第30話 模擬戦
「三木さんが鼻を押さえて出て行きましたけど、ボスの仕業ですか?」
富沢は三木の後ろ姿を見送りながら言った。
「ああ。開心剣でやつの認識を弄った」
「どんな風にです?」
「【開心】で記憶を読み取りながら、【入換】で三木自身の鼻とおちん○んの記憶、認識を入れ換えた。周りから見ると普段通りだが、三木自身は自分の顔におちん○んがついていると思っている筈だ」
「そして股間には鼻がついていると認識していると。そんなことまで出来るんですねぇ。恐ろしい」
恐ろしいと言いながらも富沢は笑っている。これから起きることを想像しているのだろう。
「通常、【入換】は使用者が触れたことがあるものしか入れ換えられないんだが、開心剣に付与することでその辺を上手く誤魔化せたみたいだ。ルクハルト様々だよ」
「なんとかルクハルトさんにはここに留まってもらいたいものですねえ」
「当面はルベリートからの依頼をここでこなす筈だ。定期的に珍しいスキルオーブを提供することでなんとか足止めしてみよう」
「よろしくお願いします。ところで、三木さんの本題はどうなったんですか?」
「エクスプローラー協会の駐在員をここに置くことになった。しばらくは三木と望月が残る。その内交代要員が来る筈だ」
「エジンさんは帰るんですか?」
富沢は首を傾げる。全く可愛くない。
「奴がガイドとなって新宿ダンジョン踏破者を増やすそうだ」
「ほほほ。守りよりも攻めってことですねえ」
「エジンが残っても揉めるだけだしな」
「おっしゃる通り」
「これから親睦をかねて模擬戦をすることにした。三木・望月ペア対リリパット軍だ」
「ほほ!それは楽しみです」
######
三木と望月は360度、全てをリリパットに囲まれている。
早くも望月は三木に跨り、ケンタウロススタイル。四つん這いになると鼻を隠すことが出来ないので、既に2人の周りには分厚い盾が形成されている。
滅多にない娯楽にリリパット達は大盛り上がりだ。昼間にもかかわらず酒を引っ張りだして飲み始めるヤツまでいる。
「これより、地球からやってきた英雄、三木・望月ペアとリリパット軍の模擬戦を行う!」
おおおおお!
野次馬が訳もわからず歓声を上げる。いつも通り。よく見るとレベッカが最前列に陣取って盛り上げている。調子のいい女だ。
「鉄壁として知られる2人だ!リリパットの攻撃なんて屁でもないと言っていたぞ!全力で挑め!!」
おおおおお!
今度は兵士達から怒号が響いてきた。士気は充分だ。この模擬戦ではスキルの使用を認めているから、うずうずしているのだろう。
さて、引き伸ばしても仕方ない。
「はじめ!」
銅鑼が鳴り響き、模擬戦が開始された。
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