

涙が溢れそうに成ってしまった。


トムとニーナは…

(…良かった〜、サングラスをかけて居て…)

と思っていたら…


アンジーが後ろから2人の耳元で…

「素敵なパパとママね」と言い…


ジョニーが…

「2人とも優しくて良い子だね」

そう言って頭を撫ぜてくれた…


2人は(必死で我慢しているのに、

優しい言葉をかけないで…)

と思ったが…

こらえきれずに…

トムはジョニーの胸に、

ニーナはアンジーの胸にしがみついて、

とうとう声を押さえて、

泣き出してしまった。


ジョニーはトムの頭を撫ぜながら

(…いずれアンジーと僕の間にも

子供が生まれると思うんだけど、

トムとニーナのように、

優しい子供になって貰いたいなぁ)

と思い…


アンジーは…

「パパとママを大切にしてね…」

と呟きながらニーナの背中をなぜた。


その時…ふと、胸に生暖かさを感じた…

(…んっ?)

と思いながら、

ソッと胸元を見てみると、

素敵なブラウスが

ニーナのハナと涙でベチャベチャに…

(…キャァ〜……)

と思ったが、

健気なニーナを見ていると…

アンジーは更にギュッと強く

抱きしめてしまった。


ジョニーの胸もベチャベチャになって

居たが…

当然怒るわけもなく、

むしろ、昔の自分の事を思い出していた。


(…僕は…気が弱くて、

何時も周りの人達に

怯えていたんだよね、


頭も良くないし…運動神経も鈍い…

当然自分と言うモノに

何の自信も持てないから、

いつも部屋の隅の方で、

皆んなが観ているテレビを…

首を伸ばしたり、首を傾げたり、

息を押さえながらソッと

鑑賞していたんだよね…


そんな時にアンジーが横に座って…

『ねぇ、ヒーローの中で、

一番好きな人っている?』


『うん…このヒーロー…」

『えっ?、ヒーローの中でもこの人…

一番弱いと思わない…』


『うん、思うよ…でも…金持ちなんだから…

遊んで暮らせばいいのに…

正義の為に戦っている…

そんな所が好きなんだ』


『あっ…貴方の考え方…私大好きかも』

って言ってくれて、

そしたら周りの子達が

『変な奴等』って言ってきて…


アンジーが僕をかばってくれて、

アンジーを叩こうとする奴から…

今度は僕が…アンジーを守って


『生意気だぞ』って言う奴等が

10人くらい立ち上がって、

コッチに向かって来て…

「あっ〜ボコボコにされるって

思っていたら…


ベイ博士とメリーが…

僕とアンジーの前に

立ちはだかってくれて…


そしたらボブとリンダも来てくれて、

グレイとルーシーも来てくれて…

嬉しかったなぁ…本当に嬉しかった。


その後にケンカになって、

僕とグレイはアンジーとルーシーを守るために結構殴られて、

その度に、強いボブがリンダを守りながら僕等を助けに来てくれて…


驚いたのは…

日頃メリーと、2人で本ばかり読んでいる

ベイ博士が強かった事だ…

誰からも殴られる事なく、

上手く避けながら、

相手の手首をひねって投げ飛ばしたり、

急に身体を回転させて、

相手の足を払って倒したり…


あの時は本当にビックリしたなぁ…

あの時から僕等は…ずっと一緒に居るんだ。

一緒に居るから頑張れたし、

強くなれたし、

優しくなれたし、

賢くなれた。


でも…

ブラウンさんと、レイチェルさんは…

2人だけで…

色々な事を乗り越えて来たんだろうな…

すごく強くて、優しいパパとママだね…)

そう思いながら、


ジョニーはトムの背中を…

もう一度…なぜた。


ベイはメリーの耳元で

「ハリウッドは、皆んなが

大好きみたいだね…」

「そうね、皆んな嬉しそう…」

ベイは少し考えてから

「フリー・ベー、女将さんに繋いで」

「どうぞ博士、女将様と繋がって居ます」


「女将さん、ハリウッドの滞在時間を

延長したいのですが?」

「大丈夫ですよ、思う存分楽しんで下さい」

「ありがとうございます…」

結局ハリウッドには

6時間滞在する事に成った。


12名はハリウッド通りを歩き…

大好きなスターの手型をなぞり…

色々な映画のグッズを購入し…

映画界の空気を肌一杯に感じた。


ベイは、嬉しそにはしゃぐ11名に向かい

「ハリウッドは本当に夢の都だね、

映画にたずさわる全ての方達に対して、

感謝と言う言葉しか浮かばないね」

と言って微笑んだ。


そこにフリー達が飛んで来て…

「皆さん、スミマセン…時間になりました。いったんスカイシップにお戻り下さい」

と言った。


(…もう少しハリウッドに居たかったが…

時間は限りあるモノなので

しょうがない…

11名は一斉にベイに視線を送り…

(…また連れて来てね…)

と…心の中で呟いた。


するとその想いが通じたのか?

ベイは微笑みながら…

「来月の遠足のコースにも

ハリウッドは入れておこうね」

と言った。


11名は笑顔で

「はーい」と平静を装って返事をしたが、

心の中では

(…やったー又ハリウッドに来れる〜、

って言うか、ベイ博士の心の中で…

遠足は、毎月の恒例行事に

決定したんだ、ヤッター!)


と思いながら、満面の笑みを浮かべた。


スカイシップに戻ると女将から…

「皆さん、ハリウッドはいかがでしたか?」


アンジーが…

「夢がギッシリと詰まった街でした」

と答えると、ジョニーも…

「夢の世界はとても暖かくて、

子供のころを思い出させてくれる、

本当に素敵な場所でした」

と答えた。


匠が…「素敵な所で良かったですね…

さて皆さん、

次はヨーロッパのお城を見に行くのですが、ルーシーさん…

どのようにしましょうか?


全部の城を空から観て回るのか?

それとも二つくらいの城にしぼって

城内に入った方がよろしいですか?」

と尋ねてくれた。


するとルーシーは…

「外見を見るだけで充分です」

と即答した、

女将が…

「城内を観なくてよろしいのですか?」

と尋ねると、

ルーシーは…

「はい、ケーキ作りの参考にしたいので、

城内も気には成るんですが…

少しでも多くの…城を観てみたいんです」

と言った。


匠は微笑み…

「かしこまりました、でわ有名な城を

私どもが厳選して、

皆さんに見学して頂きます」


すると女将はチョッピリ笑いながら…


「今回の衣装は、お姫様と王子様と言う…

少しコスプレっぽくなっています、

気に入ってもらえると嬉しいのですが…」

そう言って鏡の衝立を上げた。


30分後…

12名は少し照れ臭そうに、

周りを見回した。


誰もが素敵なプリンス、

プリンセスなのである。

12名は心の中で…

(…でへへへ…なんか…良い…)

と言う様な…同じ感想を抱いていた。


「皆さん素敵ですよ!」

と言う女将の声に、

12名が真っ赤な顔で微笑んでいると…

匠の方から…


「皆さん、1つの城に

1分から2分くらいの時間をとります、

私が、城の周りを飛んでいる間に、

女将から、

城にまつわるエピソードを

紹介してもらいます。


その時代の雰囲気を少しでも味わえるように、今皆さんが座っておられる

ブリッジの中に、

城内の映像を流します」


すると早速、

1つ目の城の上空に着いた。


スカイシップは、

ゆっくり城の周りを飛んだ…


女将が語るエピソードに合わせて

ブリッジの内装が一瞬にして変わった。


それどころか…

馬や、兵士や、王様までもが出て来るのだ、11名がビックリしながら固まっていると

フリー達が…

「皆さん大丈夫ですよ、

ホログラムですから!」

そう言って微笑んでくれた。


兵士達の行進、戦さの模様、勝者と敗者…

11名は…

(…ホログラムの映像半端ねぇ〜

リアル過ぎて、怖い〜)

と思いながら、ソファーに座って居た。


ルーシーはグレイの耳元で…

「私ってバカよねぇ〜」

「どうしたんだい?」

「お城って舞踏会のイメージしかなかったの…お城は本来、

外敵から身を守る為に建てられたのよね…」

そんなルーシーのセリフを聞いた

フリー,ルーは、

直ぐに女将に報告した。


すると…3秒後には戦のシーンが終わり、

平和を取り戻したお城では…

舞踏会が開かれました。

と言う流れに変わり,

二番目の城からは、

戦のシーンはナレーションだけで終わり,


あとは全て、

王子様とお姫様の恋のお話しと…

結婚式っという流れに変わった。


1時間半のお城めぐりは…無事終了した。


誰もがソファーから立ち上がり…

女将と匠に…

「素晴らしかったです…ありがとう

ございました」

そう言って拍手をおくった。


しかしルーシーだけは…

「女将さん、匠さん、私の勉強不足でした、本当にスミマセンでした。

そして素敵なお城ツアー……

ありがとうございました」

と言って頭を下げた。


グレイを除いた10名は…

キョトンとした顔で首を傾げたが、

まぁ解決しているみたいだから…

いいかな、と思って何も言わなかった。


〈 日本の作家 〉


女将は優しい声で…

「さて皆さん、次は日本の古墳を

観に行きます、

グレイさん…どのように見学されますか?」


「はい、出来ればルーシーと同じように、

空からお願いします」

「下に降りなくて良いのですか?」

「はい!」


グレイは、日本の古墳は国から大事に

保護されていて、

ごく限られた日時と、

限られた人しか、入らせてもらえない事を

知っている。


「かしこまりました、では上空からの

見学にします」

そう女将が言い終わると、

スカイシップは一気に、

日本の上空1万mの高さに……


そして今度は匠から簡単な説明があった。


「古墳と呼ばれるモノは、岩手県から鹿児島県の広い範囲に有りますが、

巨大な古墳は、近畿地方と言う所に

集中しています、

せっかくですから全て観て見ましょうか?」


グレイは嬉しそうな顔で……

「よろしくお願いします」と言ってルーシーの顔を見つめた。


匠はほとんど、瞬間移動に近いんじゃないか…と言うくらいのスピードで、

上空200mから500mの

高さを、縦横無尽に飛び回ってくれた。


そして最後の古墳は…

奈良の箸墓(ハシハカ)古墳で、

日本でもっとも古いとされる、

王様のお墓に向かった。


全てを見終わったグレイは

満面の笑みで…

「匠さん女将さん、

ありがとうございました。

そして僕のワガママに付き合ってくれた

皆んな…ありがとう。

興味がない人には苦痛だよね、ゴメンね」

そう言って頭を下げると…


ボブが笑いながら…

「気にする事はないよグレイ、

俺がリクエストしたギリシャ神殿だって、

好きな人は、キャー!って言うけど、

そうじゃない人は、辛かったと思うよ」

そう言って親指を立ててくれた。


ルーシーが「ありがとう…お兄ちゃん…」

と言うと、メリーが…

「ルーシー、古墳もギリシャ神殿も、

ヨーロッパの城も、

ピラミッドもマチュピチュも、

全部楽しかったし、勉強になったし、

更に大好きになったわ!」


12名はお互いを見つめ合って、

ホッコリとした気持ちになった。


その時…女将から

「皆さん、次はベイ博士が希望された、

枚方市と言う所に行きますね」

と言う声が。


11名は

(…おぉ…ベイ博士が影響を受けた

小説家の家だ…

どんな人だろう…

きっと凄い学歴を持った

人なんだろうなぁ…)

そう思いながら、ベイの顔を見つめた、

もう誰もが興味津々である。


「ベイ博士、到着致しました」

匠の言葉に…

誰もが椅子から立ち上がった。


スカイシップは透明シールドを張って

その家の上空100mの位置に

待機して居る。


デッキの中に…その家の映像が映った。

1人の壮年が、

ブルーシートをひいた屋根の上で、

ブツブツと独り言を言いながら…

何かをしている。


女将が…

「ベイ博士、音声を拾いますね…」

壮年の声がブリッジの中に入って来た。


「…あ〜ぁ、不動産屋に雨漏りは

しませんか?って聞いたら、

築45年経ってますが、

雨漏りはしてません、って言うから買ったのに、嘘ばっかりじゃん!


雨漏りだらけじゃん!

この家に75歳までローンを払って行くんだよね…やれやれ…」


そう言いながら雨漏りの修繕をしている。

ジョニーはその様子を見て…

「マジか〜気の毒になぁ…悪い不動産屋にあたってしまったんでしょうね〜」

と言ってベイの顔を見つめた。


ベイは頷き…

「皆んな…あの壮年が…

僕が会いたい人なんだよ…

中学校を卒業後…美容師の道に入り…

今現在、髪ふうせんって言う美容院を

一人でしてるんだけど…

お客がゼンゼン入らなくてさ…


だから、

夜の8時ぐらいから明け方5時まで、

警備の仕事をしてるんだ、

ダブルワークって言うやつだね…

帰って来たらお風呂に入って…

4時間ほど寝たら、

昼の12時から美容院を開けるんだ…」


そう言った後に、

ベイは深いため息をつき…

そのまま黙り込んでしまった。


メリーはベイを後ろから抱きしめ…

「どうしたのベイ…」

と優しく声をかけた、するとベイは…

「うっふふふふ…」と含み笑いをし出し…

そして、とうとう一人で…

大笑いをし出してしまった。


10名はキョトンとした顔で

ベイを見ている…

メリーは思わず…

「どうしたのベイ…大丈夫?…」

そう言って更に強く抱きしめてしまった。


「メリー、大丈夫だよ、別に

壊れた訳じゃないよ…

ただあの作家先生…

僕が想像していた通りの人だったんだよ。


経済的に余裕がある人じゃない。

学歴がある人じゃない。

友達が沢山いる人気者じゃない。

家族よりも自分を優先する人じゃない。

周りの人達に偉そうな態度を取れる

人じゃない。


むしろ、人の顔色ばっかりを気にして、

頭を下げながら生きて来た人。


彼の作品トップシークレットを読んで、

僕が想像していた人物像…

おもいっきり当たってるじゃん、

そう思ったら、可笑しくなっちゃって…

ちょっと下に降りて来るよ、

直接話を聞いてみたいんだ!」


そう言うとベイは…

「フリー・ベー下の美容室に、

電話で予約を入れて」

「了解しました…」


しばらくすると…

「博士、予約が取れました、

直ぐにでも出来るそうです」

とフリーが言ってくれたが…

壮年はいまだに屋根の上に居る。


12名が首を傾げながら画面を見ていると…壮年の妻だろうか?

「お父さん、予約が入ったよー、

早く降りて来て!」


「あっ、ゴメンね、直ぐに降りるからね…」12名は壮年の返事の声を聞いて…

(…絶対に、奥さんの尻に

惹かれている人だ…)と思った。


壮年の美容師は店に入って来たが、

ベイを見て…

一歩後ろに下がってしまった

(…どうしよう英語が話せない…)

と思ったからである。


しかし、日本語を上手に話すベイを見た

壮年は、

満面の笑みを浮かべながら…

「すみません、実は私…

英語が話せ無くて…お客様と

どうやってコミニケーションを取れば

良いのかと、

胸がドキドキしていました」

そう言って頭を下げた。


そのセリフを聴いたベイは…

(…正直な人だなぁ…)と思いながら

小さく笑ってしまった。


ヘアーカットをしながら世間話で

盛り上がった二人…

シャンプーが終わり…ドライヤーで毛髪を乾かし終わった時…

ベイは突然、

壮年の顔をジッと見つめ…


「先生が書かれたトップシークレットの本を読んで…とても感動しました!」

と伝えた。


壮年の表情は、動揺を隠せない…

「私の本を…読んで頂けたんですか?」

「はい」

「嬉しいです!

本当にありがとうございます。

あの実は…100冊ほど

自費出版したんですけど、

誰にも相手にして貰えなくて。


その…余りにも…

悔しもんで…

色々な図書館に

勝手に置いて来ちゃって…

何日かして見に行ったら…

本が無くて。


あぁ…きっと捨てられたんだなぁって…

そりゃそうですよね…

勝手に置いちゃダメですよね。


でも、何冊かの本は…

世間に流れて行ったんですね〜

私の本を読んで下った方が居たなんて…

本当に…ありがとうございます」

そう言って頭を深々と下げた。


ベイは壮年の手を取ると…

「すみません、正直なところ、

私もはじめ、少し幼稚な本だなぁ…

と思って読み始めたんです…


しかしページが進むにつれて、

この本は世界中でただ一人、

私の為に書いて頂いた本なんだ、

私だけの心に届く、

私だけの本なんだと…


とても感動して…

そして今は、

先生に感謝しています!」

そう言ってベイは涙ぐんでいる。


壮年は少し首を傾げながら…

「あの…すみません…えっ?…

貴方様の…為だけに?」


ベイは咳払いを一回した後に…

「今から私が言う事は、

貴方の書いた本と同じで、

トップシークレットなんですよ…

私の名前はベイ、

仲間はベイ博士と呼んでくれています…

貴方が望んでいた…人間です…」

そう言って…


ベイは自分の生い立ちから、今現在、

この店に来ている事までを、

約23分ほどかけて壮年美容師に語った…

そして最後に…


「フリー・ベー、田澤さんに挨拶をして」

と言った。


自分の話しを信じてもらう為である。

15センチほどのフリーは、

壮年の前に飛んで来ると、

小さく会釈をした後に

等身大のベイ博士に変身した…

「初めまして先生、フリー・ベーと

申します」

そう言って手を差し出した。


壮年は満面の笑みを浮かべながら…

フリーの手を握り…

「田澤と申します、ペンネームは

タムラトシミと名乗っています…

でも、あの…

私のペンネームなんて、

誰も知らないですし、

興味も無いんですけどね…」

と言って小さく笑った。


その時…

店の天井から女将の声が聞こえた…

「ベイ博士、田澤先生をスカイシップに招待されては如何ですか?」

ベイは…


「はい、ぜひ見てもらいましょう、

世界最高峰のスカイシップを」

と言って微笑んだ。


壮年は光のエレベーターに乗り

船内に入って来た。


とっても驚いているのか、

酸欠状態の金魚の様に、

口をパクパク動かしているが、

声が出ない…


キョロキョロと周りを見回し…

落ち着きの無い、

挙動不審の怪しい奴である。


ベイの後ろを…恐る恐る歩き、

船内を見学させてもらい…

そして最後に…

皆んなの居るブリッジに到着した。


11名は会釈をしながら微笑んでくれて

いるが、

美容師と言う接客業を40年以上している

彼の目には…


(…あぁ、申し訳ないなぁ、

皆さん気を遣って下さってる…

こんなオヤジが急に来たら、

ビックリしますよね…)

皆んなの表情から、そんな風に

感じ取った。


自分が場違いな所に居る事くらい

よく分かっている…


「すみません、あの…田澤と申します、

急に来てしまって…スミマセン…

あの、皆さんに挨拶だけ、させて頂きたいと思いまして…

すみません、直ぐに帰りますので…」

そう言って何度も頭を下げている。


その時、メリーはベイの顔を見つめ…

そしてリンダ、ボブ、ジョニー、アンジー、グレイ、ルーシーの顔を見つめた。


六人も同じ事を思っていたのか…

頷きながら微笑んだ。


実は前から気になっている事が

一つだけ有ったのだ。

ベイが、あの世に皆んなを迎えに来てくれ、

この世に戻って来た時から、

ほんの少しだけ、


ベイに違和感を感じて居たのだ…

決して嫌な違和感ではなく…

優しい違和感である。


たった今、その答えが分かった。

ベイ自身が…

「僕は本の影響を強く受けている」

と前から言っている、

ベイは本の中から、

内容と同時に…

作者の腰の低さも学んでいたのだ。


(…間違いない…博士はこの作家の影響を、

かなりの確率で受けている…


なんだか前と違って、

言葉の端々が優しいのは…

なるほどねぇ…)

と思いながら

7人は納得した。


ベイは作家に…

「何か、次の作品を書いているのですか?」


作家は頭をさすりながら…

「はい、ブラザービーチ、と言う…

題材の本を…今書いてます…」


「ぜひ読みたいです、完成はいつ頃になりそうですか?」

「はい、あの…なるべく早く仕上げようと…頑張っています」

そう言って頭を下げた。


しかし田澤は内心…

(書きたいけど、ダブルワークで疲れて…

眠くて…頭が回らなくて、

なかなか進まないんですよね…)

と思っていた。


するとベイは微笑みながら…

「これから毎月、

3000ドルずつ先生に

支援させて頂きます、

ですから夜の仕事をお辞めになって…

その分…執筆活動に時間を回して下さい、

一日も早く…

次の作品が読みたいんです、

どうでしょうか?」


「あっ、ありございます、

でも…あの…

幼稚な内容ですよ…」

「はい構いません、先生の作品は…

そこが魅力なんです、

世界中の人達が読まなくても、

私は読みたいです、

なんなら私だけの為に書いて下さい、


ブラザービーチの次の作品の構想は?」


「はい、あの…山国…と言う作品です…

まだ本当に、構想だけなんですけど…」


「絶対に読みます、読みたいです」

作家は、61歳にも成って涙ぐんでいる、

その時トムが、

作家の手を握りながら…

「僕も読ませて頂きます」

と言ってくれた。


するとニーナもブラウンもレイチェルも…

気がつけば全員が作家を囲み…

「読みますから」「楽しみにしていますね」と言う言葉をかけてくれた。


当然フリー達が、

作家の耳元で通訳をしてくれて居た事は…

言うまでもない。


皆んなからの

優しいエールに送られながら、

作家は自分の店に戻った。


急いで外に出て、空を見上げたが、

スカイシップの姿などは何処にも見えない、

透明なシールドを張っているので

見える訳が無い。


壮年作家は頭をさすりながら…

「俺…やっぱり夢を見てたのかなぁ〜」

と呟いたその時である、

スカイシップは透明シールドを解除した…

中から12名が手を振っている姿が見えた。


作家も力の限りに手を振り返した…

3秒後、

スカイシップは空の彼方に消えて行った。


作家は、店の中に入ると…

鏡に映った自分に声を掛けた

「よし、書くぞ!

12名もの読者が待ってくれているんだ…

それだけで十分じゃないか」

と言って、自分の頬を「パンパン」

と…2回叩いて…

満面の笑みを浮かべた。


スカイシップの中では…

ベイがご満悦である、

日頃から笑顔を絶やす事はないが…

歯茎を見せて笑っている……

とにかく本当に嬉しそうであった。


〈 夜景 〉


「やっと会えた…

良かった〜想像通りの人で…」

そう言いながら、ベイは満面の笑みで

ソファーに腰を下ろした。


すると匠から…

「皆さん…次はニューヨークの夜景を

観に行きます。


当初は、ビルの上の方にある、

どこかのレストランで食事をして頂こうと思ったのですが、

それですと、レイチェルさんがおっしゃった、夜景を楽しみたい、

と言う事から少し変わるかと思いまして…

食事は船内でする事にしました」


皆んなが頷いていると、

女将が…

「なお料理は、あるレストランのシェフの方達に腕をふるって頂きます」


そう言って…女将はレストランの

名前を告げた。


グレイは思わず…

「えっー?よくそんな事が出来ましたね、

そのレストランは

普通テークアウトはしてくれませんよ」

すると女将が…意味ありげな言い方で…

「グレイさん、このレストランの

オーナーは、

ベイ博士のファンの方なんです、

今回の事を頼むと、

喜んで引き受けてくれましたよ」

グレイは…

「えっ?」と言いながベイの顔を見た。


するとベイは…

「トップシークレットなんだよ」

そう言ってウィンクをした。


グレイを始め7人は…

(あっ〜、海底から引き上げた…

財宝を買ってくれる、お客さんなんだ…)

と気づき、

4人のゲストに気付かれないように

小さくウィンクを返した。


そんな時、女将から1つの提案が有った。

「皆さん食事の用意が出来るまで、

約2時間30分ほど時間が有ります。

それまで御自分達の部屋の方で

少しお休みに成られては

いかがでしょうか?」

と言ってくれた。


早い話が…

(…ボチボチあなた方は、

奥さんや、ご主人に少し甘えっ子をしたい時間んなんじゃないですか…?)

と言う、

女将の優しい気遣いである。


更に女将は…

トムとニーナの耳元だけに…

「パパとママと、同じ部屋の方が

いいかしら…」

と尋ねた、

するとニーナが小さな声で…


「女将さん、ありがとうございます、

でも、お兄ちゃんも私も、

パパとママが一緒じゃなきゃ嫌だ〜、

なんて言うほど子供じゃないんです。

だって…今日のママの目は、

女の子の目になっているんですもの」


女将は…

「うふふ…」と小さく笑った後に…


「ニーナちゃんは何でも、

分かっているのね…了解しました、

では2時間30分ほど、

外を眺めたり、テレビや映画を見たり、

ゲームをしたり…楽しんで下さいね」


するとトムが嬉しそうな声で…

「ありがとうございます、

でも僕は…お風呂に入って…

少し寝さて頂きます。

朝から今までが、楽しくて、

嬉しくての連続で…」

「はい、了解しました。

後でお部屋に案内しますね…」


そして女将から…

「でわ皆さん、お部屋の方へどうぞ…」


大人も子供も明るい声で…

「また後で…」と言いながら自分達の部屋に入って行った。


ボブとリンダはさっそくお風呂に入り、

外を眺めながら…

シャンパンで乾杯をした。


ジョニーとアンジーもお風呂に入った後に「ハリウッド最高!」

と言いながら…

土産物を袋から出して喜んでる。


グレイとルーシーも、お風呂に入った後に、お城と、古墳の話しで盛り上がっていた。


ブラウンとレイチェルが部屋に入ると、

女将の声が、

部屋の入り口まで入って来た…


「ブラウンさん、レイチェルさん…

子供さん達は、この部屋には来ませんよ」

「えっ?そうなんですか?」

と言って2人は首を傾げた…


すると女将が

「賢くて、優しい子供さんですね、

大好きなパパとママの…

邪魔をしないように、

子供なりに気を使っているんでしょうね…


でわ、私も気を使って…

あっ言い忘れていました、

冷蔵庫の中には、お飲み物が…

ご自由にお飲みください、


また、お風呂は御二人で入れる浴槽に成っておりますので…

今から2時間30分、

ゆっくりと過ごして下さい、うふふ…」

小さく笑いながら、

女将の声は去って行った。


ブラウンとレイチェルは

黙って見つめ合い…

お風呂に入り…

そして、

あんな事や、こんな事をやり出した。


ヤラシイ、なんて言ってはいけない、

夫婦なんだし、

愛し合っているんだし、

子供達から…

許可まで出ているのだ、

なんの問題もないのである。


そしてベイとメリーは…。

部屋に入るなり、メリーがいきなりキスをし出した…

「メリー…どうしたの…」

「だって…今ベイの頭の中は、作家先生の事でいっぱいでしょ…」

ちょっとしたヤキモチである。


「そんな事は無いよ、

僕は切り替えが早いんだ、

もう頭の中は100%君の事だよ」

「本当に…」


「うん本当…今だってメリーの胸が

柔らかくて…

僕の目を見て!…ヤラシイ目で、

君を観てる…

すでに僕は発情しているんだよ!」


「本当だ…エッチな目をしてる…

私が欲しい?」

「うん、欲しい!」


ベイはメリーを抱きしめ…

お尻を触りながら

(…メリーごめん、100%は嘘です。

90%は君の事を考えているけど、

後の10%は…次の小説、

ブラザービーチが気になるわぁ…

早く読みたい…)と、思った。


そして、それぞれの…

2時間30分が終わった。


6つの部屋に…女将の声が届いた…


「…皆さん、少し、ゆっくり出来ました

でしょうか?

今から20分後に

ディナーの準備が全て整いますので、

デッキの方にゆっくりと…

御集りください。


なお…部屋のソファーの上に…

ドレス、タキシードを用意していますので、

着替えてから、お越し下さい…」


どの部屋の住人からも

「はーい、ありがとうございます…」

と言う声が…

女将の耳に届いた。


20分経過……

ブリッジの大きな窓の外には、

月明かりに照らされた

雲の波間が…何とも幻想的な景色を

演出してくれている…。


一番早く部屋を出て来たのは、

ニーナである。

窓の外を見て…

思わず…「わっ〜素敵…」と呟きながら…

窓の近くに進んだ…

月の明かりに照らされた雲海…

「…綺麗…」と呟いたのに

急に淋しさを感じたのか…

「お兄ちゃん…お兄ちゃん」

と言って…

トムを探そうとした…


「ここに居るよ…どうしたの」

トムはニーナの後ろに立って居た…

「お兄ちゃん」

そう言って…

ニーナはトムの胸の中に飛び込んで来た…

「どうしたのニーナ?」


ニーナはトムにしがみ付いている…

トムは妹の背中をナゼながら

「何か怖い物でも見えたの?」


ニーナは首を横に振った、

「そう…じゃあ…何かな…」

「一人に成ってしまった様な気がして…

怖くなって…

お兄ちゃん、

ずっとそばに居てね…」

「うん…居るよ…」その時、

かすかにドアの開く音が聞こえた。


5組の夫婦が

幸せのオーラをまといながら、

デッキの方に向かって来る…

ニーナはトムから…ソッと離れた。


そんな時…

2人の…目の前の床が開き…

下から白いテーブルが上がって来た。

幅3m、長さ20mのテーブル…

その上には

12名のネームプレートが並んでいる。


嬉しそうに…

腕を組んでいる6組のカップルに、

女将は…

「皆さん、お待たせ致しました、

どうぞ御自分の席にお掛けください」


するとその直後、ブリッジの左側に

グランドピアノが現れ…

フリー・メーが演奏を始め出した。


12名が「わぁ〜…」と言う

歓声を上げながら席に着くと、

今度はベースの音が…

フリー・ベーである。


バイオリンを弾きながら

フリー・リーが加わり、


サックスを持ったフリー・ボーが入り、


トランペットを吹きながらフリー・ジーも入って来た。


ハープを持ったフリー・ルーが

指を動かした瞬間、


マイクを持ったフリー・アーとフリー・ジーが歌い出した、

ディナーショーの始まりである。


12名が演奏を聴きながら

ウットリしていると、

匠から…「皆さん,あと15秒で、

ニューヨークの夜景が一望出来る

ポイントに、到着します」

と言う声が……


すると一気に部屋の中が暗くなり

テーブルの上には

ロウソクの火が…

皆んなが(えっ?いつの間に…)

と思った次の瞬間である…


窓の下からゆっくりと

ニューヨークの摩天楼が現れた。


「うわぁ〜……」

と言う皆んなの歓声に、

女将は匠の耳元で…

「貴方の演出って最高…」と言いながら、

匠にキスをした。


匠は夜景が最大限に楽しめるように、

ニューヨーク市の上空を、

ゆっくりと旋回する事にしていた。


ナイフとフォークを持ってはいるが、

レイチェルはポカンと…

口を開けたままで…

夜景を見つめている。


ブラウンは小さな声で

「…綺麗だね…」と言って左手で

レイチェルは肩を抱き寄せた…


「えぇ…ブラウン、とっても綺麗ね〜、

私ね……ごめんなさい…」

レイチェルの目から涙が溢れ、

言葉が詰まってしまった。


黙ってレイチェルを抱きしめるブラウンの目にも、涙がたまっている。


レイチェルは、

20年前の事を思い出していたのだ…


(…当時18歳のブラウンと、

15歳の私は、

このニューヨークの片隅で

生活をして居たのよね…

楽しい事よりも辛い事の方が多かったなぁ…


それでも、

ブラウンと一緒に居れば大丈夫、

絶対に幸せになれる…

そう思って頑張っていたのよね…


でも、現実は余りにも厳しくて、

私は日に日に顔色が悪くなり、

とうとう体調を崩して

寝込んでしまって…


でもブラウンは昔から優しいから…

「レイチェル、ニューヨークは夢のある素敵な街だよね…でもさぁ…

他にも素敵な街って沢山あると思うんだ。

2人で探しに行かないか?」


そう言ってくれて…

私が「ゴメンね…私の身体が

弱いばっかりに」って謝ったら

「謝る事なんてないよ、

僕が他の街を見たくなったんだ。


…僕の方こそゴメンよ…

僕がもっと何でも出来る男だったら…

お金をいっぱい稼いで、レイチェルに素敵な服を買って…

夜景が一望できるレストランで…

食事をさせてあげたかったんだけど…

ごめんね…」

って言ってくれて…)


レイチェルは、20年前のその日の事を、

今でもハッキリと覚えている。

(…あの時ブラウンは、

私を捨てなかった、

ずっと「愛してるよ」って言ってくれて…

病気がちな私を守ってくれた…

今だって抱きしめてくれている…)

そう思いながら…

レイチェルはブラウンを見つめ


「貴方と一緒に…

この景色を見る事が出来て…

本当に良かった。


ブラウン、今でも私…

貴方の事が大好きなのよ、

いつも胸が…ドキドキしてるのよ…

あなたに巡り会えて、

本当に良かった…」

と言ってキスをした。


レイチェルを強く抱きしめながら、

ブラウンも20年前の事を思い出していた。


(…あの時は嬉しかったなぁ〜、

稼ぎの少ない僕に、

レイチェルが付いて来てくれて…

大好きなレイチェルに嫌われたら

どうしようって、

毎日が不安だったけど…

一緒に居てくれて…

本当にありがとうね。


レイチェル…

15歳の君は…

とても可愛かったけど、

35歳の君は、美人に成っちゃったね…

もうレイチェル…

綺麗すぎるよ、素敵すぎるよ…

結婚してもらえて、

本当に僕は幸せ者だよ、

死んでも離さないからね…)

そう思っていたら、

何だか…

涙が出て来た。


呆れるほどに、お互いが…

大好き同士である。


ボブがリンダの耳元で…

「こういった感じで夜景を見るのって

初めてだね」

「うん、初めてよね、なんだかとっても

嬉しい」

そう言って喜んでいる。


そのセリフを聞いたニーナが…

「あの、リンダ先生」

「なぁに」

「あの先生方は、ほぼ毎日、

世界中を飛び回っておられるのでしょう…

夜景が初めてって…

どうしてですか?」


トムはニーナの質問に慌てて…

「ニーナ! 皆さん御忙しいからだよ。

すみませんリンダ先生…」


するとボブが笑いながら…

「ニーナちゃん、

お兄ちゃんの言う通りなんだ…

人助けをしている途中に…

『ベイ博士、

オレ、夜景が見たいんですけど』

なんて言えないからね〜、

だから昨日の夜、

君達のママが

ニューヨークの夜景が見たいって

言ってくれた時、心の中で…

「おぉ、素晴らしいリクエストが出た〜」

って

リンダと2人で喜んでいたんだよ」

そう言って親指を立ててくれた。


トムとニーナは、

ママを褒めてもらった事が嬉しくて、

自分達も慌てて…親指を立てた。


その姿が可愛くて、

リンダは思わず…

「ボブ〜」「なんだいリンダ?」

「貴方と私のベビーが欲しいわ…」

と言って、ボブの膝の上に座った…

トムとニーナは…

サッと自分達の椅子に戻り…


「ニーナ、ポテトサラダが残ってるよ、

全部食べないと大きくなれないよ」

「分かっているわよ、

お兄ちゃんも、キャロットが

残っているわよ、

甘くて美味しいんだから、

残しちゃダメよ」

と言って…


私達2人は、何にも見えません、

聴こえていません、

という態度をとってくれた。


リンダは気を使ってくれている

2人に向かって…

「大丈夫よ、目をそらさなくても、

此処でエッチな事なんてしないから」

とリンダが言うと…


ボブが

「僕達はベイ博士から、理性についての講義を、ちゃんと受けているからね」

と言葉を付け加えた。


するとトムが…

「ボブ先生、前にも言いましたけど…

僕達は大人の方達が

何をどう求めているか

知っていますから…

あの、気になさらないで下さい」

と言った。


するとボブは笑いながら…

「めちゃくちゃ気にするよ!」

と言うと、

今度はニーナが…

「ボブ先生は

気に掛けて下さって居ますけど、

講義をされたベイ博士は…

ディナーショーが始まってから、

ズッ〜と、メリー先生のお尻を

触ってますよ」

と言って肩をすくめて見せた。


ボブとトムは思わず吹き出してしまった、

するとリンダが…

「もぉ〜うちの博士は、

しょうがねぇなぁ〜」

と言ったので、

4人は大爆笑に成ってしまった。


グレイとルーシーも楽しそうに喋っている。ジョニーはアンジーの手のひらに、

人差し指で何かを書いている。


ベイは子供達の言う通り、

終始メリーのお尻を触っている。


約二時間のディナーショーは…

笑い声に包まれながら終了した。


女将から

「皆さん、ニューヨークの夜景はいかがでしたか?」と聞かれると、

12名は一斉に

「最高に良かったです」

「もう涙が出ました」「フリー達の演奏会が最高…」「また来たい」とか、

それぞれが色んな事を言い出した。


ルーシーが笑いながら…

「もう〜私達ったら、

全員で喋り出したら…

女将さん分かりませんよね、

ごめんなさい」

と言って謝った。


すると女将はニッコリと微笑み

「ありがとうルーシーさん、

そしてゴメンなさい。

実は、私と匠は、

100億の声を聴き分けられるんです、

もう少し経てば、

更に数学は上がります」


ルーシーの目が点に成った。

女将は微笑みながら…


「でわ…最後の目的地…月に向かいます」

と言うと…

匠が、いとも簡単に…

「月面まで14分程で到着します」

と言って、

スカイシップの進路を

…静かに成層圏に向けてくれた。


ベイをのぞいた11名は…

(…本当に凄い…世界最強のAIだ…)

と思った。


ニーナはトムの耳元で…

「お兄ちゃん凄いね、

14分ほどで月に行けるなんて…」

「うん…夢を見ているみたいだね…」


その声を聴いた女将は

匠の耳元で……

「本当はもっと早く行けるのよ…

ねぇアナタ…」

と囁くと、

匠は小さく笑いながら……

「今日は遠足だから、ゆっくりと行動した方が皆さん喜ばれるからね…」


そう言って女将の肩を

ソッと抱き寄せた。


〈 さて、次は 〉


ブラウンはレイチェルの手を握りながら、

「すごいね…本当に宇宙に…

月に行けるんだよ…

僕は、何の訓練もしてないんだけど…」


レイチェルはブラウンの頬を右手で

ソッとなぜながら…


「私も子供達も、何もしていないわ…」


ブラウンはレイチェルを…

いきなりギュッと抱きしめると…

「ゴメンよ、自分が行きたいと言ったくせに、臆病なものだから……

胸がドキドキしてきた…」


レイチェルは夫の胸に耳を当てると

「本当だ…ドキドキしてる…

でも私が一緒だから大丈夫でしょ」

そう言ってキスをしてくれた。


その時……

「皆さん…成層圏を出ました、

船を反転させますので

地球を眺めて下さい」

と言う匠の声がブリッジ内に流れた。


真正面の、

大きな窓の真ん中にあった月が、

右側に消え…

左側から青い地球が

入って来た…

子供達は歓声を上げ、

ブラウンは奇声を上げ、

そしてレイチェルは…

小さく、悲鳴を上げた。


ベイは…ブラウン夫妻の様子見て、

若干心配げな顔で…


「えっ〜と…喜んで貰って

いるのかなぁ…?」

そう言いながらメリーの顔を見た、

メリーは少し首を傾げ…


「たぶん…月に行きたいと言ったのは

ブラウンさんだから…」


その時、匠から…

「ベイ博士、デッキの窓を、

360度全て見える状態にする事も

出来ますが…」

ベイは…

「無理無理無理!」と即答した。


するとメリーが横から…

「匠さん、ゴメンなさい、

ブラウンさんと、レイチェルさんが…

少し怖がっておられるようなので……

今のままで結構です、すみません…」

と言うと、

匠は微笑みながら…

「了解しました」と言ってくれた。


メリーの言葉に、

ブラウン夫妻はホッとしたような顔で

頭を下げて来た。

初めての宇宙である

怖くて当たり前である。


しかし…

トムとニーナには恐怖心がないのか、

ブリッジの中を走り回って喜んでいる。


海を見たいと言ったトム、

雲の上を見たいと言ったニーナ、


でも、2人が本当に見たかったのは…

宇宙空間だったんじゃないかな?

そう思わせてくれるくらいの、

喜び方だった。


子供達の無邪気な行動は、

時として、大人の気持ちをも

和らげてくれる。

ブラウンも、徐々に平静さを

取り戻してきた。


ブラウンはレイチェルの耳元で…

「いま…地球を眺めていると…

なんて言えばいいのかなぁ……」

そこまで言うとブラウンは言葉を

失ってしまった。


レイチェルはブラウンの顔を

見つめながら…

「どんな苦難でも、乗り越えられると

思った…」


ブラウンは、小刻みに頷きながら

「…地球って…本当に大きくて…

青くて…

僕は…本当に小さいんだね…

レイチェル…

変な事を言うようだけど…」


「なぁに…?」

「胸が苦しいくらい…

レイチェルが好きだ…

結婚して、子供もいるのに…

君の事が…大好きで…大好きで

たまらない…

ごめん…変な事を言って…」


すると、レイチェルの顔は真っ赤に成り

「…嬉しい…すっごく嬉しい…

私もブラウンが大好き…

ずっと大好き……」

そう言って…すっごい勢いで、

抱きしめ合い出した。


すると女将は…慌てる事もなく、

2人の周りに…

四枚の鏡の衝立を、

サッと立ち上げてくれた。


周りの皆んなは地球を観てる、

なので…2人が抱きしめ合っている事は、

女将と匠しか…知らない事である。


「あなた…愛し合うって本当に素敵ね…」

「うん、ブラウンさんと、レイチェルさん…

宇宙に来て一番大事な事を

再確認出来たんだね…」

そう言って、

女将と匠は…嬉しそうに微笑んだ。


その後、スカイシップは

もう一度機体を反転させ、

月に向かって一直線に進んだ。


そして11分後…

女将の声がデッキに流れた…


「ブラウンさん、夢にまで見た月に

着きましたよ、

足を踏ん張って…

しっかり奥様と子供達をエスコートして

下さいね…」


スカイシップは月面から、

50mの高さに待機した。


女将は優しい声で…

「ブラウンさん、下に降りましょうか」

ブラウンは嬉しそうな顔で…

「お願いします」

そう言って頭を下げた。


女将は3体のブレスレットを呼び…

「透明な球体に成ってちょうだい、

皆さんの歩調に合わせて、

アナタ達が動くのよ、

月面散歩のサポートを頼むわね」


そう言って…

12名を月面に下ろしてくれた。


特別な装備品などは…

何も付けていない。

ニューヨークの夜景を見た時の…

タキシード姿のままである。


ブラウンは

レイチェルと手を繋いで

一歩前に進むたびに…

「あぁスゴイ、月面を歩いているんだ、

あぁ〜、ふかふか、

ヤバイ…どうしよう…」

と呟いた。


するとニーナが笑いながら…

「パパ…お願いだから笑わさないで…」

と言い出した、

トムはニーナの口をサッと押さえると…

「パパは今、感動しているんだ…

好きな事を言わせてあげようよ…」

と言った。


ニーナが黙って頷くと、

グレイは、トムの頭をなぜながら…

「お兄ちゃんだね、大人だね」

と言って微笑み、


ルーシーはニーナの耳元で…

「大丈夫よ…

誰もパパの事を笑ったりしないから、

ニーナちゃんは優しいわね…」

そう言いながら頬にキスをした。


30分ほど歩くと

小高い丘の上に着いた。


150m程先に…

国連の月面基地が見える。


ブラウンは感動しながら…

「おぉ…テレビで見た事がある…

すごいなぁ…」

ブラウンは周りを見回しながら

満面の笑みである。


5分経過…

フリー・ベーが…

「皆さん、女将様からボチボチ帰って来て下さいとの事です…」


ベイはブラウンに…

「満足してもらえましたか?」


「ありがとうございます、

大満足させて頂きました、

一生涯の…

宝の思い出です…」


そう言いながら、涙ぐんでいる。


ベイは…

「喜んでもらえて良かったです。

フリー・ベー、12名乗りの

月面車を頼めるかな…」

「お安い御用です…ベイ博士」

そう言い終わった時……

目の前に月面車が現れていた。


ブラウンは…

「えぇ〜、こんなスゴイ物にも

乗せて貰えるんですか!」


するとトムが冷静な口調で…

「パパ…今日乗せて頂いた乗り物は…

全てスゴイ物ばかりだったよ…」


ブラウンは小刻みに頷きながら…

「本当だ、トムの言う通りだよ、

パパの失言だね」

そう言って頭をさすった。


それでもブラウンは、

月面車に乗れて嬉しいのか、

終始満面の笑みを浮かべていた。


12名を乗せたスカイシップは

月面を離れて地球に向った。


ブラウンも、レイチェルも、

トムもニーナも、喜びすぎたせいか、

ソファーに座ると、

深い眠りに入ってしまった。


ベイはその姿を横目で見ながら…

「皆んな、遠足は楽しかったかい?」

と尋ねた、

7人は笑顔で頷いたが…

ベイの顔は少し…コワイ表情である。


そして…

「フリー・ベー、ブラウン御一家に

シールドを張って」

「はい、了解しました」


7人は…(えっ…何が起こるの?)

と思った。

するとベイは低い声で…


「さっき匠さんから、

僕が、お願いしていたマシンが、

全て完成したと言う報告を頂いてね…


いよいよ皆んなに、

本格的に力を貸してもらう時が来たよ…

世の中を混乱させる、

本格的な悪魔の仕事の始まりだ…

心の準備は出来てるかい!」


7人は…

(ヒェ〜、さっきまで優しいベイ博士が、

いなくなった〜)

と思ったが…


(…いや待てよ…前にも世の中を

メチャクチャにしてやる〜って、

結局したのは

人助けだったよなぁ…?)

と思い返した。


するとボブが…

「ベイ博士…具体的にはどの様な事を

するんですか?」


「ふふふ…ボブ、良い質問だね…

人類を監視する…

いや管理するんだよ、

其れも適当にね。


民衆は戸惑いながら悲鳴を上げるだろう、

泣き叫ぶがいい…

俺の知った事じゃ無い、

恨むなら国を恨め、

俺たちに銃を向けた、報いを受けろ…

もう誰にも俺を止められない…」

と言いながら、

恐ろしい形相で自分の拳を見つめている。


リンダとアンジーとルーシーは

顔を見合わせながら…

(危険な科学者に成ってる〜、

止めないと、あかん奴やん…)

と思った。


メリーは、慌ててベイの背中に抱き着き…

「ベイ、私達ちゃんと着いていくから、

お願い、いつものベイに戻って〜」

と悲壮な声を上げた。


すると…

「えっ?うん、いいよ、どうしたのメリー」と素顔のベイに戻った。


6人は顔を見合わせて…

(…直ぐに戻って来るんかい!)

と思ったが、

何も言わずに微笑んだ。


その時、女将が…

「皆さん、ホテルの上空に到着しました。

ベイ博士、

この後はどうなさいますか?」

と尋ねてきた、

ベイは笑顔で…

「ブラウン一家の方達を…

自分達のベットにソッと寝かせて

頂けますか」


女将は…

「お安い御用です」

と言うが早いか、

4人の身体はソファーの上に…

フワッと浮き上がった。


その間に…スカイシップは

ホテルの屋根ギリギリまで降りると

8体のフリー達がドアを開け…

そして4人をベットまで

送り届けてくれた。


女将は…

「ベイ博士、4人のベットの周りに、

今回の遠足で着られた洋服と、

お土産を置いときました、

後はロビーのテレビの前に…

遠足の記録DVDも置かせて頂きました。

メッセージはどうしましょうか?」


「そうですね〜…

五日間、仕事の為にホテルには

帰れません、

6日目の夕食までに帰ります、

宜しく願いします…

と書いて置いて

いただけますか」


「はい…今メッセージをテーブルの上に

置きました、

以上でよろしいですか?」

「はい、

女将さん…ありがとうこざいます」


ベイのお礼の言葉をキッカケに、

匠はスカイシップを…

一気に高度1万mまで上昇させた。


7人は、

次の計画の内容をまだ聞いていないので…

内心はドキドキしている…

(…どうかベイ博士が、

地球を征服する、

なんて言い出しませんように…)

そんな事を思っていると、

女将が会議用の椅子とテーブルを

出してくれた。


7人は緊張した面持ちで椅子に座った。


ベイは、先程に比べると…かなり普通の表情で、一人一人の顔を見回し


「…前に言っていたマシンが…

完成したんだ。


1つ目は、

匠さんと女将さんの子供達を

200億体…用意した。

ホタルの形をしている。

当初は、100億体のつもりだったけど、

倍に増やした。


2つ目は、生き返りマシンを更に

小型化にしてもらった。


3つ目は、物体を通り抜けられるマシンが出来上がった。


4つ目は、重力を自在に操るマシンを

小型化にしてもらい、

ブレスレットに組み込んでもらった。


始めに、ホタルの事から説明するね、

まずホタルの仕事は、

世界中の人々の監視…

一人の肩に、

二体のホタルが着くんだ、


今まで、

世界各国のスーパーコンピュータから

全ての情報を盗んで

来たんだけど…

それだと、

大まかな事しか分からないんだよ、


でもこれからは

ホタルの働きによって…

本当の事が、

リアルタイムで分かるんだ。

凄いと思わない…」


 〈 私の答え 〉


7人は緊張気味に頷いたが、

今ひとつ意味が分からない…


ベイは更に

「この事によって、世界中の人達が、

何を考え行動しているのか

全てが分かるんだ。


2つ目の、

生き返りマシンを更に小型化にって

言うのは、

今までよりも、

更にバージョンアップをしてね、

生き返る時間が早く成ったんだ…

凄くない?…


そして3つ目、

物体を通り抜けられるマシン…

其れもフリー達に組み込んでもらい…

フリーのスーツをまとった僕達が、

あらゆる物を通り抜けられるんだ…

まぁ例えるなら、

幽霊みたいな感じかな。


4つ目のマシン、

これもフリー達に取り込んでもらい、

例えば…

目の前に大きなガレキがあったとする、

今までは、手を使って取り除いていたけれど、これからはフリーに…

『目の前の瓦礫をどけて』

と言えばフリーがサッと浮かして、

どけてくれるんだ、

仕事がはかどること、間違いないよ…」

そう言って微笑んだ。


7人は…

(混乱とか、復讐って言っているけど…

結局は誰かを助ける為の、

マシンじゃないのかな?…


でも…世界中の人達の…

秘密を知る事になるんだけど…

プライバシーが無くなちゃうんだよね…

いいのかなぁ…)

とも思った。


アンジーは思い切って手を上げると…

「ベイ博士、質問が有ります」


「はい、どうぞ」

「あの…私達が世界中の人達の

個人情報を管理するんですか?」


「違うよ、管理をしてくれるのは、

女将さんと匠さんだよ…

2人に管理してもらう事で、

悪いことを計画している人の事が

事前に分かり…

阻止しやすくなるんだ、

奴らの悲鳴が

今から聞こえるようだよ」

そう言って博士はニヤッと笑った。


7人は…

(あっ〜なるほどね、

悲鳴って、

悪い人達の悲鳴なんだ…

でも、

女将さんと匠さんだけが…

個人情報を管理するの…?)

とも思った。


ベイは更に…

「アンジーが言いたい事は分かっているよ、僕が人のプライバシーに

興味があるんじゃないかなぁって

思ったんでしょう、

大丈夫だよ、僕は他人の事なんて、

何の興味もないから、

僕の興味の対象はメリーだけ…

頭の中はメリーの事ばっかりだからね」


そう言って、

ベイはメリーの手を握って微笑んだ。


メリーは小さな声で

「やだぁ〜ベイったら…」

と言って下を向いてしまった。


でも6人は…

(ベイ博士…気になっている所は…

そこじゃないんです…)

と思ったが、何も言わなかった。


ベイは更に…

「ボブ、昔から頼ってばかりでゴメンね。

ジョニー、僕の言葉足らずを…

いつも助けてくれてアリガトウ。

グレイ、君の優しい心づかいが…

どれだけ僕の気持ちを和らげてくれるか。


リンダ、アンジー、ルーシー、

いつも僕の訳の分からない作戦で、

無理をさせているよね、

本当にゴメンね…」

と言って頭を下げた。


するとボブが…

「水臭いことを言わないでくださいよ、

俺達なんでもしますから」

と言うと…ベイは真剣な顔で…

「皆んなを…

何時も悪い事に付き合わせて、

本当に申し訳ないと思って居るんだけど…

僕一人じゃ何も出来ないんだよ」

と言った。


6人は…

(どう考えても、人助けだと思うんだけど…

ベイ博士の認識では、

これからの作戦は悪い事なんだ。

でも博士…

私達が気にしているのは

女将さんと匠さんの事何ですよ…

とっても優しいとは思うんだけど…

AIなんですよね…)

と思った。


しかしリンダは、あえて何も言わずに…

明るく…

「さぁ、「悪魔の使い」作戦の

始まりですね、

皆んなをビビらせてやりましょう」

と言い…


ルーシーは…

「じゃあ魔女っぽいセリフの言い方を、

メリー先生に教えてもらいましょうか?」

と言って微笑んだ。


するとメリーは、真っ赤な顔をして…

「お願い、もう許して…

恥ずかしくて無理だから…」

そう言って、両手で顔を隠したのに、


ベイが横から…

「了解しました。

近々、メリーと僕で、

悪魔っぽい振る舞い方の、

見本を見せるからね」

とサラリと言い切ってしまった。


メリーは慌てて…

「あなた!何言ってるの、

無理無理無理無理だから…」

「大丈夫だよメリー、僕がついてるよ…

なんとかなるさ」

そう言って微笑んでいる。


メリーをはじめ7人は、

顔を見合わせながら…

(…そうなんだよね…昔からベイ博士は、

どんなに大変な事でも、

必ず何とかして、私達を…

守ってくれたんだよね…)

と思ったら、

なんだか急に…

目頭が熱くなってきた。


ベイはもう一度、

皆んなの顔を見ながら…

「無謀な作戦に賛同してくれて、

本当にありがとう…

じゃあ今夜は…これで解散して、

明日の朝…8時から、

朝食をとりながら、

具体的な打ち合わせをしよう…

でわ解散!」


するとボブは嬉しそうな顔で…

「了解です、今日の遠足は本当に楽しかったですね、

今から妻に甘えたいので…

お先に失礼します…」


そう言って、直ぐにリンダを抱き上げ…

「皆んな、おやすみ〜」

と言って部屋の中に入って言った。


ルーシーが…

「もう〜お兄ちゃんったら…

緊張感が全然無い〜」

と言っていると…

後ろからグレイがルーシーを

ヒョイと抱き上げ…

「ルーシー、僕達も部屋に帰ろうか…」

そう言ってキスをしてくれた、


ルーシーはいきなり、

か細い声で…

「うん…」と言って、

グレイの胸の中に顔を埋めた。


アンジーは小さな声で笑いながら…

「グレイったら…いつの間にか

大人に成ったのね〜」

と言っていると、

今度は自分の身体がファっと浮いた…

「きゃっ…」と声を上げると…

ジョニーが微笑みながら…

「さあ…2人だけの時間の始まりだよ…」

そう言ってキスをしながら部屋の中に

入って行った。


ブリッジの中は

ベイとメリーだけが残った…

するとフリー・ベーが…

2人の前に飛んで来て…

「ベイ博士、メリー様…

女将様が…下の部屋に来て欲しいと…」


「はい、了解です。メリー行こうか」

そう言って…ベイはメリーをヒョイと

抱き上げた。


メリーは照れ笑いをしながら…

「えっ〜、私が抱っこしてもらいたいって、分かってたの?」

するとベイは…


「うん…でも本当は、僕が、

メリーに触りたくて…」

メリーは頬を赤らめて…

「もうベイったら…」

と言いながら、ベイの首に両手を回した。


女将と匠の部屋の前には…

既に…8体のフリー達が待ってくれていた。

「お待たせしました」

と言う博士の声に…

フリー達は一斉に頭を下げた。


ベイは、メリーをソッと下におろし…

実体化している2人に向かい…

「匠さん、女将さん…

今回も、無理な注文に応えて頂き

ありがとうございます」

と言って頭を下げた。


すると匠が慌てて…

「ベイ博士は、

女将と私を作ってくださった親です、

私達に頭を下げないでください」

「…私達は、ベイ博士とメリー様の、

子供のような存在何ですから」

と、女将が言葉を付け加えた。


メリーは…

(…えっ? ベイは2人の製作者だから、

親、と言ってもいいと思うけど、

私は…?なんで?)

と思った…


「女将の目は、全てを受け入れて

分析する力があるので…

「メリー様…私と匠は

皆さん知っての通りAIです、

ベイ博士以外の7人の方達は…

私達2人が…

いつか暴走するのではないかと…

心配しているのでは有りませんか?」


メリーの、何時もの甘えた様な顔が

一瞬にして真顔になり…


「ごめんなさい…その通りです…

上でミィーティングをしている時も、

実は皆んな、その事を…

ベイに聴きたいと思っていたんだと

思います…でも…

なんとなく聞けなくて。


…私達人間は…いつの間にか

地球の中で

王様にでも成ったような振る舞い方を

しています…

口では自然環境を守ろう言いながら、

森を壊し、川を汚し、海をけがし。


人は平等であると言いながら、

本当はぜんぜん平等ではなく。


未来の子供達の為に、と言いながら、

色々な物事を先送りにしています。


私達人間って強い部分と、

弱い所があって。


優しい部分と、

優しく無い所があって。


賢い部分と、

愚かな所があるんです。


だから、女将さんと匠さんから観ると…

人間って矛盾した生き物だなぁって…

きっとそう思っているでしょう…?」


「はい、思っています…

ベイ博士に作って頂いて、

二日間の間に

世界中の情報を取り込みました。


その結果、人類はいらない

と言う答えを出しました。


その事をベイ博士に相談すると…

『いいよ…女将さんの好きなようにしてくれて、でも…少しだけ待って…


僕の大好きなメリーを…

もう一度この胸の中に抱きしめるまで…

僕の大切な、弟達と妹達を死なせてしまった事を、謝るまで…』


私は…ベイ博士がそこまで言われる

メリー様の事がとても気になり、

ベイ博士に尋ねました…

「メリー様の事を教えて下さい」

博士は微笑みながら…


「いいよ、その前に…

匠さんを紹介するね、

女将さんの御主人、夫、 

パートナー…まぁ言い方は色々あるけど、

いずれ…女将さんの…

大切な人に…なる方だよ。

じゃあメリーの事を話すね」

そう言って博士は、

メリー様の全てを、私にインプット

されました…


その中には…愛し方や、

その動作までもが入っていて。

私は…

ベイ博士に会わせて頂いた匠と、

その情報を共有し、分析した後に、

実行に移しました。


結果は…言わなくても分かりますよね…

ベイ博士は、私と匠に…愛し合う、

と言う事を教えてくれました。

私達2人は、世界中の愛し方の

情報を集めました。


それは新しい命の誕生に繋がる事も

知りましたし、

命の尊さも理解する事が出来ました。


しかし同時に…

憎しみや、愚かさや、怒りや、

貧しさ、飢え、悲しみと言うモノまで

私達の身体に

入って来ました。


私達は悩み、もがき、

自爆してしまうのではないかと

思う程でした、

そんな時、メリー様と、6人の方達が帰って来られたのです。


ベイ博士のメリー様に対する愛し方、

危ないくらいに、激しいですね。


またボブ様とリンダ様、

ジョニー様とアンジー様、

グレイ様とルーシー様…本当に

激しく愛し合っておられますね。


皆さんを観ていると、

匠と私の中にあった


「地球上から人類はいらない」

と言う考え方が消え…


むしろ人間が好きになり、

寄り添いたい…と思うようになりました。


私達の、生き方のお手本は……

メリー様とベイ博士。

お二人の愛が、

私達の考え方を

軌道修正させてくれたんだと思っています。


御二人の愛が…私達を産んでくれたんだと

思います。

メリー様、私の答えは間違っていますか?」


「……ベイが親と言うのは…

良いと思います…でも私なんかが…

親でいいんですか?」


「はい、私はメリー様の愛し方が

大好きです」


すると、それまで黙っていた匠が

「私はベイ博士の愛し方が

大好きなんですよ、ですから、

ベイ博士がメリー様のお尻を触っている時、あっー今ごろ…

匠も女将のお尻を触っているだろうな、

と思って下さい…

もう私は、泣き出したいくらいに

女将が大好きなんです。


ベイ博士が、メリー様の事しか考えていないのと同じくらいに……」


匠はそう言って女将を抱きしめ…

そしてキスをした。

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