第7話 模範解答
さて、ここからはちょっとした今回の事件の後日談。アフターストーリーだ。
新島修斗が起こした一連の騒動は学校を巻き込んだ事件となり、地方新聞にも載る大きな出来事として無事何事もなく終焉を迎えた。
新島一家はかなりの貧困一家で、先輩の妹が大きな病にかかっていたらしい。その医療費として先輩は動画を売り捌いてお金を集めていたらしいけれど、人に迷惑をかけてはいけなかった。
例の動画は無事全部削除され、無事希望は無事だったということで。今回は僕が再度入院するだけで済んだ。
「いやぁ〜、一件落着ですね」
「ああ、そうだな」
見舞いに来た奏音。リンゴの皮を剥きながら駄弁っていた。
「はいリンゴ、剥けました」
「ありがと」
シャリシャリと咀嚼。
「にしても今回の件についてはお前が完全にMVPだ。感謝するよ、冗談抜きで」
「別に感謝される筋合いはないですよ。わたしも良い青春でした」
「にしてもよく嫌われ者の俺なんかに声をかけたよな」
「ん......それは。その、私一人っ子だったですよ。だからお兄ちゃんとか兄弟に憧れてたんです」
「だから声かけたの?」
「そりゃあ、ねぇ。それに、私のお父さんのせいで母子家庭なのも知ってたし、あそこで声を掛けないのも些か白状すぎるかなって」
「なんだそりゃ。やっぱり優しすぎないか、それ」
「あーもう、うるさいです!早く体治してください!」
「分かった!分かったから!包丁振り回すな!!」
僕は彼女に一生を尽くしても返せない恩ができてしまった。
「なぁ、また一緒に遊んでくれよ。父さんにも一回会ってみたいしさ」
「はい、良いですよ。またそう遠くないうちに」
屈託のない笑顔。
ああ、最高の妹だ。
*
退院後、海に来た。
別に遊びに来たわけじゃない。ただどうしようもなく行きたくなったからだ。
「母さん、送ってくれてありがとう」
「なに、これぐらい容易いよ。それにほら、もう浜辺で待ってるよ、希望ちゃん」
「うん、行ってくる」
「あとこれ、二人で食べな」
投げられたのはサイダー味の棒アイス。
「もっと良いのないの?」
「これが青春の味なの!!わかったらとっとといきな!」
「うん、ありがと」
浜辺で君が待っている。
隣に座って少しの間、何も語らず海を眺めていた。
「これ、溶けると悪いから早く食べよ」
「うん」
希望が隣にいる。ただそれだけなのに、すごく久しぶりな気がした。彼女を感じれば感じるほどに、懐かしい気分になる。
「ねぇ希望。俺さ、いっつもお前に助けられてばっかりだったんだ。独りになったら朝ご飯は作らない、弁当は作らない。だらしない人間だった」
「うん」
希望はただ俺の話を何も言わずに聞いてくれた。
「俺、小さい頃から内向的だったからさ。友達もいなくて、ずっと独りだった。けどさ、俺を部屋の中から連れ出してくれたのはいつも希望だった」
「うん」
「俺は希望が好きだった。俺にとって誰よりも特別で、憧れで、ちょっと天然で騙されやすいところとか、運動できるくせによく転ぶおっちょこちょいなとことか、全部全部好きだった」
「うん」
「だから、仲直りしたいんだ。俺はまた希望に起きろーって叩き起こされて、朝ごはんを一緒に食って、昼ごはんは特製弁当を野郎どもに羨ましがられながら食いたい。
これは俺のわがままだし、沢山酷いこと言ったのにどの面下げて、って思うかもだけどさ。
また、俺の幼なじみでいてくれないか?」
「
その一言で、俺の涙腺は崩壊した。間違いなく比喩表現抜きで死ぬほど泣いたと思う。嬉しくて、安心感で。やっと報われた気がして。
「ねぇ蓮。私もさ、ずっと謝りたかったんだ。喧嘩したあの日、私も焦ってた。蓮のことなんか考えないで、自分よがりだった。
だからさ、ごめんね。何もかも助けられてばっかりだけださ、また元通りの関係でいられる?」
「当たり前だ。何年恋してたと思ってんだよ」
僕はただ泣きながら頷き続けた。
「昔から泣き虫だもんね、蓮は」
そして、泣き止んだころ、希望は言う。
「ほら、アイス溶けちゃうよ」
「ぢゃんとだべる、から」
「ふふっ、誰もとらないよ」
夏休み明け、失恋をした。
その日食べたアイスの味は、もう思い出せないけれど。きっと人生で一番、甘酸っぱい味だっと思う。
ーーTHE ENDーー
夏休み明け、幼なじみは女になっていた。 @makaaaaaan1182
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