第55話 加護持ち奴隷
商会長に案内された部屋はそれまでの華美なショーケースとは違い、如何にも奴隷商といった牢屋が並んでいた。
そこにいる奴隷達は感情の抜け落ちた顔をして、俺達が入ってきても反応しない。和久津が事前に言っていたような欠損奴隷もここにはいる。表に出せない訳あり商品がこの部屋には集められているのだろう。
ある牢屋の前で商会長が立ち止まった。
「この奴隷だそうです」
「獣人っす!異世界ロマンきたっす!」
今まで大人しかった和久津が急に声を上げた。
フィロメオに言われて覗いた牢屋には頭に耳の付いた小柄な獣人の女がペタンと座っていた。犬の獣人だろうか。首には見たこともない刻印がある。
こいつが"心配の神様の加護"持ち。なるほど。気弱そうな顔をしている。
「何故こいつはお勧めできないんだ?」
「ちょっと待って下さいね」
フィロメオが商会長に尋ねた。
「……えっとですね。この奴隷と話していると非常に疲れるそうです」
「どういうことだ?」
「話してみれば分かると……」
「パイセン!この子も連れて帰りましょう!会話は戻ってからゆっくりすればいいっしょ」
和久津は乗り気だ。
「サブロー。犬飼いたい」
黛は完全にペット感覚だな。倫理観が壊れているのは今更だから仕方ない。
「ちゃんと面倒見れるのか?」
「勿論っす」
「和久津は黙って。私が飼う」
「……はいっす」
まぁ、せっかくの加護持ちだ。何処かで役に立つかも知れん。本人も牢屋で暮らすよりはマシだろう。
「分かった。こいつも連れて帰ろう」
「うれしい」
フィロメオが商会長に言うと、牢屋の鍵が開けられ獣人の女が出てきた。
「だれに【隷従】させますか?」
「いらん。逃げるならそれはそれでいい」
「まぁ、そうですよね」
フィロメオが【隷従】スキルの断りをいれると、商会長も女も不思議そうな顔をしていた。
#######
引き取ったリリパット達を駐屯地に送り、皇城に戻るともう夜になっていた。自室に戻って【変身】を解き、黛の部屋を訪ねる。さっきの獣人もここにいる筈だ。
「黛。夕飯にしよう。そいつも連れて行くぞ」
「分かった。おいで」
黛が声を掛けると察したのだろう。床に座っていた獣人は立ち上がり、黛の隣に並んだ。黛よりも更に背が低い。まだ子供なのか、それともそういう種なのか。
"夕飯を食べに行くぞ"
"えっ、【念話】。わ、わかりました!"
"名前は何という?"
"コニーです。お二人は?"
"俺が根岸。こいつが黛だ"
"ネギシ様とマユズミ様"
"黛がお前の主人だ。嫌なら逃げてもいいが、自己責任でやれ"
"と、とんでもないです!マユズミ様にお仕えします"
ふむ。話していても普通だな。一体どこに地雷要素があるのか分からない。加護持ちなので身体能力も高い筈だし、見た目も悪くない。地球基準だと美少女だ。
"よし。行くぞ"
"あっ、その前に……"
"なんだ?"
"あの、私がいた奴隷商会の商会長、私のこと何か言ってませんでした?あと隣の牢屋にいたおじさんも"
"いや、特には……"
"本当ですか?私がいなくなった途端、何か言ってないか心配で"
"もう会わない奴等のことを気にするな"
"あっ!私、ちゃんと牢屋を綺麗にしてから出ましたっけ?毛とか落ちてたら次に入る人嫌ですよね?"
こいつ、面倒臭いな。
"夕飯ってどんな所へ行くのでしょうか?私のような者が行って大丈夫ですか?私が行くことでマユズミ様の評判が悪くなったらどうしましょう?"
コニーの身体が薄っすらと青白い光に包まれる。
"実は私、海の食べ物が苦手で。マユズミ様が私に海老とか蟹と貝なんかを勧めてくれたら、私どうやって断ったらいいでしょう?やっぱり無理してでも食べた方がーー"
青白い光がどんどん強くなる。
"あっああああぁぁぁ!!!"
ぽとり。
コニーの股の間から梅干しの種のようなモノが落ちた。本人は膝に手をついて呼吸が荒い。
"どうした?大丈夫か?"
"……大丈夫です。種が出たのでもう平気です"
こいつの加護は奥が深そうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます