第17話 冒険野郎
イラッシャイマセ
店の入り口の読み取り機にスマホをかざすと、ドアが開いて無機質な電子音に歓迎された。
協会認定のエクスプローラーショップ「冒険野郎」の新宿店はいつも通りに賑わっている。
若い男の集団が俺をみて何か言っていた。ここ1ヶ月ほどクーラーボックスを持って新宿ダンジョンに出入りしていたせいで、ちょっと目立ってしまったのだ。
俺は広い店の中を進み、ガラスケースの置かれているコーナーにたどり着いた。マジックポーチやスキルオーブ、その他特殊効果のある武器等が置かれていて、厳つい店員が睨みを利かせている。
「マジックポーチが欲しい」
「やっと金を使う気になったか」
この1ヶ月で厳つい店員とは顔見知りになっていた。毎日のようにここにコバルト結晶を売りに来ていたからだ。鉱石のように知り合いに捌くのが難しいものは、協会認定ショップに売るのが1番手っ取り早い。
「で、どれぐらいのやつにするんだ?どうせ買うなら最初から容量がでかい方がおすすめだぞ」
「この1500万のやつはどれぐらい入る?」
「600リットルは入るな。ドラム缶3個分だ」
「この2億のやつは?」
「こいつは容量は1000リットルだけれども、時間停止機能がついている。食い物入れて忘れてても、腐らない」
「ファンタジーだな」
「今更だろ」
店員は眉を動かして息を吐いた。
「いえてるな。この1500万のやつをくれ」
「毎度あり。これでクーラーボックスともおさらばだな」
「ああ、随分目立ってしまったからな」
「お前、釣りの神様の加護持ちだって噂されてたぞ」
「それなら海か河へ行ってるよ」
「知ってるか?瀬戸内ダンジョンの大半は海なんだぜ」
「攻略は進んでるのか?」
「いや、全く」
「だろうな」
「海の神様の加護持ちしか先に進めないらしい」
「結構いるのか?」
「漁師にはそれなりにいるらしいが、そもそも若い漁師が少ないからな」
「ジジイはダンジョン行かないってか?」
「そーいうことだ。未だにダンジョンの存在を信じてない層は一定数いるからな」
「スキル持ちの孫が生まれたら信じるだろ」
「いえてるな。ところで、スキルオーブはいらないのか?」
「これから第5階層に行くからな。買うにしてもそれからだ」
「しょぼいスキルを引いて、泣きながらレアなスキルオーブを買ってくれ。俺の店で」
「死ね」
「でもお前、ソロだろ?スキルなしで大丈夫なのか?初めてのフロアボスはパーティーで挑むのがセオリーだぞ?」
「その辺は大丈夫だ。流石に考えてるさ」
そう、よーく考えているさ。
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