第3話 Sunset

 目を覚ます。日は高くない。今日は珍しく早起きだった。二度寝するのももったいないくらいなんだかスッキリしていた。カーテンを開け薄暗い窓の外をなんとなく眺めていると、腹の底のあたりが熱く、鼓動こどうが高まっている自分に気づいた。この昂りが何に起因きいんするのかを、今の今までこんなことを教わった覚えはないが、昔から知っていたような風に感じるのだった。

「あの女か……。」

 先日のあの光景。おそらく自分以外の人が見たところで何の変哲へんてつもないであろうあのカフェにたたずむ彼女の風貌ふうぼう。窓からの暖かい夕日を浴びながらも、彼女自身のまとう空気は冷たかった。それら2つは決して混じりあわない。いわばマクスウェルの悪魔あくまが彼女の周りにいるかのように見えた。

 早起きしたはいいものの、することがない。しかし心はどうも落ち着きがない。血迷った俺は気心きごころの知れた友人、卓也たくやに電話を掛けた。出るわけないと聞きなれた音楽を繰り返す画面を見てから思ったが……。

「……んだよお前か……何?こんな朝早くから……。お前朝型じゃねえだろ?」

 ことほか、眠たげな声が返ってくるのであった。

「あぁ……いやなんか珍しく早起きしちまってさ。その……なんつーかじっとしてられなくてさ」

 言葉に詰まった。卓也に対して初めて恥というものを覚えた。

「何それ。テストかなんかでもあんの?今日。」

 今になってこいつに電話を掛けたことが後ろめたくなってきた。

「あ……いや……そういうわけじゃないんだが……。」

 口ごもる俺に、舌打ちが聞こえた。

「はぁ、こちとら寝起きなんだよ、用があるならはっきり言え。」

 引くに引けなくなり、俺は意を決した。

「なぁ、お前ってさ……割と恋愛経験豊富だよな。」

 俺の口から「恋愛」の2文字が出るなり卓也は声色を変えて、

「え、おい何だよ、まさか非リアが一番似合うお前に好きな人でもできたの?こりゃ明日は雪だな。」

 などとあざけるように言うのだった。

 多少の苛立いらだちを覚えながらも、

一言ひとこと余計だ。いやまぁお前の言うとおりだが……、えっと、そう。俺は今困ってる。俺はどうしたらいい。」

 自らのすべてを投げ出す覚悟で聞いた。

「んー?まぁ軽く告ってみたら?案外行けんじゃね?」

 この言葉を聞いてからというもの、次第に俺の心の何かが崩れ始めた。

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