第4話 初ダンジョン

「パイセーン。もうちょっと真面目にしたらどうですか?」


「いや、真面目だろ。スーツだぞ」


「ダンジョン舐めてるっしょ!パイセン!」


そう。俺は今、ダンジョンに来ている。都内唯一のダンジョンである新宿ダンジョンだ。


もともと映画館があったところに唐突に現れたダンジョン。


宇宙物理学者によれば、宇宙は膨張と収縮を定期的に繰り返していて、こっちの世界とあっちの世界が繋がったのはその収縮によるせいらしい。


まぁ、実際のところ、その辺はどーでもよいしどーしようもない。


俺は金属バットを振り、ゴブリンの頭を潰した。


「パイセン。本当にダンジョン初めてなんですか?」


「そう、だが?」


「なんというか、もうちょっと躊躇いとかないんですか?」


ゴブリンの死体は煙になって消え、小さな魔石だけがころがっていた。俺は魔石を拾い上げて答える。


「ないな。和久津、これでいくらになるんだ?」


「100円いかないですねー。ゴブリン程度だと」


「しけてるな」


「まぁ、ゴブリンですから」


「仕方ないな。和久津。さっさと2階層に行こう」


俺はまた現れたゴブリンの頭をかち割る。


和久津がゴブリンの血飛沫にいちいち悲鳴を上げているが、無視だ。


そもそも和久津はモンスターの死骸に慣れている筈なのだ。


ノリでリアクションを取っているにすぎない。


「和久津。どっちに行けば階段があるんだ?」


「一階層はただひたすら真っ直ぐで問題ないっす。言わばチュートリアルなんで」


「なるほどな。ダンジョンてのは随分と親切設計なんだな」


「あっちの世界ではダンジョンは神様から与えられた試練って認識らしいですよ」


「その試練を超えて辿りつくのがこっちの世界か。酷いジョークだ。試練が終わらないじゃないか」


俺は淡々と現れるゴブリンを潰し、ただひたすら真っ直ぐに道を歩いてゆく。


ダンジョンは不思議なことに壁自体がうっすらと光っていて、灯りを持ち込まなくても苦労しない。


ヘッドライトをつけて潜ると思っていたから、神様の親切設計に感謝だ。


魔石が溜まってきたせいで歩く度にジャラジャラと音がする。


「パイセン。僕のマジックポーチの中に入れましょうか?魔石」


「ネコババするつもりだな」


「しませんよ!これでも結構稼いでるんですからね!」


和久津は怒ってみせる。なるほど。確かに稼いでいるのかも知れない。


俺と違って和久津は全身黒の戦闘用ボディースーツに短い槍を装備し、油断のない様子だ。


中堅エクスプローラーというのは本当のようだ。


「しかし、エクスプローラーってのはこんなに簡単になれるものなんだな」


「ダンジョンが出来立ての頃はわざわざ協会に出向いて登録してたみたいですよ。今は全部スマホのアプリで出来るので10分もあればエクスプローラーになれますもんね」


「おかげで失業率がほぼ0%か」


「誰でもなれて税金も優遇されますからね」


「そして死亡率もナンバーワン」


「違えねえっす」


「まぁ、ダンジョン攻略が国策だからな。どこの国も」


俺と和久津は雑談をしながらゴブリンを屠り、ついに第二階層への階段へと辿りついた。

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