幼馴染
タトラン魔法魔術学校には、たしかにわたしも憧れていた。実力を認められた者しか入学を許されない実力至上主義のエリート校。魔法はもちろん、学力面を見ても偏差値七十八点とかなり高いので相当努力が必要だ。全寮制でさらに成績優秀者にはいくつかの特別な権限が与えられると聞く。
憧れはある。だが、わたしは人と深く関わることを避けている。それはわたし自身を守るためでもあるのだ。
父様の執務室を背に自室への廊下を進みながらわたしは息を吐いた。気を紛らわせるためにネックレスにそっと触れる。
このネックレスは九歳の頃、幼馴染から誕生日プレゼントで貰ったものだ。家の手伝いをしてお金を貯めて買ってくれたのだそうだ。彼は侯爵家の長男なので父親に頼めば多分、わたしへの誕生日プレゼントを買って用意してくれただろう。だがそれをせずに自分で家の手伝いをしてわたしのためにお金を貯めてくれた。それだけでわたしは嬉しかった。
自分の部屋に入り、後ろ手で扉を閉めた。
「リアム・・・」
愛しい人の名をうわ言のように呟く。不安になったり、精神的に弱っている時、わたしは幼馴染に手を伸ばすかのように彼の名前を呟くのが癖になってしまっている。
愛してやまない、彼を想うだけで胸が熱くなっていき、それと同時に酷い悲しみに襲われる。
リアムのせいではないのに・・・
わたしはもう何年もリアム・・・ウイリアムに会えていない。会いたい、ふと思う時がある。しかしリアムはここ何年もわたしを避け続けているので無理な話だ。しかも彼の避け方は徹底的で、父様にまで口止めをしていたのだ。そのため、父様は彼がどこへ進学をするのかなんていう話題を切り出すたびに、わざとらしく話を逸らす。
#あの事件__・__#までは近かったはずの二人の距離が今は嘘のようにこんなにも遠い。
『ヴィオ』
目を閉じれば蘇る幼い頃の思い出。共に過ごした幸せな時間。記憶の中の姿はまだ幼くてかわいらしいけれど、今はきっと背も伸びてかっこよくなったに違いない。
離れても衰えることのないこの想いをわたしはこれから先ずっと抱き続けるのだろう。例えリアムがわたしのことを忘れてしまったとしてもだ。
そばにいたい。
支えてあげたい。
力になりたい。
その気持ちは変わるどころか日に日にわたしの中で大きくなっている。我ながらなんて重い女なんだろうと心の中でへこんだ。
はぁ、ダメだ。リアムのことを考え始めると止まらなくなる。今は#任務__しごと__#が最優先!
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