第54話 奴隷

「いやー、皆さん!人生って素晴らしいっすね!」


「和久津ウザイ死ね」


「ははは!手厳しいっす!」


髪を取り戻して以来、和久津は毎日ご機嫌だ。何を言われてもニコニコしている。黛の辛辣な返しにも全く堪えていない。


「今日はお三方で何処に行くんすか?」


大して興味もないくせに、調子のいいやつだ。


「フィロメオから帝都には奴隷商会があると聞いてな」


フィロメオが頷いている。


「パイセン!欠損奴隷を購入、回復させたら大活躍のパターンですか!?」


「いや。リリパットが売られていれば買い取って欲しいとマレーンに頼まれていたんだ」


「まさかの普通の理由!!」


「俺がゲンベルク17世に【変身】して奴隷商会へ行けば、実質タダだからな」


「それ、皇族の悪評が立ちません?」


「他人が他人を悪く言うだけだ。俺には一切関係ない」


「いっそ清々しい!」


「サブロー、早く行こ」


黛が会話に飽きて俺を急かした。


「奴隷は異世界ロマンなんで自分も行きたいっす!」


「好きにしろ」


「いやっほいっ!!」


こいつ、髪が生えたからって奴隷ハーレムでも作るつもりか。



######



帝都には奴隷商会が3つあり、それぞれが大通りに店舗を構えているという話だった。奴隷商会ってのは随分と儲かるのだろう。


近い順に店舗をまわると、一軒目にも二軒目にもリリパットは売られていた。ゲンベルク17世に【変身】して入ったので店主は最初から降伏状態だ。結果、全てのリリパットを譲り受け、今はずらずらと引き連れている。


「うー、パイセン。2軒目もキツかったすね。やっぱり奴隷って見てらんないすわ」


最初は威勢の良かった和久津だが、現実をみて凹んでいるようだ。


「勝手についてきたんだろ。それにお前がどう感じたところで奴隷達の境遇は変わらん」


「……その通りっす」


「分かったならさっさと歩け。今日は俺の従者だろ」


最後の奴隷商会の店舗が視界に入ってきた。和久津が従者のフリをして扉を開けると、ゲンベルク17世の格好を見て店員が居住まいを正した。


フィロメオが一番近くにいた丁稚小僧に話しかけると、小僧は飛び上がるように奥へと引っ込んだ。


「いま、商会長を連れて来るそうです」


「そうか。やはりこの姿は効果抜群だな」


小僧と入れ替えにやって来たのはキッチリした格好の優男だった。チラリと黛を見てから、フィロメオと言葉を交わした。


「リリパットの奴隷はすぐに準備してくれるそうです。他にも気になる奴隷がいればどうぞって言っています」


「よい心掛けだな。早速見せてもらおう」


店主が自ら開けたドアの先にはショーウィンドウのように奴隷達が飾られていた。若くて見目麗しい様々な種族の女が作られた笑顔を向けている。


「今までの奴隷商と趣が違うな。随分と大切に扱われているように見える」


「ここは一番の高級店ですからね」


フィロメオは淡々と奴隷達を見ている。おっかなびっくりの和久津とは大違いだ。


「加護持ちの奴隷はいるか聞いてくれ」


「ちょっと待って下さいね」


フィロメオと店主が一言二言と交わしている。


「居るには居るらしいですが、おすすめ出来ないそうです」


「一体、どんな神様の加護持ちなんだ?」


フィロメオが一瞬止まった。


「……心配の神様の加護持ちだそうです」


面白い。

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