第5話 Fear

 あれから、後悔の二文字が頭に浮かび続けていた。恋は盲目もうもくとはよく言うが、ここまで冷静さを欠いたのは珍しかった。

「電話越しだったけど相当きょどってたぞお前。不審者だぞ不審者。」

 その通りとしか言えない。状況が状況なら通報されててもおかしくなかったと思う。少なくとも彼女の受けた印象はいいものではなかっただろう。

「うるせえよ…」

 いくらでも正論が頭の中で俺をとがめてくる。

 一方で、たかが一人の人間関係にここまで神経質になれる自分にある意味感心していた。他人に対して、ここまで熱くなれる自分に驚いた。所詮、人間である以前に動物でしかないということの裏返しでもあるわけだが。

「まぁ初心な感じがして人によっては庇護欲ひごよく湧いてきそうなタイプじゃない?お前」

 唐突とうとつに口を挟まれた。

「次を探せと?」

 不服ふふくそうなため息を漏らしながら答える。

「知らね、好きにすれば。」

 投げやりな態度に少し苛立いらだった。窓辺から差し込む夕日に目をひそめ、力任せにカーテンを閉める。

「ちっ、愛想あいそねぇなお前。」

 独り言のように漏らして、ベッドに身を投げた。

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Cup of ... Inertia @Into-never-ever

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