天国への入り口

井上和音@統合失調症・発達障害ブロガー

天国への入り口

 どうだ、自殺してやったぜ。ははっ。

 借金取りから逃れてたんだぜ。必死で逃げて、よく分からないビルに駆けていったんだ。そしたらよお、奴ら怒鳴り声揚げて俺を追いかけてくるんだ。

「止まれコルァ!」

「金返せやォォイ!」

 金返せって無理な話だよなあ。返せる金があったら返してるっつーの。

 俺は屋上まで逃げ込んだ。だが奴らもすぐ登ってきた。

 俺は最後の策として、フェンスをよじ登った。

 フェンスを握りながら、足場数センチの限界に降り立った。

「止まらねぇと落ちっぞ! お、俺が死んだらてめえらの回収する金…な、な、無くなっぞ!」

 俺は最大限の声を搾り出したつもりさ。

 フェンス持つ手はブルブル震えてやがる。情けねえ。

「……っ!?」

 流石に二人組の追金は足を止めたらしかった。

 だが、その後、「ククッ」っと笑い始めやがった。

「おい、おっさん。てめえがどうなろうと知ったことじゃねえぇんだよ」

 片方の、若造の声が後ろから聞こえてきた。

「(待て……!)」

 もう一方のボス面してた奴が小さな声で若造を制止した。

 それが俺にゃ聞こえちまった。

「竹田さぁん! 済まねえぇ! だがこりゃ仕方ねえんだぁ! これが俺らの仕事なんだよ! どうか、頼むからぁ! そっから飛び降りるとか馬鹿な真似しないでくれよォ!」

 予想外の言葉さ。いや、予想通りだったかもしんねえや。

 そんとき俺は自分の弱さっちゅうもんを嫌と言うほど思い知った。こんな俺にも優しい言葉をかけてくれる。そんだけで人は死ぬのが怖くなっちまうんだもんな。

 コッ、コッ、とボス面の奴が一人で近づいてくんのが聞こえてよ。俺は震えながら、溢れっちまった涙振りまきながら、ゆっくり振り向いたんだよ。

 そのときはっきりと見ちまった。人間の『顔』ってのを。

 笑っていやがった。あんだけ甘い言葉、俺に掛けておきながら。奴の顔は、口元は、完全に歪んでいやがった。

 俺ぁ気付いたよ。これが現実だってな。

 震えは止まった。恐怖は消えた。シャバに居座ることがよっぽど恐怖さ。

 後は簡単だった。落ちるだけさ。

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