第41話 轡田の奇行

「根岸君、なかなか良い部屋で驚いたよ。異世界であんな快適なベッドで寝られるとはねっ!」


首にベルトを巻いた轡田くつわだが気安く俺の背中を叩いた。随分とご機嫌だ。


「それは良かった。朝食の準備も出来ている。食堂へ案内しよう」


集会所の隣にある食堂では非戦闘員のリリパット達が朝から晩まで交代しながらずっと料理を作り続けている。今日の朝食は白米、焼き鮭、味噌汁、青菜のおひたし、納豆だ。


リリパット軍の食糧は基本的に日本で仕入れたものなのでメニューも日本と変わらない。


兵士達が居なくなった食堂にはほとんど人気がない。今居るのは朝に弱いルベリートぐらいだ。


「おお!!ルベリート君!!昨晩は……」


轡田が馴れ馴れしくルベリートに話しかける。


「昨晩?」


「いや、なんでもない!気にするな!はははっ」


轡田と一緒にルベリートのいるテーブルにつくと、ルベリートは食欲が無いのかコーヒーを飲んでいた。まぁ、仕方ない。


一方の轡田は律儀に"いただきます"と言ってから白米をすすり始めた。


「プッ!」


「汚いぞ、ルベリート」


「ヒヒヒ、ジャッテ、オンシ、ミテミー」


轡田は必死に米をすすっている。首を捻っているが、それでもすするのをやめない。散々白米をすすった挙句、上唇に米粒をつけたまま納豆に手をつける。


10回程かき混ぜた後、轡田は豪快に納豆を味噌汁に入れた。


「ブハッ!」


「おい、ルベリート」


「ヒッヒッ、ジャッテ、ジャッテ」


轡田は箸を味噌汁に入れては口に運ぼうとするが、そこには何もない。ルベリートは顔を引き攣らせて笑いを堪えるのに必死だ。


「おやおや、まだいらしたんですねぇ」


加護の件があって周囲と食事の時間をずらしている富沢が食堂へやって来た。


「おお!フィロメオ殿下!!もう戻られたんですね!!」


轡田は勢いよく立ち上がって富沢に近寄り、おもむろにチャックを下ろし、ボロンと出した。


「日本エクスプローラー協会、異世界課の轡田と申します!」


轡田が自分のナニをグーっと引っ張って富沢に渡そうとする。


「……あ、生憎今は名刺を切らしてましてねぇ、また今度受け取りますよ」


「そんなことを仰らずに!フィロメオ殿下、受け取ってください」


轡田が限界まで自分のナニを引っ張る。ルベリートは声も出せなくなって笑い転げている。


「轡田。フィロメオはいらないと言っているんだ。控えよ」


「こ、これは、失礼しました!」


轡田は慌てて仕舞い込み、富沢に頭を下げた。


「……朝食はもう少し後にしますよ」


そう言って富沢は食堂を後にした。ルベリートはいつまでも床に転がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る