Phase5

 時刻は午後11時20分。



 前にも岸井さんの帰りが遅いことはあったので、彼女が日暮れ後も帰ってこなくても、はじめは特に心配していなかった。

 でもあまりにも遅すぎる。

 さすがにこれはおかしい。


 電話をかけてみても繋がらない。

 近所を探し回っても見つからない。

 途方に暮れて家に戻ったとき、電話がかかってきた。

 岸井さんの番号だ。


「もしもし、岸井さん? 今どこいんの?」


 しかし帰ってきた声は全く聞いたことのないものだった。


「ククク……お前こいつと長いこと一緒に暮らしといてまだ苗字に”さん”付けなんだな」

手前てめえ誰だ?」


 電話相手の男は俺が言ったことを無視して話し続ける。


「岸井七羽は今こっちで預かってる。助けたいなら日付が変わるまでに丸子橋の下の河川敷に来い。来なかったら人質は殺す」

「なぜ岸井さんを巻き込む?」

「勘違いするな。俺は彼女を殺したいなんて毛ほども思っちゃいない。俺の目的は下山竜持、お前を殺すことだからな」

「だったらなおさら……」

「そんなの話してる暇、今ある? お前がこうやってもたもたしてる間にも時間は進んでるんだ。そんなに聞きたいならこっち来てから直接聞けば?」


 俺は電話を切り、段ボールの一つを乱暴に開けてあるものを探す。

 求めていたものはすぐに見つかった。

 真っ黒で俺の身長ほどの薙刀なぎなた

 プロテクターズの頃に使っていたものだ。

 もう使うことは無いと思っていた。



 丸子橋は東京都大田区と神奈川県川崎市の境にある。

 俺の家からは自転車で15分程。

 今出れば十分間に合う。

 俺は1秒でも早く着くように、急いで目的地に向かう。




 丸子橋に着き、自転車を乗り捨てて河川敷に降りた。

 すぐに背後から声。


「思ったより早かったな。もう10分くらいタイムリミット早めた方が良かったんじゃないの? これ」

「岸井さんは?」


 男は彼の左側を指差した。

 彼の指の先を見ると、横たわって気絶している岸井さんがいた。

 右目の包帯も外れている。


「さて下山竜持、早速だが、お前を殺す」


 男は素早く拳銃を腰のベルトから引き抜き、俺に向けて発砲した。

 俺は右に飛んで回避。そのまま男に近付き、薙刀を振るう。

 男はこの攻撃を拳銃でガードした。

 俺と男はつば迫り合いの状態で動きが止まる。

 その時、暗闇の中のため見えていなかった彼の素顔が初めてはっきり見えた。

 俺は思わず笑ってしまう。


「ハハハハハ、なんだなんだぁ⁈ 手前フレンズじゃねえかよ」


 全身に刺青のような文様。

 間違いない、彼はフレンズだ。


「そう、俺はフレンズだ。名乗ってなかったな。俺はソージローだ」


 ソージローは薙刀を押し返して俺から距離を取る。


「手前がただの誘拐犯なら穏便に警察に突き出して終わらせるつもりだったが、フレンズならぶっ殺しても文句ねえよなぁ⁈」


 俺は攻撃を再開する。

 先程よりも速く、強く攻撃を仕掛ける。

 ソージローはそれをかわしながら俺に語り始める。


「それがお前を殺す理由だよ、下山竜持。『フレンズならぶっ殺しても文句ない』? 冗談じゃない。そんな奴がいるから俺らは静かに暮らせないんだ! 俺らは、フレンズ狩りを全滅させるまで戦う」

「知るか。人間が犠牲になってんだよ。そういうことは手前らが人間を支配するようになってから言え」


 俺は近接戦闘に持ち込むため、薙刀で畳みかける。

 ソージローも銃で応戦する。

 銃弾が邪魔になって戦いにくいが少しずつ距離が詰まってきた。

 この距離なら仕留められる。

 俺が薙刀を振りかぶったその時。


「ぐぁっ⁈」


 脇腹のあたりに鈍痛。

 確認すると、やはり出血している。


「武器が銃だけってはずないじゃん」


 見るとソージローは手に長剣を持っていた。


「俺のスキルは手に触れているもので自分の作りたいものを作ることができる能力だよ。だからこの剣は……」


 ソージローは前に掲げた長剣を拳銃に変えて見せた。


「ほらね。下山竜持、お前のスキルは何?」


 俺は苦笑する。


「スキル? そんなせこいモン、俺は使わねえんだよ」


 三度みたび攻撃を仕掛ける。

 動くたびに傷口が痛むが構っていられない。

 銃弾が体をかすめていく。

 だが俺は前進し続ける。

 体が触れ合うほどの距離になり、ソージローは先程と同じように、拳銃を長剣に変え、俺を斬ろうとする。

 しかし俺はその攻撃を予測していた。


「攻撃がワンパターンだぜ、フレンズさんよぉ!!」


 俺は剣を持った手を掴み、その腕を切り落とした。


「うっ!」


 ソージローは痛みに呻く。


「俺ら明日引っ越しなんだわ。邪魔すんなや。さっさと死ね」


 ソージローは腕を抑えながらも不敵に笑んだ。


「そろそろ、限界かな。あいつすぐ来るって言ってたのに援護来ないし。ここは撤退するか」


 ソージローは切り落とされた手を即席の義手に変えて腕にはめた。


「じゃあな、下山竜持。また戦おう」

「待て!」


 ソージローは暗闇の中を去っていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る