義賊は空に住んでいる

@WTTT

第1話

1ページ   〈…8人で…〉


12月30日…

窓の外には雪が降っている。


2カ月前、

誰も人が来ない事を確認した上で

この不気味な森を選んだ。


狂気じみた実験をしている

自分には…

お似合いの場所だと思った。


それなのに、

雪のせいだろうか?

昨日までの不気味な森の風景が

妙に綺麗に見える。


目を真っ赤に充血させた

1人の男性が

コーヒーカップをテーブルの上に

置いた。


男女8人で写っている写真が

こちらを見て居る…


男性は小さく頷きながら


「…去年は大雨で…雷が鳴っていたよね…皆んなゴメンね…

1年も待たせたね…

今から迎えに行くからね」

そう言って微笑んだ。


部屋の左隅に、

マシンガンが設置されている。


男性は…

マシンガンと向き合うような形で5mほど離れた

壁ぎわに立つと、

深呼吸を一回した後に


「女将さん、今から僕が言う事を…記録して下さい…」

と言った。


男性の身体は少し…震えている。


「…もしかすると…

これが僕の最後になるかもしれないので…

このメッセージを残して置きたい。


僕の名前はベイ…

生まれてすぐに施設に

預けられたので…

親の顔は知らない。


ベイという名前も施設の先生がつけてくれた名前だ。


施設には18歳まで居る事が出来たんだけど、

僕はその時を待たずして、

施設を出たんだ。


その理由は…

僕が12歳の時、

3人の男の子と

4人の女の子が常に僕の

周りに居たんだ。


それまでの僕は…

出来るだけ人を寄せ付けない

ようにしていた、


いずれ来るでだろう

別れが怖かったんだ。


でも7人は違った…

そう感じたんだ。


体格の大きなボブは10歳で、


目の大きな妹のルーシーは7歳。


機転の働くアンジーは8歳で、


指先の器用な弟のグレイは7歳。


何時も明るいジョニーは9歳。


母性本能が強いリンダは8歳。


そして、常に僕の隣に居る

メリーは、9歳だった。


ある日…

4人の女の子の

里親になりたいと言う

4組の夫婦が

施設にやって来た。


僕達が知らないだけで

半年も前から

話しが進んでいたらしい。


でも、4人の女の子達は

「嫌だ〜」って泣き出して…

結局、引き渡しは次の日に。


夜…リンダはボブにしがみ付いて

泣いてるし、


アンジーはジョニーに、


ルーシーはグレイに、


そしてメリーは僕に抱きついて

「ベイと離れるのは、

絶対に嫌だ〜」

って大泣きをして居た…


何となく…二度と会えないって

感じてたんだろうなぁ…


その後7人は

僕の顔をジッと

見つめていた。


僕はメリーの手を握り…

「よし、8人で暮らそう!」

そう言った後…


寮母さんに

「今まで有難うございました。

そして、ごめんなさい…」

と言う手紙を残して

皆んなを連れて施設を出たんだ。


まず空き家を探して

寝る場所の確保から

「売り家」の看板が立てられている所に忍び込んだ。


次に食料の確保。

お金なんて持ってないので

レストランのゴミ箱をあさったよ。


1年間ほど空き家を転々としている内に、ある事に

気が付いたんだ。


お金持の人達は季節に応じて数週間ほど別荘に行って

家が空き家状態になるんだ。


しかも電気もガスも水道も使える状態になっている。


悪い事だと分かった上で…

僕達は…

その家に忍び込んだ。


冷蔵庫の中には

食料が残っていた。

4人の女の子が料理をしてくれたんだけど美味しくなかった。


しかしグレイ…

まさか君に料理の才能がある

なんて、

皆んなからの「美味しい」

と言う絶賛の声に、

グレイは照れくさそうに

ルーシーに

微笑んでいたな。


夜…ねむたく成って寝室に行くと、とても豪華なベッドがあった。


「飛び込みたい」

と言う衝動にかられたけど、

その家の人達に悪いと

思ったから

そんな事はしなかった。


クローゼットの中にある毛布を

4枚借りて、

フカフカの絨毯の上で…


ボブはリンダを、


ジョニーはアンジーを、


グレイはルーシーを、


そして僕はメリーを

抱きかかえるようにして…

寝かせてもらった。


留守宅に入り込んで一番ありがたく思ったのは、

沢山の本がある事だ。


学校に行けない分どこかで

知識を吸収しとかないと、

世の中で生きて

行けないからね。


本当なら図書館に行きたいん

だけど…

見つかると全員バラバラに

されてしまうから…


さて…自分で言うのは

照れくさいけど、

施設の先生方は僕の事を、

天才だと言っていた。


一度見た文書や、形や、出来事は

全て記憶している。


だから15歳の時には、

世界中の言葉が話せたし、

書く事も出来た。


ただし記憶は出来るけど、

自ら何かを発想すると言うか、

生み出すと言う事は

出来なかったんだ。


ところが17歳の時に1冊の

本に出会い、

僕の頭の中が変わったんだ。


日本人男性の書いた…

「トップシークレット」

と言う題名の作り話で、

作者は田澤と書いてあった。


始めは幼稚でくだらない話だと

思っていたのに

読み進めていく内に

僕の胸の中に

何か熱いモノが込み上げて来て、


その熱いモノが頭に登り…

僕は覚醒したんだ。


自分自身で…

物事を生み出すことが

出来るようになったんだ。


僕が19歳の時に、

これまでの放浪生活に

別れを告げる時が来た。


当時17歳のボブは、

身長が180cm…

顔が若干老け顔だったので、

8人で競馬場に行ったんだ。


1年前からの資料を集め、

全て計算尽くめで答えを出し…

1日で20万ドルを稼いだ。


可哀想にボブは、

緊張しながら換金に行ってたよ。


でも、そのお金で中古の家を

購入し…8人の新生活が

始まったんだ。


始めて自分達の部屋を持った。


ここで自己弁護をして

おきたいんだけど、

僕達は

朝から晩まで、

本能のままにセックスをしていた

訳ではない、


夜はしたけど。


朝の9時から12時までと、


13時から18時まで、


僕は7人に、徹底的に勉強を

強要した。


小学校から大学までの勉強を

4年間で叩き込んだ。


皆んなは…

「ベイは、私達の為に勉強を教えてくれているんだ」

と口では言ってくれていたけど、

たぶん…

嫌われていたんじゃないかな…


生活費は、皆んなにテストをさせている間に僕が株で稼いだ。


でもその生活費の稼ぎ方は

4年間だけの話なんだ、


なんて言うか…人間ってさ、

楽して儲けていると…

なんだか駄目に成るような

気がしてね、


だから4年間の勉強を終えて

僕が23歳の時、

「皆んなで仕事をしよう!」

って言う事に成って

就職活動をはじめたんだ。


20歳になったジョニーは、

オーディションで

ラジオのDJの仕事を勝ちとリ、


彼女のアンジーは、

ジョニーの助手で、

バイトと言うかたちではあるけど、

就職する事が出来た。


18歳のグレイは、

街で評判の高いレストランで…

皿洗いとして雇ってもらい、


彼女のルーシーも、同じレストランでホール係のバイトとして

雇ってもらえた。


21歳のボブは、

ヘビー級ボクサーの道を進み、


彼女のリンダは、ボブのマネージャーとして、

栄養士とマッサージの資格をとって常に一緒に行動していた。


そして4年後…

24歳のジョニーは、

一週間に10本の番組を担当

するようなDJに成長し、


23歳のアンジーも、

常にジョニーの前に座る、

DJのポジションを

勝ちとっていた。


22歳のグレイは、

周りのスタッフが驚くような場所に立っていた。


そう料理長の隣りだ。


レストランに入って2年が過ぎた

ある日、

手にケガを負ってしまった先輩の代わりに、

スタッフのマカナイ料理を作った…それが料理長をはじめ

スタッフ全員から絶賛されたんだ。


それから先…

御客様からのクチコミで

雑誌なんかにも取り上げられて、

気が付けば


「天才シェフ」なんて言われるようになっていた。


彼女であるルーシーも、

持ち前の明るさと、

親切な接客が認められ、

ホールの責任者代理

と言うポジションを

勝ちとっていた。


そして25歳になったボブ…

デビューから負け知らずで

勝ち上がって来た。


当然のように世界チャンピオン

と闘える権利が与えられた。


もう、とにかく僕達は嬉しかった。


試合の数日前、

記者会見が行われれた、

もちろん皆んなで応援に行ったよ。


記者会見の席上

チャンピオンのギンバレー氏は、

ボブに

言葉のバトルを仕掛けて来た。


しかし、

ボブもリンダも記者会見なんて慣れてないので…


「お前のようなチキン野郎は、

俺の靴でもナメていればいいんだ」と言うギンバレーのフリに…


『あっ、靴が汚れているんですね、後で磨かせて頂きます」

そう言って頭を下げた。


ギンバレーは…

(エッ?なに言ってんのコイツ…)と思ったが、気を取り直し…


「お前の母親は、ダラシない女なんじゃないか…」

2回めのフリを送ってくれた。


するとボブは少し考えてから


「私と妹は…

小さい時に捨てられましたので、

親の顔は覚えていません…

チャンピオンのおっしゃる

通りだと思います」


そう言って、また頭を下げた。


ギンバレーは小さな声で

ボブに耳打ちをした


「お前さっきから、

何を言ってんだよ…

目の前のマスコミの人達は、

俺たちの言葉のバトルを

新聞に書きたいんだ。


もっと俺に暴言を吐くか、

何なら、殴りかかって来い」


そう言って…

ボブの目を睨んだ。


ボブは小さい声で

「すみません」と謝った。


ギンバレーは小さな声で

「派手にやろうぜ…」

そう言った後に

ボブの隣に座っているリンダを

挑発した


「ヘイ、あんたはコイツの

彼女かい?

コイツより俺の方が、

あんたを満足させられるぜ…」


そう言ってボブを睨んだ。


ボブは…震える左手でマイクを

持つと…


「女房がいるのに浮気か!」


そう言って

ギンバレーのオデコを

「ペチン」と叩いた。


ギンバレーが(まずい…)

と思った次の瞬間、

会場中は大爆笑である。


それでもチャンピオンは、

会場の雰囲気を立て直そうと

ボブの胸ぐらを掴み…


「俺に手を出すとはいい度胸だな」と言った。


とにかく会場の笑い声を

抑えたいのだ。


ボブにしても

(精一杯…殴り掛かったのに、

何で皆んな笑ってるの)

と思っていた。


ギンバレーは…

「何とか言えよ、コノヤロー!」


そう言ってボブの首を揺すった、

3回目のフリである。


しかし緊張しているボブには、

荷が重過ぎた。


やっと言えたセリフが

「チンコ野郎!

離せ、ウンコ!」

だった。


チャンピオンは慌てて…

「ボブ、やめろ、何を言ってるんだ」と言ったが、


ボブは更に

「お尻にカンチョウするぞ!」

とまで言い出した


ギンバレーが思わず

「子供の喧嘩じゃねえよ!」


その声が裏返っていたので

会場は更に大爆笑になって

しまった。


「バカ野郎、こんな会見じゃ客が集まらないだろう」

そう言ってギンバレーが

うな垂れると…


今度はリンダが立ち上がり


「すみませんチャンピオン!

ボブも私も

記者会見の意味が

分かってないんです」


そう言って深々と頭を下げる

姿が全国のニュースに

取り上げられ…

良くも悪くも話題になった。


試合当日、チャンピオンの

「客が集まらないだろう」

と言う心配は見事に外れ…


会場は5万人の観客で埋め

尽くされた。


ギンバレーとボブの闘いは

一進一退で、どちらも引かず!


互角の戦いが最終ラウンドまで

続き、勝敗は判定に持ち込まれた…

わずかな差で、


チャンピオンがタイトルを

防衛した。


ギンバレーはボブに抱きつき…

「お前って…本当に強いなぁ」

そう言って背中をさすった。


するとボブはすかさず

「今日は、ありがとうござい

ました」

と言って頭を下げた。


ギンバレーは両手でボブの顔を包みながら


「お前は謙虚だなぁ…

ボブ、この間は暴言を吐いてすまなかったな…実は俺も…


親から捨てられているんだ。

親の顔…知らないんだ。

本当にすまなかった」


ボブは目に涙をいっぱい溜めて

ギンバレーを見つめていた。


チャンピオンは更に

「俺は…沢山稼がせてもらったから

チャンプのままで引退するよ…

妻子とのんびり、

田舎で暮らすんだ…


次はお前がしっかり稼いで

幸せになれ」

そう言って…


チャンピオンはボブの左手を取り、高々と上げた…


あたかも次のチャンピオンは

この男だ、

と言わんばかりにね。


その後…家に帰って、

「ボブ、リンダ、お疲れ様でした」

と言う趣旨のパーティーを

開いたんだ。


その前に

僕とメリーの話も

少しはさんで置きたい。


僕は13回も職場を解雇

された。


その時はハッキリ言ってかなり落ち込んだよ、


僕以外のメンバーは、

社会に上手く溶け込み、

周りの人達から評価されて

いるのに…


先生役を演じていた僕が…

本当に参ったよ。


僕が働いていた所は…

全て研究所だった。


未知なる世界の研究は…

毎日が夢のように楽しかった。


でも、研究所の博士達は、

国、あるいは大手企業からの

出資を受けて研究をしていたので…

まぁ…僕のように呑気に、

楽しい、

何て言ってられない

状況だったんだ。


博士達は結果を出そうと

必死だったけど答えが出ない。


ところが僕には答えが分かっていたんだ…それどころか、

ちゃんとした形に作り上げて、

実験も成功している。


でっ、遠回しに助言をすると、

3日後に解雇に成った。


ヤレヤレ…答えが分からないくせにプライドだけは高いんだよ。


一緒に居たメリーは解雇なんて言われて無いけど


「ベイがクビなら私も辞めます」

って、ずーっと僕に

ついて来てくれた。


さて話を元に戻そう、

パーティーの夜…

グレイが、これでもかって言うくらいに料理を作ってくれた。


ボブとリンダは嬉しそうに、

何回も

「ありがとう、皆んな…

本当にありがとう」

って言いながらテーブルに座った。


僕たち8人は満面の笑みで、

お互いの顔を見回した。


なんだろう…

今まで色々な事があったけど、

何とか今日まで…

生きてこれたよな…

そう思ったら…

なんだか涙が出ちゃって…


とにかく僕達8人は

最高にイケてる8人だと思う…

本当に皆んな優しくて、

涙もろくて…よく笑って……」


ベイはここまで言うと

「女将さん…以上です」

そう言って

話しを終了させた。


ベイの遺言的な記録は…

此処までである。


この先に起こるであろう惨劇はあえて言わなかった。


この後の8人は、

本当に幸せな時間を少しだけ

過ごす事が出来た。


22時30分。

いきなり雷が鳴り

雨が降りだした。


幸せな8人にはカミナリさえも楽しく聞こえたのか


「キャ〜怖い〜」何て言う、

冗談まじり悲鳴を上げながら、

4人の女性陣は

自分の彼氏に抱きついた。


鼻の下をのばした男性陣は、

何とも締まりのない顔で…


「大丈夫だよ、僕がついて

いるからね」

と言うようなセリフを…

彼女の耳元で囁いた。


そんな時、

ボブがうっかりスープ皿を床に

落としてしまった。


ベイは笑顔で…

「大丈夫だよボブ…」

そう言って

モップを取りに行ったのだが

少し酔っていたのか

転んでしまった。


メリーは慌てて

「きゃ、ベイ、大丈夫…」

そう言って手を差し出した。


7人はこの後…

この世の中から消える事になる。


暗い夜空がイナビカリによって、

昼間のような明るさに成った…


次の瞬間、


ドッーンガラガラガラガラー

と言う雷の音と同時に、


壁や窓から機関銃の弾が、

8人の身体に浴びせられた。


床に転んでいるベイには

当たらないが…

7人の身体はバラバラになって

吹き飛んでしまった。


たった3秒間の出来事である。


数人の男が機関銃を片手に

部屋の中を覗き込んだ…

血の海である。


「任務完了」

と言う声が聞こえた…

男達は黙って家の外に出て行った。


ベイは嗚咽を抑えながら

起き上がり、

部屋の中を見回した…


7人の血肉がベイの身体に

しがみ付いている…


「ベイ助けて…」


そう言っているように感じられた。


その時である、鼻をつくような

ガソリンの臭い、

それと同時に家は炎に包まれた。


ベイは血の海を這いながら、

ボブと

ルーシーと

グレイの腕…


リンダと

アンジーと

ジョニーの

足を両脇に抱え、


そして、メリーのオデコから頭…

髪の毛を口にくわえて、

地下室に逃げ込んだ。


7人の身体の一部分を

ビニール袋に分けて入れると、

冷凍庫の中にしまった。


ベイの目に涙が溢れてきた…


「いったい何なんだ…

僕達がなにか悪い事をしたか?

昔…

人様の家に忍び込んだ事か?

競馬で勝った事か?

株か?

いったい何なんだ…」


そう呟きながら地下室の

天井を見上げ…


「上にいる男達は誰なんだ

人を殺しても何とも

思わないのか?…」

その時

ベイは急に頭を抱え


「どうしたのかな?頭が痛い…

メリー助けて…」

そう言いながら…

気を失ってしまった。


次の日の、11時30分…

ベイは目を覚ました。


全身に7人の血がしがみ付い

ている…


「…昨日のこの時間…

皆んなは…生きて居たのに…」

そう言いながら

ベイは自分の身体を抱きしめた。


1時間後、

ベイはシャワーを浴びると

地下道を通って外に出た。


直ぐに新聞を買って

自分達の事がどう載っているのかを確かめたかったのだ。


《寝タバコによる火災、

8人の若者が焼死…》

と載っていた。


「…誰もタバコを吸わない…」

ベイは無表情のまま…

そう呟いた。


12月31日の公園は人が少ない

ベイは公園に行き

ソッとベンチに腰を下ろし…


空を見上げながら

頭の中を整理した。


まず自分達を襲った男が

「任務完了」

と言った事である。


大きな組織が絡んでいると思った。いったい何の為に?


…社会の片隅でひっそりと8人で暮らして来たのだ。


そんな時キャチボールをする

兄弟の声が…


「お兄ちゃん、ゆっくりと投げて

速くて怖いよ!」

「ゴメン、怖かった!」


ベイはふと…

一人の博士の言葉を思い出した


「ベイ君…

は頭が良すぎる、

私は少し…

恐怖すら感じている…」


ベイは目を大きく見開き

「あっ…」

と言いながら立ち上がると、

自分達の地下室に急いで帰った。


パソコンの前に座り

「…本当なら犯罪なんだよね…」


国のごく限られた人達しか

アクセス出来ない、

スーパーコンピュータに

ベイは入り込んだ。


世界中の事が

手に取るように分かる

「あった…」

ベイは内容を読んで愕然とした


「僕のせいで、皆んなが

殺されたんだ…」


しかし、

その余りにも不条理な

理由に腹が立ち、

思わず地団駄を踏んでしまった。


13の研究機関の所長達全員が、

国に対して


「ベイ青年は、世の中にとって、

一番の危険分子です、

早々に排除するべきです」


そう言う報告を送っていたのだ。


ベイは怒りで身体が震えた


「…今まで7人には、

「世の中に貢献できる様な

生き方をしよう」


そう教えて来たけど…

違うな…

僕は間違っていたんだ…


ふざけんじゃねぇぞこの野郎!

よく分かったよ国のやり方が!

それならそれで結構だ


覚えていろよ、

絶対に…復讐してやる!」


そう言ってベイはその日から

行動を開始した。


まず自分の預金と、

7人から預かっている預金の

全てを下ろし、

中古のサルベージ船を

手に入れた。


そこに自分が今まで作り上げてきた3台のマシンを積み込むと、


何のためらいもなく出航し、


何のためらいもなく財宝を

引き上げ、


何のためらいもなく、

競売形式で売りとばした。


ベイはちゃんと知っている、

引き上げた財宝を勝手に売り飛ばしてはいけない事ぐらい、


しかし、

わざと悪い事をしたいのだ、


「誰も拾えない物を拾っただけだ!勝手に売り飛ばして何が悪い!

法律など…クソ喰らえだ!」


そう声を荒げて

怒鳴りたかったのだ。


3カ月の間に、

812点の金銀財宝を海底から

引き上げ、


ネットで世界中の金持ち相手に

競売形式で売り飛ばし…


何と、550億ドルの利益を

上げたのである。


ベイはニンマリと微笑みながら

次の行動に入った、

船の製作である。


其れはかなり非常識な船で、

ベイの頭脳をフル稼動させて設計した物である。


本来なら造船所で骨組みから

作り出すのだが、

ベイの作り方はかなり違っていた。


まず、縦横3m四方の

AIマシンを創り上げ、

女将(オカミ)と言う

名前を付けた。


そして一週間後…

縦2m、横4m、長さ6mの

AIマシンを創り上げ、

匠(タクミ)と言う

名前を付けた。


ベイは2つのマシンに向かい…


「女将さんと匠さんは…

仲の良い、

愛し合っている夫婦なんです、

忘れないで下さいね。


ところで御二人に、

お願いが有るんです、

こんな船を造って貰いたいんです」


そう言って2人の中に

小さなチップを入れた。


「よろしくお願いします」

そう言ってベイが頭を下げると、

女将の身体に


《カシコマリマシタ》

と言う文字が浮かび上がった。


ベイが微笑むと…

匠は女将の身体をソッと

自分の上に乗せた。


その後2人の身体が急に青く

光り出すと、

アッと言う間に

空の彼方に飛んで行った。


そして、

ベイが最後に取り組んだのは…

亡くなった人を生き返らせる

マシンである。


自然の摂理に逆らった

悪魔的な物である事は…

百も承知で創り上げた。


大切な人を取り戻す為には、

もう後戻りが出来ないのである。


そして話しは始めに戻り…


今日、12月30日…


午後12時15分。


いよいよ決行の時が

来たのである。


「皆んなは、僕の為に殺されたんだ…痛かっただろうな…

僕も今から…

皆んなと同じ苦しみを

味わうからね、


女将さん、匠さん、

お願いします!」


「お帰りをお待ちしております」


女将がそう言い終わると…


匠が、遠隔操作でマシンガンの引き金を引いた。


「ダッダダダダ…」

と言う音に合わせて、

ベイの身体は左右に振られ…


蜂の巣状態の身体は

床に叩き付けられた。


しかし、魂の方はと言えば、

ものすごい勢いで

上に引き上げられ,

長い雲のトンネルの中に引き込まれて行った。


(…必ず皆んなの居る場所に

行けるはずだ…)


ベイがそう思っていると

前方が明るくなり始め…

そして、

雲の大地とも言いたくなるような

場所に降り立つ事が出来た。


人も、動物も、木も、丘も…

見渡す限り白の世界と言った

感じである…


ベイは周りを見回した。


蘇らせるマシンは、

10分後に作動する。


急いで7人を探さなければ

いけない…

ベイは思わず…


「メリー!

ボブ!

リンダ!

ジョニー!

アンジー!

グレイ!

ルーシー!」と叫んだ。


その時である、後ろから

「ベイ…」と言う声が…


ベイが振り返ると

目に…

涙をいっぱい溜めたメリーが…

両手を広げて立っていた。


ベイは一瞬にして泣き崩れ、

つまずきながら…

必死で駆け寄り、


メリーを力強く抱きしめた


「メリー、メリー、僕のメリー…

会いたかったよ、

メリー愛してるよ、メリー…」


そう言いながら、

何度もキスをした。


「ベイ…私も…会い…たかった…」


メリーも言いたい事があるのだが、ベイのキスが激し過ぎて、

しゃべる事が出来ない。


その時、ベイの肩を、

申し訳なさそうに「ポンポン」

と叩く一人の男性がいた。


ベイはメリーを抱きしめたままで

振り返ると、

ニッコリと微笑むボブが

立っていた。


リンダも

ジョニーも

アンジーも

グレイも

ルーシーも、

皆んなが優しく微笑んで居る…


ベイは上を向いて絶叫した。


全てが上手くいったと

確信したからである。


ジョニーが

「ベイ、ゴメンね、

メリーとのキスを

邪魔しようなんて、

少しも思ってなかったんだけどさ、

このキスって、

終わらないじゃね

って思ってさ」


皆んなは笑い出してしまった。

ベイは…


「皆んなに会えて良かった、

そしてゴメン…

皆んなが殺されたのは

僕のせいなんだ。


奴等は僕を殺しに来たんだ、

なのに、

皆んなが殺されちゃって…」


するとグレイが

「殺されたのが僕達で、

本当に良かったです。


ベイが生きていたから

僕達を迎えに来れたん

ですよね」


「えっ?何で知ってるの…?」


リンダは微笑みながら

「私達、

死んだあとに7日間

ベイの側に居る事が出来たのよ。


ベイは毎日怖い顔で、

絶対に復讐してやるって

言った後に…


私達の身体の一部に向かって


「待ってて…必ず蘇らせるから、

迎えに行くから」

そう言ってくれていたでしょう…」


するとアンジーが…

「私達とっても嬉しくて

泣いちゃって…

ベイなら絶対に私達を

生き返らせてくれるって…」


ボブは頷き…

「ベイ、謝らなくていいんだよ」

そう言ってくれた。


しかしベイは

「でも僕は…

皆んなの人生を終わらせて

しまったんだよ、

皆んなの戸籍も

消されちゃってるんだよ」


すると

ルーシーが微笑みながら


「…私達はベイ先生にずっと育ててもらって…


ベイ先生が居なかったら…

寒さに凍え

飢えに苦しんで、

もっと早くに

死んでいたと思う…


だからお兄ちゃんが言った通り、

謝らないでください。


皆んなでまた…

一緒に暮らせるだけで、

私達は本当に幸せですから」

そう言ってくれた。


皆んなも笑顔で頷いている。


ベイは申し訳なさそうな顔で

「皆んな…本当にありがとう…」

そう言って頭を下げた。


その時である、

ベイ達の周りに30名の人が

集まって来た。


生き返る、という言葉に反応したようである。


50歳位の女性が…

「あの、すみません、私も生き返らせてもらう訳には行きませんか?

寂しがり屋の主人を、

置いて来てしまったんです…」


後ろに居た40代の男性も

「私の妻は、他の男と何処かに行ってしまい、

2人の子供はまだ学生で

私が居ないと、

路頭に迷うんです、

お願いします、私も生き返らせてください」


すると、横に居た30代の男性も…

「産まれたばかりの子供と、

妻を置いてはいけないんです…」

そう言って涙をこぼした。


ベイが(どうしたものかなぁ…)

と思案している時、

小さな女の子がリンダを見上げるようなかっこうで


「パパとママが、ずっーと泣いてるの、私が死んじゃったから…」


ベイは周りを見回しながら…


(30名以外の人達は、

僕達の事を気にしていない…

自分の死を受け入れているん

だろうか?


それにしても困ったなぁ…

もう直ぐマシンが作動する

頃だろうし…)

そう思っていると、


メリーがギュッと手を握って来た、見れば唇を噛み締めて、

涙をこぼしている。


ボブもリンダも

ジョニーもアンジーも

グレイもルーシーも…


(何とかして上げて…)

と目が語っている。


ベイはふと思った…


(一年前…僕は復讐を誓った、

誰に対して?


…皆んなを殺した奴らか?


…其れとも殺すように、

命令を出した奴らか…


いったい何に対して僕は復讐しようと思ったのか…)


その時である、

ベイ達の身体が光り出した…


周りにいる30名は

(この人達は本当に生き返るんだ…自分達は、連れて行って

もらえない…)と思った。


でも…

「お願いします、お願いします…」と言う言葉が、自然と口から出てしまうのだ、


それだけ、

置いて来てしまった家族の事が

気に成るのである。


その時、ベイが大きな声で叫んだ


「時間がないんだ!

皆んな、僕に顔を見せて!

覚えて、必ず後で迎えに来るから」


するとボブが自分の肩の上に

ベイをヒョイと乗せた


「皆んなの顔…見えるかい」


「ありがとうボブ、

よく見えるよ…」


ボブはベイの視線の先を見ながら、ゆっくりと身体を回して行った。


周りにいる人達も、ベイに向かって

必死に顔を突き出した…


「よし全員の顔を覚えた、

ボブありがとう…」


ボブがソッとベイを下に降ろすと

同時に8人の身体は光りに

包まれた。


ベイは早口で

「大丈夫だから、必ず迎に…」

そこで8人の姿がパッと消えた。


30名の人達は、お互いの顔を見合わせた。


小さな女の子が

「パパとママに、

もう一度会いたいなぁ〜」

そう言って涙をこぼすと…


50代の女性が

「きっと迎えに来て下さるわ…

信じて待っていましょうよ」

そう言って少女の頭を撫ぜた。


生還した8人は

奇声を発しながら喜んだ。


ジョニーが…

「すごいなぁ…亡くなった時の服を着ている…

肉体だけではなくて、洋服までも…

やっぱりベイは天才だね」


ベイは首を横に振りながら

「間抜けな天才だよ!

皆んなが殺される前に

行動を起こすべきだったんだ。


もう二度と皆んなが襲われない

ように、

万全の設備を整えたからね。


さて…

喜びのパーティーを直ぐにでも開きたいんだけど、

あの世で待っている人達を、

先に家族の元に帰して

上げたいんだけど、

いいかな…?」


そう言って皆んなの顔を見回した。


するとボブが

「いいに決まっているじゃないか!

皆んながベイを待っているよ」


他のメンバーは…

笑顔で親指を立ててくれた。


子供の頃に8人で決めた

(了解しました)と言う、

サインである。


ベイは微笑みながら


「スクリーンを出して」

と言った。


7人は…

(えっ、急に…独り言)

と思っていると、

窓の前に突然大きなスクリーンが

パッと現れた。


7人が、

(おっ、スクリーンが…)

そう思った次の瞬間…


ベイの肩に15cm程の

半透明な球体が浮いている。


ジョニーがドキドキしながら


「ベイ…なんか浮いてるよ…」

と声をかけると


「あっゴメン、驚いた。

自由自在に形を変えられる…

通称〈フリー〉って言うんだ」


ジョニーは一瞬

(えっ〜!そのまんまの名前かよ)

と思ったが、

「覚えやすい名前が

一番いいよね…」

と言って微笑んだ。


フリーはベイの頭の上に移動すると「…ベイ博士、ご用件をどうぞ」

と声を出した。


7人は思わず

(おぉ〜喋れるんだ…)

と思った。


「フリー、いま僕の頭の中に、

30名の顔が記憶されているんだけど…その人達の顔と住所を

スクリーンに映し出して

くれるかな」


「了解しました博士…

お待たせしました!」


スクリーンには30名の、

顔と住所が…


(えっ、1秒、わずか1秒…)

7人はベイに拍手を贈った。


ベイはハニカミながら、

「皆さん、静粛に、

いま居るこの場所は

一見何処かの古い建物だと思っていませんか?」


皆んなは、窓の外の景色を

観て居るので


(何処かの森の中に建って居る

建物だよね)と思い…

小さく頷いた。


ベイは

「フリー、船を本来の姿に戻して」


「了解しましたベイ博士」


皆んなが(…船…⁇…)

と思っていると


部屋の壁が下に下がり、

それと同時に机や椅子や

パソコン、

全ての物が床の下に

消えて行った。


そして、

目の前に現れて来たのは…

「えっ〜!まるで映画に出てくる

宇宙船みたいだ!」


最初に奇声を発したのは

グレイである。


左右の壁には色々な計器類が

光って居る…


ボブもジョニーも目を輝かせて

周りを見回している、


男性は宇宙船が大好きである。


グレイは満面の笑みで

「ベイ博士、すごい船ですね、

もしかしたら空を

飛んだりするんですか?」


「どうしたのグレイ、

博士なんて呼ばないで、

何だかくすぐったいよ」


すると横からボブが

「あの…ベイ博士…」


「おーいボブまでどうしたんだい」


そう言って笑い出すと…

ボブは真剣な表情で


「いや、あの…実は一年間…

皆んなで話し合っていて…


昔からベイ、って

言いにくいんですよ…

だって

俺達に色々な事を教えてくれる

先生で、

その上に、

生活を守ってくれる

父親的な存在で…


本人を目の前に

照れくさいんだけど…

皆んなベイ博士の事を

尊敬しているんですよ、


俺達と同じゃないんです。

目上の人なんです。


だから、

出来れば今から、ベイ博士って

呼ばせて貰えると…

気持ち的にすごく嬉しいんですけど、ダメですか?……」


ベイは7人の顔を順番に見た、


誰もが

(お願い、博士って呼ばせて…)

そう言うような顔で

ベイを見つめている。


ベイは内心(やれやれ…)

と思った後に


「分かった、

いいよ皆んなが

呼びやすい呼び方で…

ただし、メリーだけは駄目」


するとリンダが笑いながら

「そうよね、メリーは駄目よ〜」


メリーが小さく首をかしげると

「あぁメリー……

ルーシーが、グレイ料理長、

なんて言わないでしょう、


メリーはいつも通り、

「ベイ抱っこして、甘えっ子したいの」でいいのよ」


はにかむメリーの肩を…

ベイはギュッと

抱き寄せながら…


「皆んなが僕の事を

そんな風に思って

くれているなんて…

ありがとう。


アッ!…

さっきのグレイの質問だけど、

この船は飛ぶよ!」


7人は満面の笑みを浮かべ

ながら親指を立てた。


ジョニーは

「でわ皆さん、今日から

ベイ博士と呼ばせて貰える事になりました。

さてベイ博士、

この後…私達は

何をすればいいでしょうか?」


「今から…30名の人達をこの場所に呼ぶので、その方達の死因を聴いて欲しいんだ…」


「了解しました博士」


ベイは頷きながら

「フリー、友達を頼むよ」

と言った。


すると床の下から、

高さが1mで、3m四方の白い台が

上がって来た。


7人が…(…友達ってなんだ?)

そう思っていると、


ベイが何やら両手を動かして、

操作をしているように見える。


ベイの手元に7つの球体が現れた、7人が(…おぉっー)

と思っていると、


ベイは

「皆んなのフリーだよ…」

そう言って微笑んでいる。


7つの球体はファ〜と浮いて、

グレイとルーシーの肩に、


ジョニーとアンジーの肩に、


ボブとリンダの肩に、


そしてメリーの肩に着いた。


ベイが

「フリーは、皆んなを護ってくれるんだよ」と言うと


7体の球体がいきなり


「ボブ様、よろしくお願いします」


「リンダ様、

よろしくお願いします」

と挨拶をしてくれた。


7人が「可愛い〜〜」と絶賛している様子を見ながら…

ベイは次の操作に入った。


5秒ほどすると、

7人が立っている後ろの薄暗い

場所に30脚の椅子が

上がって来た。


7人は振り返りながら(おお〜っ…)と思った次の瞬間、


部屋の中が一気に明るくなった。


「えっ!広い!」

声を上げたのはジョニーとアンジーである。


2人は狭いスタジオの中で仕事をしていたので、

広い空間には慣れていない

ようである。


デッキの中の広さは

縦6m、

横60m、

奥行きは35mある、

驚いても無理はない。


グレイがボブに

「凄すぎない…この船」


「あぁ…でも俺は好きだなぁ〜、

ジョニーはどうだい」


「もう、さっきからテンションが

マックスだよ」


そう言って笑っている、

その時…

椅子の所がフアッーと明るく

なった。


7人が 「エッ…⁈』

と思った次の瞬間

30名の人達がパッと現れた。


30人はベイ達の顔を見ると、

一斉に歓声を上げた


「キャァー本当に家族の元に

帰れるんだ!」


…信じて無かったようである。


「マジで生き返れるの?

良いのかな?」


…自分が頼んだのに、

今さらである。


誰もが喜びながら不安を

抱えている…

無理もない話しである。


本来、死んだ人間は

その段階で

諦めなければいけない、

悲しい事だが自然界の掟なのだ。


其れを生き返るなんて、

自然の摂理に逆らった

悪魔的な行為で有り

滅茶苦茶な話である。


しかしベイは…

そんな事を

一切気にもとめず、


30名の人達を家族の元に…

たった2時間で、

まるで

宅急便の様なスピードで

送り届けてしまったのである。


家族の元に帰った誰もが

本当に喜んでいた。


泣きながら御礼を言う人…

中にはベイに抱き着く人まで居た。


ベイは心の中で…

(…30名の人達は本当に

死ぬのが早過ぎたんだよね…


死ぬ事に納得が

出来なかったんだよね、


よく分かるよ、僕だって

「冗談じゃない、このまま黙って、

皆んなを死なせてたまるか」

って思ったもん…


でも…あの時、

30名以外の周りに居た人達は…

自分の死を…

受け入れていたのかな…?)


そんな事を考えていた。


現在船は…

大西洋の上空

5000mの位置を漂って居た。


窓の外には

綺麗な夕陽が見えて居る。


ベイは…7人の顔を順番に見ながら


「みんな、ご苦労様でした、

そしてゴメンね

生き返った瞬間から働かせて…

怒ってる…?」


するとリンダが

「怒っている訳ないじゃ

ないですか、むしろ何だか…

心も身体も喜んでる、

って言う感じですよ」


するとルーシーも

「私も…リンダと同じような気持ちなの、なんだか心が

ワクワクしている感じ…」

と言った。


そんな2人の後に

「私も同じ意見よ…

ベイ博士から急に、

家族の方達に

「生き返る事の説明を宜しく」

って言われた時は

ビックリしたけど、

でも

ドキドキしながら楽しかったわ」

そう言ってアンジーが

微笑んでくれた。


するとジョニーが

「まあ、僕とアンジーは

言葉を如何に

相手に優しく伝えるか、

って言う仕事だったからね〜」


そう言って微笑むと、


横に居たボブが、

ボクシングのファイティングポーズをとりながら


「俺は人を殴る仕事だったから、

あんまり皆んなの役には…

たてそうもないな」

と言った。


そのセリフを聞いたグレイが


「なに言ってるんですか、

30名中、26人の人達が、

あっ〜ボブ選手だ〜、

握手して下さいって、

言われてたじゃないですか、

メチャクチャ役に立ってますよ」


「えっ、あんな感じでいいの?」

7人は笑顔で、

親指を立ててくれた。


するとメリーが…


「あのねベイ…」

「なぁにメリー」


「私…座りたいんだけど

駄目かしら?」


「あっ〜ゴメン!…皆んなも座りたかったよね。

フリー…ゆったりとした

ソファーを出してくれる」


「かしこまりましたベイ博士」


床から、2人掛けの白い

ソファーが出て来た。


8人は「ふっ〜〜」と言いながら

腰を下ろした。


ベイ以外の6人は、

メリーに向って

(ありがとうメリー)

と言うような感じで、小さく…

ウィンクをおくった。


昔からベイは、

此の手の気配りが苦手である。


悪気などは一切ない、

だから少し困った事になる。


少し昔の話である…

ベイが皆んなに勉強を

教えていた時の事、


真剣に教えるあまり、

食事も取らずに

講義を進めて行った事がある。


誰もお腹が空いたとは

言えなかった。

自分達の為に

勉強を教えてくれている…

そう思っているからである。


その時メリーが

周りを見回しながら


(…私の大好きな人は、

細かい気配りが出来ないんだ…

困ったなぁ、

皆んな…お腹が空いて

倒れそうだよ〜、どうしよう)

と思っていた。


その時…

「えっ〜と、今までのところで

何か質問は無いかなぁ」

とベイが聞いてくれた、


するとメリーはサッと手を上げ…


「ベイ先生、お腹が空きました。

ベイお願い…

ランチタイムにしましょう…」

と、甘えるように言ってくれた。


するとベイは初めて皆んなの

顔色を見て…


「わっ〜!皆んな、ゴメン。

気が付かなくて、

直ぐに食事にしよう」


と言うような感じであった。


その日を境に、

天才ベイ博士の操縦は、

甘えっ子メリーの

大事な仕事と成った。


ソファーに座ったメリーは


「ねぇベイ、喉が渇いたの…

何か飲み物を…いいかしら」


「ゴメンねメリー。

皆んなも…本当にゴメンね。

僕は、相も変わらず気配りが

出来なくて…

皆んな、自分のフリーに、

メニューって言ってみてくれる」


7人は(…?)と思いながら


「フリー、メニューを…」

と言ってみた。


すると…丸いフリーが、

パッとメニューになって

目の前に浮かんでくれた。


(…スゲ〜…)

と皆んなが思っていると

ベイは微笑みながら


「一応、水から始まって、

コーヒー、紅茶、ジュース類、

アルコール類、カクテル類…

なんて言う感じで、


300種類の飲み物が、

用意出来るように成って

いるんだよ」


するとボブが嬉しそうに


「フリー…冷たいビールを、

メーカーは君に任せるよ」


「かしこまりました」

言い終わった時…

ボブの足元から60センチ四方のテーブルが現れ…


その上には…

よく冷えたビールが乗って居た。


7人が感動のあまり

「おぉっ〜〜スゲ〜」

と言う声を出すと、

ベイは


「飲み物と、おつまみと、軽食は自信を持って提供で出来るんだけど…

大事な夕食は、

グレイ…皆んなの専属料理長を

頼んでもいいかな?」


そう言ってグレイの顔を見つめた。

グレイは

「いいに決まってるじゃないですか、任せて下さい」

そう言って

親指を立ててくれた。


8人の前に…

飲み物が上がって来た。

ルーシーがグラスを持ち上げると


「ねぇ、皆んなで乾杯をしない、

私達8人の「新しい生活に」

ってどうかしら?」


全員が満面の笑みで賛同し…

グラスを高く掲げる事にした。


ビールを一気に飲み干したボブが


「ふっ〜美味い!

ところでベイ博士…

僕達の家は…あの後

どうなったんですか?」


「…焼け落ちて跡形もないよ…

土地も市の管理下にあってね…」


「なるほど…だとすると

また皆んなで競馬場に行って、

ガッツリ稼いで…家を買う

って言う感じですか?」


「違うよ…地上は危ないからさ、

この船の中に…

皆んなの部屋を

用意してあるんだ」


その言葉に

7人の目の色が変わった。


ジョニーが少し興奮気味に

「…かなり嬉しいんですけど」


他のメンバーも、

満面の笑みで頷いている。


ベイは

「フリー…

皆んなの部屋の入り口を出して」


「了解致しました」


そう言い終わった次の瞬間、

奥行き35mの後ろの壁が

パッと無くなり、


縦6m、

横幅10m、

奥行き100mの廊下が現れた。


皆んなの呟き声が

揃ってしまった

「…マジか…」

呆然と立ち尽くす7人…


長い廊下の間に…

左側に8部屋、

右側に8部屋と…

計16部屋の扉がある。


ベイは微笑みながら

「扉に…皆んなの名前が刻まれているからね、

2人で一部屋だよ。


残った12部屋は…

予備の部屋っていう事だよ」


「見に行ってもいいですか?」


そう言ってリンダが立ち上がると…


「もちろん、ボブとリンダが今夜から生活をする部屋だからね」


他のメンバーも嬉しそうに

立ち上がると廊下の方に

走って行った。


ボブとリンダは、

扉のネームプレートを指で

ナゾって微笑んでいる。


ジョニーとアンジーは、

廊下の奥まで探検に

行ってしまった。


グレイとルーシーは、

扉のノブが無い事に首を

傾げている。


メリーはベイに手を引かれ…

扉の前に立った


「メリーと僕の…

2人の部屋だよ…

気にいると良いんだけど」


「…私は…ベイと一緒なら何処だっていいのよ…」

そう言って、

ベイの首に両手を回した。


ベイはメリーの

お尻を抱き締めながら


「皆んな、ちょっと聞いてね。

部屋に入るための鍵は、

その人自身なんだよ、

他の人が黙って入れないように

してあるんだ。


もしもボブとリンダの部屋に

ルーシーが入りたい時には

扉の前で…


「ルーシーだけど、話があるの」

って言うと、一枚目の

扉が開いて、

中に居るフリーが


「どうぞ、お入り下さい」

って言うか、


「申し訳ありません、

ただいま御取り込み中ですので、

メッセージを私に

お聞かせください」

って言うんだよ」


すると奥から戻って来た

アンジーが


「ベイ博士…あの〜、

同じ船の中に住む私達が

少し他人行儀過ぎないですか?」


…さり気無いクレームである。


ルーシーもリンダも

小さく頷いている。


ベイの表情は笑顔ではあるが…

内心は…


(困ったなぁ…

御取り込み中の意味が

セックスの事だなんて

言いづらいなぁ…)

と思った…

すると感の良いジョニーが

笑いながら


「もっ〜、皆んな…

ベイ博士は、プライバシーを守る為に、扉に一工夫して

くれたんじゃないか。


ルーシー、

いきなりボブとリンダの部屋に

入って、お兄ちゃん達の

SEXを見ちゃったら

気まずいでしょ…」


女性陣は「あっ!」

と言う声をもらし、

顔を赤く染めながら


「…ベイ博士…ゴメンなさい」

と口々に謝った。


ベイは首を小さく横に振りながら


「皆んな、自分達の部屋に入ってみてよ、そして今から、

そうだなぁ〜2時間後に…

デッキに集合と言う事にしよう、

解らない事は、フリーに聞いてね」


そう言って、

ベイはメリーを抱き上げ

部屋の中に入って行った。


ジョニーはアンジーの顔を見つめ

「さあ行くよ、

僕から離れちゃいけないよ!

なんてね、

洞窟の探検じゃあるまいし、

驚くことなんて何も無いよね」


そう言いながら、

それぞれが自分達の部屋に

入って行った。


誰もが驚かない、その予定だった。


2時間後……

デッキに集まって来た6人は、

明らかに動揺を隠せない表情になっていた。


ベイは、皆んながソファーに座るのを待ってから声をかけた。


「皆んな、部屋の中は気に入ってもらえたかな?」


…誰も何も言わない。

ベイは首を傾げ…


「ボブ…部屋は気に入らなかったのかい?」


ボブは首を大きく横に振りながら

「いや、余りにも凄すぎて…

嬉しさのあまり、

腰が抜けそうで…

感動して、泣きそうで…

思わず大声を出しながら

リンダを抱きしめちゃって。


今ちょっと目まいがしていて…

身体中の力が抜けちゃって…

ベイ博士、俺いま変な顔をしてるでしょ…」


ベイは首を傾げながら

「大丈夫だよ変じゃないよ。

部屋の事なんだけど、

それぞれ自分達の好みって

あるでしょ…


だから、皆んなの要望に応えられるようにね、

色々な物を、各10種類ほど買って置いたんだよ、


後は2人の好みに合わせて、

フリーに言って貰えれば、

色々なパターンに部屋を

模様替えをしてくれるから…

楽しいでしょ…」

そう言って微笑んだ。


するとジョニーが、

皆んなの顔を見回しながら

ゆっくりと立ち上がり


「ベイ博士…誤解しないで聞いて

下さいね。

皆んなの表情がチョット変なのは…

この4時間くらいの間に起こった…全ての出来事が

余りにも凄すぎて…


だって、今日生き返って

マジでスゲ〜って思っていたら

フリーが出てくるわ、

船は飛ぶわ、


30人の人達を生き返らせるわ、

ソファーは出てくるわ、

飲み物は出てくるわ、

もう驚きの連続で…


それでも何とか平静を装っていたんですよ俺達…

でもさっき部屋の中に入って…

フリーに

「部屋の中には何もないんだねー」って言ったら…


「どのような御部屋が

お望みですか?」って聞かれて、

アンジーと2人で夢のような部屋の理想を言ったら…


ベッド、ソファー、クローゼット、テーブル、絨毯、照明って

色々な物が床や壁や天井から

次々と現れて、


気が付けば雑誌に載っているようなオシャレな部屋が目の前に…


もう嬉しくて、

泣くしかないじゃないですか。


子供の頃、

食べ物を探しに

男4人でゴミ箱をあさっている時…

ボブが

「やった、これは食えるぜ」

って言ったらグレイが

「うん、チョット火を入れたら食べれるよ」って…


そしたらベイ博士が…

「ゴメンね、待っててね、

必ず皆んなに良い生活を

させるからね…」

そう言ってくれて…


調子のいい俺は

「ベイについて行くよ、

皆んなで絶対に幸せに成ろうね」

って言いながら…


俺…本当は心の中で

(…俺達8人は、ずっとゴミ箱を

あさって生きて行くんじゃ

ないだろうか?


学校にも行けなくなって

いるのに…)

そう…思ってたんです…


でもベイ博士の頭の良さで…

競馬場で大儲けして、

家を買って貰って、

さらに、

大学までの学力と教養を

与えてもらって…

就職も出来て、


おっ〜幸せな感じに成って来た〜

って思っていたら

死んじゃって、

自分の遺体を上から見ながら


「あぁ、やっぱりなぁ〜、

やっと幸せになって来たのに

最後はこんな死に方なんだなぁ、

俺達らしいのかなぁ…

悔しいなぁ…

でも、皆んなと一緒だからいいや」

って思っていたら…


今日、ベイ博士が迎えに

来てくれて、

ビックリする事の連続で…

でもこれ以上驚く事なんて

もう無いと思っていたのに…」


ジョニーの目から涙が溢れ…

とうとう言葉のプロが、

言葉を詰まらせてしまった。


アンジーはジョニーを

抱きしめながら


「ベイ博士…素敵な御部屋をありがとうございます、

本当に嬉しくて…

皆んな

ベイ博士の事が大好きです。


今日からまた、

あらためて宜しくお願いします。

私達はズッ〜とベイ博士に

ついて行きます。

言いたい事は以上です」


そう言ってアンジーは更に強くジョニーを抱きしめた。


ベイはメリーの手をギュッと握り、そして皆んなの顔を見回した後…

スッと立ち上がると

頭を下げた。


「今アンジーから、

ついて来てくれると言う言葉をもらいました…

本当に嬉しいです。

しかし、一年前から僕は…

かなり悪い事をしています、


国の法律を守らず、

自然の摂理に逆らう様な

悪い事です。


僕は今まで

「社会に貢献できる正しい

大人に成って下さい」

って皆んなに言って来たのに、


先生である僕が間違った道に…

もうすでに、歩き出しています。

悪人の道ですよ。


いいんですか?こんな僕で…

僕は以前の正しい僕ではありませんよ、悪い男ですよ」


すると間髪入れずに

「ベイ博士が悪人に成るなら…

俺も悪人に成ります!

死ぬまで着いて行きますから!」

と泣きながら叫んだのは

ボブである。


「僕も今まで、牛や豚や魚しか殺した事がないけれど…

ベイ博士が望むなら何だって殺ってやる!」

とグレイが叫ぶと…


「私だって銀行や警察を襲えって言われたら何時だってやるわよ」

とリンダが続けた。


「私だって拳銃の扱い方くらい知っているわよ」

とルーシーが言えば、


メリーはベイに向って

「ボス…何でも言って下さい!」

と言った。


ベイは「ぶっ…」と噴き出しながら「ありがとう…皆んな、

一緒に地獄に連れて行く事に

なるけどいいの?」

と言うと…


7人はギラギラとした目で

親指を立てて見せた。


嬉しかったのだ、

ずっと頼ってきた人から

必要とされている事が…

だから、

ベイと一緒なら

地獄の底までついて行ってもいい、心の底から

そう思ったのである。


ベイは笑顔で頷きながら、

ゆっくりと腰を下ろした。


その時ジョニーが静かな口調で

「ベイ博士…

具体的にどんな事をすれば

いいのか、

聴かせて貰えると、

嬉しいんですけど…」


「あぁ、そうだね…」


ベイがどの様な答えを言うのか?

7人の胸はドキドキと

鼓動を打って居る…


「簡単に言えば……

今日30名の人達を生き返らせたでしょ…あんな事です」

と言った。


7人は顔を見合わせ…

「えっ…?…えっ?」

と声を出してしまった。


リンダがボブの耳元で…

「あれって…悪い事なの?」


「えっ〜と、どうなんだろ〜、

まず生き返らせたでしょ、

次に経済的に大変な人達には、

お金もあげていたけどね〜」


「…たしか23人の人達にあげてたわね、ベイ博士の言う、

悪い事の基準が

分からないんだけど」


そう言ってリンダが笑うと、

ベイが…


「んっ?リンダどうしたの、

僕の表現の仕方が可笑しかった

のかな?」


「はい、かなり…

だって私達には悪い事と言うよりも、人助けに見えましたけど」


「あっ〜〜見た感じがね〜

実は…差し上げたお金は…

僕が海底から引き上げた

船や財宝なんかを

世界中の金持ちに勝手に

売り飛ばして、

それで得た、お金なんだよ、

いわゆる、汚いお金ってヤツだね」


7人は顔を見合わせて…

(別に良いんじゃないかな…)

と思った。


ベイは更に…

「其れに、死んでしまった人を生き返らせてしまうなんて、

道徳的にも、宗教的にも、

因果の法則からいっても

良くない事だと

思うんだ。


でもさ、どうしても納得が

出来なかったんだ、

僕達8人で頑張って生きて

来たのにさ

何で暗殺されなきゃいけないのか?


次の日にね、

街を歩いていたら全然知らない

人達がさ

僕達の記事を新聞で読みながら


「気の毒にね、でもきっと神様が与えられた試練なんだよ」


だってさ…、

「待って待って、何の試練、

殺されたんだよ僕達は…

人生が終わったんだよ、

もうやり直しは出来ないんだよ。


あえて僕は罰当たりな言い方をするけど、神様なんて、

いないと思った。

全然助けてくれないじゃん。


だから僕が出した答えは

神様の邪魔をしてやろうって

思ったんだ。


むかし読んだ、

日本の小説で、

田澤と言う人が書いた、

トップシークレットって言う

作品の中にさ…


「神様が助けてくれる

なんて思わない方がいい、

何にもしてくれないから、

なのに、後になって、


其れは、貴方が成長する為の

試練だったのです、

そう誰かが言いに来るんだ。


後付けの理屈を

ドヤ顔で言われてもね…

何だかね」

って言う一行があってさ。


その言葉が妙に

心の中に残ってさ、

思わず納得しちゃったんだよ。


以前の僕は…

本当に世の中に貢献できる人に

成ろう…そう思ってた。


でも、大事な人を殺された時にさ、

いつの間にか

悪魔に魂を奪われてしまってね…

僕は心が弱いんだね。


そんな考え方の僕に…

ついて来てくれるのかい?」


7人は満面の笑みで、

もう一度親指を立てた。


しかし内心は…

(いや〜良かった〜

人殺しや、銀行強盗や、世界征服なんかじゃ無くて。


ベイ博士の価値観ってチョット変わっているんだよなぁ〜)


と思いながら

胸を撫で下ろした。


自分の想いを受け止めてもらった

ベイは、

満面の笑みでメリーの手を握った、するとメリーは

その手を自分の胸に包み込み…


「もう皆んなと

ズッ〜と一緒だから安心してね。

ねぇベイ…安心したら私…

お腹が空いちゃったんだけど…」


「わっ!ゴメン、

皆んなもゴメンね、

またやっちゃった、

何で僕は機転が働かないのかな?

グレイ、すまないけど

食事の方…お願い出来るかい」


グレイはとびっきりの笑顔で

「ベイ博士、了解しました。

ルーシー、僕らの出番だよ」


そう言って立ち上がると

自分のフリーに向かい

「僕達をキッチンに案内してくれるかい」


「かしこまりましたグレイ様。

あの…フリーは私を含めて

8体おります、

間違いを防ぐ為に、

今から私の事を…

フリー・グーと呼んで下さい。

キッチンにご案内します」


そう言ってグレイの肩から

フワリと浮いた。


ルーシーの肩にいるフリーも…

「ルーシー様、私の事は

フリー・ルーとお呼び下さい」

そう言ってニッコリと微笑んだ。


するとルーシーは、

大きな目を更に見開き


「ルーって顔が有ったの?」

「はい、ベイ博士からそのように作って頂きました」


「ルーは、変身出来るんでしょ…

私の姿にもなれる」


「はい、ルーシー様がお望みなら」

そう言って15cm程のルーシーの

姿に成った。


ベイは…

「ルーシー、何でフリーを自分の姿に変えたの?」


「あっ駄目でしたか…」


「いや駄目じゃ無いけど…

何で自分のミニチュアに

したのか…そう思ってね」


するとルーシーは微笑みながら

「…私とグレイがキスをしている

時に…

フリー・ルーとフリー・グーが

丸くて浮いてるよりも…

2人もキスをしていた方が

幸せかなぁ〜って思って」


ベイは思わず…

「ルーシーは優しいね…」

そう言った後に、

自分のフリーに向い…


「フリー・ベー、僕の姿に

成って…」


「かしこまりましたベイ博士」


すると隣りに座っているメリーも

「フリー・メー、私の姿に成ってくれる」

と言ったので…

リンダもボブもジョニーもアンジーも、自分のフリーに向って…

「私の姿に成って…」

と言った。


本来なら、8人の肩に球体のフリーが居るはずだった。


でも今は、昔話に出て来る…

妖精のようである。

メリーが…


「フリー・メー、

私がベイにキスをしたら、

貴女もフリー・ベーにキスを

するのよ、分かった…」

するとフリー・メーが…


「かしこまりましたメリー様」


メリーはワザと大げさに…

「ベイ、愛してるわ」

と言ってキスをした…


その様子を…フリー・メーと、

フリー・ベーはジッと見ている…


3秒後、メーはベーに抱きつき…

「愛してるわ、フリー・ベー」

と言ってキスをした。


リンダと、アンジーと、ルーシーも…同じ様にキスをしたのは

言うまでもない。


グレイとルーシーは、

フリー・グーの案内で、

1つ下の階に、

エスカレーターで下りてきた


「グレイ…此処はデッキの下の辺りかしら?」


「うん、僕もそう思ってたんだ…

フリー・グー当たっているかい」


「その通りです、この船は5階建ての建物だと、思って下さい」

と教えてくれた。


フリー・ルーが1つの部屋の前でこちらを見ている、

「扉を開けますね」

そう言ってフリー・グーが

右手を上げると、

扉がスッーと…横に開いた。


中は…20m四方の何もない

白い部屋…

しかし2人は驚かない


(…きっと床とか天井から、

何かが…出て来るんだろうなぁ)

と思ったからである。


部屋の中に入ると、フリー・グーとフリー・ルーの身体が急の光り出し(あっ、何かが出る…)

と思った次の瞬間…


何もなかった部屋は

素敵なキッチン…と言うか、

一流レストランの厨房と言った感じの部屋に成っていた。


わずか2秒間の出来事である。


「グレイ、私…驚かないつもりだったのよ、でも…」


ルーシーはグレイの手を自分の胸に当てた…


「大丈夫かいルーシー、

胸がドキドキしているよ」


「私達はこれからも…

ベイ博士に驚かされるわね」

そう言って小さく笑った。


フリー・グーが

「グレイ様、調理の準備が

整いました。

私に言葉で指示を出して下さい、

サポートさせていただきます」


グレイはニッコリと微笑みながら次々と指示を出した…

グレイが味付けを終え


「フリー・グー、弱火で2分30秒」と言うと、フライパンが勝手に赤くなっていく。


「大きな皿を出して」


と言うと天井から大皿が

スッーと降りてくる。

グレイは思わず


「ルーシー、まるで10人くらいの助手が居るようだよ」


ルーシーは微笑みながら

「じゃあ私は、デザートを作り始めてもいいかしら」


「頼むよ、皆んなはルーシーが

パティシエに成っている事を知らないから…きっと驚くよ」

ルーシーは微笑み…

「頑張るわね、フリー・ルー

手伝ってね」


「かしこまりましたルーシー様」


そして40分後、

ベイの肩に居るフリー・ベーが


「ベイ博士、フリー・グーから、

食事の用意が出来ましたと…」


「早かったね〜さすがだねぇ…

フリー・べー、上にあげてくれる」


「かしこまりました」


隣で話を聞いていたメリーが

「ベイ、皆んなで運ぶのを

手伝うわよ…」

皆んなも既に立ち上がり、

嬉しそうな顔で

ベイからの指示を待っている、


「ありがとう、でもね、

ほら後ろを見て…」


5人が振り返ると…

デッキとソファーの間の床が、

ポッカリと大きな穴が開いている、5人が

「ん〜?」と言いながら

見ていると…


下からグレイとルーシーが、

大きなテーブルに…

美味しそうな料理を沢山

並べた状態で

ゆっくりと…上がって来た。


「みなさん…お待たせ致しました、1年ぶりの…僕達のディナーをお楽しみください。


それと…もう1つ、

僕の大事なルーシーが…

パティシエとしてデビュー

しました…」


6人は一瞬間を開け…

「えっ〜〜」

と言う絶叫にも近い

歓声を上げた。


前々から、クッキーなどを上手に作るルーシーに対して…

「パティシエに成れば

いいのになぁ、

そしたら大好きなケーキを、

嫌っていうほど食べられる

のになぁ〜…」


皆んなの勝手な

希望である。


ベイもケーキは大好きである、

しかし、皆んなが選ぶケーキの

カロリーが高い事…


「一週間に2回だけ…」

そうしないと、皆んなの健康状態を護れない様な気がしたのである。


ルーシーはその事を

分かった上で…

「ベイ博士、ちゃんと

カロリー計算をしていますので、

毎日食べても大丈夫ですよ」


ベイは嬉しそうに頭を下げた。


ディナーの前に乾杯をする

事になった。


ベイから指名され、乾杯の音頭を取るのはジョニーである


「でわ皆さん…

グラスをお持ち下さい。

パティシエ、ルーシーの誕生と、

天才シェフ…グレイの料理に

感謝を込めて、乾杯」

7人はグレイの料理に

生きている喜びを感じていた。


そして、ルーシーが作ってくれた

スイーツ…

一口食べるごとに笑顔になる、

言葉では…言い表せない程の

美味しさである。


皆んなで囲むテーブル…

楽しい会話…

優しい笑顔…

暖かい人の温もり…

ベイは…皆んなの顔を見ながら


(…この笑顔を守る為に、

二度と油断はしないぞ、

あらゆる世界中の情報を集め、

常に先手を打って行くんだ…)

そう自分の心に誓った。


食事が終わり、スィーツも食べ終わり、皆んなでカクテルを

呑んでいる時に…


「ベイ博士…あの〜

明日から俺達は…

具体的に何をすればいいん

ですか?」


ボブからの質問である。

ベイは微笑みながら…

「そうだね…まず、この船の事を知って貰うのと、

あと…色々なマシンの使い方を勉強してもらおうかな」


するとボブは急に不安げな

表情になり

「リンダ〜勉強だって、

俺…覚えられるかなぁ〜」


「大丈夫よボブ、

私がついてるから…」

そう言いながら、

リンダはボブの膝を撫ぜた。


その様子を見ているグレイも

ジョニーも、

決して他人事ではない。


ベイは笑いながら…

「皆んな、大丈夫だから、

皆んなの肩にはフリーが

居るでしょ…

ちゃんとサポートしてくれる

からね…それよりもボチボチ、

自分達の時間を取ろうか?…

どうかな…」


全員が笑顔で親指を立てた。


すると今まで不安げな顔をしていたボブが急に元気な声で


「じゃあ、いつも通りに男性陣が食器を運んで、

女性陣に洗ってもらい…

男性陣が拭いて食器を片付ける、

って言う段取りでいいですか…?」


ベイは

「ありがとうボブ、

でもね、この船はかなり優秀でね

グレイ、ルーシー、

2人のフリーに…食器の片付けを頼んでみてくれるかな」


「えっ?はい、了解しました…」

と先に応えたのはルーシーである。

ルーシーはグレイの手を

握りながら、


「フリー・ルー、フリー・グー…

食器を洗って

片付けて貰えるかしら…」


すると2人のフリー達は声を揃えて


「かしこまりましたルーシー様」

そう言って…テーブルの上、

2mの高さに静止した。


ベイ以外のメンバーは…

少しドキドキしながら

2人の様子を見守った。


まずフリー・ルーが右手を上げた、すると…

テーブルの上の食器が全て

浮き上がった。


次にフリー・グーが右手を

上げると…

2m四方の泡のかたまりが

床から上がって来た…


すると食器類が泡の中に

入って行く…

5秒後

フリー・ルーが左手を上げた、


すると床から2m四方の、

お湯の固まりが現れた。


…食器達は、泡の中から熱湯に中に飛び込んで行く…


フリー・グーが左手を上げた、

天井から暖かい風のかたまりが

降りてきた…


食器達は順番に風の中に

入って行く…

まるで食器が踊っているかのように見える。


ジョニーがボソッと呟いた…

「ベイ博士は…ワザと食器を宙に

浮かせて洗ってくれて

いるんだね〜…」


ボブもグレイも頷いている、

するとリンダが…


「…昔、物拾いをして

帰る途中だったかしら…

電気屋さんの前を通りかかったら…何の映画か

覚えてないけど、

魔法にかかった食器達が、

歌ったり踊ったりしていて…


何にも解ってない私達は…

「ベイ、あたし達も…あんな魔法の家に住みたい、ね〜住みたい」

って…ベイ博士は、

あの時の事を覚えて居てくれ

たんだ…」


そう言って、

リンダは泣き出してしまった。

メリーもアンジーもルーシーも

泣き出した…


ベイは

(えっ〜?皆んなが喜んでくれると思って造ったのに、

泣かしちゃったよ、まずかった

のかなぁ)


そう思いながら反省していると、

メリーが急に抱きついて来て…


「ベイありがとう、

本当に嬉しい」

そう言って何回もキスをしてくれた


(おっ、何だ…ウケてるのか…)

と思っていると、

ジョニーが…


「ベイ博士、素敵な魔法の船…

ありがとうございます…

もう皆んな、

感動と、感激と、感謝の連続で、

もう失禁してしまいそうで…」


そう言っている内に

食器達の洗浄パフォーマンスは

全て終了した。


ベイは微笑みながら

皆んなの顔を見回し


「ジョニー、ありがとう、

皆んなの言葉として受け取らせてもらうよ。


さてと、明日から忙しくなる

からね…覚悟しておいてね」


全員泣いているので、

黙って親指を立ててくれた。


ベイは更に

「基本的にグレイとルーシーに料理の腕をふるってもらうのは

夜だけだからね、


朝食と昼食はフリーに頼んで、

ピザとかサンドイッチとか

パスタとか。


そう言った軽食を用意して

もらうからね。

でないと、2人に負担が掛かりすぎるからね。


さあ…食器達も自分の家に帰って

行ったから、

僕達も自分の部屋に帰ろう、

明日の朝8時に…

いや、10時にデッキ集合で…

それじゃあ、おやすみ、

皆んな良い夢を見てね…」


そう言った後にベイはいきなり

メリーを抱き上げて


「メリー…2人でお風呂に入って、ベットに入って、

イッパイ甘えてもイイかな」


メリーは真っ赤な顔をして

「いいわよ、私の全ては

ベイのモノなのよ…」

そう言って

ベイの首に両手を回した。


2人の姿が部屋の中に

消えて行った。


ボブは微笑みながら…

「8人揃ったね…

本当に良かったね」

そう言って

リンダを抱き上げた。


「8人揃えば怖いもの無しだよね」と言って

ジョニーはアンジーを抱き上げた。


「8人の、第二の人生の

スタートだね…」

そう言って

グレイはルーシーを抱き上げた。


そして、それぞれが心の中で…

(いっぱい愛し合うもんね〜)

と思いながら、

自分達の

部屋の中に入って行った。


〈…私達は悪魔の使いだ…〉


次の日の朝、12月31日…

皆んなを乗せた船は、

ハワイ諸島の上空8000mの所を

漂っていた。


午前10時…

4つの部屋の扉が…

ほぼ同時に開いた。


「おはよう、今日は気持ちが良いくらいに

晴れているね…」


8人そんな挨拶を交わしながら、

朝食のテーブルに着いた。


大きな窓の外には、

雲一つない青空が広がっている。


昨夜、どれだけ2人が愛し合ったのか…

そんな野暮な事は…

誰も口には出さない…

言わなくても

手に取るように分かっているのだ。


リンダはボブの膝の上に

横座りをしているし、

アンジーもジョニーの膝の上に、

ルーシーもグレイの膝の上に

座っているのだ。


そして…メリーなどは、

ベイの膝の上にまたがっているのだ。


(…おいおい、普通は横座りだろう

何でメリーだけ、またがっているんだよ、

見た目がエッチすぎるじゃないか…

ベイ博士とメリーって…

少し天然なんだよなぁ…)

3人の男性はそう思った。


しかし、3人の女性は

(…そうだよね、メリーは1年ぶりに

ベイ博士に甘えられたのよね、

いいのよメリー…

イッパイ甘えられて…

本当に良かったわね…)

と思っていた。


彼女を抱っこしたまま…

少し遅めの朝食が終わった。


ベイは…コーヒーカップを

テーブルに置くと…

「今年も今日で終わりだね…

そこで皆んなに…プレゼントを

用意しました…」


そう言いながら1つの箱を、

テーブルの上にソッと置いた。

長さ50センチ程の桐の箱である。


(…何だろう…)

7人は…首を傾げた。


ベイは

「コレは、皆んなを護ってくれる

モノだよ…

ちょっとだけ驚いちゃうかも知れないけど、きっと気に入ってくれると思うよ」

そう言って微笑むと…

ボブが…


「ベイ博士、昨日はさんざん驚かせてもらいましたから

今日は驚きませんよ、アッハハハハハ」

と笑い出した。


すると横からグレイが

「ボブはスゴイなぁ、僕なんか、

もう今から…胸がドキドキして来た」

そう言って、

自分の胸に手をあてた。


するとボブは

「グレイ…強がりに決まってるじゃん

俺なんか昨日…

3回くらい気を失いかけて、

リンダに支えてもらったんだから…」


ボブの本音に

デッキの中は大爆笑となってしまった。


ベイはメリーの背中を撫ぜながら…

箱のフタを、

スンッと開けた。


7人は目を見開き…

(なんか出て来た…)

と思った。


無理もない…

本当に金色のブレスレットが、

自ら浮き上がって出て来たのだ…


(あっ〜何だか…想像がつかないモノが

出て来た〜…なんか嫌〜…)


7人の素直な感想である。


ベイは…皆んなの顔を順番に見ながら、


「ドキドキする気持ちは分かるけど…

さぁ皆んな、手を出して!」


7人は恐る恐る手を出した…

ベイはすかさず

「 装着!」と言った。


7人が「えっ?」と言って、

ベイの顔を見た、次の瞬間…


ブレスレットはシュルシュルシュルっと、

7人の手首に巻きついた

「あっー!」と言う7人の悲鳴。


ベイは笑いながら

「あっはははは、皆んな失礼だなぁ〜、

本当に良く出来たマシンなのになぁ」


するとメリーが

「違うのよベイ、

素晴らしいマシンだと思っては

いるんだけど…

ほら急に、

手首に巻きついて来たものだから…

皆んな、本当にビックリしちゃって」


そう言いながら、

メリーはベイの胸の中に顔を埋めた。


リンダもアンジーもルーシーも、

左手を斜め45度に上げた状態で、

ボブと、ジョニーと、グレイに

しがみついている。


ベイは…メリーのお尻を両手で

しっかりと抱きかかえながら


「ボブ、ジョニー、グレイ。

パートナーを抱っこしたままで…

最上階に行くよ。

フリー・べー上に連れて行って」


「かしこまりましたベイ博士、エレベーターを用意します」


7人は思わず周りを見回した。


(…昨日…エスカレーターは見たけど、

エレベーター?)

そう思っていると

デッキの天井に大きな穴が

ポッカリと開いている、


「エッ?…」

と言っている間に…

自分達が今居る場所が

床ごと上に

上がり出した。


7人は

(応接間的な…デッキだと思っていたけど…

実はエレベーターだったの…?)

そう思いながら…

首を小さく傾げた。


3秒後、最上階に着いた7人は、

まず、その広さに驚いた。


縦の長さは180m.

横幅は80m.、

そして、床から天井までの高さが

15mもあるのだ。


7人が「おっ〜〜ぉ!」と叫びながら

見回していると


「あのね、天井はシールドで覆って

居るんだよ、

色も形も自由自在に変えられて…


実は、縦も横も300mくらい広げられるし、

高さも最高で80mくらいまで上げる事が

出来るんだよ、

まぁ…ちょとした体育館って言う感じかな」


ベイの説明に、7人はまたしても

「おっ〜〜ぉ」

と言う驚きの声を上げ……

屋上デッキの中を嬉しそうに

見回している。


ベイは微笑みながら

「さあ〜…勉強会を始めます、

私の前に横一列に並んで下さい。


あっ、隣りの人とは10mほど、

間を空けて下さい…


さて、皆んなの左手にあるブレスレットは…

一言で言うと…鎧です、

皆んなの身体を護ってくれます。


ただし僕が作った訳ですから、

博物館に展示されて居るような

モノではありません…

でわ、まずブレスレットに向って球体モードと言って下さい」


7人はキョトンとした顔をしているが、

内心は怖いのだ…

すると7人の肩に浮いているフリーが…


「リンダ様、ベイ博士がおっしゃる通りにして下さい」


「アンジー様、球体モードと言って下さい」


「ルーシー様、怖がらずに、さぁ…球体モードと言って下さい」

そう言って…

怖がる7人の背中を、

グイグイと押して来た。


全員が…意を決したような表情で

「球体モード…」と言うと、

7人の身体は、大きなシャボン玉のような

球体に包まれた。


「何これ凄い!」

全員の素直な感想である。


ベイは微笑みながら

「ボブ、この球体は、君の言う通りに動いてくれるんだよ…」

するとボブは


「ブレスレット君、飛んで…」と言った、

球体は体育館の中を…

縦横無尽に飛び回った。


グレイとジョニーも、

直ぐにボブのマネをして…

体育館の中を、

飛び回り出した…

3人ともかなり御満悦である。


ベイは微笑みながら

「リンダ、アンジー、ルーシー、

そしてメリー…

実はこのブレスレット…

形も自由に変えられるんだだよ。


例えば、飛行モード・ジェット機

って言ってみて」


「はい、ベイ博士。

…飛行モード・ジェット機」

そうリンダが叫ぶと、

球体がジェット機になり、

リンダは操縦席にチョコンと座っていた。


アンジーは目を輝かせて

「ベイ博士、私も言ってみていいですか」「はい、どうぞ」


「飛行モード・ジェット機」

アンジーもジェット機の操縦席に

チョコンと座って、

満面の笑みで手を振っている。


「ベイ博士、私もやります」と言って

手を上げたのはルーシーである

「はい、どうぞ」


ルーシーも本当に嬉しそうに、

ジェット機の中から両手を振って

喜んでいる。


その時、リンダが手を上げ

「ベイ博士…何でジェット機の形が

違うんですか?」


ベイは頷きながら

「リンダ、とっても良い質問だね…

8つのブレスレットは、

常に8人を護って居るんだ。


フリー・リーは…

リンダの好みを知っている…

だから

ジェット機の形が、

それぞれ違う形になって現れるんだよ。


でもね、具体的なモノの名前を言えば、

同じジェット機に成れるんだよ」


リンダも、アンジーも、ルーシーも、

(なるほど…)と思いながら、

それぞれに違うジェット機の中で

御満悦である。


しかし、メリーだけは球体の中で

ジッとしたままである。


「どうしたのメリー、皆んなと同じように

やってごらん…」


メリーは黙ったまま首を横に振り…


「私は…もう一人はいやなの…

ベイの後ろか…横か…

とにかく一緒に居たい」


「…分かったよメリー、横がいい、

それとも後ろかな?」

「ベイの膝の上がいい…」

ベイは小さく笑いながら…


「…皆んな! 

チョット見てくれるかな、

実はこのブレスレットは、

合体させる事も出来るんだよ、

見ててね、

フリー・べー、フリー・メーと合体するよ」


「かしこまりました、ベイ博士」


「おいでメリー、抱っこしよう」

そう言って博士が手を差し出すと、

メリーは満面の笑みで…

博士の胸の中に飛び込んで来た。


ベイは…

「メリーを、抱っこしたまま乗れる、

ジェット機、色は透明で…」


2つのブレスレットは、

溶け込むように混ざり合って…

1つのジェット機の形に成った。


透明なので、ベイの膝の上で…

嬉しそうに笑っているメリーが

丸見えである。


「皆んな、見ててね。

ブルーとレッドとイエローを取り入れた

機体にして!」


機体はアッと言う間に斬新な配色の

ジェット機に変わった。


「皆んなも言ってみて、途中からでも機体の色を変える事が出来るから…」


するとリンダが笑いながら

「ベイ博士、話はソコじゃ無くて、

二人で一緒に乗れる…

と言うところですよ、

見ればメリーは博士の膝の上…

私達に、見せつけて居るんですか?

皆んなもそう思ったでしょ…」


他の5人も笑いながら頷いた。


ベイは皆んなの笑顔を見ると

(よしよし…

皆んなブレスレットの機能に

慣れてきたな…

そろそろ外に出ても大丈夫かな…)

そう思いながら


「リンダの言う通りだね、ゴメンね。

さて…勉強の続きをするよ、


実は、このブレスレットって、

8つを合体させる事も

出来るんだよ、

でね…

まず飛ぶ事に慣れるために、

8人で1つの乗り物になって…

外に出て見ようと思うんだけど…

どうかな?」


7人は…お互いの顔を見合わせながら


(皆んなと一緒なら…怖くないかも…)

と思い…

顔は少し引きつってはいるが、

親指を立ててくれた。


ベイは笑いながら

「ありがとう、じゃあ…行くよ。

フリーべー、

8つのブレスレットを合体させて、

形は君に任せるよ」


「了解しましたベイ博士」

そう言い終わった瞬間、

3人のジェット機は球体に戻り、


飛び回っている3つの球体も…

滑るようにして、

ベイの元に集ると…


8つのブレスレットは…

アッと言う間に…

大きなタマゴのような形に成った。


中には2人掛けの椅子が4列あり、

椅子の横幅が2mで、

背もたれが高い…

立たないと前の人が見えない状態である。


しかも、背もたれの後ろの部分は、

縦150cm横幅180cmの

画面に成っていて、

前方の景色が見えるように成っている…


つまり、全員が最前列に座って居る

状態である。


足元の床の色は淡いピンク。


天井は透明。


そして椅子の色は紺色だった。


前からベイとメリー、


2列目はボブとリンダ、


3列目はジョニーとアンジー、


4列目はグレイとルーシー

の順に並んでいる…


「ねぇリンダ、4年ほど前に遊園地で乗ったジェットコースターを思い出さない」

そう言ったのはアンジーである、

リンダが答える前にルーシーが


「ベイ博士、メリーはジェットコースターが苦手ですよ!」

と言った。


するとベイが答える前にリンダが


「大丈夫よルーシー、ベイ博士がきっと怖くないようにして下さっているわよ」

と言った。


その言葉の答えに関しては…

誰もが気になっていたので…

7人は、ベイが何と答えるのかを

静かに待っていた。


するとベイは涼しげな声で、

「皆んな大丈夫だよ、

身体には、スピードを感じられないように

作ってあるからね…」

7人は少しだけホッとした。


「フリー・ベー、屋上デッキの

シールドを解除して」


「了解しましたベイ博士」


「皆んな、まずは地球を一周して

見ようか…」

と言うベイの言葉に、

7人は思わず座席のシートベルトを探した。(…無い…)


ボブは少しあせったような声で

「ベイ博士! あの、シートベルトが見あたらなくて…」


「ボブ、ベルトは無いけど、

大丈夫な様に設計してあるから、

心配しないでね。

皆んな…チョット斜め下を見てくれるかな」


7人はサッと下を見た…

「えっ⁇…さっき船のシールドが解除されて外に出たばっかりなのに…

船が見えない!」

そう言ったのはルーシーである。


なにせ、地球の丸さがハッキリと分かるくらいの高さに自分達が居るのだ…


「ここって…宇宙空間ですよね…」

ジョニーの声が少し震えて居る…


「そうだよ、銀河系の外にだって行けるよ」

ベイの声はとても明るく弾んでいる。


7人は胸のドキドキが止まらない。


ベイが…「出発するよ」

と言った次の瞬間である、

地球が急に動き出した。


7人は思わず…

「えっ?」と言いながら目をこすった。


地球は10秒ほどで一回転して…

そして止まった。


メリーはベイの横顔に向って

「ベイ…今のなに?…

地球が急に回ったわ…」


「あっ、そんな風に見えた?、

実はこの乗り物が、

地球を10秒で

一周したんだよ…少し驚いた?」


「ベイ…胸がドキドキしてきた」

メリーはベイの手を、自分の胸にあてた。


「あっ本当にドキドキしているね…

ビックリしちゃった?」

と尋ねると、


メリーよりも先に後ろの6人が…

「ビックリしたわよ!!」

と女性陣が悲鳴を上げれば、


男性陣は「もう最高だぜ!」

と歓声を上げた。


メリーは少し怖く成ったのか、

6人の声を聞きながら、

そっ〜とベイの膝の上に

よじ登ろうとしていた…


「じゃあ次は、月の周りを一周するね!」


ベイの提案に、

7人は黙って親指を立てたが…

背もたれが高いので、

お互いの姿が見えない状態である…

なので後ろの6人は慌てて

「ベイ博士、了解です!」

と言う声を上げた。


月の周りを飛んでいる時…

7人は心の中で…


(あっ〜あ、本当に来ちゃったよ。

マジかよ…月だよ…、

もっ〜天才にもホドがあるでしょう。


…でも、子供の頃…

ズッと皆んなで月を

見上げていましたよね…


悔しい時も…悲しい時も…

そして嬉しい時も…

何時も8人で見上げてましたよね…

いつか、絶対に幸せに成ろうねって…)


そんな事を思い出しながら

月を眺めていたら…

何だか…涙がこぼれて来た。


月を回った後は地球に戻り、

ベイから


「次は海中に潜るよ」と言われた。

7人が…

(海底にも行けるんだ…)

と思っだ時…

乗り物は既に海の中に入っていた。


「ベイ博士、今…何キロくらいのスピードで進んでいるんですか?」と尋ねたのは

グレイである。


「今は500キロだよ、もっとスピードを

上げようか?」


「いえ、あの…すみません、

このスピードで十分満足しています…」

そう答えながら、

グレイはルーシーの手を握った。


目の前に、大きな海底火山が見える、

なのに乗り物のスピードは少しも落ちない、


ボブが

「ベイ博士、岩山にぶつかりますよ!」

と言うと、

ベイは澄ました声で…

「うん、大丈夫だよ、

次は地中に入るからね」


「えっ?嫌だ!わっーー!」

7人が声を揃えて叫んだ時には…

既に地中に入って居た。


ジョニーが

「…トンネルの中みたい…

真っ暗で、何も見えないね…」

すると

ベイは小さく笑いながら


「もう少しで明るい所に出るからね…

ほら出た、マントルの中だよ…

その後は核に行くよ」


7人は涙目に成り

「誰か博士を止めて〜

もう無理〜…本当に無理〜…もう一回、

死ぬかも知れない…)

と思った。


しかし溶岩の中は…

「あれ?平気だ…熱くない…なんで?」

7人はそう言いながら首を傾げた。


そのうち…

赤ともオレンジとも言うような中を、

ず〜と進んでいく内に…


7人は、

常識の範囲を超えた現在の状況に


(…ベイ博士って、何でもアリなんだなぁ…

綺麗なオレンジ色…

不思議だなぁ…本当にスゴイなぁ…)

心が素直に、そう感じ出してきた。


すると次第に…

(何だか、もう…笑うしかないな…)

と思えて来た…

始めに笑い出したのは、

ボブである、

それがリンダに移り、

ジョニーに移り、

アンジー、グレイ、ルーシー……


そして最後に…

いつの間にか、チャッカリと、

ベイの膝の上に股がっている

メリーに移った。


「メリー…皆んな、どうしたのかな?

何かオカシイ事でもあったのかなぁ?」

ベイの問いかけに、

メリーは…


「ベイ…不思議な世界に連れて来てくれて…

ありがとう…

何だかビックリする事が多過ぎて…

私達の思考回路がおかしくなっちゃって、

自分達の心が、

今はとりあえず「笑いなさい」って、

命令して来たのよ…

急に笑い出してゴメンなさいね、

ベイ…大好きよ」


そう言ってメリーは…

キスをしだした。


後ろにいる6人は

(メリー、私達の気持ちを代弁してくれて

アリガトウ…)

そう思いながら、


リンダはボブの膝の上に股がり…

アンジーはジョニーに股がり…

ルーシーはグレイに股がって…

それぞれが

「愛してる…」

と囁きながらキスをしだした。


ベイの肩の上に乗っているフリー・べーは、そーっと上に上がり…


キスをしている8人をしばらくの間…

眺めて居た…


(…この雰囲気はマズイな、

皆さんの体温が上がって来ている…

このままセックスに移行する

危険性がある…)


そう思ったフリー・ベーは、

他のフリー達に…


「皆んな、マズイ事に成りそうだ…

御主人様達の目の色が変わって来た…

いったん船に戻ろう…」


他のフリー達も同じ事を考えていたようで…黙って頷くと、

タマゴ形の乗り物を、マグマの中から

一気に上昇させて…

海に戻り…

空に昇り…

そして、

船の屋上デッキに連れて帰って来た。


8体のフリー達は優しいので、

まず、機内の温度を、

徐々に下げていった。


キスに夢中になっていた8人だったが、

頭が冷えて来たのか?

徐々に自分を取り戻して来た。


フリー達はすかさず、女性陣の耳元で


「…スカイシップに戻ってまいりました、

冷たいお飲み物でも用意しましょうか?」


すると4人は…

慌てて膝の上から下りると

「あっ、アリガトウ、いただくわ」

と言った後…

自分のヘアスタイルを整えるような

しぐさをしながら、

横に座っている彼氏の顔を、

チラッと見た…


彼氏の口の周りは、自分の口紅で…

スゴイ事になっている。


彼女達は、

ハンカチで彼の口の周りを拭きながら…

「この続きは…また今夜…

ベットの中でね…」

と囁くと…

彼氏達は何とも締まりの無い顔で…

親指を立てた。


8人は少しの間、ボッ〜としながら飲み物を口に運んだ。


しかし、ベイだけは自己嫌悪に

落ち入っていた…


(メリーのキスの魅力に負けて、

勉強会を中断させてしまった〜

これから世界中の神様に

ケンカを売りに行くのに…

もう頭の中は、

セックスの事でイッパイだ、

僕はエッチな男だなぁ)

と思っていた。


その時メリーが、ベイの顔を覗き込み

「ベイ、どうしたの…ムズカシイ事を考えているの?」

「えっ?いや…ムズカシイ顔をしてた…」

「うん…」


「あっ〜、うん…この後の、

皆んなの勉強会の事を、考えてたんだ…」


「ベイは何時も私達の為に…

色々な事を考えてくれているのね…

本当にありがとう」


そう言いながら

ベイの胸の中に顔を埋めた。


(…違うんだよ、実はメリーの裸を…

エッチな妄想ばっかりしてるんだ…

どうしよう正直に謝ろうかなぁ〜)

と思っている時に…


フリーべーから

「ベイ博士、地震による

トンネル内の崩落事故が発生しました」


すると、他のフリー達も順番に

「トンネル内で火災が発生しました」


「車28台が押し潰されています」

次々と事故の状況を知らせてくれた。


ベイは…メリーを抱きしめたまま

立ち上がると


「フリー、いったん今の形を解除して」


「了解しました」

8人は…屋上のデッキに立って居た。


「皆んな、今から実戦を兼ねた

勉強会…&…神様の邪魔をしに行くからね。

フリーべー、黒衣モード。

ブレス達は透明シールドで、

僕達8人を包んで」


「かしこまりました」

フリー達が動き出した。


先ず…フリー達は空中に浮遊すると…

8つの黒い影になった…

そこに8体のブレスレット達が

飛び込んで行くと…

一瞬…金色に輝き、

そして又黒い影に戻った。


7人が小さく首を傾げていると…

ベイが微笑みながら

「装着」と言った。


7人が「えっ?」

と一言発しているあいだに…

8つの黒い影は、

一瞬にして8人の身体に…

覆いかぶさった。


全身が黒いスーツに、黒いサングラス。


するとリンダが

「ベイ博士、私達なんで…

サングラスをかけて居るんですか?」


「良い質問だね、

さっきフリーべー達の報告で、

28台の車が、押し潰されているって、

言ってたでしょ…


何て言うか…

僕達はドクターでもないし、

レスキュー隊の方達のような訓練を受けてないから…


遺体を見たら、多分…

気絶してしまうと思うんだよ。

そこで、

フリー達がサングラスになってくれて…

僕達が眼にする遺体を、

可愛いアニメ風に変換させて

見せてくれるんだよ、

それなら怖くないでしょ…」


リンダを筆頭に7人は…

(大いに納得しました…)

と言うような表情で…

「ありがとうございます…」

そう言って頭を下げた。


7人は口にこそ出さないが、

内心では

(…何だか怖いなぁ〜)

と思っていたので、

ベイの心遣いが、

本当にありがたかった。


8人がそんな事を喋っている間に、

船は事故現場の上空

500mの高さに到着していた。


「フリー・べー、

山全体をスクリーンに映して」


「かしこまりました。

ベイ博士…

トンネルの長さは1560m、

その上には580mからの山が

デンッと構えています。


トンネルの南側も北側も、

後続の車で渋滞しており、

レスキュー隊や、救急車両が…

前に進みずらくなっています。


今、軍のヘリコプター3機と、

マスコミのヘリコプター6機が、

此方に向って来ています」


「了解です。

フリー・べー…スカイシップに

透明シールドを張って」

ベイはそう言った後に


「さて皆んな、トンネルの中に

どんな入り方をするか何だけど…」


そう言って皆んなの顔を見回した、

するとボブがすかさず


「先ほど勉強会で体験させてもらった、

地中に潜って行くやり方が…

いいんじゃないですか?」


するとメリーが

「今…フリー・メーが、

トンネルの中には、

人が立って居られるような

空間が無いほどに崩れているそうよ」


ボブが腕組をして…

「う〜ん…困ったなぁ」と呟くと…


ベイは…

「実は、もう少し先の勉強会で

披露しようと思っていた

マシンがあるんだよ…

ちょっと皆んなが

驚くかも知れないけど…やって見ようか?」


するとジョニーが笑いながら

「ベイ博士、大丈夫ですよ、

先ほど宇宙まで連れて行ってもらって、

マグマの中にも入って…

これ以上、もう驚く事なんて有りませんよ、大丈夫です」と言い切った。


ベイは頷きながら…

「そうか、良かった!

フリー・べー、山全体を霧で包んで」


「了解しましたベイ博士」


10秒ほどで、山全体が霧に包まれた。


この辺までは、ジョニーも他のメンバーも、笑顔でスクリーンを見ていた。


「フリー・べー、山を持ち上げて…」

と言う言葉に、7人は一瞬

「んっ…?」と声を発したが…

なんの事だか意味が分からない。


しかし…霧の中にうっすらと見える山が、

ズッズズ…と上がって来ているのだ。


それも御丁寧に…

トンネルの上をスッポリと外したような

状態である。


グレイはジョニーの脇腹を…

人差し指で軽く突きながら、


「ジョニーは偉いなぁ〜、

もう驚かないんだろう…

僕は気が小さいから、

足が震えているよ…」

とつぶやいた、

するとジョニーが


「ゴメン、前言を撤回するよ、

胸がドキドキして来た」

と言ったので、

全員が笑い出してしまった。


ベイが床を一回トンッと鳴らすと、

昨日と同じ台が出て来た。


ベイがその上で手を動かすと

昨日と同じ「人を生き返らせるマシン」

が出て来た。


7人は手分けをしてマシンを持つと

ベイの顔を見つめた…


「さあ…50mの隙間を開けたから…

下に降りるよ」

ベイの号令で、8人は事故現場に

光のエレベーターで降りて行った。


その時、軍のヘリコプターが

霧の立ちこめる

事故現場の上空に到着した。


リンダが…

「ベイ博士、山が浮き上がっているので

軍の人達は驚いているでしょうね…」

そう言って斜め上を見上げると


「大丈夫だよ…

軍のヘリコプターも、

マスコミのヘリコプターも、

霧の中には入って来れないから…」


するとフリー達が、

軍のヘリコプターが本部に送っている無線の内容を8人の耳に聞かせてくれた…


「…霧が濃くて先に進めません…

何だ…この霧は?

レーダーの機能が働かない…

これじゃ山に近づけない…」


7人はニンマリとした後、

今更のように、

(ベイ博士の科学力って本当に凄いなぁ…)と思いながら…

黙って頭を下げた。


「どうしたの皆んな、頭なんか下げて…?」


「いや〜何て言えばいいのか…

ベイ博士…最高って思ったもんですから、

俺達しっかり働きますから、

何でも言って下さい」


そう言ってボブは…

皆んなの真ん中に立って

両手を広げて見せた。


ベイは微笑みながら…

「フリー・べー…

トンネル内を明るくして」


「かしこまりましたベイ博士」


フリー・べー達が持って来た箱を開けると

中から1万匹のホタル達が出て来た。


ホタル達はベイの前に浮くと

「ベイ博士…お待たせしました、

指示をお出し下さい」


「トンネル内を、明るくして欲しいんだ…」


「お安い御用です、お任せ下さい」


そう言ってホタル達は、

南側と北側に向って飛んで行った…


その後わずか3秒間ほどで、

トンネル内は…まるでデパートの中にでもいるような明るさに成った。


ベイは7人に向かい…

「先ず28台の車を、いま僕達が立っているこの場所に集めて欲しいんだ…

ボブとリンダ、ジョニーとアンジーは、

南側を。


グレイとルーシー、メリーと僕は、

北側を…あっそれと、

今からフリー達が皆んなの耳元で

話をするから、聞いて上げてね」


「了解しました?」

(何の話しだろう?)

と7人か思っていると…


「ボブ様」

「何だいフリー・ボー」

「両手を横に広げて頂くと、

ボブ様は、空中を飛ぶ事が出来ます。

事故車両の所まで、

私とブレスレットが…

ボブ様を…お連れ致します」


「ありがとうフリー・ボー?

…じゃあ両手を広げるよ」


そう、さり気無く言ったが、

内心は

(マジかよ〜空を飛べる何て、キャ〜

夢みたい)

と喜んでいた。


他のフリー達も、

自分の主人の耳元で

同じ内容の事を喋っていたので、

全員がほぼ同時くらいに

空中に浮くと…

満面の笑みで、北側と南側に

飛んで行った。


一番最初に事故現場に着いたのは、

ジョニーとアンジーである

「ジョニー、ベイ博士が言ってた通り…

悲惨な事故現場が怖くないわ」


「そうだねアンジー、

それとフリーは、

匂いも遮断してくれているんだね…」


「スゴイわね…」

「うん、第一僕達は…

ここまで、今、飛んで来たんだよね…

まるで地球を守るヒーローみたいだよね」


「えぇ…でも、ベイ博士は…

悪魔の使いっていう感じの事を

言ってたわよね…」


「あっ、うん、そうだったね…

僕達は悪魔の使いだったよね。


でも僕は…8人で仲良く生活が出来て、

尊敬するベイ博士の助手が出来て、

アンジーと愛し合えて、

それだけでとっても幸せなんだよ、


だから、悪魔の使いでも、

何でもいいよ…」


「私もジョニーと同じ意見よ…」

そう言ってキスをしてくれた。


こんな感じの事を…

ベイとメリーを除いた6人が…

それぞれの場所で交わしていた。


5分後、28台の車が、

トンネルの中央部に集められた。


ボブが少し興奮気味に

「ベイ博士!…

フリー&ブレスレットをまとって居るので、車一台の重さが…

まるでマッチ箱でも持っているような

感じでしたよ!」


「僕達も何だか、映画に出てくる

ヒーローに成ったみたいだね、

って言いあってたんですよ」

そう言って、

グレイはルーシーを見つめている。


アンジーとジョニーは顔を見合わせて

(皆んな…同じような事を考えて

居たんだなぁ)

と思いながら…

ベイの顔を見た。


しかしベイは、ヒーローと言う言葉には

何の反応もせず…


「皆んな、ご苦労様、じゃあ次に、

プレスされてしまっている…

車の天井部分を剥がして、

中から遺体を取り出して貰えるかな」

と言った。


7人は笑顔で親指を立てた後…

言われた通りの作業に取り掛かった。


「フリー・べー…

マジックシートを出してくれるかい」

そう言ってベイは次の準備に入っている…

7人は作業をしながら…


(マジックシートって何だろう…?)

そう思いながら、

横目でチラチラと…

ベイの方を見ていた。


フリー・べーが用意したシートは

地面から1mの高さに浮いている、

7人は

(あら〜何だか…魔法の絨毯みたい…)

そう思いながら

車の中から回収した遺体を、

マジックシートの上に、

丁寧に乗せて行った。


ベイは皆んなの顔を見回して…


「さて、遺体の数は84人…

今から僕が、

フリーに1つの命令を出します…

すると今、

目の前に見えない物が見えて来ます…

皆んなが1年間経験して来た事です」


するとリンダが…

「もしかしたら幽霊が見えるんですか?」


「当たり…皆んな怖くないよね…」

とベイが言うと、

日頃、自分は気が小さいと

言っているグレイが…


「ベイ博士、ソコはさすがに大丈夫です、

僕達も1年間幽霊をしてましたから」

そう言って微笑んだ。


ベイは頷きながら…

「フリー・べー…幽霊モード」

「かしこまりましたベイ博士」

そう言い終わった瞬間…


8人が掛けている黒いサングラスが、

青いサングラスに変わった。


それと同時に…84人の幽霊がマジックシートの上に現れた。


84人は自分の遺体を見ながら…

涙をこぼしている…

そして静かに顔を上げると…

生きている8人に向って…

「助けて下さい、お願いします…

助けて下さい…」と言って来た。



     〈 悪魔の人助け 〉 


ベイは微笑みながら

「はい、助けますよ!

皆さんに生き返ってもらいます…」

と言った。


84名の幽霊は、

お互いの顔を見合わせながら…

(えっ?…生き返る事が出来るの?

えっ、マジで?…とりあえず言ってみた

だけなんだけど…えっ?)

と思った。


するとアンジーがジョニー耳元で

「ダーリン出番よ、きっとベイ博士は、

テンパって居ると思うわ…」

そう言って、

ジョニーを前に押し出した。


ジョニーは一回せきばらいをした後に…

「皆さん、不思議な事って

あるもんだなぁって今…

思ってらしゃるでしょう。


上を見れば山が浮いてるし、

皆さんの遺体を乗せたシートも浮いてるし、


其れに、なんでオメエラ8人は、

幽霊の私達と喋れるんだよ…ってね…」


84名の中から…

笑い声が上がった。


ジョニーは、なごんだ雰囲気を

肌で感じると…


「こちらに居られる方はベイ博士です!

ありとあらゆる科学の

先頭を走って居られる方です、

今から皆さんの、

バラバラ遺体を復元させ、

そして生き帰らせてくれます。


色々と、皆さんの方から質問等も

有るかもしれませんが…

トップシークレットなので詳しい事を説明する事が出来ません…

どうかご了承ください。


では自分の番が来るまでもう少し

お待ちください」

そう言って、ジョニーはベイに

バトンタッチをした。


ベイは…

「ジョニー、ありがとう〜助かったよ」

と言った後に…

「皆さん…私は口下手でスミマセン…

さて、この中で「生き返りたくない」

と言う方は居られませんか?」


7人はベイの言葉に…「えっ⁇」

と言いながら、

84人の幽霊に目を向けた…


すると5人の人が手を上げている。


7人は(えっ?なんで…?)と思った。


ベイは、一人の壮年の前に行くと…


「生き返らなくていいんですか?」

と尋ねた…

すると壮年は


「…15年前に…女房が亡くなりまして…

息子夫婦が一緒に住もうって…

言ってくれているんですけど…

80過ぎた爺さんが一緒に住んだら…

きっと、いずれ…

迷惑を掛けると思うんですよ。


それに、女房が死んでしまってから…

毎日が…とにかく淋しくて…淋しくて…

女房に会いたくて…」

そう言って泣き出してしまった。


するとベイは何度も頷きながら

「大好きな奥様が亡くなられたら…

本当に淋しいですよね…」


そう言って、もらい泣きをして居る


「…フリー・べー…あの世の映像を見せて」


「かしこまりましたベイ博士」


「お爺さん、奥様の名前は?」


「女房の名前は、キャリー・デイジです…」


「分かりました、呼び掛けてみますね、

この中に、キャリーデイジさんは居られますかー、キャリーさーん…

居られないなぁ〜、

フリー・べー他を探してみて」


「かしこまりました…」

83人の人達も、ボブやリンダ達も…

この光景を静かに見守った。


そして又

「この中に、キャリーデイジさんは

居られますかー…

えっ…キャリーさんですか?

15年前に亡くなられた

キャリーさんですか?


…あの御主人の名前は…

マーク・デイジさん…

ちょっとお待ち下さいね。


お爺さんの名前は?」


「私はマーク・デイジです…」


「良かった、見つけましたよ。

フリー・べー、奥様を此処にお連れして」


ベイは…箱の上で手を動かしだした…

白い煙が出てきて、

やがて煙は球体になり、大きくなり、

そしてパンッ…とハジけた。

すると中から一人の婦人が…

「キャリーかい…?」


「その声は…マーク?」


「キャリー、私だよ…

また会えるなんて…キャリー…」

そう言って、

お爺さんは

泣きながら奥さんの元に走って行った。


奥さんは御主人を抱きしめると、


「マーク…相変わらず大きな赤ちゃんね〜」そう言いながら背中をさすった。


「キャリー…ワシ…毎日が淋しくてなぁ〜…

でもな、今日やっと死ねたんだ…」


「トーイは…貴方が居なくても

大丈夫かしら?」


「キャリー…トーイはもう…

52歳のお父さんだよ、

嫁さんのメリッサも優しくて、

孫のケートとスタンは、もう立派な

大人だよ」


「そう、なら大丈夫ね」


「キャリー…若くて綺麗だね」


「そうかしら…60歳で死んだからかしら」

すると、お爺さんは急に振り返り…

「あのベイ博士…」


「なんでしょか?」


「あの…生き返らなくていい分…

ワシを62歳にしてもらえませんか?」


「お安い御用ですよ…」

ベイ博士は箱の上で手を動かした…


80歳のお爺さんは、アッと言う間に…

62歳に若返った。


「おぉっーワシ…62歳に成っている…

キャリー、この歳のワシは、まだ…

お前を抱くことが出来るんだよ」


「もう〜マークったら…

皆さんの前で恥ずかしいわ」

そう言いながら主人の胸の中に

顔を埋めた。


「フリー・べー…

お二人をあの世に送って」


「かしこまりましたベイ博士」


次の瞬間、

ご夫婦は…

白い煙の玉に包まれた。


白く揺らめく煙の中で、

キスをしている二人の姿が見える…

愛し合って居る二人は…

空へ…

上がって行った。


ベイは…次の人の前に向った。

仲の良さそうな夫婦と、

二人の小さな娘さんである。


「どうされたんですか?」

と言うベイの問いかけに、

御主人は頭をさすりながら


「…癌だと医者に言われまして…

余命2カ月です。

妻にゴメンなって謝ったら…

まさか妻も癌に成っていて…


10歳と8歳の娘に

「パパとママは、癌に成っちゃって…

ゴメン施設に入ってもらえるかなぁって

言ったら…嫌だって、


でも…もうすぐ死んじゃうんだよ…

って言ったら…

一緒に行きたいって…


「じゃあ…最後に楽しい事をしようか」

って…今日は、遊園地の…帰りなんです…」

父親は此処まで話すと…

泣き崩れてしまった。


母親の腰にしがみ付いて、

二人の娘も泣き出してしまった。

余りにも気の毒な家族に…

他の幽霊達も

もらい泣きをして居る。


その時アンジーが明るく弾んだ声で


「御主人、おめでとうございます、

此方に居られるベイ博士は、

世界最高峰のドクターなんですよ、

大丈夫です…

生き返るのと同時に癌は治ってますよ。

ねぇベイ博士、そうですよね」


「はい、その通りです…

では先ずこちらの家族の方達から

始めましょう、

ボブ、手伝って…」

「了解しました」


ベイは何時も通りの手順で、

次々と遺体の損傷を復元させ、

そして魂を身体に返して行った。


「御主人、奥様どうですか、

癌はキレイに取り除きましたよ」


夫婦は深呼吸をしたり、

のけぞったりした後に…

「ありがとうございます…治ってます」

そう言って泣き崩れた。


周りの幽霊達から祝福の声が上がった。


ベイは微笑みながら…

次の人に移って行った。


次々と生き返る人達。

喜びのあまり奇声を発する人達。


自分の順番を待っている人達も

安心した表情で微笑んでいる。


そう言った歓声を聞きながら…

リンダは…こっそりと、

ベイ以外のメンバーを集めた。


メリーは小さく首を傾げながら

「どうしたのリンダ?」と尋ねた。


リンダは…作業をしているベイの事を

横目で見ながら


「あのねメリー、実は6人で話し合ったんだけど…もしベイ博士が、

83人の人達から

「神様ありがとうございます」

みたいな事を言われたら…

何て答えると思う?」


「たぶん悪魔の使いだ、って言うと思うわ…

実は…私達が今着ている、

黒いスーツなんだけど…

昨夜ベイがね

「メリーどうだい、この黒いスーツ、

悪の化身っぽく見えるだろう」

そう言ってたの…」


「やっぱりね〜、ねぇメリー、

ベイ博士が今している事って、

本当に悪い事なのかなぁ、

自然の摂理に逆らってる、

って言ってたけど」


「う〜ん…ベイ自身がそう言ってるから…

私も実は、よく分からないの…」


「メリー…実は、私達ベイ博士の表現を少し変えようと思ってるの、

協力してくれる…?」


「…いいわよリンダ」

「良かった、じゃあこの後の作戦会議を、

コッソリしましょう…」

そう言って

7人はその場から離れた。


ベイはマシンを使い…

モクモクと作業を続けている、

そんなベイから見た7人は、

モクモクと…

車の残骸を片付けてくれているように

見える…


ところが7人は…

自分達のフリーを使って

ヒソヒソ会議をしている…

ベイには…

そのへんの細かい感情の部分が、

理解出来ていなかった。


約137分後、

83名全員を…生き返らせた。


83名は口々にベイに向かって

「ありがとうございます、

助けて下さって感謝の気持ちで

いっぱいです」


そして神様だあ〜、とか仏様だ〜とか、

美辞麗句を山のように言い出した。


するとベイは案の定…

「待って下さい…違いますよ、

私達はそんな立派な考えのもとで

行動している訳では

ありません。

実は…神様の邪魔をしようと…」


その時である、

メリーがベイの左腕を

グィッと引き、

自分の胸の中に抱き込みながら


「ねぇベイ」

「えっ?何だいメリー」


「細かい説明はジョニー達に任せて…

私達は、

一人だけあの世に行った

お爺さんの家族の事を

考えてあげましょうよ…」

そう言ってベイの顔をジッと見つめた。


「あっ〜…そうだね…」

戸惑っているベイの耳元で、

ジョニーはすかさず…


「ベイ博士、後の事は…

僕とアンジーに任せて下さい、

2人で此処に居られる方達が、

納得して帰って頂けるような説明を、

ちゃんとして置きますから…」


「すまないなジョニー、

僕は講義とかは得意なんだけど、

その場で、とっさに言葉を組み立てて

人前で喋るのが…どうも苦手で…」


するとアンジーが

「博士の講義の凄さは、

私達7人が一番よく知って居ますよ。

こう言った時の会話は、

私達2人の得意分野…

と言うか仕事ですから、

私達2人に任せて下さい」


メリーはベイの腕に甘えながら

「フリー・メー、私とベイだけの

会議室に成って」


「かしこまりましたメリー様」

次の瞬間…

2人は真っ白な部屋の中に立っていた。


3m四方の小さな会議室の中には…

2人掛けのソファーが1つ…


メリーは先にベイを座らせ…

自分はちゃっかりとベイの上に股がり


「ベイ、…フリーって本当に素敵ね〜、

2人の為に、こんな空間を作ってくれるんだもん…」

そう言ってキスをした。


リンダは2人の入っている

会議室を見ながら


「フリー・リー、あの会議室は、

外側からの声は聞こえないのかしら」


「はい、聞こえませんリンダ様。

その代わり…中の声も外から聴く事が出来ません…ご了承ください」


リンダは小さく頷くと

「ありがとう…

それでいいの…さぁ皆んな、

打合せ通り始めましょう」

その声をきっかけに

ボブは83名に向かって


「皆さ〜ん、今から、外に出る為の

注意事項を言いま〜す、

スミマセンが此方に…お並び下さ〜い」


そう言って皆んなをトンネルの

中央に集めた。


ジョニーは集まってくれた83名を見ながら


「フリー・ジー、

僕とアンジーを130mcくらい…

上に浮かせてくれないかなぁ、

後ろの人が見えないんだよ」


「かしこまりました」

2人がスッ〜と浮き上がった。


83名は、

2人に対して満面の笑みを浮かべている…

まずジョニーから


「皆さん…私は始めに、トップシークレットなので質問はしないで下さい、

と言いましたけど…

皆さん、なんとなく心の中が

モヤモヤしてるでしょ…」


全員が頷いた。


ジョニーは微笑みながら

「今から、私達が言えるギリギリの事を、

喋らせて頂きます…」


83人は神妙な顔で頷いた。

「世界中には色々な研究機関があります…

正しいモノもあれば、そうでない

モノもあります。


また研究機関のスポンサーが企業団体なのか、国なのかによっても

内容が変わって来ます。


研究機関にはカタチとして、

世の中に出せるモノを作れ、

と言う絶対的な命令が下されます。

その為になら、莫大なお金を

使わせてくれます。


しかし、どこの研究機関もなかなか結果を出す事が出来ません。


話しを少し変えます、

博士と呼ばれる方達は、

自分が一番偉いと思っています…

全員ではありませんよ。


天才と呼ばれている人は沢山居ます…

でも世の中の役に立てる天才は、

何人居るんでしょ…?


優しい天才は、悪い人に利用されます。

しかし、天才の中の天才は、

恐れられ、所を追われ…殺されます。


でも…シブトク生き残る事が出来た天才は…


世の中の、敵に成るのか?

味方に成るのか?

人によって違いますが、

ベイ博士は、皆さんの味方に

成ってくれました」


83名は歓声を上げた。


次にアンジーが…

皆んなの歓声が静まるのを待って

話し出した


「私達は今日…この事故の事を知って

駆け付けました、

実は内緒で来ちゃったんです。

上のモノは…

政治家、実業家、学者、有名人の為に私達を使いたいようなんですが、


ベイ博士は、

民衆の為のチームなんだとおっしゃって…

私達7人は、

そんなベイ博士が大好きです、

尊敬してます。


私達は何時も守ってもらって

居るんですけど…

ベイ博士が本当に大変な時には、

私達7人が…命懸けで守ります。


ベイ博士は頭が良い分……

先の事を、ものすごく考えられます…

今回、皆さんを助けた事も

「神様が与えられた試練を、

僕が奪い取っているんじゃないかな?」

とか言っています。


その辺の難しい事は、

私達7人は今ひとつよく解りませんが、


皆さんは、どう思われますか?


神様が与えられた試練を……

ベイ博士が、邪魔をしたんだと

思われますか…」


83名は、

アンジーの問い掛けが終わるや否や、

間髪入れずに


「そんな事思って居ません、感謝してます」


「助けてもらって嬉しいです」


「いや、私は、ベイ博士が神様だと

思ってました」


などと言うセリフが、

全員の口から聴く事が出来た。


中には「試練なんて、クソ食らえだ!」

と言う

危ない意見まで飛び出した。


アンジーは微笑みながら…


「そんな風に言って頂き、

ありがとうございます。

実は、私達も皆さんと同じように

思って居るのですが…

とにかくベイ博士は、真面目な方で…


私個人の意見を言わせて貰えば…

天才って、物事を考え過ぎて、

少し面倒くせ〜

って言う感じなんですよ。

あの…皆さん…今の発言は…

ベイ博士には言わないで下さいね」


そう言って…

アンジーは顔の前で、

手を合わせて、拝むようなポーズを

取ったので、

83名は笑い出してしまった。


ジョニーは…皆んなの笑い声が収まると

「皆さん…御家族の元に帰る時間が

やってまいりました…

私達から1つ…お願いがあります…」


全員が、神妙な顔でジョニーを見つめた。


「今日の事故の事です。

トンネルの外には、沢山の人達が

来ています、

色々な事を聞かれる

と思います。

そこで…


私が考えたシナリオなんですが…

「トンネルに入ると、変な音がし出して、

危ないと思ったから…

車から飛び出して、


身をかがめていたら、

トンネルの天井が落ちて来た。


車はペシャンコに成ってしまったけど…

上手く車との間に隙間が出来て、

私達は助かりました…」


みたいな事を…言って頂きたいのですが…

お願い出来ますか?」


83名の人達は満面の笑みで

「は〜い!」

と返事をしてくれた。


ジョニーは微笑みながら

「皆さん…ありがとうございます。

これで、もしもまた、

何処かで災害があった時に…

本当は無い事を望んでいるのですが、


いずれにしても、私達は出動する事が

出来ます。


では北側に出られる方は…ボブの方かな…」

するとボブが


「はい、北側の方はこちらにどうぞ」

そう言って、リンダと2人で手を上げた。


すると、グレイとルーシーも

「南側の方はこちらにどうぞ」

と言って手を上げてくれた。


その時、ベイとメリーが、

会議室から出て来た。


83名の人達は一斉にベイを見つめた…

ベイは会釈をしながら

「皆さん…家の中に入るまで、

油断する事なく、

気をつけてお帰り下さい」


すると…1人の婦人が…

「ベイ博士、

神様の邪魔をして下さって

本当にありがとうございます…

感謝しています」


そう言って、

アンジーがしたように、

拝むように、両手を顔の前で合わせた。


ベイは静かな口調で

「いいえ…」

そう言って小さく会釈をした。


その時…小さな女の子の声が

ベイの耳に入って来た


「…パパ…車がペチャンコに成っちゃたね。

うちビンボーだから、

もう車…買えないね」

「大丈夫だよ、パパが夜中にバイトをして…何とかするさ」

と言う会話である。


フリー・べーが、

ベイの耳だけに届けてくれた

親子の会話である。


「フリー・べー、ありがとう」

ベイは83名に目を向け…

全員に聞こえる様な声で


「皆さん!車の保険に入っていますか?

もし入って無くて、

車を買い替える

お金なんて無いよ、

と言われる方、

私に向かってソッと目をつむって下さい…

フリー・べー、確認して」


「かしこまりました」


「…はい皆さん結構です。

すみませんでした、

帰る足を止めて。

どうぞ北と南に分かれて下さい」

そう言って

…ベイは小さく微笑んだ。


北側と南側のトンネルの前には、

レスキュー隊、

救急隊、

警察官、

軍の関係者、

マスコミ等…

沢山の人達が集まり、

トンネルの中に取り残された人達を、

いかに救出するのかと検討していた。


レスキュー隊の隊長が

「南側に、最後に出る事が出来た、

バスのドライバーの方の証言だと…

出口の手前200mほど前から地震が起り、サイドミラーで後ろを見ると…


ハンドルを切り損なって、

トンネルの側面に当たってしまった車を

見たそうです…


そして出口直前に、サイドミラーをもう一度見た時の光景は、

火の手が上がり…

その直後、トンネルの天井が落ちて来た…

その様に言っています…」


その場に居る誰もが、

言葉を失ってしまった。


時間は既に…2時間半を経過している…

誰も口には出さないが

(生存率は…限りなく…

低いんじゃないだろうか…)

と思っていた。


その時、1人の警察官が大声で、

「人だ!人が出て来たっー」

と叫んだ。


トンネルの入り口に…

サーチライトが当てられると、

マスコミのカメラは一点に集中した。


トンネルの側面と、

大きな岩との間にある、

小さな隙間から…

1人…また1人と、人が這い出して

来たのだ。


救急隊、レスキュー隊の人達は…

毛布や機材を持って走り出した。


マスコミの人達は歓声を上げて…


「御覧いただけているでしょうか、

生存者の方が、1人…2人、3人…

えっ…?えっ〜沢山の方達が出てこられました…やった〜皆さん元気そうです…

あれ?なんだか笑って居られてるように

見えます…


あれ、本当に笑ってます…?

何があったのでしょうか?」

その満面の笑顔は、テレビを通じて全国に流された。


北側の出口には、ボブとリンダとジョニーとアンジーが…

そして南側の出口には、グレイとルーシーとメリーとベイが…


それぞれ出口5mの手前まで…

フリー&ブレスレットが、

トロッコ電車に変身して、

皆んなを送ってくれた。


北側45名。

南側38名プラス、遺体が1名。


北側出口でトロッコ電車を降りた45名は、ボブから最後の注意事項を言われた。


「ここから5m先が外に成っています…

沢山の人達が出迎えてくれるでしょう…」


45名は神妙な顔つきで、

ボブの言葉に耳を傾けた


「狭い隙間を進んでもらいますので、

四つん這いに成ってもらいます…

その時…前を進む女性の方のお尻が、

魅力的であっても、決して触らないように

お願いします」


真面目な顔つきでボブが

そんな事を言ったので、

45人は噴き出してしまった。


その状態のままで外に出たので、

マスコミの人達から

「皆さん…笑って居られましたが、

中に取り残された状態で、

怖く無かったですか?」

と聞かれてしまった。


45名は(もう〜ボブさんが…

変な事を言って笑わすから〜…

でも…本当に…感謝しています…)

そう思いながら、

秘密厳守を前提に…

マイクに向かって、


ジョニーから教わったシナリオを喋り、

そして後は…

適当な嘘を並べておいた。


南側の出口では、

グレイが真面目な表情で…

「狭い所を進んでもらいますので、

頭には気をつけてください、

1人ずつ順番にどうぞ…」

と言っていた。


その時1人の女の子が

ベイに駆け寄り…

手を握り締め

「天才、悪魔博士、ありがとう!

面倒くさい博士の事、大好きだよ、

じゃあね、バイバイ」

と言って…

女の子は両親の元に戻って行った。


ベイは笑いながら

「んっ〜…私の事を、誰かが…

なんか言ってたんだなぁ〜」

と言って周りを見回した。


すると目のあった男の子が

「大好きで、尊敬しているけど、

天才は面倒くせ〜なんだってさ」

そう言って親指を立てた。


母親は慌てて息子の口を押さえたが…

隣りにいたお姉ちゃんが

「馬鹿ね〜アンジーさんが

内緒にして下さいって、

手を合わせてたでしょ」

と言った…


両親は(あちゃー)と言うような顔で…

額に手を当てると、

ルーシーがおもむろに


「子供って正直なのよね〜」

と言ってしまった。


グレイが慌てて

「ルーシー、思った事を口に出しちゃ

ダメだよ」

そう言って口を押さえたので、


温厚なベイなのだが思わず

「ナンだとこの野郎〜」

と言ってしまった。


当然本気で言ってない事は、

その表情を見れば誰もが分かっている、

何せ、顔が笑っているのだ。


ただ、真面目で丁寧な喋り方のベイが、

砕けた表現をしたので、

38名はとうとう笑い出してしまった。


その状態で外に出たので、

南側の人達も、

北側の人達と同じような目に

あってしまった。


ただ、南側は1人の方の遺体があるので…

駆け付けて来ている家族の手前、

そうそう砕けた冗談ごとは…

誰も言わなかった。


ベイ達は船に戻ると…

直ぐに山を元の場所にソッと戻した。


しかし亀裂が入っていたのか…

山は、ガガガガッ、っと言う音と共に、

トンネル内は…

完全に押し潰されてしまった。


マスメディアは

「まさに奇跡の生還です…

1分遅れていたら、全員が助からないところでした」と叫んだ。


しかし83人は

(…ゴメンなさい。本当は皆んな…

死んでいたんです。

優しい博士と、

助手の方達に助けて貰ったんですよ…」

と…思っていた。


船は一気に50000m上空に上がった。

ベイは皆んなに向かい


「ご苦労様、実戦を兼ねた

勉強会だったけど、

疲れてないかな?

大丈夫だったかな…」


するとアンジーが…

「あの…ベイ博士…」

「なんだいアンジー」


「あの…私…さっき皆んなの前で

博士の事を、

面倒くせ〜、って言っちゃったんです…

ゴメンなさい、本心じゃ無いんです…」


そう言って…

頭を下げているアンジーの足は、

ちょっぴり震えている…


ベイは微笑みながら

「アンジー、謝らなくてイイんだよ、

その場の雰囲気を見て、

アンジーが選んだ言葉何だから、

何を言われても、

僕は怒らないよ…

って言うか、

僕は昔から怒った事ないじゃん」


アンジーは腕組みをして

考えこんだ…そして


「あっ本当だ、怒られた事がない!」


「でしょ〜、だから気にしなくて

大丈夫だよ…

ただ、僕の心の中の成績表で、

アンジーは、減点3

って付けるだけだから」


そう言ってニヤッと笑った。


アンジーはジョニーにしがみついて

「そんなの嫌だ〜」と言って

地団駄を踏んで居る。


するとベイが

「冗談だよアンジー、

からかってゴメンね、

減点3は、僕の方だよ…

何だか皆んなに…

気を使わせてしまったみたいだね…」


そう言って、

下を向いて黙り込んでしまった。


ボブはリンダの耳元で

「…どうしよう、ベイ博士が悩んでるよ〜、

俺達…ですぎた事をしたのかなぁ」

そう言っている時に…


急にベイが頭を上げ…


「よし、だいぶ反省したから…

もういいかな」

そう言って微笑んだ。


リンダは思わず

「反省かよ!

落ち込んでるんじゃ無いんかい!」

と言ったので、

皆んなはとうとう笑い出してしまった。


〈… 離れたく無い…〉


窓から見える景色は、既に紫色に

変わっていた。

(今日も沢山の方達と出会ったな…)

8人はそんな事を思いながら、

窓辺のソファーに腰を下ろし…

コーヒーを飲みながら…

ボンヤリとした時間を過ごしていた。


そんな時、ベイが耳が痒いのか、

人差し指で耳を触っている、

するとメリーが、

自分の膝をポンポンと叩き


「どうぞベイ、私に耳そうじをさせて…」

ベイは嬉しそうにメリーの

太ももに頭をのせた。


「フリー・メー、

耳かきと、綿棒と、

ピンセットを出して貰えるかしら」

メリーの膝の横に…

3点の、耳かきセットが現れた。


「ベイ、痛ければ言ってね…」


6人はそんな2人を見ながら

(本当に良かったねメリー……

ベイ博士が居てくれて、

嬉しいね、幸せだね…)

そう思って見ていると…


「あっ…ゴメンなさいベイ、

ヨダレをこぼしちゃった」

焦るメリーに対してベイは…

「いいよ、いいよ…」

と言って笑って居る。


6人は(…こぼしたねメリー、

耳の中に入ったね、焦ってるね…

でも大丈夫、時間が経てば、

勝手に出るから…)

そう思いながら、小さく笑った。


そして夜の8時…

昨日に引き続き、

美味しそうなディナーが

皆んなの前に並べられた。


6人は(あぁ…幸せ…)と思いながら

グレイとルーシーに感謝した。


食後のスイーツを食べ…

紅茶を頂いている時…

「今頃、83名の人達も自宅に帰って、

食事が終わった頃かしら」

そう言ったのは、アンジーである。


ジョニーは小さく頷きながら

「お爺さんは…

奥さんと会えてメチャクチャ

喜んでいたけど…


息子さんは今頃…

悲しみに…沈んで居るんだろうね…」

と言った。


皆んなの視線は何となく…

ベイに向けられた

(博士…何とかして上げて下さいよ…)

そう言った顔つきである。


ベイは、視線を感じると…

「さてと…皆んなで、食後の

散歩に行こうか?」

「何処に行くのベイ…」


「メリーと皆んなが、

行きたがっている所だよ、

其れには先ず変装をしないとね」


首を傾げるメリーの手を握り

「フリー、僕達8人に警察官の

格好をさせて」


「かしこまりましたベイ博士」


フリー達は8人の身体に警察官の

制服として、覆いかぶさった。


「ベイ…この恰好で…もしかしたら、

お爺さんの家なの」


「皆んなが…気にしているようだからね」

7人は嬉しそうに親指を立てた。


同じような形の家が建つ…

閑静な住宅街。


夜の9時という時間帯もあってか、

どの家の窓も明るく彩られている…


しかし…一軒だけ暗い家があった。

8人は、其の家の玄関先に…

船からスーッと…

下りて行った。


一番前に立っているのは…

ジョニーである。

ジョニーとアンジーが、

最後の打ち合わせをしている。


そして、

アンジーがチャイムを鳴らした…

しばらくすると、中から若い男性の声が…

「どちら様ですか…」


「夜分にスミマセン警察の者です」

ジョニーは、ドアのガラス越しに、

警察バッチを見せた。


「少しお待ち下さい……パパ!

警察官の方達が来られたよ、

入ってもらうよ…

お待たせしました、中にどうぞ」


8人が通されたのは、

お爺さんの為に

息子さんが作ってくれた…

一階の一番奥の部屋である。


ベットには…お爺さんの遺体が…

ベットを囲むように椅子が置かれている。


目を真っ赤に腫らした…壮年の姿が…

8人の目に入った。


ジョニーはセキ払いを1回した後に…


「実は警察の方に…こんな物が届いたんですよ、宛名は書いていません」

そう言って一枚のDVDを壮年に渡した…


怪訝そうに見ている壮年に

「今すぐ…観られる事をお勧めします」

そうアンジーが言うと、

壮年は黙って頷き…

DVDをセットした。


すると横から…

「スミマセン、主人は…御父様が亡くなった事で…かなり動揺してるんです。

主人はトーイと言います、

私は妻のメリッサ、

息子のスタンと

娘のケートです」

そう言って

家族紹介をしてくれた。


8人は小さく微笑み

(はい…皆さんの事は、お爺さんから、

ちゃんと聞いておりますよ…)

と思いながら…会釈をした。


テレビの画面は真っ暗な状態から始まった…そして光が入り…

ペシャンコになった車…

力持ちの8人…

バラバラの遺体…

白い魔法の絨毯…

遺体を見下ろす幽霊…

その中に自分の父親が居た。


トーイは画面に向かって「父さん…」

と声を掛けた…


「この中で、生き返りたく無い方は居られますか?」手を上げる父親


「父さん!…何で?」

トーイを後ろから抱きしめるメリッサ。


父親は、15年前に亡くなった妻の元に行きたいと懇願する…


けむりの中から出てきた…

母親のキャリー

「…お母さん…?」

80歳から62歳になった父のマークは、

キャリーを抱きしめて、離さない。


何回もキスをしている父親は、

本当に母の事が大好きだったのだ。


知ってはいた…

知ってはいたが、

これ程…愛していたとわ…

嬉しそうな両親を見ていると…

今まで悲しくて、

胸が張り裂けそうな

自分の気持ちが、

不思議なくらい…

和らいで行く事が分かった。


ジョニーが家族に向かって

「もしも、今…目の前で信じられない事が

起こったとします…


其れを…私達がトップシークレットなので

絶対に他言無用でお願いします…

と言ったら…守れますか?」


そう言って4人の顔を順番に

見つめた。


妻と子供達は、

父親のトーイに視線を向けて

(パパ、私達どうすれば良いの…)

心の中で…そう呟いた。


父親は下を向いたまま、

自分の膝を両手でギュ〜ッと握った後に

「はい…守れます」

そう言って顔を上げた。


するとアンジーが

「トーイさん、今から御両親を…

この部屋に御連れします、

心の準備をお願いします」

トーイは…


「えっ?」と言いながら目を見開いた。


ジョニーは微笑みながら

「ベイ博士…もう大丈夫ですよ、

後はよろしくお願いします」

そう言って、

アンジーの手を握り…後ろに下がった。


ベイは

「ありがとう、ジョニー、アンジー」

と言って、

2人に会釈をした後に

「フリー・べー…あの世モード。

マーク御夫妻を探して」

と言った。


「かしこまりましたベイ博士…

少々お待ち下さい…

見つかりました。

此方に、お連れしましょうか?」


「頼むよフリー・べー…

マークさんの体を通り道にして、

お連れして貰えるかな?」


「かしこまりました」


…家族四人は、何がおこるのか…

ドキドキしながら…

ベイの顔を見つめていた。


その時、マーク爺さんの遺体が

ファ〜ッと光り出し…

四人が 「えっ?」と言いながら

観ていると、

マーク爺さんの体の上に

白い球体が現れ…

その中から両親が仲良く腕を組んで

出て来た。


「トーイ、久し振りね〜、


立派なお父さんに成ったわね〜。


メリッサ、素敵なママに成ったわね〜。


ケート、スタン、おばあちゃんの事を

覚えてる、二人とも大きく成ったわね〜」

そう言って微笑んだ。


息子のトーイは

「お母さん!!」と言って抱き付いた

「あらまぁ〜大きな赤ちゃんねぇ…

嬉しいわ、もう一度あなたを…

抱きしめられるなんて…」


トーイは人目も気にせずに…

泣き出してしまった。


キャリーはトーイの背中を撫ぜながら

「泣か無いの…

子供達に笑われちゃうわよ…」


すると孫のケートが

「おばあちゃん大丈夫よ、パパは映画を観ても、直ぐに泣いちゃうの、

私達…慣れているから」


そう言って微笑んでくれた。


マーク爺さんは…お嫁さんに向い

「メリッサ、こんな甘えん坊の息子だけど…この先も…連れ添ってやってね」


メリッサよりも先に孫のスタンが

「おじいちゃん大丈夫だよ、

パパとママは毎日エッチな事しているから、本当に仲がいいんだよ」

そう言って笑った。


メリッサは真っ赤な顔で

「えっ?何で知ってるの」

すると娘のケートは

「ママは声が大きいのよ…」

そう言って肩をすくませて見せた。


メリッサは真っ赤な顔で

「だってパパが……」

と言うと、マークがすかさず

「すまんね〜ワシに似たんだなぁ」

と言ったので、

部屋の中は、大爆笑と成ってしまった。


「トーイ…ずっとそばに居たいんだけど

…いずれ…別れの時は来るんだよ…

お前も、メリッサも

本当に何時も優しくしてくれて…

ワシ、本当に嬉しくて。


でも……

キャリーの居ない寂しさに…

ワシ耐えられないんだよ。


今日な…トンネル事故で、84人、

全員が死んだんだよ、でも、

そこに居られる…

ベイ博士が生き返らせてくれたんだ。


でもワシだけ…博士に頼んで、

62歳の身体に戻してもらって、

キャリーのそばに居たいです、

そうって言ってな…

ゴメンな…トーイ…」


そう言って

マーク爺さんは下を向いた。


「父さん…お母さんの所に行っていいよ…」「良いのかトーイ」

「いいよ…だってスッゴク…

幸せそうじゃないか」


「ありがとうトーイ、実は…

悲しんでくれているお前達に、

本当に悪いなぁ〜と思いながら、

ワシあの世で…

キャリーと二回も

セックスしちゃったんだ」


「マーク、皆さんの前で、

何を言ってるの!」

そう言いながら、

キャリーの顔は真っ赤になった。


メリッサは、

トーイをキャリーからソッと離し

「あなた、もう悲しくないでしょ…

あなたのパパとママは…

愛し合っているの…

ワタシとアナタの様に…」


トーイはメリッサを強く抱きしめると

「ゴメンよメソメソして…

僕には、世界一大切な君が居るんだよね…

俺って奴は…

50歳を過ぎているのに…

精神年齢は子供だね。

お父さんは、お母さんのモノだよね…

笑顔で見送るよ」

そう言ってキスをした。


マークはキャリーを抱きしめながら

「じゃあ、ワシらは…

ソロソロあの世に帰るよ、

三回目のエッチをするんだ、

ワシ、身体中から力が湧いて来てさ…」


「おじいちゃん ‼︎」


そう言って、二人の孫に睨まれると、

マーク爺さんは笑いながら


「いいか、可愛い孫達よ、

ワシから一つ

人生のアドバイスをしてやろう…

絶対に、好きな人と結婚しないと

ダメだぞ…」


すると孫のケートが

「おじいちゃん、

私は今一つだなぁって思っているのに、

相手の人が私の事を

大好きだぁって言った時は…」


すると横からキャリーが

「ケート、相手の人から愛情を

イッパイもらうと、

段々その人が…

世界一大好きな人になってくるわ、

でも…注意点が幾つか有るの」


「なぁに、おばあちゃん…」


「…酒癖が悪い人、

賭け事が好きな人、浮気性な人、

こう言った男性は絶対に駄目よ。

改心なんてしないから。


そして次は貴女……

彼がくれる愛情に感謝をしなさい、

当たり前だと思うように成ったら…

どこの誰と結ばれても…

上手く行かないわよ」

そう言って微笑んだ。


二人の周りに、白い煙が漂って来た…

「さあキャリー、二人の世界に…

あの世に帰ろうか」


「そうね。

トーイ、メリッサ、ケート、

スタン…私達は何時も…

あなた達の事を見守っているからね…

色々な事が有ると思うけど…

頑張ってね…」


すると

泣きそうなキャリーを…

マーク爺さんは、

後ろからヒョイと抱き上げ


「悪いけど、四六時中、

お前達を見ている訳にはいかないからな…

だってワシが…

キャリーにエッチな事ばっかり

しちゃうから、ガッハハハハ…」


二人の身体が球体に包まれた…

漂う煙の間から二人が手をふっている…


そして消えていった。


息子のトーイが…

「良かった〜、父さんと母さんが

一緒に居れて。


ベイ博士、本当に…

ありがとうございました。

亡くなっている両親に言うのは変ですけど、

本当に元気そうで、

幸せそうで、エッチで…

もう笑うしかないです。

ありがとうございました」


そう言ってマークが頭を下げると、

妻と子供達も同じように頭を下げた。


ベイ達が帰ろうと部屋を出ると、

四人が見送りたいと言ってついて来た


「いえ、あの…自分達で勝手に帰りますので、お爺様のそばに居てあげて下さい」


「大丈夫です、父は今頃…

母とエッチな事をしていると思いますから」そう言って微笑んだ。


ベイは(困ったなぁ〜)と思ったが…

もう玄関先まで来てしまった…

ベイ達は…もう一度家族に向かって

微笑むと…


「フリー・べー、船に帰るよ」

「かしこまりました」

と言う声と共に…

8人の身体は、空に向かって

上がって行った…

見送る4人は驚きを隠せない。


船には透明シールドが張られているので、

下から観ている4人には…

8人が夜空に消えて行ったように見えた。


「パパ…おじいちゃんと、おばあちゃん…

一緒に居れて…本当に良かったね」

と言う…スタンの言葉に


「うん…そうだね」と言いながら、

トーイは…メリッサを強く抱きしめ…


「亡くなった後でも…愛し合えるんだね…

僕は永遠に…メリッサを愛するから…

覚悟してね…」


「トーイ、望むところよ…」

そう言って…キスをした。


ケートはそんな両親を見ながら

「私も…パパとママのように

大好きな人と結婚するわね…」


するとスタンが3人に向かい…

「あのさぁ…一応確認の為に

聞くんだけど…

あの〜…ベイ博士って…

神様でいいんだよね…?」


トーイは満面の笑みで頷き…

ケートは

「8人の神様だったわね…」と言い…


そしてメリッサは

「安心したら…お腹が空いちゃったわ…

ママが焼いたアップルパイがあるけど…

食べる人…」

3人がサッと手を上げた。


トーイは嬉しそうな顔で

「さぁ皆んな…家の中に入ろう…」

4人は、もう一度夜空を見上げた後に…

家の中に入った。


船に戻った8人は、

満面の笑みである…

とくに、お爺さんの家族を上手に説得してくれたジョニーとアンジーに対して、

6人は絶賛の拍手を送った。


「皆んなチョット待って、

そんなに褒めて貰ったら、

僕とアンジーは…照れ臭くて困っちゃうよ」

そう言って頭をさすった。


するとベイが

「いや〜、ジョニー

言葉って大事だよ、

大げさな言い方かもしれないけれど、

人を…生かすも殺すも…

何気ない、

言葉からだと思うよ。


以前、僕が勤めて居た研究室にさ、

直ぐに、他人をバカ呼ばわりする

教授がいてさ…

大学を出て直ぐのスタッフに、

「お前は仕事が遅い」

から始まって、


「バカこれじゃ無い!

分からないなら聞け!」


其れで新人が

「これは、どの様にすれば…」

って聞いたら


「何でも自分で考えろ!」だってさ、

だったら「聞け」

なんて言うなよって事だよね、

挙句の果ては、新人向かって

「死ね…」って言うんだ。


可哀想にそのスタッフは…

自分はダメな人間なんです

って言い出してさ、

教授が丁寧に説明して上げれば…

スタッフ達はちゃんと仕事を

覚えるのにね…」


すると、ボブが…

「何で教授は丁寧に教えて上げないん

ですか?」


「自分より優秀な人材が出て来たら、

自分のポジションを

奪われてしまうと思っているからだよ…」


「うわー小さい男」と言って…

笑ったのはルーシーである。


「私とグレイが居た

レストランのスタッフや、コック長なんて、

先輩とか後輩なんて言わずに、

素晴らしい料理が出来た時は、

皆んなで食べて、感想を言って、

教え合って、

「皆んなで成長しよう」

って言う人達ばっかりだったわよ」

と言った。


するとアンジーが

「2人は良い人達…

良い店に巡り会えたのよ、幸せな事なのよ」そう言って微笑んだ。


リンダはベイに

「博士、その教授ってベイ博士が居る間、

ずっ〜と嫌な奴だったんですか?」


「そうだね…」

すると、横からメリーが

「実は、其処は4番目に解雇された

研究室なんだけど…

若手のスタッフを守る為に…

ベイったら、うふふふふ…

教授が所長に提出した…

ファイルの間違った部分を、

皆んなの前で…

思いっきり指摘したの…


間違った事は何時も

他人のセイにする教授だったんだけど、

ベイの追求が激しくて…

うふふ、


散々人を見下して来た人の末路は…

哀れだったわよ、

頭を抱えて…

座り込んでしまったんだから…

若手の13人のスタッフは

小さくガッツポーズをとっていたわ…

うふふ、


まだ少し続きがあって、

ベイったら所長までも

思いっきり指摘して…

実は教授とグルだったのよ、


「貴方のような偽学者が、

人類の進歩を妨げるんです、

恥を知りなさい」って…

日頃おっとりして物静かなベイが、

烈火の如くまくし立てたから…


うふふ、所長も教授も目が点に成っちゃて…ねぇベイ、あの研究室は確か…

自分から辞めたのよね」


「あぁ…そうだね…」するとリンダが

「えっ〜スゴイ…武勇伝じゃないですか」


「えっ、いや…そうかな…まっ、

いずれにしても、言葉って大事だよ、

だからジョニー、アンジー、本当に助かったよ、ありがとう」

そう言って

博士が頭を下げると…

2人は恐縮しながら…頬を赤らめた。


その後、

皆んなでソファーに座って

明日からの予定を話しあい、

ボチボチ各自部屋に

戻ろうかと話し合っている時に、

フリー・べーが博士の耳元で


「失礼します、タクミ様から作業終了の

報告が入っています」


「えっ、そうなの、ありがとう

フリー・ベー。

皆んなチョットだけ…

一階のタクミさんの部屋に、

一緒に来て欲しいんだけど…

観て貰いたいモノがあるんだ…」


「喜んで、ついて行きますよ」

そう言って7人は腰を上げた。


ボブがリンダの耳元で…

「一階のタクミさんの部屋だってさ、

なんか又…ドキドキ

ワクワクする物が観られるんだろうね」


「そうね〜何かしら?

でもタクミさんって…誰かしら」

「さぁ〜?」

そんな事を皆んなで言っている内に

エレベーターは

一階の部屋に降りてきた。


壁も床も天井も、真っ白な部屋である。

ベイは開口一番

「皆んなに紹介するね。

スカイシップの匠さんと女将さん」

7人が(えっ?…誰もいないけど…)

と思っていると…


「皆さん、はじめまして、女将と申します」

「匠と申します」


…部屋全体から声が聞こえた。

7人は驚きながらも…

「こちらこそ宜しくお願いします」

と挨拶をしたが…


今ひとつ分かっていない

(…誰なのかな?…透明人間かな…?)


そう思っている時…

何やら目の前に…

白いシートに隠された何かがある。


7人が(何だろう?…)と思っていると…

また、部屋全体から匠の声が…

「ベイ博士、お待たせ致しました」


その言葉のあとに…壁から

二本のアームが出て来て、

白いシートをはぐってくれた。


そこには8台の車が……

ボブは首を傾げながら

「ベイ博士、えっ〜と8台の車って…

俺達の車ですか?」

「違うよボブ、皆んなには…

フリーとブレスレットが居るでしょ…

この車は…

トンネルの中で潰された車達だよ」


「えっ、車も復元させる事が…

出来るんですか?」


「匠さんは、何でも出来るんだよ」

「なんでもですか?」

「そう、何でも…

僕が発想して、僕が設計したモノを全てを形に作り上げてくれるんだよ。


実は、このスカイシップも、

匠さんと女将さんが…

創り上げてくれたんだよ」


「えっ?…すごい、そうだったんですか…」

と7人は感心しているが…

やっぱり今ひとつ本当の凄さは

分かっていない。


ジョニーは

「ちなみにベイ博士…全部の車では無く

8台と言うのは?」


ベイは皆んなの顔を見ながら

「8台の車の所有者は

経済的に、生活が大変なんだよ。

おカネがない時に…モノが壊れたり、

モノを失うって言うのは本当に

辛いからね…」


するとアンジーが

「ベイ博士、聞かれたんですか?

生活が大変ですかって…」


皆んなも同じ事を聞きたいと思った、

なぜなら…

( 博士とメリーを、

一緒に閉じ込めて居たのに⁇)


6人は思っていたからである。

するとベイが…

「ゴメンね、言い忘れてたんだけど、

フリーを身にまとっている時は、

僕達が、見る…見ない、

聞く、聞かないにかかわらず、


周りの事を全てを

記録、分析してくれるの、

だからトンネルの中で…

皆んなが接した人達の事は、

フリー達から

この船…スカイシップのメインコンピュータである女将さんに入り、


女将さんがその人達の住まい、

生活状況、仕事の状況なんかを

分析してくれてね…


あの〜…なんて言えばいいのか…

この人と、この人は生活が大変で…

新しい車を買う事が出来ません…

って教えてくれるんだよ、


でも僕は…皆んながトンネルから出る時に

「保険に入っておられない方…

車を買う余裕の無い方…」

って聞いたんだけどね…

皆んな、覚えて無い?」


すると7人は顔を見合わせながら…

「あっ〜、ハイハイ…思い出しました!

…言ってましたよね…」

と口々に言い出した。


その時タクミが…

「ベイ博士、8台の車は…

新車同様に治して置きました…

8台の車を、

順番に下ろす準備が整いました…」


ベイは皆んなの顔を見ながら

「今から、もう一回だけ手伝ってくれる」

と言うと、7人は…

「はい、了解です…」と言って…

笑顔で親指を立ててくれた。


共働きで、やっとの思いで手に入れた

中古車。

でも、家族にとっては

大事な移動手段であり、

大事な宝物なのだ。


生き返れた事を喜ぶ家族…


車が無くなった事に落ち込む家族…


バス停までの距離を調べる家族…


自転車の点検をする家族…


「…明日から、少しだけ不便に成るけど、

命を助けて頂けたんだもん、

また頑張って働けば、

いくらでも車を買う事が出来るわ、

とにかく生きている事に、

感謝しましょう」


母親の言葉に、

父親と子供達は、笑顔で頷いた。


そんな時に、玄関のチャイムが鳴った。

「誰だろう、こんな時間に」

そう言って、

皆んなで玄関に向かう


「どちら様ですか?」

と怪訝な顔でたずねる家族…


「夜分遅くにスミマセン…」

「あっ…面倒くさい博士の声だ」


正直な子供の口を押さえる母親…


満面の笑みで…ドアを開ける父親。


トンネルの中の8人が…

「コレを届けに来ました…」

そう言って、

車の鍵と、封筒を渡し…

「頑張ってくださいね…」

そう言って…

空に昇って行った。


ポカンと口を開けて、

空を見上げる家族…

「パパ、ママ、車だ!

私たちの車がある!

でもなんか新しいよ…」


そう言って、飛び跳ねて喜ぶ子供達。

奥さんが封筒を開けると…

5000ドルのお金が…


「お父さん、これ…」

「なんで…なんでこんなに

優しくしてくれるの…」

泣き出してしまった父親に…


「パパ…「その内に良い事があるさ!」

って、パパとママの口癖だったけど…

本当に…今日いっぱい…

良い事が有ったね…」


8組の家族は歓声を上げ…

大いに喜んでくれた。


スカイシップのデッキの中で、

お互いの顔を見回している8人は、

(今日も本当に、色々な事があったな〜)

と言いたげな顔をしていた。


「皆んなゴメンね、もう夜の

10時に成っちゃった、

労働基準法を守ってくれよって…

言いたいよね」


ベイが、そんな事を、

真面目な顔で言うので、

7人は思わず噴き出してしまった。


するとメリーが…

「ねぇベイ」「なんだい、メリー」

「今日で…今年も終わりだから…

ちょっとだけパーティーをしたいな〜

って思うんだけど…」


6人は心の中で

(…メリー…最高の提案だよ…)

誰もが満面の笑みである。


ベイは頷きながら…

デッキの中央部に進み…

「女将さん、どこか夜景が一番綺麗に見える場所に移動して貰えますか?」


「かしこまりました…」

そう言い終って、わずか3秒で、

窓の外の景色が変わっていた。


サンフランシスコの上空500m…

見る者を感動させる…大人の夜景。


7人は思わず、歓声を上げた。


「皆んなでドレスアップをして…

今から…30分後にデッキに集合って言うのはどうかな」

ベイの提案に、7人は満面の笑みで

親指を立てた。


8人が部屋の中に駆け込んで行くと、

フリー達はデッキの中央に集まり、

小さな会議を開いた。


「御主人様に…

喜んで頂ける様な演出を考えよう」


「まず、デッキの中を…どんな感じのラウンジにしようか?」


「世界の中で、ベスト5に入っている

店の中から選ぶ…?」


「…そうだね…8人の御主人様の好みは、

チャンと此方で把握しているからね」


「御主人様達の好みで言うと…

1番の店よりも…3番目の店の方が

いいんじゃないかな…」


「そう思うよ」


「決定だね」


「私とメーは、天井を担当するよ」


「僕とリーは、床を担当するよ」


「僕とアーは、壁だね」


「じゃあ僕とルーは、オードブルとカクテル類を担当するね」


「今から…20分間で仕上げよう」


「了解、フリー・べー」

そう言ってフリー達は一斉に動き出した。


30分後、シャワーを浴びて、

オメカシをして…

8人は各部屋から、

手をつないで出て来た。


「…キャ〜、素敵なラウンジに

成っている〜」

4人のレディーの声に…

8体のフリー達は、ニンマリと微笑んだ。


女性陣は…

お互いに可愛いいと褒め合い。

男性陣は…

(…皆んなには、本当に申し訳ないけど…

僕の彼女が一番、綺麗だ…)と

心の中でほくそ笑んでいた。


席について…

「今日も一日…ご苦労様でした」

と言っては乾杯。


「四人の女性は美しい」と言っては

乾杯。


「最高の年末だ」と言っては

乾杯をした。


ルーシーが笑いながら

「ねぇ皆んな、子供の頃…

12時を過ぎる瞬間に、

8人で飛び上ったこと覚えてる」


するとグレイが笑いながら

「覚えてるよ、年が変わる瞬間、

僕達は地球に居ませんでした…ってね」


ジョニーが

「僕は…アンジーの手を握って、

真剣に跳んでたよ…なんか…

幸せになれるような気がしてさ…」


「私も幸せに成りたくて、

ジョニーの目を見つめながら跳んでいたわ」


するとリンダが…

「私は自分で飛んだ事がないの、

毎回ボブが、私を抱っこして

跳んでくれるの、

ボブあれは何だったの?」


「飛び上がって…2人が、

離れてしまわないようにね…」


「私がボブから…離れる訳ないじゃない」「いや〜リンダは綺麗だから、

他の男に、盗られるんじゃないかと

思ってね…」

そう言って下を向いた…


リンダはボブの耳元で…

「私は、あなたのモノなのよ…

誰にも盗られたりしないわ。

私の、心と身体の中には…

ボブしか入れないように成っているの…

今夜も入って来る…」


「はい、よろしくお願いします」

そう言って…

ボブはリンダを力強く抱きしめた。


すると…

「…なぁに2人で…ナイショ話しをしてるの〜

リンダ、ボブ。抜けがけで…

イチャイチャしたら…

いけないんだからね〜、

私だって…ベイとエッチしたいのを…

ガマン…してるんだからね〜」


「えっ〜?…メリー酔っぱらってるの?」


「酔っぱらってるかって…

ベイ、私って…酔ってるの…

ベイが…3人もいるー、

なんだか…気持ち悪い〜」


リンダは笑いながら

「メリーはお酒が弱いんだから、

ゆっくりと、少しずつ飲まないと〜、

後でエッチが出来ないわよ」


「えっ〜〜そんなの嫌だ〜」

そう言って、

水を飲み出した…すると今度は

「あっ〜オシッコがしたくなって来た〜…

目が回って立てないよ〜」


ベイは、慌ててメリーを抱き上げると、

自分達の部屋に、駆け込んで行った。


その…後姿を見送る6人は…

大爆笑である。


デッキ内は…

夜景の美しさを引き立てる為に、

かなり暗い間接照明になっている…

其れが何とも言えない…

イイ感じに成っている。


皆んなを優しく包み込むような…


クラシックの曲…


女性達の小さな笑い声…


ヒソヒソと喋る、ヤラシイ会話。


そこに…

メリーを抱っこしたベイが…

デッキの中に戻って来た。


「あら…メリーのドレスが…

変わっている…

間に合わなかったの…かしら…」

リンダの小さな独り言に…

ボブは…


「大丈夫だよリンダ…

ベイ博士はとにかく

メリーの世話を焼く事が大好きだから…

きっと喜んで、

服を脱がせて、シャワーを掛けて…

服を着せたんだと思うよ…

ほら、博士の…あの顔…」


「本当だ…嬉しそうな表情ね…」

そう言って…小さく笑った。


ベイは…メリーを膝の上に乗せて、

とにかく御満悦である。


(…可愛いいメリーが…僕の膝の上に居る…

メリーが楽しそうに笑って居る…

メリーは本当に可愛いなぁ〜)


そう思いながら…頬ずりをした時…


デッキの中の音楽は、

静かな…ジャズの曲に変わっていた。


ジャズを聴きながら…

グラスを傾ける8人…

(何て素敵な年末だろう…)

誰もがそう思っている時…

ボブが急に


「皆んな、あと15秒で、

年が明けるよ、どう…子供の頃のように、

飛び上がって見るかい?」

と言って、オドケテて見せた。


すると真顔で

「よし、皆んなで飛ぼう」と言ったのは

ベイである。


ボブはリンダを、嬉しそうに抱き上げた。


グレイとジョニーも

ボブの真似をして…

ルーシーとアンジーを抱き上げた。


ボブがカウントを取り出した

「 8 ・7 ・6…」

ベイは…メリーを抱っこしたままで

立ち上がると

「メリー、愛してるよ」

そう言ってキスをした

「 5 ・4 ・3… 」


ベイは、嬉しそうに微笑むメリーを

見つめながら…


「フリー・べー、宇宙に!」


「かしこまりました」


「…1 ・0…」

男性は…彼女を抱きしめたまま

ジャンプした…


窓の外の景色が一瞬にして…

宇宙に変わった。


しかも船内は…無重力状態になっている。


ジョニーが嬉しそうに叫んだ、


「本当に地球に居なかった!

子供の頃の夢がかなった!」


次の瞬間…

女性達は自分のパートナーの首に

両手を回し、

これでもか…と言うくらいに

激しいキスをしだした。


3分…5分…

なかなかキスが終わらない…


フリー・べーは、、他のフリー達を呼んだ


「…見ての通り、御主人様達は、

すっかり出来上がっています。


もう周りが見えず、手に負え無い状態です…

皆んなの意見を聞きたい」


するとフリー・リーが…

「大変キケンな状態です、リンダ様の下半身の体温が高くなっています」


フリー・アーも頷きながら

「アンジー様もドレスを脱ごうとしています…キケンです」

そう言ってソワソワしている、


その時、フリー・ルーが、

御主人様を指さしながら

「ルーシー様が、グレイ様のネクタイを外しています」と言った。


フリー・ベーは

「マズイな……ボーと、グーと、ジーの

御主人様は、どうなさっている?…」


すると3体は声を揃えて

「彼女のする事に、

鼻の下をのばしています」と言った。


フリー・べーは8人の御主人様を見ながら


「緊急対処に入ります。

各自、自分の御主人様を、

無重力状態のままで、

各部屋のベットまで、お連れしてください。


無重力を解除する前に、

靴、あるいはヒールを脱がして上げて

下さい。


照明の、色と明るさ…

そして、BGMの選曲は、

各御主人様の好みに合わせ上げて下さい。

質問は…」


フリー・リーが手を上げて

「明日の朝の、集合時間はどうしましょう。

御主人様同士で

「9時にブリッジに」

と話し合っておられましたが…

そのままで宜しいですか?」


「…いや明日の集合時間は…

昼の12時。

昼食をとりながら…

という事にしてください、

今この雰囲気を見る限りでは、

この先3〜4時間くらい、

セックスタイムが続くと思います。


朝9時の集合は…

少し難しいかと思います。

ベイ博士には…私の方から、

6人の御主人様達からの、

要望だと伝えます。


皆さんは、自分の御主人様に

「ベイ博士が集合時間を変更されましたよ」と伝えて下さい…

他に質問は無いですか」

「……」

「無いようですので…では速やかに行動に移って下さい」


「了解しました」

そう言ってフリー達が振り返ると…

事態はカナリ深刻な状態になっている、

フリー・ルーが思わず


「もっ〜、30秒程の間で、

皆さんほとんど服を脱いでるじゃん」

と叫ぶと、


フリー・べーが

「取り乱さない、でも急いで!」


フリー達は一斉に動き出してた。


フリー・べーは、部屋の中に入る前に、

クルリとデッキの方に首を回し


「女将様、すみませんが……

デッキの後片付けを、宜しくお願いします」


女将は優しい声で

「うふふふふ、

ちゃんと片付けておきますよ。

フリー・べー、ご苦労様でした」


ベイはそんな会話を…

かすかに聴きながら、

メリーの胸の中に顔を埋めた。


〈女将さんと匠さん〉


1月1日…。

スカイシップは5000m級の

山々が連なる、カナダの上空

8000m辺りを漂っていた。


2ヶ月前の話しを少しだけ…


…船内のデッキには誰もいない、

女将は歌を歌いながら……

1人で船内の点検をしていた。


午前7時…各部屋からフリー達が出て来た「女将様、おはようございます」


「おはようフリー…」

フリー達は順番に女将に挨拶をした。

フリー達からすれば、

女将は母親であり、

匠は父親である。


フリー達は、女将に甘えるのが

大好きである、

なにを聴いても優しく答えてくれる、

そして必ず褒めてくれる。


女将もフリー達が可愛いくてしょうがない…丸くて小さなフリー達が、

船内、船外を問わず、一生懸命に、

働いている姿を見ると…

船内の中心部の核が…

キュンとするのだ。


ある日、船内設備の最終チェック

をしているフリー達から


「女将様…歌を聴かせて下さい」

とせがまれた事がある


「いいわよ、何の曲がいいかしら?」

フリー達は嬉しそうにリクエストをした…

唄が流れると…

嬉しそうにリズムに合わせて働くフリー達…


始めは「曲を聴かせて下さい」だった。


しかし、時間が経つにつれ…

「女将様の歌声を聴かせ下さい…」

に変わっていった。


「ごめんなさいね、私は歌えないの…

世界中の曲を取り入れて、

ソレを船内に流すだけなのよ」


しかし、フリー達は諦めない

「お願いします、女将様の歌声が

聴きたいのです…」


丸くて小さなフリー達が

お願いしている所に、

ベイが入って来た。


「どうしたのフリー達」

「あっ、ベイ博士…今…女将様に

歌声を聴かせて欲しいと…

お願いしてるんです…

ベイ博士、女将様は唄えないんですか?」


「唄えるよ、とても美しい声だよ」


すると女将は

『キャッー!ベイ博士!

なんでそんな事を言うんですか!」


「えっ?ダメなの」


「私は恥ずかしくて、唄えません!」


「えっ〜なんで、フリー達に聴かせてやってよ、皆んな感動すると思うよ、

女将さん、お願いしますよ…」


そう言ってベイは、顔の前で手を合わせた。

「えっ〜でも私は…」

と拒む女将…


するとフリー達が

「女将様、ベイ博士が手を合わせて、

お願いしておられますのに…」


「モッ〜、分かりました…唄います…」

そして…透き通るような、美しい声に…

フリー達は耳を傾けて…

ウットリとした。


船内の、壁や天井や床の色は、

女将の状況判断によって、その都度…

色が変わって行く。


例えば…昼間、夜間、海中、地中、

宇宙など、

船内に居る人達に…

ストレスがたまらないようにしてくれる。


ところが、女将が唄い出した途端…

船内はピンク色になり、

そして真っ赤に成った…

女将は、恥ずかしがり屋さん…

だったようである。


この事に関してはベイ自身も

(…創った僕が言うのもオカシイけれど…

女将さんと、匠さんは、

時間と共に…成長しているんだよね…

人間と同じ感情を身に付けている

みたいだ…)と思った。


2ヶ月が過ぎた今現在は、

真っ赤になる事はないが…

其れでも女将が歌えば、

船内は薄いピンク色になってしまう。


そして…

1月1日…昼の12時…

女将は歌声を…小さくした。


各部屋の扉が開き、

2人ずつ…手を繋いで…

幸せを噛み締めています、

と言うような…

鼻の下を伸ばした8人が出て来た。


ルーシーはデッキ内を見回しながら

「ねぇグレイ…船内がピンク色に

なっている…カワイイ…」


「本当だ、素敵だね…」

すると、

その言葉に反応してリンダが


「何だか落ち着くわね〜」

と言った。


アンジーは両耳に手を当て…


「ねぇ…とっても綺麗な声が聴こえる、

なんだか胸が…熱くなってきちゃった」


「聴いた事はないけれど、

天使の歌声って…

こう言った感じなのかしら?」

そうメリーが言葉を続けると、


ベイを除いた7人が…

大絶賛をしながら頷き合った。


メリーはベイの顔を覗き込み

「ベイ、誰が唄っているの…

知ってるんでしょ」


「…御本人が、ナイショにして欲しいって言ってるんだよ」


ベイは、全員から冗談っぽく

ブーイングをされた。

すると、


フリー・べーがベイの前に立ちはだかり

「皆さん、ベイ博士にブーイングは

良くありません…

私がお答えします、

天使の声の持ち主は…

スカイシップの女将様です‼︎」


すると突然…部屋全体から

「キャッー、フリー・べー、

言わない約束だったでしょ!」


「女将様すみません、

ベイ博士を悪く言われたく無かった

ものですから、ゴメンなさい」


すると7人から…

「最高の歌声ですよ!」

そう言って、拍手と喝采が

女将に贈られると、

船内は一瞬にして

真っ赤になってしまった。


ボブは微笑みながら

「女将さん、すみません、

でも…今日から3日間…

ベイ博士から、

船内の機能をしっかりと熟知するようにと、厳命されていますので…


女将さんの美しい歌声は…

いずれ…分かる事になりますから…

その〜、フリーを叱らないで下さいね」

そう言って頭を下げた。


すると女将は…

「私の方こそゴメンなさい。

AIのクセに取り乱したりなんかして」


その言葉を聞いたジョニーが

「女将さん、謝らないで下さい、私達が悪いんです、何でも知りたがって」


すると女将が

「ジョニーさん、好奇心旺盛は悪い事ではありませんよ、

ベイ博士は、好奇心旺盛のかたまりです…

私も主人もフリー達も、好奇心旺盛に作って頂いております。


ベイ博士に、とっても感謝しています。

ですからジョニーさん、

そして皆さん、

何でも知りたがって下さいね」

と言った。


するとグレイが…

「あの〜女将さん、すみません、

さっそく質問してもいいですか?」


「グレイさん、何でも聞いて下さい」

「あの〜、女将さんの御主人様って、

もしかしたらタクミさんですか」


「はい、その通りですよ」

「あの〜結婚して…おられるんですよね」


「はい、ベイ博士がそうして下さいました…なんだか照れてしまいます…

あの私、そろそろ仕事に戻ります、

失礼します」


グレイは…

満面の笑みで皆んなの顔を見回した後に…


「あの〜ベイ博士…え〜と、

僕が質問したい事は、たぶん皆んなも聴きたい事だと…思うんですけど…」


ベイは小さく笑いながら

「グレイ、皆んなも…とりあえず、

テーブルの周りに椅子が見えるだろ…

座って話そうよ」

そう言って

メリーの腰に手を回した。


ベイは席に着くと、まず皆んなの顔を

見回し…1年前から、

3日前までの間に…

一体なにがあったのか、

自分が何をして来たのか、

約二時間、

昼食を取りながら…

皆んなに聞いて貰った。


本来なら、二時間も人の話を聞くのは

苦痛以外の何物でもないが…

ベイの話には、

少しも苦痛を感じる事は無く、

むしろ

(もっと聴きたい)

と思えるぐらいだった。


ルーシーがいきなりグレイを床に寝かせた。そして…

「ベイ博士…匠さんと女将さんの形は…

こんな感じですか?」

と言って、寝かせているグレイの上に…

自分が重なった。


「うん…その通りなんだけど、

人がマネをするとエッチっぽく

見えちゃうね」

と言って笑った。


7人は今更ながらにベイの頭の良さに

驚嘆してしまった。


船そのものに意思と人格を持たせ、

なおかつ、

寂しくないようにと、

夫と妻に分けて…

まるで御主人が奥様を

オンブをしているような感じに…

船が構成されているのだ。


8体のフリー達も、男女、四人ずつに分けて、あたかも恋人同士のように

創り上げている。


メリーは…ベイの顔を見つめ…

「船に優しい感情を持たせたのは…

私がベイの前から…

消えちゃったから…」


「そうだよ。メリーが居なくて…寂しくて。

皆んなが居なくて切なくて。


女将さんは自分の事を、

AIのクセにって言っていたけど、

僕は…女将さんも、匠さんも、

立派な人格を持っていると

思っているんだ。


さてと…船の事を更に知って貰う為に、

今日を入れて三日間、

船内の機械類の…使い方講習会を始めます。


皆んなのフリー達が、

船内の隅々までを案内してくれて、

目の前にあるモノの仕組みや、

使い方を教えてくれるから…頑張ってね。


僕は…新しく作りたいモノがあるので別行動を取らせてもらうね…

じゃあ、始めようか!」


ベイの号令で……

全員が親指を立てながら席を立った。


7人は三日間の勉強会で、

船内の99%を理解する事が出来た。


朝の9時から12時までの3時間と、

1時から7時までの6時間、

1日9時間の勉強会は、

まるで試験を前にした

学生のようである。


しかし7人は、

フリー達が進めてくれる勉強会が

楽しかったのか、

誰も不平不満を言わず、

むしろ、

船内の疑問点を理解して

行けることに対して、

喜びすら感じていた。


夜の8時…

少し遅めの夕食の席は、

三日間の勉強会をやりきった!

と言う、

自信に満ち溢れた

7人の顔を見る事が出来た。


「皆んな疲れてない、大丈夫かな?」

ベイの問いかけに、

一番早く反応したのはジョニーである。


「疲れるどころか楽しくて…

ただ1つだけ、

解らない事が…

フリー・ジーに聞いても、

そこは私にも解りません、って言われて…」


「何処の事かな?」

「この船の…ちょうど真ん中あたりの部屋の事なんですけど」

「………」

「ベイ博士、聞いてますか?」


「知りたいの…」

「…いえ、あの〜無理に知りたい

訳でもないんですけど…ただ、

あの部屋って何かなぁって

思っただけで…」


「ちょっと待っててね、聴いて来るから」

そう言ってベイは、

デッキ中央部にある自分の操縦席に座り、

黙ったままで…

何かを打ち込んでいる。


何時もなら「フリー・ベー何々を頼むよ…」と声で指示を出すのに…

7人は首を傾げた。


ジョニーは小さい声で

「皆んなゴメン、なんだか僕の質問で…

食事会の雰囲気が…悪く成っちゃったね」

するとメリーが…


「ジョニー気にしないで、

実は…私もあの部屋の事が気に

成っていたの、

私が聞けば良かったのよね…

ジョニー、アンジー、ゴメンね」

と謝った。


すると、リンダが

「ジョニー、実は…私とボブもあの部屋の事が気に成っていたのよ…」

と言うと、

グレイとルーシーも

「私達も…」

そう言って小さく手を

上げながら…

苦笑いをした。


2分間ほどの沈黙…

デッキの中には重い空気が漂っている。


メリーが

(私が何とかしなくちゃ…)

そう思いながら立ち上がると、

ベイも同じくらいに立ち上がり、

そして…


「ジョニー、皆んな、お待たせ。

女将さんと、匠さんからOKが出たよ、

皆んなで会いに行こうか?」


そう言ってベイは…メリーの手を握った。


皆んなは

(えっ?女将さんと、

匠さんに会えるの?

スカイシップの…AIじゃないの…)

そう思いながら席を立った。


エレベーターを使い…

その部屋の前まで来ると、

見るからに重そうな扉が

視界に入って来た。


7人は

(そうそう…この部屋だよ…)

と思いながら、ベイの顔を見つめた。


ベイは明るい声で

「すみません、ドアを開けて良いですか」

と言うと…

デッキの中で聞き慣れている

女性の声が


「どうぞ、主人も今…帰って来ました」

その声に7人は…

(あれ…?女将さん…かな?…)

と思った次の瞬間、


重そうに見えた扉が、サッと開き、

中に…真っ白な2人が立って居た。


日本の着物だろうか?

とにかく…衣類も、髪の毛も、肌の色も、

真っ白なのだ…

そう、瞳の色までも…


7人は、ふと…

(あの世に居た時の…自分達のようだ…)

と思った。

2人は仲良く腕を組んで立っている


「なんだか…照れちゃうわ…」

ハニカム女性の声は、

やっぱり女将本人なのである。


「昨日…皆さんと、下の部屋で挨拶をしましたよね、女将の亭主の…匠です」

その声は、まさしく匠だった。


7人は心の中で(えっ〜〜!)

と叫んだが、

顔色を一切変えず…

微笑みながら…会釈をした。


女将は

「皆さんビックリしたでしょ〜、

きっと驚かれるだろうから、

私は嫌です、って言ったのに…

主人ったら、

一緒に暮らしているんだから、

ちゃんとした御挨拶は必要だよって…

ゴメンなさいね、

こんな2人で…」


するとメリーが2人の前に進み…


「この様に、会う事が出来て本当に嬉しいです、握手してもいいですか?」


そう言って右手を差し出すと、

女将とタクミは、

同時に手を出して来た。


メリーは慌てて…左手も差し出した。

すると…

匠は、メリーの左手を、両手で包み…

女将も、メリーの右手を、両手で…

包み込んでくれた。


「暖かい…

フワフワの手ですね。

あの…

何時も私達の事を護って下さって…

本当にありがとうございます」


そう言ってメリーは…

2人の手の甲にキスをした。

2人は声を揃えて


「こちらこそ、ありがとうございます」

そう言って微笑んだ後…


「今はまだ真っ白な私と主人ですが…

研究を重ね…

さらに、進化をして行きますので、

仲良くして下さいね」


そう言って、女将は匠の顔を見つめた。


すると匠もニッコリと微笑み…

「あと少しで…

皆さんの本当の気持ちを、

感じとれる様に成ると思います」

そう言って頭を下げた。


7人は

(何の事だろう…

本当の気持ちを感じ取れる…)

そう思ったが…

あえて、その事は口に出さず…


7人は女将と匠を囲み…

「こちらこそヨロシクお願いします」


「キャ〜なんか嬉しい…」

「お二人とも素敵〜」

「これからもっと、船内での生活が

楽しく成ります…」

と言う様な

言葉を交わしながら、


順番に…2人に握手を求めて行った。


そんな、何とも言えない、

和気藹々の中…

ベイは…女将と、匠に向って

(…ねっ、誰も、怖がら無かったでしょう)

と言うような視線を送った。


すると2人は、

嬉しそうにベイの顔を見ながら…

小さく頷いた。


ベイは…

(匠さんと、女将さんの事を、

皆んなに紹介する事も出来たし…

これで船の事は全て、

皆んなに分かって貰えたかな…

今はとりあえず、

これで良かった……)

そう思う事にした。


1月4日、朝食を済ませた8人は、

今までに行われた勉強会の、

復習をしようと言う事に成った。


7人からの質問に、

ベイが答えていくと言う形式である。

7人は、質疑応答が楽しくてしょうがない、


ナゼなら…

そんな事、出来る訳無いじゃん、

或いは、そんな事、

知っている訳無いじゃん、

と言う様な質問でも、

ベイに掛かると簡単に


「その質問の答えは…こうなるんだよ」

とか

「ボブの希望的発想はいかしてるね…

出来るよ、今からやってあげるね」

なんて言うように、

何でも答えを出してくれるのだ。


7人は心の底から

(やっぱりベイ博士は天才だぁ〜

理屈抜きで、本当に…何でも…

知ってるんだよなぁ…)

と思った。


午後6時、

グレイとルーシーが

「今夜は…何が食べたいですか?

リクエストがあれば言って下さい〜」

皆んなから要望を聞いて居る時だった…


女将の声が船内に流れてきた…

「海難事故が発生しました。

現場はハリケーンの真っ只中です。


全長32mの巻上げ漁船二艘です、

いま漁船が海上から姿を消しました。

乗組員は二艘合わせて33名です…」


女将の報告を聞きながら…

ボブとグレイとジョニーは、

1階前方にある開口室に降りて行った。


「ベイ博士、何時でも外に出られます」

「了解、ボブ。ジョニーもグレイも

気をつけてね」

そう言っている時に女将から…


「ベイ博士、事故現地上空に着きました…

船外は暴風雨、波の高さは30mから

40mです…」

7人は、

(…全長が200mくらいある大型船でも…

この嵐の海は怖いよね…)

と思った。


その時「…海中に入りますか?」

と言う匠の言葉に、

ベイは即座に

「お願いします」とこたえた。


女将から…

「ベイ博士、船内に取り残された

乗組員が24名で、

海中に投げ出された人が9名です」


「はい了解です。

ボブ、ジョニー、グレイ、

聴いてくれたかい、

手分けをして9名を頼むよ…」


「了解しました。」

3人は救出活動に出て行った。


17秒後、匠から…

「ベイ博士、たった今、

漁船を二艘…捕まえました。

船内に回収しましょうか」


「ありがとうございます、船内に

入れてあげて下さい」


「了解しました…

ベイ博士、船内に残された24名は

無事です、沈んだ後も空気が残って

いたんでしょうね」


「間に合って良かったです、

ありがとう、匠さん」


すると今度は、グレイから…

「ベイ博士、今…3名の方の遺体を

回収ました…」

「ご苦労様グレイ、気をつけて

帰って来てね」

「はい、すぐに戻ります」


更にジョニーから…

「ベイ博士、いま2名の方をフリー・ジーの球体の中に救出しました…

あっ、

たった今、フリー・ジーが死亡を

確認してくれました」


「ご苦労様ジョニー、気をつけて

帰って来てね」

「はい、了解です」


それから30秒後、

ボブから連絡が入った…

「ベイ博士、お待たせしました、

4人の遺体を、球体の中に入って

貰いました」


「ご苦労様ボブ、遺体が海流に流されて居たんだろう…?」


「そうなんですよ、でもフリー・ボーが…

生命反応レーダーで見つけてくれました。

凄いですねフリー・ボーは、

14キロも先に流されていた人を

見つけてくれました、今から帰ります」

「気をつけてねボブ…」 


2分後、全員がスカイシップの中に

帰って来た。


一階…匠の部屋(格納庫)

2隻の船が、台座もないのに…

ちゃんと立って居た。


船内に居て助かった24名は、

甲板の上に出て来ると…

周りをキョロキョロと見回しながら


「…ここ…何処なんだろう、

俺達…宇宙人にでも…

捕まったんだろうか?」

観たことも無い風景は、

不安以外の何者でも無い。


そこに…ベイ博士を筆頭に…

メリー、リンダ、アンジー、ルーシーが、

エレベーターに乗って降りて来た。


ただ、下から見ると…

宙に浮いたエレベーターなので、

乗組員達は怯えながら…

(…はい、宇宙人が降りて来た〜

オレ達は、殺される!)

と思ってしまった。


その時「ただ今戻りました…」

と…声を揃えて、

ボブとジョニーとグレイが、

匠の部屋に入って来た。


甲板の上から…

3人を見下ろしている乗組員達は…

(あぁ〜また恐そうな人が増えた…

もう絶対に助からない…)

と思った。

しかし…3人の後ろに、

9名の仲間の遺体が見えた。


乗組員は、仲間が亡くなった事を…

たった今…

知る事に成ったのである。


泣き崩れる海の男達…

日頃、常に、

死と背中合わせの生活である、

だから、家族とも仲間達とも

何度も話し合って、


絶対に無理はしない…

危険と判断した時には、

直ぐに引き返す…


“必ず生きて家族の元に帰る“


其れが、皆んなの合言葉に成っていた、


その…はずであった。


亡くなった9名は、父であり、兄であり、

弟であり、そして息子である。


20分程前までは、生きて居たのだ…

それが今は、ピクリとも動かない…

後悔しても仕切れない…


そう言った感じが、

泣き崩れて居る男達の背中に…

表れていた。


ベイは

「匠さん…船に、

階段を付けてあげて下さい」


「了解しました」

船に階段がかかった。


乗組員は…

「降りて来い…と言う…意味だろうな…」

と言いながら、

2隻の船から下に降りて来た。


そして24名は、9名の元に駆け寄った。

するとベイは


「匠さん、2隻の船の、修理を…お願い出来ますか?」


「御安い御用です。

ベイ博士、少しグレードアップをして

おきますね」


「はい、お願いします、きっと皆さん

喜ばれますよ」

そう言って微笑んだ後に、

ジョニーとアンジーに向って…


「さて、そろそろ皆さんに

生き返ってもらうので…

説明をしてもらえるかな…」


2人は

「了解しました」

そう言った後に、

泣き崩れて居る…

24名の前に進んだ。


ジョニーは小声で

「フリー・ジー、船長は、どの方かな」

と尋ねた

「右端に立っている…アゴヒゲの

壮年の方です…」

見れば…肩を震わせて泣いて居る。


「ありがとうフリー…

早く皆さんを、喜ばせて上げないとね」

そう言って…

ジョニーはアンジーと2人で、

船長の前に歩いて行った。


ところが、船長の方からすれば、

息子が亡くなって悲しい、

と言う気持ちと…


(ゲッ〜宇宙人が2人、こっちに来た〜)

と言う恐怖が入り混じって…


(…どうか…ワタシの命は差し上げますから、他の乗組員は助けて下さい…)

そう思いながら

2人を見つめていた。


「どうも、このたびはヒドイ災難に

合ってしまいましたね」


アンジーが船長に声をかけると…

「えっ?言葉が通じるんですか?

地球の方ですか?」


船長に真顔でそう言われたアンジーは、

笑いたい気持ちをグッとこらえて…


「そうですよね〜、

ビックリしましたでしょ…

この部屋って、映画に出てくる

宇宙船みたいですもんね、

でも大丈夫ですよ、


私達は地球人ですから…

あちらに居られる方はベイ博士と言って、

世界で一番の天才科学者の方です。


私達7名は助手を務めさせて貰っています、今から話します事は、

トップシークレットなんです。

他言無用…と言う事でお願いします」


そう言って船長の目をジッと見つめた。


船長は黙って、深々と頭を下げると

「たっ、助けて下さって…

有難うございます…

この嵐の中で、全員が死ぬと思いました…

24名もの命を助けていただいて…

本当に感謝しております…


ただ…もし神様が居るのならば…

9名の命と…私の命と交換してもらいたい

気持ちでいっぱいです…


結婚したばかりの者…

幼い子供達が待っている者…

年老いた両親が待っている者…」

そう言いながら…泣き崩れてしまった。


ジョニーは小さく頷きながら

「船長さん…今から信じられないような事を言いますね、

あちらに居られるベイ博士は、

亡くなった方達を、

生き返らせる事が出来るんです!」


船長は目を見開いたままで…ベイの顔を…

ジッと見つめている。


ベイは、メリーの耳元で

「海の男ってすごいね……

自分の命よりも乗組員を助けたいって…優しいね…

でも…何で嵐の海に出たのかな…?」


「私には分からないけど…

何か事情があったんじゃ

ないのかしら?」


ベイは「聞いてみようかな…」

そう言いながら船長の前に進んだ…


「あの…すみません、

一つ聞いてもいいですか…

どうして嵐の中…漁に出たのですか?」


すると船長は顔を上げ

「…水揚げ量が……

2年ほど前から比べると、

半分以下くらいしか無くて…

何とか食べてはいけるんですけど…


新しい年なのに、

子供達に、新しい洋服のひとつも

買ってやる事が出来無くて…

その…つい魔が差して…」


そう言って

自分の愚かさを恥じるような顔で…

涙をこぼした。


ベイは「…男は…お父さんは、

辛いですよね…

すみません…意地悪な質問をして…」

ベイは頭を下げた後に、

マシンを設置した。


ボブとグレイは…

その様子を見ながら、

9名を魔法の絨毯に乗せ、

順番にベイの前に進めた。


マシンが動き出した…

アンジーは24名に向って


「始まりますよ、皆さん…

生き返りますからね」


そう言って微笑んだが、

24名の顔は、コワバッタままである。


   白い煙が9名を包み込んだ…

その時である。


匠が、船の修理部分を見極め

終わったのか?

二艘の船に向って

200本のアームを、

天井や壁から一斉に出して…

船の修理を始め出した。


24名は「おおっ〜」

と声を出しながら、

9名の身体から目を離し…

2艘の船に目が釘付けになって

しまった。


一人の壮年が…

「船が…修理されている、

オレ達は夢を見ているのか?」


「おやっさん…俺はさっきから

ズッと頬をツネッテいるけど…

夢じゃないよ…」

と言うと、

他の乗組員たちも…

黙ってうなずいた。


3分間ほどで修理が終わったのか…

200本のアームは…

壁と、天井の中に…

その姿を消して行った。


24名の目の前には…

綺麗にペイントまでほどこされた

二艘の船が…


「スゴイな〜、あんなボロ船が…

まるで新品の船のようじゃないか…」

24名はその声を聞いて…


「…えっ?」と言いながら振り返ると

亡くなった9名が…

笑顔で立っている。


24名の絶叫と歓声…そして涙。


船長は嬉しさの余り、腰をぬかして

座りこんでしまった。


その時、女将から

「ベイ博士、皆さんの、港の上空に到着しました」


「ありがとうございます、

二艘の船をソッと所定の場所に…

降ろしてもらえますか」


「ハイ、了解しました」


まだ台風の影響で、雨風が強く…

おまけに雷まで鳴っている。

しかし…

港には沢山の人達が雨具を身にまとい、暗い水平線に向って…

目を凝らしながら…


「お父さーん、帰って来てー」

声を限りに叫んでいる。


カミナリが時折り

真っ暗な夜空を、

真昼のような明るさに変える…


強い閃光に、

誰もが一瞬目を閉じてしまった。


次の瞬間、「えっー!…?…」


目の前に2隻の船が…?


「えっ〜?なんで?どうして?」

誰もが…同じ言葉を繰り返し叫んだ。


さっきまで、目の前の港には…

船は停泊して居なかったのだ。


「お父さん達の船だ…」

一人の少女の声に、港は大歓声に

包まれた。


船の甲板に乗組員達が出て来た…

「皆んないる…良かった…

全員無事だ! 助かったんだ!」


村の長老の言葉に…

また大歓声が上がった。


乗組員達は、皆んなからの歓声を

受けながら…

甲板の上で…

お互いの顔を見合わせ…

「いゃ〜本当は、9人が死んじゃったんだよね…」

とつぶやいた、


しかしベイ博士達から

「人が生き返るなんて言う事は、

誰も信じませんよ、ですから今回の事は、皆さんの胸の中に

しまって置いて下さい」


そう言われていたので、

あえて何も言わずに、

笑顔で…

手を振る事にした。


船が港に接岸され…

男達が降りてきた。

女房達は亭主に抱き付き、

人目も気にせずにキスをした。


「死んじゃったかと思ったよ〜、

良かった…帰って来てくれた〜」

と言う妻の言葉に…


夫は…

(ごめん…本当は死んじゃったんだよ…)そう思いながら…

妻をギュッと抱きしめてキスをした。


何も知らない子供達は…

無邪気な顔で

「お父さん、お魚いっぱいとれた?」

そう言って、はしゃぎ回っている…


船長も乗組員達も言葉が出ない…

それだけで女達は

(魚が獲れなかったんだな)

と理解した。


しかし…

「…生きて帰って来てくれただけで

大満足だょ〜」

そう言いながら…またキスをした。


その時である、

「若い衆達は疲れているだろうから、

網や道具の手入れは…

俺達がしてやろう」


そう言って…

年寄衆が船に乗り込んで行った。


「えっー、よくこんな嵐の中で

大漁じゃないか!」

と言う声に

子供達は大喜びだが、

大人達はいっせいに

船長の顔を見つめた。


(…何があったのか?

普通では考えられない…)

と思ったからである。


船長の顔から笑顔が消えた…

船長の女房が

「お父さん、何があったの…」

そう尋ねる唇は…

小さく震えている。


(…盗んで来たのかしら?)

そう思ったからである。


「信じてもらえない事が

あったんだよ…」

「何なの…私は信じるから、言って…」

その声は若干…

詰問的である。


船長は乗組員達の顔を見回した…

皆んなが…頷いている。


「実は…俺達の船は沈んだんだよ…

2隻とも、

9人が海中に引き込まれて…

亡くなってな…

他の、者達だって…

後10分も遅ければ…

全員死んでたんだよ。


でも…世界一の…

科学者の方達が助けてくれてな…

死んだ9人を、

生き返らせてもらえたんだ。


それと…船も見ての通り

新品同様にして貰って、

いま…大漁って聞いて…

本当は…

一匹も釣れないうちに…

沈んだんだ。


俺が…生活が苦しくて、

大変なんですって言ったもんだから…

魚まで捕って下さって…」


そう言って、

泣き出してしまった。


子供達はキョトンとしている、

しかし、大人達は…

(ウソをつけるような器用な

船長じゃない…)

と言う事を知っているので…


「えぇ〜、マジか〜…」

と言ったまま…黙ってしまった。


すると小さな女の子が

「凄〜い、パパ達は神様に会ったの?」


「いや…あの…ベイ博士と言う

科学者の方だよ…」


「きっとベイ博士って言う名前の

神様だよ〜、うん絶対そうだよ〜」


そう言って喜び出した…

大人達も

「そうだな、きっと神様だな、

うん、絶対に神様だな」

と言うと、

子供達は雨の中なのに、

小躍りしながら喜んだ。


実はその時、

透明シールドを張ったスカイシップは…まだ港の近くに居たのである。


もし漁村の人達に、

必要な物が有れば、

援助しようと思って…


女将は…

「ベイ博士、どの家の食料倉庫も…

カラの状態いです…」


「船長の言ってた通りなんですね。

匠さん、すみませんが…

肉、パン、野菜…

あとは子供達が喜ぶ

ビスケットやチョコレート…

あと、洋服とか、靴なども、

出来るだけ多く、

用意して頂けますか…」


「かしこまりましたベイ博士、

15秒で用意します」


スカイシップは…

漁村の上空、

20mの高さに移動した。


32世帯、総勢137名の村民は…

全員が雨に打たれながら、

33名の生還を喜び合っていた…

その時、強い雨が…

急に止んだ。


船長は上を向きながら

「えっ?…なんで、ここだけ雨が降って無いんだ…?」

そう呟いた…次の瞬間。


村民の頭上に、

透明シールドを解除した…

スカイシップが姿を現した。


「えっーー!」と叫びながら、

腰を抜かす村民達…


匠の部屋、第2格納庫から、

支援物資を持った8人が…

地上に降りて来た。


後ずさりをする村民達。

ベイは船長の前に行くと…

「皆さんで、分けて下さい」

そう言って…

4つのコンテナを指差した。


船長が…

「何から何まで…

ありがとうございます」

そう言って頭を下げると…


一人の男の子が

「神様って、スゲエ乗り物に乗っているんだ!」と叫んだ。


すると、周りにいる人達も

「神様だ…神様が来てくれたんだ!」

と言い出した。


神様と言う言葉にベイが反応した。


「マズイな、僕達の事を神様だと

言ってるよ、正しくは、

悪魔の使いなのに…」

村民の前に行こうとするベイの腕を…

メリーは、とっさに掴んだ。


「ベイ待って、あの方達は、

子供達の気持ちを受け止めただけで、

誰も私達の事を、

神様だなんて思ってないわ、

ねえ…リンダもそう思うでしょ」


するとリンダは、ボブに目配せを

しながら


「えぇ、メリーの言う通りよ、

ベイ博士は考え過ぎよ、

アンジーもそう思うでしょ」


「まったくその通りよ。

ねえルーシー、

私達ボチボチお腹が空いて

来ちゃったんだけど…」


ルーシーは頷きながら

「じゃあ今から…グレイと2人で

腕を振るうわね」


そう言って腕まくりをした。


もう誰もベイの話を聞いていない。

それどころかボブは、

ベイを後ろから…抱きしめるような

形をとり


「フリーボー、すまないけど僕達を

デッキに、連れて帰ってくれるかな」


そう言って、ベイ以外のメンバーに

目配せをした


「了解いたしましたボブ様、

エレベーターモード!」


フリーが言い終わると、

8名が立って居る…

半径3mが四方が光に包まれ…

アッと言う間に8名を、

デッキの中に連れて行ってくれた。


漁村の人達はスカイシップに

手を振りながら

「スゲ〜…この村、最強!

神様が来て下さった!」

と叫び出した。


ベイは、漁村の人達が「神様だ〜」

と言った事を気にしていたが、

それ以上に、

アンジーの

「私達、お腹が空いた!」

と言う言葉が気になっていた。


(…しまった〜、また皆んなの意見を聞かずに勝手な事をしちゃった

そう言えば…

夕食は何がいいですかって言う…

話の途中だったんだよな〜

皆んな空腹だよね…皆んなゴメンね…)


そう思いながら…

独りで目を閉じて…

黙って反省をしていた。


しかし…他の7人には、ベイの、

心の中が分かるはずもないので…


(しまった〜、ベイ博士…

黙り込んでるよ、

怒っているんじゃないのかなぁ〜、

どうしよう…)

と思っていた。


メリーは…

そんな皆んなの気持ちを察して…

ベイの胸の中に顔を埋め

「ベイ…ごめんなさい、やっぱり悪魔の使いって言いたかったの?」


するとベイは「えっ?…」

と言いながら、目を開けた…


「黙っているのは怒っているん

でしょう…」


「えっー、違うよ。

僕は…皆んなが空腹な事を、

また気付けなかった…

その事を、反省してだんだよ…

また自分本意で動いちゃったね…

皆んな、本当にゴメンね…」


そう言って自分の顔の前で、

両手を合わせた。


7人は笑いながら…

(そうだった…昔からベイ博士は、

私達の事を第一に考えてくれて

いたんだよね…)

そう思うと、なんだか

胸が熱く成ってきてしまった。


その後…グレイとルーシーが作ってくれた夕食を、

皆んなで美味しく頂いた後に、

8人は、軽くお酒を飲んで…談笑し…


「今日も一日お疲れ様でした」

と言い合い…

そして…自分達の部屋に入って行った。


今、スカイシップはスイスの上空

2000mの高さを漂っていた。


山々が真っ赤な色に染まっていく…

そんな景色を眺めながら…

ボブは、リンダを後ろから

ソッと抱きしめた…

「美しいね〜」「うん…綺麗ね〜」


「世界で2番目に綺麗なものだね〜」


「そうなの…ボブの思う1番目は…

何なのかしら?」


「今、僕の腕の中に居るじゃないか…」


「もう〜嫌だ〜…ボブったら…

でも、ありがとう…」

2人は…照れながら、

真っ赤な顔でキスをして…

イチャイチャしながら……

ベットの中に入って行った。


ジョニーとアンジーの部屋には、

100インチのテレビが

5台ある。

2人は色々な番組を見ながら話し合い、お互いの意見が合うと…

「ジョニーの価値観は私に

ピッタリ合うのよ」


「ありがとう、僕は身体の相性もピッタリ合っていると思うんだけど?」


「もぅ〜ピッタリに決まって

いるじゃない…」

そう言いながら、アンジーはジョニーの膝の上にまたがり


「さぁ…色々な相性の…

答え合わせの…時間よ…」

そう言って…

濃厚なキスで、

ジョニーの唇を…

攻め立てていった。


グレイとルーシーは、

料理の話しで盛り上がる

「グレイが、世界1の料理って思うものは何なの?」

そうルーシーが尋ねると…


グレイは間髪入れずに

「それはルーシーだよ」

と言った。


ルーシーは真っ赤な顔で下を向き…

ちょっぴり唇をとがらせ…

上目遣いでグレイを見つめ


「…毎晩食べているのに…

飽きてない…胸焼けとかしてない?」

と尋ねた。


グレイはこんなルーシーが可愛くて

しょうがない…

「ルーシー、僕の本音を言うね…

一日三回…君を食べても飽きない…

君は世界一の…

僕の宝物なんだ」


「私もグレイが…」

そう言いながらルーシーは、

グレイの首に…

両手を回した。


8人は嬉しそうにスカイシップに

帰って来た。


「お帰りなさい、お買い物はいかが

でしたか?」

「ただいま女将さん、

フリー達のおかげで、

素敵な店をスムーズに回る事が

出来ました」

ベイがそう答えると…


ボブが嬉しそうな顔で

「女将さん、匠さん、後で皆んなで、

ミニ・ファションショーを開きますから…

感想を聞かせて下さいね」と言った。


匠は微笑みながら

「其れは其れは、楽しみですね、

ところで…タキシード、ドレス…

どこか

手直しする所はございませんか?」

と聞いてくれた。


するとリンダが

「匠さん、少しだけ

直して欲しい所があるんですけど」


匠は嬉しそうな声で

「ハイ、大丈夫ですよ、

ファションショーの時に、

皆さんのご希望通りの手直しを、

心を込めて、させていただきますね」


皆んなは声を揃えて

「宜しくお願いします…」

そう言って、

いったん自分達の部屋に入って行った。


30分後…

素敵な衣装に身を包んだ、

4組のカップルが、

ちょっぴり目をうるませながら…

静々と…自分達の部屋から出て来た。


「どうしたんですか?

素敵なドレスを着ているのに…

涙ぐんで?…」

女将の問い掛けに、

メリーは少し声を震わせながら


「…子供の頃を…思い出しちゃったんです。昔、夜のデパートのウィンドウに、

素敵なウエディングドレスと、

タキシードが飾ってあって…

「良いなぁ…」って…8人で、

ぼっ〜っと眺めていた時の事を…」


するとリンダが、

「覚えて居るわよ…

私が、あんなドレスを着てみたいな〜って、言っちゃったのよね…」


アンジーが頷きながら

「大人に成ったら着れるのかな〜

着たいな〜、って私が言ったら

ルーシーが…」


「覚えているわ…私は…

一生懸命に働いたら買えると思う、

って現実的な事を言っちゃって…」


ボブは、妹のルーシーの言葉を聴きながら…ドレスを着た…リンダの肩を抱き寄せ…


「俺はケンカが強いから、

大人に成ったら、レスラーかボクサー

になって…

絶対にリンダにドレスを

着せてあげるからね…って

今でもハッキリ覚えているよ」


リンダはボブの胸の中に…

ソッと顔を埋めた。


ジョニーはアンジーの腰に手をまわし…

「僕もアンジーの為に頑張って働いて、

ドレスを買ってあげるからね…

そう言った事を覚えているよ」


そう言ってアンジーのオデコに

キスをした。


グレイはルーシーの手を握って…

「僕も必ずルーシーにドレスを着せてあげるからね、って言ったんだ、

昨日の事のように覚えているよ」


ベイは微笑みながら

「女将さん、匠さん、

メリーは、

何も言わ無かったんですよ、

僕がドレスを着たくないの?

って聞いたら、

メリーはドレスの値札を見て


「とっても高いのよね」って…

そしたらリンダもアンジーもルーシーも

いっせいに値札に目を向けて

「わっ〜高い〜」って自分の口を…

両手で押さえて…

皆んなで、笑っちゃったんです」


メリーは、ベイの横顔をジッと見つめ…

「あの時ベイは、

大丈夫だよメリー…

大人に成ったらきっとお金持ちに

なるからね、

って言ってくれて…

でも私は、ベイと一緒なら…

どんな服装でも…

いいと思っていたの…だから、

何にも言わなかったの…」


女将は優しい声で…

「皆さん、今まで本当に頑張って来られたんですね…偉かったですね…」

と言うと、

8人は…お互いの顔を見つめ、

更に涙ぐんでしまった。


すると匠は…

(せっかくの楽しい雰囲気なのに、

マズイ…)と思ったのか、

ワザと明るい声で…

「皆さんの、素敵で、大事な思い出の話を聞かせて頂き、

今とても嬉しく、光栄に思っております。

でわ皆さん…

フリー達に、直して欲しい所を

伝えて下さい」と言った。


8人がフリー達に要望を出した

次の瞬間、

床下から…直径約10センチのアーム…

400本が現れ…

わずか20秒で、全ての手直しを

終わらせてくれた。


すると次に、

床から縦横3mの鏡が4つ…

8人を囲むような形で上がって来た。


8人は、自分の姿を鏡で見ながら…

満面の笑みを浮かべ…

「もう最高に素敵…」

「ありがとう匠さん…」

「嬉しくて泣いてしまいそう…」

8人は口々に御礼を言いながら、

パートナーを抱きしめた。


天井から女将の声が降りて来た


「皆さん、とてもお似合いですよ。

私の方からも少しお手伝いを…」

天井から、

直径約5センチのアーム200本が

スルスルと降りて来て、

8人のヘアースタイルを整え出した…


誰も何も言わない…

(女将さんが、きっと素敵なヘアースタイルにしてくれる…)

誰もがそう信じていたからである。


女将は皆んなの要望を何も聞かない

(…ベイ博士から作って頂いた

私とタクミは、

8人の事は何だって知っている…

今現在のドレスとタキシードには…

こんな感じのヘアースタイルが

一番似合う…)

絶対的な自信を持って

アームを動かした…

わずか30秒で8人全員の

ヘアースタイルが完成した。


「素敵…女将さん、匠さん…

ありがとうございます…」


8人は鏡を見ながら絶賛し、

お互いを褒め合った。


はっきり言って…

絶世の美女と美男子ではない事ぐらい、

本人達が一番よく知っている…

でも…

(…映画スターには遠く及ばないけれど、

俺達は、私達は…

カッコイイぞ…綺麗だぞ、イケてるぞ…)

心の底からそう思った。


ベイは…嬉しそうな7人を見ながら…

「女将さん、匠さん、僕達にとって

最高の結婚式が出来る場所…

何処かにありましたか?」


すると匠が嬉しそうな声で

「博士、女将がとっても良いホテルを

見つけてくれましたよ」

と言った。


「嬉しいなぁ〜、女将さん、

ありがとうございます」

とベイが御礼を言うと、

女将は、若干、不安げな声で…


「あの…決して大きなホテルとか、

豪華なホテルでは無いんですけど…

その〜…ホテルのオーナー夫妻が…

今まで、とても苦労された方達で…

その〜…ベイ博士からの…

手助けがあれば…

絶対に…喜ぶだろうなぁ〜って思いまして」


ベイは小さく笑いながら…

「世間の常識にケンカを売っているような、こんな私の手助けで良ければ…

幾らでも貸しますよ」


女将は、とても嬉しそうな声で…

「ありがとうございます。

常識の手の届かない所が…

すっごく…良いんです。

そのホテルで…よろしいですか?」


ベイは7人の顔を見て…

「皆んな、女将さんのイチ押しのホテルで

イイかな…何か別の意見がある人は…」

するとボブが…


「世界中の事を知っている女将さんが

選んでくれたホテルに、

絶対に間違いは無いと思いますよ」

そう言って微笑むと、

他のメンバーも一斉に笑顔で頷いた。


8人がドレス、タキシードから普段着に着替えている間に、

女将はホテルに電話を入れた。


受話器の向こう側から聴こえる、

ホテルのオーナー夫妻の声…

よほど嬉しいのか、声が震えている。


8人が着替え終わって…

デッキに集まって来た。


女将はまず、結婚式の予約が取れた事を、

皆んなに伝えた。


次に、オーナー夫妻の人柄を少しだけ

紹介し出した…

「こちらの御夫婦は、子供の頃から

ずっと一緒に…施設で育って来ました。


大人に成ってから2人で、

色々な職場を転々とし、

最終的には…ホテルに住み込みで…

朝早くから夜遅くまで、

寝る間を惜しんで働いて来ました。


結婚をして…子供に恵まれ、

今まで2人で貯めてきた貯金を頭金として、築50年の、現在の小さなホテルを

買いました。


何とか…ホテルの経営が軌道に

乗り出した時に…

2人の子供が…ホテルの裏にある湖で、

亡くなりました…

今から半年ほど前の事です。


その日を境に、ホテルに子供の幽霊が出ると言われ、経営は悪化…

2カ月前から御客様は1人も来ていません…

なので、ご夫婦を助けると思って、

こちらのホテルを選びました…」


8人は(…自分達とよく似た境遇で

生きてこられた夫妻だなぁ…)

と思った。


ベイを除いた7人は…

(私達にはベイ博士が居てくれて…

ズッと守ってもらったから、

実際のところ…

たいした苦労なんて…して無いんだよね…)

そう思いながら、

ベイ博士の顔を見つめた。


ベイは7人の視線を受けて

「…分かってるよ、

僕が前に出て喋べると、

めんどくせ〜って事に成るから、

ちゃんと、ジョニーとアンジーに交渉してもらうから、ねっ、

そんなに睨まないの」

と言って頭をさすった。


7人は…

(…違う、違う、感謝しているのに…)

6人は直ぐにメリーに視線を送り…

(博士に、感謝していると伝えて…)

と目で訴えた…


するとメリーは、

頷きながら親指を立て…

「ベイ…違うわよ、私達はズッと

ベイに守って貰っていたんだなぁって、

感謝しているのよ…

ベイが居てくれて…本当に…良かった…」

と言ったまま…メリーはベイに

キスをしだした…


(おいおい…伝えるだけでイイのに…キスまでしてるよ…)

6人は顔を見合わせ…

思わず笑ってしまった。


女将はそんな7人のやり取りを、

見ながら、

「…でわ明日の午前11時、

打ち合わせの、

予約を入れて起きましたので、

宜しくお願いします…

明日が楽しみですね…」

そう言って微笑んでくれた。


   次の日…10時58分。

約束の時間に、スカイシップはホテルの

上空100mの高さで、

ゆっくりと旋回していた。


草原の真ん中に湖がある、

一周5キロ位の大きさだろうか。


湖に面している山の中腹から…

高さ、50m…

幅15m程の滝が見える。


ホテルは、そんな湖のほとりに、

ひっそりと建っている。


「あれ?女将さん…

透明シールドを張ってないんじゃ…

ないですか?」

と言ったのは、ルーシーである。


女将は明るい声で…

「はい、結婚式をお願いする訳ですから、

隠し事は無し…

と言う事にしようと思いまして」


「でも…ホテルのオーナー夫妻が…

下で固まってますよ…」

とグレイが言うと…


「少し、驚かせてしまったのかしら…」

そう言って女将は黙ってしまった。


するとベイが満面の笑みで…

「女将さん大丈夫ですよ…さっ、

皆んな降りようか…

フリー・ベー、僕達を下に降ろして」

「かしこまりました、ベイ博士」


8人は、オーナー夫妻の手前…

30mの地点に、光のエレベーターを使って

降りて行った。


オーナー夫妻がお互いを抱きしめ合って

此方を見て居る。


ジョニーとアンジーが…

挨拶をしようと前に進むと…

オーナー夫妻は、

少しずつ…後ろに下がって行った。


「あの〜、結婚式の予約を入れていた

者なんですけど…」

ジョニーが優しい声で言っても、

夫妻は小刻みに震えている。


アンジーは振りかえり、

6人に向かって肩をすくめて見せた。

その時である、

ボブがリンダの手を引いて、

オーナー夫妻の前に進み出て…


「いや〜すみません、

ビックリしましたでしょ〜、

でもイカした船でしょ…

あちらに居られるベイ博士が創られた、

世界最高峰の技術のかたまり、

と言った船なんですけど…

御二人は

ビックリしましたよね、

本当にすみません…驚かせてしまって」

と言って頭を下げた。


するとオーナーが…

「…あの〜、ボクシング、ヘビー級チャンピオンのボブさんですか?」

「はい、ボブです。

でも…チャンピオンはギンバレーさんで、

私は、負けた挑戦者のボブです…」

そう言って微笑んだ。


主人は妻の顔を1回見た後に…

「あの〜、確か1年ほど前に…

新聞の記事で…その〜、

亡くなられたと…

書いてあるのを観たんですけど…」


「はい、死にました…けど私は今、

オーナー夫妻の前に…その〜

生きていますでしょ…実は…」


ボブはここまで来て、気の効いたセリフが

浮かばなくなってしまった。

するとリンダが横から、

人差し指を口の前に当て…

わざと、声をしぼるような感じで…


「実は、国の…トップシークレット

なんです。

オーナー夫妻が

納得されるくらいの説明を、

本当は、

私達もしたいのですけど…

ゴメンなさい、色々な事情がありまして…」そう言って2人を見つめた…


「…トップシークレット…」

夫妻は…顔を見合わせて復唱すると…

リンダの言葉をどう受け止めたのか

解らないが、急に笑顔になり、

スカイシップを見上げ…


「…ようこそホワイトホテルに、

御予約頂きました、

ベイ博士御一行様ですね、

どうぞ…

ホテルの中にお入り下さい。


ロビーにコーヒーとケーキを用意して、

お待ちしておりました。

私はブラウンと言います、

隣りに居るのは、妻のレイチェルです。


あの〜、怖がってスミマセンでした、

私達夫婦は…少し臆病でして…」

そう言って頭を下げてくれた。


 〈…ホワイト・ホテル…〉




8人は嬉しそうにスカイシップに

帰って来た。


「お帰りなさい、お買い物はいかが

でしたか?」

「ただいま女将さん、

フリー達のおかげで、

素敵な店をスムーズに回る事が

出来ました」

ベイがそう答えると…


ボブが嬉しそうな顔で

「女将さん、匠さん、後で皆んなで、

ミニ・ファションショーを開きますから…

感想を聞かせて下さいね」と言った。


匠は微笑みながら

「其れは其れは、楽しみですね、

ところで…タキシード、ドレス…

どこか

手直しする所はございませんか?」

と聞いてくれた。


するとリンダが

「匠さん、少しだけ

直して欲しい所があるんですけど」


匠は嬉しそうな声で

「ハイ、大丈夫ですよ、

ファションショーの時に、

皆さんのご希望通りの手直しを、

心を込めて、させていただきますね」


皆んなは声を揃えて

「宜しくお願いします…」

そう言って、

いったん自分達の部屋に入って行った。


30分後…

素敵な衣装に身を包んだ、

4組のカップルが、

ちょっぴり目をうるませながら…

静々と…自分達の部屋から出て来た。


「どうしたんですか?

素敵なドレスを着ているのに…

涙ぐんで?…」

女将の問い掛けに、

メリーは少し声を震わせながら


「…子供の頃を…思い出しちゃったんです。昔、夜のデパートのウィンドウに、

素敵なウエディングドレスと、

タキシードが飾ってあって…

「良いなぁ…」って…8人で、

ぼっ〜っと眺めていた時の事を…」


するとリンダが、

「覚えて居るわよ…

私が、あんなドレスを着てみたいな〜って、言っちゃったのよね…」


アンジーが頷きながら

「大人に成ったら着れるのかな〜

着たいな〜、って私が言ったら

ルーシーが…」


「覚えているわ…私は…

一生懸命に働いたら買えると思う、

って現実的な事を言っちゃって…」


ボブは、妹のルーシーの言葉を聴きながら…ドレスを着た…リンダの肩を抱き寄せ…


「俺はケンカが強いから、

大人に成ったら、レスラーかボクサー

になって…

絶対にリンダにドレスを

着せてあげるからね…って

今でもハッキリ覚えているよ」


リンダはボブの胸の中に…

ソッと顔を埋めた。


ジョニーはアンジーの腰に手をまわし…

「僕もアンジーの為に頑張って働いて、

ドレスを買ってあげるからね…

そう言った事を覚えているよ」


そう言ってアンジーのオデコに

キスをした。


グレイはルーシーの手を握って…

「僕も必ずルーシーにドレスを着せてあげるからね、って言ったんだ、

昨日の事のように覚えているよ」


ベイは微笑みながら

「女将さん、匠さん、

メリーは、

何も言わ無かったんですよ、

僕がドレスを着たくないの?

って聞いたら、

メリーはドレスの値札を見て


「とっても高いのよね」って…

そしたらリンダもアンジーもルーシーも

いっせいに値札に目を向けて

「わっ〜高い〜」って自分の口を…

両手で押さえて…

皆んなで、笑っちゃったんです」


メリーは、ベイの横顔をジッと見つめ…

「あの時ベイは、

大丈夫だよメリー…

大人に成ったらきっとお金持ちに

なるからね、

って言ってくれて…

でも私は、ベイと一緒なら…

どんな服装でも…

いいと思っていたの…だから、

何にも言わなかったの…」


女将は優しい声で…

「皆さん、今まで本当に頑張って来られたんですね…偉かったですね…」

と言うと、

8人は…お互いの顔を見つめ、

更に涙ぐんでしまった。


すると匠は…

(せっかくの楽しい雰囲気なのに、

マズイ…)と思ったのか、

ワザと明るい声で…

「皆さんの、素敵で、大事な思い出の話を聞かせて頂き、

今とても嬉しく、光栄に思っております。

でわ皆さん…

フリー達に、直して欲しい所を

伝えて下さい」と言った。


8人がフリー達に要望を出した

次の瞬間、

床下から…直径約10センチのアーム…

400本が現れ…

わずか20秒で、全ての手直しを

終わらせてくれた。


すると次に、

床から縦横3mの鏡が4つ…

8人を囲むような形で上がって来た。


8人は、自分の姿を鏡で見ながら…

満面の笑みを浮かべ…

「もう最高に素敵…」

「ありがとう匠さん…」

「嬉しくて泣いてしまいそう…」

8人は口々に御礼を言いながら、

パートナーを抱きしめた。


天井から女将の声が降りて来た


「皆さん、とてもお似合いですよ。

私の方からも少しお手伝いを…」

天井から、

直径約5センチのアーム200本が

スルスルと降りて来て、

8人のヘアースタイルを整え出した…


誰も何も言わない…

(女将さんが、きっと素敵なヘアースタイルにしてくれる…)

誰もがそう信じていたからである。


女将は皆んなの要望を何も聞かない

(…ベイ博士から作って頂いた

私とタクミは、

8人の事は何だって知っている…

今現在のドレスとタキシードには…

こんな感じのヘアースタイルが

一番似合う…)

絶対的な自信を持って

アームを動かした…

わずか30秒で8人全員の

ヘアースタイルが完成した。


「素敵…女将さん、匠さん…

ありがとうございます…」


8人は鏡を見ながら絶賛し、

お互いを褒め合った。


はっきり言って…

絶世の美女と美男子ではない事ぐらい、

本人達が一番よく知っている…

でも…

(…映画スターには遠く及ばないけれど、

俺達は、私達は…

カッコイイぞ…綺麗だぞ、イケてるぞ…)

心の底からそう思った。


ベイは…嬉しそうな7人を見ながら…

「女将さん、匠さん、僕達にとって

最高の結婚式が出来る場所…

何処かにありましたか?」


すると匠が嬉しそうな声で

「博士、女将がとっても良いホテルを

見つけてくれましたよ」

と言った。


「嬉しいなぁ〜、女将さん、

ありがとうございます」

とベイが御礼を言うと、

女将は、若干、不安げな声で…


「あの…決して大きなホテルとか、

豪華なホテルでは無いんですけど…

その〜…ホテルのオーナー夫妻が…

今まで、とても苦労された方達で…

その〜…ベイ博士からの…

手助けがあれば…

絶対に…喜ぶだろうなぁ〜って思いまして」


ベイは小さく笑いながら…

「世間の常識にケンカを売っているような、こんな私の手助けで良ければ…

幾らでも貸しますよ」


女将は、とても嬉しそうな声で…

「ありがとうございます。

常識の手の届かない所が…

すっごく…良いんです。

そのホテルで…よろしいですか?」


ベイは7人の顔を見て…

「皆んな、女将さんのイチ押しのホテルで

イイかな…何か別の意見がある人は…」

するとボブが…


「世界中の事を知っている女将さんが

選んでくれたホテルに、

絶対に間違いは無いと思いますよ」

そう言って微笑むと、

他のメンバーも一斉に笑顔で頷いた。


8人がドレス、タキシードから普段着に着替えている間に、

女将はホテルに電話を入れた。


受話器の向こう側から聴こえる、

ホテルのオーナー夫妻の声…

よほど嬉しいのか、声が震えている。


8人が着替え終わって…

デッキに集まって来た。


女将はまず、結婚式の予約が取れた事を、

皆んなに伝えた。


次に、オーナー夫妻の人柄を少しだけ

紹介し出した…

「こちらの御夫婦は、子供の頃から

ずっと一緒に…施設で育って来ました。


大人に成ってから2人で、

色々な職場を転々とし、

最終的には…ホテルに住み込みで…

朝早くから夜遅くまで、

寝る間を惜しんで働いて来ました。


結婚をして…子供に恵まれ、

今まで2人で貯めてきた貯金を頭金として、築50年の、現在の小さなホテルを

買いました。


何とか…ホテルの経営が軌道に

乗り出した時に…

2人の子供が…ホテルの裏にある湖で、

亡くなりました…

今から半年ほど前の事です。


その日を境に、ホテルに子供の幽霊が出ると言われ、経営は悪化…

2カ月前から御客様は1人も来ていません…

なので、ご夫婦を助けると思って、

こちらのホテルを選びました…」


8人は(…自分達とよく似た境遇で

生きてこられた夫妻だなぁ…)

と思った。


ベイを除いた7人は…

(私達にはベイ博士が居てくれて…

ズッと守ってもらったから、

実際のところ…

たいした苦労なんて…して無いんだよね…)

そう思いながら、

ベイ博士の顔を見つめた。


ベイは7人の視線を受けて

「…分かってるよ、

僕が前に出て喋べると、

めんどくせ〜って事に成るから、

ちゃんと、ジョニーとアンジーに交渉してもらうから、ねっ、

そんなに睨まないの」

と言って頭をさすった。


7人は…

(…違う、違う、感謝しているのに…)

6人は直ぐにメリーに視線を送り…

(博士に、感謝していると伝えて…)

と目で訴えた…


するとメリーは、

頷きながら親指を立て…

「ベイ…違うわよ、私達はズッと

ベイに守って貰っていたんだなぁって、

感謝しているのよ…

ベイが居てくれて…本当に…良かった…」

と言ったまま…メリーはベイに

キスをしだした…


(おいおい…伝えるだけでイイのに…キスまでしてるよ…)

6人は顔を見合わせ…

思わず笑ってしまった。


女将はそんな7人のやり取りを、

見ながら、

「…でわ明日の午前11時、

打ち合わせの、

予約を入れて起きましたので、

宜しくお願いします…

明日が楽しみですね…」

そう言って微笑んでくれた。


   次の日…10時58分。

約束の時間に、スカイシップはホテルの

上空100mの高さで、

ゆっくりと旋回していた。


草原の真ん中に湖がある、

一周5キロ位の大きさだろうか。


湖に面している山の中腹から…

高さ、50m…

幅15m程の滝が見える。


ホテルは、そんな湖のほとりに、

ひっそりと建っている。


「あれ?女将さん…

透明シールドを張ってないんじゃ…

ないですか?」

と言ったのは、ルーシーである。


女将は明るい声で…

「はい、結婚式をお願いする訳ですから、

隠し事は無し…

と言う事にしようと思いまして」


「でも…ホテルのオーナー夫妻が…

下で固まってますよ…」

とグレイが言うと…


「少し、驚かせてしまったのかしら…」

そう言って女将は黙ってしまった。


するとベイが満面の笑みで…

「女将さん大丈夫ですよ…さっ、

皆んな降りようか…

フリー・ベー、僕達を下に降ろして」

「かしこまりました、ベイ博士」


8人は、オーナー夫妻の手前…

30mの地点に、光のエレベーターを使って

降りて行った。


オーナー夫妻がお互いを抱きしめ合って

此方を見て居る。


ジョニーとアンジーが…

挨拶をしようと前に進むと…

オーナー夫妻は、

少しずつ…後ろに下がって行った。


「あの〜、結婚式の予約を入れていた

者なんですけど…」

ジョニーが優しい声で言っても、

夫妻は小刻みに震えている。


アンジーは振りかえり、

6人に向かって肩をすくめて見せた。

その時である、

ボブがリンダの手を引いて、

オーナー夫妻の前に進み出て…


「いや〜すみません、

ビックリしましたでしょ〜、

でもイカした船でしょ…

あちらに居られるベイ博士が創られた、

世界最高峰の技術のかたまり、

と言った船なんですけど…

御二人は

ビックリしましたよね、

本当にすみません…驚かせてしまって」

と言って頭を下げた。


するとオーナーが…

「…あの〜、ボクシング、ヘビー級チャンピオンのボブさんですか?」

「はい、ボブです。

でも…チャンピオンはギンバレーさんで、

私は、負けた挑戦者のボブです…」

そう言って微笑んだ。


主人は妻の顔を1回見た後に…

「あの〜、確か1年ほど前に…

新聞の記事で…その〜、

亡くなられたと…

書いてあるのを観たんですけど…」


「はい、死にました…けど私は今、

オーナー夫妻の前に…その〜

生きていますでしょ…実は…」


ボブはここまで来て、気の効いたセリフが

浮かばなくなってしまった。

するとリンダが横から、

人差し指を口の前に当て…

わざと、声をしぼるような感じで…


「実は、国の…トップシークレット

なんです。

オーナー夫妻が

納得されるくらいの説明を、

本当は、

私達もしたいのですけど…

ゴメンなさい、色々な事情がありまして…」そう言って2人を見つめた…


「…トップシークレット…」

夫妻は…顔を見合わせて復唱すると…

リンダの言葉をどう受け止めたのか

解らないが、急に笑顔になり、

スカイシップを見上げ…


「…ようこそホワイトホテルに、

御予約頂きました、

ベイ博士御一行様ですね、

どうぞ…

ホテルの中にお入り下さい。


ロビーにコーヒーとケーキを用意して、

お待ちしておりました。

私はブラウンと言います、

隣りに居るのは、妻のレイチェルです。


あの〜、怖がってスミマセンでした、

私達夫婦は…少し臆病でして…」

そう言って頭を下げてくれた。


8人は順番に、オーナー夫妻と握手を

交わし…ホテルの中に入って行った。


ジョニーはボブに向かい

「本当に良かったよ…

ボブの知名度のおかげで受け入れて

貰えたよ、ありがとう!」


ボブは照れくさそうに

「いやいや、俺じゃなくて、

ギンバレーさんの、知名度だよ!」


ボブを除いた7人は

小さく笑いながら

(ボブは相変わらず…謙虚だねぇ…)

と思った。


中に入ると

ホワイトホテルと言う名前の通り、

ロビーの中から全て…

白、一色で統一されている。


入り口から奥行きが…

約25mくらいで、

横幅は、36mくらいだろうか、

天井の高さは約8mくらいで、

二階の天井まで吹き抜けになっている。


奥行き25mの先は

ガラス張りになって居て…

湖と、その先に見える…

山と滝が、

とても綺麗に見えるロビーの造りに

成って居る。


8人は思わず…

「おぉ〜…」と言う声を漏らした。


ロビーの右側に食堂があり、

その奥は厨房の様である。


客室は左側になっているのか…

7枚の扉が見える。


(…たぶん二階にも

7部屋有るんだろうなぁ…)

8人はそう思った。


「こちらのテーブルにどうぞ」

ブラウンの案内で、ロビーの奥にある、

白くて大きなテーブルの方に、

8人は案内された。


8人が、外の景色を見ながら

腰を下ろすと、

レイチェルが、奥のキッチンに

入って行った。


オーナーのブラウンは、席に着いた

8人に向かい…

「このたびは御結婚…誠に、

おめでとうございます。

また、私どものホテルを選んで下さり、

ありがとうございます。


このホテルは、私と妻の2人で切り盛りをしている小さなホテルですが、

皆さんに御満足頂けるよう、

誠心誠意…

努めさせて頂きます」

そう言って、深々と頭を下げてくれた。


8人は…

(とっても真面目な方だなぁ)

と思いながら…

自分達も頭を下げた。


その時…「コロコロ…」と言う音が…


レイチェルが奥のキッチンから、

コーヒーとケーキをワゴンに乗せて、

8人の前に運んで来てくれた。


小さな声で…

「お待たせしました…どうぞ…」

と言う声を添えながら…

順番に並べてくれている。


ジョニーは、

コヒーを一口飲んだ後…

皆んなから聞いている要望を、

ブラウンに、順番に伝えて行った。


まず、1つ目は、結婚式は3日後で

お願いします。

〈 計画性の無い迷惑な客である 〉


2つ目、結婚式は人前結婚で、

神父は、よばない…

〈 罰当たりな奴等である 〉


3つ目、料理は全て、

オーナー夫妻に任せる…

〈 過重労働である 〉


4つ目、皆んなで楽しめる

ゲームの用意をお願いしたい…

〈 自分達で、考えればいいだろう 〉


5つ目、自分達8人の事は、他言無用で

お願いします…

〈 お前達、何様のつもりだよ! 〉


と、言う様な事を、

ブラウンは一切思わず、

誠心誠意…1つ1つの事に、

丁寧に頷きながら…


「はい、分かりました…

はい、大丈夫です…」

そう言って、

全ての要望をノートに書き込んでくれた。


「皆さんの御要望は、全て揃えられます…

あの〜…人前結婚の段取り何ですが、

どのようになさいますか?」

と尋ねた…。


ジョニーとアンジーは

(…あれ?そう言えば、

ベイ博士から人前結婚と言われたけど…

はて?

どのような結婚式なんだろうか…?)

そう思いながら、小さく首を傾げた。


すると横からベイが…

「ブラウンさん…私達8人は…

色々な事情があって…

親の顔を知りません…

当然親戚もいません。

こちらの勝手な…お願いなんですが…


ブラウンさんと奥様で、

私達に、合うような…

誓いの言葉を考えてもらえませんか?…

出来れば…立ち会って頂けると

嬉しいんですけど…」


ブラウンは絶句しながら…

妻に視線を向けた。


レイチェルは微笑みながら…

「…あなた、喜んでさせて頂きましょうよ、ねっ…」

しかしブラウンは恐縮しながら…

「私達のような者が…誓いの言葉を考えて…いいのですか?」


ベイは満面の笑みで…

「ぜひ…お願いします…」


そう言って頭を下げると、

ブラウンも…

「かしこまりました…」

と言って頭を下げ返してくれた。


その後、結婚式の予算の話し合いに

成ったのだが…

欲の無い夫婦なのか?

見積もりが、あまりにも低くなっている。


「あの〜、そんなに安く見積もると、

利益が出ませんよ」

そう言ったのは、グレイである…


ブラウンは微笑みながら…

「大丈夫なんですよ、

料理は妻と私とで作りますから、

人を雇っていないので、

経費がかからないんです」

そう言って小さく笑った。


グレイとルーシーは顔を見合わせながら

(このオーナー夫婦は…

絶対に、金持ちにはなれないね…

でも…とっても真面目で、

優しい人だね…)と、そう…思った。


全ての打ち合わせを終えた8人は、

オーナー夫妻に見送られて…

スカイシップに戻った。


デッキに入ると女将が…

「皆さん、打ち合わせは…

上手く行きましたか?」

と尋ねてくれた。


ベイは満面の笑みで…

「女将さんが選んでくれたホテル、

とっても感じの良いオーナー夫妻でしたよ、

さすが女将さんだと思いました」


「気に入って頂けて良かったです。

あの…皆さん、楽しい気持ちのところ

誠に恐縮なんですが…

実は、山火事がありまして…


消防隊の方達の働きで、

火事はおさまりましたが…

17名の方が亡くなられました。

どうしましょう…向かいましょうか?」


7人は直ぐにベイの顔を見た。

するとベイは、

申し訳なさそうな顔で

「行ってあげたいんだけど…

皆んないいかなぁ…」と言った。


するとボブが間髪入れずに

「いいに決まってるじゃないですか、

神様の邪魔をしに行くんでしょ」

そう言って親指を立ててくれた。


ベイは頷きながら…

「女将さん、現地に…お願いします」

「了解いたしました」

そう言い終わった時

スカイシップはすでに、

現地の上空…1万mの高さに着いていた。


空気が乾燥していたのか?

自然発火による山火事で…

死者の数は17名。

山頂に居て、逃げ場を失った人達である。


スカイシップは透明シールドを張ると、

高度を更に下げて行った。


山火事の現場周辺には、マスコミの

ヘリコプターが飛んでいる、

ベイは


「女将さん、スカイシップは、

高度4000mで

待機して居てもらえますか」


「了解しました博士」

そのやり取りを聞いて居たジョニーが…


「フリー・ジー、ブレスレットにヘリコプターに成ってもらえるかな?」

「かしこまりましたジョニー様、」


するとアンジーが

「フリー・アー、私達を屋上デッキに上げてもらえるかしら?」

「かしこまりましたアンジー様」


デッキに上がり、皆んながヘリコプターに乗り込もうとした時である、

ベイは急に立ち止まり

「匠さん、以前にお願いしていた物…

まだ完成していませんか?」


「ベイ博士、出来上がっていますよ、

と言いましても…1時間前に出来上がり、

30分前にテストが終わったばかりの

マシンですけど、

完璧な物に仕上がっております、

持って行かれますか?」


「はい、持って行きます」

7人は、博士と匠のやり取りに首を傾げた…

その時である、

床の下からタクミのアームが

8つ出て来てた…


(あれ〜、何か持ってる…?)

7人はそう思った。


ベイはその物に、手を差し出した…

そのモノは…

白くフンワリと光りを放ちながら、

ベイの右の手首に絡みついた…


「皆んな、このマシンわね、

大きな箱型だった、ヨミガエリマシンを

小さくしたモノだよ…匠さんに頼んで小さくして貰ったんだ…

皆んなも着けてみて」


7人は少し…ドキドキしながら右手を出した。


ボブが装着したマシンを見て

「カッコイイ…」と呟くと、

ジョニーとグレイも嬉しそうに

「そうだね」

と言って微笑んだ。


男の子は、このようなマシンが…

大好きである。


8人を乗せたヘリコプターは、

マスコミを装い、

遺体安置所と成っているテントの

150mほど手前に降り立った。


救急隊、警察官、消防隊の人達が忙しそうに働いている中…

ベイ達は、遺体安置所に向って…

真っ直ぐに進んだ。


テントの前には…

二人の警察官が立っている…

50代前半の壮年と、

25歳前後の若い警察官である。


黒い服装のベイ達を見て、

少し怪訝な顔で8人を見つめている。


ジョニーが、わざと、

緊迫感をただ寄せた表情で…


「すみません、山に行くと言って家を出た

サークルの仲間達と…

連絡が取れないんです、

家族の方達から見て来て欲しいと

頼まれまして、

中に入って

確認してもよろしいですか?」


「皆さんサークルの人達ですか?」

「はい」

「あの…皆さんの服装は…」

「はい、ハイキングサークルの

ユニホームです!」


「黒い服装ですか?蜂に襲われませんか?」


「あっ、これはミィーティング用

でして、山に行く時は個々に違う

服装で行ってます」


「そうですか…どうぞお入りください」

「すみません…」

8人は小さく会釈をしながら中に入った。


テントの中には、

下一面にブルーシートが引かれていて…

遺体は…白い仮設ベットに寝かされ、

白い…ビニールカバーが

掛けられていた。


ドクターやナースは、

隣のテントの中で、

火傷や、

逃げる時に転んで

怪我をしてしまった人達の手当てに

大忙しである。


なので、このテントの中には、

17体の遺体以外…

誰もいない状態である、

非常に好都合である。


ルーシーが小さな声で…

「フリー・ルー、お願い…

トンネル事故の時と同じ…

サングラスになって欲しいの」


「かしこまりました、ルーシー様」


他の7人も、

フリー達に…同じリクエストをした。


遺体に掛けられたシートを…

順番に履いて行くと、

成人男性が6名、成人の女性が6名、

子供が5名であった。

8人は手分けをして…

右手のマシンから光りを放ち、

遺体の状態を調べて行った。


その時、後ろから…

「おいっ…あんたら何をしているんだ、

あんたらの右手のソレは、何だ…」

そう言いながら、

2人の警察官は、腰の銃に手を当てている。


ベイはゆっくり振り返りなが

「フリー・べー、ストップモード」

と言った。


2人の警察官は、身動きが取れない…

「くそっ、何で動けないんだ!」

年配の警察官が、そう叫ぶと…


若い警察官も…

「父さん僕も動けないよ…」と言った。


7人が作業を続ける中、

ボブは若い警察官に対して…

「すまないね、僕達は直ぐに出て行くから…君、何だか?顔色が悪いけど…

大丈夫かい」


若い警察官は額から脂汗を流している。


「ベイ博士、ちょと来てもらえますか」

ベイは作業を止めて…

「どうしたんだい、ボブ…」

と言いながら…

2人の警察官の前にやって来た。


「彼の顔色…なんだか…

変だと思いませんか?」

ボブの言葉に、

ベイは若い警察官の顔を…

ジッと見つめた…

ベイの頭の中には…

世界中の医学書が記憶されている…


「貴方は膵臓ガンに成っているね…

余命1週間って言う所だね、

立っている事自体が辛いでしょ…

病院に居なくていいの?」

と尋ねた、


すると若い警察官は…

「死ぬ事は…分かっている…

だから最後まで、

お父さんと一緒に…

警察官をしていたいんだ…」


その言葉を聞いたボブは…

目をうるませながら

「貴方は、お父さんが大好きなんだね、

きっと優しい…お父さんなんだろうね」

と言うと、若い警察官は…


「父さんは、僕の誇りだ!」

と言い切った。


そのセリフを聞いたボブは…

上を向いてしまった。


ベイはボブの耳元で

「もぅ〜ボブは…涙もろいんだから…」

と言うと、

ボブは「えへへ…」と笑いながら、

リンダの方に歩いて行ってしまった。


ベイは、右手を警察官の身体に向け…

マシンを起動させた。

青い光が全身を包み込んでいく、


父親の警察官は…目が点に成っている…

そして、わずか5秒後、

若い警察官の顔色が、

見る見るうちに良くなった。


ベイは

「治りましたよ、もう大丈夫ですよ」

と言いながら…

壮年の警察官に目を移し…

「お父さんも、ずっと前から、

膝が痛いんでしょ…治しときましょうね」


そう言って、

壮年の足に向けてマシンを起動させた…

2秒後、足が治った。

ベイは2人に対して…


「私達は、正義の味方ではないんですけど…

そんなに悪い奴でもないんですよ。

此処に居られる17人を…

助けたいだけなんです。

お二人が、静かにして下さるなら、

身体を動けるようにしますけど、

どうでしょうか?」


「…はい、神様の邪魔はしません…

先程は本当に失礼しました、

息子を助けて下さり…本当にありがとうございました…」


「フリー・べー、ストップモードを

解除して」

「ベイ博士、解除しました」


動けるようになった息子の警察官は…

「父さん、身体の痛みがないんだ…

息苦しくないんだ…」

そう言って泣き崩れると、

父親は息子を抱きしめ


「母さんが喜ぶぞ…泣きながら喜ぶぞ…」

そう言って…

自分も泣き出してしまった。


(きっと毎日が…死の恐怖との…

闘いだったんだろうな〜)

8人はそう思った。


喜びを噛み締めている

2人の警察官を横目に、

ベイ達は16人を生き返らせた。


狂喜乱舞、と言う表現がピッタリなくらいに喜び、なおかつ8人を「神様だ…」

と連呼し出した。


ただ…1人の女性だけが目を開けない…

生き返らないのだ、

既に外見(肉体)は綺麗に成っているのに…

7人は(なぜ?)と思いながら…

ベイを見つめた。


女性の夫と、2人の子供は、

ボー然とした表情で、

母親を見つめている。


メリーはベイの耳元で…

「ベイ…なにか理由があるんでしょ?」


「うん、あるんだよ…

この子達のママは、

少し問題があってね…

皆んなが以前に居た…

雲の上の世界じゃなくて…

地の底の世界に、

行ってしまってるんだよ…」


「えっ?何で?」

「あのね…幼児虐待、幼児殺人未遂…

それと…愛人と結託して、

御主人に保険をかけての殺人未遂…

愛人は途中で怖くなって、

止めようって言ったら、3日前…

この人に射ち殺されちゃったんだ…

つまりママさんは「殺人犯」

って言う事だね」


メリーは絶句した。


ベイは、2人の子供の前にしゃがむと…

「ママはどんな人だったの?」

上の5歳くらいの娘が

「ママは優しくて、料理が上手で、

何時も私達に本を読んでくれたの」

と言った…

嘘である。


子供は自分の願望を口にしたのだ…

いつか、そんなママに成って

欲しかったのだろう。


ボブとリンダは、沈痛な面持ちで

首を横に振った。


ベイは2人の子供に

「お父さんと、大事な話があるんだ…

少しだけ…待っていられるかなぁ?」


2人の子供は泣きそうな顔になった。


「あのね、5m程離れるだけだよ…

その間、4人のお姉さんが、

側に居るからね」

と言うと、

メリーとリンダが、

2人の子供を抱き上げ、

アンジーとルーシーが…

2人に話しかけた。


ベイは夫を…テントのスミの方に

連れて行った、

そして単刀直入に…


「奥様を生き返らせる事が出来ません、

理由は…たぶん、

分かっておられますよね…」

「はい…私も薄々…気づいては

居たんですけど…」


「怖くて何も言えなかったでしょ…」


「はい、私が何か注意をすると、

妻は感情的に取り乱し…

子供に暴力をふるいます。

子供を守ろうと

離婚話をしたら、

子供に銃を突き付けられました…

それでも子供達は…

ママが好きなんでしょうね、

今も、ママから目を離しません…」


ベイは

(…まいったなぁ〜、地の底から…

彼女の生命を持って

来れない事も…ないんだけど…

一人の男性を…

殺してるんだよなぁ〜)

と思っている時に…フリー・ベーが…


「ベイ博士、女将様から

話があるそうです…つなぎます…」

女将の声が、ベイの耳に入って来た…


「ベイ博士、今、隣に居る男性の名前は、

ハリーさんと言う方です、

ハリーさんは子供の頃に、

バニーと言う女の子と、

結婚の約束をしています。

当然、子供同士の可愛い約束ですけど…


実は、そのバニーと言う方は…

1週間前に亡くなっています…

ベイ博士…この話を、

続けても宜しいですか?」


「はい、お願いします…」


ベイは男性に、〈少しだけ待って下さい〉

と言うようなポーズをとった、

男性は頷きながら…ジッと立っている。


ベイは女将に…

「…女将さん、バニーさんに…

今現在の、ハリーさんの家庭状況を

説明してもらえますか?」

「ベイ博士、既に終わってます…」

「バニーさんは何と?」

「ハリーさんの奥さんになり、

2人の子供の

ママになりたいと言っております」


「分かりました…ハリーさんに

聞いてみます」


ベイは男性に…

「ハリーさんが子供の時、

隣に住んでいた女の子の名前を

覚えてますか?」

と尋ねてみた…


「はい、バニーと言う…

可愛い女の子でした…

たいしてカッコ良くない私に、

「大人に成ったら、ハリーの

お嫁さんに成ってあげる…」

なんて言ってくれました…

私の初恋の人です…

大好きでした。


でも、ある日突然…

引っ越して行かれました…

きっと家庭の事情があったのだと

思います…」


ベイは頷きながら…

「良かった、覚えて居られたんですね…

ハリーさんが言われた通りです。

両親が離婚して…

お母さんは直ぐに再婚して、

娘のことなど知らんぷり。


お父さんは、酒とギャンブルにハマって

荒れ放題の毎日…

バニーさんは、自分が亡くなるその日まで、ズッとダラシない父親に…

お金を盗られて居ました。


ちなみに…亡くなられたのは

一週間前です…

この世を去る時…最後に言った言葉が…


「ハリー、今頃なにをしているのかな…」

…何だか、セツない話ですよね…」


男性は、ベイの話を聞きながら…

泣き出してしまった…


「バニー、亡くなっていたんだね…

散々…苦労したんだね…

僕が側に居れば…」

と呟いた後に…


「神様、お願いします、

バニーを助けて頂けませんか…

お願いします…

一緒に幸せになりたいんです…」

と言った。


ベイは…ワザと考えるような

フリをした後に…

「分かりました…バニーさんの魂を、

そこに寝て居られる…奥さんの身体に…

入れましょう。

バニーさんを…幸せに、出来そうですか?」

「はい、幸せにします」


ベイは微笑みながら…

「私から、御主人と子供たちに一言、

言って置きたい事があるんですけど、

聞いて頂けますか?…」


ハリーは微笑みながら…

「はい、神様のおっしゃる事は、

何でも聞かせて頂きます」と言った。


ベイはまず…

「私は神様では有りません…」

と言いながら…

ハリーを子供達の前に連れて行き…


「2人とも…オジサンの話を良く聞いてね、

もう直ぐ、お母さんは目を覚まします…

ただ山火事のショックで、

今までの記憶を…

無くしてしまったんだよ、


だから、パパと良く相談して、

ママに…色々な事を教えてあげて

欲しいんだ…」


5歳の娘は父親に向かい…

「パパ、ママは自分の名前も

忘れちゃったの」

「あぁ、そうなんだよ、キャリー…

でも、ハッキリ言って…

今までのママは怖かったから…

この際、名前を変えて見ないか?」


すると、3歳の息子のカールが

「お名前を変えたら…優しいママになる…」


父親は笑顔で頷いた…

すると2人の子供は…


「今すぐに変えよう!」と言った。

子供たちの本音が出た。


今までどれだけ小さな胸を、

痛めて来た事か…

キャリーが…

「パパ、なんて呼べばいいの?」

「バニーだよ、バニー…」

                       [coming soon…]



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