編入生② ルイスside

ウイリアム・リー・イグレシアス。それほど強くない魔力でありながら一学年でトップに君臨するイグレシアス侯爵家の跡取り。輝くようなハニーブロンドに透き通るような空色の瞳。恐ろしく整った顔も、常に無表情なのに加え、ほとんど喋らないので他人を見下しているなどと言う輩もいるらしいが、本人曰く「他人を見下してる時間があるなら少しでも力をつけたい」とのこと。


決して強いとはいえない魔力を補うために始めたという剣の腕は一年だけでなく学校の中でもトップクラスに入るほどだ。


正真正銘の優等生。


それが、ウィルことウイリアム・イグレシアスである。


ここで彼を知らないものはいない。


俺たちと同学年ならウィルを超える実力者はそうそういないだろう。



「はよ」



その後もソフィアは飽きもせず編入生について想像を膨らませていた。そんな中、ウィルが会話に加わってきた。


すごいタイミングだ。これが所謂噂をすればってやつか。



「あ、ウィルおはよう。聞いて聞いて。実は今日ね──」



ソフィアは俺に話をしていた時よりも興奮気味に編入生のことを話した。


この扱いの差はなんなんだ。別にどうでもいいけど。



「・・・それで皆う・・・、・・・落ち着きがないのか」

「今、うるさいって言いかけたでしょ?わざわざ言い直すなんて相変わらず優しいわね、ウィルは」



ソフィアがウィルに感心したちょうどその時、教室のドアがカラカラと軽い音を立てて開いた。


クラスメイトたちが一斉に席に着く。



「おはようございます、皆さん。今日は一日の流れをお話する前に、ひとつ、お知らせがあります」



ザワザワとした落ち着きのない雰囲気が再び流れた。


まさか、噂の編入生?


俺は本当に編入生がいるなんて思わなかったからいつもは聞かない寮監の話に耳を傾けた。



「では、入ってきてください」



寮監であるアイリア・バークスがドアの向こう側にいるであろう人物に向かって声をかける。


ゆっくりとドアが開いて編入生がその姿を現した。その瞬間、教室にいる誰もが息をのんだのがわかった。かく言う俺も思わず少女の姿に目を見張った。


陶器のように白い肌、月のように輝く黄金色の澄んだ瞳。頭皮から毛先にかけて銀髪から黒色に変わっていく珍しい髪は後ろで高くまとめあげられており、幼い顔つきに加え身長も百四十前後といったところだろうが子どもっぽさは感じられない。


そんな姿に教室にいた全員に言葉を失ったかのような沈黙が流れた。



「今日からフィーアスト寮の一員になった編入生のデオールさんです」



挨拶を、とバークス寮監が編入生の少女を促す。



「ヴァイオレット・デオールといいます。よろしくお願いします」



鈴の音のような澄んだ心地いい声で、落ち着きのあるゆったりとした話し方は、とてもじゃないが十二、三歳の少女とは思えない。



「えぇでは、デオールさん。席は基本的に自由ですが・・・今日はカーソンくんの隣が空いてますね。窓から二列目の一番後ろの席です」



うわ、マジか。めんど。あいつどう見ても貴族じゃないからいじめとか合うやつじゃん。関わりたくねぇ・・・


貴族と平民の見分け方には着ているもの以外にもうひとつある。それは代々学校に通い始めた貴族の子どもに受け継がれる各家門の紋章がデザインされたバッジがローブについているかいないかだ。


貴族である俺が言うのもおかしいのかもしれないが、この制度は正直あまり好きではない。同じ人間で命の価値は同じなはずなのにこういったはっきりとした差別てきなある制度は見直すべきだ。それに平民と貴族の違いはその家の先祖が国に仕え成功を収めたから与えられたものなのであって子どもである俺たちが収めた功績ではない。俺たち子どもが威張り散らすのは違うと思うのだ。


まぁ、それは置いといて。


バークスのやつ道理でやたらと目が合うと思ったら俺の隣の席にあいつを座らせようとしてだったのか。


俺の席は窓側の席の一番後ろ。その隣は空いている。


デオールはにこりとバークスに微笑んでこくりと頷き、俺の隣の席の机の角に手を置いて「よろしくお願いします」と小さく会釈してきた。



「・・・ん」



俺がそっけない返事をしても彼女は顔色ひとつ変えることなく静かに席に着いた。


俺は欠伸をひとつして今日の日程を長々と話しているバークスに目を向けるが、すぐに視線は窓の外へと逸らした。


今日もまた、暑くなりそうだな・・・






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ヴァイオレットは休みたい。 @sese1025

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