依頼
デオール家は古くから続く由緒正しい国一番の魔法屋だ。わたしはその家の一人娘、ヴァイオレット・デオール。
魔法屋というのは、魔法に関する全てを扱う店のこと。具体的には占いや魔法薬の調合、祈祷などを生業としている。
そしてデオール家は魔物退治も家業としている。
ここは誰もが魔法の力が使える世界。だからといってみんながみんな魔法が得意というわけでない。
魔法薬を調合するには薬剤師の資格や専門的な知識も必要となってくる。それに占いなども基礎知識があれば簡単にできるものも多いが、とにかく水晶などの道具がかなり高価だ。
そして、魔物の対策や撃退。これには鍛え抜かれた強い魔力がいる。だから魔法屋だったり魔物退治専門の者を頼るのだ。
魔物などの危険な生物は騎士団ではなく、魔物退治屋がだいたい受け持っている。あとは魔法を悪用する人間もわたしたちが対処する。
騎士団はどちらかといえば魔法ではなく物理攻撃に長けている者が多いので、自分の魔力ではなく体を鍛える傾向がある。しかし魔法を行使する戦闘で必要なの強い魔力。
魔法屋や魔物退治を生業としている家はいくつもあるが、それをそれぞれ一つにまとめあげ、管轄する一族が存在する。魔法屋と魔物退治屋は密接な関係にあるということもあり、ある一族が古代よりこの二つを管轄しているのだ。
その一族というのが、デオール家。これは国家機密にも値する重要情報なので知っているのは限られた人物だけだ。
なので国民はそういう一族がいるのは知識として知ってはいるが、それがどの家のことなのかというのは知らない。ほとんどの人はわたしたち一族のことを”ガーネル“と呼ぶ。
ちなみに、魔法屋や魔物退治を職業としている人は一族に関わらず一括りにガーネルと呼ばれている。
そして、その名誉ある六代目当主、つまり今の当主が父様、エドワード・デオールなのだ。
今の時期、魔法屋だけでなくて魔物退治の方も忙しい。なので優秀な人材を探しているのだが、なかなか見つからない。やる気のある者は何人もいるのだが父様が認めないのだ。
普通の仕事とは違い、常に死と隣り合わせの仕事なのでやる気だけでは採用することはできないのだ。それにデオール家は貴族というわけではない。それだけで舐められる。人を見下す人間は弱いものだ。本人が気づいていないだけでもうそれ以上の実力にはなれない。下の者から学べることに気づかないから。
魔物退治屋はいつでも人手が足りない。なのでわたしも次期当主としての勉強も兼ねて父様の下で仕事を手伝っているのだ。今回はその一環としてタトランへ編入することになったのである。
今日の午前十時頃、依頼主はやってきた。その依頼主というのがタトラン魔法魔術学校の校長クロム・カリバン先生。
なんでも、学校の敷地内で魔物がよく出るらしい。
それはタトラン優秀な教師たちでも対処に手こずる強者たちばかりなんだそうだ。最近ではその数が増えていってるそうなのだ。
いくら世界屈指の魔法学校とはいえ、生徒たちを戦わせるわけにはいかず、かといって教師たちも日々の業務に加え魔物退治するとなると疲れも溜まりやすくなり仕事にも支障が出るかもしれない。そこでデオール家に依頼することにしたそうだ。
カリバン先生が依頼しに来たとき、父様とわたしが対応したのだ。
『私どもの拠点からタトランまではかなりの距離があるので、私が行くことは残念ながらできません。それにガーネルの者たちがタトランの周辺を常に守ることは難しいでしょう』
珍しい、と思った。父様は仕事人間だし、この仕事に誇り持っている。なので依頼はできる限り受ける人だ。だからこんな風に依頼を断ることは少なかった。依頼を断るにしても道理に反していない依頼ならもう少し思案したはずだ。
わたしはその時点で気づくべきだった。
父様が依頼主にいつもと違う対応をするときは、なにかを企んでいる証拠だ。わかってた、わかってたはずなのに!
わたしが、今は忙しい時期だもんね~、なんて呑気に考えていた次の瞬間、父様は爆弾発言を投下していた。
『そこで提案なのですが、ここにいるヴァイオレットを通わせるというのはどうでしょうか?まだ十三歳と若いですが、私自身が鍛え上げたので腕は保証します。編入生を装えば怪しまれることもないと思われます。それなら娘を一般生徒として任務にあたらせ長い間学校の安全を確保できるのではないでしょうか?』
なんて言ったんだ。
そんな父の発言に驚いたはずのカリバン先生もニコニコとした眩しい笑顔で二つ返事。
『こんなにかわいらしく、ガーネルの当主である貴殿がそれほど評価する優秀な方が来てくださるのなら私たちも安心できます。是非、よろしくお願いします』
先生の言葉でわたしの希望は崩れ去っていった。
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