編入生① ルイスside

教室がやけに騒がしく感じて、俺は顔をしかめた。


例年よりも気温が高くてイライラするというのに、この落ち着きのない空間のせいで余計に気分が悪い。



「なあなあルイス、聞いたか?」

「何を」



俺は苛立った態度を隠そうともせずに、目を輝かせて問いかけてくるノア・コリンズに冷ややかな声で返した。


ノアは俺が気を許して本音を打ち明けられる数少ない幼馴染の一人だ。


相当な天然かつ気楽な性分でいつも笑顔を絶やさない、そののんびりとした挙動の反面、危機的状況では鋭さをのぞかせることもあり、根はかなりの負けず嫌いでもある。人望も非常に厚く、寮生の中ではヒーロー的存在だ。


今日は、いつも以上にテンションが高くて、朝からよくこのテンションでいられるなと呆れをとおり越してもはや感心してしまう。


そんなノアは、俺の冷ややかな声で気分を害した様子もなくおどけた調子の明るい声で俺を#窘__たしな__#めた。



「暑いからって不機嫌になるなよ」

「・・・うるさい」



暑いのは嫌いだ。周りが言う「寒い」くらいが俺には丁度いい。



「で、何を?」

「編入生が来るのよ」



ノアが聞いてと訴えてくる視線が煩わしくて仕方なく問い返すと、答えはノアではなく、一つ前の席に座っていたソフィア・エイブラムズが先に口を開いた。ノアは残念そうな顔で、なぜか勝ち誇ったような笑みを浮かべているソフィアを見つめた。そんなに言いたかったのか?



「編入生・・・」



俺は呟くような声でソフィアの言葉を繰り返した。思わず自分の耳を疑ったが、二人の様子を見るに、聞き間違えたわけではないらしい。


それにしてもタトランに編入生?そんなの。



「ただの・・・、ただの噂だろ。転校生なんてデマに決まってる」



信じ難い話に俺は首を振った。そんな俺を珍しいものを見たかのような顔でノアとソフィアが首を傾げているのを見て俺は眉間に皺をよせた。



「何だよ・・・?」

「ルイス、この話もう知ってたのね」

「いや?今初めて聞いた」



ソフィアの言葉にすぐ否定すればはぁ、と深い溜息が返ってくる。顔を上げれば呆れたとでも言いたげな視線を向けられていた。その態度にムッとすると、今度はソフィアにニヤリとした意味ありげな笑みを向けられる。



「それがデマじゃないのよ。ついさっき用があってラードナー先生のところへ行ったんだけど見たことない美少女が先生と話しこんでたのよ。編入生の話はもう耳に入っていたけど、私も最初は疑ってたのよ。でもその子を見てデマじゃなかったって確信したわ。だってあんな綺麗な子一度見たら忘れられないもの」



力説するソフィアの話にノアがさらにつけ足す。



「しかも相当できるやつらしいぞ。才色兼備だろうとか、魔法の威力が異常だとか」

「・・・才色兼備やら魔法の威力やらはさておき、実力はたしかだろうな」



俺の言葉に二人して顔を見合せ首を傾げた。



「考えてもみろ。ここは#あの__・__#タトランだぞ?仮にソフィアが見たそいつが編入生だったとして、実力がなかった場合どういう扱いをされると思う?」

「・・・いじめの標的になるでしょうね、確実に。学校が実力主義を語るのであれば、生徒もそういう考えになるのはある意味普通のことかもしれないけど」



俺の問いかけにソフィアは顔に皺をよせ、不愉快そうに声を低くして答えた。俺は肯定するように頷いてさらに続ける。



「いじめが公にでもなったらもちろん学校の評価も下がるが、実力を重視する親の耳入ったら?しかもそれがお高くとまった貴族の家だったら転校だって有り得る。年々タトランの生徒は少なくなってきてる。学校側だってそれは避けたいだろ。才能のないやつを受け入れるメリットなんてない。

それに子供がいじめられるとわかってて学校に編入させる親なんてそんなにいねえだろ。学校に行くのだって金がかかるんだから。子どもがいじめられてまで通わせる目的なんてそうそうないだろ」



俺たちの通っているタトラン魔法魔術学校は魔法専門の数少ない名門校。三世紀も前からあるこの由緒正しい貴重な学び舎を、それを守るべき人間が評判を落とすようなことをしては決してならない。学校はそう考えるだろう。


大体、このタトランに途中から通い始めるやつなんて初めて聞くし、前例はないんだろう。俺の耳に入らなかっただけかもしれないが・・・



「んー、そっか、たしかに・・・あ、じゃあウィルより強いっていうかのうせ」

「いやぁ、それはないんじゃないかな?だってウィルだし」



ソフィアの声を遮るようにして、ノアが彼女の意見を否定した。



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