第48話 覚悟

"初めまして。で、よいか?"


ネギシと呼ばれた男は白々しく言った。フィロメオに視線をやると、目を輝かせてネギシを見ていた。私の中で説明出来ない感情が湧き上がる。


"昨晩はよくやったわね。褒美は何が良いかしら?"


"それは大丈夫だ。宝物庫のものはなんでも持っていっていいと言われている。先代に"


「本当なの!?フィロメオ!!」


「何の話ですか?お姉様」


「お父様が、この男に宝物庫のものをなんでも与えるって……」


フィロメオはそんなことかと息を吐いた。


「その通りですよ。あれぐらいで国の未来が買えるなら安いものです」


「そこまで?この男はなんなの?」


「うーん、それは難しい質問ですね。強いて言うなら……」


「何よ?」


「私の知る中で最も性格の悪い人です」


「そんな男にお父様は……」


ネギシはつまらなそうに私を一瞥し、宙に向かって何かを言った。


「えっ」


何もないところから黒髪の少女が現れた。首には刻印。死神様だ!


「マユズミさんですよ。お姉様」


フィロメオに促されて頭を下げた。次から次へと一体なんなのよ。


3人で何か会話をし、死神様が頷いた。


「お姉様。私とネギシさんは一度異世界、チキュウに行ってきますね。すぐに戻ってきますし、その間に怪しい動きがあればマユズミさん達が抑えてくれます。安心して下さい」


「こんな時にどういうこと?」


「異世界人の動きを止めるには異世界に行くしかないってことです。別に戦争に行くわけではありませんし、平気です」


「……必要なことなのね?」


フィロメオがゆっくり頷いた。ネギシが早くしろとフィロメオを促している。


「ああ、最後にお姉様」


「改まって何?」


「行きたくないなら、行かなくていいですからね。西大陸に」


「馬鹿なことを!西の大王を怒らせるつもり?」


「お姉様は気付いてないかも知れませんけど、私達はもっと大きな敵を怒らせちゃってますから。正直、西の大王なんてへっちゃらです」


「……どうなっても知らないわよ?」


「大丈夫です。ゲンベルク18世は折れません」


「わかったわ。西大陸には行かない。私が貴方達を見張らないと」


「ふふふ。では、行ってきます」


フィロメオとネギシが立ち去ろうとする。


「ちょっと待ちなさい!」


「まだ何か?」


「この太った男に服を着るように言いなさい!!」


フィロメオは露骨に嫌な顔をした。


「えっ、まぁ、その辺はお姉様がご自身で伝えれば宜しいのでは?」


「フィロメオが連れて来たんでしょ!貴方が言いなさい!!」


「あっ、時間がないみたいです!それでは行って来ます!」


結局、フィロメオ達が戻ってくるまでの間、太った男トミザワはずっと下着姿で彷徨いていた。

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