第4話 図書室の少女
「おい、アイツまだきてるよ」
「なんで学校来れるんだろうね」
僕が重罪人になってから数日が経った。最初はこの世の終わりだと思ったけれど、もう一周回って慣れてきた自分がいた。開き直ったと言ってもいい、もちろん悪い意味で。
唯一嬉しかった事といえば、野郎どもが遊びに誘ってくれた。こんな僕のことを気遣ってくれた事が何より救われた。とはいえ僕なんかといたら噂になるので気持ちだけ受け取っておく。
昼休み、教室は居心地が悪い。屋上は立ち入り禁止。便所飯はしてみたけどメシが不味くなる。
ということで、僕は昼休みには大抵図書室に引きこもる。最初の頃は図書委員に注意されていたけれど、シカトを決めてたらいつしか許されるようになった。
今更良い子になるつもりもない。きっと前までの僕だったら申し訳なく思うけれど、今はなにも感じない。むしろ感謝ばかりだ。
コンビニで買った弁当を食べて、あとは適当に本を読み漁る。スマホは迷惑メッセージばかりでうるさいので家のゴミ箱に放り投げた。暇つぶしは本に限る。
「あ、あの!」
「............?」
誰か呼ばれてるのか?
「あ、あの。と、とと、となり!いいですか?」
「え......おれ?」
「そ、そうです」
「まぁ、いいけど」
隣にスッと座ってきたのは見知らぬ女子だった。オドオドしていてなんだか少し気味が悪い。
というかなんで僕の隣にわざわざ座るんだよ。僕が陣取ってるのは図書館の端。誰も近寄らないようなところだ。座るとこなんて他にたくさんある。
「あ、あの!いつもここで本読んでますよね。その本、好きなんですか?」
「え?」
「その本のシリーズ、私もすごい好きなんです!」
「いや、適当に面白そうだなって思っただけだけど......」
「へ!?ごご、ごめんなさい、早とちりしちゃって。
えっと、あの。ごめんなさい、気持ち悪いですよね、私」
「まぁ......」
否定はしないけど。
「ははっ、そうですよね......」
暗い顔で俯いて、泣き出しそうに目を潤ませる少女。もうここまでくると面白い人間だなと思った。
「というか、僕なんかと一緒にいない方がいいんじゃない?」
「へ?なんでですか!?」
「ほら、僕って。その、今ちょっとした有名人じゃん」
「あー......そ、そうなんです?」
「知らないの?」
「......あの、私。友人が居ないので」
「あ」
ヤベッ、地雷踏んだ。
話題を変えよう。
「えっと、ところで君の名前教えてもらっていい?」
「
「何年生?」
「一年生です」
僕の一個下か。
「僕は神谷蓮、書き方は......なんも浮かばないわ。よろしく」
「よろしくお願いします!」
「とはいっても僕は今日限りで多分君と別れることになるけどね」
「そんな!はじめての友人なのに!」
「僕、嫌われ者なんだよ」
「そうなんですか?悪い人には見えないですけど」
「まぁね。ちょっとね」
「ものでも盗んだんですか?」
「んー、当たらずとも遠からずかな」
そういえば。
僕はもう新島先輩の策略通り希望のために新島先輩に暴力を振るった事にした。正直あれは誤解だと言えば言うほどドツボにハマるし、何より辛いし。もう俺はダサい男という事で折れている。
そっちの方が楽だ。
「だからと言って私はあなたとお友達になるのは辞めないですよ!だって初めての友人作りですから!」
「それは優しいね」
「はい!」
「でも西宮さんなら勇気さえあれば友人はたくさん作れると思うよ」
「え、そうですか?」
「だって、意外に明るいじゃん。話してみれば意外に話も面白いしさ、友人居ないのが嘘みたい」
「そそそそ、そうですか!?」
「うん、出来ると思うよ」
「そっかぁ......」
「そろそろ行こうかな。僕と居るのバレると君にも迷惑だし」
「私は別にいいですよ?」
「僕が迷惑だから」
「......そう言われると反論できないです」
「この本、今日借りてくから、今度感想聞かせるよ」
「そうですか!じゃあまた図書館で待ってますね!」
図書館を去る。
思いのほかとんでもないことをしてしまったかもしれない。あの子と喋っていて独りでいる事が急に寂しくなった。だからまた会おうなんていってしまったし、こんなちんちくりんな本も読んで感想を聞かせなきゃいけなくなった。
まぁ、暇だからいいのだけれど。
そんなことよりも人恋しくなるのは良くない。僕はもう誰かと仲良くなるは無理だと思ってたから、つい舞いあがっちゃったのかも。
明日からは自分に厳格にいかないと。
*
「これ、めちゃくちゃ面白いね!!?」
「そうでしょうそうでしょう!?」
次の日、僕はまさかちんちくりんだと言った本を徹夜して読み明かし、図書館で感想を西宮と言い合っていた。
「最後、主人公の正体が分かった時鳥肌立ったわ」
「分かります!ああいう単純な叙述トリックをあそこまで違和感なく入れ込んでるのは本当に作者は天才です!」
「本当にやべぇな......これ」
「見直すと結構発言に伏線があるんですよ!見返すと奥が深い!ほら、ココとか!」
「うわ、うわうわうわ。えぇ、もう一回読みてぇ......」
「この作者の他の本もオススメです!なんなら今日持ってきたのでこっちも読んでください!」
「仕事が早い!」
結局その日も、次の日も、僕は彼女と密会を続けることになった。他愛ない会話を続ければ続けるほど、僕は西宮という図書少女に惹かれていた。自然と距離が近くなって、それに幸せを感じてしまう。
失恋明けに馬鹿みたいだけれど。
いつか僕の正体がバレれば終わる関係なのに、それでも楽しんでいる自分がいた。何も知らない少女に漬け込んで、悦を貪るような自分がたまに心底嫌になる。後ろめたい感情がいつまでもねちっこく纏わりついていた。
けれど、関係が終わるその日までは西宮と仲良く話していたかった。
けれど、終わりの日はすぐに訪れる。
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