第42話 旅立ち

まだ霧のかかる駐屯地の夜明け。エジンは剣を振っていた。


その振りは驚くほどゆっくりで、荒々しいエジンのイメージとは程遠い。


こちらの姿を認めるとエジンは剣を置き、視線を寄越した。


「今日出発すると聞いた」


「このまま出発する。轡田をここに届けるまでが俺の仕事だったからな。これからは自由にさせてもらう」


エジンは汗を拭いながら言った。


「轡田は1人で大丈夫なのか?」


「ああ見えて元々は上級エクスプローラーだ。一人で駐在員が務まらないような奴を協会も選ばん。お前がちょっかいを出さなければ大丈夫だ」


「もう大体は元に戻したからなんとかなるだろう」


「信用ならんな」


「心配なのか?」


「いや、実はどうでもいい。轡田が三木と交代することが重要だった。奴自身には興味ない」


「望月は連れて行かないのか?」


「奴はここに馴染んでいるしな。そもそもあんなデカイ竜に乗ってる奴を連れて行けるか」


エジンは練兵場にすっかり居着いたモチ太郎を一瞥した。モチ太郎が頭を上げてエジンを睨む。


「あ、おはよう御座います。根岸さん」


示し合わせたように三木が現れた。鼻にはまだ鼻ケースを付けている。


「そのまま行くつもりか?」


「……はい。この状態の方が自分らしい気がして」


何を言っているのか全く理解出来ないが、本人が良しとするならこれ以上は野暮だ。


「南に行くらしいな」


「はい!グランピーさんから色々話を聞いて大陸の南を回ってみることにしました」


エジンも頷いている。


「アルスター王国には気をつけろ」


「えっ、何かあるんですか?」


「具体的に何かあるわけではないが、動きが怪しいのは確かだ。王国に入ったら隙を見せるな」


「……分かりました。肝に銘じておきます」


「餞別にこれをやろう」


マジックポーチから取り出し、三木に渡す。


「……スキルオーブ」


「【敏感】のスキルオーブだ。スキルを意識すれば五感が鋭くなる。どちらが使っても役に立つだろう」


「いいんですか?」


エジンも驚いている。


「ああ。お前達には面白いものを見せてもらった。これぐらいしないと神様に叱られてしまう」


「ありがとうございます!エジンと相談して使います!」


「さぁ、もう行け。望月に見つかると面倒なことになりそうだ」


「はい!」


三木とエジンは駐屯地を抜けて南に歩いて行った。その背中を主人に代わってモチ太郎が見送った。

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