第73話 反神

「標的は2人と言ってなかったか?」


「厄介ナ奴ガイタ」


黒いボロは獣人の女を地面に投げ捨て、すぐに去ろうとする。


「待て。それで報告になると思っているのか?」


「黒髪ノ背ノ高イ男。我ノ洗礼ヲ受ケテモ攻撃シテキタ」


「本当にそいつは加護持ちだったのか?」


「見タコトナイ加護ダッタ」


「……分かった。行け」


黒いボロは身を翻し、すぐに闇に消えた。


「女を連れて行け」


「「ハッ!」」


後ろに控えていた研究所の職員がぐったりとした獣人の女を連れて行く。直ぐに地下室で洗礼具を着けられるだろう。


「室長。お疲れ様です」


声に振り返るとダルマーノだ。


「黒いボロがしくじった」


「奴等が失敗ですか?」


「洗礼が効かなかったそうだ」


「反神の洗礼が効かない。どんな相手ですか?」


ダルマーノが首を捻った。


「見たこともない加護だったらしい」


「探らせますか?」


「現状では必要ない。今は数を増やすことが重要だ。奴等ばかりに任せてないで、我々もとにかく加護持ちを集めるんだ」


「了解しました。任務を遂行します」


「しかし真面目だな、ダルマーノは。帝国暮らしでさらに堅くなったか?」


「……心は王国にありました」


不服そうだ。これ以上揶揄うのはやめておこう。


「冗談だ。悪かったな。お前のことは頼りにしている。頼むぞ」


「ハッ!」



#



地下室に行くと、先程の獣人は既に洗礼具が着けられていた。身体能力の高い獣人でも、これで完全に抵抗出来ないだろう。


「随分と歪な洗礼具だな」


「生前は神様も目を背けるような顔だったでしょうね」


作業をしていた職員が振り返り、戯けた。


洗礼具は反神の民の頭蓋骨がついた拘束衣だ。頭蓋骨はどれも歪で、まともな形をしているものはない。あの黒ボロだって布をめくればこのような醜い顔をしているのだろう。


「もう召喚オーブも嵌めておきますか?」


「ああ。そうしてくれ」


職員は空の召喚オーブを獣人の胸のあたりにある頭蓋骨の口に押し込んだ。召喚オーブが微かに反応してぼんやりと光る。加護が完全に抜け落ちて、召喚オーブに神の化身が宿るのはまだまだ先のことだろう。


「加護が抜けた者は?」


「剣の神様の加護が後数日で抜けそうです」


「随分とかかったな」


「よほど神様に愛されていたのでしょうね」


「一緒に捕らえた奴はどうだ」


「羞恥の方は更に遅いですね。刻印も鮮明です。朝一はいつも半覚醒状態になって、抑えるのが大変です」


「寝起きは加護が強まるのか?」


「本人は"朝は大きくなって恥ずかしい"と言ってましたけど、何のことかは不明です」


「奴は【念話】が使えるんだったな。要注意だ」


「ハッ!」


地下室を後にした。

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