第2話

   〈 意思の疎通 〉


2人の子供は…

「わかった!…バニーママ…バニーママ…」

声を限りに名前を呼んだ。


母親が目を覚ました…

子供達はもう一度.

声を揃えて

「バニーママ!」と叫んだ。

すると

「…なぁに、キャリー、カール…」

そう言って起き上がり…

微笑みながら

両手を広げてくれた。


今までに無い

優しい表情…

優しい声の響きに、

二人は思わず

「ママ!」と叫びながら…

胸の中に飛び込んで行った。


バニーは2人を抱きしめながら

ハリーの顔を見つめ…


「ハリー会いたかった…」


「バニー、僕も君に会いたかった!」


「私なんかで良いの?」


「いいに決まっているじゃないか!

…君こそいいのかい、

僕は2人の子持ちだけど…」


「ハリー……2人は、私が産んだのよ、

貴方と私の…2人の子供でしょ…」


「ありがとうバニー…

僕と結婚してくれるかい?」


「ハリー、イエスに決まってるじゃない!

私は子供の頃から…

貴方の奥さんに成りたかったのよ、

今…嬉しくて息が止まりそうよ」


するとキャリーが…

「ママ、私達…さっき神様に生き返らせて貰ったばっかりよ、それにママは

すでに結婚してるのよ」


「あっ、ゴメンなさいね、

ママったら何を言っているのかしらね」

するとハリーが…


「キャリー、カール、今…パパが…

ママに、結婚して下さいって言ったのわね…

もう一度…

新しい気持ちでって言う事だよ」

そう言って微笑んだ。


するとカールは母親の胸から離れ…

「お姉ちゃん、パパもママを

抱きしめたいんだよ…」

「あっ、私ったら気がつかなかったわ、

ゴメンねパパ…」

そう言って母親の胸から離れた。


「あぁ、バニー…愛してるよ!」

「私もよハリー…愛してるわ!」


強く抱きしめ合ってキスをする

両親を見上げながら、

カールが…

「お姉ちゃん…優しいママに成って…

良かったね」

と言えば

「うん…いっぱい甘えようね…」

とキャリーがこたえた。

子供の本音はシンプルである。


生き返った17名は…

皆んな嬉しそうに喋っている、

8人は小さな声で…

「皆さん、お幸せに…」

と言いながら、

テントの入口に向った。


2人の警察官が、

涙目で8人に敬礼をしている。


その時…

外の方から…沢山の人の声が近いてきた。


8人は、2人の警察官に小さく

手を振りながら…

「フリー・…透明シールド」

8人はテントの中から、

一瞬にして姿を消した。


テントの中に居る人達は…

「やっぱり神様だったんだ…」

「スゴイ神様に会えたのよ…」


誰もがそんな事を…

口々に言い合っている。


外に出るはずのベイ達だったが…

少し間が悪かった…


姿を消した直後に、

5名のドクター、

10名のナース、

6名の警察官、

7人の消防士、

そして、駆け付けた37名の家族の

人達が続々とテントの中に

入って来たので…

8人は外に出るタイミングを

逃してしまったのである。


まず…テントの中に入って来た

ドクターとナースは、

17人の元気な姿を見て

悲鳴を上げ、身体が硬直してしまった。


すると後ろから警察官の人達が

「ドクター、どうしたんですか?

後ろがつかえてますよ、

奥に入って下さい」

そう言いながら中に入って来て

「うわっ!」

と叫んで…これまた硬直してしまった。


その警察官の背中に消防隊の人達が

「どうしたんですか?

遺族の方達が待っていますよ、

中の方に入って下さい」

と言った、

しかし…

警察官は黙って立っている…


「押しますよ」と言いながら、

7人の消防隊は日頃鍛えている肉体で、

警察官、ドクター、

ナースの21名を

ジワジワと中に押し込んで行った…


その後に37名の遺族達は

泣きながらテントの中に入って来た。

しかし、

体格の大きな消防隊の人達が…

壁に成ってしまっているので、

遺体が見えない。


さっきまで、

前に進んでいた消防隊の人達までもが…

呆然と立ち止っているのだ。


遺族の人達は、立っている警察官やドクターの間を縫うように、テントの

中央に入って行った。


そして誰もが…

「えっ?」と言う声を上げた。

一人の婦人が満目の笑みを浮かべ


「もっ〜、悪い冗談はやめてくださいよ〜、

チャンと生きているじゃないですか〜、

でも良かったわ〜、

あんなに大きな山火事で…

助かるなんて…

本当に奇跡ね〜」

そう言って喜んでいる。


しかし、消防隊の人達は…

(何で?…真っ黒の遺体を、

俺達が…運んだんだよな〜?)

と思った。


警察官の人達は

(立ち会った時には、真っ黒な

遺体だったけど…?)

と思った。


ドクター達は

(確かに…死亡を確認したんだけど…?)

と思い…


ナース達は

(私達は、遺体だと思ってシートを掛けたんだけど…?)と思った。


生き返らせて貰った一人の壮年が


「信じて貰わなくてもいいけど…

今さっき、神様が…

私達の目の前から

パッと消えたんだよ…

8人の…黒い服装の神様…

誰も信じないよね…」

そう言って小さく笑った。


6名の警察官は、テントを警備していた

同僚に目を向けた…


(えっ…⁇…彼は病気で、余命幾ばくも

ないはずなんじゃ…⁇

なんか…元気そうなんだけど?…」

と思いながら…


「いったい何があったんですか?…」

と尋ねた。


すると父親の警察官が、嗚咽を抑えながら…

「信じて…もらえないと…

思いますが…

事実を報告します。

はじめ…男女合わせて…

8人の黒衣の人達が…

入ってきました。


何だか…変な行動をしているので…

注意しようとしたら…

急に…私達2人の身体が…

動かなくなり…


そうしましたら

8人の中のリーダーの人が…

息子の病気を言い当てられ…

治してくださいました…


その後に…私の足も治してくれ…

そして今…皆さんが驚いている…

目の前の光景です…


次々に…亡くなっている人達が…

生き返って…

皆さんが入ってくる…少し前に…

8人の方達は

「皆さん…お幸せに」と言って下さり…


パッと消えられました。

神様って…本当に…居るんですね…」

そう言って涙をこぼした。


日頃から冗談1つ言わない…

クソ真面目な警察官である、

同僚達はその事を良く知っているので…


「マジか〜…」と呟いた。


するとドクターの一人が

「神様だと…本人が言ったんですか?」


すると息子の警察官が

「神様ですかと尋ねたら、

違いますよと…

ハッキリ言っておられました…

でも…神様以外に…

誰がこんな事出来るんですか?

誰か教えてください…」


そう言って周りを見回した。

誰も言葉が出ない、

すると…キャリーが大きな声で…


「ベイ博士、って言う名前の神様だよ、

あとはね〜、ボブさんとリンダさん…

ジョニーさんとアンジーさん…

え〜とねぇ、グレイさんとルーシーさん…


そして神様の隣には…

メリーさんが…ピッタリくっついて居たよ」


そう言って胸をはっている…

皆んながキャリーに注目し…

キャリーの周りに…集まって行った。


ベイ達8人はそのスキに…

ソッとテントの外に出て、

ヘリコプターに乗り込み、

スカイシップに帰る事が出来た。


スカイシップは一気に、

高度1万mまで上昇した。


デッキの中に戻って来た8人に

女将は優しい声で

「皆さん、お帰りなさい、ご苦労様でした」

すると、リンダは開口一番に


「女将さん、子供の記憶力って

凄いですね!

私びっくりしました!」

そう言って笑うと

皆んなも笑い出した。


しかし

ベイだけは笑っていない。


其の事に気付いたメリーは…

「ねぇ、皆んな、一度自分達の部屋に戻ってシャワーでも浴びて…

2、3時間休憩を取らない?」


「良いわね〜そうしましょう」

と言ったのはアンジーである。


8人は微笑み合って…

自分の部屋に入って行った。


ベイは…部屋の中に入っても無言だった…

メリーは手前の部屋で…

「フリー・メー、フリー・べー…ご苦労様、ベイが少し、

疲れているみたいだから…

奥の部屋で休むわね。

2人もゆっくりして居てね」


そう言って、

奥の部屋に入って行った。


ベイは…部屋の真ん中で…

ボー然と立ち尽くしている、

メリーは…


「ベイ…私達なにか…

気に触るような事をしたのかしら、

もしそうだとしたら…ゴメンなさい…」

そう言ってベイの腰に手をまわした。


ベイは小さな声で、

何かブツブツと言って居る、

メリーの顔を見ては居るが…

眼のピントが合っていない。


メリーはフト思い出した…

(…そう言えば…前にも何度か、

こういうベイを見た事があるわ…)


そう思って居ると、

急に身体が締め付けられて来た…

ベイがメリーの身体を…

力の限り…抱きしめているのだ。


「メリー僕ね、スッゴイ事を

考えたんだよ!」

「何かしら?」

「教えて欲しい」

「えぇ知りたいわ」

「その前に…キスしてもいい」

「もちろん、いいに決まってるじゃない…」


ベイは…もの凄い勢いでキスをし出した。

10秒…20秒と続くキスの中で、

メリーの顔はだんだんと赤くなり、

頭の中がボッ〜として来た


(どうしよう…身体が熱くなってきた…

こうゆう時のベイは、

キスだけだったかなぁ〜、

其れともベットに入って…

SEXまでだったかなぁ〜?

どっちだったかしら?

あぁ〜足の力が抜けて来ちゃった〜)


そう思っているメリーを…

ベイはヒョイと抱き上げ…

ベットに向った。

メリーは薄れて行く意識の中で

(えへへ〜、エッチまでだったんだぁ〜)

と思いながら、

その身をまかせた…。


隣の部屋で、フリー・ベーが、

ボソッと呟いた

「…御2人の体温が2度ほど上がった…」


するとフリー・メーが…

「…幸せな状態に成っているのね…」


フリー・ベーは…黙って頷いた。


そんな時間が…2時間ほど続いた。

しまりのない顔で…

ボッ〜と天井を見つめているベイの胸に…

これまた、しまりの無い顔で…

メリーが甘えている…


「ねぇ〜ベイ…どんなスゴイ事を

考えたのぉ…」

「あのね、さっきテントの中から外に出ようとした時にさ、

沢山の人達が入って来て…

僕達は外に出られずに

テントのスミの方で…

ジッとしてたじゃない…」


「えぇ…そうだったわねぇ」

「あれってさ〜、何て言うか…

カッコ悪かったよね」


「そうなの…」

「うんスマートじゃ無かったよ。

そこで僕は…

フリー達に包まれた状態で

壁を通り抜けられる…

マシンを考えたんだよ」


「えっースゴイ!」

「でしょ〜、今から服を着て、2人で匠さんの所に行こうか?」

「うん、行く…」鼻の下を伸ばした2人が…

匠と女将の部屋の前に来たのは…

それから30分後のことである。


匠と女将、そしてベイとメリー。

ベイは身振り手振りで、

通り抜け装置の設計図を語っている…

紙に書いた図面ではないが、

匠にはちゃんと解るらしく


「はい、博士のおっしゃる通り…

可能です…はい作り上げられます…

24時間頂けますか?」


ベイは嬉しそうな顔で

「さすが匠さん、1日で出来るんですね、

僕がしたら…1カ月くらいかかりますよ」

そう言って微笑んだ。


メリーはベイの隣で

(…ベイが言っている事が、

少しも解らない…

タクミさんも、女将さんも、スゴイなぁ)

と思いながら…

小さく首をかしげると、

フリー・メーが、メリーの耳元で…


「メリー様、女将様の声が届いています…」メリーが「えっ?」

と言った次の瞬間…

女将の声が聞こえた


「メリーさん、私は主に、情報を集めて、

分析する、と言うコンセプトで

作られました…

ですから、私もメリーさんと一緒で、

ベイ博士と、主人が言っている

事の意味が…

ちっとも分かりません…

2人で何を…

作ろうとしているんでしようね、

うふふふふ」

と小さく笑っている。


メリーは、女将の優しい心遣いが嬉しくて、思わず…微笑みながら…

小さく手を振ってしまった。


すると匠は…自分に振られたと思い

「はい?メリーさん、何でしょうか?」


女将は、匠の隣で笑いながら…

「あっ、ゴメンなさい、今ね、

メリーさんと私で、

ガールズトークをして居たのよ」


「おっ、私としたコトが、

気配りが足りませんでした」

そう言って匠は頭を下げた…


メリーは慌てて…

「私こそゴメンなさい、男同士の

話の邪魔をして」

そう言って頭を下げ返した。


ベイは笑いながら…

「メリー…お待たせ…

匠さんとの会議が終ったよ、

上に上がって皆んなで夕食にしよう」

そう言って…その場を後にした。


メリーはエレベーターの中で…

「ねぇベイ…後で皆んなにも発表するの?」「今はしないよ、発表はマシンが出来上がった時にしようと思って…

今は僕とメリーだけの…秘密だよ」


そう言ってキスをすると、

メリーは〈2人の秘密〉と言う言葉が

嬉しかった様で…

「明日の今頃が楽しみだわ」

そう言って微笑んだ。


  〈…マジックショー…〉


次の日…1月8日、朝7時…


皆んなで朝食をとっている時に

ジョニーが遠慮がちに…


「あの〜ベイ博士」


「何だいジョニー」


「あの〜昨日は山火事で、

その前が漁師さんを助けて、

またその前は、落盤事故の方達を助けて…」


「そうだね、ご苦労様でした…

少し疲れちゃった?」


「とんでもない、

むしろ喜びを感じています…

実は昨夜…テレビのニュースで…

色々な難病で、苦しんで居られる方達が

沢山居ると言ってまして…

あの〜ベイ博士のおっしゃる復讐には…

この方達は入らないんですよね?」


「ジョニー…その分野まで手を広げると…

大変な事に成るんだよ…

病院関係者の仕事を奪ってしまう

事になるしね」


ジョニーは頷きながら黙ってしまい、

皆んなも黙っている。


1分間の沈黙を破ったのはボブだった

「ベイ博士…こうゆうのはどうですか、

ドクターがサジを投げた方達、

あるいは…今の医学では治せない方達だけ…

なんて言うのは、どうですかね…?」

ジョニーは笑顔で頷いているが、

ベイは黙っている。


するとグレイが

「世界中に病院って…

どれくらい有るんだろう…

中には、お金が無くて…

病院に行く事すら出来ない方達も…

沢山居るんだろうなぁ…」


「病院の数は、女将さんに聞けば直ぐに分かるけど…

病院に行けない方達の数わね〜……」

そう言ったのは、リンダである。


「ベイ博士…宗教的には、

病気になっている方達の事を、

どのように言っているんですか?」

と質問して来たのは、

ルーシーである。


ベイは身を乗り出して

「どこの宗教も、けっこう辛辣な事を

言ってるよ…

過去の、自分自身の行い、前世の行いが、

今現在に現われている、

みたいな感じの事を言ってるよ…


だから貧困で苦しんでいる人…

病気で苦しんでいる人…

皆んな過去の自分がした事の

結果なんだってさ」


するとアンジーが…

「じゃあ…過去の自分のせいなんだから、

あきらめろ、って言う事ですね〜」

と言って下を向いた。


ベイは更に

「中にはね…死んだ後に、

天国に行けるぞ〜とか、

極楽に行けるぞ〜何て…

言ってる所もあるよ。


僕達は…あの世を見て来たけど、

普通は、死んだ後の世界何て知らねえし…

って言う感じだよね。

また中には宿命に流されずに、

宿命を、良い方向に転換して行こうって言う宗教の人達も居るよ…」


「前向きなのね〜。

よく考えると、私達も過去に、

良い行ないをして無かったのよね、

だってさ…

皆んな、撃ち殺されちゃったもの…

ベイが居なければ…

7人とも死んだままだものね」


そう言ったのはメリーである。


ベイは皆んなの顔を見回しながら

「…皆んなを失った後に…

僕自身…

かなり心が荒れてね…


「前世の事なんて覚えてねえし、

宿命なんて言われても、

従う気なんてねえし、

大事な人を失なって、

其れを受け入れろって言う奴が居たら、

「よし分かった、

じゃあ俺が、地球を無くしてやるから、

全員あの世で暮らそうぜ」

なんて言う…

一人言を言いながらさ…

女将さんと、匠さんを、

産んだんだ…」


7人は顔を見合わせながら…

(…常に冷静な人だと思っていたけど…

私達の為に…地球を壊そうと

思っていたのか…)

と思った。


メリーが優しい声で…

「ベイが…悪魔に魂を売らなくて

良かったわ」


「いや〜僕が今している事は…

既に、売ってしまっていると思うよ…

人は、悲しみの中から立ち上がって…

強く成ると思うんだ…

僕は…その部分を…邪魔してるんだから…」


そう言って口をつぐんだ…


しかし5秒後、急に明るい声で…

「なんて言う事をさ、

何度も自分に問いかけて、

考えたんだけどさ…


ちっとも…良い答えが出ないんだよ。

でっ、いま、皆んなの考え方を

聞いていたらさ…

なんて言うか…

難しく考えないで、楽しく行こうよ、

って言う答えが…たった今、

浮かんで来てさ…


ジョニーの意見と、ボブの提案を、

ミックスして、2で割ったような事をする、

ってどうかな…

ジョニー、納得してくれるかい?」


ジョニーは笑顔で頷きながら…

(あ〜そうだった、昔からベイ博士は、

僕達が提案する事は、

何でもやってくれたんだよなぁ〜、

ただし、マズイ所は必ず

修正してね。


よく考えたら、ベイ博士が全力で動いたら、医療関係者は全員、

失業しちゃうもんなぁ〜)

と思いながら…


「ベイ博士、ボブの提案が入った方が、

僕も良いと思います…」と言った。


するとアンジーが

「良かったわね〜ジョニー、

この間から、ずっと悩んでたもんね〜」

そう言ってジョニーの手を握った。


ベイは斜め上を見ながら

「女将さん、今聴いて頂いた通りです。

ジョニーの言っている病院は、

何処でしょうか?」


「はい、ジョニーさんが見られた

ニュース番組は、今の医学では治せない…

最後の時を過ごす…

小児病院の事です。


番組で取り上げられたのは、5カ所です。

全て違う国です。

病院と直ぐにコンタクトを

取れるようにしておきます」


「ありがとうございます。

さあ〜皆んな、どうゆう感じて…

病院に行こうか?」


「…フリー達の力を借りて、

マジックショー何てどうですか?」

そう提案したのは、ルーシーである…


「グレイといつも言ってるんですけど、

食事の後に食器達が宙に浮いて…

自ら洗われて、

踊るように乾いていく姿は…

マジック以外の何物でもないよね〜って」


するとグレイも頷きながら…

「子供たちも、きっと喜んでくれると思うんですけど、どうでしょう」

そう言って、皆んなの顔を見回した。


するとボブがサッと手を上げて

「俺も、マジックに賛成なんだけどさ…

バックミュージックをかけて

無言でする人と、

ユーモアのある話を織り交ぜながら

する人と…

俺、自慢じゃないけど……

人前で話をするのは、苦手だよ…」


誰もが…

試合前の…記者会見を思い出していた。

舞い上がってしまう、

ボブとリンダに、

MCは無理である。


ベイは笑いながら…

「ボブ、僕もしゃべるのは苦手だよ…

トークは、ジョニーとアンジーにお願いしようよ…2人共いいかな…?」


2人は顔を見合わせた後に…

「喜んで…させていただきます」

とアンジーが言えば、

ジョニーは…

「子供たちの喜ぶ顔が…

今から目に浮かんできますよ」

と言って微笑んだ。


ベイは女将に…

「すみません女将さん…

手配の方を宜しくお願いします」


「はい……ただいま5カ所の病院と

交渉しております…

もう少しお待ち下さい…

1軒の病院からOKが出まし。

2軒目、3軒目からOKが出ました…

4軒目、5軒目、全てOKが取れました」


「女将さんスゴイ…

何でこんなに早く、

交渉が出来るんですか?」

と言ったのはボブである。


「実は、ジョニーさんから、

今回の提案があった段階で、

病院の方に、

「子供達の為に、

楽しいボランティア活動をさせて頂く事は…可能ですか?」

と言う交渉を進めていました」


「えっ〜、でも……もしも

ベイ博士から許可が下りなかったら…

なんて、思わなかったんですか?」


「ボブさん…私と主人は、

ベイ博士から産んで頂いた

子供だと思っています…

父であるベイ博士は、

皆さんの希望を、

否定される方では有りません。

その事は…皆さんの方が、

よくご存知かと…」


7人は目を潤ませ…口々に

「はい…」と返事をしながら

(そうです…昔から…皆んなの希望は…

必ず…聞いてもらえました)

と思った。


ジョニーとアンジーは…

デッキの窓辺側に在るソファーに移動して…

マジックショーのシナリオを

1時間余りで作り上げた。


まず、病院から白いシーツを8枚借りる、

患者さんと、

親御さん達が見ている前で、

ナースの方達から…

手渡してもらう。

シーツを魔法のジュウタンに見立て、

8人は、フリーの力を借りて、

空中に浮く。


見ている人達は病院のシーツなのに?

と思う…

後は空中に浮いたままで、

ライオンとか、トラとか、象とか、

キリンとか…

とにかく、

子供達が喜んでくれるモノに…

フリー達に変身してもらう。


その後に…と話しあっている時に、

スカイシップは一軒目の…

病院上空に到着した。


小高い丘の上に…

その病院は建っていた。

建物の周りには

花壇が綺麗に区画されている。


病院の玄関前では…

3人のナースが、

8人のボランティア・マジシャンの人達を、今か今かと、

首を長くして待っていた。


スカイシップの中から…

「ベイ博士どうしましょうか?

ナースの方達…

ズッと遠くを見てますよ…」

そう言ったのはボブである…


「ボブ、僕達はマジシャンなんだから、

空から堂々と、

スッーと…下りて行っても

いいんじゃないかな?

そう言った事をするマジシャンの方、

居るんじゃないかな」

「そうですね〜」

ベイの言葉にボブは嬉しそうに

リンダの手を握って…


「さあリンダ行くよ…

何だか胸が…ドキドキしてきた」

そう言って皆んなを笑わせた。


3人のナースは、

車でマジシャンが来ると思っているので、

街の方から一本で繋がっている道を…

ズッ〜と眺めていた。


「先輩、マジシャンの方達の車…

見えませんね〜」

「そうね〜、ボチボチ約束の

時間なんだけど、

街の方の道が…

混み合っているのかしら?…」


すると、3人目のナースが笑いながら…

「マジシャンの方達だから…

空から下りて来たりして」


「まさか〜」と言いながら…

3人は何となく空を見上げた…

8人は、下から見上げている

3人のナースと、

目が合ってしまった…


「あっ〜残念。

あと50mほどで

下に着いたのに

見つかっちゃいましたね〜」

とグレイが言うと、


ルーシーは満面の笑みで

ナース達に手を振りながら…

「ほら、皆んなも手を振らないと、

怪しまられるわよ」

と言った。


7人も…

( なるほどその通りだ )

と思い慌てて手を振った。


「先輩、スゴイですね〜。

前に、空に向かって上がって行くマジックは見た事があるんですけど…

スゴイなぁ〜

登場する所から、

エンターテイメントが

始まっているんだぁ〜」

3人のナース達はいたく感動してくれた。


8人はナースに案内され、

小さな体育館のような部屋に通された。

縦横の広さは約40mほど、

天井までの高さは6mほどある…


「ベイ博士、ちょうどいい広さですね」

とジョニーが言うと、

アンジーは、既に集まってくれている

子供達と、親御さん達に向かって…

「皆さん、こんにちは、

お待たせしてスミマセン…」

と言いながら…

病院側が用意してくれた舞台の方に進んだ。


高さが50センチ、

奥行き3m、横幅6mの、

仮設の舞台である。


8人が舞台の上に立つと、

親御さん達が拍手をおくってくれた。


車椅子の子供達が16人…

ベットに寝た状態の子供達が8人…

自分の力で、

ソファーに座っていられる子供達が

13人である。

後ろの壁には親兄弟、親戚だろうか?、

80名ほどの人達が立っている。


「皆さん、お待たせしました、

世にも不思議なマジックショーの

始まりです…

此方に居られるベイ博士と…

私達7人のマジックを…

存分に、楽しんで下さい!」


ジョニーの第一声が…

震えている。

痛々しい子供達の姿に、

胸が苦しくなっているのか、

目には既に…涙がたまっている。


その事に気付いたアンジーは…

小さい声で…

「フリー・アー、バックミュージックを

お願い」

「はい、アンジー様」

軽快な音楽が、部屋中に響き渡った…


アンジーは明るい声で…

「では始めにナースのどなたか、

シーツを8枚貸してくださいませんか?」


入口の前に立っているナースが、

直ぐに8枚のシーツを持って来てくれた。


アンジーは笑顔でシーツを受け取ると…

「皆さん、今ナースの方から

魔法のジュウタンをお借りしました…」


会場中はキョトンとしている

(…シーツだけど…?)

誰もがそう思った…その時、

8人はいっせいにシーツを広げると…

靴を脱ぎ…

その上に乗った。


子供達も、大人達も、歓声を上げて、

大喜びである。


ジョニーとアンジーは会場を見回すと

(よし、皆んなの気持ちを掴んだぞ〜)

と思った。


後はライオン、象、シロクマ、

天井スレスレのキリン…

動物の後には車、ボート、ジェット機、

アニメに出てくるロボットまで…

子供達は大喜びだが…

大人達は余りの凄さに

言葉を失って…

「…これって…本当にマジックなの…」

と呟き出した。


その声は、

8人の耳にもちゃんと聞こえている、

しかし8人は、

大人の声など気にもせず、

子供達の笑顔だけを見つめて…


(…さあ〜もうすぐ終わりだよ…

最高の驚きを、

あなた達にあげるからね…)

と思っていた。


バックミュージックが止まり…

8人は静かに頭を下げた。


「皆さん、楽しんで貰えましたか?」

アンジーの優しい声が、

子供の耳に届いた。


酸素マスクをしている子供達が大半である…小さく微笑みながら、

アンジーの顔を見つめている…

「皆さん、実は今日…

この席に、皆さんの夢を叶える為に、

世界一の天才科学者…

ベイ博士が来られています!」


会場中の大人達は、

まだショーの続きだと思っている。


「さあ〜、叶えて貰いたい夢は…

何かしら?…」

すると、ソファーに座っている

6歳くらいの女の子が…

「わたし…病気が治ってお家に帰りたい…」と言った。


子供の両親は、泣き顔を隠す為に、

両手で顔を覆った。


周りの大人達は…

(…何で夢を叶える何て言うの…

もう手遅れなのよ…

悲しい思いをさせないで…)

と思いながら…

小さくタメ息をついた。


するとベイは…

「お嬢ちゃんの夢を…叶えようね」

そう言いながら、

シーツに乗った状態で、

女の子のソファーに向かった…

その様子を見ながら…

アンジーは更に…


「さあ〜ベイ博士が動き出されましたよ、

次は誰かしら」

小さな手が上がった…

「あなたの叶えたい夢は?」

「学校に戻って…友達と…勉強したり…

遊びたい…」

そう言ったのは、車椅子の少年である。


アンジーは笑顔で…

「とっても素敵な夢ね…大丈夫、

叶うわよ」

少年は弱々しく微笑んだ。


その時、1人のナースが…

「私は…長生きして…パパとママを大事にしたい…」と言った。

ベットに、寝た状態の女の子が、

ナースに頼んで、自分の代わりに夢を語ってもらっていた…

もう小さな声しか、出せないのである。


女の子の前に着いたベイはシーツから降り…

女の子の頭を撫ぜながら…


「お嬢ちゃん、

実は…僕は悪魔の使いなんだよ、

ひねくれ者の、

怖いもの知らずの悪魔なんだ…

神様が出された試練の…

邪魔をしに来たんだ…

だから、今から貴方の身体を

治しちゃうね!

お家に帰って

パパとママにいっぱい甘えるんだよ!」


そう言って、今まで乗っていた

白いシーツを握った…

そして、シーツをブワッ〜と

一振りすると、その白いシーツが、

青に変わった。


誰もが「えっ?」っと声を漏らした。

ベイは微笑みながら…

女の子に、青にシーツを掛けた…

(…何をしているんだ…)

誰もがそう思った。


女の子がシーツにくるまり、

わずか3秒…

ベイがシーツを剥ぐと…

女の子はソファーの上に立ち上がり、

元気な声で

「パパ、ママ!」と叫んだ。


両親は言葉を失い椅子から転げ落ち…

ドクターとナース達は目をむいて絶句し…

部屋の中はシーンとなった。


静寂の中、女の子は両親の元に駆け寄り

「パパ、ママ…ベイ博士に…

病気を治して貰っちゃった…」

そう言って両手を広げた。


両親の絶叫と、力いっぱいの抱擁…

部屋の中は歓声の嵐。

ベイはフリーを通じて

「さあ、皆んなで取り掛かろう…」


ボブもリンダも、

アンジーもジョニーも

グレイもルーシーも、

そしてメリーも、

満面の笑みで親指を立て…


1人…また1人と青いシーツをかけ、

病気をどんどん治して行った。


今まで、ズッと夢を見て居たのだ、

我が子が元気に走り回っている姿を…

目を覚まし、

現実を受け入れると、

お腹にグッと力を入れて…

涙を拭い、

子供の前で笑顔をつくった。


心の中では

(…神様、助けて下さい…

お願いします…

其処に居るんでしょう、

もう死んでしまいそうなんです…

お願いします…

私達の胸の中に…

子供を返して下さい…)

そうズッと願って来たのだ。


そして今、

「…誰なの?神様ですよね?

先ほど

御自分で悪魔の使いだと

言って居ましたけど神様ですよね!

スミマセンでした、

外見で判断して、

でも、神様はてっきり

白衣の方だと思ってました…

ゴメンなさい、

本当にごめんなさい…

そして、有難うございます。

子供を治して頂き…

感謝以外の言葉が見つかりません…」


部屋の中に居る大人達は

誰もがそう呟いた。


ドクターとナースが一番驚いたのは、

病気の進行上、

やむなく両脚を切断した女の子が、

ベットの上で飛び跳ねているのだ?

えっ〜?…両足が…


ドクターとナースは…

気を失いかけてしまった。


わずか10分足らずで…

病院内の子供達を…

8人のマジシャンが…

全員…治してしまったのだ。


院長が誰かに電話かけ出した。


女将から、フリー達を通じて警告が届いた

「皆さん、院長が国の機関に

電話をかけています、

皆さんの事を、

悪魔が来たと言っています、

ボチボチ撤収された方がよろしいかと」

ベイは少し早口で…


「了解いたしました…皆んな撤収するよ〜」7人は親指を立てながら…

ロビーに向かった。


しかし、ロビーには既に…

15名の警備員達が…

8人を外に出すまいと、

まるでフットボールのスクラムを

組んだような形で、

ジワジワと近づいて来た。

ボブは前に出ると…

ファイティングポーズをとった。


15名の警備員達は

(…たった一人で何が出来る…

と言いたいけど…

えっ?…ヘビー級チャンピオンの…

ボブさんじゃね…?

だとしたら

勝てねえんじゃね!」

と思った。


その時、部屋の中から警備員の

責任者が駆けつけ、

ボブと、15名の警備員の間に…

走り込んだ…


「皆んな、落ち着け…

誰の指示で此処に居るんだ?」

「…ボス、院長から、

アイツらは悪魔だ捕まえろ!

そう指示がありまして…」


「此方の方達は、悪魔じゃない…

神様だ、部屋の中を見て来い、

病気の子供達が走り回っている、

神様が治して下さったんだ!」


すると後ろから院長が

「何をしている、8人を捕まえるんだ、

そうしないと解雇するぞ」と叫んだ。


15名の警備員達は…

院長と責任者の顔を…交互に見た…

スクラムを組んでいる2人が、

部屋の中に走り込んで行った。


そして帰ってくるなり…

「ボスの言う通りだった、

その方達は神様だ、道を開けろ…」

15名の警備員達は、

慌ててスクラムを解いて、

両脇に並んだ。


院長は大声で…

警備員達を怒鳴ろうとした…

しかし、声が出ない…

身体も動かない。


ベイが小声で

「フリー・べー、院長だけ

ストップモードにして」

そう指示を出して居たからである。


ベイは院長の前に進み…

周りの人に聴こえるような声で

「…お前が思っている通り…

私達は悪魔の使いだ!

私達を捕まえる?

笑わせるな!

動けないお前が

どうやって捕まえるんだ。


お前の事を調べたよ、

過去に…本当なら助かる子供を…

9人も、人体実験の材料にしたな、

医学発展の為には、

多少の犠牲はしょうがない!

そんな馬鹿な事は言うなよ!

私は、そんな事をしなくても、

子供達を助けたぞ…」


ベイの言葉を聞いて驚いているのは、

ジョニーとアンジーである…


(えっ〜、この院長、

テレビで紹介されて居た時は

「子供達の最後の時間をとにかく…

大事にして上げたいんです」

目に涙を浮かべながら、そう

喋っていたじゃないか…)


2人は顔を見合わせて…憤慨した。


しかし警備員達は、

もっと驚いていた…

(…まじかよ〜、人の命ほど尊い物は

無いって、院長の口癖だったじゃないか…

ガッカリさせないでくれよ…)

そう思っていた。


フリーがベイの耳元で

「博士、女将様より、

昨日亡くなった6歳の女の子の魂が、

まだ両親の周りを漂っているそうです…

病院内の霊安室です、

ご両親もまだ

霊安室の中に居られると…」


「ありがとうフリー・べー」 

ベイは、15名の警備員達にむかい…

「皆さん、悪魔の力を見せてあげ

ましょう…ついて来て下さい」


15名は黙って…

ベイ達の後に続いた。


霊安室のなかでは…

亡くなった我が子を抱きしめ…

30代半ばの夫婦が…

声をおさえて泣いて居た。


突然入って来た23名の人達に…

夫婦は小さく会釈をした…

夫は妻の肩をさすりながら立ち上がると


「スミマセン…お邪魔でしたね…

私も妻も…

身体中の力が抜けちゃいまして…

スミマセン直ぐに帰ります…」


するとベイはいきなり夫を、

ギュ〜っと抱きしめた。

1年前の自分を思い出したのである。


夫は、我慢していた…何かが切れたのか…

ベイの肩を借りて、

大声で泣き出してしまった。


最愛の娘を無くしたのだ…

警備員達もすすり泣いている。


ベイは、夫の背中をさすりながら

「トップシークレットなので、

詳しい説明は出来ませんが…お嬢様を…

御二人の元に…」そう言って…

メリーに合図を送った。


女の子を生き返らせるメリー…

婦人の絶叫、

警備員の歓声…

「あなた〜セシルが〜、あなた〜」

ベイは夫の背中を、ポンポンと叩くと

「お嬢様が帰って来ましたよ…」

そう言って夫を振り返らせた。


「セシル?」

「パパ…ただいま…」

夫は、子供を抱っこしている妻ごと

抱きしめ…

「ありがとうございます…神様…」

そう言うのが、やっとだった。


8人が玄関に向かうと…

沢山の人達が集まって居た。


神様に…御礼を言いたいのである。

1人の婦人が…

「大事な息子が…走り回っています…

本当に…何と御礼を申し上げれば…

良いのか…」

ベイは、大勢の人前で喋るのが苦手なので、

ジョニーがすかさず前に出て来た。

「私達のマジックショーは…

気に入ってもらえましたでしょうか?」

と尋ねると、

拍手と歓声が上がった。


8人は微笑みながら…

小さく手を振り、そして空に昇って行った。


下から見送る人達は

(…神様って本当に居たんだぁ…

神様って4組の夫婦だったんだなぁ…

黒い衣装を着て、

照れながら…

自分の事を悪魔の使いって言うんだ…)

そう思いながら微笑んだ。


皆んなで8人を見送った後…

ロビーに入ると、身動きが出来ない

院長が目に入った。

誰もが…

(…悪魔って本当に居たんだなぁ…

それも身近な所に…

白衣を着て…偉そうに、

私は神の使いです、

みたいな感じの事を言ってたくせに…)

と思った。


その後に院長は、

地元の警察官の人達に囲まれた。

そこでやっと

身体が動くようになった…


「違う、誤解だ、私の話を聞いてくれ…」「ハイハイ、署に戻ってゆっくりと話を聞きますよ」

「嫌だ、警察には行きたくない、

だいたい私を誰だと思っているんだ!」

警察官は手錠をはめながら…


「殺人容疑者だよ…」

そう言って、院長を連行して行った。


病院訪問のマジックショーは、

大きなもめ事もなく….

その日の内に

全て終了する事が出来た。


ジョニーは皆んなに向かって

「今日は本当にありがとう…

そして、ゴメンね…結婚式の前日なのに、

皆んなを走り回らせて…」


するとグレイが

「僕は…皆んなの喜ぶ顔を見させて貰って、嬉しかったよ、

むしろ、ジョニーとボブが提案してくれた、今日の公演に…

僕個人としては、

本当に感謝しているよ…」

そう言って微笑むと…


全員が「その通りだね…」

と言いながら頷いてくれた。


メリーは、皆んなの労をねぎらう意味で

「フリー・メー、皆んなの手元に、

シャンパンをお願い出来る」

「かしこまりましたメリー様」


次の瞬間、皆んなの手元にはシャンパンが…

メリーはベイの顔を見つめて

「何か…一言ちょうだい…」

と言ってウィンクをおくった。


ベイはグラスを高く上げ

「素晴らしい…

ジョニーとアンジーとボブの提案に、

そして…神様の邪魔をする為に

奮闘してくれた、

怖いもの知らずの8人に、乾杯!」


ベイがグラスを前に差し出すと、

7人はグラスを優しく当てて…

微笑んでくれた。


  〈 結婚式 〉


次の日、

いよいよ今日は8人の結婚式。

世界一愛する人と結ばれる

大事な日である。


でも…実際には、

身も心も既に結ばれている、


昨夜も、その前の日も、

そのまた前の日も…

なんなら、もう何年も前から

ズ〜っと結ばれている…

と言うか、

暇さえあれば、引っ付き倒している。


でも…

どうしても自分のパートナーに、

ドレスを着せたかったのだ、

子供の頃からの大事な約束を、

守りたかったのである。


ホワイトホテルが建っている

その地方一帯は、

昨夜から激しい雨が降っている。


オーナー夫妻は…

(…どうか雨が止みますように、

今日は素敵な4組の方達の…

結婚式なんです…)

そう思いながら…空を見上げて居た。


朝の10時5分、激しい雨が急に止んだ。

レイチェルは首を傾げ…


「あなた、雨が止んだわね…

このホテルの周りだけ…?」

「そうだね…?」

「あなた、もしかしたら、

お客様方が……

上空に、お着きになったのかしら?」


妻の言葉に夫は微笑みながら…

「きっとそうだね、トップシークレットの方達だからね」


夫は嬉しそうに妻の手を握ると…

ホテルの外に出た。

夫婦の目に入って来たのは、

ホテルの上空10m程の高さに浮いている…スカイシップである。


夫は妻に…

「あぁ…トップシークレットとはいえ…

本当に凄いなぁ〜…

さあレイチェル…結婚式の始まりだよ。

最後の御客様が…

素敵な方達で…

本当に良かったね…」


妻のレイチェルは黙って頷いたが…

目には涙がいっぱい溜まっている。

ブラウンはレイチェルを

しっかりと抱きしめると


「レイチェル…大丈夫だよ…

今までも2人で…

色々な事を乗り越えて来たじゃないか、

僕が何とかするからね……」


レイチェルは夫に力いっぱいにしがみ付き…

「ゴメンなさい、もう大丈夫…

大丈夫…」

そう言って涙をぬぐった。


スカイシップから…

光りの柱が…地上に向かって下りて来た。

その中を、

ウエディングドレスと…

タキシードを着た8人が、

ゆっくりと地上に向かって降りて来る…


レイチェルはとっさに…

「あなた、水たまりでドレスが

汚れてしまうわ、何とかしなければ」

と言って夫の顔を見上げた。


「大丈夫だよ…観てごらん、

すごいね〜あの方達は、

歩いて無いよ。


浮いた状態でこっちに向かって

来ているんだ…」


「トップシークレットって…

魔法使い…って言う事なのかしら?」


「うん…きっとそうだね」

そう言って頷いた。


8人が2人の前に到着した。

レイチェルは一礼をした後に

「皆様…本日はおめでとうございます。

準備が整っております…」

そう言って

8人をロビーの方に案内した。


ブラウンは8人の背中を見送ると…

直ぐにキッチン横の小部屋に入り、

CDデッキのスイッチを入れた。


優しいメロディーが館内に

広がっている…

見つめ合う花嫁と花婿、

嬉しいはずなのに涙ぐんで居る。


花で飾られた壁の前に…

8人が仲良く並んで立つと…

ブラウンとレイチェルは一礼をした後に、

誓いの言葉を語り出した。


ハンカチで目元をおさえる女性陣…

唇を噛み締める男性陣…

(…本当に今日まで…色々な事が

有ったなぁ〜…)

そう思いながら…

8人は、自分のパートナーの顔を

見つめた。


ブラウン夫妻は、最後に声を揃えて

「…未来永劫、お2人が愛し合われる事を…

願います」

と言って…誓いの言葉を締めくくると、

8人は指輪の交換をして…

キスをした。


8人は、ブラウン夫妻が考えてくれた

誓いの言葉

「未来永劫」と言う言葉が、

特に強く心に突き刺さっていた。


なにせ一度死んでいるので、

死が2人を別れさせては…

困るのである。


現に死んだ後の、あの世でも、

ボブはリンダが大好きで、

愛する思いは、

少しも揺らぐ事は無く…

お互いに肉体が無いのに、

毎日、愛し合っていたのである。


それが生き返った今でも、

お互いが大好きどうしなので…

未来永劫と言う言葉が、

「とても的を得ているなぁ…」

と8人はそう思ったのである。


ベイは、

ブラウンとレイチェルに向かい…

「とても素敵な誓いの言葉を…

本当にありがとうございます、

メリーだけをズッ〜と愛します、

未来永劫…ずっと…ずっとです…」

と言って…

メリーに…もう一度キスをした。


それから…

ブラウン夫妻の手料理の美味しさに、

笑顔で頷き合う…グレイとルーシー。


ブラウン夫妻が考えてくれたゲームに…

お腹を抱えて大笑いする…

ジョニーとアンジー。


ビデオカメラを向けると緊張してしまう、

ボブとリンダ。


皆んなが居るのに、

当たり前の様に

ベイの膝の上に股がっているメリー。


ベイはメリーの耳元で

「…世界中の女性には申し訳ないけど…

君が世界で一番…綺麗だよ!」


「ありがとう、ベイ。

世界中の男性には申し訳ないけど、

貴方が全てにおいて…一番の男よ!」

そう言ってキスをした。


ブラウン夫妻が考えてくれた、

楽しい企画満載のパーティーは、

アッと言う間に5時間を経過させた。


ベイは腕時計をチラッと見ると…

「えっ〜?もうこんな時間…

楽しい時って、時間のスピードが早くない?」と言う独り言を言った。


その言葉はブラウン夫妻の耳に入った。


ブラウンはレイチェルの耳元で

「嬉しいね、喜んで頂けて…」

レイチェルは微笑みながら頷き…

そして心の中で…


(本当に良かった〜、素敵な皆さん…

どうかズッと幸せでありますように…


私達のホテルは今日が最後なんです…

銀行から差し押さえの通知が届いてるんです…ゴメンなさい、

幸せな皆さんの前で…


でも…私の心の中の声は、

誰にも聞こえませんもんね…

愚痴を言ってゴメンなさい、

許して下さいね…)


そう思いながら…

8人に向かって頭を下げた。


ベイはレイチェルのそんな姿を見ると、

ゆっくりと席を立ち、2人の前に進んだ。


「今日、私達は8人は…

ブラウンさんとレイチェルさんの…

優しさに溢れた…

結婚式を挙げさせて頂きました。

もう本当に嬉しくて…


そこで何か…

御二人にプレゼントを

差し上げたいんですけど…

何か欲しい物が有れば、

どうぞ遠慮なくおっしゃって下さい」

と言って2人の顔を見つめた。


ブラウンは首を横に振りながら…

「ありがとうございます、

何も欲しい物はありません、

今、ベイ博士から頂きました言葉が…

私達にとっての最高のプレゼントです。

本当にありがとうございます」


と言ってブラウンが頭を下げると…

レイチェルも一緒に頭を下げた。


ベイは女将からホテルの状況も、

2人の子供を亡くしている事も

全部聞いているので


「あの〜、遠慮なさらずに…」

と言ったが…2人は下を向いたままだった。


昨夜ブラウン夫妻は一枚の手紙を書いた…

相手は銀行である。


[返済が出来なくなり申し訳ありません、

差し押さえの件

つつしんで受けさせて頂きます。

ホテルの建物と土地の権利書を

銀行におさめさせて頂きます、

よろしくお願いします]


そう書いた後に

「レイチェル、ゴメンね…」

と言う夫の言葉に、

妻は小さく微笑みながら…

「大丈夫よブラウン…

また2人で頑張りましょう」

と言った。


しかし心の中では

(…現実って嫌ね…

夢とか、希望とか、そんなモノが入る

隙間が…ぜんぜん無いんだもの…

せめてトムとニーナが居てくれたらなぁ…)と思っていた。


それが、今から18時間前の事である。


ベイは下を向いたままの2人に

「あの…立ち入った事を聞いて

申し訳ないのですが…

ホテルの経営状態は順調ですか?」

と尋ねた。


〈 こんな現実 〉


ブラウン夫妻は小さな声で

「えっ?」と言いながら、

ベイの顔を見つめた。 


「あの…私達8人が、何となく

普通じゃないって事は、

3日前から薄々気づいていると

思うんですが…」


と言うベイの言葉に、

ブラウン夫妻が大きく頷くと、

ボブとリンダは

「思ってたんかい!」

と、思わず吹き出してしまった。


「ブラウンさん、ベイ博士は何でも

知っていて、

何でも出来る方なんです。

試しに願い事を言ってみては…

いかがですか?」

そう言ったのはボブである。


その言葉を聞いたレイチェルは、

とうとう泣き出してしまった。

ブラウンも涙をこぼしている。


メリーがレイチェルの背中をさすりながら「大丈夫ですよ大丈夫…

私の主人は魔法使いですから…

どうぞ願い事を…」


レイチェルは嗚咽を抑えながら

「このホテルは…今日で終わりなんです…

かなり前から…御客様が誰も来られないんです……銀行に支払うお金も…

もうありません…」


メリーはレイチェルに

「大丈夫ですよ」

と言いながら立ち上がり…

「フリー・メー、お願いがあるんだけど、

ブラウンさんの、

銀行に払う金額を…

画面に出して欲しいの…」


「かしこまりましたメリー様」

と言うと、フリー・メーは

パソコンに変わり、

ブラウン家の負債金額を

画面に表示してくれた。


メリーは画面をベイに見せた…

2人の周りには、

ボブ夫妻もジョニー夫妻も

グレイ夫妻も集まって居る。


ベイはパソコンに向かって

「フリー・メー、

僕の銀行口座からブラウンさんの口座に…

お金を振り込んでもらえるかな」


「かしこまりましたベイ博士…

完了しました」

「ありがとうフリー・メー」

「とんでもありません」

ベイは…パソコンの画面を

ブラウン夫妻に見せた。


目を見開く2人…

銀行から借りた金額の数字が、

ゼロになっているのだ。


「あっ、あの…私達が借りたお金が…

あの…返し終わっていますけど…」

口ごもってしまったのは、

ブラウンである。

レイチェルは、ただひたすらに、

泣いている…


ベイは微笑みながら…

「ブラウンさん、私達からのプレゼントです、さてと次に、

とても言いにくい事ですが、

奥様は乳癌に成って居られます…

ですよね、

レイチェルさん」


レイチェルは

(…えっ?何で私のガンの事を…?)

と思いながらベイの顔を見つめた。


ブラウンは何も知らずにいたので…

「レイチェル…」

と言ったまま腰を抜かして、

座り込んでしまった。


すると横からリンダが

「ブラウンさん大丈夫ですよ、

ベイ博士が治して下さいますよ、

名医ですから」

ブラウンは思わず、

ベイに手を合わせてしまった。


「いや、あの、ブラウンさん、

手を合わすのは止めて下さい、

少し待って下さいね…

フリー・べー、船からマシンを持って来てもらえるかな」

フリーは3秒で…

ベイの腕にマシンを装着させてくれた。


レイチェルの乳癌は5秒で治され…

ついでにと言う訳ではないが、

ブラウンの腰のヘルニアも2秒で

完治させて貰えた。


ブラウン夫妻は、ベイとメリーに

深々と頭を下げながら

(やっぱり普通の方達ではないんだ…)

と痛切に…感じた。


そして夫妻は、

他の6人の人達にもお礼を言おうと

顔を上げたが、

6人の姿が見えない

(…あれ?何処に行かれたのかな…)

と思いながら小さく首を動かし、

部屋の中を見回したが、

6人の姿が見えない。


するとメリーが…

「ブラウンさんと、レイチェルさんが、

一番欲しいプレゼントを…

今6人が迎えに行っています…」

と言って微笑んだ。


2人は心の中で

(…私達が欲しいのは、

12歳の息子のトムと、

10歳の娘のニーナなんですよ…

でも自分達の不注意で…

亡くなってしまって…)

と思いながらお互いの手を握りしめた。


その時ベイが…

「あっ帰って来た…

ブラウンさん、レイチェルさん、

御二人の心を救ってくれる宝物が…

ほら見て下さい…」


2人は、ベイが指差す庭の方向に

目を向けた。


ボブとリンダ、ジョニーとアンジー、

グレイとルーシーが満面の笑みで…

横一列に並んで立っている…


2人は立ち上がり、

6人に向かって頭を下げようとした、

その時である……


ボブとリンダの間からトムが…

グレイとジョニーの間から、ニーナが…

ヒョコッと顔を出した。


ブラウン夫妻は

「えっ?」と言いながら目をこすり、

もう一度見直した…


ボブがトムの耳元で

「ほら…パパとママのところに行かないと…」と言い、

アンジーはニーナの目を

ジッと見つめて

「いっぱい甘えてね…」

そう言ってソッと背中を押してくれた。


一瞬の沈黙…

その後にブラウンの絶叫と、

レイチェルの狂喜乱舞…


両親の元に駆け寄るトムとニーナ、

涙の抱擁、抱擁、抱擁……

ブラウン夫妻は

(…夢でもいい、こんな素敵な夢なら、

夢の中で…死んでもいい…)

と思った。

イヤむしろ…死にたかった。


何度も夫婦で話し合ったのだ…

死んで…子供達の所に行くことを…

でも、自殺をした人の魂は

何処に行くのか…?

子供達に会えないなら、

何の意味もない…

そんな事をズッ〜と昨日の夜まで

真剣に考え、話し合っていたのだ。


今…この感覚はなんだ…

子供達を抱きしめる事が出来る…

暖かいのだ…

もう何もいらない、

4人で石になってもいい、

ズッと一緒に居たい…

もう離さない。


周りで見ている8人は、

喜び合っている4人を、

微笑みながら見つめていた。


しかしフリー達は、

4人の親子の異変に気がついた。


中でもフリー・べーは、

4人の周りを飛び回り、体温、表情、感情の起伏までを分析しだし…


そしてベイの肩に戻ると

「ベイ博士」

「なにかなフリー・べー」

「あの…ご両親も…子供達も、

今現在を夢だと思っているようです…」


「えっ?あっ、そうなの!」

「はい間違いありません…」

「ありがとうフリー・べー、そうか…

普通は信じられないよね、

ちゃんと説明してからにしないと…

ダメなんだね…」


そう呟いている時に、

ブラウンと目が合った。


ベイは4人の前に進むと

「あの…皆さん…

ココは夢の世界ではありませんよ、

現実の世界です。

ブラウンさん、御2人の子供さんは、

私が作ったマシンによって

生き返ったんです。


えっ〜と…先ず肉体の細胞を蘇らせて、

一旦肉体から離れた魂を呼び戻すんです…ん〜と、分かります?

分かりませんよね…」


4人はキョトンとした顔で、

ベイを見つめている。


その時、

ベイの肩をソッと両手で握るような

格好でボブが顔を出し…


「ブラウンさん、

トップシークレットに選ばれたんですよ、

ベイ博士が、

子供達を生き返らせて

くれたんです…

良かったですね、

もうズッと一緒に居られますよ」


その言葉が4人の気持ちの中に

スッと入って来たのか?

親子は見つめ合い…

そして声を上げて

泣き出した。


ベイはその様子を見ながら

「ありがとうボブ、助かったよ〜、

僕の言い方では

納得してもらえなかったよ」


そう言って微笑んだ後…

7人に向かって

「皆んな、ちょっと相談があるんだけど…」


ベイの言いたい事は、

聞かなくても、

だいたい解っている、

4人の親子を放って置けないと

言う事であろう…

7人もまったく同じ意見である。


4人は泣くだけ泣いて…

落ち着いたのか、

8人に向かい、深々と頭を下げている。


ブラウンが…

「どのような言葉で…

お礼を申し上げれば良いのか…

この御恩は…

一生忘れません」


横からレイチェルも…

「トップシークレットに選んで頂き…

本当にありがとうございました」

そう言ってトムとニーナを

抱きしめている。


ベイは小さく首を振りながら…

「素敵な結婚式の御礼ですから…

ところで、話は変わりますが…

ブラウンさん、

ホテルを経営して行く上で、

毎日、

何組のお客様が入ればやって

いけるんですか?」


「はい…3組の御客様が来て頂けたら…

なんとか…」

ベイは嬉しそうな顔で


「おっ〜良かった…

僕達は4組の夫婦ですから…

何とか経営が成り立ちますね」


ブラウン夫妻は顔を見合わせ…

首を傾げている…


メリーは

「明日から私達8人が、

ズッと此方のホテルにお世話になります、

よろしくお願いします」


するとレイチェルが

「嬉しいです、助かります、

ありがとうございます…」

と言って両手で顔を隠した…


トムは母親の背中をさすりながら

「…すみません、ママは、嬉しい時も

悲しい時も、直ぐに泣いちゃうんです」

そう言って頭を下げると、

隣に居るニーナも同じように頭を下げた。


ベイはブラウンに

「今日、私達は船に帰ります、

明日の朝食からお願いします。

それと料金は、1日おいくらですか?」


ブラウンはホテルの借金まで

返して貰ったのに…

料金なんてもらえないよ、

と思って、

口ごもってしまった…


其れを察したメリーが

子供の前にしゃがみ込み


「ニーナちゃん、いくらだか知ってる?」

と尋ねた、

ニーナは知っている事を聞かれたので、

元気よく答えようとした…

するとトムがニーナの腕をつかみ

「ニーナ言っちゃダメだよ!」

と小さな声で言ったが、

ニーナには意味が分からない…

「1日2食付きで80ドルだって、パパとママが言ってました」


「ありがとうニーナちゃん、

でわ前払いと言う事で…

貴方(あなた)

えへへ…

慣れて無いから、恥ずかしい…」

と言うメリーに…

ベイは微笑みながら


「ブラウンさん、80万ドルを今振り込みました…10万ドルを切ったら、

次の振込をしますので」


ブラウン夫妻は驚きで声が出ない。

ただ夫婦で見つめ合い、目で語り合った


(…銀行の借金が無くなり、

赤字のホテルが、

一気に黒字のホテルに変わり、

亡くなった2人の子供が帰って来た。


苦しい事の連続が、人生だと思っていた…

其れが自分達には、

お似合いだと思っていた。


本当は絶対に幸せに成るんだと

思いたかった…

けど、ズッ〜と辛い事が多かったから…


本当に、コレでいいのだろうか?

後で地獄のような苦しみや、

悲しみが…

待って居るんじゃないだろうか?


それなら其れでもいいや、

8人の方達について行こう、

だって…今がとっても幸せなんだから…)


そう2人は視線で語り合い…

答えを出した。


ブラウンとレイチェルは、

トムとニーナの手をしっかりと握りながら

立ち上がり、

そして一家の長であるブラウンが…

「本当に…ありがとうございます…

明日の朝食から、

皆さんを心よりお待ちしております…

あの、今夜の夕食は…

もし宜しければ、直ぐにでも

ご用意出来ますが…?」


するとアンジーが…

「今夜は親子水入らずで、

ゆっくりとして下さい」

そう言って微笑んでくれた。


ブラウンは嬉しくて…

「ありがとうございます…

皆さんのご厚意に甘えさせていただきます。

明日の朝食は何時くらいが宜しいですか?」


ベイは7人の顔を見回しながら


「えっと〜…9時くらいで、お願いします」


「かしこまりました、お待ちしております」そう言って頭を下げると、

レイチェルと子供達も一緒に頭を下げた。


ブラウン一家に見送られて

8人は船に戻った。


「女将さん、匠さん、ただいま帰りました」メリーの幸せそうな声に…

女将は

「素敵な結婚式でしたね〜」と言い…

匠は…

「感動して…泣きそうになって

しまいました」と言った。


するとベイが、

タキシードのポケットから

1つのチップを取り出し

「匠さんと女将さんに、私達8人から

プレゼントを用意しました…

御2人の部屋の前に行きますね」


「はい…どうぞ…?」

と言ったが、

女将には何の事だか分からない。


8人はエレベーターで下に降り…

2人の部屋の前に立った。


まだ全員、ドレスとタキシード姿の

ままである。


部屋の中では…匠と女将が手を繋いで

立っている…

ベイは微笑みながら

「フリー・べー、コレを頼むよ…」

そう言ってチップを渡した。


船内の事、8人の事、フリー達の事、

女将は何でも知っている…

しかし…

ベイ博士が持っていた、

チップの事は知らなかった。


女将は8人がエレベーターに乗っている時

「フリー達、ベイ博士は私達に

何の用かしら」と尋ねたが、

フリー達は声を揃えて

「女将様、私達にも何の事だか分かりません」と答えた。


フリー達は、女将と匠にウソはつけないように作られている、女将と匠は


(…私達は、ベイ博士の意に背くような事をしたのだろうか?

私達2人の…

プログラムを変えられるのだろうか?…)

不安な気持ちでイッパイに

成っていた。


チップがフリーによって差し込まれた。

女将と匠は、手を強く握り合った…


次の瞬間、

女将の身体にはウエディングドレスが…

匠の身体にはタキシードが…

そしてフリー達の身体にもウエディングドレスとタキシードが着せられていた。


「えっーー!」と言ったのは匠。


「素敵!」と言ったのは女将。


「私達までもが…皆さんと一緒なんて…」

そう言ったのはフリー達である。


ベイが…

「8人でコッソリ話し合ったんですよ…

皆んなで幸せを味わいたいねって。

今から、匠さんと女将さんの結婚式を

挙げます。

そして次に、

フリー達の結婚式を挙げます。

心の準備は良いですか?」


女将はすでに匠に抱きつき…

「準備OKです」と答え、

匠は本当に嬉しそうに微笑んでいた。


女性のフリー達は、男性のフリー達を抱きしめながら…

「逃げらないようにしています」と言うと、男性のフリー達は…

「喜んで捕獲されました」と答えた。


ジョニーとアンジーが、御祝いの言葉と、

誓いの言葉を言うと…

匠と女将が…「誓います」と答え。


グレイとルーシーが御祝いの言葉と、

誓いの言葉を言うと…

8人のフリー達も…

「誓います」と答えた。


その言葉を聞いたベイとメリーは…

「御二人を夫婦と認めます」

そう言って…

10人分の指輪を出した。


抱擁と…誓いのキス。

拍手と歓声…笑顔と涙。


ベイは女将と匠、

そしてフリー達に

「今から、明日の朝8時半まで、僕達の事は何もしなくていいですから、

それぞれが夫婦で…

楽しみましょう。

でわ皆さん…とりあえず自分達の部屋に…」と言って微笑んだ。


その後…自分達の部屋に戻り…

お酒を飲むカップル、

お風呂に入るカップル、

おしゃべりをするカップル、

あんな事をするカップル、

こんな事をするカップル…


何をしてもいいのである。

新婚だし、大人だし、愛し合ってるんだし。18人は…長い夜を…それぞれの愛し方で

…思い切り幸せに過ごした。


次の日…

女将と匠に見送られ、

8人はホテルの朝食の席に向かった。


    〈 シャボン玉 〉


朝9時……

ホテルのロビーに入ると

焼きたてのパンの匂いと、

コーヒーの香りが8人を

出迎えてくれた。


そして更にダイニングに入ると、

美味しそうな…

焼きたてのベーコンと

卵焼き…

そして新鮮な野菜サラダが

こちらを見て居るではないか…


(待っててね、直ぐにお腹の中に

入れてあげるからね…)


そんな妄想をして居る時に、

キッチンからトムとニーナが

ワゴンにスープを乗せて

此方に向かって来た…


8人に気がつくと、ソッとワゴンを止めて

「皆さん、おはようございます」

そう言って2人はペコリと頭を下げた。


8人は(かわいい〜)と思いながら

「おはよう、トム、ニーナ」

順番に声をかけていった。


その事に気付いたブラウンとレイチェルは

キッチンから慌てて出て来ると


「皆さん、おはようございます。

すみません、直ぐに全てを揃えますので、

もうしばらくお待ち下さい」

そう言って2人はキッチンに

駆け込んで行った。


するとボブが…

「皆んなで運ぶのを手伝いますよ」

そう言って…キッチンに入ろうとした

時である…

トムが、ボブの前に来て


「お客様に手伝って頂くなんて…

とんでもありません、私どもで直ぐに用意しますので、椅子に座って、お待ち下さい」


そう言ってボブの手を握り…

席まで連れて行ってくれた。

8人はまた

(…かわいい〜、子供なのにプロの

意識をちゃんと持っているんだなぁ…)

と思った。


テーブルの上に全てが揃うと、

ベイは皆んなの顔を見てニッコリと微笑み、

両手を顔の前で合わせ

「いただきます」と言った…

その言葉で8人の朝食が始まった。


8人の周りで必要な物があれば

直ぐに対応できるように、

ブラウンとレイチェルが微笑みながら

立っている。


食事が始まって五分、

2人は少し驚いた…

8人とも、食べる速度が早いのだ。


(…大丈夫かなぁ、ノドに詰まるんじゃ

ないかしら…)

レイチェルがそう思っていると、

リンダが、胸を叩きながら

オレンジジュースを飲んだ、


レイチェルは直ぐにコップにジュースを

注ぎ足した。


すると今度は、ルーシーが胸を叩きながら水を飲んでいる、


ブラウンも直ぐにコップに水を注ぎ入れた。


トムとニーナはその様子をボー然と

見て居る。


ニーナはトムの耳元で

「お兄ちゃん…なんで皆さん…食べるのが早いの?」


「パパとママが言ってたじゃないか、

皆さんは…大事なトップシークレットの仕事をされておられる方達だって、

きっと直ぐに、

仕事に行けるようにじゃないかな…」


「大変なのね〜」

「そうさ、トップシークレットだからね」


2人がそう言っている内に…

8人はサラダまで食べ終わり…

デザートに入っていた。


フルーツ、アイスクリーム、ケーキ、そしてコーヒー、あるいは、紅茶を飲み干し…

朝食が終了した。


ブラウン一家の4人は

(…マジで食べる速度が早い〜)と思った。


8人はふと我にかえり

(…ヤベー、お腹が空いていたから、

ガッついて食べちゃったよ、

品がないよね〜、

ブラウンさん達…ドン引きだよね〜、

カッコ悪い所を見せちゃった〜)

と思っていた。


その時である、フリー・べーが

「ベイ博士、朝食後申し訳ありません、

女将様から地震の報告が入っております、

どういたしましょうか?」


「ありがとうフリー、直ぐ船に戻るよ」

ベイは、皆んなの顔を見回しながら


「皆んな、船に戻るよ」

「はい、了解しました」


ベイは、ブラウンとレイチェルに…

「ごちそうさまでした、

慌ただしくてスミマセン、

ちょっと出かけて来ます。

トム、ニーナ、ゴメンね、

ガサツな食べ方をして…」


「いえ…お仕事頑張って下さい」

と、トムが言えば、

ニーナは…

「お帰りをお待ちしています」

と言ってくれた。


ベイは微笑みながら…

「フリー、黒衣モード」と言うと、

8人を包むように、黒い煙が渦巻き…

わずか2秒ほどで…

8人は黒い衣装に変身した…


(…ワォ〜、カッコいい…)

そう思ったのは

ブラウンとレイチェルである。


8人は庭に出ると…

吸い上げられるように…

船に乗り込み…

アッと言う間に…空のかなたに

飛んで行った。


ブラウン夫妻と子供達は、

今度は声に出して

「カッコイイ〜」と叫んだ。


船に戻った8人を、

女将と匠は、直ぐに現地上空まで

連れて行ってくれた…

しかし、

その国の時間は午後6時21分、

8人が行動するには、

まだ少し明るくて、目立ちすぎる…


ベイは

「夜になれば、救援活動は…

一旦終わると思う…

僕達はその後から活動しよう。

それまでの間…

悪魔の救出作戦の…

打ち合わせをしようと思う。

どうかな?」


7人は…

(あらまっ、悪魔の後に〈 救出 〉

って言っちゃったよ…

もぅ…素直に世界を守りたいって

言えばいいのに…)と思いながら、

7人は親指を立てた。


女将は、現地のテレビニュースをスクリーンに映しながら、

解説をしてくれる…


「…死者は少なくとも100名以上、

行方不明者は、500名以上に

なるんじゃないかと、

現地の警察と、消防の方が発表して

くれました!」

ニュースキャスターの声は

震えている…


それに対して女将は…

「ベイ博士、死者の数は2112名、

重体者の数は15993名です」

と明快な答えを出してきた。


女将の、目と、耳に掛かれば、

地球の核の状況までも、

確認する事が出来る。

なので…

行方不明、と言う言葉は、

女将の辞書の中には、存在しなかった。


ニュースを見ていると、

軍、消防士、警察官、救急隊が、

1分1秒を惜しみながら行動している。


周りの国からも、救助隊、

医療機関の人達、

そして、沢山の支援物資が届けられる

事になっている。


しかしまだ…海外からの救助活動は、

一切行われていない。

なにせ…地震が起きてから、

まだ1時間もたっていないのだ。


地元のマスコミが、

ヘリコプターやドローンを飛ばし、

空からの映像で、情報を得るのが

精一杯である。


被災者の「誰か…助けて…」

と言う言葉を

かき消すように余震が続き…

そして午後7時36分、

太陽が沈んだ。


暗闇は被災者の心をより一層

不安にさせる…

救助活動は二次災害を防ぐ為に、

慎重に行われ…

21時…救助活動はいったん終了した。


ベイは立ち上がると

「さあ皆んな、

神が与えた試練の〈 邪魔 〉

をしに行こうじゃないか」


8人はスカイシップを飛び出し…

瓦礫の山とかした大地に降り立った。


まず…女将と匠が建物の瓦礫を

浮き上がらせる…


次に、ボブと、グレイと、ベイが、

遺体を道路に運び出す…


そして、ルーシーとメリーが

マシンを使って、

亡くなった人達を生き返らせる。


その人達が、30人前後集まった段階で、

ジョニーとアンジーが説明をしながら、

避難場所まで送って行く。


この作戦はとてもスムーズに進み、

わずか3時間で、

死者2107人と、

重体者15993人を助け出す事が出来た。


残念な事だが…

魂が…地の底に引きずり込まれたのか?…

12名の人が…

生き返る事が出来ない。


それでも…

避難場所に待機していた家族、親戚、

学校関係者、医療関係者、

レスキュー隊、警察官、軍の方達、

そして、消防隊の人達は、

驚き、叫び、狂喜乱舞した事は

言うまでも無い。


ただ今回、地震の事で…

8人はこの町に来たのだが、

女将の報告では、

2年間の間に殺害されて、

埋めらていた人達が,

37名もいた。


その人達の魂が 「生き返りたい」

と言う意思表示をしたので、

8人はマシンで生き返らせ、

家族の元に送って行った。


ベイは、フリー・べーを通じて、

女将に尋ねた…


「女将さん、生き返れなかった12名と、

37名の因果関係は…あるのですか?」

すると女将は

一呼吸置いてから


「はい…12名は間違いなく、

37名を殺した犯人です。

前の…山火事の時の、

若いお母さんと同じ様に、

ベイ博士が、生き返らせてあげたくても、

人を殺した人の魂は…

どうやら…どの国にあっても…

地の底に、引きずり込まれるみたいですね」


ベイは厳しい表情で…

「しょうがないですよね…

殺された人達の、悲しみや、悔しさ、

無念さを考えるると…」


ベイは一瞬沈黙した後に…

「女将さん、作戦は無事終了しましたので、今から皆んなで、船に帰ります」


女将は微笑みながら…

「かしこまりました、

直ぐに迎えにまいります」


スカイシップに戻った8人は、

お互いの顔を見回しながら…

頷き合い、笑顔で親指を立てた。


女将は静かな口調で…

「皆さん、お疲れ様でした。

いま下では、

多くの人達が手を取り合って、

喜んで居られますよ」

そう言って、8人をたたえた。


するとベイは、

わざと悪役のような口調で…

「へっ、へっ、へっ、また神が民衆

に与えた、試練の邪魔をしてやったぜ。

世界中が大パニックだ、

ざまあーみろだ」

そう言って…

今度は悪役のような顔で…

凄んで見せた。


すると7人は…

(…しょうがねぇなぁ、

ウチの博士は、何を言ってんだか…

貴方が何と言おうと、

人助けをしたんですよ!

皆んな喜んでいますから!」

と思いながら…

ベイの顔を見つめた。


ベイはメリーの顔を見つめ…

「この調子で…俺達を、

殺すように命令した

科学者の奴等に…

思い切り復讐してやるんだ、

そして世界中を不幸のドン底に、

叩き落としてやるんだ!」


拳を握り締めながら…

皆んなの顔を見回した。


7人は(…あっ、なるほど、やっぱり

復讐はするんですね…

はい!分かりました。

でも今のところ…

誰も不幸に成っていませんから…)

そう思いながら、口々に…

「オォッ〜絶対に復讐してやるぞ〜」

と片手をかざし…

とりあえず…吼えてみた。


するとベイは、嬉しそうな顔で、

何回も頷きながら、

親指を立てている…

俗に言う御満悦の状態である。


その時、女将から

「ベイ博士、476人を乗せた

飛行機がたった今、SOSを出しました」


冗談半分のベイの表情は、

いっぺんに真顔になり

「女将さん、飛行機まで何秒で

行けますか?」

「2秒で飛行機の真上に着きます」

そう言い終わった時…

スカイシップは既に飛行機の真上にいた。


匠が「ベイ博士、私がアームでつかみましょうか?」

「…う〜ん、ココはシャボン玉で

行きましょう!」


「了解しました博士…用意が出来ました」


7人は…

(…シャボン玉?…

またなんか新しいモノが出てくるぞ〜)

と思った。


機長は航空管制塔に…

「飛行機のエンジンが止まってしまった!」と必死に伝えている。


管制官は

「なんとか空港まで飛べそうですか?」

「…無理だと思います…どこかに着陸出来る場所は有りませんか?」


「今、機長が居られる場所は山岳地帯で…

不時着できる所がありません…」

と言われた。


乗客も…飛行機の異変に気付き出したのか、

窓際に座って居る一人の婦人が…

「ねぇ、この飛行機…段々と下がっているんじゃない…」と言った。

その一言で…

機内は一気にパニック状態になった。


その時、スカイシップが飛行機の

真ん前に姿を現した。


降下しながら飛んでいる、

自分達の飛行機に…

得体の知れない飛行物体が

ぴったりと…

くっついたようなかたちで…

後ろ向きに飛んでいるのだ。


機長と副機長は絶句した。


副機長は、震える唇に力を込めて…

「機長…向こうから…

手を振ってくれてますけど…

人ですか?…

それとも宇宙人が

乗っているんでしょうか?」

「分からない…」

「私達は…死ぬんですかね…?」

一瞬の沈黙…


その時ベイが、さわやかな声で…

「大丈夫ですよ、死にませんよ、

今から飛行機全体を、

大きなシャボン玉で包みます、

其れは、皆さんが行きたい飛行場まで…

ちゃんと送ってくれますから。

飛行機が地上に着くと、

シャボン玉は溶けて無くなります…

それと、私達は…

宇宙人じゃないですよ…

悪魔の使いです!」


誰が聞いてもドン引きする様な

言葉を残して…

スカイシップはアッと言う間に…

飛行機の前から姿を消した。


次の瞬間、

機体の落下速度が下がり、

飛行機は正常な飛行状態になった。


窓の外を見ると、大きなシャボン玉が、

飛行機全体を包み込んでいる…

光りの加減だろうか?

虹色に輝いて見える…


「機長…私達は助かったんですか?」

「あぁ…そのようだ…しかし…」

「どうしたんですか?」

「あの人達って…誰…?」

「さぁ〜、どこかの国の秘密機関

ですかね?」


「そうなのか?…あんなに凄い科学力を持った国があるのか?…」

と言いながら首を傾げていると…

管制塔から…

「機長、今の状況は…」

と言う緊迫した声が流れて来た。


機長は静かな口調で…

「助けてもらいました」

「えっ?…」


「私達は助かりました…

エンジンは相変わらず、

止まっていますが…私が今…

助かった理由を説明しても…

多分…信じて貰えないと思います。


本機は、予定通りの時刻に…

其方に着きます。

本機の状態を見てもらってから、

説明します…何故助かったのかを…」

管制官は首を傾げながら…


「わっ、わかりました…」

と言う事しか出来なかった。


機長は管制官との送信を切ると、

機内放送のスイッチを入れた…

「皆さん、本機はエンジントラブルで…

かなり危険な状況になりました…

しかし今……

本機は、巨大なシャボン玉に

包まれていまして…

エンジンは止まったままですが、

予定通りの時間に空港に到着します、

大丈夫です…

ご安心ください…」


乗客の歓声と拍手…

そして、

窓の外のシャボン玉を確認した乗客は……

「おっ〜〜???」

と言う声を漏らしながら、

首を傾げた。


〈 スピード 〉


ベイは、皆んなの顔を見ながら…

「フリー・ベー、皆んなに飲み物を頼むよ、ノドが乾いちゃったよね」

そう言って微笑んだ。


ボブは一歩前に出ると…

「ベイ博士、飛行機までも包めるようなシャボン玉って…何だか凄いですね」


「チョット驚いた?」


「かなり驚きましたよ〜、ねぇリンダ」


「えぇ、良い意味で…何だか助け方に、


夢があるなぁ〜って思いました」


2人の感想にベイは頷きながら…

「実はね、今回はシャボン玉

だったんだけど…実は…

他にも色々な応用が出来るんだよ…

まっ、使わずにいれる事の方が

望ましいんだけどね」


そう言って笑っている間に、

フリー達が飲み物を…

8人の目の前に浮かせてくれた。


女将は其れと同時に…

床からソファーとテーブルを出し、

船内に優しい

音楽を流してくれている…


8人は嬉しそうにグラスを持ち…

ソファーに腰を下ろした。


7人は飲み物を口に運びながら…

(…いゃ〜今回も、沢山の人達に喜んで

もらえたなぁ〜)

と満足げな顔で微笑んでいると…


ベイが嬉しそうな顔で

「今回も…世の中を混乱させてやったね…

今ごろ報道機関を通じて、

国のトップの人間も、世間の人達も、

さぞかし驚いて居るだろうなぁ〜……」


ベイ博士、本日、2回目の御満悦である。


7人は顔を見合わせながら…

(…ベイ博士…天才の思考力って

難しいモノなんですね…

私達には解りません。

今頃、国のトップも、民衆も…

きっと感謝してますよ…)


そう思っていたが、

何も言わずに…ニッコリと微笑んだ。


PM5時30分……

スカイシップはホテルの上空に着いた。


8人がゆっくりと船から降りてくる…

その事を…

部屋の中から見かけたトムとニーナは…

「パパ、ママ〜、皆さんが帰って

来られたよ〜」

そう叫びながら、

ホテルの庭に飛び出して行った。


可愛い2人のお出迎えに…

小さく手を振る8人…


トムは8人の前に来ると…

嬉しそうな顔で…

「お帰りなさい!

あの…パパとママがニュースを見て…

「何処かの国で、大きな地震があったけど、沢山の人達が助かったみたいで、

良かった〜」って言ってました」


すると横から

ニーナが両手を大きく広げ…

「大きなシャボン玉が…

飛行機を助けてくれたそうです、

テレビで、シャボン玉に包まれた飛行機が、

ゆっくり降りてくる所が映っていて…

地面に着いたら、

シャボン玉がゆっくりと

消えちゃいました…」


そう言って、二人は8人の顔を…

ジッと見つめた…

(…あなた達がしたんでしょ?)

と言わんばかりの顔である。


するとジョニーが…

「トム、ニーナ……

パパとママは…

その事をなんて言ってるの?」


トムは少し考えてから…

「ママが、トップシークレットなのよ、

だから、人に言ってはいけないの、

って言ってました」


するとニーナは、

兄のセリフが終わるのを見計らって、

「しー……秘密なのよ!」そう言いながら

自分の口の前に…

人差し指を…

ソッと立てて見せた。


余りの可愛いさに…

アンジーはニーナを抱き上げて、

頬にキスをしてしまった。


ジョニーはトムの頭を撫ぜながら

「お利口さんだね…

世の中には知らない方が…

良い事もあるんだよ…」

そう言って微笑んだ。


太陽がゆっくりと山に沈みかけて行く…

辺りは少しずつ…

オレンジ色の世界に

変わってきた。


気持ちの良い風が草原をなびかせ…

その風は…

10人の髪を揺らし…

頬を優しく撫ぜてくれた。


メリーは思わず…

「気持ちのいい風ね…」

そう言ってベイの顔を見つめると…

「そうだね…」

と言ってキスをしてくれた…

そして

「さあ…皆んな…中に入ろう…

お腹の虫が鳴き出す前にね…」


9人は…

「はーい」と返事をしながら

ホテルの中に入って行った。


中に入ると…何とも美味しそうな

匂いがするではないか…


テーブルの上には、

レイチェルとブラウンが愛情を込めて

作ってくれた料理が

ズラリと並んでいる。


グレイは思わず

「美味しそう!

さあ皆んな…早くイスに座って、

暖かい内に食べるのが、

作って下さった方達に対しての…

礼儀だよ…」

そう言って真っ先にテーブルに着いた。


7人も…

(…なるほど…プロが言うんだから

間違いないな…)

そう思いながら、

慌ててイスに座った。


ブラウンが…

「デザート類、コーヒー、紅茶は後で

お持ちします」

と言えば…


レイチェルは…

「皆さんの…お口に合うと良いのですが…」

と言った。


するとグレイが、

スープの皿に小指をチョコンとつけ…

自分の口に運んだ…


「とっても美味しいです。

このスープは……」

どんな材料を使って、

どのような行程で仕上げたのかを

言い当てた…

ブラウン夫妻は驚きを隠せない。


ルーシーは…

「ゴメンなさい、夫は、お二人の同業者…

プロのコックなんです」


グレイは微笑みながら…

「先輩方の料理は、最高に美味しいです、

味見をして解説をするなんて

生意気な事をして申し訳ありません。

でも、もう一度言わせて頂きます、

本当に美味しいです」

そう言って頭を下げた。


ブラウン夫妻は満面の笑みで…

「ありがとうございます、

同じ厨房に立つ方に褒めていただいて、

本当に嬉しいです」

そう言って自分達も頭を下げた。


そして…楽しい夕食が始まった…

(…皆さんの食べ方…やっぱりの早いなぁ…

この後も…お仕事かなぁ…)

とブラウンとレイチェルが思っていると…

トムが…


「ママ、耳を貸して…」

と言って微笑んでいる、

レイチェルは…


「なぁにトム」と言ってかがむと…


「ママ、皆さん食べるのが…

少しゆっくりになって来たね」


レイチェルが…

(…えっ?そうかなぁ…?)

と思っていると、

横からニーナが…

「だって誰も…胸を叩かれ無いもの」

そう言って小さく笑っている。


ブラウン夫妻は8人を見つめ…

(…なるほど…子供の観察力は鋭いなぁ…)

と思った。


夕食後、8人はサッと立ち上がり、

口々に…

「ごちそうさまでした、

とっても美味しかったです…」

そう言いながら…

各部屋に入って行った。


疲れているからではない、

ブラウン一家に少しでも、

自由な時間が取れるように…

ちょっとした心使いである。


次の日…

ちょうど朝食を食べ終え、

コーヒーを飲んでいる時である、

フリー・べーが…


「ベイ博士、女将様から…

大きな積乱雲の発生で、

多大な被害が出ているとの事です」


「ありがとうフリー、

直ぐに行くと伝えて。

皆んな…

悪い事をしに行く時間だよ…」

博士の号令に…

7人は笑顔で立ち上がった。


するとニーナが、ルーシーのお尻を…

人差し指でツンツンと突き…


「ねぇルーシーさん」


「…どうしたのニーナ?」


「あの…ベイ博士のトップシークレットは…悪い事なの?」

するとルーシーは…ニーナの耳元で…


「ベイ博士は照れ屋さんなの、

だから、トップシークレットの事に

関しては、

ワザと逆の事を言ってしまう事があるの、

他の事はちゃんと言うのよ、

例えば…「大好き」「愛してる」

「美味しい」「綺麗」とかわね…」


「そうなんですか、

すみません、変な事を聞いて」

そう言って…頭をチョコンと下げた。


8人がスカイシップに乗り込み…

アッと言う間に空のかなたに

消えてしまうと、

レイチェルが…


「あなた…ベイ博士の言う、悪い事って、

何の事かしら?」

ブラウンが…

「う〜ん…?トップシークレット

だからねぇ…」


と言いながら…腕組みをして考えていると…ニーナが下から…


「パパ、ママ、ベイ博士は

良い事をしに行ったのよ!

照れ屋さんなんだって…

だから逆の事を言ってしまうんだって…

でも、褒め言葉は、

ちゃんと言ってくれるんだって」


そう言って、可愛く腰に両手を当てて…

両親を見上げている。


トムが横から…

「えっ〜ニーナ、誰に聞いたんだい?」

ニーナは得意げに…

「ルーシーさんよ」


「よくそんな事を聞けたな、

僕には出来ないよ」

「えっ?そうなの?皆さん優しい方よ…」

するとレイチェルが…

「ニーナは、小さくて可愛いから、

何を聞いても怒られないのよ、

でもトムくらい大きくなると…

ねぇトム…聞けないわよね」


「うん…スっごく気になったけど…

聞けないよ〜」

ブラウンは笑いながら…

「まっ、今回はしょうがない…

でもニーナ…

皆さんは、大切な仕事をして居られる方達なんだよ…だから、

このホテルに来て頂いた時には

少しでも…

リラックスして頂けるように、

此方からは…

あまり話しかけないように

しようね」

と言って微笑んだ。


ニーナは父と兄の顔を見ながら

「うん…わかった」

と言いながら、

周りを見回し…

「あれ?ママは…」と尋ねた、


その時…キッチンの隣の部屋から…

「皆んな来て〜」と言うレイチェルの声が…3人は顔を見合わせた後に…

急いでその部屋に向った。


パソコンの前にたたずむ妻に…

「どうしたんだいレイチェル、

パソコンに何か…載っていたのかい」


「あなた…トム、ニーナ観て、

グレイさんの事が載っている…」

3人は画面を覗き込んだ

【天才シェフ…】と言う見出しの記事が…

有名な評論家の言葉として、

掲載されていた。


「お父さん、グレイさんって…

何だかすごい人なんだね〜」

と言ったのはトムである。

記事はかなり多く載っている…

しかし最後まで読むと、4人は黙り込んでしまった…

火災で…亡くなった。

と言う言葉で締めくくられて

いたからである。


「ママ、パパ…やっぱりベイ博士って

スゴイ人なんだね〜、

僕とニーナも…グレイさんと同じように…

生き返らせてもらえたんだね…」


トムの言葉に…

レイチェルはひざまずき、

トムとニーナを力強く抱きしめながら


「トップシークレットに選んで頂けて…

本当に良かった〜、

今こうして…アナタ達を抱きしめる事が

出来るんですもの…」

そう言って涙ぐんだ。


ブラウンは、

トムとニーナの頭をナゼながら…

「さぁ…ベイ博士と7人の先生方の為に、

夜のディナーの献立を考えないとね、

トム、ニーナ手伝ってくれるかい?」


ニーナは若干鼻息を荒げながら…

「まかせてよパパ!

天才シェフのグレイさんを、

唸らすようなモノを作らないとね」

そう言って、

両手を腰に当て

胸を張る様なポーズを取った。


スカイシップは

巨大な積乱雲の前で一旦静止をしていた。

「どうすれば良いのか」

そんな相談をしている訳ではない。


ベイが…積乱雲をどのように活用するのか…

そう言った説明をする為の時間である。


「皆んな、ちょっとだけ僕の話を聞いてね。積乱雲は…空の上の発電所、

みたいなモノ何だよ…

その内容が凄いの!

原子力発電所が頑張って作らないと、

間に合わない位の電気の容量を…

今、僕等の目の前の積乱雲が、

持っているんだ…

あの電気、誰のモノでも無くてね、

無料なんだよ…

嬉しいね〜ありがたいね〜」

そう言って一人でほくそ笑んでる。


7人は話を聞きながら…

(…いやいや…

誰も怖くて手を出せないんですよ、

それよりも積乱雲がもう

目の前に来てますけど、

雷がドラゴンのように…

怒り狂ってますけど、

スカイシップは大丈夫ですよね〜)

と思って居たが…


博士の話しの邪魔をしてはいけないと思い…

顔を引きつらせながら…

笑う事しか出来ない…

しかし、

もう目を開けているのも

辛くなる位に…

激しいカミナリが近づいて来ている…


ボブはセキ払いを1回した後に…

「…あの…ベイ博士…」

「どうしたのボブ、声が裏返ってるよ」


「いや、カナリが、あの、目の前が、

かなりヤバイ事になってますけど…」

そう言いながら…

リンダを抱きしめている…


ベイは涼しげな顔で

「大丈夫だよ。

じゃあ皆んな…見ててね。

匠さん、お願いします」


「かしこまりましたベイ博士、

全て回収します」

と言い終わった次の瞬間、


巨大な積乱雲が…

目の前から一瞬にして消えて無くなり、

目の前に青空が広がっていた。


7人は自分の目をコスリ…

「えっ?」「えっ?」

と言いながら…

デッキの前の方まで進んで行った…


「えっ〜、ちょっと待って下さい!

えっ〜、雲1つない、青空なんですけど…

えっ?なんで…」

日頃クールなイメージのジョニーが

台無しである。



ベイは顔色1つ変えずに…

「実はね、積乱雲をスカイシップに取り込んだのは今回が初めてじゃなくて…

僕達が寝ている間にも、

女将さんと匠さんは、

積乱雲を見つけると、

カプリッて食べているんだよ…」


すると女将が

「皆さん…私と夫は、

あらゆるモノからエネルギーを

取り入れる事が出来ます、

積乱雲も、その中の1つなんですよ、

ねぇ貴方」


匠は頷きながら…

「皆さんが驚かれているのは、

一瞬にして積乱雲が

目の前から消えた事なんですよね?」


7人は…

(その通りだ!)

と言わんばかりに、小刻みに頷いた。


「実は…私の機能の中に、

物体を小さくする機能があるんです…

初めに積乱雲を小さくして、

船内に取り込んだ後に、

必要な時に応じて、

エネルギーを元の大きさに戻しながら、

私と家内が使うんです…

簡単な説明ですけど…

解って頂けましたでしょうか?」


7人は…

(…なるほどね〜、モノを小さくする事が出来るんだ…よく考えたら…

この船は…天才ベイ博士が作った…

魔法の船だった…

驚いた自分の方が…恥ずかしい…)

そう思いながら、

引きつった顔で微笑んだ。


匠は更に…

「積乱雲の中には、

沢山の水も含まれています、

博士はその水を、雨が降りにくい

水不足で困って居る地域に、

ソッと届けます」


するとグレイが嬉しそうな顔で…

「いま思い出したんですけど…

ベイ博士は昔…

「世界中の人達から、

少しでも…

苦しみや、悲しみを

減らせて上げれたらなぁ…」

って言っておられましたよね」


ベイは…グレイの顔をジッと見つめながら…

「…そんな事を…

言っていた時もあったねぇ…

悪いけど、今の僕は…

そんな事なんて考えて無いよ。


メリーの事で…

頭がいっぱい何だ…

世界中の人の事よりも、

どうすれば頻繁にメリーの

お尻を触れるか?


どうすればメリーを膝の

上に抱っこ出来るか?


暇さえあれば…

そんな事ばっかり考えているんだ…

もう〜欲望のかたまりなんだよ。

皆んなゴメンね、ガッカリしただろう…」


博士の言葉に…

ボブもリンダも、ジョニーもアンジーも、

グレイもルーシーも…

小さく首を横に振り…


(…いやいや…今までの博士の行動は、

かなり多くの人達を幸せにしてますけど…

きっと…

7人が暗殺されたショックが大きくて、

素直な自分の気持ちを…

言えなく成ったんだろうな…)

と思った。


しかしメリーだけは、真っ赤な顔で…

「もぅ〜ベイったら…」

と言いながら…抱き着き、

博士の両手を…自分のお尻にあてがい…


「ベイ、触りたい時は…

何も言わずに触ってくれて良いのよ、

私は、貴方の奥さんなんだから。

気づかなくてゴメンね、

夜だけじゃ…寂しかったのよね。

これからは頻繁に…

ベイの膝の上に座るからね、

私にいっぱい甘えていいのよ」

そう言ってキスをした。


〈…愛しの…家族…〉


ベイは、メリーのお尻を

両手で触りながら…

「あぁ〜この柔らかい

お尻が大好き…

…幸せを感じるよ」

そう言って微笑んでいる。


その姿を見て居るボブが…

「リンダ、メリーは少し天然なのかな?」

そう言って小さく笑うと…


リンダは少し考えてから

「メリーは頭がいいから…

私達と同じように感じた上で、

ベイ博士にワザと、

甘えさせているんだと思うの。


其れに、ベイ博士の一連の行動を

見ていると…

私達には解らない、

かなり難しい事を考えていると

思うの。

メリーは…

ベイ博士の気持ちを少しでも…

リラックスさせようと

してるんだと思うわ」


ボブは…

「あっ〜、なるほどね〜

うん…きっとそうだね…」

と言いながら、

ベイに視線を向けた。


ベイはメリーのお尻を触って満足したのか…「ありがとうメリー、落ち着いたよ」

そう言ってキスをした後に、

皆んなに視線を向けると


「実はね、新しいマシンを

考え出してね、今…

匠さんに作ってもらっているんだ…

世界中を震撼させるような

凄いモノなんだよ…」


7人は顔を見合わせ…

(おいっ!…今メリーの事しか考えてないって言ってたよな…)

そう突っ込みを入れたかったが、

グッとこらえて

何も…言わなかった。


ボブは、笑いたい気持ちを抑えながら…

「何を作って…もらっているんですか?」


ベイは少しだけ間を置いた後に

「今まで、

世界の中で起こった事故や、

災害の情報は、

女将さんが、人工衛星や、

各国のスーパーコンピュータから情報を拝借したモノなんだけど…


それだけじゃ…

実際には足りてないんだよ。

もっと手に取るように分かると言うか…

常に見えてると言うか…」


ボブは首を傾げながら、

ジョニーとグレイの顔を見た…

(…2人とも分かるかい?)

と言う思いを込めてである、

しかし、ジョニーもグレイも解らないので、

肩をすくめて見せるしかなかった。


するとリンダが笑いながら

「ベイ博士、

こいつら何にも理解してませんぜ、

どいつもこいつも、

頭の悪い奴ばっかりで…

って…私が一番解っていないんです

けどね〜」

そう言って、その場をなごませてくれた。


ベイは頭をさすりながら

「あっゴメンね、

僕の説明が回りくどいね…

あのね…匠さんにお願いして

100億匹の…

ホタル型ロボットを作って

もらっているんだ…


前にトンネル事故の時に活躍してくれた、

あのホタル達だよ。

其れを今度は、世界中にばらまき…

1人の肩に1匹のホタルが付くんだ。


そして常に…その人物を観ているんだ…

正確に言うと監視しているんだ…

あの…世の中を混乱させる…えっと〜

機会を探る為に…でっ…あの…」

と言って口ごもってしまった。


すると隣からメリーが

「要は、私達の助けが必要な人の元に、

少しでも早く行けるように、

ホタル型ロボットが

登場したわけね、

あっ、世の中を混乱させる為に…

そう言う事で…

いいのかしらベイ?」


「そう…その通りだよメリー!

女将さんに、100億の目と耳がプラスされたって言う事だよ。

女将さん…

お手間をかけますが、

よろしくお願いします」


「はい、喜んで協力させて頂きます、

世の中を混乱させる為に、

主人と力を合わせて

取り組んでまいります」


するとボブが笑いながら…


「ベイ博士、女将さん、匠さん、

僕達の飲み込みが悪くてスミマセン、

私も今やっと理解できました。


正確な情報があった方が、

混乱のドサクサに紛れて、

人を助ける時に、

楽だと言う事ですよね…」


ベイは照れ臭そうに

「あっ、うん…ボブの言う通り何だよ」

7人は…

(…やれやれ、やっと博士が

人助けだと認めた…)と思った。


ベイは更に…

「…其れと後2つ、皆んなに報告があるんだ、ひとつ目は、

生き返りマシンを、

更に小型化にします。


もうひとつは、

鎧いでもあるフリー達に、

新しい機能を追加します。

以上3つを、近日中に公開します」

そう言って、

7人の顔を見回し満面の笑みを浮かべた。


メリーはすかさずベイの耳元で

「…ベイ、フリー達にどんな機能を追加するのか、見てのお楽しみ、

って言う事なのかしら?」


「そう言う訳じゃないけど、

皆んな知りたいかな?」


「えぇ、きっと知りたいと思うわよ」


「分かったよメリー。

あの皆んな、

チョット聞いて貰えるかな、

あのね…フリー達の新しい機能わね、

物体を…

通り抜ける事が出来るようにするんだよ、


えーとね…幽霊みたいに

壁や天井や…

色々なモノを

スルリと抜けられるんだ…


つまりフリー達に包まれている僕達は…

あらゆるモノを通り抜ける事が

出来るんだよ」


6人は目を見開いたままで

固まってしまっている。

ベイは頭をさすりながら


「あれ?、何だか…ウケないね、

今ひとつパッとしない機能だったかな?」

そう言ってメリーの顔を見た。


メリーはベイの耳元で

「皆んな、驚いて居るのよ」

と言った。


ベイは…自分の頭をさすりながら

「あの…少し前にさ、

山火事の現場に行ったでしょ…

でさ…全てを終えて、テントから

出ようとしたら、

沢山の人達が外から入って来て、

出るに出れない事が…あったでしょ…

なんか、ジッと待っている間…

切なくてね。


その時に、

物体を通り抜けるモノを作ろうって

思ったんだよ…」


6人は…

(…普通は思っただけで、作れないのよ…

私達の博士は何でも

作り出しちゃうんだから…

もう〜……凄いとしか言いようが

無いじゃない…)

すると

6人の目から涙が溢れて来た。


ベイは急に涙ぐむ6人を見て…

「えっ〜皆んなどうして泣いてるの?

僕の発明品が気に入らなかった?

困ったな…作り直そうか……」


アンジーは涙をぬぐいながら…

「違うんですよベイ博士…

私達もう…けっこう前から

泣きたかったんです、

ベイ博士が私達の為に色々な事をして

くださって、

嬉しくて…

だって私達の想像をはるかに

超えたモノばかりを

ベイ博士が出してくれるんですもの…

嬉し過ぎて…

一回泣いておかないと、

精神的に…

持たないような気がして…」


ベイは安心したような顔で…

「あぁ…そうなの…あの…

ゆっくり…泣いてくれていいからね」


するとメリーはベイの胸の中に

ヒョコと入り込み

「私のお尻を触ると…色んな発明が浮かんでくるの?」


「そう何だよ、メリーのお尻から…

発明のヒントが産まれてくるんだ」


「私のお尻は…大したものね」

そう言って

メリーは自分のオデコを

ベイのオデコに、くっ付けて…

小さく微笑んだ。


そんな光景を…デッキの隅の方で観ていた

8体のフリーが…


「私達の御主人様は…

ヒマさえあれば抱きしめ合って

キスをしている…

何の為に?…

何の意味があるのか?…

私には分からない」


そう言ったのは、フリー・ベーである。


その言葉を聞いた7体のフリー達も…

「…我々も同意見だ…」

そう言って頷いた。


ベイ達8人が結婚した夜に、

女将と匠…

そして自分達8体も、

ドレスとタキシードを着せて貰ったが…

今ひとつ…

理解が出来ていない…


「女将様と匠様は、

更に愛し合われて居るが…

だいたい愛って、何なんだ?」

そうフリー・ベーが呟くと、


フリー・メーが…

「実は、私も解っていない…

御主人様の手前…

分かっているような、

フリをしているだけ…」

そう言って下を向いた。


その時、8体の耳に…

女将の声が届いた。


「フリー…私の話しを良く聞いてね。

私は…

正確な答えを導き出す為の機械…

私が出す答えは、

常に、冷静な判断で正しいの。


でも、時として…その判断は

冷た過ぎる時もあるの。


ベイ博士は、そんな私に…

匠と言う夫を授けて下さったの。


私の身体は温度が上がり…

「博士、私は故障しているのでしょうか?」そう尋ねると…博士は…


「女将さん、それは愛と言う、

優しい感情の現れです、

匠さんが、女将さんを愛しているので…

その想いが嬉しくて、

女将さんの身体の温度が…

上がっているんですよ。


女将さんも、匠さんを…

愛している、証拠です。


私もメリーを愛しています。

御二人も、私達と一緒ですね」

そう言って下さったの…


私達2人は、愛を知って…

人間に対しての優しさが生まれました。


私と匠は…愛し方のデータを、

ベイ博士から頂きました。


今から…アナタ達にも、

データの全てを贈ります。

今夜から、

御主人様をお護りする仕事が終わった後…

2人で…ゆっくりと…

愛をはぐくみなさい」


そう言って

女将は8人に「愛し方」のデータを贈った。

すると8人の身体が震え出し、

体温が一気に上がった。


男性のフリー達が

「女将様…身体が…熱くなって来ました…」

と言い。


女性のフリー達が

「女将様…なんだか…苦しくて、怖いです」

と言った。


女将は…

「大丈夫よ、しっかり相手を見つめて…

愛してる…って言って御覧なさい…」

するとフリー達は、

女将の言う通りに、

自分のパートナーを見つめ…

「愛してるよ…」「私も、愛してる…」

と言った。


フリー達は、パートナーに対して、

明らかに…今までとは違う…

何かを感じ出した。


その時

「…ベイ博士、たった今、

病院のパソコンにデータが入力されました。

先ほど、スカイシップに取り込まれる

前の積乱雲が、

落雷によって5名の命を

奪ったそうです。

行かれますか?

病院はすでに把握しています」

そう言って女将は8人の顔を

見つめた。


ベイはニッコリと微笑み

「女将さん、行きます。

さあ皆んな!

世の中を混乱させる時間が来たよ、

黒装束で行こうじゃないか!」


ベイの号令に

フリー達は…一瞬にして我に戻り…

「かしこまりました御主人様」

そう言って、8人の身体に…

覆いかぶさった。


スカイシップは病院の上空

100mの場所で、透明シールドをはって

待機して居る。


ベイ達はフリーの誘導によって、

遺体安置所の前についた。

亡くなった人の家族であろうか?

30名ほどの人達が

廊下で泣き崩れている…

ベイ達は、遺族の方達に頭を下げながら、

部屋の中に入ろうとした。


その時…

10歳くらいの女の子が泣きながら

「パパとママを助けてください…

お願いします…」

そう言ってルーシーの手を握って来た。


ルーシーは微笑み…

「大丈夫よ。こちらに居られるベイ博士が…助けて下さるから」

そう言って女の子の頭をなぜた…


周りの大人達は…

(えっ〜、亡くなった人が生き返る訳が

無いのに…この黒い服の人達は、

子供に…何を無責任な事を、

言ってるんだよ!)

と思ったが…


出来る事なら、

奇跡が起こって欲しいと思っていたので、

何も言わずに8人の顔を、

ただジッと、見つめていた。


部屋の中に入ると…

2人のドクターと

4人のナースがいた。


ベイはジョニーの耳元で

「よろしく…頼むね」

とだけ言って、

悠然と立っている。


ジョニーは一瞬…

(…マジで…ここに来る前に言ってよ…)

と思ったが、2秒後に…


「突然で申し訳ありませんが、

私達は、トップシークレットの任務の為に…此処に来ました。

ある国としか言えないのですが、

核実験のミスで…

先ほど落雷のあった場所から、

高い数値の放射能が検出されました。


今すぐこの部屋から、

皆さんが退去される事を望みます」

そう言ってドクターとナースの顔を

見つめた。


ドクターもナースも恐怖のあまり、

足がガクガクと震え出した。

ジョニーは…

(…しまった〜脅かし過ぎた〜ゴメンよ〜)

と思っているとベイが…


「大丈夫ですよ、直ぐに部屋を

出て下されば…」


ところが…

一人のナースの顔色が明らかに悪い…

ベイは( んっ? )と思いながら

ナースに、マシンを向けた


「あれ…何で?病院に勤めているのに…」

そう言って、ベイは首をかしげた。


メリーはベイの耳元で

「どうしたの?何か病気が見つかったの」


「こちらの女性…頭の中に大きな

腫瘍があるんだよ…

かなり痛みをともなっていると

思うんだけど…」


するとその会話を聞いた

1人のドクターが…

「今の医学では…」

そう言って涙ぐんだ。


フリー・ベーが博士の耳元で


「ベイ博士、女将様からです。

ナースの方と、ドクターは

御夫婦だそうです」


「そうなんだ…今日まで、辛い毎日だったんだろうね…よし先にナースの方を

治しちゃおう」


するとメリーが……

「ベイ、他の人達は廊下に出てもらう?」


「イヤ…外も、他の家族の方達が

待っているからね…

其れに

少しでも早く、痛みと

悲しみを取りのぞいて上げたいしね、

此処にいる、

6人の人達に「ナイショにして下さい」

って頼んだ方が

早いと思うんだけど…」


メリーは、リンダと、アンジーと、ルーシーの顔を順番に見た…3人とも頷いている。


ベイは、ジョニーの目をジッと見つめて…

(…皆んなに説明をよろしくね…)

と、目でうったえた、

ジョニーは頷き…そして6人に向かい…


「皆さん…先ほど

私が言った放射能の話はウソです…

そして、今から言う事が本当の話しです。

此方に居られるベイ博士は、

世界一の天才科学者です。

今から、落雷で亡くなられた5人の方達を

生き返らせます。


その前に、こちらのナースの方の

脳腫瘍を治します!

時間がないので、

質問は一切受け付けません。

以上です。

ベイ博士、お願いします」


ジョニーの勢いに押されて

6人は黙って頷いた。


ベイは小さく微笑んで

「ナースの方、

何をされるのか怖いでしょう…

御主人に手を握ってもらって下さい。

ドクター、奥様の手を…」


ベイがマシンを動かす、

いつも通りに白い煙に包まれ…

わずか5秒ほどで

ナースの病気は完治した。


喜びの涙をこぼす夫婦。

驚きで声が出ない同僚達。


次々と生き返る…5人の落雷被害者達。


アンジーが、起き上がった患者に名前を

尋ねると、

ジョニーが廊下に顔を出して…

家族を呼んだ、

5分後、全員が生き返った。


女の子がルーシーの手を握り…

「お姉さんアリガトウ…」

そう言って泣きだすと、

無責任な事を言うなよ、

と思っていた大人達が…

8人に向かって一斉に御礼を言い出した。


安置所を出ようとする8人に

「あの…せめて御名前を聞かせて下さい」

と言われると、

ベイは…

( よし、ここでキメ台詞を…)

振り向きざまに両手を腰にあて、

「私達は悪魔の使いだ!」

そう言いたかったのだろう……


「私達はアクマ…」とそこまで言った時に、横からメリーが「ベイお疲れ様」

そう言って……

ベイの口をキスでふさいだ。


ジョニーは、アクマの続きを…

「あくまでトップシークレットなので、

どうか皆さん…此の部屋の中で起こった

事は他言無用でお願いします」

そう言って話しを締めくくり、

遺体安置所を後にした。


〈 豪華客船 〉


スカイシップに戻ってきた8人…

お互いに顔を見合わせて、

微笑んではいるが…

メリーは内心、ドキドキしている…


(…思わずベイの決め台詞を

邪魔しちゃった…

きっと悪魔の使いって言いたかったん

だろうな。

ベイ怒っているだろうな〜)

そう思いながら……

ベイの顔を横目で…

見ている。


そんなメリーの気持ちを察したリンダが…


「まさかナースの方が病気だったとは、

ベイ博士、ビックリしましたね…」

そう言って話しを切り出してくれた。


するとルーシーが

「ドクターの旦那様は、

奥様を治してもらって、

泣きながら

喜んでいましたね」

と、話しを続け…


アンジーは頷きながら

「でも、自分達の常識では理解

出来ないから、

あの部屋の中にいた人達は、

今頃…頭の中が〈 混乱 〉

しているでしょね」


と言う、博士の大好きな

キーワードを使って話しを盛り上げ…


更にグレイは…

「きっと、パニック状態なんじゃないかな、

死んだ人が生き返るなんて、

本来有ってはいけない事ですからね、

〈 混乱 〉以外の何者でも

無いでしょうね」

と、話しをしっかり

レールの上に乗せてくれた。


ボブは…

「本当にそう思うよ、

きっと今頃ニュース番組なんかでも、

信じられない事が起こりました、

なんて…スタジオ中が

混乱してるんじゃないかな」


ジョニーは両手を広げながら

「きっとニュース番組は、

積乱雲が急に消えた、なんて言う所あたりから大騒ぎしてますよ、


それに安置所で生き返った人達や、

家族の人達に、

トップシークレットですからって

言ったけど、


絶対に何人かの人は喋りますよ、

と言うか、全員喋りますよ。


誰にも言わないで下さい、と言われると、

余計に言いたくなっちゃう人って

居ますから…

ベイ博士、今回は、人のクチコミからも、

きっと世の中が、

混乱して行きますよ!」

そう言って親指を立て…

話しをまとめ上げてくれた。


ベイは嬉しそうな顔で

「イヤ〜今回も…皆んなの働きのおかげで…

世の中を混乱させる事が出来たね、

嬉しいね、ご苦労様でした」

そう言って微笑んでくれたので…


6人は(…よーし、上手くゴマカセタ、

これでメリーは叱られないだろう…)

と思った…


その時である、ベイは急にメリーの

腰に手を回し…


「あのさメリー…

さっき僕が話し出した時、

急にキスをして来たでしょ…

出来れば、そう言った事はやめて

欲しいんだけど!」


メリーは…

(あっ〜、やっぱり怒ってたんだ…

ベイに嫌われちゃう……)

メリーの目には、

見る見るうちに涙がたまり…

「あの…ベイ、ごめんなさい…」

と、小さな声であやまった。


リンダは…

(しまった〜フォローしきれてなかった)

と思いながら、ボブの顔を見上げた。


ボブはとっさに…

「あの〜…」と言いかけると…

ベイは、メリーの顔をジッと見つめたまま…


「さっきも言ったじゃん、

僕の頭の中はメリーの事で

イッパイなんだって!

初めて会った人達の前でキスをされると、

なんだか興奮しちゃってさ!

僕自身…自分をおさえるのが

大変なんだよ。


胸がドキドキしてさ、

理性が失われてさ、

メリーの服を全部脱がして

抱きたくなっちゃうんだよ。


ここにいる、皆んなの前なら、

小さい時から一緒だから良いけどさ…」

6人は…

( やめてー! 親の様な

ベイ博士とメリーのセックスは

観たくない…)

と思った。


「だから…知らない人達の前で、

キスをするのは止めてね」

そう言って…メリーにキスをした。


メリーは…

(…ベイは私の事を、

そんなに好きなんだ…

よ〜し、今夜は乱れるぞ〜)

と思いながら…

「ごめんなさい、もうしないから…」

そう言って、ベイの胸に…

しっかりと抱き着いた。



6人は、ホッと胸を撫で下ろし…

(…やれやれ、丸くおさまった…)

と思った。


そんな時、女将が…

「ベイ博士、実は2分ほど前に、

豪華客船からSOSの信号が

出されて居たんですけど…

ここから1万8000キロほど離れた

場所なんですけど…行かれますか?」


ベイ博士は皆んなの顔を見回し…

「心の準備はいいかな?」

とたずねた。


7人は声を揃えて…

「いつでも大丈夫です!」

そう言って親指を立てると…


ベイは嬉しそうな顔で…

「女将さん、現場に向かって頂けますか」


「了解しましたベイ博士、4秒で着きます」

と言う女将の声に…

7人は( あっ、と言う間かい!)

と思い…

女将から…

「お待たせ致しました、事故現場上空です」

と言われると

(ちっとも待ってねぇわ!)

と思った…

しかし、(そんな事を思っちゃいけない!)

と反省した7人は…

「凄い!もう到着したんですね!」

そう言って…親指を立てた。


「女将さん、状況を教えてください」

と言う博士の声に…

「1200名乗りの客船に、

1086名が乗っていました。

港まで、あと4時間の所で…

誤って浅瀬の岩に接触してしまった事が、

事故の原因です。


12隻の救命ボートには、

船長と乗組員と乗客合わせて472名が乗っています。


614名は客船とともに海中に、

その内24名の遺体は、

船の外に出てしまったようです、

報告は以上です」


ボブが…

「あの〜女将さん614名の方達の

生存は…?」

「はい…たった今、全員お亡くなりに

なりました」


ボブは…

「あっ、そうなんですか…」

と言いながらリンダの顔を見つめた。


するとベイが元気な声で…

「サァー仕事にかかるよ〜。

匠さん、まずスカイシップを海中に、

そして海底に沈んだ船を見つけたら、

大きな泡で包んで下さい」


「了解しましたベイ博士」


「4人の女性はブリッジで待機、

ボブとジョニーとグレイと僕は、

今から船外に放り出された、

24名の方達を迎えに行きます。


ブレス君は、

球体の潜水艦になってね。

フリー達は、

僕達を誘導してね

さあ皆んな、

下のデッキに行こう!」

博士の号令で一斉に動き出した。


4人が透明の球体潜水艦に乗り込み、

海中に出ると…

目の前には既に豪華客船が、

大きな泡に包まれた状態になっていた。


グレイが…

「さすが、匠さんは仕事が早いですね〜」

と言うと、ボブが…

「俺達も24名を少しでも早く

探さないとね…」

と言って親指を立てた。


海中で浮遊している24名を…

わずか4分間で見つけたベイ達は、

すぐさまスカイシップに戻り

アッと言う間に

24名を生き返らせると、

全員で豪華客船の方に移動した。


まず8人全員で手分けをして…

船内食堂の大広間に…遺体を運び込んだ。


客室の中の遺体は家族とみなし、

2人とか4人とかに並べて寝かし…

廊下や、その他の所に倒れていた遺体は、

別の列に並べて寝かせた。


ここまでの作業だが…

590名ともなると…

さすがに時間がかかる、

其れは…

一度に遺体を三、四人くらいずつしか

抱えて移動が出来ないからである。


ベイは、そんな様子を見ながら…

(う〜ん、こう言ったケースは

これからも有るよな〜、

体力的には、

フリーとブレスレットの補助力があるから

疲れ無いけど…


重力を操れる機能も

ブレスレットに組み込んでいたら…

こういった時に便利だよなぁ…)

と思った。


590人の遺体が綺麗に並べられた。

先に生き返った24名は…

部屋の隅でドキドキしながら…

590名の遺体を見つめている。


すると目の前で…

次々と、光と煙りに包まれて、

亡くなった人達が生き返って来るのだ…


(…えっ〜?マジで?…

自分達もああやって生き返ったの…?

あの8名の方達は…

神様だったんだ…)

そう思うと、

自然に身体が…ブルっと震えた。


ベイとメリーが、マシンを動かし、

ボブとリンダは、生き返った人達を順番に

シャワー&ドライマシンに案内し、

グレイとルーシーは、軽食と飲み物を

渡した。


アンジーとジョニーは少し離れた所で…

2人で会議を開いていた、

614名に対して、

なぜ事故が起きたのか?


なぜ、

自分たちが生き返る事が出来たのか?

と言う疑問に対して…

答える為のシナリオを考えているのだ。


ジョニーが…

「ウソをついても…

スグにバレてしまうので、

本当の事を言わないとね」

するとアンジーも…

「そうよね、今はネットに何でも流れてしまうものね…」

そんな打ち合わせをしている2人に、


後ろからメリーが声をかけた…

「ジョニー、アンジー、もう少しで全てが終了するけど、準備はいいかしら?」


「はーい、今2人の中で、

シュミレーションの

全てが終わったところよ」

「了解です」

メリーはフリー・メーを使い…


「リンダ、ルーシー。

アンジーとジョニーの準備が出来たそうよ」


「了解、こっちも最後の家族の方達が…

シャワー&ドライマシンから出られた

ところよ」

とリンダが答えた。


すると、ルーシーも続いて…

「こちらも了解でーす、あと4人分の軽食と、飲み物を用意しとくわね」

と答えてくれた。


ボブは3人のやり取りを聴きながら、

生き返った人達に向かい…


「皆さ〜ん、少しこちらに注目して下さい。今から皆さんの身に何が起こったのか?

なぜ、生き返る事が出来たのかを

説明します、

食べながらで結構ですから、

宜しくお願いします」


先に生き返った24名も、

サンドイッチとココアを持ちながら…

嬉しそうに、

590人の中に入って行った。


小さな子供達が無邪気な顔で、

窓の外を指差し…

「パパ、ママ、お魚さんがいっぱい、

私達って海の中に居るの…」

「そうよ…」と答えたものの、

心の中では…

(…まじスゲ〜、どうなってるんだよ?)

と思っていた。


ジョニーとアンジーは614名の

前に立つと、

まず、軽く一礼をした。


先にジョニーが……

「皆さん、今回はとんでもない事故に遭遇してしてしまいました。

しかし…幸運な事に、

とんでもない天才科学者にも

遭遇しました。


あちらに立って居られる方は…

ベイ博士です。

私達7人は、助手をさせて頂いております。

いま子供さん達が…

海の中だと言っていましたが、

正確には…

大きなシャボン玉に包まれた状態で…

海の中に居ます。


ベイ博士は、

世界一の、トップシークレットの

頂点に立って居られる方です」


全員がベイの方に視線を向け

会釈をした。


ベイは小さな声で…

「フリー・ベー、ジョニーに余計な事は言わないでと伝えて」と言った。


フリー・ベーは言われた通り、

ジョニーの耳元に居る

フリー・ジーに伝えたが、

ジョニーは言う事を聞かずに、

ニヤリと笑った。


フリー・ベーは…

「ベイ博士、ジョニー様に、お伝えしましたが、笑って居られるだけです」


「うん、ありがとうフリー・ベー

…ちゃんと見えてるよ…」

そう言って肩をすくませた。


ジョニーは更に

「ベイ博士は、生命のミナモトを研究され、

肉体の再生と、

生命復活の実現化に成功された方です。


皆さんは運良くベイ博士に発見され、

トップシークレットに

選ばれた方達です、

良かったですね、

夢を見ているんじゃ無いですよ、

皆さんは、船の沈没で亡くなったんです、

しかし、科学の力で生き返る事が…

出来たんです。


今から皆さんを…港に送って行きますの

ご安心下さい」


そう言って微笑むと、

会場から歓声が上がった。


次にアンジーが…

「何か質問がある方が居られましたら?…」と言う声をかけると、

1人の壮年が手を上げた、

アンジーは微笑みながら…

「どうぞ、何でしょうか?」


「あの…私達は、船にドシンと言う音がして…事故が有ったのかな、

と思ったんですけど…

船内アナウンスで、

船は大丈夫ですから部屋から

出ないで下さい、と言われて…

でも船が傾いた時…

窓の外に救命ボートが出されていて…

あの〜私達は…

見捨てられたんですか?」


アンジーは小さく頷きながら

「はい、残念な事ですが、その通りです。

この客船には、

初めから救命ボートが、

1200人分用意されて無いんです。


700人分です…

其れと今現在、救命ボートに乗っている人数は472名、

本来ならあと、228名乗る事が

出来たのに…人を乗せずに、

472名の…荷物が乗っています…」


会場から「おぉ〜……」と言う、

落胆の声がもれた。

アンジーはその声を聴きながら…


「今から、皆さんの事を港に送りますが、

救命ボートに乗っている人達は、

置いて行きます!


なんだか、ムカつくじゃないですか、

そのうち誰かが迎えに来るでしょ…

お金持ち何ですから、

自分達の事は、なんとかするでしょう。

私達は、

そこまでお人好しではありません。


私達7人が尊敬するベイ博士も、

冗談半分で…


「僕達は神様じゃないよ。

自然の摂理に逆らって、

死んだ人を生き返らせるんだから、

悪魔の使いなんだと思うよ…

悪魔だから優しくないし…

気まぐれで良いんじゃないかな」

と言っておられます」


会場から笑い声が上がった。


アンジーは更に…

「他に質問はありませんか?」

と言って会場を見渡した…

1人の青年が手を上げた。

「どうぞ、何でしょうか?」


「あの荷物の中に、

家族の写真が入っているんですけど、

取りに行っても良いでしょうか?」


「はい、大丈夫ですよ。

ごめんなさい、先に言えば良かったですね…

此処に居られる方の荷物は…

全て無事ですよ、

濡れてもいませんから、

安心して下さいね。」


青年を筆頭に、

全員、満面の笑みである。


「他に質問は有りませんか?」

…誰も手を上げていない事を確認した

アンジーは…

「では皆さん…御自分の荷物を取りに行きましょうか、

慌てなくても大丈夫ですから、

一時間後に、

またこの場所に…戻って来て下さい」

そう言って、614名を送り出した。


全員が部屋から居なくなると、

ベイはフリーを通して…

「女将さん、614名の方達の経済状況は…どんな感じだか…分かりますか?」


「ベイ博士は、

きっと私にそう質問される

だろうと思って、全て、

調べておきましたよ」


「皆さん、経済的に裕福な方ですか?」


「現在、救命ボートに乗っておられる

方達は、本当に、

お金持ちばかりですが…

614名の方達は、

裕福な方ではありません。


何年もかけて、お金を貯めて、

家族の…あるいは夫婦の…

思い出作りの為に、今回、

このツアーに参加された方達ばかりです…


先ほど、最後に質問して来た青年などは、

かなり貧しいですよ、

途中からこの船に乗って来たんですが…

アメリカで頑張って…

国に残して来た

母親と、婚約者を…迎えに行きたいよう

ですよ」


ベイは頷きながら…

「女将さん、金庫からお金を出して頂け

ますか…」


「はい了解しました…」

7人は、ベイと女将のやり取りを

聴きながら…

ニッコリと微笑み…


(…昔の優しいベイ博士の…

まんまじゃんか…)

そう思った。


そして一時間後、

自分の荷物を持った614名が

大広間に返って来た。


ジョニーとアンジーは、

皆んなから見えるように

椅子の上に立つと…


「皆さん、もうすぐ港に着きます。

海の中から海上に出ると…

船を包んでいるシャボン玉が破れ、

皆さんが下船し終わると…

この船は海中に沈みます。

船底に穴が開いているので、

仕方ありません」


全員が(なるほど…)と思いながら頷いた。


しばらくして…イカリが下され…船は港に接岸されされた。


しかし…港の方では、入国審査を行う職員達が困惑していた…

それは、船が座礁して、

沈んだと言う連絡が、

既に入っていたからである。


なのに今…自分達の目の前に、

豪華客船が入港して来ているのだ…?。


その時…

アンジーが、

船外マイクのスイッチを入れた。


「スミマセ〜ン、

船が座礁したとの

連絡が入っていると思うのですが、

何だか、

人を驚かす番組の企画だそうです。

もう撮影も終わったそうで…

後で船長から説明があると

思いますので…

とりあえず乗客の方達を、

降ろさせて頂いて…

宜しいでしょうか?」

と言った。


〈 黒衣モード 〉


港側の入国管理の職員達は…

唖然とした。


そして口々に…

「もっ〜、驚かせないでくれよ〜」


「なんだ、番組の企画かよ〜」


「もっ〜、何処にカメラが

隠されているんだ〜」

と言いながら、大笑いし出した。


アンジーとジョニーは、

顔を見合わせて…ニヤリと笑った。


614名の人達が船から下りる時…

港側から見えない船内の通路で、

メリーとリンダ、

アンジーとルーシーが

左右に並び、

小さな紙袋を…大人も子供も関係なく、

一人に1つずつ渡している。


「邪魔に成る物ではありませんから…」

受け取る人達は口々に…


「ありがとうございます、

この御恩は一生忘れません…」

そう言いながら…

涙ぐんだ。


誰も袋の中身は

「何ですか?」などと言う事は聞かない…

聞かなくても解っているのだ…


4人の女性の後ろで、

ベイとボブ、

ジョニーとグレイが…

1つの紙袋に3000ドルずつ、

必死で詰め込んで居るのが…

見えているのだ。


614名の人達は

(…命を助けて頂いて…その上…お金まで…)そう思いながら船を降りて行った。


最後の一人は…

質問をして来た22歳の青年である…

彼は、生き返らせてもらったその時から、

ボブの顔をズッと見つめて居た。


青年はボブに向かい…

「あの、間違っていたらすみません、

ヘビー級・チャンピオンの…

ボブさんですよね、あの、僕もボクシングをしているんです…」


ボブは一瞬「えっ?」

と言うような顔をしたが、

小さく笑いながら…

「チャンピオンはギンバレーさんで、

僕は挑戦者のボブだよ…」


「えっ?あの、でもギンバレー、

チャンピオンが、対戦の次の日、

朝のテレビ番組で…

「俺は引退する。次のチャンピオンは実力から言ってボブ選手しかいないと思う」って

言って居られましたけど…」


「そうか〜、そんな事を言って

くださったんだ…でも俺は……

対戦の夜に一度死んじゃって居るから…

何も聴いていないし…

だから…チャンピオンでも…

何でもないんだよ」


「あの…僕は…ボブさんがデビューされてからズッとファン何です。

反則は一切せず、

常に前に…

たとえ少し下がっても、

次のラウンドでは…

更に前に出て相手を打ち破る。


相手の選手に敬意を払い、

丁寧な話し方と、

優しい態度…

ボブ選手は僕の憧れであり…

僕はかってに…心の中で、

先生って呼ばせてもらって居ます。


あのスミマセン…

握手して頂けないでしょうか…」

そう言って青年は…

頭を下げながら手を出した。


下を向いている青年の視界に…

ボブの手が見えない…


(…しまった〜、トップシークレットって

聴いていたのに、

ボブ選手ですよね、

なんて聴いちゃいけないんだ、

俺はバカだなぁ)

と思っていると、

ボブの両足が視界に入った。


青年が(えっ?)と思っていると、

ボブの力強い両手が…

青年の身体を包み込み…


「ありがとう…

そんな風に言ってもらるだけで、

本当に嬉しいよ…

君の体格からすると…ミドル級かな?」


「はい、そうです…」


「今のミドル級のチャンピオンは

強いぞ〜、頑張ってね」


「はい、ありがとうございます。

あの…ボブさんは、もう現役に

復帰されないんですか?」


「もう、1年以上…

リングから離れちゃったからね…

それに一度…死んで居るからね、

でも…もし次にリングに行くとしたら…

セコンド側かなぁ…」

そう言って微笑んだ。


青年も嬉しそうに微笑みながら、

ボブにしがみ付き、

そして船を…降りて行った。


「えっ〜と、お客様で最後でしょうか?」

港側の責任者の言葉に、

青年は満面の笑みで…


「はい、僕が最後です…」

そう言って一礼すると、

何事も無かったように入国手続きを済ませ、町の中に姿を消して行った。


港側の責任者は職員達に向かって…

「皆んな、お疲れ様でした。

いや〜ここだけの話だけどさ、

何処の企画番組だか知らないけど、

迷惑な話しだよなぁ。


海難事故だよ!

正直言って、「ふざけるな!」

って怒鳴ってやりたいけどさ…

怒っている映像がテレビに出たらさぁ、

女房と子供に、パパったらジョークが通じないの、なんだか恥ずかしいわ、

って言われそうだしなぁ」


職員達も口々に

「本当に…迷惑な企画ですよね〜」

「人の生死に関しては、

ジョークでは済みませんよね〜」

と言った。


その時…一人の女性職員が、

上司の肩を叩きながら


「あの…」


「どうしたんだい?」


「あの…船が居ません…」


「船が居ませんって、

犬や猫じゃあるまいし」


と笑いながら職員達が振り返ると、

確かに…船が見当たらない…

「えっ?…どう言う事…?」

そう言っている時に…

責任者の携帯電話が鳴った。


責任者が誰と話しているのか?

何を言われているのか、

周りの職員達には分からない、

しかし、

責任者の顔色は、見る見るうちに青ざめ、

足が小さく震え出した。


責任者は電話を切らずに

「…スミマセンちょっと待って下さい」

と言うと…職員全員に向かい…


「皆んな、私達はさっき…

614名の人達と接して居るよな!」

と言った。


職員達は…(…あれ、何の確認だろう?)

と思いながら…

「はい、しました…」

と口々に返答をした。


責任者は電話を握りしめながら…

「海難事故は本当にあったそうだ。

614名の人達は…

船と一緒に…沈んだそうだ。


私達が見た船は…

あの乗客の人達は…誰だ?

…だっ、誰か、説明出来る者は…

いないか?…」


港の職員達は、絶叫とともに、

パニック状態になった。


その状況を、

スカイシップの中で観て居る8人…

ジョニーが思わず…

「そりゃ…驚くよね〜。

だけどさ、614名の人達が、

本当に亡くなった事と比べたら…

微々たる驚きだと思うけどね…」

そう言って腕を組んだ。


するとそこに、子供が縫いぐるみの

クマさんを忘れたと言って…

1組の家族が引き返して来た。


港の職員達は…

奇声を発しながら、全員でその家族を…

取り囲んでしまった。


「えっ?私達が何かしましたか?」

35歳の夫婦は、

7歳の息子と5歳の娘を

とっさに抱き上げ、周りを見回した。


職員の一人が…

「あっ、いえ…あの…スミマセン…

実は海難事故がありまして…あの…

乗客の方達614名が…その〜…

船と一緒に海底に沈んだと…

あなた方は…幽霊…

なんて言う事はないですよね…」


そう言いながら、4人の身体を…

真顔で…ジッと見つめた。


夫婦は見つめ合い(…どうしようか?…)

と視線で会話を交わした…

その時5歳の娘が…

「あっ〜私のクマさんがあそこに居た〜」

そう言って…

母親の胸の中から抜け出し…

職員の中に走って行った。


職員達は恐怖のあまり、

サッと道を開け、女の子をジッと見つめ…

(…いやいやいや…どう観ても…

幽霊じゃないよね〜、透けてないし、

足もあるし…)

と思った。


責任者は迷っていた…

(どうすればいい…警察を呼ぶのか、

…子供が居るんだぞ…

だけど本来なら、この家族も、

死んで居る事に成るんじゃないのか…

でも生きてるんだよなぁ…

誰か、教えてくれて…)

そう思っている時…


副責任者が夫婦に向かい…

「スミマセンが

話を聞かせて頂けませんか!」

若干きつい口調でにじり

寄ってしまった。


すると夫は…妻を抱き寄せながら…

「約束なので言えません…」

と言い、妻も…

「私達はあなた方に、

何か迷惑な事をしましたか?」

と言葉を続けた。


副責任者は…

(何もしていないよ、でも約束って何…

やっぱりなんか秘密が…

あるんじゃないのかな…)

そう思いながらも…

口をつぐんでしまった。


スカイシップの中で、

このやり取りを観ていたベイが…

「この御夫婦は、

約束を守るタイプの方達なんだ…」

と独り言を言うと…

急に…「フリー・べー、黒衣モード。

女将さん、僕をあの場所に降ろして下さい」


7人が…(えっ?)

と思っていると女将が…

「了解しましたベイ博士、降ろします」


すると横に居たメリーが慌てて…

「ベイ、私も行く‼︎

女将さん私も降ろして」

そう言ってベイの腕にしがみ着いた。


ベイはメリーの頭を…

軽くポンポンとおさえると

「メリー、下で僕にキスをしちゃいけないよ…発情しちゃうからね…」

そう言ってウィンクをした後…

2人の姿は、

デッキの中から消えた。


クマの縫いぐるみを抱っこした女の子が、

母親の元に戻って来た。


遠巻きに見ていた職員達が、

少しずつ寄って来る…

夫妻は子供を抱きしめながら…

(…えっ?捕まるのかな…

せっかく生き返らせてもらえたのに…)


その時…

黒衣をまとったベイとメリーが、

家族の前に…パッと現れた。


ご丁寧に…2人の足元には黒い煙が

渦巻いている、

匠の粋な演出である。


職員達は「うわっ!!」

と声を出しながら…

五、六歩後ろに下がってしまった。


子供達は

「正義の味方が来てくれた〜」

と言って喜んだ、

夫妻もそう思った。


ベイは、職員達を睨みながら、低い声で…


「…ビックリしたぜ…

悪魔の俺がだぜ…

誰か…教えてくれないか…

生きた人間を海の底に沈める…

その人間の、精神状態を…

614名もだぜ。


凄いねぇ…俺達よりも…

悪魔らしいじゃないか…

見習わないといけないねぇ。

今回は…俺の気まぐれで…

614名を生き返らせた!


何だか…ムカつくんだよねぇ…

普通の人間どもが、

俺達の領域に入って来る事がさぁ…


人間の命をもて遊び…

奪って良いのは…

俺達…悪魔だけなんだぜ。

良い子は…

悪魔のマネをしちゃいけないなぁ…」

そう言って、

家族の前で両手を広げて見せた。


誰も喋らない…

聞こえるのは館内に流れている…

BGMだけである。


すると今度は…メリーが腰をかがめ、

ベイと同じように両手を広げると…

低く恐ろしげな声で…


「フリー・メー、彼らから自由を奪って」


フリーは賢いので…

「かしこまりましたメリー様」

とは言わず、

黙って職員達を動けなくした。


メリーは広げた両手のままで…

「あんた達の命を奪うことなんて…

造作も無い事なんだよ…」


動けなくなっている職員達は…

(本当に悪魔っているんだ)

と思いながら

「ひっ〜…助けて下さい!」

と叫んでしまった。


メリーは更に

「あんた達の事は何だって知ってるよ…

肺ガンの女房、

車椅子の娘、

白血病の父親、

心臓病の息子…

誰から殺して欲しい…」


該当する4人の職員は…

(何で、知ってるんだぁ〜)と思った。


メリーは更に…

「…ひ、ざ、ま、ず、き、な…」

と言った。

港の責任者をはじめ、

該当する人達が…床にしゃがみ込んだ。


ベイは更に…

「悪魔は、気まぐれなんだよ…

俺達がした事に、いちいち…

詮索をするんじゃない…」

そう言った後…


目でメリーに…

(もう行くよ)と合図を送った。


ベイとメリーは…

家族を両手で囲むような形をとると…

「フリー・ベー空へ」と言った。


4人の家族と、2人の悪魔の姿は,

職員達の目の前から…

黒い球体と煙に巻かれ…

空に飛んで行った。


なのに…職員達の身体は…

動けないままである。


球体の中で…

4人の家族は少しおびえていた。

( 生き返らせてもらった時は、

優しい人達だったのに…

本当は悪魔だったの…)

そう思えたからである。


しかし、空に上がるとメリーが…

「ゴメンナサイ、驚いたわよね〜」

と微笑んでくれ、

ベイも…

「メリー、皆さんを家に送ったら…

その後で、職員の家族の病気を

治して上げようね」

と言って微笑んだ。


すると男の子が…

「良かった!やっぱり神様だったんだ…」

そう言って両親の顔を見上げると、


ベイが横から…

「はい、お家に帰って来ましたよ」

と言ってくれた。


4人が(…早い、もう着いたの?)

と思った次の瞬間…

4人は玄関の前に立っていた。


(えっ?一歩も動いてないのに?)

と思っていると…


「いつまでも御幸せに」

と言うメリーの声が聞こえた、

4人が振り返ると…

ベイとメリーが手を振ってくれている…

4人が手を2回ほど振った時…

ベイとメリーの姿がパッと消えた。


女の子は両親を見上げ…

「パパ、ママ、お兄ちゃん言う通り、

絶対に神様だね!」

そう言って…

四人は満面の笑みで…

空を見上げた。


1分後…港の職員達は動けるようになった。しかし恐怖で声が出ない、

全員がその場でしゃがみ込んで

しまっている。


一人の職員の携帯電話が鳴った、

誰もが

「うわっ〜」と悲鳴を上げた。

(…悪魔が何かをしたんだ…)

そう思ったからである。


震える手で電話に出る職員、

いきなりの奇声、そして歓声…

「皆んな聞いてくれ…車椅子の娘が歩けるようになった…」と言って泣き出した。


次の職員の携帯電話が鳴った…

「えっ〜父さんの白血病が治ったの…」


そして次の電話が…

「息子の心臓病が治った?ドクターが首を傾げてる…」


そして最後の電話が鳴った…

「えっ?お前、何で喋れるんだ?…

えっ?黒い服を着た男女が助けてくれた…

えっ、ドクターが肺ガンが治ってるって…」

そう言って泣き崩れた。


(一体どう成っているんだ…?

悪魔じゃなかったのか?)

誰もがそう思っている時に…


副責任者がボソッと呟いた

「悪魔の仮装をした、

神様だったんじゃないのかな?…

だって皆んな…助けて貰っているじゃん…」

そう言って微笑むと…


周りの職員達も、

同じ様な事を思っていたのか…

急に身体の力が抜けてしまい、

床に寝転び…

そして…

笑いながら…泣き出してしまった。


その後の話を少しだけ…

472名を乗せた12隻の救命ボートは、

2時間後にやっと港に着いた。


警察、救急隊、マスコミは

首を長くして待っていた。

実は、豪華客船は、

匠が小さくしてスカイシップの

倉庫に保管している、

船底に穴が開いてはいるが、

爆発した訳ではないので、

綺麗な物である。


匠と女将は、船を縮小する前に、

船内のビデオによる、

画像と音声を抜き取り、

ちゃんと編集を済ませ、

その後…

マスコミにリークしたのである。


船長と乗組員が、

12隻の救命ボートに乗せる順位を、

お金で決めた事…

472名が、自分達の荷物を乗せる為に、

席を買い取っている姿など…

様々な映像がネット上に流れ出している。


警察とマスコミは、その辺の話を、

丁寧に聞きたいと、

手ぐすねを引いて

待っていたのである。


スカイシップの中では、その様子を観ながら「混乱しそうだね」と匠が言えば…


「皆さん、お金の力で何とかなさるんじゃないかしら」と女将が答えた。


この部分の話は

女将と匠の2人だけの秘密で…

8人は何も…知らない事である。


 〈 海底火山 〉


ベイとメリーが、黒衣のままでスカイシップに戻って来た…

「ご苦労様でした」

ボブが2人に声をかけると、

メリーは、自分の胸にベイの手をくっ付け

「胸がドキドキしている…」

そう言って涙ぐんだ。


するとリンダが笑いながら…

「メリー、ドキドキしたのは私達も一緒よ、女将さんから2人の熱演を見せて貰って、

ベイ博士は怖い悪魔に見えたし、


メリーも腰をかがめて、

「あんた達の事は何だって知っている、

誰から殺して欲しい」って、

カッコイイって思ったわ!」


「やめて〜リンダ!

恥ずかしくて顔から火が出そうなの…」

するとアンジーが横から


「でも本当に素敵だったわよ、

メリーって昔から、

お姫様みたいに、

いつも微笑んでいて…

おとなしい女の子って言うイメージなのに、あんなダークな雰囲気も出せるのね…」

そう言ってウィンクをおくった。


そんな時…

女将から1つの提案があった。

「皆さん、楽しく話しが弾んでいる時に

スミマセン、

今の内に昼食の時間を取られては、

如何でしょうか?


と言いますのも、実は先ほど、

ある地震予測チームの会話が

私の耳に入ってきまして、

どうやら海底火山が爆発するようです」


女将はここで、

縦5m、横8mのホログラムを出して…

解説を始めてくれた。

「先ほど匠が、探査機を出して調べて来たんですが、

かなり大きな噴火になります。

其れにともなって起きる地震…

更には津波…

約、70m程の高さの津波が、

大陸の沿岸部、

約、280キロの広範囲を襲います。

今から48分後に海底火山が噴火します」


ベイは小さく頷きながら…

「了解しました女将さん、

昼食をとりますね。

フリー・ベー、イスとテーブルを出してもらえるかな…」

「かしこまりましたベイ博士。

メニューは、各フリー達に申し付け下さい」

そう言って、素早くテーブルとイスを

出してくれた。


8人は時計を見ながら口を動かした…

と言っても…

大体が食べる事が早い8人である、

20分ほどでデザートの

アイスクリームまで…

ちゃんと食べ終わっていた。


スカイシップは既に…

現場の上空1000mの場所に

待機して居る…


デッキの中には、

最近、女将がハマっている

クラッシックが、BGMとして流れている…


グレイが真剣な面持ちで…

「ベイ博士、あと10分くらいですね…

あの僕達が手伝える事はありますか?」


「ありがとうグレイ、

実は今から皆んなに頼もうと

思ってたんだけど、

今回は津波から人命を守る為に、


グレイとルーシー組、

ジョニーとアンジー組、

ボブとリンダ組、

皆んな別々に行動して貰いたいんだ」


…2人のやり取りに、

他の6人も直ぐに加わって来た。

ボブがリンダの手をギュッと

握りながら…

「何でも言って下さい」

そう言って微笑むと、


ジョニーは、

アンジーの腰に手を回した状態で…

「何だか…

表現がおかしいかも知れないけど…

僕達の…デビューって言う感じがするね」

そう言って

グレイの顔を見た。


グレイは頷きながら…

「はい…少し…トリハダが出て来ました」

ルーシーはグレイの腕をさすりながら…

「大丈夫…グレイなら出来るわ」

そう言ってキスをした。


ベイは微笑みながら……

「じゃあ今から、

格納庫に行ってもらって…

匠さんから、

ミサイルをもらって欲しいんだ。


ミサイルと言うと、

少し物騒だなぁって思うかもしれないけど、ミサイルの中身は、

船をシャボン玉で包む物…

前に飛行機を包んだ…アレだよ。


その応用で、

小さな島を…ゼリー状のドームで

覆う事も出来るし…

海岸沿いの町を津波から守る為に…

海水をゼリーで固めて、

高さ100mの壁にするって言う事も

出来るんだ。


なかなか画期的な物だと

自画自讃しているんだけどね」


するとリンダが…

「世界中が驚きますね、

町を襲って来るはずの津波が…

のけ反って

海側に倒れるんですから」


横からアンジーも…

「本当に、島がドームの中にスッポリ入ってしまうなんて、

さぞかしビックリするでしょうね〜」

そう言って笑い出した。


ルーシーはグレイの手を握ったままで…

「船に乗っている人達は、

大きな波間を漂う訳だから、

船酔いするでしょうね〜」


グレイは頷きながら…

「いずれにしろ今回も…

世間をアッと言わせて、

混乱させる事が出来るよね」

そう言って微笑んだ。


ベイは、全員の顔を見回しながら…

「皆んなの力で、世界中を混乱させてやろうじゃないか!」

そう言って親指を立てると…

6人は一斉に親指を立て返し…

スカイシップから飛び出して行った。


ブリッジに残ったベイとメリーに…

「ベイ博士、噴火が始まりました!」

と言う女将の声が…


2人が下を観ると

アッと言う間に海面が濁り…

蒸気が発生し出した。


メリーが

「ベイ、あれ…」と言った時…


赤々としたマグマが、

黒々とした黒煙と、

水柱の衣装を羽織り、

スカイシップを飲み込むような

意気負いで登ってきた。


しかし……

飲み込まれているのは噴火の方で、

1000m以上先の空には、

煙の、ケの字も、見る事が出来なかった。


ボブ達はその状況を、

スカイシップの外から観ていた…

「すごいねぇ〜リンダ、

自然の脅威がちっとも怖くない…」

「私も…そう思っていたの…」


2人が微笑み合っていると…

フリー・ボーが…

「リンダ様、ボブ様、

津波到達予測地点に…移動します」

続けてフリー・リーが…


「津波が沿岸に到達する前に、

壁を作る方が合理的だと思いますが、

どう致しましょうか?」


ボブはすかさず…

「うん、賛成だね、今頃地上では…

かなり大きな地震が起きて、

誰もが不安に成っているだろうからね…

津波の心配だけでも、

早く取りのぞいてあげたいよね」

するとリンダが


「ねえフリー・リー、家屋の倒壊とかは大丈夫なのかしら?」

「はい、人命に関わるような、

建物の倒壊は…今のところ…

女将様からは聞いておりません」

2人は胸を撫で下ろしながら

目的地に向かった。


ジョニーとアンジー組は、

大小合わせて169の島に…

ゼリー状のドームを

貼り回ってていた。

其れによって、

津波で海中に沈んだように見えた

島民達は…


「えっ〜?水が来ない…

魚が空を飛んでる!

って言うか俺達…なんか…海の中だし…

なにが起こって…いるんだ…?」

そう言いながら、空を見上げていた。


ジョニーは

「アンジー…スゴイよね…

小さい島とは言っても何キロもある

大きさだよ…」

「本当に…誰も被害にあわないなんて、

最高のミサイルね〜

…でもミサイルって何だか

怖い響きなのよね…

ミサちゃんとかミルちゃんって呼んだら、

ベイ博士…怒るかしら」


ジョニーは笑いながら

「優しい呼び方だと思うよ、きっとベイ博士も賛成してくれると思うよ」

そう言って…

アンジーの頭を撫ぜた。


グレイとルーシー組は…

漁船、豪華客船、ヨット、

タンカー等、

大小合わせて582隻の船を…

シャボン玉で包み込んだ…

ジェット機の中からそのようすを見た

ルーシーは…


「すごい、あんなに高い波なのに、

船が海面上をクルクルって…

まるで遊園地のコーヒーカップのように

回っている」

「本当だね、絶対に沈まないって、

上から見ても分かるね」

とは言ったが、内心は

(…船酔いしなければ…いいけど…

絶対に、酔ってるよね…

でも、死なないし、船も壊れないし…

でも、ごめんなさいね…)

と思っていた。


ボブとリンダ組が、ミサイルを撃ち込み…

海水の壁を作ると、

海岸沿いに住む人達は…

腰を抜かして

驚いた

「えっ?何なの!津波?

固まってるの?私達は助かったの?

えっ?水の…何?…壁?…」

そう言いながら、

100mの水の壁を…

見上げた。


ジェット機の中でリンダが…

「ボブ、すごい壁ね〜、これで津波は

防げたわね」

「そうだね、最高70m前後の津波なんて…

まとも食らってしまったら、

どれだけの被害を出してしまったか…

考えただけでも、

身体が震えてしまうよ…」


そう言ってリンダを抱き寄せると、

リンダはボブの首に手を回し

「科学の力って本当にすごいわよね〜」

と言って…キスをした。


仕事を終えた3組が、

スカイシップに戻ろうと…

ジェット機の方向を変えた時、

ベイの声が聞こえた…


「皆んな、御苦労様でした。

女将さんが、皆んなの活躍映像を、

ズッーと船内に映してくれて居たよ、

完ぺきな仕事だったよ、ありがとう。


実は今ね、

高度1000mから、300mまで

スカイシップを下げているんだよ、

少しでも早くマグマを吸い取って

やろうと思ってさ、

そしたら空軍の飛行機や、

マスコミの飛行機が沢山飛んで来てさ、

スっごく驚いて居るよ、


無理もないよね、

300mの高さで、

噴煙も噴石も、

いきなり空中で消えているんだから…

かなり不自然な映像が

世界中に流れているよ。

きっと色々な意味で、

混乱していると思うよ」

そう言って笑っている。


ジョニーが…

「ベイ博士、今回も混乱作戦、大成功ですね」と言うと、


グレイも笑いながら

「きっと、テレビのニュース番組で、

不思議な現象が発生しました、

なんて、特集を組むんじゃないですかね」


するとボブも嬉しそうな声で

「シャボン玉に包まれた船…

ゼリードームに包まれた島々…

そびえ立つ海水の壁…

テレビに出ている評論家が

なんて言うのか…楽しみだね」


ベイは笑いながら…

「本当に…さて、

もうすぐ皆んなはスカイシップに着くと

思うんだけど、

透明シールドを張った状態で帰って来てね、

外からスカイシップが見えないから、

フリー達に自動運転を頼んでね、

ちゃんと帰って来れるからね」


5分後…

3組ともスカイシップの中に帰っていた。


其れから…2時間と36分後、

匠と女将は、海面上に出て来るマグマを…

全て…吸い取り終わった。


匠が女将に…

「地球のクシャミは…長いねぇ」と言うと、

女将は、可愛い声で…

「ウフフフフ」と小さく笑いながら…

「もぅ〜貴方ったら、

お願いだから笑わせないで、

報告が出来なくなっちゃうじゃないの…」


女将は…2秒間で気を取り直し

「ベイ博士、お待たせしました、

海底火山の噴火は、

これで、しばらくの間は大丈夫です」


「次はどのくらい先に噴火しそうですか?」「地球を取り巻く状況に応じて…

微妙に変わって来ますが…

この場所での噴火は、

200年ほど先だと思います」


ベイは微笑みながら

「匠さん、女将さん、助かりました。

本当にありがとうございました」

そう言って頭を下げた。


匠は恐縮しながら…

「皆さんに喜んで頂けて光栄です」

と言うと、

女将は何気なく…

「ベイ博士、

御自分が作られたAI私達に、

いちいち御礼など言わないでください」

と言った。


すると、ベイの顔から急に笑顔が消えた。


匠は瞬時に…

(まずい…)と思い…

「ベイ博士すみません、

女将は、悪気があって言ったわけではないんです、本当に申し訳ありません!」


「…匠さん謝らないで下さい、

私は怒って無いですよ。

ただ淋しくて…

私は、御二人が大好きです。

尊敬しています。

頼りにしています。


御二人は、科学者ベイの作品ではなく…

私達8人と同じ…

家族だと思ってもらえませんか?…

ダメですかね、女将さん、匠さん…」


すると女将は震えるような声で…

「ベイ博士は…私達の事を…

そんな風に思って居て…

下さっていたんですか…

だから何時も、ありがとう、って

言って下さっていたんですね…」


ベイは7人の顔を見回しながら…

「…僕は女将さんと、匠さん、

御二人を加えて10人家族…

いやフリー達も入れて、18人家族って

言う事にしたいんだけど…

皆んな、どうかな?」

と尋ねた。


満面の笑みで

「はい」と答えてくれた7人…


かすかに聴こえる…女将と匠の、

すすり泣き…


それとは逆に、

自分の主人の前に来て、

嬉しそうに頭を下げるフリー達。


ルーシーは、兄であるボブを見ながら…

「昔…親に捨てられて…

怖くて、不安で、

お兄ちゃんの手を必死で握っていたの…


でも皆んなと出会って…

お姉さんと、お兄さんが増えて…

愛する人と結婚して…

今また家族が増えて…

お兄ちゃん…夢のようだね…」


涙もろいボブの顔は、

既に涙でグチャグチャである…

隣を見れば、グレイの顔も、

涙でグチャグチャになっている。


グレイも昔、

親に捨てられて、心細くて…

姉のアンジーのスカートの裾を、

必死で握っていたのだ。


グレイは、自分の頬を両手で、

パンパンと叩きながら…

「僕とルーシーは、

姉さんと、兄さんが居たから、

まだ幸せですよね…」と言うと、

リンダが…


「そうね…私も、ジョニーも、

メリーも、ベイ博士も、

一人ぼっちだったから…

皆んなに出逢えて本当に良かった…

私はそう感謝しているわ」


ジョニーはアンジーを後ろから

抱きしめながら…

「本当に…君と出会えて良かった…」

と言うと、

アンジーはクルリと身体を回し、

ジョニーの胸の中に顔を埋めた。


メリーが嬉しそうに…

ベイの顔を見つめると、

「メリー、今は18人の家族だけど、

これから先…ベビーが生まれて、

もっと大家族になるよ。


でわ、皆んなの総意で、

スカイシップの私達は…

家族と言う事を、

宣言させて頂きます」


18人の親指が、

嬉しそうに…立ち上がった。


さて、いまだにスカイシップの周りには、

沢山の飛行機やヘリコプターが

飛び回っている…


女将は優しい声で

「ベイ博士、いったん海中に入り、

100キロ程先から、空に上がりますね」


スカイシップは一気に海面に降り…そして…ゆっくりと潜水して行った。


そんな事を知らない軍の飛行機や、

マスコミのヘリコプターは…

急に海面に発生した渦巻きに驚嘆し…


「なんだ?いったいこの現象は…

なんなんだ?…」

と言いながら…カメラを回し続けた。

            

           〈coming soon〉

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