ガチ恋研究部

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

大きなお世話サマー ~打ち上げ花火が見える電車内にて~

 電車の中で、小石川こいしかわ 智昭ともあきは二人のカップルを注視していた。

 私服姿だが、あどけなさからしてどうも中学生っぽい。

 このカップル、ふたりとも視線が泳いでいた。電車に乗って一〇分経っているが、一度も目を合わせていない。

 ガチ恋部の部長として、これは分析せざるを得ない。

 

「みのりくん、あの二人どう思うかね」


 メガネをくいっと上げながら、小石川が隣に座る副部長みのりに声をかける。


「姉弟ではないんスか?」


 パッションあふれる小石川に引き換え、副部長のみのりはクールだ。元気系な見た目に反して、言動は冷めている。リアリスト、と言えなくもない。


 

「どうだろうか? 姉と弟なら、あんなおしゃれするか? 中学なのにやけに気合の入ったミニスカートだぞ?」


「あたしもミニなんスけど」


 もじもじしながら、みのりがやけに裾を気にしていた。


「どうしてまたキミまで」

「だって、遠くの街で花火大会っスよ? ガチ恋部としては、テンション上がるってもんでしょ?」


 顔は全くテンションが高い感じはしないが。やはり、彼女も乙女ということか。


「なのに、なんで制服のままなんスか?」

「遊びでやっているのではないからだ!」


 周りなどお構いなく、小石川は怒鳴る。

 

「いや、我々の目的はナンパすることでも、されることでもない。あくまでも、他者の恋愛を応援することにある!」


 これは、ガチ恋研究部のプライドでもあるのだ。


「当事者からしたら、余計なお世話なんスけどね……」


 彼らガチ恋部は人の恋愛をお世話しては毎回失敗し、煮え湯を飲まされてた。


 しかし、ガチ恋が芽生える瞬間に立ち会う楽しさには抗えない。


 どーん、と後ろから音が聞こえた。


 緑や赤、黄色の花火が打ち上がり、空を照らしている。

 

「あーもう花火始まってんじゃん!」

「いや、ここから見える花火がいいんじゃないか」

「ウチらの後ろじゃないっスか」


 この電車は、遮蔽物が少ない。そのため、「花火が見えるスポット」しても人気なのだ。


「最高のシチュエーションでの告白とか、燃えると思わんかね!」

「電車の中で告るとか、常軌を逸してるっスよ」



 しかし、当のカップルは、まったくいい雰囲気になる素振りを見せない。

 適当に雑談をしているが、視線はスマホに移っていた。


「けしからん! こんな最高の状況下で花火を見ないとは! ちょっくら文句言ってくる」


 素晴らしい景色が目の前にあるというのに、告白どころかお互い見つめ合うこともしないとは。

 さすがにガチ恋勢としては放っておけない。


 ここは一つ人生の先輩として、指導してやらねば。


「失礼。我々は〇〇高校、ガチ恋研究部の部長を務めている者だ」

 

「はあ……」


 急に何事かと、スマホから目を離してカップルは小石川を見る。


「君たち、さっきから見ていたが、どうして愛を語り合わない? 仮にもカップルなら、花火の見える中イチャイチャしてもらわないと困るだろ!」


「いや、俺たち姉弟なんですけど……」



 目的地につく。


 夜店を回っている間、小石川はずっとみのりにケツをタイキックされていた……。

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