第76話 来訪者
三毛猫社の隅でいつものようにコーヒーを飲んでいるときだった。異様な雰囲気を纏った2人組がこちらに視線を定めたまま歩いてくる。
ああ。またか。
富沢の時と同じように、どうせ厄介事だろう。男はひょろひょろとした体格で首にスカーフを巻いている。刻印を隠しているのだろう。連れの女は男と同じくらいの長身ではっきりとした顔つき。いかにも勝気だ。女の首にも刻印。見たことのないものだ。
「お前が根岸か?」
女の方がぶっきら棒に声を掛けてきた。その様子に男が慌てる。
「いえ、違います。根岸ではないです。人違いでは?」
「何!人違いだったか!すまん」
「望月さん!チョロすぎますよ」
ヒョロい男が女にツッコむ。
「どういうことだ?三木」
「この人は根岸さんです。刻印も確認してあるので間違いないです」
「おい!根岸!騙したのか!」
「なんのアポイントメントもなしに現れる輩が何を言っているんだ。いきなり話し掛けてきてまともに相手してもらえるわけないだろ」
「き、貴様!」
「ちょっと望月さん!根岸さんの言う通りですよ!いきなり喧嘩腰に声を掛けたのが悪かったんです」
ひょろ男の方はそれなりに常識があるらしい。
「私は三木っていいます。で、こっちが望月です。エクスプローラーをやってます」
「知らんな」
「"ふんどしナイト"と"日本昔ばなし"って言えばわかりますか?」
「お前等、頭おかしいのか?」
「なんだと!」
「もう、望月さん!落ち着いてくださいよ!事前にどういう人か教えてたでしょ?」
「だがしかし……」
「根岸さん、すみませんでした。少しだけ話をさせていただけませんか?」
「なんの話だ」
「新宿ダンジョンの完全攻略に関係する話です」
ふん。面白い。
#######
「へえ。新宿にこんな広い事務所を持ってるんですね。落武者チャンネル、儲けてるんですねー」
「夏目はいないのか?夏目に会いたいぞ!」
2人を事務所に連れてきたのは間違いだったかもしれない。
「お前等、遊びに来たのか?」
「くっ」
「ごめんなさい」
「まあいい。で、新宿ダンジョンの完全攻略とお前達は何か関係あるのか?」
「つい先日、新宿ダンジョンの第19階層が攻略されたのはご存知ですか?」
「ああ。あれだけニュースでやっていればな」
「あの攻略チームは協会が日本政府からの要請を受けて結成したもので、選りすぐりのエクスプローラーが所属しています。我々もその一員です」
「"ふんどしナイト"と"日本むかし話"が?」
「そうだ!」
なんでこの女は自分のあだ名を呼ばれて嬉しそうなんだ。理解出来ん。
「もう"ふんどし"じゃないんですけど、一度付いたあだ名ってなかなか消えないんですよ」
三木が困ったような表情をするが、困っているのは俺だ。
「で、何故俺を訪ねて来た?」
「これを見て頂けますか?」
そう言うと三木は自分の首のスカーフを外して刻印を露にした。その刻印は明らかに色が薄く、今にも消えてしまいそうだ。
「根岸さん、お願いします。加護の力を取り戻す手伝いをしてくれませんか?」
三木は深々と頭を下げるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます