第10話 私の名前は

やっと首が動くようになり、男の方を見た。


私を助けて?くれた男は少し離れたところに座って何やら必死にスマホを弄っている。


鋭い目つきと鋭利な鼻梁からサディスティックな印象を受けるが、イケメンだ。10人いれば10人、そう言うだろう。


まだ手足は動きそうにないけれど、声は出せそう。


「……あ、あの」


「10万だ」


「えっ」


「お前を助けるのに使った麻痺珠の値段だ」


「……あっ、払います!払いますから!助けてくれてありがとうございます!」


何この人怖い!いきなりお金のはなし!さっきのイケメン認定取り消しだ!


「いや、金はいい」


えっ、ちょっと、何するつもり?まだ身体は動かない。


男は立ち上がり、私の横に歩いて来てしゃがんだ。首に視線を感じ、鳥肌が立つのが分かった。やばい!何かされる。


「お前はなんで1人でダンジョンに来ているんだ?」


「ほ、本当はサークルの友達とくる予定だったんですけど、急に都合が悪くなったみたいで、、」


「サークルってのは大学のエクスプローラーサークルとか?」


「ええ、その通りです」


「ふむ。使えそうだ。当たりだ」


「えっ?」


「いや、なんでもない。気にするな」


男は考えたふりをしてから続けた。


「で、なんでゴブリンなんかに追い詰められていた?」


私の首の刻印を見ている。


「……いや、あの、調子に乗ってゴブリン狩りをしていたらレイピアが折れちゃって」


「素手でなんとかならないのか?」


「わ、私の加護はそんなに身体能力上がらないんです」


「なんの神様なんだ?」


「……ど、読書の神様です」


「プッ」


「ちょっと!何がおかしいんですか!この加護を得たら、モンスターを倒せば倒すほど、読んだ本の内容を忘れなくなるんですよ!学生には垂涎の的!の加護なんです!」


「死んだら何にもならんな」


ぐぬぬ。さっき死にかけただけに何も言えない。


「名前は?」


この男に名前を教えるのはマズイ気がする。


「おいおい、命の恩人に名前も教えられないのか?まだ立てないみたいだけど、このまま置いていってもいいんだぞ」


「わっ!言います、言いますから!五条美里です」


「五条だな」


男の口角がニヤリと上がった。ひょえええ。やっぱり名前言うんじゃなかった!


「俺は根岸三郎という。仲良くしよう」


根岸さん、全然目が笑ってないよおおおぉ。

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