第12話 死闘・奇妙な陣立て

 両軍は“中州なかす”の中流域にあるテルミナ平原で対峙タイジした。

 この地は多少の起伏はあるものの六十里四方シホウに背の低い草しか生えていない。まさに平原であるため、大規模戦闘に適した地形である。

 古来の決戦場であり、過去のいくさもそのほとんどはここで行なわれてきた。


 今にも大きな雨粒あまつぶが降り出しそうなほど雲が厚く、冬めいた肌寒さすら感じる。


 王国軍は先鋒センポウ四将、アマム、アダマス、ソフォス、タクラム各将軍の兵を横五十名ずつで縦百列に、中衛二将、イングス、トロミノ各将軍の兵は中央で横百人で縦五十列ずつに並べ、その後ろに総大将カートリンク軍務長官つまりじいさんの部隊を置き、さらにその後ろにおれとガリウスの部隊が備えている。

 全体として横二百名で縦二百列の方陣に構えた。


 おれとガリウスとじいさんの部隊は後衛で隣接しており、その接点でじいさんが指揮台の上に座り、俺とガリウスはそばでくつわを並べている。

 そこへ斥候セッコウから帝国軍の陣容ジンヨウが伝えられた。


 帝国軍はといえば、重装歩兵大隊一万を横二百名で五十列に並べて正面へ、ふたつの軽装兵大隊合わせて一万六千名と四つの騎馬中隊合わせて四千名をそれぞれ二つに分けて重装歩兵大隊の後ろへ陣立てしていた。

 クレイドは五十列しかない重装歩兵大隊の後方に指揮台を置いて座している姿が見える。


 そのジンてを見ていてじいさんはおやっと思った様子である。


 俺も日頃ひごろから戦史を研究しているので奇異キイに感じた。

 記憶を探しても、これまでの帝国軍には見られないジンてだったからである。


 前戦のエビーナ大将や力押しを好むヒューイット大将のように中央が分厚いわけではない。

 マシャード大将のようなV字陣形の豪快さもない。


 こちらのジンがまえに合わせるよう横に広がりすぎているのだ。

 これではわが軍前衛がクレイドのいるところまで突破できやしないか。

 ひとりがひとりを倒したとして、王国軍は五十列を残して帝国の重装歩兵大隊を突破できる算段なのだ。

 それでもあえてこの陣形をとってきたのか。

 それが余計に不安をき立てる。


 今回クレイド新大将は戦車隊を動員していないように見える。

 しかし戦場へは先に着いていたため、伏兵フクヘイとしてすでに戦場近くに配置しているのかもしれなかった。

 開戦における示威ジイ行為しか役割はないはずだが、戦場にいないのも慣習上おかしな話だ。


「カートリンク閣下カッカ。帝国軍のジンては油断なりません」


「どのようにだ」

 じいさんは自らの思いを解明したいのかすぐにたずねてきた。


「まず戦車隊がおりません。これでは平地戦において機動戦力を失ってしまいます。こちらの戦車隊がさえぎられないのでわがほうに有利ではありますが。あえて戦車隊を連れてこなかったとすれば、いつわりの退却タイキャクでわが軍をおびき寄せ、戦車隊を伏兵フクヘイとして一気に攻め立てようとするサクかと存じます」


 単に話しているだけでは的確な分析のように思えるが、今ひとつ自分を納得させられなかった。


 おそらくクレイドは帝国領への退却ルートに戦車隊を伏兵フクヘイとして置いているのだろう。

 これは間違いないはずだ。

 クレイドが平地戦において決着をつける意志であっても、彼自身は敵であるわが軍の行動限界線までは見極められないと思いたい。

 それにしてもに落ちないところがある。


「また前衛の重装歩兵が五十列と薄すぎます。これでは前衛が百列と分厚いわが軍を打ち破ることはできないでしょう。次に勝ちいくさの追撃を行なうべき騎馬隊がジンの最も後ろに配置されています。これは先のいくさのようにわが軍の側背ソクハイを狙う意図があるのではないでしょうか」


「なるほどな」


 先のいくさでクレイドは、率いた騎馬中隊で王国軍の右翼ウヨク側背ソクハイおそって前衛の重装歩兵大隊と挟撃キョウゲキしてきた。

 確かにこの考えは正しいのかもしれない。

 だが、それを断定するにる材料に乏しかった。


「ガリウス将軍もそう思わないか?」

 となりに同意と意見を求める。


「私もミゲル将軍と同意見ですが、相手が動きだしてからでなければその真意は見極めらないでしょう。陣形ジンケイだけでねらいがわかれば、用兵家としては超一流ですからね。しかし敵のクレイド新大将がどのような用兵手腕シュワンを有しているのかがわからない以上、ねらいを看破カンパするのは至極シゴク難しいでしょう。もし帝国軍が側背ソクハイおびやかせば先日の二の舞となりかねません。とくに騎馬中隊はそれぞれ左右に分かれて配置されておりますので、左右どちらにまわり込まれるかは判断がつきかねます。であれば騎馬中隊による側背からの突撃への備えを万全にして、こちらから攻撃を仕掛けてみてはいかがでしょうか。後衛を務める本営は両側背ソクハイからの攻撃に備えつつ、全軍を前進させて探りの攻撃を入れてみては」


「よし、その作戦で行こう」


 俺たちの助言に従い、じいさんは両側背ソクハイへ備えつつ全軍に前進を告げた。



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