Phase7

「私がここに来たのはプロテクターズに戻るためじゃないよ。あなたを殺すためだよ。兄さん」


 俺は自分でも、一瞬心臓が止まったのが分かった。


「は……はは、何の冗談だよ。びっくりさせないでよ」


 俺はまだ動悸が激しいままで軽口を叩く。

 しかし四季の表情は全くもって変わらない。


「この期に及んでそんなこと言う人だと思ってなかったよ。ちょっと残念」


 唐突に、四季の短刀から水の攻撃が放たれる。

 俺はその攻撃を辛うじて避け、距離を取る。

 そして訊ねた。


「どうして? どうして俺を殺そうとするんだよっ⁈ どうして6年間も帰ってこなかったんだよ? 一体何があったんだよ⁈」


 四季はため息をついて、それから言った。


「『どうしてどうして』ってくどいんだよね。質問は一つずつにしてもらえるかな? それとさ……油断はしない方がいいよ」


 気づくと俺の腰に水が帯のように巻かれている。

 ほどこうと藻掻くがきつく絡まっていくばかりだ。

 俺は四季の短刀から伸びているその帯に引っ張られた。

 四季とは手の届く距離になってしまった。

 身動きも取れない。


「さっきの距離なら私の水は届かない、そう思ってたでしょ? 6年間も経ってるんだ。私だって成長してない訳ないでしょ。少なくともあなたよりはこの6年戦ってきた」


 攻撃範囲も確かに増えているが、前とはスキルの発動の速さが別物だ。

 俺は水が腰に触れるまで気づかなかった。

 とは言っても俺もここで死ぬわけにはいかない。

 俺はスキルを発動してどうにか四季から体を離そうとする。

 しかし水の帯は硬く、全く離れない。


「そんなことしても無駄だよ。あなたは私から逃げられない。もうお終いにしよう」


 四季が俺の首許に短刀を持ってくる。

 俺は死を覚悟した。




「きゃあー‼ 助けて!!」


 女性の声がした。

 その途端、四季は急に能力を解除。

 悲鳴の方へと向かう。

 俺も後に続く。

 そこでは女性がフレンズに襲われていた。


「何やってんの君、その人から離れて」


 四季はフレンズに話しかける。

 

「シキさん、もう僕、だめだ。抑えきれない」

 

フレンズはそう言った。

 

「そっか。じゃあ、できるだけ楽に殺すから。ごめんね」


 四季は表情を変えずに言い、能力を発動。

 フレンズは首を両断され、一瞬で絶命した。




「あと3人、か……」


 フレンズが粒子になって消えてからもその場を動こうとしない四季に俺は訊ねる。


「どういうこと? 今のは」

「この世に残ってるフレンズの数だよ。プロテクターズってそんなのも把握してないの?」

「違う、確かにその情報は初耳だけど、そのことじゃない。さっきの奴と知り合いだったの?」


 四季はクスッと笑う。


「ほんとにさっきから質問ばっかりだねえ」

「聞きたいことだらけだからな」

「………ほんとはあなたのこと殺すつもりだったけど、しらけちゃったね」


 四季は質問には答えず、こちらを向いて言った。


「でもまたすぐ来るよ。今度は、確実に息の根を止める」


 そして俺の横を通り過ぎ、そのまま立ち去ろうとする。

 俺は四季に、一つだけどうしても答えてほしいことがあった。


「ねえ、俺たちって、友達だよな?」


 彼は歩みを止め、数秒間、何も発さなかった。

 

「私は、あなたのことを友達だと思ったこと、ないから」

 

 しばらくするとそう言って、そしてまた歩き始める。




 その声は、これまで聞いてきた誰のどんな声よりも、苦しそうだった気がした。


 四季は一度もこちらを振り返らず、俺の視界から小さくなって、それから消えていった。

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