第69話 スラム街

不思議なことに俺の前には20人ほどの風体の悪い奴らが正座をしている。その背後には大鎌を持った黛がいて、誰も逃げられない。


「パイセン。どうするんすか?」


間抜けな頭をした和久津が困惑している。


「協力してくれると言ってるんだ。ここは素直にお願いしよう」


「いや、どちらかというと彼等は降伏してるんですが……」


「つまり、我々に協力してくれるってことだろ?」


「……もういいっす」


「拠点も出来たことだし、滑り出しは順調だな」


「えっ!この拠点ごと乗っ取るんすか!?」


「和久津、口を慎め。彼等は協力してくれると言ってるんだ。拠点の提供も当然、協力の範疇だ」


王都に侵入してすぐ、俺達はスラムに向かった。取り急ぎ、身を潜めて情報収集する必要があったからだ。


マントで身を隠しながらスラムに足を踏み入れると、案の定、ゴロツキに襲われた。次々と襲い掛かってくる輩を丁寧に説得し続けた結果が目の前にある光景だ。


俺の目の前で正座している奴等はこの王都のスラムを支配している犯罪組織の一つ、ラビオ。構成員には10代が多く、血気盛んで誰にでも牙を剥く狂犬としてスラムでは知られていた。


"おい、ロブロブ"


スキンヘッドで一際体のデカイ男に【念話】で話し掛ける。


"……なんだ"


"今日からここを我々の拠点とする。いいな"


"……俺達はあんた達に負けた。好きにするがいい"


"随分と素直だな。スラムの奴等はお前達のことを狂犬と呼んでいたのに"


"……ボスのいなくなった俺達は負け犬だ。スラムに迷い込んだ旅人を襲うぐらいしか出来ない。それも失敗したがな"


俺達を襲ったことを言っているのだろう。しかし、ボスはロブロブではないのか。最初に記憶を抜いたゴロツキからは得られなかった情報だ。本当に末端の構成員だったようだ。


"ボスはお前じゃないのか?"


"俺はただの幹部だ。ボスは……"


"死んだのか?"


"いや、それすら分からない。ただ、いなくなってしまった"


"他の組織に攫われた可能性は?"


"もちろんそれは考えた。だが何処の組織もボスについて何も言って来ない。ボスがいなくなって縄張り争いに負け続けているがな"


組織同士の抗争に関係ないとなると、別の狙いがあったのか。


"我々がアルスニアに来たのも人探しが目的だ。お前達にも情報収集を手伝ってもらう。その中でラビオのボスに関する情報も集まるかもしれない"


"……自分達の為にも協力しろってことだな"


"そういうことだ。ちなみに、お前達のボスはどんな奴だ"


"ボスの名前はネブロ。背の低い男で、愚鈍の神様の加護持ちだ"


三木やエジンと同じ、加護持ちが行方不明か。この王都では面倒なことが起きているのかもしれない。

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