Phase4
午後11時頃、竜持は仕事から帰宅して机の上に置いてあったものを見つめる。
ぎっしりと書かれたメモ帳の1ページ。それに包帯。
メモを読んで竜持は薙刀を手に取り、すぐに家を飛び出した。
「こんなん、ねえだろ」
街からはだんだんと明かりが消え、さらに夜が更けていく。
七羽は病院へと向かった。
この場面で自分には何ができるのか。
自分が為すべきことは何なのか。
いくつもの案を考えては、それは無理だと首を横に振る。
いくら過去が見えようとも、どう足掻いても私はただの人間。
諦めることは諦めないと。
病院の建物の前には、さほど大きくもない柱時計が立っている広場がある。
七羽はそこに人影を見つけ、足を止める。
数秒間、堂々と背中を向けて立っている彼を見据えた後、その影に近づいていく。
「こんばんは、オーザ」
その影――オーザと呼ばれたフレンズが振り返る。
「七羽か」
「どうも。何してるの? こんな夜に。まあおかげで探す手間が省けてよかったけど」
「オレが目当てでわざわざここまで来たの? 珍しいこともあるもんだ。どうせなら連絡してくれれば良かったのに」
「あー、スマホの電源切ってるから。そうじゃなくてもあんたとの履歴なんか残したくないし」
「オレそんな嫌われてるの? ま、いいや。で? 何か用?」
「下山竜持の殺害計画。あれ、やめよう」
オーザは驚いた表情をした後、七羽を見つめ、そして大笑いした。
「あっはっはっはっはっはははは、オマエ、最高。あははは。なんかさ、いっつもオレには悪口とか変なこととかしか言ってこないのにさ、はははは、なんか、急に真面目な顔して話し始めるんだもん、ははははは」
「なっ、失礼な。こんな可憐な少女をなんてまあひどい目で」
「まあ何言うかは大体想像ついてたんだけどさ、まさかこんなガチトーンで言ってくるとは。でも残念だな。毒舌少女の岸井七羽さんが敬語使って普通にデレデレしてるの見るの、楽しかったのになあ。あ、たまに素が出てたけど」
「うわー、人が必死で努力してたのにそんな目で見てたんですか、うわー、まじないわ」
「そんで、もし計画続行するなら?」
七羽はカバンから銃を取り出して、オーザに向けた。
「撃つ」
オーザから表情がなくなる。
竜持は闇の中を走る。
途中、七羽に電話をかけてみたが予想通り、繋がることはなかった。
「スマホの電源まで切りやがって。そんなに来てほしくないならあんな手紙書くなよ」
一人で毒づきながら、あてもなく、ただただ走り回ることしかできない。
七羽とオーザは長い間見つめあっていた。
銃口はオーザの胸に向けられたままである。
ふいにオーザが口を開く。
「そこまで本気なの? オレと戦おうとするなんて」
オーザの手がゴムのように伸び、七羽の銃を奪い取った。
「とりあえずこれ、没収ね」
「そんな能力、前からあったっけ?」
「ううん、なかった。この前殺したヤツが体をゴムみたいにするスキル持ってたからありがたくもらっといた。あ、ちなみにどっかの海賊じゃないから」
オーザのスキルは、自分が手にかけた相手のスキルを自分のものにするスキルである。
つまり彼は能力者と戦って、勝つほどに進化していく。
これまでに10人以上の能力者を殺していた。
「じゃ、さっさと終わらせよっと」
オーザは七羽の方へ接近してきた。
やはり粛清するつもりなのだろう。
七羽は距離を取ろうと後ろに跳ねる。
しかしオーザは彼女以上に素早く、手を伸ばせば触れられるほどになってしまった。
オーザは七羽の脇腹に蹴りを入れる。
七羽はぐっ、と呻いてよろめく。
その隙を逃さず、オーザは七羽の首根っこを掴み、病院の壁に叩きつけた。
「うっ……!」
「はい終わり。勝てないに決まってんじゃん」
オーザは首を絞める力を少しづつ強くしながら続ける。
「それにしてもガッカリだよ。勝てるわけないのに、オレに挑んでくるなんて。無謀にも程があるよな。七羽はそんなことするようなバカではないと思ってた。最期に選ばしてあげる。ゆっくり死ぬか、すぐに死ぬか、どっちがいい?」
この言葉を聞き、七羽は呻きながらも不敵な笑みを作った。
「くっ……ふふふっ……あんた、私が、そんなに、バカだって、思う?」
オーザは七羽の真意に気づき、すぐに七羽から離れようとした。
が、遅かった。
首許に血液が沸騰したような熱さ。
「スタンガン、か」
電流で思うように体が動かなくなったオーザから遠ざかりながら、七羽は言う。
「これでもあんたには感謝してる。復讐しか頭になかった私には、あんたが必要だった。でも、この一年間で、私は私を取り戻せたんだ。だからもう、あんたはいなくて大丈夫。今までありがとう。じゃあね」
七羽は鞄から手榴弾を取り出し、ピンを外してオーザへ投げた。
オーザは目を見開く。
大爆発が起こった。
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