歪曲のフレンズ

 院長室のドアを開けると、奥にある白い棺が目に飛び込んできた。

 その右に、白衣を着た人物が立っている。

「よく来たね、健斗」

 その人物――松村親史は俺の方を向いた。


「どうしたんだい、こんな時間に」

「それはあなたも分かってるでしょう。俺はあなたを捕まえに来た」


 松村は、ほう、と片眉を持ち上げる。


「あなたの正体を竜持から知らされた時は驚いたよ。まさか、あなたがフレンズを造っていたとは」

「正体って……おかしなことを言うなあ。俺は医者だよ。それ以外の何者でもない」

「この期に及んで誤魔化すつもりですか?」

「そんなつもりはないよ。そう、俺がフレンズを造っていた」

「……目的は?」

「娘の復活」

「そんなの、あなたのエゴだ」

「そうだ、俺のエゴだ。言い訳なんてしない」

「お前のそのエゴのせいで、多くの犠牲が生まれた。俺の家族だって殺された!」

「それについては謝るよ。この通りだ」


 松村は頭を下げた。

 数秒後、頭を上げて続ける。


「だけど俺にとって、娘の命は娘以外の人たちの命よりも重い。家族のことを何よりも大切にしない人間が、一体どこにいる?」

「だったら、お前の娘だけフレンズにすれば良かった。そうすれば無駄な犠牲を増やさずに済んだんだ」

「そうできればどんなに良かったろうね。だがそれは無理だ。それに、娘だけが人間じゃない世界なんて、そんな世界で生きるのは娘にとって辛いに決まっているだろう?だから一定数の、娘の友達フレンズを造る必要もあった」

「それで失敗作を俺たちに駆除させようってか?」

「そういうことだね」


 松村は全く否定しない。

 堂々としたものだ。

 俺はそんな松村の態度に嫌気がさしていた。

 人のことを人とも思っていないようなこいつの目を見るのが我慢できなかった。


「お前は……歪んでるよ。お前は医者なんかじゃない。ただのマッドサイエンティストだよ。他人ばっかり危ない目に遭わせておいて自分は高みの見物か?良いご身分ですね」


 これまで柔らかな表情を保っていた松村の顔から、笑顔が消えた。

 無表情。

 その顔だけで膝が震える。

 これほどまでに恐ろしい顔を俺は初めて見た。


「俺が高みの見物をしているだけだと、そう思うのかい?」


 そう言うと、彼は白衣のポケットから注射器を取り出して、自分の首に躊躇なくそれを打ち込んだ。

 まさか……!


「フフフフフ……ハハハハハ!やったぞ!最後の実験も成功だ!これで俺は、リンカと永遠を過ごしていける」

「あんた、まさか……」


 松村親史は、人間を辞めた。

 俺が取るべき行動は、もう一つしか残っていない。

 プロテクターズとして、俺は最後まで狩り続ける。

 あらかじめスイッチを入れておいた無線機を口に近づける。


「フレンズ、一体確認。直ちに駆除を開始する」









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