Phase5
大爆発が起こり、火柱が立ち上る。
流石にこの火力ならオーザが生き残ることもないだろう。
七羽はモクモクと上がる黒々とした煙を見つめる。
思い返すと、逃げてばかりの人生だ。
何度も自分の意見を変えた。
父親を殺され、その仇を討とうとした私。
仇だったはずの男に惚れ、身動きが取れなくなった私。
挙句の果てに、協力者を殺した私。
私って……ダメダメだな。
内心で苦笑してしまう。
結局、私は何がしたかったんだろう。
そのどれもが自分自身の選択で、なのに自分自身の意思ではなかった気がする。
そんな自分もこの煙と一緒に消えていってくれるかな。
だんだんと火が消えてくる。
その消えかかった炎の奥に、七羽は信じられないものを見た。
「え……なんで」
そこには、無傷のオーザが仁王立ちしていた。
「オレも、オマエに感謝しないとだな」
七羽は驚きで身動きをとることができないでいる。
そんな七羽にゆっくりと近づきながら、オーザは言葉を続けた。
「こんな派手にやってくれるようなら、オレも容赦なくオマエを殺せるよ」
オーザの左腕がゴムのように伸び、七羽の体を拘束する。
そして休むことなく殴り始める。
七羽は当然ながらこの攻撃を回避できない。
いくら顔を殴られても、いくら腹部を蹴られても、いくら首を絞められても、倒れることすらできない。
今の彼女にできることは、黙って静かに自分の体が痛めつけられていくのを待つことだけだ。
七羽は自分が痛覚だけしか持たない存在になったのではと錯覚する。
「オマエのことはすぐには殺さないから。死ぬ直前まで殴り続けて、それから先に下山竜持を殺して、彼を亡くして絶望するオマエを思う存分、
どれだけの骨が折れ、どれだけの筋肉や内臓がつぶれたことだろう。
七羽はだんだんと体に力を入れることすらできなくなってきた。
それでも、まだオーザによるリンチは止まる様子はない。
だんだん力が入らなくなり、だんだん意識が薄らいでいき、視界が白く染まっていった。
どれだけ殴っても、がっくりと
左腕のゴム化を解くと、彼女はばったりとうつ伏せに倒れて、ピクリともしない。
きっと気絶したのだろう。
しばらくはこのままここで寝かせといてやろう。
彼女が起きるまでにやっておくべきこと。
それは下山竜持の殺害。
そのためには、まず彼の家に行ってみようかと歩き出す。
そのとき、左足首を後ろから掴まれた。
「なあんだ、気絶してるんじゃなかったの?」
七羽は両腕を目一杯伸ばして脚を握っている。
「行か……せ、ないよ。ぜっ、たい……」
オーザはため息を一つつき、それから自由な右足で七羽の左腕を蹴る。
パチン、という骨が真っ二つになる音。
七羽は痛みに悶絶する。
それでも脚を掴む力は緩めない。
オーザはもう一つ、先ほどより大きなため息をつき、普通ありえない方向に曲がっている七羽の左腕を踏みつけ、思い切り体重をかけた。
七羽は歯を食いしばって耐える。
「オマエもなかなかしつこいね。ハエみたい。むかつくからやっぱり先に殺しちゃうね」
と、オーザは奪った拳銃を彼女に突きつける。
引き金に指をかける。
「男のフレンズが若い女の子を襲う、か。前はよく見たシチュエーションだけど、最近はほとんどねえそうだ。時代遅れだな、手前も」
オーザは背後を振り返る。
視線の先には自分の身長ほどの薙刀を持った男が立っていた。
オーザは凄絶に笑む。
「ハハハ、まさかそっちから来てくれるとは。オレも運がいいなあ、下山竜持」
「運がいい? はっ、寝言は寝て言え、雑魚が」
七羽はかすれた声で呟く。
「どうして……」
「そんなに見つかりたくなかったんなら、あんな派手な爆発起こしちゃダメでしょ」
そう言いながら、竜持は薙刀を構える。
「さあてと、駆除の時間だ」
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