Phase3

竜持さん



おかえりなさい!

洗濯物、外に干したままです。取り込んどいてくださいね。

合鍵、ポストの中に入れときますね。もう使うこと、ないので。



私は竜持さんに謝らなくちゃいけません。ずっと竜持さんを騙してました。

私ははじめから竜持さんを捜していたんです。なんでかって? 復讐するためですよ。父の。



私の父はフレンズでした。

父は、生みの親に捨てられた私を拾って、大事に育ててくれました。

私にとって父は、誰よりも愛おしい存在でした。その事実だけで十分。人間かそうじゃないかなんて、どうでもよかったんです。



そんな父は、私の13歳の誕生日の日、駆除されました。

私の右目は、その時に父を庇おうとして傷ついて、見えなくなりました。

父を駆除したのは、10年前の竜持さんです。覚えてます? もう忘れているかもしれないですね。



私はそれから、目の治療を受けながら、どうしたら父を殺した憎い相手に復讐できるか考え続けました。でも、そんな方法は思い浮かびませんでした。そんな時、病院の先生に『お父さんを殺した相手に一泡吹かせたいのかい?』と訊かれました。私は頷いて、でもどうしたらいいのか分からないという話をすると、『だったら、先生に協力しないか?』と言われました。どういうことか尋ねると、どうやら先生は細胞の変異の研究をしていて、新しいタイプの義眼を移植して、それが私自身の細胞と癒着したときにどんな反応をするのか記録を取りたい、とのことでした。『その義眼を付けたら過去が見えるはずだ。人の過去、とある場所で起こった出来事、全部がね』という言葉を聞き、私は目の移植をする決心をしました。”過去を見る目”を使えば、簡単に竜持さんを見つけられると思ったからです。私の父を殺した過去があるのは竜持さんだけだから。



でもそんなに簡単にはいかなくて、また行き詰まりました。ある日、病院に帰って先生の部屋に行くと1体のフレンズが立っていました。どうやら彼も竜持さんを狙っているらしく、私たちは協力することになりました。その日以降はそのフレンズも竜持さんを探すのを手伝ってくれて、住所を特定しました。



それからは竜持さんも知っての通り。竜持さんの家の前でお酒を浴びるほど飲んで、酔ったところを拾ってもらう計画は大成功でした。翌日の朝に過去を見たとき、父を殺した過去が見えたので、ほんとに拾ってくれた! って思ってびっくりでしたよ。もう後は殺すだけでした。力では竜持さんに勝てるわけないので、少し一緒に過ごして、油断させてから殺そうと思いました。竜持さんは家事全般ほとんどできないし、就活には変な色のネクタイ締めていくし、ほんとにお世話に苦労しましたよ笑。でもどんなときでも優しくて、一緒にいて楽しかった。『守る』って言ってもらったときとか、プロポーズしてくれたときとか、すごくうれしかった。気づけばこの生活を、あなたと一緒にいたこの1年弱を普通に楽しんでた自分がいて……



多分近いうちに、この家にフレンズが襲ってきます。ここの住所、私、リークしちゃったんで。そのフレンズは化け物レベルに強いので、戦おうなんて思わない方が身のためです。これを読んだら、今すぐここを離れてほしい。



私は、あなたの前から消えます。絶対に捜さないでください。私のことなんか忘れて、もっと素敵な人と、幸せに過ごしてほしいです。心配しなくても、私はどこかで私なりに暮らしていきますよ。



今までありがとうございました。



さよなら。



岸井七羽

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る